【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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なんとかできたので投稿しました。


第八十八話~セイバーズ!怠惰の魔王との決戦!~

 スレイヤードラモンが何処かへと飛び去ってしばらくして。

 旅人たちは捻っていた首を元通りにして七大魔王探しを続行していた。分からないことを考え続けていても埒があかないと悟ったのだ。

 もっとも、その行動は問題の先送りでしかないなのだが。それでもどうにかなるだろうと思う旅人たちは相変わらず楽観主義が過ぎると言えるだろう。いや、いっそ通り越して薄情と言えるかもしれない。

 

「でもね~」

 

「見つからないな」

 

 ちなみに現在ドルモンにはそこら辺で拾った首輪とロープが付けられている。ようするに犬のフリをしているのだ。

 もっとも、プライド的にどうなのかと彼に聞けば、ドルモンは顔を引き攣らせて笑うことだろう。

 

「……旅人。オレいつまでこのカッコしてればいいの?」

 

「……犬はワンとしか喋らないぞ?」

 

「ワン……ワン……」

 

「何言ってるか分かんないぞ……」

 

「ワ……!旅人がやれって言ったんでしょ!」

 

 理不尽な旅人の言い分にかなり妥当な怒りを抱くドルモン。だが、ドルモンはその怒りを発散させることができなかった。

 なぜなら――。

 

「だいたい……旅――」

 

「ん?あれは……」

 

「――人……?どうかしたの?」

 

「いや、アレ」

 

 街頭のビルに設置されている巨大なスクリーン。そこに下衆な笑みを浮かべた白髪の科学者のような男が映っていたからだ。

 

――私がデジモンの世界も!人間の世界も!すべての支配者となるのです!この七大魔王ベルフェモンの力によって!――

 

 言った。今、白髪の科学者は七大魔王ベルフェモンと確かに言った。

 

「……旅人」

 

「思ったよりも楽に見つかったな……」

 

「でも絶対面倒事だよね」

 

「今更だろ」

 

 思ったよりも楽に七大魔王の一角が見つかったことは喜ぶべきことだが、仄かに香る面倒事の気配に旅人とドルモンは揃って溜め息を吐く。

 だが、面倒でも行かなければならない。なにせ自分たちの世界がかかっているのだから。

 

「行くか」

 

「リュウは?」

 

「……放っておくか。そのうちどうにかなるだろ」

 

 今どこにいるかも分からないスレイヤードラモンを探して、七大魔王を逃しては本末転倒だ。

 そう考えて、旅人はドルモンと共に走り出した。向かう先は決まっている。先ほどから爆発音が聞こえる遥か彼方の方角だ。

 

「もうドンパチ始まっているみたいだよ~?」

 

「急がないと事が終わっているかもしれないな……急ぐか。set『進化』『究極』!」

 

「ドルモン!ワープ進化――!ドルゴラモン!」

 

 聞こえてくる音と伝わる振動は誰かが戦闘をしていることを示している。

 早くしなければ戦闘が終わってしまうかもしれないだろう。

 突然のドルゴラモンの登場に驚き、逃げる人々を無視して。そして進化したドルゴラモンの肩へと飛び乗って。

 旅人はドルゴラモンと共に現場へと向かった。

 

 

 

 

 

 一方で。魔王ベルフェモンと戦っているのは、この世界のデジモン関係の事件を解決する秘密機関DATSの――といってもDATS自体は少し前のとある陰謀によってほぼ壊滅状態なのだが――メンバーである。

 

「アァハハア!ハハハ!無駄デスヨォ!」

 

 犬のような山羊のような鎖によって繋がれたその巨大な魔王ベルフェモン。その姿はレイジモードと呼ばれ、スリープモードと呼ばれていた状態の千年の眠りの姿から覚めた魔王ベルフェモンの真の姿である。

 そして、本来の魔王ベルフェモンの姿にはないだろう、ベルフェモンの胸にある人間の顔。それはこの事態すべてを画策した黒幕である倉田の顔。彼は魔王と融合することによって今や魔王の精神さえも支配しているのだ。

 浮かび上がっているその彼の顔には怖気は走るほどの執念がこびりついていて、魔王さえも支配下に置くほどの彼の執念を伺わせる。

 

「無駄無駄無駄ァ!」

 

「っく……」

 

 真の姿となったベルフェモンとおぞましい執念を持つ倉田。二つの存在が融合し合うことによって発揮される魔王の力。

 純粋に比べれば、魔王単体の時の本来の力に比べれば劣るのだろう。なぜなら倉田という不純物が力の発揮を邪魔をするから。

 だが、それを補うほどのドス黒い倉田の感情が別方向で魔王の力を発揮させている。

 そしてその力を前に、彼らDATSは手も足も出ていなかった。先ほど究極体に進化したレイヴモンが傷を負わせることができた程度である。だが、それも魔王のさらなる怒りを買うだけに留まってしまった。

 

「くそっ……」

 

 そんな中で活発そうな雰囲気の茶髪の少年大門大は現状に歯噛みしていた。

 つい先日、彼は憎しみのあまり己の相棒を暴走させて、デジタマまで戻してしまったのだ。そのために彼はこの戦いに参加することができない。

 目の前で魔王と呼ばれるデジモン相手に仲間たちが傷つきながらも尚、戦っているというのに彼はその光景を黙って見ていることしかできない。

 その事実が、彼を苛立たせていた。

 

「アグモン……起きてくれ!俺は……お前と一緒に戦いたいんだよ!」

 

 大は己のパートナーが眠るデジタマに必死に呼びかけるが、答えは返ってこない。

 現状を見れば、騎士のような狼デジモンであるミラージュガオガモンとバラのような女性デジモンのロゼモン、烏天狗のようなデジモンのレイヴモン。そしてチェスの駒のような二体のデジモンのルークチェスモンとビショップチェスモン。

 その五体のデジモンがベルフェモンと戦っている。ルークチェスモンとビショップチェスモンは完全体で他の三体は究極体。だというのに、ベルフェモンは互角を通り越して五体のデジモンたちを圧倒している。

 

「くそぉおおおお!頼む!アグモン!」

 

 そんな中で、ベルフェモンの口から放たれた破壊の光線の流れ弾。それは真っ直ぐに大の方へと向かって行く。

 

「大!」

 

 大のチームメイトの金髪の少年が、少女が、女性たちが、幼い少年が。それに気づいて声を上げるが――遅い。もう攻撃は放たれた後で。

 もうデジモンたちでも、彼のチームメイトでも大を救うことはできない。大はその手の中のデジタマごと死ぬ。それが定まった運命。

 だが、それも――。

 

「……え?」

 

 もしここにいるのが彼らだけだったらの話だが。

 

「イテテ……」

 

「どうなった……?」

 

 死の運命から大を救ったのは高速でその場に突っ込んできた何かである。

 もっともその何かは大を掴んだまま近くにあったビルへと突っ込んでいた。まあ、被害と助け方はどうあれ、大がその何かによって助けられたのは事実である。

 大をその手に持ったその何かがビルから飛び出す。その姿は白銀の竜と人間で――。

 

「あなたたちは……?」

 

「ん?オレたちか?」

 

「オレたちは……まぁ、七大魔王に用がある者だ」

 

 まあ、ぶっちゃけると旅人とドルゴラモンなのだが。

 なんとか間に合った旅人たちだが、一方で金髪の少年トーマは旅人たちを胡散臭そうに見ていた。

 組織としてある程度人間とデジモンの繋がりを把握している自分たちの知らない人物。そしてこのタイミングで七大魔王に用があるという言葉。それらからすれば胡散臭さ爆発の人物に見えることも当然なのだが。 

 もっとも――。

 

「すまねぇ!助かった!えっと……」

 

「旅人だ」

 

「ドルゴラモンだよ~」

 

「サンキューな!旅人!ドルゴラモン!」

 

 そんなことも考えない(馬鹿)は堂々と話しかけているのだが。

 

「あいつは……オレたちが相手をしとくから」

 

「君はやることがあるでしょ~?」

 

 そう言ったドルゴラモンの視線の先にあるのデジタマだ。

 その視線の意味が分かったのだろう。大は少し悔しそうな顔をして、だがしっかりと頷いた。

 

「頼んだぜ!」

 

「おぉ!」

 

「行くぞ!ぉおおおおおおおおお!」

 

 ドルゴラモンがベルフェモンへと向かって行き、殴りかかる。

 真正面からのその一撃をベルフェモンはその拳で難なく受け止めた。それには旅人もドルゴラモンも驚くしかない。

 いかにドルゴラモンのスペックが本来のドルゴラモンという種族のソレから劣るといっても、その力は究極体デジモンの中でも抜きん出ている。

 それは今までの戦いでも証明済みだ。だが、そのドルゴラモンの力を真正面から押し留めたというのは、さすが七大魔王というべきか。

 

「っ!やっぱり……これは……一筋縄ではいかないな……」

 

 いくつかのカードとその先の作戦を考えながら、旅人もドルゴラモンの元へと向かう。

 だが一番の問題点はここが人間の世界であるということである。下手な戦いをしては辺り一帯が滅茶苦茶になってしまうのは、アルファモンたちとの戦いで把握済み。それもあって旅人たちは手を出しあぐねている部分もあるのだ。

 

「ハハハ!誰ダカ知リマセンガ!私ノ敵デハナイノデスヨォ!」

 

「っく!旅人!」

 

「了解!set『加速』!」

 

 スピードを上げて翻弄する作戦も特に効果は出ない。

 さすがの七大魔王。パワーだけではなくスピードも反応速度もそのすべてが高水準だ。

 ここにいるデジモンたちと連携できればまだ話は違っただろうが、そのデジモンたちは満身創痍であるし、そもそも出会って間もない者たちと連携を行えるほど旅人たちは器用ではない。

 結局。旅人たちは数の利を活かせずに戦っている訳である。

 

「ッ……あとは……」

 

 旅人が取り出すのはつい最近手に入れたカード。だが、それを使いこなすにはドルゴラモンの体型(・・)は適していない。

 であれば、あとはアームズデジクロスしかない。旅人がアナザーとリリスモンのカードを取り出して構えた瞬間――。

 

「……あれは?」

 

 旅人が目撃したのはこの戦場へと走ってくる一人の男と一匹のデジモンの姿。

 男は先ほど旅人が下がらせた大であり、デジモンの方は旅人が何回か見たことがある黄色い恐竜のようなデジモンのアグモンだ。

 もっともなぜかそのアグモンの腕には赤いベルトを巻きつけてられている。

 その彼らの姿にその特異なアグモンこそが大のパートナーであると旅人は悟るのだが――。

 

「孵ったのか!?って――」

 

「おりゃぁあああああ!倉田ァアアアア!」

 

「――なにやってんの!?」

 

 天下の魔王相手に戦略も何もなしに生身で向かって行く大とアグモンを旅人は口を開けて呆然と見ることしかできない。

 もっともそんな戦略も何もない攻撃をベルフェモンが受けるはずもなく――。

 

「ソンナ生身ノ攻撃ガ通ジマスカァア!」

 

「ぐえっ」

 

 二人は魔王ベルフェモンが巻き起こした風圧によって吹き飛ばされた。

 

「……ハッ!何やってるの~!」

 

 すぐにドルゴラモンが宙に投げ出された二人を回収したのだが、旅人もドルゴラモンも呆然としていたあまりに回収が遅れたのはほんの余談である。

 

「お前ら何やってんだ!」

 

「あいつは一発ぶん殴ってやらねぇと気が済まねぇんだ!」

 

「アニキ!ほらほらー!」

 

「おう!行くぜアグモン!」

 

 その言葉に呆然とするドルゴラモンと旅人を放っておいて、大とアグモンは駆けていく。

 旅人自身もデジモンと戦うことはあるが、それはあくまでカードやアームズデジクロスの力があるからである。

 そのような力なしに生身で向かって行く大の精神が信じられない旅人たちだった。

 

「……ドル!あいつらを――」

 

 ハッとなった旅人がそう言って、無謀の極致とも言えるような行動をしようとしている大たちをドルゴラモンに助けさせようとした瞬間――。

 

「おりゃぁあああああああああ!」

 

「――は?」

 

「え?――」

 

 大がベルフェモンを殴り飛ばした。しかもその手の拳一つで。

 そのあんまりな光景に旅人もドルゴラモンも先ほどまでとは違う意味で口を開けて呆然とするしかない。

 一方でそんな旅人たちを放っておいて、大はその拳の謎の光を旅人たちが見たことのない機械に叩きつけていた。

 

「サイコー!力が湧いてくるぜ!アニキ~!」

 

「行くぜアグモン!デジソウルチャージ!オーバードライブ!」

 

「アグモン!進化――!シャイングレイモン!」

 

 そして起こるアグモンの変化。それは進化。

 太陽のような輝きの赤と白の光竜の如きデジモンへとアグモンは進化する。しかもそれは成熟期や完全体ではない。

 シャイングレイモン。究極体のデジモンへとアグモンは進化したのだ。

 

「ッ!進化した!」

 

 そんな呆然とした旅人の呟きの最中で、旅人たちを追い越すようにデジモンたちが並び立つ。

 そんなデジモンたちと共に戦おうとするように、金髪の少年たちが旅人の元へと歩いて来ていた。

 

「旅人さん……でしたね。我々と協力してくださいますか?」

 

「お前らもう大丈夫なのか?」

 

「まだ体だって動きます。まだやれますよ」

 

「……分かった。こっちからお願いしたいくらいだ!ドル!」

 

「おお!」

 

「よし!行くぜ、みんな!」

 

 大の掛け声とともに戦闘が――再開した。

 

 

 

 

 

 一方でその頃。旅人たちと別れたスレイヤードラモンもその現場にいた。といっても遥か上空から旅人たちが戦っている様子を見ているだけだが。

 

「……」

 

 遥か下では魔王ベルフェモンと旅人たちが戦っている。

 もっとも、この世界の面々と連携できないだろう旅人たちはもっぱら陽動専門で動いているのだが。

 そんな中で旅人がベルフェモンから力を写すための隙を探していたりしている。

 その姿をスレイヤードラモンは面白くなさそうに見ていた。

 自分の力は借りずに見ず知らずの者たちの力は借りるのかと。

 それは明らかに考え過ぎなのだが、ネガティブスパイラルにはまり込んでいるスレイヤードラモンはその事実に気づけないでいる。

 

「……俺は……」

 

 自問する。なぜここにいるのかと。

 答えは決まっている。旅人たち(・・)にパートナーとして認められたいからだ。

 自問する。今の己はパートナーとして認められているのかと。

 答えは決まっている。旅人たちはスレイヤードラモンのことをそんな風に思ってもいないだろう。

 自問する。今の己の行動はパートナーとしてふさわしいものなのかと。

 答えは決まっている。否だ。旅人たちにも悪い部分はあっただろう。だが、彼らの答えを聞くのが怖くて、思わず逃げ出したスレイヤードラモン自身にも悪いところはあった。

 

「……」

 

 一通り考えて、スレイヤードラモンは溜め息を吐く。

 彼とて自分が旅人たちに認められるほど強くなれたとは思えていないし、そもそも“強さ”を求めるスレイヤードラモンと“旅”を続けたい旅人たちでは根本的なものが違う。それでも尚、スレイヤードラモンは旅人たちに“強さ”で認められたいのだ。

 そんなことを思っているくせ、冷静になって考えて“あれはない”と思えるような行動をついしてしまった自身にスレイヤードラモンは呆れ果てている。ガキではないのだ。あんな感情任せの卑屈な行動など、彼自身が思い描く“強さ”から程遠い行動だ。

 

「……ん?」

 

 そんな時。スレイヤードラモンが下を見れば、追い詰められたらしいベルフェモンが爆弾のような物を喰らった所だった。

 しかも。それが原因かは分からないが、ベルフェモンの攻撃が空間を裂くような不可避のソレへと変化している。

 いきなりのパワーアップに旅人たちは逃げ惑っていた。

 

「くそっ!」

 

 その様子を見た瞬間に。考えるより先にスレイヤードラモンは空を駆けて出していた――。

 

 

 

 

 

「ッ!避けろ!」

 

 時空振動爆弾と呼ばれる爆弾をベルフェモンが喰らった瞬間から、ベルフェモンの攻撃が空間を裂くような攻撃へと変化し、旅人たちを苦しめていた。

 不可避の威力を持つソレを食らってはならない。ゆえに旅人たちは回避に重点を置いて戦っている。

 

「旅人!」

 

「ッ!まずッ!set『転――!」

 

「アハハ!アハァア!雑魚ガァ!」

 

「ガッ……!」

 

 旅人が『転移』のカードで避けようとした瞬間に、それに先んじてベルフェモンの攻撃が旅人に迫る。

 かろうじて当たらなかったものの、その余波によって旅人はそのまま吹き飛ばされ、ビルに叩きつけられた。だが、もし拳そのものが直撃していたら大層スプラッタな光景が広がっていたことだろうから、幸か不幸か分からない。

 

「っく……!」

 

「珍シイデスガ……マズ羽虫ガ一匹ィイイイ!」

 

 だが、追撃を防げないという点では不幸なのだろう。

 しかも隙を狙うあまりアームズデジクロスをしていないというのがさらに不幸に拍車をかけている。

 旅人を守ろうとするデジモンたちを風圧で吹き飛ばして、その空間を裂く爪で旅人を捉え――。

 

「ナンデスト?」

 

 る前に旅人の姿が消えていた。

 その事態にその場の面々は怪訝に思うが、ベルフェモンを含む何人かは何があったか見えていた。

 白い鎧の竜騎士が旅人を連れ去ったということを。

 

「……悪い、リュウ。助かった」

 

「……」

 

 一方で旅人を助けたスレイヤードラモンは旅人とともに壊れたビルの中で隠れていた。

 隠れることができたことをこれ幸いとばかりに旅人は白紙のカードを構えてベルフェモンの隙を伺っている。

 

「なあ、旅人……」

 

「……さっきのことか?」

 

「ああ……」

 

 スレイヤードラモンの発言に対して旅人は状況も忘れてスレイヤードラモンと向き合った。このような大事な状況ではあるが、こればかりはちゃんと向き合わないといけないと思ったのだ。

 

「俺は……お前に認められたい。ドルモンと同じ……パートナーとして。お前の相棒として。俺の強さをお前らに認めて欲しいと思ってるんだ」

 

「いや、別に認めていないなんてことは……」

 

「ない……か?いや、ぜってぇに認めていないだろ!」

 

「いやいや、なんでそうなるんだよ!」

 

 そんなことを言われても、旅人としてはスレイヤードラモンの強さは十分に分かっているつもりであるし、認めているつもりでもある。スレイヤードラモンがいなければ、旅人はここにいないのだから。

 だが、スレイヤードラモンはそういうことを言っているのではないし、そもそもスレイヤードラモン自身意固地になっている部分がないわけでもない。

 

「お前が十分強いってことは分かってるよ!」

 

「そういうことじゃないんだよ!」

 

「じゃあ、どういうことだよ!」

 

 話が噛み合っているようで噛み合っていない。

 それは二人の違いが理由でもあるのだろう。スレイヤードラモンにとって強さとは己を語る上で欠かせない必要条件であるが、旅人にとって強さとは旅の助けになればいいという十分条件に過ぎない。

 その二人の強さに対する認識、意識の違いがこのようなすれ違いを生んでいるのだ。

 

「俺は――」

 

 とどのつまり、スレイヤードラモンはただこう言って欲しいのだ。

 お前が必要であると。お前の強さが欲しいのだと。

 自分を必要として欲しいのだ。

 約束のために強さを求めて生きてきたスレイヤードラモンは約束を失ってからも強さを捨てることはできなかった。

 スレイヤードラモンにとって強さとは己の生の一部なのだ。だからこそ、強さでしか自分を表現することができない。だからこそ、強さではない物を必要とする旅人たちとは合わない。

 

「――俺は!お前らとは関係ないのかよ!」

 

「……!」

 

 スレイヤードラモンの叫びは彼自身の心情と共に嫌というほど旅人に伝わった。

 だが、だからといって旅人は何か言うことができない。旅をしてきたために、ドルモンを除く面々と深く付き合うことをしなかった旅人はこのような場合にどういう風に言葉をかけていいか分からないのだ。

 

「なぁ!旅人!」

 

「……」

 

 だが、何か言わないといけないだろう。ここでスレイヤードラモンとの関係を終わりにしたくないならば。

 

「……お……れ、は……」

 

「……」

 

「オレ、は……正直さ……」

 

 さんざん悩んで、旅人は正直に話すことを選択する。

 下手に取り繕ってもしょうがないと思ったのと、元々取り繕える程の頭がないと思ったからだ。

 

「……うん、正直お前の言っていることはさっぱり分からん」

 

「……ズバッと言うな」

 

「取り繕ってもしょうがないだろ。取り繕って欲しいのか?」

 

「まさか」

 

「だろ。……まぁ、だけどさ。俺はお前との日々は……旅は。楽しいと思ってる」

 

「……!ハハッ……」

 

 旅人の言葉は誰が聞いても拙い言葉だった。聞くものによっては薄情に聞こえる言葉だった。

 だが、だからこそ。だからこそ飾り気のないと言えるだろうその一言は旅人の本心を語っているようで。

 

「だから……」

 

「……しょうがねぇなぁ」

 

「あれ?もういいのか?」

 

「もういいってなんだ。もういいって。ま、今回はこれくらいにしておいてやるよ」

 

 もう少し何かあると思って、尚も言葉を募ろうとしていた旅人はスレイヤードラモンのその言葉に拍子抜けするしかない。

 一方でスレイヤードラモンも苦笑しながら、その言葉を聞いただけでコロリと態度を変えられた自分の現金さに呆れ果てていた。

 

「行くんだろ?」

 

「……まぁ。……行くか」

 

 その時。ビルの外では進化の光に似た、されど非なる光が辺りを照らしていた。

 

――力は貸したり!与えたりするもんじゃねぇ!力は……――

 

「……だってさ。旅人」

 

「……分かって言ってるだろ?リュウ」

 

 外から聞こえたその魂の叫びに。

 旅人とスレイヤードラモンは苦笑して、それを叫んだ者のことを思い浮かべる。出会ってすぐに分かるほどの出鱈目で滅茶苦茶なあの少年の真っ直ぐな心を。

 

「本当に……異世界のデジモンと一緒にいる奴らは真っ直ぐで眩しい奴が多くていけないな……」

 

「だな。……んじゃあ行くか!旅人!」

 

「あぁ……だなリュウ。力は――」

 

「――合わせるもんだってな!」

 

「アームズデジクロス!」

 

 そうして。

 スレイヤードラモンは埋まらぬ穴が埋まったような、足りないパズルのピースがはまったような、そんな感じと共に。

 その先にある扉を開いた気がした――。

 




というわけでセイバーズの第三十七話、第三十八話に参戦です。
まぁ、大部分の人は予想できていたとは思いますが。

そしてスレイヤードラモンの怒りがあっさりとおさまりすぎという意見があるかもしれませんが……それはアレです。
一気に不満や感情が爆発した分、冷静になれば……みたいな感じです。
あとは……たぶん自分の力量不足です。すみません。

では、また次回に。よろしくお願いします。
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