タケルたちを追いかけ始めた旅人たちだったが、出だしが遅かっただけあって見事に彼らを見失っていた。
仕方なく旅人たちは彼方此方を走って探すことにしたのだが、結果は芳しくない。ある一人が足を引っ張っているからである。
その一人とは――。
「……」
「いい加減に機嫌直せよ……ドル……」
そう、ドルモンである。
ドルモンは今、先ほどデクスドルグレモンだった時に船を襲った実行犯やら、暗黒進化したデジモンやらと、さまざまな不名誉なものと間違われたことに落ち込んでいるのだ。
「だってさ!一回殺されても一生懸命に戦ったんだよ。それなのに何?僕ってそんなに悪そうに見える!?」
「いや、悪そうっていうか……」
「別にいい格好しようとなんて思わないけどさ!あれだけ露骨に言われるなんて酷くない!?デクスって結構格好良いでしょ!なのに何で!?」
いろいろと限界だったらしい。ドルモンは次々に愚痴を吐き出した。そしてそんなドルモンをうんざり気味に旅人は応対する。
「……そうか、かっこいいのか……」
「え?何その反応……やめてよ……」
「いや、かっこいいとは思うよ。うん……でも……」
――ぶっちゃけ、根本的なところはあれだろ。悪っていうか、ホラーって感じがするだろ――
「う……うわぁ~ん!」
先ほどは敵と間違われて攻撃され、落ち込んで愚痴っている時にはこの旅人とスレイヤードラモンのダブル口撃を受ける。ドルモンは今まさに泣きっ面に蜂状態だろう。
滝のような涙を流しながら、ドルモンは駆けていく。
そんなドルモンを旅人はバツの悪そうな顔をしながら追うのだった。
事態が進行したのは旅人がドルモンに追いついてしばらくしてからのことだ。何らかの戦闘音らしきものを聞きつけたのである。その瞬間に旅人たちはそちらへと走った。
紛争地帯やデジモンの世界ならともかく、ここは人間世界の、しかも平和な現代日本だ。そんなところで聞こえる戦闘音など、何かあるとしか考えられない。
「ほら、行くぞ」
「ぅう……ぐすっ……ぅん!」
――……不安しかねぇ――
スレイヤードラモンの呟きを旅人は無視した。深く考えると取り返しがつかないことを考えそうだからである。
そうして未だ興奮冷めやまぬドルモンを引きずりながら、たどり着いた場所で旅人たちが見た光景。それはまるで皇帝のような威風を備えたデジモンが骨のような悪魔デジモンをその手の砲筒から放たれた光線で消滅させた光景だった。
「ぅう……ぁれって……ぐすっ……スカルサタモン……?」
若干の涙声で呟いたドルモンだが、それに返す余裕は旅人にはなかった。たった今消滅したスカルサタモンは、人質のつもりだったのか、たくさんの子供が乗ったバスを持ち上げていたのだ。当然、持ち上げる者がいなくなったバスは、地面に叩きつけられる運命にある。
――旅人ッ!――
「ああ!リロード!スレイヤードラモンッ!」
「間に合えッ!」
その光景を見た瞬間にスレイヤードラモンが叫ぶ。一二もなくスレイヤードラモンが言いたいことを理解した旅人はすぐさまアナザーから彼を出した。
外に出たスレイヤードラモンはその瞬間に消える。否、消えたとしか認識できないほどの超高速で移動したのだ。その甲斐があって、スレイヤードラモンはギリギリでバスを受け止めることができた。
「大丈夫かっ!?」
「うわぁ~ん!トカゲオバケ~!」
「トカっ……またかっ!」
元気に泣けるなら大丈夫だろう。そう考えてスレイヤードラモンは優しくバスを下ろした。決して聞こえた言葉については深く考えることはしない。
一方でいきなり現れたスレイヤードラモンに驚いているのはバスに乗った人々だけではない。先ほどまでスカルサタモンと戦っていた者たちもだった。
スカルサタモンと戦っていたであろう者たちは数体のデジモンと十数人の少年少女だ。その中には先ほどのタケルたちの姿もある。
スレイヤードラモンは先ほどはアナザーの中に入っていたので、彼らとはこれが一応の初対面となったのだ。
「お前は……」
「俺はリュウ。デジモンとしての名はスレイヤードラモンだ」
「その声って……先ほど旅人さんたちといた時に聞こえた――!」
「おう。まあ――ッ!」
現状を把握しようと子供たちにより深い話をしようと、スレイヤードラモンが言葉を紡ぐ。だが、その言葉が続くことはなかった。なぜならば、いきなり一台のトラックがその場に突っ込んできたのだ。
そしてその直後。先ほどまでとは明らかに違う雰囲気が辺りを包む。そして新たに地面に浮かんだ紫の魔法陣。そこから圧倒的な気配が漂ってき始めた。
明らかに格の違うその気配に誰もが圧倒されて動くことができないでいる。
「選ばれし子供たち……なかなかやるな。もっとも妙なトカゲも混ざっているようだが」
「何者だっ!」
「トカっ……なんでだよ?」
現れたのは、ローブを纏った何者かだった。だが、頭のフードからは包帯に包まれた角が生えており、さらにその強大な気配が見る者すべてに人間でないことを悟らせた。
「一乗寺賢……ワシたちとともに来てもらおう。さもなければ――」
旅人とドルモンが現場にたどり着いたのはすべてが終わってからだった。今まで何をしていたのかというと、遠巻きに眺めていた野次馬たちと格闘していたのだ。
カードを使えばよかったという事実は、野次馬を押しのけて冷静になってから気づいた事実である。
「遅い!」
「……いや、ホントごめん」
スレイヤードラモンは交差点の片隅にて腕を組んで待っていた。どうやら――スレイヤードラモンの中で――だいぶ待ったらしい。
「まったく……まあ、そんなことはいいけど、それより!七大魔王のデーモンが現れた。やつの目的は一乗寺賢という子供らしい」
「子供?それでそいつは今どこに?」
「デーモンとは別の、トラックの集団に連れ去られてどっか行っちまった」
「……。なんで?」
「うるせぇな!状況がなんか複雑に絡み合っていてよくわかんなかったんだよ!」
スレイヤードラモンの言うとおり、現在この世界では複数の勢力の思惑が入り乱れており、状況はかなり複雑だ。そんな状況を少ない会話だけですべて把握しろというのは不可能に近いだろう。
もっとも、旅人たちにはこの世界の事情は関係ないと言えばないのだが。
「ったく。デーモンは?」
「消えた」
「リュウ……」
「ドル!俺をそんなに残念そうに見るな!」
「……しょうがない。一乗寺賢……そのトラックを追うか。どっちに行った?」
「え?さぁ……?」
「……」
「二人してそんな目で俺を見るなぁ!」
お前はここで何をしていたんだ、と旅人とドルモンは溜め息をつく。デーモンの情報が手に入ったのはいい。だが、せっかく王手をかけられる状況を自分から逃すなど、阿呆の極みだ。
ちなみにスレイヤードラモンは、トラックを見ていたらいつの間にか消えたデーモンに気づき、消えたデーモンを探していたらトラックを見失ったのである。
「ん?あいつらは……さっきデジモンと一緒にいたやつらだな」
そう言ってスレイヤードラモンが見つけたのは、少年少女の五人組だ。彼らは先ほどまでデジモンを連れていた子供たちと一緒にいた。しかも、その中の頼りなさげな少年は先ほどのイッカクモンのパートナーだ。
何か情報を得られるかもしれない。そう考えて、旅人たちは少年たちの下へと歩いて行った。
「なあ、ちょっといいか?」
「さっきのバスを助けてくれた……えっと、スレイヤードラモンでしたっけ?」
話しかけた旅人たちに答えたのは赤い髪の少年だ。少年は泉光子郎と名乗り、旅人たちに興味津々のように話しかけてくる。
「ああ、でこいつが……」
「旅人だ。でこっちが……」
「ドルモンだよ~」
「選ばれし子供?でもそれなりに……」
言葉を濁したのは旅人が子供という歳に見えないからだろう。されども、大人と言い切ることができるほど旅人は成熟しているようにも見えない。だから光子郎は戸惑ったのだ。
「まぁ、俺たちは……別口というべきか」
「別口……ですか?それはどういった意味で?」
「うーん……気にしないでくれ」
「気になりますね。それで……」
旅人は追求を躱したくて、話題を元に戻そうとする。だが、光子郎は追求を諦める気はないらしかった。ぐいぐいと追求を続ける光子郎に旅人は顔を引き攣らせるしかない。
そんな中でスレイヤードラモンはなかなか進まない話にイライラし始めてきている。
ちなみにその時、ドルモンはどうでもいいとばかりに欠伸していた。
「なるほど。この世界とも、デジタルワールドとも違う別世界から来たのですね。その世界では――」
「なぁ、そろそろこっちの質問にも……」
「いえ、もう少し待ってください。それで、その世界からはどうやって――」
早くデーモンを追いたい旅人たちだが、まるで無限ループのように質問を続ける光子郎は旅人たちを離さない。追求続けの光子郎によって旅人たちは早くも疲れ始めていた。
そんな中旅人たちを救ったのは、その集団内のリーダー格らしき人物だった。青い色のコートを着ている活発そうなその少年に、どこか既視感のようなものを旅人は感じるが、そのことについて詳しく思い出すことはできなかった。
「光子郎。ちょっと待てって。旅人さんも困ってるだろ」
「え?あっ……すみません……」
「旅人さんたちは急いでるみたいですけど……」
「あぁ……そうだったな……」
「旅人疲れてるね~」
「すいません……」
疲れた様子を見せる旅人に光子郎は縮こまるしかない。
一方でそのリーダー格の少年は八神太一というらしく、疲れた旅人に変わって話し始めたスレイヤードラモンから話を聞き出していた。
「あのデーモンを追っているのか……あいつらのことは俺たちもよくわかっていないんです」
「……そうなのか?」
「えぇ。あいつらは今日いきなり活動し始めたので。俺たちと戦っていたやつらとも違うようだし……」
「それじゃあ、やっぱり頑張るしかないね~」
「そうだな」
有用な情報は手に入らなかったが、それも仕方ないことだと割り切って旅人たちは、礼を言ってから歩き出す。
「あの人……どこかで見たような……」
「どこかあの時のオウリュウモンと似た雰囲気だったよな」
「別世界から来ているようですし、もしかしたらもしかするかもしれませんよ」
「ハハッ。まさか」
そんな会話が後ろで繰り広げられているとも気づかずに。
太一たちと別れてはや数時間。旅人たちはトラックを探して東奔西走していた。
スレイヤードラモンがトラックを覚えていないというので、運転手が見るからに人間ではなさそうという馬鹿みたいな手がかりから彼方此方を探しているのである。
ちなみに、いつの間にかデーモンを探しているはずなのにトラックを探しているという、ある意味不可解な事実に疑問を覚えたドルモンだったが、旅人とスレイヤードラモンに速攻で流された。
「納得いかない……」
「しょうがないだろ。消えたデーモンを探すより、デーモンの目的となるそのトラックの少年を探し出して先回りしたほうが楽だ」
「この状況だと、たいして変わんないよ~。旅人~カード~!」
「足動かせ、足。白紙のカードはもう残り少ないからいざって時のために使えないんだ」
白紙のカードが使えないというまるで一昔前のような状況に、世知辛い状況でありながらも旅人は懐かしさを覚えずにはいられなかった。
ちなみに、今の状況で最も働いているのはスレイヤードラモンである。持ち前のスピードを活かして探しているのだ。だが、敵もなかなかやるもので、これだけの時間の間、ずっと探し続けるスレイヤードラモンでも未だに見け出すことができていない。
もっとも、そもそもトラックで逃げた相手を探すのに日本一周するスレイヤードラモンに根本的な部分に問題があるように感じられたりもするのだが。
「また振り出しの予感が……」
「気のせいであることを祈ろうよ」
そして事態が動くのはこの数分後。トラックを探して何度目かの日本一周に臨んだスレイヤードラモンが帰ってきてからの話である。
「旅人!ドル!動いたっ!」
「リュウ!本当!?」
「ああ!光ヶ丘とかいう場所で戦闘してる!急いだほうが良さそうだぞ!」
「光ヶ丘!?どっかで……まぁ、いいや。終わる前にさっさと行くぞ。set『転移』!」
スレイヤードラモからおおよその位置を聞き出して旅人は転移のカードを使う。光ヶ丘という地名にどこか再びの既視感を感じながら。
一瞬後の歪む視界の後に、旅人たちは別の場所へと躍り出る。そこでは巨大なローブ姿のデーモンが、その他のデジモンたちを圧倒していた――。
「諦めの悪い……愚か者どもめがっ!」
「っく……」
土偶のようなデジモンであるシャッコウモンと鳥獣人と呼ぶのがふさわしいであろう姿をしているシルフィーモン。そして皇帝の如き威厳を持ったデジモンのインペリアルドラモンだ。さらにそのインペリアルドラモンはファイターモードと呼ばれる全能力を解放させた竜人形態で戦っている。
つまり、デーモンは完全体二体とかなりの力を持っている究極体を圧倒しているのだ。
「ドル!set『進化』『究極』!」
「うん!ドルモン!ワープ進化――!ドルゴラモン!」
それを見た直後に旅人たちは奇襲を仕掛ける。七大魔王の強さはもう語るまでもないことだ。人間の世界という場所でのハンデを抱えている以上、悠長にしている場合ではない。
すぐさま進化したドルゴラモンが他所に気を取られているデーモンを殴り飛ばし――。
「よし、ドル……ナイスだっ!……いち、にー、さん、でっ……おらぁ!」
先回りしていたスレイヤードラモンが飛んできたデーモンをその手に持った剣、フラガラッハで切り裂いた。
ちなみにフラガラッハはバルバモンとの戦いで砕けたのだが、いつの間にか修復されている。
「ぐっ……愚か者がまだいたか……」
「悪いけど、用があるんでね!」
だが、さすがにこれで倒せるようならデーモンは七大魔王に名を連ねていないだろう。スレイヤードラモンの一撃を後方に飛ぶことで軽やかに躱したデーモンは、そのまま体勢を立て直しながら空に上がった。
「っち」
「ククク……馬鹿め。この程度でどうにかなると……ッ!」
だが、直後にデーモンの言葉が途切れる。急に動かなくなった体に驚いたのだ。
「馬鹿なのはお前だよ、デーモン。お前は油断して見過ごしたんだ……俺たちはただのオマケだっ!」
「これは……貴様っ!」
「よし!今回は割かし楽に行けたな」
それは、背後から近づいた旅人が白紙のカードでデーモンの力を写し取ったからである。
旅人はこの七大魔王探しの旅の中で学んだことがある。それは、たいていの世界では人間が表立ってデジモンと戦うことはほとんどないということだ。
もっとも、一人だけ生身で究極体をぶん殴るという馬鹿みたいな者がいたことにはいたのだが。
とにかく、ほとんどの人間はデジモンと戦わないし、そもそも人間の力などたかが知れている。だからこそ、強大な力を持つデジモンたちは人間のことを気にも止めない。
ゆえに戦闘の最中は彼らの意識から人間の存在が消えるのだ。それは人間に対する油断であり、己に対する慢心でもある。
そのことを旅人はバルバモンとの戦いで学んだ。だからこそ、こうして拍子抜けするほど楽に力を写し取ることができたのだ。
「……」
「……まずったかも……」
旅人の作戦は大成功だといってもいいだろう。こうも楽に力を写し取ることができたのだから。だが、旅人は一つだけミスを犯した。いや、正確にはミスではない。ただ一つだけ、その作戦の中に入れ忘れたことがあるだけ。
それは――。
「貴様ァ、人間の分際で……」
そもそも人間
事を早く終わらせたいあまり、そして数少ないチャンスを逃さないように必死になったために、旅人は力を写し取ることを最優先にした。そのためにバルバモンの時にもあったであろうそのことが頭から抜け落ちてしまったのだ。
「……やばっ!」
「格の違いを見せてやる。己の迂闊さを呪いながら地獄へと落ちよ!『フレイムインフェルノ』ッ!」
「――set『投影』ッ!」
もはや炎と呼ぶことも生易しいような地獄の炎が旅人に迫る。
その炎が旅人に当たる直前に、使われたカード。そのカードによって出現したのはデーモンのコピー体。だが、残念ながらそのコピー体は、なすすべもなく消えることになった。いかに同じ存在であろうと、その出現は技の当たる直前。防御姿勢も取れていないのでは、同等の存在の全力攻撃を受け止め切れることなど不可能だ。
もっとも、失敗したら灰も残さず消えていたことを考えれば、防げた分マシなのかもしれないが。
「っく……」
「旅人ッ!」
間一髪で命を拾った旅人の体勢を立て直す時間を稼ぐために、スレイヤードラモンとドルゴラモンはデーモンに向かって行く。そしてそんな二人に加勢するように、インペリアルドラモンたちもデーモンを攻撃した。
だが、それでも戦況は互角だ。総合的な力は上回っているのに、周囲に被害を出さないように抑えた戦い方をしているのが一番の原因だろう。
「フッフッフッ……素直に一乗寺賢……暗黒の種と、その人間を寄越せばいいのだ。そうすれば素直にデジタルワールドへと帰ってやる」
「信じられるかッ!っていうか、例えそうでも旅人を渡すなんてお断りだっ!」
デーモンの目的に少し私怨が混じり始めているが、それでも戦況は動かない。
そして、そんな膠着状態の戦況を打破しようと旅人自身も参戦しようとした時、六人の少年少女が息を切らせながら、走ってきた。その内の二人は昼間に会ったタケルと伊織だ。そしておそらくその中の誰かが一乗寺賢というのだろう。
その少年たちは何か案があるようだった。タケルのその手にはノートパソコンが持っていた。
「何する気だ?」
「今更ですが、あのデーモンをデジタルワールドに戻します!」
「そんなことができるのか?」
「ゲートを開くことはできます。何とかして――」
「フッフッフッ……アッハッハッ!」
だが、尚も言葉を続けようとした伊織を遮るように、デーモンの不気味な笑い声が辺りに響いた。その笑い声は、お前たちがしようとしていることはすべて無駄だと、嘲笑うかのような声色だった。
「何がおかしい!」
「何が?おかしいに決まっている!これを見ろ!」
ドルゴラモンの攻撃を躱しながら、デーモンが作り出したのは空間の歪みだ。しかも、その奥にはまったく別の世界が見えている。
デジタルワールド。誰かがそう呟いて、旅人たち異世界組もようやく理解した。すなわち、デーモンは人間の世界とデジタルワールドを自由に行き来できるのだ。
「そんな……そんなことって……」
「……もう……お仕舞いだ……」
デジタルワールドに戻すという最後の手も封じられて、伊織を含めた何人かの顔には絶望が訪れていた。倒すことを諦め、そんな中で見出した最後の希望が希望にすらなり得なかった。その事実は少年たちの心を折るのには充分だったのかもしれない。
だが、そんな状態でも諦めずにいた少年はいた。
「諦めるなよ!まだ何か手があるはずだ!例えば……デジタルワールド以外に閉じ込めるとか!」
「気休めは止してください。五対一で倒せない。デジタルワールドに自由に行き来できる。そんな相手をどうしろと!?デジタルワールド以外ってそんな簡単に――!」
頭にどこかで見たようなゴーグルをかけたその少年の目には諦めも絶望もなかった。
いつか幾つもの異世界で見たあの者たちのようにこの少年なら本当に最後まで諦めないだろう、と付き合いが短い旅人にも分かるような真っ直ぐな心の少年だった。
そして、そんな時――。
「……ある」
「――え?」
灰色の服を着た少年がポツリと呟いた。本当にゴーグルの少年が言うような場所があると思ってなかった誰もが、その言葉に驚いた表情を見せた。
「暗黒の海……あそこなら――!」
「でも、どうやってゲートを開くの?前に行けた時だって偶然――」
「僕は前にデジヴァイスでゲートを開いて行ったことがある。……あの海に。だったら、今度も!」
そう言って、その少年がその手に持った携帯のような機械をかざした瞬間、デーモンの開いていた空間の歪みに異変が起きる。異変が起きたといっても目に見えるような異変ではない。強いて言うなら、感覚で感じる異変だった。
誰もがその言いようのない異変に気味の悪そうな顔をしている。
「……海?」
誰かが呟く。その言葉通りに、まるで海のような波のさざめきが辺りに響いていた。
「う、うわぁああああああああああああ!」
「一乗寺くん!」
そしてその直後。それ以上の絶叫が辺りに響き渡った。その機械をかざしている少年がまるで恐怖のあまり発狂したかのように叫びだしたのだ。
異変が大きくなるほどに、その少年の叫びは大きくなる。まるで、その異変とその少年が感じているであろう苦しみが連動しているかのようだった。
「ふん!ならば、今のうちにこのゲートを閉じればいいだけの――」
「させるかっ!set『捕縛』『最大強化』ッ!」
「おぉおお!」
同じく異変を感じ取ったデーモンが行動を起こそうとする前に、旅人たちは邪魔をする。今この場においての旅人たちの役割はそれしかなかった。
「うっわぁあああああああああああああ!」
「頑張って!」
「負けんな!俺たちがついてる。もうお前は、昔のお前じゃない!」
そうして、旅人たちがデーモンと戦っている間にも、異変は着々と進んでいく。
まるで激励のような少年たちの言葉が、この異変を起こしているだろう少年の下へと次々と届く。それはまるで罪人が救われる光景のようで、悪いことをした我が子を受け入れる家族のような光景だった。
それと同時に、まるで恐怖に打ち勝ったかのようにあの少年の叫びが収まっていく。いや、少年たちの言葉が、存在が、あの少年の恐怖を払ったのだろう。少なくとも旅人にはそう見えた。
それとほぼ同時に異変が完成する。もはや異変は視覚できるようになった。空に海がある。暗く、昏く、闇い――海が。
「あれは……ダゴモンの海!」
「ッ!今だっ!ドル!リュウ!」
「おおっ!」
その異変にデーモンが動揺したその瞬間に、旅人たちは一斉攻撃を仕掛ける。その海の向こう側にデーモンを押し込めるために。
「後悔するぞ……」
その一言を残してデーモンは消える。辺りには何とも言えない不気味な笑い声と後味の悪さが残った。
そのことに後ろ髪を引かれながらも、旅人たちはその場を去った。この世界のことを自分たちがそれ以上悩んでも仕方ないと思ったのである。
歩いてこの世界から去ろうとする旅人の脳裏には、恐怖に打ち勝ったあの少年たちの姿があった――。
これにてデジアド02世界は終了。ほとんど原作通りでした。原作で言えば、ちょこっと画面の端に写ったくらいでしょう。
それにしても……アルファモンのフィギア化やハックモン系譜の完成。最後のロイヤルナイツのジエスモンなど、さすが十五周年。ここぞとばかりに大放出ですね。
特にジエスモンの設定は……世界を救った伝説の勇者や英雄といった風ではない、仲間と力を合わせる正義の味方っぽい新たな世代という風な設定がいいですね。かっこいいですし。
っていうか、ジエスモンの技の一つに……一個だけ他の奴と毛色が違う技が。絶対あれ師匠譲りの技ですね。
ではまた次回に。よろしくお願いします。