【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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やっとテストが終わりました……死ぬ……。

そんなこんなで本当はデジアド十五周年にあやかって昨日投稿したかったのですが、昨日は同好会の他大学との対抗大会があったので無理でした。

そんなこんなで復活。ここからは最後まで走り抜けます!


第九十話~テイマーズ!ニアミスと癇癪~

 あのベルフェモンのいた世界から別れて数日後。旅人たちは新たな七大魔王を探して、新たな世界に訪れていた。

 その世界には空に地球のような星が浮かんでいて、しかも一瞬で夜と昼が逆転するという今まで以上に不思議な世界だ。そんな不思議な世界の現象を旅人たちは驚きつつも楽しんで旅している。

 

「うー……」

 

「きっつ……」

 

「……」

 

 そんな時、旅人たちは影も形も見当たらない七大魔王探しの合間の休憩時間にとあることを試していた。試しているのは前の世界で発動したあの旅人とスレイヤードラモンの一体となったあの奇妙な進化。

 さらに強力なデジモンであるエグザモンへと自由に進化できるようになれば、この先七大魔王と武力衝突することになっても安心であろうとの考えからだ。

 だが、そんな旅人たちの皮算用を嘲笑うかのように――。

 

「……疲れた」

 

「うまくいかねぇな……」

 

「……」

 

 エグザモンへの進化はうまくいっていなかった。いや、うまくいっていないというと語弊がある。実際、何回かエグザモンへと進化することはできている。旅人たちはその中でエグザモンへの進化条件とでも言うべきものを発見することができていた。

 その条件とは、両者の心の方向性とでも言うべきものが一つになっていなければならないということだ。

 そして、お互いの心がズレた瞬間に進化が解けてしまう。このお互いの心がズレた瞬間というものの判定が結構シビアなのである。しかも、進化後は動けなくなるほどの疲労に襲われるのだ。

 エグザモンという強力な力を手に入れたことは変わりないのだが、扱いづらいことこの上ない条件だった。

 

「成功すること自体が希な上に数秒しかもたないって……」

 

「ぶっちゃけ割に合わないよなぁ……」

 

「……」

 

 一方で疲れ果てて倒れ込みながらボーッと天の星を眺め続ける旅人たちをドルモンは無表情にも近い顔でジッと見つめている。

 そして旅人たちはそんなドルモンが怖くてそちらの方を見ることができていない。

 “自分はドルモンに何かしたか?”と旅人とスレイヤードラモンは必死に頭を働かせるが、答えは見つからなかった。

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙が圧力となって旅人とスレイヤードラモンに襲いかかる。旅人たち二人は今、割と真剣に危機だった。胃の痛み的な意味で。もちろん旅人たちが胃薬を持っている訳はない。

 “これならベルフェモンともう一回戦うほうがマシだ!”とは二人の内心での共通の思いである。それほどの眼力をドルモンは放っていた。

 

「……おい!おい!旅人!」

 

「なんだよ……」

 

「ドルモンどうにかしろ!怖いんだよ!」

 

「どうにかって言われても……」

 

「お前の相棒だろうが!」

 

 コソコソと話す旅人とスレイヤードラモンを見てさらにドルモンの眼力が強くなる。いつかの焼き直しのような光景だった。

 いつかの時と違うのは、スレイヤードラモンは疲労でダウンしていて逃げることができないということだろうか。

 

「……はぁ。しょうがないか……おい、ドル!何をそんなに怒ってるんだよ」

 

「怒ってない」

 

「いやいや、その言い訳は無理があるって。ほら、言ってみ?」

 

「……」

 

 勇気を振り絞った旅人が聞いて見ても、ドルモンはだんまりだ。当人に話す気がないのならば、どうしようもない。

 仕方なく動けるようになった体を引きずって、旅人たちは七大魔王探しを再開することにするのだった――。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 のだが、それで空気が改善されるわけはなく、依然辛い沈黙が辺りを包んでいた。

 ちなみにそんな中でスレイヤードラモンは旅人に逃げないように釘を刺されたので、逃亡できずに冷や汗をダラダラと垂らし続ける結果となっている。

 

「……なぁ、いい加減に機嫌直せって……」

 

「別に怒ってない」

 

「怒ってるだろ」

 

 こんな面倒そうなことなど放っておきたい旅人だが、この空気には耐えられそうにない。仕方なしにしつこくドルモンに聞くが、対するドルモンもかなり意地になっていた。なかなか話そうとしない。

 そんなこんなで数時間。もう何時間もすれば夜になるだろうという時間帯で、旅人たちは休憩していた。

 

「なぁ……」

 

「……」

 

 この休憩時間にこれ幸いと離れた場所に座るスレイヤードラモンを放っておいて、旅人はドルモンの隣に座る。ドルモンは旅人の方をチラッと見ると、若干気まずそうに目を逸した。

 

「おい……聞いてるか?」

 

「……聞いてるよ」

 

 ようやく反応があった。というよりもドルモンもそろそろ意地を張るのに疲れていたのかもしれない。

 

「……話せないか?」

 

「いや……う~……――から?」

 

「……は?今なんて?」

 

「う~……なんでもない!」

 

「えぇー……」

 

 黙り込んだドルモンはブツブツと何かを言っているが、そのすべてが旅人には届いていない。やはりなんだかんだ言ってドルモンは旅人に言うつもりはないらしかった。

 

「……まぁ、いいけどね」

 

 ドルモンの雰囲気がとりあえず和らいだので、旅人は一先ず追求を諦めた。わざわざ地雷原に足を突っ込みながら爆弾解体ゲームをする趣味は旅人にはないのだ。

 そんな中で一先ず安心したことでボーッとする旅人とは対照的にドルモンは未だブツブツと何かを言っている。その後もブツブツと何かを言っていたようだったが、やがて言うことにしたのか。ドルモンが決心した顔で旅人に話しかけたのだ。

 

「旅人!」

 

「んー……?なんだ?」

 

「オレと……合体してっ!」

 

「……は?」

 

 “合体して”とおそらくアームズデジクロスのことを言っているのだろうが、どこからその意見が出てきたのか。

 というよりも聞く者によってはその言葉はとても危険なものとなることにドルモンはテンパっているせいで気づいていない。

 もっとも、普段の状態でも気づかないかもしれないが。

 

「で?」

 

「いや~……リュウみたいにオレも旅人とアームズデジクロスすれば新しい進化が――」

 

「本音は?」

 

「リュウばっかりズル……じゃなかった。かまって……でもないや。とにかく!」

 

 ドルモンの言いかけた言葉がだいぶ気になる旅人だったが、その提案自体は悪いものではない。旅人だって確かめたいのだ。あの現象がスレイヤードラモンと旅人の間の独自の現象であるのか、それとも――。

 

「行くぞ?set『進化』『究極』」

 

「ドルモン!進化――!ドルゴラモン!」

 

「ついでにアームズデジクロス!アームドドルゴラモン!」

 

 ドルモンをドルゴラモンへと進化させ、すぐさま旅人はアームズデジクロスを使ってドルゴラモンを纏う。その姿はまるで旅人を基準にした人型のドルゴラモンだった。

 だが、それすらも今は通過点に過ぎない。問題はここからなのだ。

 心を落ち着けて、その先にある扉を開く。光が旅人を包んで旅人とドルゴラモンという存在がさらなる次の段階へと――。

 

「……ん?」

 

 至るその刹那の瞬間に。旅人は見た。

 岩場の影に生えているソレ。菌類で傘状の、グロデスクなまでの存在感を放つソレ。味噌汁にして良し、直接焼いて良し、サラダにして良しという食事界名脇役のソレを――。

 

――キノコイヤァああああああ!――

 

「あっ!馬鹿っ――!」

 

 結果は言うまでもない。

 

「……何やってんだ?」

 

「……オレが聞きたい」

 

「……キノコいやぁ……」

 

 新たな段階へと進化するどころか旅人とドルゴラモンは地に伏せる結果となったのである。

 そしてそんな二人をスレイヤードラモンは呆れた目で見ている。スレイヤードラモンのそんな目がとても痛い旅人だった。

 

「っていうか、あれってドルゴラモンでできるのか?」

 

「さぁ……」

 

「うるさいな~!別にいいだろ~!自分ができるからっていい気になって!」

 

「いや、そんなことは……」

 

 やはりスレイヤードラモンの何かが気に入らないのだろう。スレイヤードラモンの言葉にドルゴラモンはだいぶ機嫌が悪そうに返答している。

 

「ぐぅううう!旅人!」

 

「んー?」

 

「先に七大魔王探してきてっ!」

 

「えー……そろそろ夜になるんだけど」

 

「いいから!」

 

「はぁ。リュウ……頑張れ」

 

 機嫌の悪そうな、それでいてどこか急かすようなドルゴラモンの言葉に旅人はこの先に起こるであろう出来事を正確に予測する。

 どこか諦めと共に言われた旅人の激励の言葉。その言葉を前に“は?頑張れ?頑張れって一体何……?”とスレイヤードラモンは訳が分からずに呆然としていた。

 

「よしっ!リュウゥウウウウウウウウウ!」

 

「は?がっ!」

 

 呆然としているスレイヤードラモンが対応する前にドルゴラモンはその拳でスレイヤードラモンを殴り飛ばす。

 一方でドルゴラモンがそんな行動に出るとは思わなかったスレイヤードラモンは咄嗟の出来事に対応できずに吹き飛ばされるしかない。

 そんな、目の前で吹き飛ばされたスレイヤードラモンを死んだ魚のような目で眺めながら、旅人は頭の中を空っぽにしていた。

 

「……まぁ、予想はしてたけどね」

 

「ぐっ……旅人!ドルゴラモンをどうにかしろ!」

 

 未だ己に襲いかかってくるドルゴラモンを必死にいなしながら、スレイヤードラモンは旅人に助けを求める。だが、当の旅人はその気がないのか、スレイヤードラモンに無駄にいい表情で一言。

 

「リュウ……ガンバっ!」

 

「へ?」

 

「おらぁああああ!」

 

「っく……嘘だろ!おい!旅人!」

 

「さて……七大魔王探しの続きをしないとな……」

 

「おい!旅人!おいぃいいい!」

 

 スレイヤードラモンの必死の呼びかけも虚しく旅人はどこかに歩いて行く。そんな旅人の姿に尚も言い募ろうとしたスレイヤードラモンだったが、ソレを許すドルゴラモンではなかった。

 ちなみに旅人が去ったのはブチギレた様子である己の相棒のストレスをここで発散させておこうと思ったからだ。別に対応に困ってスレイヤードラモンにドルゴラモンの相手を押し付けたわけではない。旅人とてドルゴラモンとやり合うのはゴメンなのだ。というか、無理だ。適材適所というやつである。

 

「はっふっ!」

 

「っく!本気すぎるだろ!」

 

「当たり前だァああ!『ブレイブメタル』!」

 

「っ!」

 

 未だ戸惑うことしかできないスレイヤードラモンを嘲笑うかのようなドルゴラモンの全身全霊の突撃。その突撃を前にスレイヤードラモンは――。

 

 

 

 

 

 一方でドルゴラモンたちから別れた旅人は七大魔王の情報を探して歩いていた。だが、七大魔王どころかその他のデジモンすら見ることができない。

 旅人の目の前には変わりようのない荒野が広がっているだけである。

 

「はぁ。本当にいるのか?七大魔王のなの字も見えないぞ……」

 

――オレは……もう力なんていらねぇえ!――

 

「ん?」

 

 そんな時、旅人の耳に飛び込んできた悲痛な叫び。ようやく見つけたヒントに旅人は、藪蛇のような気がしながらもそちらの方へと歩いて行く。

 そこには――。

 

「なんだ、アレ……」

 

 青色のサナギのような大量のデジモンが何かに群がっている光景が広がっていた。

 あまりの事態にポカンと口を開けて呆然とする旅人だが、よく見ればサナギのようなデジモンの群れは人型のような形をしている。

 であれば、そのサナギのようなデジモンたちの群れの中には人型のデジモンがいるのだろう。しかも、光景を見る感じでは、サナギのようなデジモンはその人型のデジモンを襲っている(・・・・・)

 

「……はぁ。オラオラっ退いた退いた!」

 

「……!」

 

 先ほどの叫びはおそらくこの中にいるであろう者が叫んだ叫びであろう。まさかこの何体いるかも分からないサナギたちの一体が叫んだわけでもあるまいし。

 明らかに“喋れません”と体現しているそのサナギたちを散らしながら、旅人はその奥にいるであろう者を救出する。だが、旅人の予想に反してサナギたちの中にいたのは悪魔のようなデジモンだった。

 

「おりょ?……まぁ、いいか。っていうか、こいつボロボロだな……生きてるか?」

 

「う……」

 

「……生きてはいるみたいだな。set『回復』」

 

 とりあえず回復させたはいいが、目を覚ます気配はない。しょうがなしに、旅人はその悪魔のようなデジモンを背負いながら歩き出す。

 ここまで来てせっかく見つけた情報が得られそうな相手を放っておきたくなかったという思いがあったのだ。あといい加減に一人で歩いているのにも飽きたという思いも少なからずあったのだが。

 

「う……うーん……ハッ!ここは……?」

 

「お?起きたか?」

 

「ッ!誰だテメェ!」

 

「命の恩人に失礼なやつだな……」

 

 とりあえず旅人は元気過ぎて空振ってる気配すら垣間見せるそのデジモンを下ろしてやる。デジモンは旅人のことを驚いた風に見ていたのか、警戒しているのか。微妙な表情で旅人を見ていた。

 

「助けた?なんで助けたんだよ!」

 

「素直じゃないやつだね、お前。……礼の一つくらい言えないのか?まぁ、いいけどね」

 

「うるせぇ!別に助けて欲しいなんて言ってねぇよ!それに――」

 

 一瞬黙り込んだそのデジモンを旅人は見る。そのデジモンの表情にはほんの少しの怯えがあった。まるで怒られるのを嫌がるような、現実を直視しやくないかのような、そんな怯えが。

 

「……オレが何をしたかわかってるのかよ」

 

「……?知らん」

 

 そのデジモンはそんなことを言うが、最近この世界に来たばかりの旅人がそのデジモンのことを知るはずもない。

 逆にそのデジモンは旅人の返答に驚いている。

 そのデジモンの反応を前に、“そんなに驚くようなことだろうか”と旅人は首を傾げるしかない。

 

「……そうか。知らねぇのか。そっか……」

 

 その時のそのデジモンの表情は安心したような、それでいて残念がっているような、そんな表情だった。

 

「あぁ……そうだ。聞きたいんだけどさ――」

 

 そう言って旅人が七大魔王の情報を得ようと言葉を発しようとした時――。

 

「インプモーン!」

 

「七……ん?」

 

 遠くから、狐のようなデジモンと小学生くらいの人間の女の子がこちらへと向かって来た。

 出鼻を挫かれたことに脱力しながらも、旅人はその女の子たちを見る。その子は何か焦っているようで、急いで来たようだった。

 

「お、お前ら……なんで!」

 

「インプモン!急いで!帰れなくなっちゃう!」

 

「っ!オレが何したか忘れたのかよ!」

 

「……それでも、だよ」

 

「ッ!へっ……バッカじゃないの!?……本当に……バカじゃねぇの……」

 

 ようやくそのデジモンの名がインプモンということを知った旅人。だが、残念ながらその間の旅人はずっと蚊帳の外だ。

 インプモンが何処かへと帰るということが決まったその瞬間で、ようやくその女の子は旅人のことに気づいた。あんまりな空気状態に思わず涙目になった旅人だ。

 

「人間!?アンタ……誰?」

 

「……やっと?オレは……まぁ、旅人だ。っていうか、急いでいたみたいだけど時間はいいのか?」

 

「っ!そうだった!夜になるまでに戻らないと!アンタもリアルワールドに帰るなら……!」

 

「……リアルワールド?まぁ、オレたちは別ルートだから大丈夫だ。急いでるなら急いだほうがいいぞ」

 

 旅人の言葉に少し怪訝な表情をしていた女の子だが、すぐにレナモンと呼ばれたデジモンに指示を出してインプモンと共に去っていく。

 それを見送ってしばらくして、旅人は七大魔王の情報を聞き忘れたことに気づいたのだった。

 

「まぁ、いいか……」

 

 溜め息を吐いて再び歩き出した旅人。その時、旅人の頭の中には先ほど聞こえた叫びの内容が残っていた。

 

――オレは……もう力なんていらねぇえ!――

 

「力なんていらない……か」

 

 何があったのかは分からない。そんな言葉を吐くくらいだ。相当なことがあったんだろうと旅人はボンヤリと思う。

 だが、と。

 

「ままならないよなぁ……」

 

 力を得ようとしても思うような力を得られないやつもいれば、得た力でも何もできない奴もいる。かと思えば持っている力を要らないと言い切る者もいる。

 その後も複雑な気分を味わいながら、旅人は歩くのだった。

 ちなみにこの数分後。ナムからこの世界には七大魔王はいなくなった(・・・・・・)という連絡が来て、旅人はさらに釈然としないまま引き返すことになったのだが、それはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

「ハッ……はっ……」

 

 その頃。全力の突進をスレイヤードラモンに食らわせたドルゴラモンは肩で息をしていた。

 辺りにはスレイヤードラモンの剣であるフラガラッハの残骸が転がっている。それは、先ほどスレイヤードラモンがドルゴラモンの突進の時に苦し紛れに振った剣の一部だ。

 だが、肝心のスレイヤードラモン自身の姿が見当たらない。

 その事実に“殺った!”とドルゴラモンは心中でガッツポーズを取っているのだが――。

 

「いきなり何しやがるっ!」

 

「っ!」

 

 突如としてのスレイヤードラモンの上空からの強襲。それに一瞬驚きながらもドルゴラモンは冷静に対処した。

 先ほどの疲れが癒えていないドルゴラモンがその奇襲に対応することができたのは、未だ掴めぬ事態にスレイヤードラモンが困惑し、その攻撃がかなり本気ではなかったことが大きい。

 拳と剣。二つの武器がぶつかり合うたびに辺りに衝撃が響き渡る。

 

「くうぅううう!何でこんなことすんだよ!」

 

「うるさい……うるさい!」

 

「っく!」

 

 まるで駄々をこねる子供のように叫んだドルゴラモンの拳に力負けして、スレイヤードラモンは吹き飛ばされて、叩きつけられた。

 すぐさまスレイヤードラモンは起き上がった。そのままドルゴラモンの追撃を伸縮自在のフラガラッハをうまく使うことで牽制し、防ぐ。

 

「っち……舐めるなぁ!」

 

「ぐ……こんちきしょぉおおおお!」

 

 もう何を言っても無駄だということを悟ったのか、スレイヤードラモンの攻撃には躊躇というものがなくなっている。もう冗談とか巫山戯では済まされない。本気の殺し合いにも等しい戦いだ。

 だが、そんなこと(・・・・・)で止めることができるほどドルゴラモンは中途半端な気持ちで戦っていない。

 

「ぜっは……ぜっは……」

 

「ハッ!……どうしたっ!……ずいぶんとっ……キツそう……だなっ!」

 

「それは……お互い様だぁ!」

 

 だが、どちらの体力も限界が近い。

 ドルゴラモンは先ほど旅人とのアームズデジクロスの件についての疲労が抜け切れていない。一方でスレイヤードラモンは先ほど二回(・・)もドルゴラモンからいい一撃を貰っている。つまり二人ともほとんど気力のみで戦っている状態であるのだ。

 気を抜けばその瞬間に倒れてしまう。

 だからこそ、“動ける今にありったけの力を出す”というその思考に二人が到達するのはおかしいことではなかった。

 

「っ!」

 

「ッ!」

 

 その思考に至ったその瞬間に二人は同時に飛びずさり、全力を出すために力を貯める。

 

「ぁあああああ!『壱の型――!」

 

「おぉおおおお!『ブレイブ――!」

 

 それはまるで示し合わせたかのように。それはまったく同じタイミングで。

 その時が――来る。

 

「――天竜斬破』ァ!」

 

「――メタル』ゥ!」

 

 ドラコモンの時の技であるテイルスマッシュを元にしたような回転体術によって加速されたスレイヤードラモンのその剣が。

 全身全霊を込めた凄まじい突撃によって限りない破壊力を秘めたドルゴラモンのその拳が。

 各々の全力を迎え撃つ――。

 

 

 

 

 

 数分後。ドルモンとスレイヤードラモンは地に倒れ伏していた。

 あの時、結果として技のぶつかり合いは互角だった。

 スレイヤードラモンの『天竜斬破』はドルゴラモンの脳天を狙うも予想以上の加速していたドルゴラモンを前に予測を誤って、その肩から胴を切るに留まり。

 ドルゴラモンの『ブレイブメタル』によって上乗せした拳はスレイヤードラモンに直撃しこそしなかったが、その強大な余波によってスレイヤードラモンを吹き飛ばした。

 これが両者万全の状態だったならばまた結果は変わっただろう。だが、互いの疲労や怪我によって相討ちとなったのである。

 

「……っち……相討ちかよ……」

 

「……」

 

「……。はぁ……んで?ちょっとはスッキリしたか?」

 

「……」

 

 尋ねるかのようなスレイヤードラモンの言葉にもドルモンは黙ったままだ。やはりまだ機嫌が治っている訳ではないらしい。

 

「……なぁ……」

 

()は……」

 

「ッ……」

 

「旅人の相棒だと思ってた。これからもずっと。……だけど」

 

「……」

 

「いきなり現れて、そのくせパートナーヅラする君が気に食わない。初めはそんな気なんてなかったくせに、いつの間にか一緒に進化とか、()よりも相棒らしい君のことが」

 

 それがドルモンの思いだった。元から積もり積もった思いがあったのだろう。それがエグザモンへの進化を目撃したことでその思いが溢れ出した。ようするにドルモンはスレイヤードラモンに嫉妬しているのだ。

 

「……それは」

 

「分かってるよ。全部僕の嫉妬だ。僕のワガママだ」

 

 後から現れたスレイヤードラモンの存在はドルモンにとって自身の存在意義を消しかねないものだった。スレイヤードラモンに旅人を取られたような気がしていたのである。それは幼稚な独占欲だ。

 それが分かっていながらも、ドルモンにはどうすることもできなかった。生まれてから旅人と二人旅を続けていたドルモンには、人間であれば成長する中で身につけるであろうそれらに対する対応を身につけることができていない。その結果がコレ(・・)である。

 

()は……いらないのかな……」

 

 もちろん、ドルモンも本気で言っている訳ではないのだろう。だが、思わず漏れてしまったであろう、幼い子供が親の気を惹くときに言うようなその言葉を。

 だが、そんなことをスレイヤードラモンは本気で馬鹿らしいと感じていた。それと同時にふつふつと湧き上がってくる怒りも。

 

「ふざけんなよ……」

 

「ッ!」

 

「本気で言ってんのか!?」

 

「ぅ……」

 

 結局、ドルモンは幼いのだ。成長しきれていない段階で進化の力などのさまざまな力を得てしまったせいで、いろいろなものが成長途中で中途半端になっている。

 それがスレイヤードラモンにとって腹立たしかった。めそめそと子供のように喚き、落ち込むその姿が。

 これでは少し尊敬していた自分が馬鹿みたいではないか、と。

 

「旅人がそんなことを思っているとでも!?……俺はなぁ!お前()に認めて貰おうと頑張ってたんだよ!」

 

「ッ!」

 

「なのに……!お前は――!」

 

「僕は……」

 

「はあ……だったら、そこで子供みたいに喚いてろよ。そんなお前なんかに認めてもらおうとは思わねぇよ」

 

 動かない体を無理矢理に動かして、スレイヤードラモンは立ち上がり、歩き出す。もっとも、それはもうドルモンの顔を見るのも嫌なのだという演技(・・)である。

 そして――。

 

「お前……」

 

「くぅ……あが……」

 

 まるで見捨てられたくはないとばかりにドルモンは動かない体を引きずって、這いずったままでスレイヤードラモンの後を追う。

 それが分かったからこそ、スレイヤードラモンは足を止めた。

 

「……僕は……諦めなかったんだよ……」

 

「……?それがどうかしたのかよ……」

 

「だから……ここにいるんだよ……」

 

 訳の分からないドルモンのその言葉はスレイヤードラモンに言っているというよりも、ただ自分に言い聞かせているだけなのだろう。

 もっともスレイヤードラモンに聞かせるために言っていたのならばドルモンの話力はアホ並というしかないのだが。

 

「……」

 

「……喚いて……子供みたいでも……僕は……旅人の……だから……だから、だから――!」

 

「……はぁ」

 

 ズリズリと這ったまま死にそうなドルモンの姿に溜め息を吐いてから、スレイヤードラモンはドルモンを担ぐ。

 自身も死にそうなのに何やっているのだろうか、と疑問に思うスレイヤードラモンとは対照的にドルモンは目を見開いて驚いていた。

 

「まさか尊敬していた奴が思ったよりガキだったなんて……どうしてくれるんだよ。俺のこの行き場のない気持ちを」

 

「それ僕のせいじゃないよね!?」

 

「いや、お前のせいだよ」

 

「いや……う~……」

 

 スレイヤードラモンの辛辣な言葉に若干気圧されて、ドルモンは忙しなく視線を動かしながら言葉を濁している。

 その姿はまるで悪いことをした子供が親に叱られるのを嫌がっているようで、スレイヤードラモンはまた苦笑した。

 

「……う~……あ~……うぅ……今日は……ごめん……」

 

「今更かよ。俺のこと本気で殺ろうとしてたくせに」

 

「……別に君が嫌いなわけじゃないよ。君との旅は……楽しいと思ってる……」

 

 “まったく……本当にこの二人は似ているな”と内心で苦笑しながら、スレイヤードラモンはドルモンを担いだまま歩き出す。

 スレイヤードラモンも本気でもう怒ってはいない。どちらかといえば、出来の悪い弟の癇癪に付き合ったように感じている。

 もっとも、その弟の癇癪に先ほどまで本気で怒っていたのは間違いないのだが。

 

「なぁ……ドルモン……お前は……」

 

「……。……僕のこともドルでいいよ……“リュウ”……」

 

「ッ!……じゃあ、改めてよろしくな。“ドル”……」

 

「……。……ありがとう」

 

「……ははっ」

 

 最後にポツリと言ったドルモンの言葉にスレイヤードラモンは笑いながら、どこか落ち込んだ様子で歩い来ている旅人に向かって、スレイヤードラモンはゆっくりと歩いて行った――。

 




というわけで第九十話。テイマーズの第四十話の話です。
テイマーズという割には題名通りのニアミス。テイマーズキャラは三人しか出ていないというこの雑さ。テイマーズは介入のしどころが難しかったんですよね……。

そしてドルモンとスレイヤードラモンの喧嘩(命懸け)。まあ、ぶっちゃけるとこの話はこれがメインですね。テイマーズ……。
まぁ、ここからは仲良くのんびりほのぼのと七大魔王探しが始まります。たぶん。

さて、これからは完結まで一気に行きます。たぶん。少なくとも次回の期末テストまではかかりません。
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