【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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第八十九話~合わせた力とその先の――~

 旅人がスレイヤードラモンと会話していた頃。

 初めにベルフェモンの猛攻を受けたドルゴラモンが倒れ、唯一前線に立っていた人間である大を狙って放たれたベルフェモンの攻撃から庇って、残ったデジモンたちも倒れ。

 結果として、全員が満身創痍になっている。状況は限りなく劣勢だった。

 

「っ!――のむ!」

 

 そんな光景を前に大は自分自身に怒りを感じていた。

 目の前で仲間が傷ついているというのに何もできない怒り。自身の力ではベルフェモンを倒すことができないという怒り。

 そんな怒りが大を支配していたのだ。

 

「頼むっ!シャイングレイモン!俺に!俺に仲間たちを!この世界を守る力を貸してくれ!」

 

 それは大の心からの叫びだった。

 もうこれ以上ここで足踏みしていたくないという思いから飛び出てきた魂の叫び。

 だが――。

 

「それは違うぜ。アニキ!」

 

 一方で頼まれたシャイングレイモンはその言葉を否定した。

 なぜなら――。

 

「力は貸したり、与えたりするもんじゃない。力は――」

 

 力とはそんなものではないのだから。

 そしてシャイングレイモンのその言葉に大は自身の思い違いを悟る。自分だけが先走り、思い違いをしていたというその事実を恥じると共に大は再びシャイングレイモンに視線を向けた。

 だが、当のシャイングレイモンは分かっているとばかりに頷くだけだ。

 二人の絆には言葉などいらないのだろう。それは正しく以心伝心だった。

 

「あぁ。そうだよな!力は貸したり、与えたりするもんじゃねぇ!力は合わせるもんだ!」

 

「あぁ!行くぜアニキ!」

 

 その瞬間。大が持っている機械が光を発する。

 その機械はデジヴァイス。人間が発するデジソウルと呼ばれる力をチャージすることでデジモンを進化させる機械だ。

 それが眩しいくらいの光を発している。

 

「ナ……ナンナノデスカ!コノ光ハ!」

 

 ベルフェモンが驚きに震えるもの無理はない。

 なぜならその光は進化を導く光のような、されどそれとは決定的に違う光なのだから。

 

「行くぜ!デジソウルチャージ!デジソウルバースト!」

 

 大がその手に集ったデジソウルをその機械に翳した瞬間。究極体のシャイングレイモンが進化(・・)する。

 その体の赤い部分は太陽級の力を纏ったことで深紅に。あらゆる体の至る所から炎が吹き荒れる究極体を超えた究極体という存在に。

 

「シャイングレイモンバーストモード!」

 

 それこそがシャイングレイモンという究極体を超えた姿。それこそがシャイングレイモンバーストモードだ。

 

「ナ、ナンナノデスカ一体!ソノ姿ハ!」

 

 デジモンの進化段階の頂点たる究極体がさらに進化するという矛盾した現象を前にベルフェモンが動揺してしまうのも無理はないだろう。

 だが、驚愕の最中のベルフェモンをさらに驚かせるかのように――。

 

「おぉおおおお!」

 

「何!?」

 

 白い竜騎士の鎧を纏った旅人がこの場に参戦した。

 

 

 

 

 

 時は少し前に戻って。

 旅人はスレイヤードラモンをアームズデジクロスしていた。

 前に一度しているとはいえ、技的にもスレイヤードラモンとアームズデジクロスはあまり相性がよろしくない。

 だが、それでも尚スレイヤードラモンと旅人がアームズデジクロスをしたのは、先ほどの大の言葉に何か感じることがあったのと、旅人がスレイヤードラモンのことをその他大勢としてではなく仲間として見ているという意思表示からだ。

 

「……」

 

――旅人?……どうした?行かねぇのか?――

 

「……この状況……もしかしたらアレができるかも……」

 

――アレ……?――

 

 その時、リュウの疑問の声も聞こえないほど旅人は考え込んでいた。現在の状況も忘れて、だ。思い出していたのだ。数日前にウィザーモンと話したことを。その内容を。

 

「まぁ、やってみるか」

 

――だから、何をだよ!――

 

「アレだよ。アレ」

 

 そう言って旅人は語る。ウィザーモンから聞いたことを。

 聞いた時は何を馬鹿なと、そんなことはありえないと。旅人はウィザーモンの言葉を否定していた。

 だが、今ならば。なんとなくできるのではないかと、根拠のない自信が旅人の中に生まれていたのだ。

 そしてそれは旅人からそのことを聞いたスレイヤードラモンも同じこと。もちろん、彼も普段ならばそのことをありえないと一笑に付していただろう。

 だが、その時だけは旅人と同じようにスレイヤードラモンもその根拠もなく感じていたのだ。

 

――だけど、どうやって?――

 

「う……どうやって?えぇと……どうやってだと思う……?」

 

――俺が聞きてぇよ……――

 

 だが、根拠のない自信は根拠がないことには変わりないのだ。

 そもそも一度目が奇跡と呼べるほどの偶然で、やり方も分からないというのだから、自信があるからといって出来るわけがない。

 もはや旅人とスレイヤードラモンの頭の中から魔王(ベルフェモン)勇者たち(ドルゴラモンたち)のことは抜け落ちていた。というか、目的と手段が入れ替わっている。今の旅人たちは状況も忘れて魔王に対抗するための手段であるソレを成すことを、目的としてしまっていたのだ。

 ちなみにその時、外ではドルゴラモンがベルフェモンの猛攻を受けている時であったりする。

 

「うー……」

 

――なんだろうな……ソレが出来たのってあの時(・・・)なんだろ?――

 

「……?そう言ったろ?」

 

――あー確かにそんな気もするな……あの時の記憶はないし……――

 

 そんなこんなで悩みつ付ける二人だが、その間にも事態は進んでいる。

 ありえないほどの力の波動。圧倒するかのような灼熱のその感覚を前にして旅人たちはようやく今がどういう状況なのかを思い出した。

 

「あ……」

 

――やべっ……忘れてた……――

 

「おいおい……リュウって意外とおっちょこちょいだな……」

 

――忘れてたのはお前もだろうがァ!あ、って言ったの聞こえてたぞ!――

 

「気のせいだろ!」

 

――んなわけあるかぁ!――

 

 軽口を叩き合いながらも旅人は急いでビルの外へと向かって行く。

 ビルの外で立っているデジモンはベルフェモンとシャイングレイモンバーストモードだけだ。

 究極体デジモンであるシャイングレイモンが更なる進化をしているというその姿に、旅人たちは先ほどまで自分たちがやろうとしていたことが脳裏に浮かび上がる。

 だが、それを考えるのは今ではない。

 そう思い、脳裏に浮かんだそれを押し止めて、旅人はベルフェモンを奇襲した――。

 

「おぉおおおお!」

 

「ック!ナンナノデスカ!」

 

 旅人はその手に持った伸縮自在の剣フラガラッハでベルフェモンに斬りかかる。

 珍しくも奇襲は成功。

 腕で防御姿勢をとったベルフェモンのその腕を避けるようにフラガラッハを伸ばして、一太刀を入れることができたのだ。

 もっとも、これが通じるのも一度だけだろう。ベルフェモンの力ならこの攻撃にも対応できる。今回この攻撃が通じたのは、奇襲であったことと剣が伸びるという不思議な現象という二つの要因によって隙を作ることができたからだ。

 

「ック!舐メルナァ!」

 

「っ!」

 

 己を傷つけられた怒りのあまり攻撃を終えてコンマ数秒にも満たない技後硬直している旅人に追撃しようとするベルフェモンだが、残念ながら彼の敵は旅人たちだけではない。

 そしてその中には先ほど進化したばかりの力と元気を持て余している者がまだ残っている。

 

「はっ!オレたちだけ見ていていいのか!」

 

「ナンデスト?ッ!」

 

「ぉおおおおおおお!」

 

 両手に太陽の如き炎を構えたシャイングレイモンが旅人たちと入れ替わるように魔王へと突撃する。その威風たるやこの世に現れた太陽神の如き姿だ。

 剣に、槍に、盾に。シャイングレイモンバーストモードは魔王ベルフェモンの攻撃をその手に持った炎を変幻自在に変えることで対応している。

 だが――。

 

「クゥウウウ!マダダ!マダデスヨォ!ダイモン……マサルゥ!『ランプランツス』ゥ!」

 

「なっ!」

 

 さすがに七大魔王の一角を支配することのできるほどの執念を持った人間だ。ただでは終わらない。

 突然ベルフェモンの体に巻き付いた鎖が辺り一帯を突き刺し、そこから黒い炎が辺りを燃やし尽くし始める。しかも、それだけではなく、先ほどベルフェモンが得た空間攻撃の能力が付加されているのか、黒い炎によって燃やされたところはまるで空間に穴が空いたようになっている。

 

「これは……まずい!」

 

――ッ!旅人!ドルモンが……!――

 

 被害を食い止めるためにシャイングレイモンはベルフェモンと戦いながらも動いていく。

 その空間ごと焼き尽くすベルフェモンの黒い炎をさらに焼き尽くすシャイングレイモンバーストモードの力は凄まじいというしかない。

 だが、すでに広範囲に空間の穴は広がっている。シャイングレイモンの手も回りきらないほどだ。

 別に旅人たちのように元気であるのならば逃げればいいだけだが、先ほどの攻防で退化したドルモンは怪我のこともあって逃げきれずに穴に落ちそうになっている。

 それを見た旅人は急いでドルモンの元へと向かって行った。

 

「っく……」

 

「ドル!手を伸ばせっ!」

 

「旅人!?」

 

――……!旅人!待……――

 

 だが、伸ばした手を掴み、ドルモンを抱きかかえた所で――。

 

「なっ!」

 

「えっ!」

 

 旅人はドルモンごと広がる空間に落ちた。

 旅人は気づけなかったのだ。食い破られた空間が及ぼす影響が見た目通りのもので済むわけがないことに。

 空間というものを侵食し続けるその無空間とでも言うべきものは、ある一定の範囲のものを飲み込む。そしてそこも無空間になるのだ。さらに巨大になった無空間はより大きな一定範囲を飲み込み、さらに巨大化していく。

 問題はその一定範囲が見た目では分からないという所である。それこそが空間の恐ろしさだ。

 そしてその一定範囲内に旅人たちは入ってしまったのだ。

 

「っく!」

 

 そもそも無空間は空間が無いということだ。ありとあらゆるものが存在しない。

 そんな場所で――そもそも場所という表現すらおかしいのだが――存在し続けることができる者など、よほど力がある者くらいである。それこそ、神と呼ばれるような。

 当然、旅人たちにそれほどの力があるわけない。

 未だ旅人たちが存在していられるのは、まだ本当の意味で無空間に入っていないから。だが、それも時間の問題だ。

 

「ぬぐぐ……!」

 

――おい!旅人、もっと気合入れろ!――

 

「無理言うなっ!」

 

 どれほど踏ん張った所で意味はない。空間というものはそんなに甘いものではないのだから。それでも旅人は抗う。このままでは死んでしまうと本能で理解したから。

 カードはそもそも取り出すことすら出来ない。カードを取り出そうとした時点で、踏ん張っている旅人の力は緩み、彼らは無空間に飲み込まれることになるだろう。

 一方でスレイヤードラモンもなんとかしようと思っているが、そもそもアームズデジクロスしている時点で出来ることなどない。

 ちなみにドルモンは怪我のせいで問題外だ。これがドルゴラモンやデクスドルゴラモンだったらまだやれることはあっただろうに。

 

「ぬぅううあああああああ!」

 

――おぉおおおおおおおおお!――

 

 こんな所では死ねない、死にたくないと。

 死ぬためにこの世界に来たわけではないと。

 

「死んで――!」

 

――たまるかぁああああああ!――

 

 死んでたまるかと。

 そうスレイヤードラモンと旅人の心が一つになった時。光が辺りを照らし、空間を貫いた――。

 

 

 

 

 

 一方でシャイングレイモンバーストモードは被害を食い止めるために動いていたこともあってベルフェモンを倒しきることができずにいた。

 シャイングレイモンにとっての勝利とはただベルフェモンを倒せばいいということではない。ベルフェモンを倒し、仲間とこの世界を守ること。それがシャイングレイモンの勝利だ。

 だからこそ、ベルフェモンの悪あがきは効いた。せめて同格のデジモンがあと一体、いや、まともに動ける者があと一体いれば話は違っただろう。

 だが、それは所詮無いものねだりでしかない。

 

「アハ!アハァ!ム駄デスヨォ!ムダ無ダム駄ァ!」

 

「っく……このっ!」

 

 心なしか、ベルフェモンの言葉がどこか不安定になり始めている。もしかしたら限界以上にベルフェモンの力を行使したせいで支配している方の精神が壊れ始めているのかもしれない。

 

「アはハハ!アはぁ!イイ気ミデすネぇ!」

 

「っく!この!」

 

 こうなれば、と。

 シャイングレイモンが最大出力でベルフェモンの一撃必殺を狙うことにした。それ以外にシャイングレイモンにはこれ以上被害を拡大させない方法が思いつかなかったのだ。

 覚悟を決めて、両手の炎を一つに纏めようとした瞬間に――。

 

「グはァっ!」

 

「っなんだ!?あ、あれは――」

 

 赤い竜の突撃がベルフェモンを吹き飛ばした。

 カレドヴールフと呼ばれる意思を持った巨大な翼にアンブロジウスと呼ばれる巨大なランスを持ったその赤き竜。竜帝と呼ばれる程の存在でありながらも、ロイヤルナイツの一体として名を連ねるその赤い竜の名は――。

 

「エグザモン!?」

 

 エグザモン。それが赤い竜の名前だった。

 エグザモンという一級の知名度を誇るデジモンの登場にその場の全員が驚きに包まれる。そしてそれはベルフェモンとて例外ではない。

 だが、それは明らかな隙。

 その隙にエグザモンはベルフェモンへと体当たりし、ベルフェモンの巨体を遥か上空へと持ち上げていった。

 

「ナニィイオオ!」

 

 そしてベルフェモンを上空へと持ち上げた直後――。

 

「ガァアアアアアア!」

 

 咆哮と共にエグザモンの姿が消える。

 突然現れたエグザモンの姿が突然消えたことに再度の驚きに包まれるメンバーだが、今はそれを気にしている場合ではない。

 上空は障害物が存在しない数少ない場所の一つだ。しかも、かなり高高度まで持ち上げられていることで地上に気兼ねなく全力を出すことができる。

 そして力の差を感じたのか、それとも自身が追い込まれていることを感じたのか、羽を広げて逃げようとするベルフェモン。だが、一瞬ベルフェモンの動きが止まった。

 それを見逃すシャイングレイモンではない。

 

「アァ……クルナ……クルナァ!」

 

 自身の敗北の未来を感じてわめき続けるベルフェモンのその姿からはもう魔王の面影を見ることはできない。

 そんなベルフェモンに構わず、シャイングレイモンは一瞬でベルフェモンの元まで辿り着き、その手に持った炎の剣でベルフェモンを切り裂く。

 

「グァッ……ヤメロォ……ヤメテクレェ!マダワタシハ……!」

 

「いや、もうおしめぇだよ!倉田ァ!」

 

 そうしてまだ足掻こうとしているベルフェモンに向かって差し出したシャイングレイモンの拳に乗っていたのは大だ。

 大はその拳を握る。この戦いを終わらせるために。

 そして大はシャイングレイモンの拳と共に、その拳をベルフェモンへと叩きつけた――。

 

 

 

 

 

「あー……きっつ……」

 

 上空でベルフェモンが倒されたのを旅人はビルの残骸の上で仰向けに倒れながらも眺めていた。

 ちなみに今回自分たち(・・)がエグザモンへと進化したことは旅人もスレイヤードラモンもしっかりと覚えている。エグザモンから戻った時点でアームズデジクロスが解けたことも。

 

「つーか、シャイングレイモンの助力があったからって究極体デジモンを倒す人間って……どんなビックリ人間だよ」

 

「旅人だってできるだろ?」

 

「いやいや、オレはビックリ人間じゃないよ」

 

 問題はエグザモンから退化し、アームズデジクロスが解けた後のことだ。遥か上空で元に戻った旅人たちはその疲労のために動けなくなっていた。空の上で。

 疲労ゆえにうまく動くことができずに、カードを取り出すことに四苦八苦している旅人。疲労で旅人同様に動くことができなかったスレイヤードラモン。

 その結果は言うまでもない。遥か上空から真っ逆さまである。

 最終的に旅人がなんとかカードを取り出したからなんとかなったが、一歩間違えばスプラッタになっていたことだろう。

 ちなみにそこで白紙のカードを使ってベルフェモンの力を写し取っている辺り、ちゃっかりしているというか、なんというか。

 もっとも、これでこの世界でやるべきことは終わったわけだ。ようやく動くようになった体を引きずって、旅人たちはナムに指定された場所へと歩いて行く。

 ちなみにその時、上空ではこの世界にさらなる異変が起こっていたりするのだが、それに旅人たちは気づいてなかったりする。

 

「……」

 

 そんな中でゆっくりと歩いて行く旅人とスレイヤードラモンの後ろ姿を、どこか面白くなさそうな、気に入らないものを見るような目で睨むドルモンがいた――。

 




これにてセイバーズの世界は終了。次回は別の世界へと向かいます。


あと、業務連絡です。
活動報告にも書きましたが、七月末で期末テストの時期になりました。
ですので、二週間弱くらいの期間、七月末日か八月くらいまで更新を停止します。
この作品を楽しみにしている方には申し訳ありませんが、ご理解の程よろしくお願いします。

では、また更新再開したらよろしくお願いします。
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