【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

82 / 109
長くなりましたが、切ると中途半端になるので分割はしません。


第八十一話~未知と金色~

 そんなこんなで翌日。

 優希を新たにメンバーに加えた旅人たちは気ままに旅をしていた。

 ちなみに現在は青々と茂った草原を歩いている。険しい山や鬱蒼と生い茂る森よりは楽な道のりである。だが、いくら他と比べて楽とはいえ、現代日本で育ったであろう優希が旅行ではない、サバイバルさながらの旅についてこられるはずもなく――。

 

「――!信っじられない!」

 

「……またか……」

 

「……はぁ」

 

 優希は早速ごねていた。

 とはいえ、一日持っただけでも優希の精神は相当なものであろう。だが、やはり限界があったらしい。昨日の時点ではちょっと小言を漏らす程度だったのだが、その昨日の時点で少しずつ貯めていたストレスを今日開放したというわけだ。

 

「こんなのを食べるの!?嫌よ!せめてもう少しマシな料理を――!」

 

「別にいいだろ。肉だぞ?肉」

 

「焼いただけじゃない!」

 

 旅人たちにとってはそれくらいで十分なのだが、優希は耐えられなかった。

 昨日の野宿までなら、まだ滅多にない経験として我慢しただろう。だが、現代日本の恵まれた料理を食べて生きてきた優希にとっては、焼いただけの肉の塊という野性味溢れる食事が続くというのはさすがにハードルが高かった。

 

「せっかく気を使って妙な虫的なものにはしなかったのに」

 

「虫!?」

 

「でも結構美味しいんだよ?」

 

「あんたら頭おかしいんじゃないの!?」

 

 ちなみに旅人が師匠との日々の中で初めて野宿をし、食事をした時の様子もこの優希のような反応だったりしたりする。だが、旅人自身はいつの間にか慣れていた。

 小さい頃日本で生きてきたことのある旅人は、虫は基本食べ物ではないということを知っているがゆえに、優希に出さなかったのだ。

 もっとも人間の世界の中には虫を普通に食べる地域もあっただろう。だが、幼い優希はそのことを知らないし、旅人自身は興味ないからかそこら辺のことを未ださっぱりと忘れていたままである。

 

「食わないなら食わないでいいけどさ……」

 

「腹減らないか?」

 

「無理しなくていいんだよ~?」

 

「無理なんかしてない!絶対に食べない!」

 

 さすがに空腹のままというのはまずいので旅人たち三人に説得される優希。

 人間、他人からやれと言われるとそれをやりたくなくなるように、優希は三人の説得によって逆に腹が立ち、意固地になっている。

 しかも、空腹であることも優希のその心情に拍車をかけている。

 

「さっさと食べなさい!」

 

「……まぁ、いいか」

 

 優希の態度に何を言っても無駄だということを悟った旅人たちはそのまま食べ始めた。

 その間中、優希はずっと食事をする旅人たちを何も言わずに仇を見るような目でジッと睨みつけている。

 そんな風に食べている間、ずっと睨みつけられつづける旅人たちは精神的にも食べにくいことこの上なかった。

 

「……食うか?」

 

「食べないって言ってるでしょ!」

 

 じゃあ、そんな目で見ないでくれ。

 それは優希を除く旅人たち全員の共通の思いだった――。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで夜。

 

「……お風呂入りたい……ベッドで寝たい……!」

 

「そんなこと言われたって……無いもんは無い」

 

 限界を迎えていた優希の愚痴は夜まで続いていた。

 夜。いつものように野宿の準備をしていた自分たちに食ってかかる優希をいなしながら、旅人たちは黙々と行動している。

 ちなみに野宿の準備といっても、寝床を確保と見張りの順番決めくらいであまりやることはないのだが。

 

「見張りの順番はどうする?」

 

「優希は抜きで……じゃんけんでいいだろ」

 

「そうだね~。それじゃ、じゃんけん――!」

 

 ポンと。

 旅人とドルモンがグーを出し、スレイヤードラモンがパーを出した。スレイヤードラモンの一人勝ちである。

 

「……」

 

「……」

 

 一人勝ちしたスレイヤードラモンはともかくとして、旅人とドルモンは無言でじゃんけんを始める。最終的には見張りをすることになるのでどちらでもいいのだが、このまま負けっぱなしというのは二人とも嫌だったのだ。

 己の持てるすべての術を駆使して、旅人とドルモンはじゃんけんをし続ける。

 かれこれ数十回もあいこが続いていた。

 

「はあ……俺が先に見張りするから……お前ら二人で決めろ」

 

 こういう時スレイヤードラモンは大人になることが多い。決着のつかない無駄な争いを続ける旅人たちを放っておいて積極的に行動する。

 そして、スレイヤードラモンとは別に、そんな旅人とドルモンを冷ややかな目で見つめているのが優希だ。自分のことを無視して子供みたいな争いを続ける二人に優希のフラストレーションは溜まる一方である。

 

「ぽん!よし!勝った!」

 

「負けた~!」

 

「人の話聞きなさいよ……」

 

 結局見張りはスレイヤードラモン、ドルモン、旅人の順になった。

 ちなみに見張りにおいてもっともキツいのは中途半端な睡眠時間しか得ることができない真ん中である。さりげなくいいところをキープしているスレイヤードラモンは結構なやり手なのかもしれない。

 

「んで?優希は何が気に食わないんだよ?」

 

「気に食わないことばっかりでしょうが!ベッドも布団もない!風呂もない!一緒にいる唯一の人間は臭い!」

 

「オレも師匠と旅したばっかりの時はこんな感じだったかなぁ?……臭い?」

 

「あんたねぇ!風呂入りなさい!臭いのよ!」

 

「……そっか……臭いのか。臭い……のか……」

 

 時折水浴びしたりして体の汚れを落とす旅人だが、やはり現代日本の清潔さには敵わないらしい。毎日着ている服も同じものであることだし、やはりそれ相応に臭うらしかった。

 いつかデクスドルガモンに言った言葉を旅人は思い出す。デクスドルガモンが感じていたであろう気持ちを今旅人は感じているのだった。

 

「臭い……臭い……」

 

「ねぇ!ちょっと!聞いてるの!?」

 

「そうなると旅人はしばらく元に戻らないよ?」

 

「本当に年上なのかしら?」

 

 旅人のはっきりとした年齢は分からない優希だが、大人と言い切れるほどの年齢には見えない。だが、自分より年上であることには変わりはない。

 このような姿を見ると旅人は本気で自分より年上かどうか分からなくなる優希だった。

 

「もう寝たら?」

 

「だから――!」

 

「何度言っても現実は変わらないぜ?」

 

「……」

 

 とはいえ、こうして現実逃避しても現実は変わらない。

 結局優希は不満タラタラのままで野宿を受け入れるのだった。

 

 

 

 

 

「眠いよ~」

 

 未明と夜の境界線辺りの時間帯。見張りの順番が来たことによってスレイヤードラモンに叩き起されたドルモンは眠い目を擦りながらも見張りをしていた。

 いつ何時危険があるか分からない場所において見張りは必須である。そのことをしっかりと理解しているドルモンではあるが、やはり気持ちよく眠っているところを叩き起されたとなれば怒りのひとつも覚えるだろう。

 

「ほぁああ~早く時間過ぎないかなぁ?」

 

 そう思うドルモンだが、基本時間というのは早く過ぎろと思えば思うほど長く感じるものだ。

 暇つぶしドルモンが目を向けると、旅人は仰向けに寝転がり、スレイヤードラモンは胡座をかいたまま眠っている。気持ち良さそうに寝ているその様に羨ましさを通り越して憎しみが溢れてくる光景だった。

 

「……ん?」

 

 そんな時、ドルモンはかすかに聞こえる何かの音を捉えた。

 すぐに襲撃の可能性を考えて、すぐに全員を起こせるように旅人たちの方へと向かいながら、ドルモンは耳を澄ます。

 だが、その音はドルモンが旅人たちに近づけば近づくほど大きくなっていく。ドルモンはその音に聞き覚えがあった。時々自分も鳴らすことがあるその音。

 それは――。

 

「はあ~……」

 

 空腹によるお腹の音だ。

 そしてその音の主が誰か理解したドルモンは霧散していく緊張感を確かに感じながら、その音の主に話しかけた。

 その音の主とは――。

 

「大丈夫?」

 

「ッ!」

 

 つまらない意地で食物を食べなかった優希である。

 しばらくの間話しかけてきたドルモンを無視していた優希だが、二回目に話しかけられると同時に可愛らしい音がお腹からなったことで誤魔化すことができなくなった。

 バレたことを知りつつも寝たふりを続ける優希の顔は耳までゆでダコのように赤くなっている。

 

「お腹減ってるの~?」

 

「……くーくー」

 

「いや、寝たふりしなくても分かってるよ」

 

「……ッ!……!」

 

 ガバっと起き上がった優希は恥ずかしさのあまりドルモンを睨みつける。やはりそういうところは口が悪くとも女の子である。

 聞こえないふりをするのが気遣いというものではないのか。

 そんな風に逆恨みのごとく思っている優希であるが、ドルモンにそんな年頃の女の子に対する気遣いができるはずもない。

 

「何か……食べる?」

 

「……!……ぅ……うん」

 

 意地と空腹を天秤にかけた結果、優希は空腹を取った。

 とはいっても現代日本で三食満足に食べていた優希が空腹に負けるのは自明の理ではあったのだが。

 とはいってもドルモンは食べ物を持っているはずもない。仕方なく優希を引き連れて旅人の――正確には旅人の持つ収納袋を――目指す。

 旅人を起こさないようにドルモンがガサゴソと収納袋を漁って、数分後に袋から取り出した食べ物は――。

 

「お?合った!……む……」

 

「ッ!キャ――」

 

「ハッ!」

 

「ャアむがっ……モゴムガ……!」

 

 虫系だった。

 その気持ち悪さに思わず悲鳴を上げそうになった優希に先回りしてドルモンが優希の口を塞ぐ。もしここで優希が悲鳴を上げていたら、いつかのように旅人が飛び起きて寝ぼけたまま攻撃を仕掛けてくるだろう。

 ドルモンはそれを未然に防ぎ、優希を守ったのである。

 もっとも優希からしてはそんなことを知る由もなく、自分の口を塞ぐドルモンを不満そうな目で睨んでいた。

 

「……嫌!絶対嫌!」

 

「う~ん……困ったなぁ。朝まで待つってのは?」

 

「……それも嫌……」

 

 それから数分後。虫系の食べ物も、虫と同じ袋に入っていた食べ物も食べる気がしない優希は再び意地が空腹を上回っていた。当然、空腹ゆえに再び眠ることもできない。

 現在、優希はイライラした目でドルモンを恨めしそうに睨んでいた。だが、優希にそんな八つ当たり気味の視線を向けられているドルモンはたまったものではない。

 

「……食べ物探しに行く?」

 

「……うん……行く」

 

 そんな視線から逃れるためにも。

 見張りという自分に課せられた役割を放棄してまで、ドルモンは優希を連れて食べ物を探しに歩いていくのだった――。

 

 

 

 

 

 それから数分後。途中で力尽きそうな優希を背負ってドルモンは走っていた。目的地はこの先に見える森。森に行けば木の実くらい落ちているだろうとの考えだ。

 ちなみに優希は目的地が鬱蒼とした森ということに気づいていなかった。それには夜ということと空腹ゆえにまともな思考ができていないことも関係している。もし気づいていたら、絶対に引き返すようにドルモンに言っていただろう。真夜中に鬱蒼とした森に行くなど嫌すぎる。

 

「まだ……?」

 

「もうちょっとだよ~」

 

 それだけではない。もし気づいて途中で引き返していたならこの先の展開も少しは変わっただろう。とはいえ、それは気づいていたらという“もし”の話だ。現実には優希は気づいていない。

 

「着いた!」

 

「ほんと……え?ここって――」

 

「うん。森だよ?」

 

 ドルモンの声に目を開けた優希はその先に広がっている空間を見て頬を引き攣らせた。

 何かが出てきそうなほどの薄暗い空間。その空間に生える見渡す限りの木々は月明かりを防ぎ、夜ということもあってなおさらの恐怖を感じさせる。

 

「ッ……!いや……帰――!」

 

 帰る。

 そう優希が言いかけたところで再びお腹の音が辺りに響き渡った。もちろん“誰の”とは言うまでもない。

 

「……」

 

「……」

 

 結局、ドルモン先導で食べ物を探し始めるのだった。

 暗い森の中とはいえ、まったく見えないというわけではない。足元くらいは見渡すことができる。木の実といっても優希が食べる分だけ。つまり足元に落ちているものくらいで十分なのだ。

 だが、そうやって二人が数分間探すがまったくといっていいほど見つからない。しかも優希の腹の音も一分に一回くらいの割合で鳴り出している。限界は近い。

 

「なんか幻聴が聞こえてきたかも……」

 

「……」

 

 “ブブブ……”と断続的に聞こえてくる羽音のような音に、“いよいよ幻聴が聞こえだした”とボンヤリとした頭で考える優希。

 だが、一方でドルモンの表情は硬かった。そう、例えるのならば臨戦態勢をとっているかのように。

 

「マズイな~……ねえ、優希ちゃん……優希ちゃん?」

 

「……!」

 

 硬い表情のまま優希に話しかけたドルモンだったが、優希からの返事がない。チラリとドルモンがそちらを見ると優希はある一点を見つめて動かなかった。

 優希が見つめるその一点。それは――。

 

「リンゴ!?」

 

「ッ!待って!」

 

 りんごのような木の実がこれみよがしに落ちていたからだ。

 空腹の限界を迎えていた優希はドルモンの言葉を聞かずに一二もなくそれに飛びついた。

 火事場の馬鹿力か、とんでもない速さでそれに飛びついた優希はそのまま――。

 

「えっ……?」

 

「キァッハッハッハ!」

 

 気味の悪い笑い声と共に目の前に現れた赤いクワガタに襲われた。

 何が起こったのか分からずに、迫り来るお化けクワガタを前に優希は避けるという選択肢も抜け落ちているのだろう。呆然とクワガタを見つめて動かない。

 そうしてクワガタの頭部にあるハサミが優希を切り裂こうとした瞬間。

 

「ハッ!『ダッシュメタル』!」

 

「……ドルモン?」

 

 ドルモンの口から放たれた鉄球によって一瞬だけ勢いを止められた。

 そしてその一瞬でドルモンは優希をその背に乗せてその場を離脱する。

 

「優希ちゃん大丈夫!?」

 

「――はっ……ねぇ!あのクワガタの化物なんなの!?」

 

「クワガーモンっていうデジモン!」

 

「デジモンってあんなのもいるの!?」

 

 クワガーモンの存在に驚く優希だが、残念ながらドルモンにはあまり対応している余裕はなかった。

 なぜなら――。

 

「キハハハハ!逃ゲヨウトシテモ!ココハモウ、我々ノ領域ダ!」

 

 囲まれているからだ。大量のクワガーモンたちに。中には灰色のクワガーモンもチラホラと混ざっている。

 そしておそらくはリーダーなのだろう。その中でも一際大きい灰色のクワガーモンがドルモンたちを見下しながら嗤う。

 

「喋った!?」

 

 かつてのクワガーモンは喋らなかったと旅人から聞いていただけあって、ドルモンの驚きは大きかった。

 もっともクワガタが喋ったということで優希もドルモンに負けず劣らず驚いているのだが。

 

「クワガーモンヨリオオクワモンニ進化シタ我ハ……我ガ種族ヲ支配スル知能ヲ手ニ入レタ!」

 

「……知能!?」

 

「同族ヨリ遥カニ卓越コノ知性ヲ持ッタコノ我ガ!種族ヲマトメ宿敵ドモヲ倒シ!我々ガ森ノ支配者ニナル!」

 

「オレたちはその宿敵とは関係ないんだけど……」

 

「知ルカ。我々ノ森ニ入ッタ者ハスベテ排除スル!」

 

 オオクワモンの予想通りのその返答にドルモンは苦い顔をする。

 先ほどクワガーモンより進化したと言った。つまり、オオクワモンという灰色のクワガーモンは完全体ということだ。

 しかもリーダー格のオオクワモンほどの頭はさすがにないだろうが、同じデジモンが何体かいる時点でドルモンたちは詰んでいる。だというのに、こちらには優希という足で纏いがいて、ドルモンは進化できない。

 状況は絶望的だった。

 

「……ド……ドルモン……」

 

「ッ!……」

 

 背中でドルモンの名を呼ぶ優希の声は震えていた。

 今が正真正銘冗談でもなんでもなく命の危機であるという事実にたどり着いたのであろう。現代日本で平和に暮らしていた優希に命の危機の経験などある訳もない。

 だというのに、恐怖で狂わないその精神力はたいしたものである。

 この現状でドルモンたちがこの場を切り抜ける方法は二つ。

 一つ目は旅人たちが助けに来ること。とはいえ、ドルモンたちは旅人たちに何も言わずに出てきた。眠っているあの二人が気づいてここまで助けに来る可能性はかなり低い。

 二つ目はドルモンが単体で進化することだ。

 

「ハハ……覚悟ハ……イイカ!」

 

「……」

 

 もちろんいいわけがない。

 最近気がついたことだが、ドルモンは自分の体の中に二つのイメージらしきナニカを持っていた。

 一つ目は何か腹の辺りにあるナニカ。おそらくこれがドルモンの中に残留しているカードの力なのだろう。ドルモンが一度使った感覚としては、溜まりきった便意を一気に開放する感覚に近い。

 二つ目。おそらくこれが世界の正規の進化のイメージなのであろう。

 ドルモンの心の中にある“扉”。そこに辿り着くこと。そしてその扉を開くこと。それぞれに応じてそれぞれの段階に進化できる筈だ。二つまでしかイメージがないのは、ドルモンはカードなしでは完全体までしか進化したことがないからだろうか。

 この二つの内もちろん一つ目は却下。ドルモンはまた死ぬ気はない。となると二つ目だが、完全体まで進化では、この数を切り抜けられないだろう。

 どのみち高確率での現状打破にはなり得なかった。

 こうなればあと残る道はただ一つ。強行突破である。

 

「サァ!ヤレ!」

 

「ッ!負けるか!ドルモン!進化――!」

 

「え!?」

 

 クワガーモンたちの軍勢が己の元に届く前に。

 ドルモンは速攻で扉の前に辿り着くイメージを作り出す。そしてその瞬間にドルモンは進化する。

 いつかの日に一度だけ進化した成熟期のデジモン。そのデジモンは――。

 

 

「ラプタードラモン!」

 

 そう、ラプタードラモンだ。

 ちなみにドルモンが進化したその時、優希の体が薄らと光っていたのだが、弱々しいその光に気づいた者は誰もいなかった。

 姿が変わったことにより優希は再びの驚愕に包まれるが、それに構う間もなくラプタードラモンは優希を背負い、クワガーモンを押しのけて道を開く。

 

「ッ!逃ガスナ!」

 

「おぉおおおおおお!」

 

 後ろでオオクワモンの焦ったかのような声が聞こえるが、遅い。その間にラプタードラモンは全力を持って引き離しにかかる。

 もう少し。あと少し。それでこの森から出られる。

 

「よし!あとちょ――!」

 

 だが、それは油断。それはホンの少しの気の緩み。ラプタードラモンはそこで気を緩めるべきではなかったのだ。

 ラプタードラモンの気が緩んだその瞬間に――。

 

「『シザーアームズΩ』!」

 

 森の木々を押しのけて迫り来るオオクワモンの大顎がラプタードラモンを襲う。

 間一髪でラプタードラモンはその攻撃を避けることができたものの、その衝撃でバランスを崩し、優希ごとすっ転んだ。

 しかも、おまけとばかりに後ろから追いつくクワガーモンの軍勢。

 

「キアハハハ!コノ森ハ我々ノ領域ダト言ッタダロウ!」

 

「ッ!先回りしたのか!」

 

 森の出口まで後一歩。

 だが、すでに囲まれている。先ほどのような奇襲はもうできないだろう。

 

「……っく……まだ……!」

 

 ラプタードラモンはすぐにイメージの中の扉を開けようとするが、イメージの中だというのに開かない。連続では進化できないということなのだろうか。

 ラプタードラモンが何とかして打開策を探す一方で、優希は絶望したかのような顔をしている。いや、事実絶望しているのだろう。優希にとっては見たことのない大勢の怪物が自分を狙っているのだから。

 

「あぁ……ァあぁ……!」

 

「……大丈夫」

 

「……え?」

 

 それは気休めかもしれない。無い方がマシな希望かもしれない。

 それでも、ラプタードラモンは諦めない。だからこそ。気休めにしかならなくても、敢えて言うのだ。その陳家な一言を。

 

「大丈夫!オレを信じて!」

 

「何ヲゴチャゴチャ言ッテイル!」

 

 オオクワモンの言葉と共に襲い来るクワガーモンの軍勢。

 その瞬間ラプタードラモンは確かに聞こえていた。か細い声で、祈るかのように紡ぎ出されたその言葉を。

 

――……信じる……だから!お願い……ドルモン!――

 

 その言葉と共に己の中に入ってきた何か(・・)がラプタードラモンのイメージの扉をこじ開けて――。

 

「ラプタードラモン!進化――!」

 

 その日のことを優希は一生忘れないだろう。

 流星のごとく現れた黄金の騎士のその勇姿を。そのデジモンの名を。

 

「グレイドモン!」

 

 その後にクワガーモンの軍勢を吹き飛ばしながら現れた竜騎士と人間によってこの事態は収束を迎える。

 




はい。というわけでラプタードラモンの再登場と金色の流星ことグレイドモンの登場です。
もっともこの二体はこの数話だけの限定参加ではありますが。
扱いが不遇なのは……。まあ、出番があるだけマシということで。
そしてワガママ爆発の優希ちゃんでした。

あ、あとドルモンの進化についてのイメージはあくまでイメージです。それにこの世界では成長段階を行き来しているのはドルモンしかいませんから、これはドルモン独自の考察とも言えます。

ではまた次回に。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。