【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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第八十三話~幼き者!運命の出会い!~

 研究室の中からのさまざまな音が聞こえなくなるのを待って、旅人たちは再び部屋の中へと入った。それまでの数十分間、部屋の外で悲鳴と破壊音を聞きながらずっと待っていたのである。

 そんな旅人たちが部屋に入った瞬間に目に飛び込んできた光景。それは息絶え絶えに床にへたりこんでいる優希と“やっちまった”というような顔で明後日の方向を向いているウィッチモンの姿、そして至る所が無残に破壊された部屋だった。

 

「やれやれ……手当たり次第に壊してくれたな。これは修復が大変だな……」

 

「べっ……別にいいじゃない!本当に大切なものはここには置いてないんだから!」

 

「君、少しも反省してないだろう?」

 

「少しやり過ぎたとは思ってるわよ!……優希ちゃんには」

 

「僕と僕の部屋にも思って欲しいものだ」

 

 そんなやりとりをやっている主犯(ウィッチモン)被害者そのニ(ウィザーモン)を放っておいて、旅人たちは優希の方へと近づいていく。

 優希はへたりこんでいるが、目立った怪我はない。しかも旅人たちが心配したようにトラウマを負ってしまったということもなさそうだった。

 

「大丈夫~?」

 

「なんとも……ない……!」

 

「それだけ強がれれば大丈夫だな」

 

 ちなみに旅人たちは知らないことだが、あの後部屋の中ではウィッチモンの癇癪のような魔術攻撃が横行していた。しかもタチの悪いことにすべて優希の体のギリギリの所を通過していくのだから、感じる恐怖は殊更大きいものである。

 そんなことを経験しても、普通に喋ることのできる優希は大物なのか、はたまた意外とアレな人間性なのか。もしくは今日のクワガーモンの襲撃事件によって耐性がついたのかもしれない。

 なんにせよ、この世界に来てから踏んだり蹴ったりな優希である。

 

「あの……ごめんね?ちょっとイラっと来ちゃって……」

 

「う……いえ……こちらこそごめんなさい」

 

「優希が――!」

 

「――謝った?」

 

「ちょっと待って。あんたら私のことどう思って――!」

 

 優希の口から謝罪の言葉が出たことに驚いた旅人とスレイヤードラモンはすぐさま狭い部屋の中を逃亡する。

 先ほどの事がないとばかりにそれを追い掛け回す優希は元気が有り余っているようにしか見えない。しかも普通にそんな行為を行えるようになっている辺り、優希もだんだんと染まってきているという証拠だろう。“何”に染まっているのかは分からないが。

 そしてそんな三人を迷惑そうに見るウィザーモンたちと、そんな三人の中の一人に嫉妬したかのような視線を送るドルモン。再びの混沌とした状況だった。

 

 

 

 

 

 その数分後。ウィザーモンたちにうるさいと追い出された旅人たちは学術院の街を彷徨っていた。

 現在の目的は宿探しである。

 ちなみに()はまだ高く、しかもスレイヤードラモンがウイングドラモンほどの大きさではなくなったために宿を厳選しなくて良くなったこともあって、それほど急いで探しているという訳ではない。

 

「宿?……やっとまともな所で眠れるの……。っていうか、あんな便利なものがあるなら初めから使いなさい!」

 

「えー……弱点もあるし……第一それじゃあ、旅の面白味が欠けるじゃん……なぁ?」

 

「まあね~」

 

「そうだな」

 

 ちなみに優希の言う“あんな便利なもの”とはもちろん旅人のカードのことである。

 一瞬で遠くの場所からこの街まで訪れたその力は、人間の世界から来た優希にとってはまさに夢のような力に思えたのかもしれない。

 だが、結局は誰の同意も得られなかったことに、優希は頬をふくらませて不機嫌さを表している。

 

「――!」

 

「まぁまぁ、優希ちゃんも……落ち着いて」

 

「……ドルモン」

 

「……ん?」

 

「お……?」

 

 優希はたしかドルモンのことを頭でっかち犬と言っていたはずである。だというのにいつの間にかドルモンと名前で呼んでいる。

 どんな心変わりがあったのか。

 そう思った旅人とスレイヤードラモンだが、そんな些細な疑問はすぐに新しい疑問によって塗りつぶされた。

 その新しい疑問とは――。

 

「街……数日前よりなんか人気がなくねえか?」

 

「確かに。どうしたんだろうな?」

 

 そう、以前と比べて人気が少ないということである。

 別にまったくいないという訳ではないのだが、以前と比べると格段に少ない。これだけ少ないとまた(・・)何かあったのかと不安になってしまう。

 だが、図らずもその疑問は辿りついた宿屋で解決することになる。

 

「それはアレですねぇ……最近天変地異があったからですねぇ」

 

「天変地異?」

 

「猫?なんだ……普通っぽいのもいるんだ」

 

「お嬢さん……仏頂面ですねぇ。お兄さん、そういう時はプレゼントですよねぇ」

 

「仏頂面は余計!」

 

「何言ってるか分かんないな」

 

 辿りついた宿屋の店番である三毛猫のようなデジモンがその疑問についての情報をあっさりと告げた。

 ちなみに優希が漏らした呟きはツッコミどころ満載であるのだが、今は優先させるべきことがあるため誰も突っ込まなかった。

 だというのにその後の言葉にツッコムのはどうなんだ。というツッコミをする者はやはりいない。

 

「それと私は猫じゃありませんねぇ。私はミケモンですねぇ」

 

「ミケモン。天変地異ってなんのことだ?」

 

「外から来たのに知らないんですねぇ。たしか……一日二日前くらいに起きたソレによって外の地形が大きく変わってしまったそうでしてねぇ」

 

「ッ……」

 

「……あれ?どうしたの?」

 

「……なんでもない」

 

 こういう時だけはなぜか無邪気に聞いてくる優希に、旅人たちはイラっとくる。

 ぶっちゃけると、ミケモンの言う天変地異に旅人たちは心当たりがあった。

 

「今現在は新しい地図だの、道だのの作成に皆さん忙しいんですよねぇ」

 

 いや、心当たりがあるというレベルではない。そのものズバリだった。

 ミケモンの言う天変地異。それは旅人たちと仮面の男たちの戦闘の痕跡だ。

 さすがは究極体である。その究極体同士の激突は、傍から見れば天変地異にしか見えないものらしかった。

 

「天井もほとんどぶち抜かれてねぇ。データベースも……あ、あと遠くの区画ももう使いものにならないほどだそうでねぇ」

 

「はい?」

 

 聞き捨てならないことを聞いたような気がする旅人たちは急いで外に出る。

 そこには作り物ではない本物の()が浮かんでいた。しかもよく見れば、街の隅の方に天井の残りがいつ落下してもおかしくない状態で残っていた。

 そもそもヒントはこんなにわかりやすい形で残っていたのだ。学術院の街が地下都市ということも忘れてそれに気づかなかった旅人たちは間抜けという他ないだろう。

 

「……気づけよ……」

 

「まぁ、街の機能のいくつかは使用不可能になってるんだよねぇ。不便をかけるかもしれないけど、ゆっくりしていきなさいねぇ」

 

「……なんか……ごめんなさい」

 

「だからどうしたの!?」

 

 部屋の鍵を渡して奥へと戻っていったミケモンを見送った旅人たちは、その場でポツリと今も復興のために頑張っている街の住民に心無い謝罪をするのだった。

 その後は傾きかけた日に今日はもう行動する気になれなかった旅人たちはあてがわれた自分たちの部屋へと向かって行く。部屋は全員で大きめの部屋一つで、畳のある純和風の部屋だった。

 ちなみになぜこの世界に畳があるのかの理由は不明である。後日、人伝に旅人が聞いた話だと東方の地から来たとあるデジモンが広めたことくらいしか分かっていないらしい。

 

「ここが部屋。トイレは部屋の外だ」

 

「……何そのニヤケ面?」

 

「さぁ?もう少なくともここにいる間はトイレには困らないなって話だ。ここにいる間はな」

 

「……態とやってる!?」

 

 一応年頃の女の子が男三人――内二人は男性性格というだけの生き物――と一緒に寝食を共にしていいものかという疑問は出るには出たが、昨日の野宿からして今更だろうとの結論になった。

 ちなみにその疑問を出したのはこともあろうにドルモンである。

 

「……はぁ。まあいい……。……ってそれよりも……その口ぶりからだと……また行くの?」

 

 “怖い”と。

 先ほどまでの雰囲気から一転して、しおらしくなった優希の顔に浮かぶ表情は恐怖だ。どうやら部屋に入り落ち着いたことで今更ながらに恐怖を思い出しているらしい。

 そして旅人たち全員は優希の言いたいことも分かる。けどだからといって、ここに留まろうとは旅人たち自身考えていないし、そもそも優希だっていつまでもこうしているわけにはいかないだろう。

 だって優希には――。

 

「……そりゃ、だって帰りたいんだろ?」

 

「それは……そうだけど……」

 

 帰る場所があるのだから。

 いつまでもこうしているわけにはいかない。だが、その身に刻まれた恐怖が優希に行動を起こさせることを躊躇わしている。

 

「まぁ、しばらくはここでゆっくりと休んでいればいいさ」

 

「いいの……?」

 

「いいよ。なぁ?」

 

「俺たちはいいけど……」

 

「旅人が珍しく優しい!甘い!」

 

「よし、ドルの晩御飯はキノコオンリーで」

 

 だが、ドルモンの言うことも一理あるだろう。巻き込まれたのでもなく、何か理由があるわけでもない。だというのに自発的に旅人が面倒を見ている。珍しいという他ないだろう。

 もっとも成り行きという言葉を使えばいつも通りともとれるのだが。

 まるで有名な絵画の如き顔になって絶叫するドルモンを放っておいて旅人たちは部屋の中で思い思いの休息をし始めたのだった――。

 

 

 

 

 

 夜。夕食も終わり、現在はお眠りの時間である。

 ちなみに優希は、今日は普通に旅人たちと一緒のものを食べていた。その後は腹痛でトイレに数十分篭っていたが。この調子が続けば優希の体調は数日と持たないだろう。

 そんな優希は、眠る前に布団がないことでまたひと悶着起こしたのだが、それはほんの余談である。

 

「く~……す~……」

 

「……」

 

「ぐぅ~……うが?」

 

 そんな夜も遅い時間帯。気分良く眠っていたドルモンは背中に感じる何かの感触に目を覚ました。だが、ドルモンとて本当は分かっているだろう。自身をしっかりと抱いて離さないその何か、否、誰かのことは。

 今現在でそんなことをする誰かなど一人しかいないからだ。

 その誰かとはもちろん――。

 

「どうしたの?優希ちゃん……?」

 

 優希のことだ。

 優希は顔をドルモンの背中に埋め込むようにして、ドルモンの体をギュッと抱いている。

 

「――ッ!……!……!」

 

 ドルモンが起きたことに驚いた様子を見せる優希だが、ドルモンの背中から顔を離す気はないらしい。ドルモンが起きたことに気づいてからはその抱きつく腕に余計に力を込めている。

 その普段から考えられない優希の雰囲気にドルモンはされるがままだ。

 

「ねえ、どうしたの?お腹痛い~?」

 

「……」

 

 旅人たちを起こさないように小声で聞くドルモンだが、優希は返事をしない。

 背中に張り付かれている以上顔を見ることもできないので、ドルモンとしては困ってしまう。

 だが――。

 

「――ッ!……」

 

 ドルモンはそこで気づく。自身の背中に感じる湿った(・・・)感触を。それが何によってもたらされたものであるのかを。そして優希がなぜ声を発しないのかを。

 考えてみれば当たり前だったのだ。

 見知らぬ世界で優希は一人きり。手を差し伸べてくれる者はいても、その者は顔見知りというわけではない。しかも、一日と経たないうちに下手すればトラウマになるほどの恐怖まで体験しているほどだ。

 そんな状況に不安を感じていないと思う方がどうかしている。

 きっと優希は昨日、一人耐えていたのだろう。本当の意味で旅人たちを信じられなかったが故に。だが、幼い優希は一人ということにいつまでも耐えられるほど強くはない。

 今日はドルモンに助けられて、少しは信頼を築くことができた。信じることができた。

 だからこそ、誰もが寝静まったこの時間にこうしてドルモンの下に来たのだろう。一人ぼっちの辛い現実を紛らわせたいがために。

 

「……寝ようか」

 

「……」

 

 そんなことをボンヤリと考えたドルモンは己の背で泣く優希に気づかないフリをして、再び眠りにつくのだった。

 ちなみに翌朝一番早く起きたのは旅人である。ドルモンに抱きつくような形で眠っている優希の姿を目撃して、いろいろと察した旅人が珍しく気を使うことにするのだが、それはほんの余談だ。

 

 

 

 

 

 そんなこんなでいろいろあった朝は終わり、現在の時刻は昼近くである。

 現在、旅人たちは街を見て回っている。理由はもちろん、この世界と直接触れ合うことで優希が少しでもこの世界に馴染めるようにするためだ。

 だが、街を回っていても、最近のアレのせいでほとんどデジモンがいない。店も大半がしまっていて、実際はただの散歩と化している。

 

「……」

 

「いや、優希、昨日も言われてたけど、そんなに仏頂面すんなって……」

 

「ほわぁあ~」

 

「眠そうだなドルモン……」

 

「リュウ……いやぁね?昨日なかなか眠れなかったもんでね~」

 

 傍から見れば優希と旅人のやりとりは親子や兄弟のやりとりにも見えるのだが、ドルモンもスレイヤードラモンもそこには触れなかった。

 ついでに昨日今日と変な時間に起きたせいか、ドルモンの眠気が何気にやばかったりする。

 

「……仏頂面じゃないもん……」

 

「って言われてもな……ん?……ドル、リュウ。買い物行ってくるから、その間優希のことよろしく」

 

「え!?」

 

「ちょ、おい!」

 

 返事も聞かず、優希の面倒を押し付けて珍しく開いている店へと消えていった旅人にドルモンたち二人はイラっときたのだが、だからといって優希を放っておいていい理由にはならない。

 とりあえず、旅人に文句を垂れるのは後にして優希のことを見るのだった。

 

「……大変なのね……」

 

「分かってくれる!?」

 

「うん……まぁ、ちょっとは……。あれ?……何かいる……あれもデジモン?」

 

 そう言って優希が指差した先にはいるのは、幼年期の小さなデジモンたち。彼らはたくさん集まって楽しそうに遊んでいる。

 

「ん?ありゃ……幼年期のデジモンたちだな」

 

「幼年期?」

 

「あぁ、言ってなかったか。俺たちデジモンには成長に応じて段階がある。下から幼年期、成長期、成熟期、完全体、究極体ってな」

 

「進化するとその段階が変わるんだよ」

 

「ドルモンや……えっと……」

 

 スレイヤードラモンの方を見て、優希は言葉を濁す。ずっとトカゲ人間と言っていたせいか、それとも名前が長いからか。哀れではあるが、スレイヤードラモンは優希に名前を覚えられていないらしかった。

 

「スレイヤードラモンだ。まぁ、長ければリュウでもいい。旅人やドルモンにはそう言ってもらってるからな」

 

「リュウ?そういえば、ドルモンもドルって呼ばれているよね」

 

「うん。ニックネームみたいなものかな。ドルモンっていうのはオレたちの種族の名前。優希で言えば、ドルモンっていうのが人間で、ドルっていうのが優希に当たるかな?」

 

「ふーん……私もそう呼んでいい?」

 

 ドルモンの言葉は分かりやすい。だが、優希の返事は軽く、ちゃんと理解できているのかどうか怪しかった。

 もっとも理解していようとしていまいと、別にどうでもいいことではあるのだが。

 

「いいよ!」

 

「俺もいいか?」

 

「ダメ」

 

「なんでだ!」

 

「ムカつくから」

 

 未だにドルモン自身はやはりスレイヤードラモンには思う所があるらしい。

 もっともそのことをなんとなくでも分かっているのか、元から冗談なのか。スレイヤードラモンはそれ以上言うことはなかったのだが。

 

「話を戻すと、ドルやリュウってどれなの?」

 

「成長段階?オレは成長期だよ」

 

「俺は究極体だ。この世界に数体しかいないんだぜ?」

 

「……ふーん」

 

「反応薄っ!」

 

 そこで気を抜けた返事を返す辺り、やはり優希はちゃんと理解していないのだろう。

 

「あれ……?」

 

「どうしたの?」

 

「なんかはぐれてるよ?」

 

 いつの間にか、優希たちの近くにいた幼きデジモンたちは皆どこか別の場所へと行っていた。

 だが、優希の言ったように仲間とはぐれてしまったのか、一匹だけ小さなデジモンが途方に暮れているような感じでトボトボと道を歩いている。

 青い模様がある猫のような犬のようなその毛玉。そのデジモンは――。

 

「ワニャモンだね。はぐれちゃったのかな?」

 

「ワニャモン?犬なの?それとも猫?」

 

「両方と思うよ?ほら~?どうしたの~?」

 

「……あれ?あれれ?みんないないよぉ~!うわぁ~ん!」

 

「ああ!泣かないで~!」

 

 話しかけたはいいが、いきなり泣き出すものだから、ドルモンたちは困ってしまう。ドルモンもスレイヤードラモンも、旅人と同じであまり子供の世話を好まない。

 もっとも好まないというだけであって、まったく出来ないというわけではないのだが。

 

「うわぁ~ん!」

 

「……うぅ……うわぁ~ん!リュウ何とかして~!」

 

「っていうか、お前まで泣くな!それと無茶言うなよ!機嫌がいいやつとかならともかく泣いてる奴をどうにかできるか!?」

 

「あんたたちって……はぁ……」

 

 情けない姿しかさらさないドルモンたち二人の姿に溜め息を吐いた優希はゆっくりと、ワニャモンを怖がらせないように近づいていく。

 その姿には手慣れた感をドルモンたち二人に感じさせた。

 

「ほら、大丈夫だから。ね?安心して?」

 

「……うにゅ?誰?」

 

「私?私は――」

 

「すごい……泣き止んだ……」

 

「俺たちの出番なかったな。いや、あって欲しくもなかったけど。向いてるんじゃないか?」

 

「あんたらね……私は孤児院でもこういうことしてるから慣れてるの!」

 

 外野で御宅を並べている二人を睨みつけながらも、怖がらせないようにワニャモンと接するという高等技能を優希は駆使している。

 そんなこんなで、なんだかんだこの世界に馴染んでいっている優希だった。

 

 

 

 

 

 一時間後。

 店から戻って来た旅人は現状を目の当たりにして頬を引き攣らせていた。

 旅人の視線の先は優希の頭の上。そこには――。

 

「で?どうしてこうなったんだ?」

 

「なんか懐かれちゃって……」

 

 ご機嫌な様子のワニャモンがいた。

 あの後、あれこれ世話をするうちに懐いてしまったらしく、ワニャモンは優希から離れようとしない。

 まるでペットのように懐いているワニャモンを優希も邪険にはできないようだった。

 

「キャッキャッ!」

 

「すっかり懐かれてるな。嬉しそうにしちゃってまぁ……」

 

「べっ別にいいでしょ!可愛いし……懐かれて悪い気なんて――」

 

「誰も優希のこととは言ってないけど……」

 

「……」

 

 だが、懐かれているとは言え、いつまでもこのままという訳にはいかない。

 名残惜しそうにワニャモンを下ろす優希だが、一方でワニャモンは不思議そうな顔をして優希を見ていた。

 どうやら、なぜ頭から下ろされたのか分からないらしい。

 

「そろそろ宿に帰らないと……じゃあね、バイバイ……」

 

「ッ!」

 

「それで旅人は何してたんだ?」

 

「ちょっとね……」

 

 雑談しながら背を向け歩き出す旅人たちだが、その足はすぐに止まることになった。

 なぜなら、ワニャモンが付いて来ているからである。しかもワニャモンは足がないので必死に跳ねながら前に進んできていた。

 なぜワニャモンがそのようなことをするのか分からずに旅人も優希も、いやその場の全員が立ち止まって動くことができない

 

「いや!」

 

「いやって……」

 

「いや!いや!うき!離れるのいや!」

 

「うきって誰だ?ワニャモンの名前か?」

 

「優希のことじゃない?まだ上手く言えないんでしょ?」

 

 ワニャモンの相手をする優希を放っておいて旅人たちはコソコソと集まって話している。

 正直な話、これは自分たちではなく優希のやるべきことだと思ったのだ。

 もちろん対応が面倒だという思いもなかったわけではないのだが。

 

「でも……ワニャモンも帰る場所があるでしょ?おウチの人とか……」

 

「ない!いない!うきといっしょにいたい!」

 

「うー……旅人ー?」

 

「オレを頼るなんて……まぁ、ある場所で卵から生まれたデジモンはそのままどこかの場所に放り出されるらしいからな。親なんていないだろうし、帰る場所も……集団にいるわけじゃなけりゃ、特には決まってないだろ……たぶん」

 

 そういう旅人の返答を聞いて、優希の頭の中に嫌悪感とともに育児放棄という言葉が思い浮かぶ。優希はその生まれ(・・・)のせいか、育児をしない親が大嫌いなのだ。

 それを雰囲気からなんとなく察知した旅人は、焦りながらも誤解を解くべく、先回りして発言する。

 

「一応言っておくけど、デジモンは死んだデジモンがとある場所で卵となる……らしい。まぁ、伝説だけど。とりあえず、デジモンは交尾の結果生まれるってわけじゃないよ?」

 

「そう……なの?不思議ね」

 

「まぁな。今更な気もするが……で?どうするんだ?そいつ?」

 

「う……」

 

 未だに優希の足元でピョンピョンと跳ね回っているワニャモンは引く気配を見せていない。もう、諦めるしかなさそうだった。

 

「いっしょ!いっしょ!」

 

「うぅ……分かった。これからよろしくね……」

 

「うきゃ~!」

 

「喜んでんだか。叫んでんだか……しょうがないなぁ……」

 

 ワニャモンを再び頭の上に乗せる優希だが、口ではなんと言っていようとその顔は嬉しそうな顔をしている。

 そのことは指摘せずに、笑いながら旅人たちは宿へと戻るのだった――。

 




はい。というわけで第八十三話。
次回はこの数話に渡った番外編のラスト&最終章の導入です。

とかなんとか言って、最終章は二通りのパターンができちゃって悩んでます。
まあ、大筋と、始まりと最後の数話は一緒なんですが。

ではまた次回に。
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