轟音を立てて目の前の壁が崩れ落ちる。
ドルゴラモンと別れた旅人たちは只管に
敵がいれば薙ぎ払う。壁があれば斬り崩す。そんな文字通りのことを続けながら、旅人たちは最短距離で進んでいたのだ。
「ッ!はぁっ!」
また旅人の目の前で壁が破壊されて、その奥の部屋にいたデジモンたちがまるで紙のように吹き飛んでいく。
見ている方の旅人も実行している方のスレイヤードラモンも心はただ一つ。急げ。それだけだ。
もういくつ壁を壊したかしれない。元は荘厳な城だったその建物は旅人たちのせいでだいぶボロボロになっていた。
「旅人!なんかいくつか重要そうな柱ごとぶっ壊した気がするけど!」
「気にすんな!」
そんなことを繰り返して、旅人たちの目の前に現れたのは今までとは明らかに違う巨大で分厚く、荘厳な扉だ。見る者を圧倒するその扉はその装飾からは考えられないほど、まるで地獄の入口のような雰囲気を纏っていた。
そんな雰囲気の扉を見て、旅人たちは確信する。まず間違いなくバルバモンはここにいると。位置的にもここが城の中心部だ。この円形の城という構造上、やはり中心からが重要部分なのだろう。
「……ここは……ちょっと頑丈だな」
「……カード使うか?」
「いや、これから決戦って時に無駄遣いは良くないだろ。少し本気でやる。旅人は離れててくれ。『弐の型――」
旅人が少し離れたのを見送ったスレイヤードラモンは頷いてから、剣を真っ直ぐに構えてその技を放った――。
「昇竜斬波』ァ!」
それはまるで天高く昇るウイングドラモンのように。
練り込まれた竜波動が剣閃に沿うように下方から上方へと解き放たれる。解き放たれた竜波動は絶大な威力の剣圧となって扉に着弾し、扉を切り裂いた。
「行くぞ!」
「おお!」
その奥の大広間には一つの玉座。そしてその玉座には旅人たちが思った通りの相手が座っていた。
そこに座っていたのは杖を持った長い髭の老人だ。その字面だけでは、まるでそこら辺にいそうなほどである。だが、その姿を直接見て、たかがそのへんにいる老人と同一視する者など皆無であろう。
その姿からは強大な存在である者特有の雰囲気がにじみ出ているのだ。そしてその老人の姿でさえも、老い衰えたというよりは長い年月を狡猾に生き抜いてきたからという方がしっくりくる。
「……あの報告にあった人間どもではなく……
「……アンタがバルバモンか。悪いけど、オレたちはアンタに用があるんだ」
「ほほぅ?余に用があると?ふふん……人間のくせにいうではないか……貴様らの場所ではどうか知らんが……この世界は人間どもによって汚染されたのだ!それだけのことをしておいた人間どもの言うことなど今更聞く必要があるのか?」
「……」
「ふふん……余の偉大な革命を前にして、貴様らムシケラの用など些細なこと!」
汚染。革命。バルバモンの言ったその言葉に旅人はつい異議を唱えそうになる。そう言っておいて、お前らがやっていることは何だ、と。あの街のようなことはまず間違いなくバルバモンの指示で、この世界中に起こっているというのに。
だが、所詮余所者でしかない旅人たちにはバルバモンの言っていることの本当のところなど分からないし、バルバモンがしようとしていることに対して意見を述べるほどには旅人たちはこの世界に関わっている訳でもない。
旅人たちは人並みの正義感はあるが、それでも正義の塊という訳でもないのだ。
「……それでも、俺たちの用には付き合ってもらう!こっちも世界がかかってるんでな!」
「力ずくか……よい!本命前の余興だ!」
バルバモンの言っていることの真偽や行っていることの是非がどうであれ、旅人たちは旅人たちのやるべきことがある。それを優先したのだ。
もっとも、それにはこの世界のことはこの世界の者たちが解決するだろうという投げやりな考えもあるにはあるのだが。
そこら辺で実力行使に入るのは旅人たちの頭が足りないからか、七大魔王が人の話を聞かないからか。おそらくは両方であろうが。
「ぉおおおおおお!」
「ふん!そんなものが!」
スレイヤードラモンが剣フラガラッハが伸縮を自在に操ってバルバモンの認識を狂わせながら突き進む。
普通なら、伸縮自在のそれを目で追えば遠近感が狂い、その他の認識にも影響が出る。スレイヤードラモンはそれを狙った。小細工ではあるが、波の相手になら地味に効くのである。
だが、バルバモンはそれをなんともないとばかりに、その手に持った杖で防いだのだ。
「っち!」
その事実に舌打ちしながらも、スレイヤードラモンはたいして驚かずに冷静に次の攻撃に移る。
元々小細工が通じるような相手だとはスレイヤードラモンも思ってないのだ。効けばラッキーくらいにしか思っていない。
「ふっ!やるにはやるが……それでは余の将ザンバモンくらいしか相手にならないだろうよ!」
「っち!舐めるな……よっ!」
器用にフラガラッハの伸縮を使い、連続で攻めるスレイヤードラモンに対してバルバモンはあくまで冷静に対処している。
それはバルバモンにとってスレイヤードラモンの力がその程度であるという証明でもあった。
ちなみにその光景を外から見ていた旅人は後にこう語った。フラガラッハの動きがグネグネしていて気持ち悪かった、と。
「この程度の力で余を倒そうなど……笑止!」
「……」
「前戯はそろそろ終わりにしなければなァ!」
バルバモンにとってはこの戦いなど遊戯に過ぎないのだろう。そして遊戯は飽きたら終えるものだ。バルバモンがその手の杖を構えて、力を放とうとする。
だが、その隙こそ、スレイヤードラモンが待ち望んでいたものだ。
ここだ、と。その瞬間にスレイヤードラモンは今までよりも一歩多く踏み込み、その手のフラガラッハを振るう。
「『参の型――」
「むっ……」
「――咬竜斬刃』ァ!」
バルバモンに巻き付いたフラガラッハが、その敵を傷つけんと機能する。それはまるでコアドラモンの炎のように、全身を削り取る技だった。
だが――。
「ふん!」
「なっ!」
その技も、バルバモンにとっては児戯に等しかった。力を込めて振るわれた杖がバルバモンの全身に巻きつけられたフラガラッハを砕いたのだ。
自身の武器を失った瞬間のスレイヤードラモンをバルバモンは嘲笑を浮かべながら見ていた。お前の力などこの程度だ、と。武器を失ってどのような気分だ、と。
だが、バルバモンの予想に反して、スレイヤードラモンはまるでイタズラが成功したかのような笑みを浮かべていた――。
「何?……ッ!」
「とった!」
その瞬間に、バルバモンは全身が一瞬動かなくなる。
体が動くようになったバルバモンが背後を覗き見ると、そこにはカードを持って下がる旅人の姿があった。
つまり、スレイヤードラモンは囮だったのだ。バルバモンにとって誤算だったのは、人間である旅人も戦闘に参加すること。所詮人間など見ていることしかできないとたかをくくったから、不意を突かれたのだ。
だが、目的を達成したはずの旅人の表情は暗かった。
「おい……どうした?旅人」
「――した」
「何んだと?」
「……失敗した!」
愕然とした表情で呟く旅人のその手には未だ白紙のカードが一枚。
旅人は白紙のカードでバルバモンの力をコピーしようとした時、何かの違和感を覚えたのだ。そして、その違和感の通りに失敗した。
まるで一つの存在でありながら、一つではないような違和感。これをコピーしきるにはきっと白紙のカード一枚だけではダメなのだと、理解してしまったのだ。
「やって……くれたなァ!人間!」
バルバモンの怒りとともに振り下ろされた杖をと旅人はスレイヤードラモンは紙一重で避けた。
千載一遇のチャンスを失敗したのだ。これ以上は自力での勝負となる。それが分かったからこそ、旅人たちは苦い顔を隠せなかった――。
一方その頃、ドルゴラモンはムルムクスモンと戦っていた。
ムルムクスモンの炎を避け、接近したドルゴラモンの拳をムルムクスモンが避ける。戦況はほぼ膠着状態へとなっている。
スペック上ならドルゴラモンの方が上だろう。現に戦い始めた頃の方はドルゴラモンが押していた。だが、現在はそのドルゴラモンが攻めあぐねている。
それはムルムクスモンには経験と知性に裏付けされた堅実な戦い方と負ける訳にはいかないという何物にも代え難い強い意志があるからだ。
「っく!」
「……っち!」
普段とは立場が逆転している。普段は追い込まれたドルゴラモンが諦めない意思で最後には逆転するということが多い。だが、今回はドルゴラモンが追い込み、ムルムクスモンがその意思によって耐えているという状況になっている。
自分と同じようなタイプがこうもやりづらいとは、ドルゴラモンは思っていなかったのだ。
「バルバモン様のためにも貴様まで通す訳にはいかない」
「なんか……僕の方が悪者みたい……」
「新しい世界の創造を邪魔する者たちを排除するのが私の役目だ!」
まるで妄執に取り憑かれているかのような表情でムルムクスモンは一際大きな黒炎をその手に作り出す。
それは今までのものと段違いの規模であり、放たれれば城にどれほどの被害をもたらすか分からないほどのものだ。
それを見た瞬間に、ドルゴラモンは直感で不味いと感じた。
玉砕覚悟で突っ込んですぐにデクスに進化するしかないか、とドルゴラモンが内心で算段を付けるほど、その黒炎は禍々しく強大な力を放っていたのだ。
「っく!……」
「崇高な理念の前に……消えるがいい!」
覚悟を決めて、ドルゴラモンがいざ行こうとしたその瞬間に――。
「他の将を捨て駒にしたのか。バルバモンが唯一同志と認めたデジモン……かつて天界の守人をしていたお前が……」
この場には無かった新たな参入者の声が響く。
その声の主の出現に、ドルゴラモンもムルムクスモンも動きを止めてその声のした方向を見る。そこには黒いダチョウのようなデジモンと共にいる人間の少年がいた。
「ライズグレイモンの開けた穴から忍び込んだか……ナイト。ペックモン」
「……君は先に行け。やることが……あるんだろう?」
「……!」
ナイトと呼ばれたその少年は真っ直ぐにドルゴラモンを見据えて言う。
だが、ナイトが連れているペックモンと呼ばれたデジモンは明らかに究極体相当のデジモンではない。ペックモンがムルムクスモンと戦うなど無謀でしかないだろう。
それを分かっているのか、ナイトは苦笑した。
「……三将軍の中でも最も警戒すべき相手であるムルムクスモン。……お前は俺が倒さなければならない相手だ!バルバモンを倒せないであろう俺ができることだ!だから――」
「君は……」
「だから!……お前はお前のテイマーの下へ行け!」
どこかナイトの雰囲気にいつかの自分と同じような、決死の雰囲気をドルゴラモンは感じ取った。だが、きっと引く気はないのだろう。
「ありがとう!」
それを感じ取ったドルゴラモンはその場をナイトたちに任せて城に向う。
そしてそんなドルゴラモンを守るかのようにナイトたちがムルムクスモンに立ちはだかった。
きっと共闘すれば、ナイトたちを助けることもできたのだろう。だが、ナイトたちにはもうひとつのある意思があった。そしてきっとその意思は、ドルゴラモンがいては果たせない。
それをなんとなくで感じ取ったからこそ、ドルゴラモンはナイトたちにこの場を任せたのだ。
背後で聞こえる会話と突如として爆発的に膨れ上がった力の波動を感じながら、ドルゴラモンは旅人たちの下へと急ぐ――。
違和感。まるでバルバモンでありながら、バルバモン“だけ”ではないような違和感。その違和感は戦うほどに大きくなっていた。
状況は限りなく悪い。バルバモンが予想よりもずっと得体の知れないものであり、しかもバルバモンの力をコピーするのにどれほどの白紙のカードがいるのか分からない。
もっとも、そもそも残りの七大魔王の人数からして、バルバモンに使える白紙のカードは二枚だけなのだが。もし、それ以上必要だったらアウトだ。もちろん世界的な意味で。
「先ほどまでの威勢はどうしたァ!」
「っく!」
「……っち!」
スレイヤードラモンと旅人はなんとか善戦していた。確実にチャンスを得るために、切り札級のカードを使わないままで。
「余の力をコピーするのであろう?その程度でどうにかなるものかァ!」
「ッ!」
だが、このままではジリ貧だ。
ここに死にに来たのではない。自分たちが死んでは元も子もない。そう考えて旅人たちはお互いにアイコンタクトを交わす。
一瞬後に頷きあって、旅人は複数枚のカードを取り出した。ここで決めるつもりなのだ。
「……今だっ!set『ベルフェモン』!」
「ガァアアアアアアアア!」
「何っ!?」
現れた七大魔王の一角。その姿を前にして初めてバルバモンの顔が驚愕に染まった。
まさか自分と同じ七大魔王の存在がいるとは思わなかったのだろう。しかも、それが千年に一度しか目覚めないベルフェモンのレイジモードであればなおさらだ。
そしてその僅かな隙に旅人は新たなカードをきる。
「set『最大強化』『究極戦刃王竜剣』『デュナス』!」
「よし!ナイスだ!旅人!」
強化された能力でもってスレイヤードラモンは現れた二つの武器を掴む。オウリュウモンが遺してくれた剣とメデューバルデュークモンが遺してくれた槍。並の究極体デジモンでは持つことすら叶わないそれらの武器を、カードによるパワーアップによって二つ同時に持つという暴挙を成し遂げることができたのだ。
一方でベルフェモンが動かない木偶だと気づいたバルバモンはすぐにスレイヤードラモンに向き直る。動かないベルフェモンより、遥かに強大な武器をその手に持ったスレイヤードラモンの方が危険だと感じたのだ。そして、その手に持った杖によって、スレイヤードラモンの攻撃を捌こうとして――。
「ッ!」
すぐにしまったと顔を顰めた。
やはりバルバモンはどこか慢心があったのだ。強大な力を持つ自分にとって人間の直接的な力など恐れるに足らない、と。
これがアームズデジクロスなどして旅人が前線で戦っていたのならば話は違っただろう。だが、今回旅人は只管後方支援だった。だから、つい意識から抜け落ちたのだ。
一瞬動かなくなるバルバモンの体。それは、ベルフェモンと自分の戦い方を利用した旅人の二重の罠だ。
そして、バルバモンの硬直が解けた時、スレイヤードラモンは攻撃態勢に移っていた。
なんとか、魔槍デュナスの一撃を杖に深い傷を負わされながらも、弾くことができた。だが、今のスレイヤードラモンはもう片手に王竜剣を持っている。そして次はもう体勢的にバルバモンには捌くことができない。
「っく……おのれェええええええ!」
「いっけぇえええええ!」
「『究極戦刃王竜剣』――!」
金色に輝く剣がバルバモンを両断しようとして――。
「ガッ……!」
「……ッグ!」
旅人たちは見えない力によって床に叩きつけられた。しかも、体が動かなくなっている。
自分たちに起こったその異常事態を前に、旅人たちは訳も分からずに目を白黒させることしかできない。
「クゥウ!やってくれたではないか!余に傷を負わせるとはァ!」
「っ……何が……」
「だが、それもここまでよ。遊びは終わり……ということだ」
動けないままで地面に倒れ伏す旅人とスレイヤードラモンをまるで嘲笑うかのようにバルバモンは話す。そしてその内容こそが、旅人たちが覚えていた違和感の正体だった。
「ククク……まだ分からないのか!無知とは罪よな……。余は神イグドラシルと同化した新世界の神となる者!どれほど強かろうとただのデジモンや人間風情が勝てる存在ではないのだ!」
「何だと!」
つまり、あの街で聞いたバルバモンの情報は真実だったのだ。
そしてそんなバルバモンにとっては今までの旅人たちの戦いは遊びでしかなかったということである。
バルバモンの力はなんとか先ほどコピーできている。だが、この動けない状況では、旅人たちに戦う術も逃げ出す術もない。
状況は詰んだ。
「ククク……まあ、勇ましい貴様らには情けで地獄に送ってやる!『パンデモニウム――」
まずい、と旅人たちがそう思った瞬間に――。
「――ァ!」
「ん?」
「なっ!」
突如として床が崩壊し始めたのだ。その崩落に巻き込まれてしまい、動けない旅人たちは落ちていくしかない。
もっとも、本当にバルバモンにとっては旅人たちはどうでもいい存在だったらしく、そこで追撃されなかったのは不幸中の幸いと言えるだろう。
そして崩落に巻き込まれて落ちていく最中で、旅人とスレイヤードラモンはドルゴラモンによって回収された。
「大丈夫?」
「……なんとかな……サンキュー」
「ありがとな……死ぬかと思った……」
ドルゴラモンは旅人たちを助けに来たはいいが、あまりの状況の悪さに直接行かずに地面をぶち抜いて旅人たちを助け出すことにしたのである。
その後、バルバモンの力がなくなったのか、動けるようになった旅人はすぐさま『転移』のカードを使って全員でこの場を離脱したのだった――。
これにてネクストの世界は終了。
さすがにネクストのラスボス一歩手前のバルバモンには勝てませんでした。あのバルバモンはネクストの主人公たちだからこそ勝てたようなものですからね。
まあ、目的は達成しているので結果オーライなんですけど。
そして美味しいところをちゃっかりと持っていったドルゴラモンでした。
ではまた次回。よろしくお願いします。