前回の続きが予告でちょこっとという割に割とガッツリ入りました。
「どこだ?ここ……」
「さあ……?人間の世界のどこかだとは思うけど……」
現在。旅人たちは人間の世界にいた。
しかも、その世界は旅人の生まれ育った人間の世界ではなく、別世界の人間の世界である。深く考えなくても頭が痛くなるような、訳の分からない事態ではあるが、事実なのだ。
「っていうか、俺出てて大丈夫なのか?」
「そういや……そうだな」
「人間の世界にリュウみたいなのはいないからね~」
なぜ旅人たちがあのような、世界の非常事態にこのような別世界にいるのかというと、話は数時間前まで遡る――。
それは旅人がはっきりとして協力の意を示した後のこと。
――まずは七大魔王の力を集めてもらいます――
「七大魔王の?でも七大魔王はもういないって……」
――ええ。
「……なんか読めたぞ。この先の展開が」
――話が早くて助かります。貴方がたは別世界に行き、そこに存在する七大魔王に接触し、彼らの力を集めてきてください――
その言葉を聞いて旅人が協力の意を取り下げたくなったのも無理はないだろう。
七大魔王とは一体一体が世界をどうこうできると言われるほどの力を持つ究極体デジモンの集団だ。そんな奴ら全員の元へ行かなければならないなど、面倒を通り越して自殺願望である。
「……やめていいかな?」
「旅人……」
「……」
「おい!一応メンバーにはお前らも入ってんだぞ!」
哀れむかのようなスレイヤードラモンとドルモンの視線がとても痛い旅人だった。
「でもどうやって……?」
――貴方にはその手段があります。というよりもそのために白紙のカードはあるのですから――
「……!そういえば――」
グランドラクモンのその言葉に旅人は思い出す。
かつて七大魔王の一角であるリリスモンに白紙のカードが接触した時。白紙のカードがリリスモンのカードへと変化したことを。
――元々白紙のカードは七大魔王の情報すべてを写し取るために作られました。貴方が普段使っている使い方はその副産物です――
「副産物?そういえば、あいつも似たようなことを言ってたような……」
――強大な力を持つ存在を丸々写し取る力を持つカードです。持ち主のイメージを写し取ってその一部の力を解き放つことくらい軽いものでしょう――
それが白紙のカードの真実。旅人はかつて仮面の男の言葉で、副産物としての使い方を本来の使い方として思い込んでしまっていたのだ。
もっとも、そこら辺は仮面の男つまり旅人の師匠が気の利いた言い方をしなかったのが問題であるのだが。
――ともかく。白紙のカードを使って七大魔王すべての力を写し取ってきてください。それを使って再び罪を封印します――
「……やる気でないなー」
とはいえ、すでにリリスモンのカードを旅人は持っている。接触するのがあと六体でいいというのは旅人たちにとって朗報とも言えるものだろう。
もっとも、結局六体と接触しなくてはいけない事実は変わらないのだが。
「はぁ……なんでこう……面倒事に巻き込まれるんだ……?」
「体質じゃない?」
――そこら辺のことはすみません、としか。本来私たちがすべき世界のことを貴方がたに任せることは私たちとしても不本意でもあります――
「じゃあ、お前らやればいいんじゃねぇか?」
――ですが、そうすることもできないんですよ。私たちはあまり世界に干渉すべきではない。過度に干渉した結果が……三大ターミナルの悲劇でしょう?――
その言葉にチラリと旅人たちがその悲劇の原因を見れば、その原因は大変心外そうな、不機嫌そうな顔をしていた。
やはり、ナムとしても何かしらの理由があってあの事態を引き起こしたのだろう。その結果が、自身の廃棄に繋がったというのなら皮肉にしかならない。
――貴方がたには申し訳ありませんが、それでも私たちは貴方がたの負担を軽減させるためにさまざまな手を尽くしました――
「……さまざまな?」
グランドラクモンの言葉は複数形。
つまり、それは一つや二つではないということで。
――具体的に言うのなら、本来なら必要のない白紙のカード以外のカードや貴方の師匠、そしてドルモンに対する保険ですね――
「オレの、保険……?」
「師匠も!?」
「ッ!」
――精神的負担の軽減などのためにデジコアの方に細工をしたのですよ。デジタマの時点でね――
それは、あの黒い竜のことを言っているのだろうか。明言はされなかったが、おそらくはそのことだろうと、旅人もドルモンもなんとなくだが悟っていた。
そして、デジコアにデジタマ。また旅人の知らない単語が出てきている。
両方とも字面でなんとなく意味が分かった旅人だが、そんなことも知らないのかと呆れたような言葉でスレイヤードラモンからの補足が入った。
デジタマとはデジモンの卵のことで、デジコアとはデジモンの心臓にして魂のようなものだと。
「ま、まぁ、知らなくても大丈夫だよ!」
「……」
――貴方の師匠については……ナムが残った力で作りました。廃棄されたとしてそのくらいの力はありましたからね――
「師匠を!?」
自分の師匠の驚愕の事実を知った旅人だが、そこで当然の疑問が出てくる。
では、師匠は今どこにいるのかと。
別に誰がどこにいようと知ったことではない旅人だが、やはりそれなりに親交があった人物が今はどうしているのかくらい気になることだってあるだろう。
――……そういえば、知らないのでしたね。貴方の師匠は……――
「あ!あー!そういえば!」
「リュウ……いきなりどうした?」
「え?あ、あー……いやぁ……」
大声を上げて話を遮り、焦ったように話題を逸らそうとするスレイヤードラモンを旅人もドルモンも不審そうな目で見ていた。
一方でスレイヤードラモンとしては、その師匠つまり仮面の男の死に際と真実を知っているがゆえに、師匠イコール仮面の男という事実を旅人に話さないほうがいいだろうと思っている。
――ふむ……まぁ、いいでしょう……ああ、最後に一つ――
「まだ何かあるのか?」
――進化についてです。カードによる進化は所詮間に合せです――
「え?今更っ!?」
――いかにカードで進化しようと、それは無理やり体を成長させたのと同じ。そこに入るべき中身が伴っていない。ゆえに、普通に進化した個体とカードで進化した個体とでは前者の方が格段に強力な個体となります――
それは経験という概念のことを突き詰めた形なのかもしれない。
ドルモンもカードなしで進化した時は、カードで進化時と比べてどこか違いを感じていた。それはそのままこのことの証明かもしれない。
そして、そのことが示す事実はつまり、ドルモンの進化した進化体は本来の進化体と比べて劣っているということだ。
――それは現在の進化も同じです。一瞬で強力な力を手に入れることはそのまま未来を切り開く大きな力となりますが……その代償として未来の可能性と得うる経験の一部を切り捨てることになります――
「分かったような……分からないような……」
――そもそもかつては進化というもの自体、特別なものでした――
「え?」
――かつてこの世界には種族という存在はあっても、成長段階はなかったのです――
つまり古の時代。そもそも進化という現象自体なかったのだ。いつからか、進化という概念ができたということになる。
――ですが、古代種族たちが力を身に纏い力を増す術を見つけました。外敵に対抗するために――
「力を纏う?アームズデジクロスみたいなものか?」
――まぁ、そうですね。もっともそれも自身の力ではなく道具に頼った力ということで、時代の流れとともに消えていきましたが――
古代種独特のその擬似進化にアームズデジクロスと似たようなものを思い浮かべる旅人だが、残念ながら両者は決定的に違う。
道具に頼る擬似的な進化と他のデジモンによるパワーアップ。似て非なるものだ。
――話を戻します。どんな種族もそれぞれ特徴がありました。その種族の情報と言ってもいいかもしれません。だが、ある時。その特徴から外れた者が現れた――
「……それが?」
――ええ。特徴から外れるとはすなわちその種族にはない新たな可能性の発現。それこそが、始まりの進化です――
それは偶然だったのか、必然だったのか。別世界や後の時代のことを考えれば、必然だったのかもしれない。
擬似的進化に対抗するための手段だったのか、別の何かに対抗するための新たな未来だったのか。もう確かめようもないことであるが、一つ確かなことはそれからどんどん進化が広まっていったのだ。
――環境や経験、意思などによって己の変革を成し遂げたものがそれに合った情報を持つ種族へと変わる。それこそが進化――
「なんでその話を今……?」
――いえ、話しておいたほうがいいと思いましてね。この世界の大抵の者は種族の情報に沿った決まりきった生き方しかできません。でも。確かに違う生き方をすることができる者もいるのです。変わることもできるのです――
「変わる……か」
そこでスレイヤードラモンが思い出すのはあの友のことだ。
変わるということが良いことなのか、悪いことなのか。進化というものがなければいいのか。答えは出ない。
だが、確かなものとして、種族の情報に縛られるというのは呪いみたいなものだろう。
あのスレイヤードラモンの友が進化してから変われなかったように。
――人間と共に生きるものはその例外になることが多いです。凶暴な種族の者が血の気が多い者になったりと……――
「それ……違うか?」
――この世界にいない人間こそ……新しい可能性を切り開く存在なのかもしれませんね――
それは教会で祈る信者のような、親が子を見守るかのような優しい声色だった。
――ですが、今の氾濫した進化は進化の意義からかけ離れすぎています。進化とは未来を切り開く可能性の元に行われるべきもの。断じて氾濫していいものではない。……ゆえに近いうちに私たちによってまた規制されるでしょう――
「ま、だろうな」
――ですが、進化という力がなくても未来を切り拓く力はすでに貴方がたの中に……いえ、本来誰にでも備わっているものです。それだけは……忘れないでください――
そんなこんなで。旅人たちは七大魔王を探すためにナムによってこの世界に連れてこられたのであった。
ちなみにナムは一緒に来ていない。すぐに何回も別世界同士を繋ぐゲートを作るために集中しなければならないとかで、一緒に来られなかったのだ。
「とは言ってもな……どうみたってここ人間の世界だろ?本当にここに七大魔王がいるのか?」
「さあ……?」
とにかくノーヒントで探さなければならないというのが辛い。
ここがデジモンの世界だというのならば、デジモンたちに話の一つでも聞けばいいだろうが、人間の世界ではそれも叶わない。
聞き込みもできず、かと言って闇雲に探しても見つかる訳はない。結局八方塞がりだった。
「旅人。さっきから俺の姿が人間に見られているけど大丈夫か?」
「……しまった……」
そんなスレイヤードラモンと旅人を見て、周りにいる人々は何かコソコソ話ししていたり、悲鳴を上げて逃げ出したりと。随分と過剰な反応をしている。
一方でその過剰な反応に旅人たちは首を傾げるしかない。
だがその時、旅人たちの前に現れたのは、紫色のデジモンのような機械のような何かだ。しかも一体だけではなく、何体かいる。
「こいつら……デジモンか?」
「いや……ッ!」
旅人たちがそいつらに疑問に感じたその瞬間。その機械から放たれたレーザーがスレイヤードラモンの足元に直撃した。
いきなりの実力行使。その感じからして紫機械たちは敵意むき出しである。しかも本当に機械なのか、その紫機械たちからは一切の感情を見ることはできない。
「っち!やるしかねぇか!」
旅人とドルモンと頷きあってスレイヤードラモンは二人と心を一つにする。
スレイヤードラモンは己の武器であるフラガラッハを油断なく構えて、旅人とドルモンは――。
「逃げるっ!」
「逃走だ~!」
逃げ出した。
心を一つにしたつもりになっていたのはスレイヤードラモンだけだったのかもしれない。
「は?いや、おい!……うわっと!」
余所見した自分に放たれた紫機械のレーザーを躱して、スレイヤードラモンは旅人たちを追う。
そんな中でスレイヤードラモンはなぜ旅人が逃げ出したのか理解出来なかった。スレイヤードラモンの見たところ、紫機械など旅人含めて自分たちの敵ではないからだ。
だというのになぜ逃げるのか。いや、スレイヤードラモンとて旅人たちが戦闘をあまり好まないということを知っている。だが、だとしても納得は出来なかった。
「おい!追ってくるぞ!」
「なんかオレたち悪いことしたか!?」
「知らないよ~!」
「うわっ!また撃ってきた!」
紫機械はしつこく追ってくる。彼らを前にいつまでも逃げ続けることはできないだろう。
ゆえに、旅人は少し博打的な部分が見え隠れするそれを使うことにした。
「set『転移』!」
一瞬後、旅人たち三人の見える風景が変わる。
ランダム転移はどこに行くか分からないため極力使いたくなかったのだが、しつこく追ってくる紫機械を前に旅人はその使用に踏み出したのだ。
「……紫機械もういないか?」
「たぶん……」
現在旅人がいる場所はどこかの山の中だ。
旅人とドルモンは紫機械の襲撃から無事に切り抜けられたとあってどこか安堵の表情を見せている。
だが、一方で不満そうなのはスレイヤードラモンだ。
「――だよ?」
「ん?リュウ、どうかしたのか?」
「なんでだよって言ってんだよ!」
溜まっていたストレスを吐き出すかのように怒鳴り声をあげるスレイヤードラモンを前に旅人とドルモンはポカーンと口を開けて呆然とするしかない。
だが、そんな旅人たちを置き去りにして、スレイヤードラモンはますますヒートアップしていく。
「あんな奴ら別になんともないだろ!?なんで逃げたんだよ!?」
「いやぁ……だってオレたちの目的は七大魔王であって……なぁ?」
「あんなのの相手するのって面倒だし、戦ってもいいことないし……ねぇ?」
「ッ!」
その誤魔化すような旅人とドルモンの態度を前にスレイヤードラモンの中に怒りの感情がとめどなく湧き上がっていく。
そんなことは分かっているのだ。知っているのだ。だが、それでも尚、不満であるのだ。
だが、旅人もドルモンも、スレイヤードラモンがこうして思いをぶつけているのにそれに向き合おうとしていない。
それが尚の事スレイヤードラモンを苛立たせる。まるで、相手をすることを拒否したあの紫機械たちのように。自身のことを旅人たちが拒否しているようで。
「……そうかよ」
「……リュウ?」
「……仲間だと、パートナーだと……いい関係を築けていると思っていたのは……俺だけだったんだな」
スレイヤードラモンの先ほどまでの声はただの不満からのものだった。
だが、今の声は不満以上の怒りと嘆き、そしてどこか失意の感情を漂わせるものに変わっていた。
それに気づいた旅人たちが何かを言う前に。
スレイヤードラモンは飛び立っていった――。
ついに章の???の意味が明かされました。
最終章は複数の世界を廻ります。一つの世界あたり一二話の予定。まあ、おそらく例によって増えるとは思いますが。
さて、初めの世界は……どこでしょうか?
ヒントは紫機械です。
そしていきなりのピンチ……しかも七大魔王関係ないところで。
ではまた次回に。