【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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すみません。遅れました。


第八十二話~学術院再び!~

 数分前。遠くから聞こえてくる物音にスレイヤードラモンは目を覚ました。

 だが、何かあったのならば見張りをしているドルモンか旅人が自身を起こしに来るはずなのだ。しかし、それがない。

 そのことに妙な気分になりながらも、スレイヤードラモンが辺りを見回すとうつ伏せになって苦しそうに寝ている旅人しかいなかった。

 そう。つまり、見張りをしているはずのドルモンと優希がいなかったのである。

 

「……まさかな」

 

 遠くから聞こえてくる物音は微々たるものだ。だが、それを聞き取ることができるスレイヤードラモンはさすがというべきだろう。

 万一があっては困る。

 そう思ったスレイヤードラモンは旅人を叩き起こして飛翔する。

 飛び上がった上空で二人が見たものは森の出入り口辺りでたくさんのクワガーモンたちに襲われているグレイドモンと優希の姿だ。

 

「……?まあいいか。……そら……よっ!」

 

 優希と一緒にいるものがドルモンではないことに疑問を感じながらも、スレイヤードラモンはブツブツと文句を垂れる旅人を優希たちに向かって投擲した。

 

「うがっおまっ……!」

 

 かなり手加減されたとはいえ、究極体の投擲だ。それこそ音速を超えそうなほどのスピードで旅人は突っ込んでいく。それを見届けてから、スレイヤードラモンは剣を構えて突撃したのだった――。

 

 

 

 

 

「んで?なしてこうなった?」

 

 すべてのことが終わってから、キャンプ地まで戻って来た優希とグレイドモンは旅人とスレイヤードラモンに尋問されていた。

 ちなみに先ほどスレイヤードラモンに投擲された旅人は体中ボロボロだ。叩き起され、投擲され。そんな旅人の口調は自然とイライラとしたものになっている。

 

「えっと……食料を探しに行って……」

 

「オレの収納袋から取り出せばよかっただろ」

 

「いや……それが……」

 

 そこまで言って言葉を濁したグレイドモンはチラリと優希を見た。

 命の危機にこの世界での危険性、そしてデジモンという種の特性などわずかな時間でさまざまな体験をした優希の精神はもう限界を迎えていた。旅人たちの様子など知らぬとばかりに先ほどからその手に握り締めていたリンゴを鬼気迫るような勢いで食べている。

 命の危機の中でその手に持った食料を手放さなかった優希は将来大物になるだろう。

 その姿を前にそんなことをボンヤリと思った旅人とスレイヤードラモンは溜め息を吐いた後、しょうがなく今回の件は流すことにした。

 ちなみに、決してその姿に毒気を抜かれたわけではない。

 

「んで~……旅人?そろそろ戻して欲しいなって……」

 

「勝手に進化したんだから、勝手に戻ってろ」

 

「ごめん!旅人~!許して~!()はこのままは嫌だぁ!」

 

「うわっ!鎧のままで泣きつくな!」

 

 傍から見ればとても格好良い騎士が泣きながらに旅人に抱きつくその姿は気持ち悪いという他ない。

 

「僕……?」

 

「あぁ、リュウは知らなかったっけ。ドルはカッコつけで普段オレって言ってるらしい」

 

「ばらさなくてもいいじゃん!なんかすごい恥ずかしい!」

 

「じゃあ、その何かあるたびに地が出るの直せ」

 

 すでに太陽が昇りかけている東の空を前に、ガヤガヤとうるさくなる旅人たち三人。

 そんな三人を前に若干羨ましそうな視線を向けていた優希の姿に、旅人たちはついぞ気づけなかった。

 

「……ふん」

 

「……?」

 

 なんやかんやあってその数時間後、旅人たちは草原を歩いていた。

 旅人たちの当初の予定としては先ほど優希たちが行った森へと行くつもりだったのだが、優希が本気で嫌がったために予定を変更したのだ。

 もっとも普通の人間なら身をもって危険を知った場所へと行きたくないのは当たり前なのだが。

 ちなみにグレイドモンはドルモンに戻れていない。

 

「旅人~?ねえ、聞いてる~?」

 

「いいじゃねえか。強いんだし」

 

「オレはドルモンとしての姿を気に入ってるんだよ!」

 

「だからなあ!」

 

 しばらく怒鳴りあった後、互いに一つ(・・)の剣を構えて牽制し合うスレイヤードラモンとグレイドモン。その二人は先ほどから同じようなことを何回も続けており、その対応は面倒くさいという他ない。しかも、そのやりとりのせいで朝からろくに進んでいない。

 そろそろ元に戻した方がいいか。

 そう考えた旅人はカードを取り出して、使おうとしたところで――。

 

「ん?優希……どうした?」

 

「……ぅ……ぅるさい……ぅぅ……」

 

 かなり調子の悪そうな優希の姿を目にした。しかも顔色が悪いだけでなく、腹を抑えて蹲りながら唸っている

 思わず駆け寄って心配する旅人の姿に気づいたスレイヤードラモンとグレイドモンの二人も喧嘩をやめて近づくのだが、当の優希はろくに言葉を返す余裕もなさそうだ。

 

「おい?どうした!?本当に大丈夫か!?」

 

「優希ちゃん!?大丈夫!?」

 

「おい、優希!聞こえるか!?」

 

「っち!set『再生』!」

 

 埒があかないとばかりに白紙のカードを変化させて旅人はカードの力を使うが、優希は良くならない。いや、顔色は良くなったし、先ほどまでのように唸ることもなくなった。

 だが、依然として優希は腹を抱えて蹲ったまま、起き上がらない。

 

「おい?……本当に――」

 

「……ィ……ェ……」

 

「ん?なんだって?」」

 

 とはいえ良くなっていることは良くなっているので、もう一度カードの力を使おうとしたその時。微かだが、小さな優希の声が聞こえた。

 それに気づいた旅人は一字一句聞き逃さないように優希の近くに顔を寄せる。

 だが、そんな旅人が聞いた言葉は、イライラしたかのような不機嫌な優希の怒鳴り声だった――。

 

「トイレどこだって聞いてんの!」

 

 そう、優希はただトイレに行きたかっただけなのだ。

 優希とて年頃の女の子。外でトイレをするなどできるはずもない。昨日からずっと我慢していたのだ。

 ちなみに先ほどまではプラスアルファで腹痛まで患っていた。そちらは先ほど旅人のカードによって治されたのである。現代日本の恵まれた食生活を送っていた優希の胃に、いきなりどこで育ったかもしれない物を洗わずに食べるという行為はキツかったらしい。

 

「トイレなんてそこらへんでやりゃいいじゃねえか」

 

「うるさいトカゲ人間……さっさと――」

 

「とは言ってもなぁ……リュウのスピードなら近くの町を見つけて到着まですぐだろ?」

 

「普通の人間なら俺のスピードで移動したら体がバラバラになるけどな」

 

 呑気に話す旅人たちに優希のイライラは募るばかりである。

 漏らすか、外でのトイレを認めるか。優希は究極の二択を迫られていた。

 ちなみに優希がどちらの選択をするにせよ、優希の中の大切なナニカが失われることには違いなかった――。

 

 

 

 

 

 その日、学術院の街の自分の研究室にてウィザーモンとウィッチモンは話していた。話の内容は、数日前にこの街から旅立って行った旅人たちのことである。

 

「……それにしても、連絡が来ないな」

 

「まだ出て行って数日よ?そんな数日で襲撃される可能性なんて――」

 

あの(・・)旅人たちだぞ?」

 

「……」

 

 そこで押し黙ってしまう辺り、二人の旅人たちに対するイメージは決まりきったものであると言えるだろう。

 

「っていうか、似たような会話をどこかでしたような……」

 

「気のせいだと思うが……まあ、アレだ。変わってないってことだろう」

 

「旅人たちも……私たちもね。っていうか、数ヶ月程度じゃ人は変わらないと思う」

 

「……数ヶ月程度どころか死ぬまであんな感じだと……まあ、悪くはないと思うがな」

 

「まあ……ね」

 

 そう言い合うウィザーモンたちの間には穏やかな雰囲気が漂っている。

 今二人の研究は一段落したところなのだ。つまりこの時間は研究の合間の休息ところなのである。

 

「……そういえば、旅人も哀れだな。本人は旅がしたいだけなのに……」

 

あんなもの(・・・・・)とやり合う羽目になるんだものね……」

 

「それってどういう意味だ?」

 

「決まっているでしょ。この世界の――」

 

 そこまで言いかけたウィッチモンは、“ん?”と首を捻る。

 今、会話の中に明らかに自分とウィザーモン以外の声が混じっていた。それも聞いたことのある、ここにいるはずのない者の声が。

 そう考えながらもウィッチモンは現実を認識することを放棄していた。目の前にいるウィザーモンも同じ気持ちらしい。何とも言えない顔をしている。

 結果――。

 

「幻聴が聞こえる……疲れているのかしら……」

 

「いや、案外休み過ぎかもしれん。そろそろやるか」

 

「そうね。そうしましょう」

 

 その声を無視することにした。

 質問に答えないウィザーモンとウィッチモンの二人に声は何か喚いているが、ウィザーモンたち二人は気にしない。

 

「……ドル……リュウ……これ怒っていいかな?」

 

「いや……」

 

「さあ……?」

 

 往生際悪く自分たちを無視するウィザーモンたちの姿にイラっとくる旅人だったが、現在はそんな旅人以上にイラっとしている者がいる。

 

「それ……より……はや……く……トイ……レ……」

 

 先ほどからずっとトイレを我慢している優希だ。

 あの後、苦肉の策で――旅人たちにとってのだが――学術院の街のこの部屋まで『転移』のカードを使って戻って来たのである。

 街ならトイレの一つや二つあると考えてのことだ。だが、この街に滞在していた旅人たちですらトイレ一つ一つの詳しい場所など覚えているはずもなく。結果としてウィザーモンたちに教えてもらおうとこの部屋に直接飛ぶことになったのだ。

 ちなみにウィザーモンたちがいなかったらということは誰も考えなかったりする。

 

「……優希もそろそろ限界か……ウィザーモン、トイレどこだ?」

 

「……はあ。あっち……出て右に曲がって突き当たりだ」

 

「……だそうだぞ?」

 

「――!」

 

 トイレの場所を聞いた優希はすぐさま人の声とは思えぬような奇声を上げながら、しかも鬼気迫る表情で部屋を出て行った。その姿には女の子という性を見ることはできない。

 いくら耐えに耐えたとはいえ、その姿は女の子としてどうなのか。

 そう思った旅人だったが、優希が帰ってきてもそのことには触れなかった。旅人の心ばかりの優しさである。

 

「何をしに戻って来たんだ?というか、見たことのない人間もいるな。誰だ?」

 

「こいつがトイレを借りに戻って来た。それから――」

 

「何この人形?」

 

「僕は人形ではない。ウィザーモンだ」

 

「またデジモンなわけね……」

 

 “また”とそう言った優希の顔はどこか疲れていた。

 だが優希の言った失礼な言葉もウィザーモンは気にしていない。むしろ、旅人以外の人間ということに興味津々だ。

 そしてそんなウィザーモンの姿に優希は引いている。

 そしてさらに自分以外の女に興味津々なウィザーモンに嫉妬したかのような目を向けているウィッチモンがいる。

 軽く混沌とした状況だった。

 

「何アンタ、出来の悪いコスプレイヤー?」

 

「わ、私はウィッチモンっていうれっきとしたデジモンよ」

 

「……ウィッチモン、頬が引き攣ってるぞ」

 

「人間かと思った。いい歳して恥ずかしくないの?」

 

「ふふふ……」

 

 優希の毒舌にカチンときたのか、頬を引き攣らせたままウィッチモンは妙な雰囲気で笑い出した。その姿に軽く引いているのはウィッチモン以外のこの場の全員だ。

 しかもその状態でウィッチモンは寸分違わずに優希をジッと見つめている。軽いホラーのような雰囲気のウィッチモンに見つめられている優希は涙目になるしかない。

 

「……そろそろオレは行くわ。まぁ、優希は放っておけないし、この様子じゃ数日くらいはこの街にまたいるだろうから……またよろしくな!」

 

「待て!置いていくのか!?」

 

「いやぁ……関わりたくないだろ。アレ」

 

「……そうだな」

 

 しばらく考えて、自分たちの平穏を優先した旅人たちはここに優希を置いていくことにする選択をした。ようするに見捨てたのである。

 

「っていうか、ウィザーモンは一緒に来ていいのか?」

 

「ああなった彼女はそう簡単に止まらない。しばらくすれば頭も冷えるだろうし、いくら彼女でもやり過ぎはしないだろう」

 

「ならいいか」

 

「いや、いいのか?」

 

 そっと部屋から出ようとしている旅人たちに気づいたのは優希だけ。だが文句を言おうにも、ウィッチモンのその雰囲気が優希に発言を許さない。

 結果、旅人たちは何事もなく部屋を出ることができたのである。

 

「そういえば旅人。学術院の外がとんでもないことになっていると聞いているのだが」

 

「……気のせいだろ」

 

「そうか。というか、事が終わったらアナザーで連絡しろといっただろう」

 

「……というか……お前気づいてんだろ」

 

「なんのことやら?」

 

「その顔ムカつく……!」

 

 部屋を出た旅人たちはそのまま話しながら歩き出す。

 

「あははっ!覚悟はいい?」

 

「え?……あ……ちょっと待って……!」

 

「だーめ!待たなーい!」

 

 背後に聞こえる破滅の音を無視して。

 

「……性格が変わりすぎだろ」

 

「彼女は元々ああだ。というよりも性格の上がり下がりが激しいんだ」

 

「まぁ、分かる気がするけど……」

 

「とはいえ、少々残酷な面もあるからな。気をつけるといい」

 

「え?それって――」

 

 ウィザーモンがそう言った直後に聞こえてきた優希の叫び声と何かの破砕音に旅人たちは頬を引き攣らせる。そんな旅人たちの中でただ一人、ウィザーモンだけが表情を変えずに歩いていた――。

 




ちなみに番外編は後一二話程度です。
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