【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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第七話~幻影の英雄~

 影が二つ交差する。片方の西洋の騎士風の巨人――メディーバルデュークモン――に対するは人――旅人――である。

 元々、草原だった地はいたるところが燃え尽き、吹き飛び、荒野に様変わりを果たしていた。

 

「set『雷』『加速』」

 

「なるほど。雷の力と加速の力を合わせてスピードを上げたのか」

 

「っち。このスピードについてくるとか!ほらよ!」

 

 掛け声一つ、旅人は雷を飛ばす。しかし、その雷を目の前の騎士は軽く避ける。同時に騎士は後ろへと回り込み不可視の――おそらく風で構成された――剣を振り下ろす。

 よく見れば空気の揺らぎで分かるのだが、戦闘中に……それも超高速で動くものをよく見る暇などない。

 

「マズっ!」

 

 降ろされる剣の軌道を直勘で察知し反転して躱す。

 しかし、すぐにそばを通過した剣から発せられる風圧で吹き飛ばされ、旅人は地面に叩きつけられた。

 

「ぐぁっ。あの巨体であのスピードって詐欺だろ!」

 

「ふむ。まだまだ余裕だな。人間」

 

「マズッ、set『反発』」

 

 危険を察知した旅人はすぐさま『反発』を発動。突きをしてくる風の剣から磁石のように弾き飛ばされた。弾き飛ばされるのと同時にカードを何枚か取り出し、いつでも使えるように準備する。

 

「ほう。反応は悪くない。戦術を立てる頭も……まぁ、及第点を与えてもいいくらいだな」

 

「っち。なめんなよっと!set『捕縛』……。っげ!」

 

 『捕縛』から『爆破』へと繋げようとしたところで、思わず唸る。超高速で動くメディーバルデュークモンに『捕縛』で作り上げた鎖が捕らえられなかったのだ。 おまけにこちらに一直線に向かってくる。

 すぐさま上へと回避するが旅人の横を何かが通り過ぎる。風圧に吹き飛ばされながら、確認したメディーバルデュークモンの構えから推察するに、武器を風の剣から風の槍へと変更していたらしい。

 

「妙なところでめんどくさいな!set『武装』おっとチャンス!set『爆破』」

 

 全長十数メートルのメディーバルデュークモンすら超える程の長さの剣を上から落とす。

 メディーバルデュークモンが落ちてくる剣を弾くようなモーションを取ったところで、『爆破』の力によって剣を爆発させた。ついでに爆風を利用して距離を取る。

 

「これならどうだよ?」

 

「残念だが、どうということはないな」

 

 風が揺らいでいた。メディーバルデュークモンを取り囲むように展開された風が爆発を防いでいたのだ。カスリ傷一つ負っていない相手に旅人はゲンナリとする。

 

「攻撃面は大体理解した。やはり成熟期を超えないか……火力不足、スピード不足共にどうともしがたいな」

 

「マジでか……」

 

 残りのカードを思い浮かべてこれからの戦術を立てようとしたときに……ふと、メディーバルデュークモンが呟いた。

 

「さて、では次は防御面だ。せいぜい頑張るといい」

 

「ヤバッ!set『防壁』」

 

 メディーバルデュークモンの宣言に危機感を覚えすぐさま『防壁』によって半透明な膜を作り出す。

 一突き。それだけで『防壁』は砕かれ、半透明の残骸が天に舞った。

 一瞬の拮抗もなく砕かれたことに驚きつつも、すぐさま回避行動を取る。メディーバルデュークモンはそれすらも見越していたのか、旅人が回避行動を頭に思い浮かべた瞬間には二回目の攻撃が旅人を吹き飛ばしていた。

 

 

 

 

 

 場所は変わりトレイルモンの車両内。

 

「ドルモン。君は旅人の『進化』のカードがなければ、進化できないのか?」

 

「え?いや……この姿まではカードの力なしに進化したから、カードがないとダメじゃないと思うけど……どうして?」

 

 ウィザーモンは言うのを渋っているが、やがて言う事にしたのか口を開いた。

 

「いや、教えたほうがいいと思うから教えておく。後で旅人にもな。まず進化とは時間をかけて行う。旧時代の進化は別だったらしいが……まぁ、今はいい。デジモンが持つ完成系に時間をかけてゆっくりと近づいていく。これが現在の進化だ。人間の成長との違いは完成系に至ったあと、衰えるかどうかの違いだな。」

 

「……分かるような、分からないような。えぇと……」

 

「つまりデジモンはゆっくりと成長していくってこと」

 

「なるほど」

 

 ウィッチモンの解説でようやく納得したのかドルモンはゆっくりと頷く。

 “本当に理解しているのだろうか”話をしているウィザーモンも無駄かもしれないと思いつつも、話の続きを話す。

 

「だが、旅人のカードの『進化』の力はどちらかというと旧時代の進化に近い。旧時代の進化は……要するに変わろうとする意志による自己の改変だな。旅人のカードはおそらくドルモンの将来の可能性の一時的な開放をする類の力だろう」

 

「……全然わからないんだけど」

 

「要するに旧時代の進化はものすごい急に起こるってこと」

 

「なるほど」

 

「……」

 

 いつの間にかウィザーモンが語り、ドルモンが首をかしげ、ウィッチモンが補足するという図式が成り立っていた。

 “一応わかりやすく説明しているつもりなんだが……わかりにくいのか”ドルモンはウィザーモンの自信を知らないところで砕こうとしていた。

 

「まぁ、いいか。懸念するべき事項は別にある。いいか?ドルモン。君がカードの力で進化すればするほど君は自然の方法での進化ができなくなる可能性がある」

 

「要するにどういうこと?」

 

「ドルモンは旅人がいないと進化できないし、死ぬまで今の姿のままってことよ。それだけですめばいいけど……」

 

「何だそんなことか」

 

「なんだって……」

 

 一応深刻な話をしていたのに、あまりの軽さにウィッチモンとウィザーモンは絶句した。

 ドルモンの反応は楽観過ぎる反応だ。未来の可能性が潰えるという事態を正しく理解していないと言える。

 

「だって、オレが旅人と一緒にいれば問題ないでしょ?じゃあいいじゃん。……そういえば旅人遅いな。オレちょっと旅人の事見てくるよ」

 

「あぁ……ってちょっと待て!」

 

「何~?」

 

 ドルモンの馬鹿さ加減につい本題を忘れていた。ウィザーモンはドルモンが行く前に急いで話の本題を告げることにした。また、ドルモンのせいで本題を忘れる前に。

 

「いや、君は旅人の『進化』の力に慣れすぎている。そして旅人のカードの力が君の中に残留している」

 

「つまり?」

 

「君はカードの力なしでも君の意思で進化できる可能性があるということだ。だが……」

 

「だが……?」

 

「それは自然の理に逆らう、君の体に負担をかける方法であり、それをした時には君の命の保証はできない。命が惜しければ絶対にしないことだ。という警告をな」

 

「分かった!注意するよ!」

 

 “教えなければよかったかもしれん”親切心ゆえに言った言葉を既にウィザーモンは後悔していた。

 席を立ったドルモンを見送り、ウィザーモンとウィッチモンは二人きりになる。

 

 

「そ、そういえば、二人きりって久しぶり……じゃない?最近はあの二人がいたんだし……前の時は死にかけてたし……」

 

「どう思う?」

 

「えっ?」

 

 少し恥ずかしそうに言うウィッチモンだが、ウィザーモンはウィッチモンのことなどお構いなしに疑問をぶつける。期待していた雰囲気にならなかったことにウィッチモンは少し不貞腐れ気味である。

 

「旅人たちのことだ。デジタルワールドの歴史を見ても、人間がこの世界に来るとき……それは何かしらの事態が起こる時だ。かの三大ターミナルの悲劇のようにな。その上で、今……旅人という人間がこの世界に訪れている。しかもかの英雄すら姿を見せる始末だ。これら一連のことについて……君はどう思う?」

 

「……分からない。でも……」

 

 期待していた雰囲気にならなかったことは残念だが、ウィザーモンは真剣なのだ。ウィッチモンも真剣に考える。

 

「でも?」

 

「なるようにしかならないと思う。それにどんなことが起こっても、ソレを知りたいと思ったならソレを知ることができるように動くだけだよ。私は。アナタと一緒でね」

 

「く、くくく」

 

「な、なに?」

 

 心の内をそのまま言ったのが悪かったのか、呆然とした表情から一変。ウィザーモンが笑い出した。突然のことにウィッチモンは戸惑うしかない。

 

「なに。君はいつも核心を突く。君がいると物事の考え方がはっきりするよ」

 

「馬鹿にしてる?」

 

「まさか。君がいて良かったって話だ」

 

 急な口説き文句に思わず顔を赤くするウィッチモン。そんな様子に首を傾げるウィザーモン。当分この二人の仲は進みそうにない。

 このまま穏やかな……二人きりの短い列車旅が続くように思えた。少なくとも。ウィッチモンは。

 

「大変!大変!旅人がいないんだ!」

 

 そこへ駆け込んでくる一匹の獣のせいで存外に早く終わりが訪れることになったのだが。

 

 

 

 

 

「ふむ。息絶えたか……?」

 

 草原から荒野へと様変わりした空間でメディーバルデュークモンが呟く。先程まで戦っていた旅人は既に影の欠片も見つからなかった。

 

「まぁいい。結局奴は英雄の器ではなかったと。それだけの話だ。っむ?」

 

 突然メディーバルデュークモンの足が地面に沈み始める。突然の事態に顔を顰めながらも、慌てることはない。

 

「set『転送』」

 

 メディーバルデュークモンの頭上から巨大な岩が落ちてくる。そのサイズは数十メートルはあり、メディーバルデュークモンをして、当たったら痛そうだと思わせるほどである。

 

「これは……ハメられたか。しかし、これだけでは……む?」

 

 呟き一つ、メディーバルデュークモンが纏おうとした風が緩やかに……しかし確かに削れていっていることに気づく。

 

「set『加重』『巨大化』」

 

 巨大な岩は声と共にさらに大きくなり猛スピードでメディーバルデュークモンに激突した。辺りに粉煙が舞う。その光景を眺める旅人は感じた手応えにやっと一息ついたのであった。

 

「誰が英雄だ。勝手に決めんな。そんなものオレはゴメンだ」

 

 旅人はギリギリで二撃目を避けていた。例によって発生した風圧で吹き飛ばされたが。

 その後『土』を発動。すぐさま地下に潜り、反撃の準備をし、『風』によってメディーバルデュークモンの風の鎧を削いだのだ。

 

「まぁ、これで……」

 

「なるほど。見事である」

 

「……もう嫌だ。アンタ英雄なんだろ?どうしてオレなんかに構うんだ!」

 

「時間稼ぎか。まあ、理不尽に対する反抗は誰でも持ち合わせいる権利だ。いいだろう」

 

 “バレている”旅人の時間稼ぎを狙った話し合いだったのだが、メディーバルデュークモンは存外に付き合ってくれるらしい。

 それすらも、英雄の手のひらの上なのかもしれないが。

 

「人間。貴様はいずれ英雄となる。貴様はその資格があるに値する者なのか……それを確かめに我はここへ来た」

 

「はぁ?オレは英雄なんてなるつもりはないね!」

 

 戯言としか思えないような言葉を言うメディーバルデュークモンに旅人は思わず唸る。

 そんな旅人の様子をどことなく吹く風といった感じでメディーバルデュークモンは言葉を続ける。

 

「貴様の意思など関係ない。ここに訪れた人間は必ずそういう運命にある。かつて、我が主がそうであったように」

 

 一瞬、ほんの一瞬だけ、メディーバルデュークモンの雰囲気が変化したような気がした。一瞬のことであったので旅人の気のせいかもしれなかったのだが。まぁ、だからといって旅人がどうするかは別問題だ。

 

「だからなんだ。もしそうだとしても。英雄なんて旅の邪魔にしかなりそうにないもの……オレはゴメンだね」

 

「……貴様に実感はないであろうが、我から見れば貴様は運命から目をそらす愚か者でしかない。」

 

「……アンタからすればそうかもしれないが、オレからすればそうでもない。オレは旅人だ。自分の行き先ぐらい自分で決める」

 

 カードを一枚。引き出しながらメディーバルデュークモンを見据える。自分の道を選ぶために、旅人は自分の意思で英雄と向かい合う。

 

「……ほう。まだ何かする気力があるのか。いいだろう。見せてみろ!貴様の力を!」

 

「こうなったら意地だ。意地を見せてやる。オレは絶対に旅人であり続けてやる!ああそうだ、言い忘れていたが……見せるのは俺の力じゃない。お前の力だ」

 

「なに?」

 

 メディーバルデュークモンの疑問に答えるように旅人は切り札の一つを切る。

 

「行くぞ?set『投影』」

 

「グアァァア!」

 

「なんだとっ!」

 

 初めてメディーバルデュークモンは驚愕を態度に出す。それもそのはず、力の行使と共に現れたのは、ほかならぬメディーバルデュークモンだったのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「っく。なるほど。コピーを作り出す力とはなっ!アイツが作りそうなものだっ!」

 

 風の槍がぶつかり合う。しかし、片方のメディーバルデュークモンは意思がなく、荒い戦い方をしているのに対して、もう片方のメディーバルデュークモンは精錬された戦い方である。

 このまま行けばおそらく、精錬された方が勝つ。そのことが分かりきった戦いでもあった。

 

「っく」

 

 初めてメディーバルデュークモンが苦悶の声を漏らす。如何に意思がなく、技術が劣っている偽物とはいえ、自分と同等の力を持つ者との戦いは堪えるらしい。

 

「set『炎』『強化』オレを忘れんな!」

 

 二体のメディーバルデュークモンが激突する中、火柱が二体を包み込む。完全に不意を付いた攻撃に手応えを感じる。しかし、今までから言って手応えがあるからといって安心できない。

 燃え盛る火柱の中、旅人は『風』の力を使い、風の刃で炎ごと切り裂き続ける。主に頭の部分を重点的に。

 

「よし。このまま……」

 

 風が吹いた。普段であれば気にしないくらいの微風。ただ旅人は今だけその微風が力強いものに感じた。

 閃光。衝撃。薄れゆく意識の中、旅人が最後に見たのは真っ二つにされたコピーのメディーバルデュークモンの姿と黄金の斧のような槍(・・・・・・・・・)を振り切ったメディーバルデュークモンの姿だった。

 

「まさか、それっぽっちの力でこの我にこの槍を使わせるとは……見事だ。人間。さて、このままでは死ぬな。治療して元の場所に……?」

 

 旅人の近くに光が発せられる。光が収まった時には、獣のような竜と二人の魔術師がいた。

 

「旅人……?旅人!」

 

「アレは……、英雄?本当に存在したとは……」

 

「言っている場合じゃないよ!ウィザーモン。早く旅人を治さないと!」

 

 各々の反応の中、ウィザーモンは旅人に治癒魔術をかけながら冷静にその場の状況を確認する。

 

「英雄殿。この状況は貴殿が起こしたものとして見てよろしいでしょうか?」

 

「然り。我はそこにのびている人間に確かめるべきことがあった。然るに、少し試しただけだ」

 

「確かめるべきこと……。ならばそれはもう終わったので?」

 

「うむ。もう終わったことだ。かの魔法世界の者よ。確かめるべきことのために強硬な姿勢をとったこと……謝罪しよう」

 

 状況を把握したウィザーモンは即座に現状すべきことを頭に思い浮かべていく。

 この状況で冷静な反応を示すウィザーモンをメディーバルデュークモンは感心したように見る。

 

「なるほど。ドルモン!ウィッチモン!旅人を安全な場所で治療する。もう一度『転移』する。急ぐぞ」

 

「う、うん!」

 

 ウィッチモンとウィザーモンは即座に『転移』の魔術の準備に入る。しかし、それを聞いてもドルモンは動かない。

 

「おい、ドルモン!聞いているのか!?」

 

 自身の相棒の危機なのだ。それなのにいつまでも動こうとしないドルモンにウィザーモンは思わず怒鳴る。それでもなお反応しないドルモンを怪訝に思うも、今は一刻を争う。

 仕方なしに準備を進めていく。

 

「これでよし。おい!ドルモン!置いていくぞ!」

 

「旅人が死んだ……?なんで……?殺された……?誰に……?誰が……殺した?」

 

 ウィザーモンはここに至ってようやくドルモンの様子がおかしいことに気づく。

 とりあえず落ち着けるためにウィッチモンがドルモンを宥めようとする。

 

「ドルモン……落ち着いて。旅人は生きているから……大丈夫だよ?」

 

「どうして……?なぜ……?なんで……?誰が……?殺した……?」

 

 旅人は生きている……その言葉を聞いてもなおドルモンの様子は戻らない。現実を認めないとばかりに、情報をシャットダウンしている。

 

「アイツか……?アイツだ……アイツが……。あぁ……そうか。だったら……コワサナイト」

 

「ドルモン……?」

 

 ドルモンの最後の言葉が不安を呼ぶ。その雰囲気を悟ったのか、ウィザーモンが若干焦った様子でウィッチモンを呼ぶ。

 

「ウィッチモン!急いでドルモンから離れろ!」

 

「え?」

 

「アァ。ソウダ。コワサナイト。コロサナイト。ジャナイトタビトハ……。あ、あはっはははははははは!ア、アアアアアア……グアァァアアアアアアアアア!」

 

「ウィッチモン!」

 

 ドルモンを暗い光が包む。その瞬間ウィザーモンがウィッチモンに向かって手を伸ばすように駆ける。

 その手が届く前に……ドルモンから発生した衝撃によって意識ない旅人ごと吹き飛ばされた。

 




ということで第七話でした。書いてみて思ったけど、ウィッチモンの役割が固定されてきたような……気のせいと思いたいです。
ちなみにメディーバルデュークモンは手加減しています。本気だった場合、今の旅人だったら瞬殺です。

では久々のカード説明


『投影』―生き物であれ、物であれコピーを作り出す力。ただし、生き物の場合、意思はなく、その生き物の技術もない。(例外として遺伝子レベルや、本能レベルで習得している技術は除く)力の総量だけを見ればオリジナルと変わりない。ただし生き物の場合、生き物が無意識にかけているリミッターも外されるため、相手より身体スペックは高い場合が多い。(例外アリ)

『防壁』―半透明の膜のような壁を作りバリアとする能力。硬度としては成熟期クラスの攻撃を防げる程度。
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