【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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というわけで今回から数話にかけて番外編的な話をいくつかやります。
今回から登場するキャラはこの数話限定のレギュラーキャラです。


第八十話~選ばれし者?落ちてきた人間!~

 アルファモンと別れた旅人たちは、何を目的とするでもなくぶらりと旅を続けていた。

 旅人の師匠もといあの仮面の男や敵のアルファモンという脅威がいなくなったのだ。懸念材料もあるにはあるが、当面は自由気ままに旅をしていればいいだろうと旅人たちは考えている。

 

「昨日はなんだか濃い一日だったな……」

 

「まあね~。疲れたよ~眠いよ~」

 

「昨日はどんちゃん騒ぎだったからな」

 

「って言っても徹夜で話していただけで、そんなに騒いではなかったけどな」

 

「結構紙一重だったと思うよ?」

 

 旅人たちは元々旅立つ予定だったために食料もしっかりと準備しており、今は食料不足というわけでもない。取り立てて急ぎやるべきことはない。

 スレイヤードラモンがウイングドラモンだった頃はその巨体さゆえに消費する食料もそれなりだった。だが、スレイヤードラモンは体格的には平均的な人間の身長よりも少し大きいくらいで、ウイングドラモンやドルゴラモンほどの大きさというわけでもない。

 だからスレイヤードラモンは進化前よりも食料消費は少ないと旅人は思っているのだ。

 ちなみに実際はそんなことはなく、食料消費は進化前以上だったりするのだが、旅人はそのことをまだ知らない。

 

「いやいや、懐かしい再会だし、いろいろと話したいだろ」

 

「いや、まあ……そうだけど」

 

「まあ、いいじゃねえか。その分、今日眠ればいいんだから」

 

「それでも眠いもんは眠い!っていうか、オレの体まだボロボロのままなんだけど!?」

 

「あれ?カード使わなかったっけ?」

 

「使われてないよ!忘れられてたよ!」

 

 そう、実はドルモンは完全に怪我が治っていなくて、しかも旅人のカードによって回復してもいない。ピンピンしているのは見かけだけで、疲労困憊、満身創痍といっていい状態のまま今に至っているのだ。

 

「そっか……すまん」

 

「分かればいい……って結局使ってくれないの!?」

 

「別にいいだろ!当面の驚異はないんだから!」

 

「こっちは歩くだけでしんどいんだよ!」

 

「うるさいなぁ!じゃあ、進化させてやるから……飛べ!」

 

「その後オレに乗る気だろ!」

 

「当たり前だ!」

 

 うるさく喧嘩できている時点で結構元気じゃねえか。

 スレイヤードラモンはそう思ったが、口には出さなかった。その後の対応が面倒くさそうだったからだ。態々地雷を踏みに行く趣味はスレイヤードラモンにはない。

 

「……ん?」

 

 だが、その時。なんとなしに視線を旅人たちから逸したスレイヤードラモンはあるものを見つけた。

 ちなみに旅人とドルモンは喧嘩に夢中で気づいていない。ゆえにこのまま行けば、大変なことになるだろう。

 なぜなら。

 

「おーい。旅人ー!上!上ー!」

 

「ん?……げっ!」

 

 なぜなら――。

 

「女の子?」

 

「って言ってる場合!?あの子、こっちに落ちてきてるよ!」

 

 なぜなら、人間(・・)らしき女の子が遥か上空から地上の旅人たち目掛けて落下してきているからだ。もちろん、パラシュートらしきものやそれに類似するものは付けていない。

 旅人のカードのような力が使えるのならば別だが、その女の子は見た感じ気絶しているようにも見える。このまま落下すれば、旅人たちに直撃してさぞスプラッタな光景が出来上がることだろう。

 

「っち!リュウ!」

 

「了解!」

 

 即座に指示を出されたスレイヤードラモンは飛び上がってその女の子の元へと向かって行く。

 昨日鎖から解き放たれた旅人をキャッチしたように。至って簡単にスレイヤードラモンは女の子をその両手で抱えた。俗に言うお姫様抱っこと言われる抱き方である。

 ちなみにその光景を地上から見ていた旅人は昨日の自分との扱いの差にイラっときていたりするのだが、それはまた別の話だ。

 

「おい!おい!大丈夫か!?」

 

「……ぅ」

 

 スレイヤードラモンは気絶している女の子に声をかけるが、女の子は小さなうめき声を上げるだけで、起きる気配がない。だが、うめき声を上げることができるということは死んではないということで。

 とりあえずスレイヤードラモンは安心して、旅人たちの元へと戻っていくのだった。

 

「リュウ!大丈夫か!?」

 

「なんとかな。っていうか、こいつは……」

 

「人間だな。どう見ても」

 

 茶髪混じりのショートカットだった。歳は十を超えているかどうかというところだろう。

 どこかその女の子に既視感のようなものを覚えた旅人だったが、世界中を旅していた旅人だ。どこで出会ったとかを思い出す気配はなかった。

 

「しっかしなー人間といえばオレとナム以外見たことないし……」

 

「そうだね~」

 

 なぜ人間がこの世界にいるのか。

 しかもなぜ人間があのようなバンジージャンプをしていたのか。

 気になることばかりである。

 

「つーか、リュウ。いつまでお姫様抱っこしてるんだ?」

 

「ん?おお、そうだな……」

 

 旅人に言われて、初めて下ろすという選択肢を思い出したスレイヤードラモンがその女の子を地面に寝かせようとした瞬間。

 パチリと女の子が目を覚ました。

 さっきまで起きる気配すらなかったその女の子が突然目を覚ましたことに、スレイヤードラモンは驚いて思わず固まってしまう。

 

「……おう?」

 

「……」

 

「……?」

 

 何も言わないその女の子に、スレイヤードラモンは思わず押し黙ってしまう。しかも、そんな二人の空気に当てられた旅人とドルモンも同様にである。

 白い鎧の騎士が女の子をお姫様抱っこしているという、ある意味物語のような、女の子なら一度は憧れるような光景。

 だが――。

 

「き……」

 

「き?」

 

 流石にその女の子は、トカゲ人間とでも言うべきスレイヤードラモンにはそんな感慨を抱くことができなかったようで。

 もっとも見ず知らずの場所で見ず知らずの生物に抱かれているというそんな状況こそ恐怖の対象ではあるのだが――。

 

「きゃぁあああああああ!」

 

 一瞬後のその女の子の叫び声が旅人たちの耳を貫いた。

 

 

 

 

 

「で……君、名前は~?」

 

「……」

 

 数分後、旅人たちはようやく落ち着いたその女の子に色々と事情を聞いていた。なにせ人間がいないはずのこの世界にいる人間だ。気になるのも当然だろう。

 

「おい、何か言えって――!」

 

「ふん!あんたみたいなトカゲ人間に話すことなんてないわよ!」

 

「……この!助けてもらっておいて……!」

 

「誰も助けてなんて言ってないわよっ!」

 

 旅人の考えている通りならばその女の子は人間の世界から来たはずである。

 それなのに十にも満たない歳で、しかも怪獣にも見えるようなスレイヤードラモン相手に強気で話すことができるその女の子はすごいと言うしかない。

 

「まぁまぁ、落ち着いてよ~」

 

「うるさい!頭でっかち犬!」

 

「……」

 

 言葉のナイフに突き刺されたドルモンは落ち込みながら黙り込む。意外と気にしていたらしかった。

 役に立たないメンバーに旅人は溜め息を吐きながら、その女の子に話しかける。

 ちなみにこれまで話しかけなかったのは旅人自身が子供の扱いが苦手だからだ。

 

「悪いな。変わった奴ばっかで……」

 

「旅人はどっちの味方だよ~!」

 

「お前ちょっと黙ってろ!」

 

「……」

 

 ちなみに不可思議生物達と普通に会話している旅人は、変人を見るかのような目でその女の子に見られているのだが、幸か不幸か旅人はそこまで気がついていなかった。

 だが、一応旅人はこの場で唯一の人間だ。

 だからだろう。その女の子は警戒しながらもポツリポツリと少しずつ話し始めたのだった。

 

「優希……」

 

「ん?」

 

「だから名前!優希って言ってるの!」

 

「なるほど。優希ちゃん……ね。オレは旅人。こっちはドルモンのドルとスレイヤードラモンのリュウだ」

 

 そうしてようやく人間関係の基本たる自己紹介のところまで辿りついた。彼女が起きてから実に数十分後の話である。

 

「優希ちゃんはどうしてここにいたんだ?一応この世界に人間はいないハズなんだけど……」

 

「じゃあ、アンタは人間じゃないの?」

 

「いや、人間だけど?」

 

「嘘つき」

 

「う……」

 

 だが、やはり完全に気を許した訳ではないらしい。

 優希は警戒しすぎて、旅人の話にいちいち茶々を入れてくる。というよりも、旅人の言葉全てに疑ってかかっているというべきか。

 論破されたというわけではないが、矛盾点を容赦なく突かれたことで思わず心が折れそうになる旅人。だが、目の前の子供の手前なんとか耐えた。といっても次の一撃は耐えられそうになかったが。

 素なのか、それとも意識してやっているのか。どちらにせよ口の鋭い女の子である。

 

「話を続けると……だな。とりあえず、普通の方法で人間がこの世界へ来れるわけじゃない。つまり、滅多に人間はいないんだ。オレも含めて二人しか会ってないし」

 

「ふーん……怪しいわね」

 

「空から落ちてきた奴も充分怪しいと思うぞ」

 

「うるさい。トカゲ人間!」

 

「なんだと!」

 

「リュウ、お前もちょっと黙っててくれ」

 

 いちいち毒を吐かないとやっていけないようだ。

 メンバー内での沸点が割と低い方のスレイヤードラモンと口が悪い優希の相性は最悪だろう。

 子供相手にムキにならなくてもと思う旅人だったが、一応言っておくと基本的にはこのメンバー内の平均精神年齢は比較的低い。

 

「……私に聞かれたって知らないわよ。だってパソコンが光ったと思ったらここにいたんだもの」

 

「パソコン?……うーん……分からないな」

 

「役立たずね」

 

「……」

 

 ズーンと暗い影を背負いながら、落ち込み始める旅人はもはや優希の話を聞いていない。

 そんな旅人を優希はさらに冷たい目で見つめるのだが、ドルモンもスレイヤードラモンもそのことに気づきながらも何も言わなかった。

 優希の相手をするのが疲れたのである。

 

「……ねぇ、ちょっと?聞いてる?」

 

「聞いてるよ……一応な……」

 

「はぁ。泣きたいのはこっちなのに……」

 

「……なんだって?」

 

「別に何でもないわよ」

 

 だが、年下を前に素で落ち込む年上とは思えない旅人を前に、優希も多少は警戒心が解けたようだった。その言葉には多少の気遣いと少しずつでも歩み寄ろうとする心意気が感じられた。

 優希という少女は口が悪いだけで根は優しいのだろう。

 

「……んじゃ、ちょっと話すか……この世界のことをな……」

 

 だが、このままでは話が進まない。暗い雰囲気を背負ったままだが、少しずつ旅人は語りだす。

 この世界のことを。この世界に住む、デジモンという存在のことを。

 

 

 

 

 

「ようするにこのトカゲ人間と頭でっかち犬はデジモンっていうこの世界の生き物なのね」

 

 あれから数分後、とりあえず説明するべきことはすべて説明し終わっていた。

 ちなみに落ち込みながら説明していたということもあり、旅人の説明の仕方はお世辞にも上手とは言えなかった。

 だが、幸いにも優希は頭がいい方らしく、そんな旅人の説明にもちゃんとついてきている。初めは疑ってかかっていた優希も、スレイヤードラモンやドルモンを見て少しずつだが信じたようだった。

 

「トカゲ人間じゃねえ!スレイヤードラモンだ!」

 

「頭でっかち犬じゃない!ドルモン!」

 

「なによ!もん!もん!って意味分かんない!」

 

「……まぁ、機械みたいなやつや、神様みたいなやつ。植物みたいなやつとか……人間みたいなやつ。いろんなやつがいるな」

 

「まるで出来の悪いゲームの世界ね。節操なさすぎ!」

 

「オレに言うな。オレに」

 

 だが、とりあえず会話することができるようになっただけでも一歩前進だろう。

 この数分間で、優希は旅人だけではなく、スレイヤードラモンやドルモンとも少しずつだが話すようになっていた。

 もっともやはり種族の壁は厚いらしく、本当に少しずつなのだが。

 

「さて……これからどうするんだ?」

 

「……どうって?何がよ?」

 

「オレたちは人間の世界への道を開くことは……できないとは言わないけど、確実性に欠ける」

 

「確実性に欠ける?」

 

「ランダムでどこに行くかわからん。優希ちゃんがいた世界かもしれないし、まったく別の世界に行くかもしれない。前例があるしな」

 

 そう言って旅人が思い出すのは、かつて異世界から戻ってこようと奮闘したことだ。

 旅人のカードでの世界移動は完全にランダムである。前の時は一瞬だけ留まった世界も合わせて十以上の世界を行き来した。前回はなんやかんやで運良く帰って来られたのだが、今回も間違って別の世界に行ってしまった場合、また運良く目的の世界に辿り着けるとは限らない。

 というより、無限にあるであろう世界の中で運良く目的の世界に辿り着ける確率など宝くじで一等を当てるより難しいだろう。

 

「優希だって無事に帰りたいだろ?」

 

「……ぅ……そりゃあ……じ、じゃあ、他の人は!?この際デジモンでもいいから!神様みたいなのもいるんでしょ!?」

 

「デジモンでもって……誠意が感じられねえ……」

 

「まぁまぁ、リュウ。そんなこと言ったってなぁ?なんらかの手がかりのありそうなあの遺跡はもう潰れているし……。人間の世界への道なんて――」

 

 そこまで言って旅人は思い出した。

 その後にいろいろあって旅人は忘れていたが、あのナムは一度だけこの世界で人間の世界への道をいともたやすく開いたことがあるということを。

 あの時ナムは確証を持って人間界への道を開いていたような気がした。であるのならば、自身のカードを使うよりは希望が持てるだろう。

 そう考えて旅人はそのことを優希に話す。

 

「その……ナムって人が帰り道を作れる?……どこにいるの?」

 

「知らん。神出鬼没だし」

 

「……役立たず……グスッ……」

 

「……」

 

 毒を吐くのは相変わらずだが、その声から覇気が無くなっているのは帰ることができないという事実に行き当たったからか。露骨に元気をなくしている優希を前に、旅人たちはどう反応していいか分からない。

 

「……なぁ」

 

「……ぅ……なによ?」

 

「いや……な?」

 

 とはいえ、目の前で泣きそうになっている子供を放っておくのはいくらなんでもアレだ。

 これが人間の世界での出来事や優希がデジモンであるのならば話は別だが、実際は見知らぬ世界で子供が一人きり。それは子供にとって辛い現実だろう。

 誰も彼もが旅人たちのように楽観的な性格をしているわけでもない。それが分かっているからこそ、目配せした旅人たちは全会一致でその結論に至ったのだ。

 

「しばらく……オレたちと来るか?オレたちは旅をしてるんだけど……衣住食の食くらいはなんとかできるぞ?」

 

「……ほとんど何もできてないじゃない」

 

「う……だって旅してるんだもん……」

 

「もんって言ったって気持ち悪いだけよ」

 

「……口だけは達者だね~」

 

 だが事実だ。旅人たちは旅をしていて決まった拠点を持たない。そのために衣住食のうちの住は言わずもがな、元々捨ててあった服を使いまわしている旅人に衣がどうこうできるはずもない。

 おまけにここはデジモンの世界であって人間の世界ではない。こんな世界で人間用の服を調達することなど出来るかどうかわからない。というよりデジモンは基本裸だ。服という概念があるかどうかさえ怪しい。

 それでも、見ず知らずらしき世界において共にいる“誰か”というのはやはり安心できる要素なのだろう。

 

「……うん。……よろしく」

 

 やがて小さく、だが確かにしっかりと優希は頷くのだった。

 




この優希の話を数話やって最終章に入ります。
二三話を予定していますので、おそらく再来週あたりには最終章に入ろうと思っています。……があくまで予定なのでどうなるかわかりません。
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