【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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第九十六話~フロンティア!力無きものと力有るもの~

 光ヶ丘でのデーモンとの邂逅から数日経った。

 あの少年たちの活躍があって旅人たちはあの戦いを無事に切り抜けられた。だが、もし、あの少年たちがいなかったら旅人たちはここにはいなかったであろう。そう思うほどに、デーモンとの戦いは肝を冷やすものだった。

 もっとも、その肝を冷やす原因の大半は旅人の軽率な作戦のせいであるのだが。

 今更ながらに自分たちがしていることの無謀さを再確認した旅人である。

 

「んで、あと二体。ベルゼブモンとルーチェモンフォ……フェ……なんだっけ?」

 

「フォールダウンモード。完全体ながら最強の七大魔王って話だな」

 

「完全体?……どんだけだよ……」

 

 そんなこんなで現在はおそらくデジモンの世界を歩いている。おそらく、というのはデジモンを一体も見ていないからだ。ただ、そこら中に終末の光景を体現したかのような荒れ果てた大地が広がっており、空には幾つかの月が輝いている。また、そんな光景が広がっているにも関わらず無傷の線路が大地を走っていたりと。

 摩訶不思議なその光景に人間の世界ではありえないだろう、と旅人たちは考えたのである。

 

「でもね~……この光景……もう一足遅かったとか?」

 

「ドル、不吉なこと言うなよ」

 

「でもでも、まだ一体も生物に出会ってないなんておかしくない?」

 

「うーん……それはそうだけど……」

 

「ナムのやつはその世界に七大魔王がいることはわかっているみたいだし、いないならここへ俺たちを寄越さないだろ」

 

 目の前に広がる荒野はまるで戦争でもあったかのようだ。もしくは天災に見舞われたか、のどちらかだろう。この荒れ果てた大地の先には焼け爛れた大地が広がっており、さらにその先には高さ数キロメートル級の山が丸々一つ氷に包まれて凍っている。

 旅人はこれが七大魔王の力でないことを祈るばかりだった。

 

「あ、やっぱりここはデジモンの世界だね」

 

「ドル、なんでわかるんだ?」

 

「いや、旅人よく見てみろ。ドルの言う通りだ。あの山……何体かのデジモンが氷漬けになってる」

 

「……冷凍保存か?」

 

「……まさか。それにしてもこれ……おそらくロイヤルナイツ級の究極体クラスのデジモンの仕業だな」

 

 スレイヤードラモンの言葉に、旅人は引き攣った笑みを浮かべて溜め息を吐くというある意味で器用なことをした。

 旅人とておかしいとは思っていたのだ。荒れ果て、焼け爛れ、氷漬け。まったくバラバラの現象だ。おそらくこれらの現象は一体のデジモンが引き起こしたのではなく、凄まじい力を持った複数のデジモンが引き起こしたのだろう。そう考えればいろいろと辻褄が合う。

 そしてそれが意味することはつまり、旅人たちはこの光景を作り出した凄まじい力を持ったデジモンたちに会うことになるかもしれないということだ。

 思わず、どうか友好的でありますように、と祈った旅人は悪くないだろう。

 もっとも、複数のデジモンがこの惨状を引き起こしたのではなく、ある一体のデジモンがこの惨状を引き起こしたのだとしたら、それはそれで大変なことになるのだが。

 

「……」

 

「やめよう。深く考えると恐ろしいことになりそうだ」

 

「そだね」

 

 力を持った存在というものに旅人たちはいい思い出はない。それが友好的であろうと、なかろうと、だ。そんなことを思う中で、もはや旅人たちの頭の中は嫌な予感一色に染まっていた。具体的に言えば、今回も苦労しそうだ、という予感一色に。

 まあ、七大魔王全員に会わなければならない時点でその予感は今更ではあるのだが――。

 

「ともあれ、どうすることもできないしな……よし、作戦はさっさと写して、さっさと逃げるだ」

 

「残っているメンツの片方はそんなことできなさそうだけどな」

 

「お?リュウは珍しく弱気だね~」

 

「最強の魔王相手にそんな楽観的な考えを抱けねぇよ」

 

「……思い出さないようにしてたのに~」

 

 とはいえ、それも魔王が見つかったら、の話だ。旅人たちは未だこの荒野を進み続けていた。無駄話をしながら、気を紛らわせる旅人たちである。

 そんなこんなで数時間が経過し、もうすぐ夜になろうとしている時間帯。現在、旅人たちは氷漬けの山の麓まで来ていた。

 

「……どうする?この山は登れんだろうし……たぶん、登るくらいなら別の方法使った方が楽だ」

 

「だな。明日飛ぶか?」

 

「そうだな……それが一番かも……ん?」

 

 そうして山の麓で明日の方針を話し合っていた時のこと。

 旅人たちは遠くに音を聞いた。それも、自然に起こるような音ではない。明らかに誰かがいるであろう音だ。その音はだんだんと近づいてくる。

 突然の何らかの生物の気配に旅人たちは思わず顔を見合わせて、一瞬で意思疎通して頷いた。すなわち――。

 逃さないように、と。これだけだと怪しい人にも見えるのだが、何のことはない。ただ、せっかくのヒントを逃がしたくないだけである。

 

「……」

 

 だんだんと近くなるその音。この隠れる場所もないこの地で、旅人たちはその者の姿が見えていた。だが、一方でその者に反応はない。

 向こうからは見えてないのか、或いは見えていないふりをしているのか。その者はずっと下を向いているようである。

 

「……熊か?」

 

 そう。その者の姿は帽子をかぶった熊、というのが適当であろう姿をしていた。

 その熊のような者はすぐ近くに来てようやく旅人たちを発見したようで、旅人たちの姿を見て驚いている。どうやら、本当に旅人たちに気がついていなかったらしかった。

 

「え、え……?いつの間に……君たちは?」

 

「本当に見えてなかったんだな」

 

「え?あ、ごめんなさい……僕は旅をしてて、ここ下を見てないと歩きずらいから……」

 

「まぁ、いいけどね。その感じじゃ、旅だって初心者だろうし」

 

「わかるの!?」

 

 その熊は驚いているが、旅人たちはずっと旅をしているのだ。それくらいのことはわかる。

 まず長距離の、しかも歩きづらい場所を歩いているというのに歩き方が拙い。その上で前方不注意などいろいろな意味でもったいない。などなど、挙げればキリがない。

 とにもかくにも、ようやく旅人たちは生命体と出会ったのである。

 

「僕はベアモン。ここには――お墓参りに来たんだ」

 

「ベアモン?そのままだな。お墓参りってことは……この氷漬けの?」

 

「そう。皆には今は危険だって怒られたけどね……」

 

「……意外とガッツがあるんだな」

 

「ハハ……そんなんじゃないよ。僕なんか臆病だし……でも、来ないのはどうしても嫌だったんだ」

 

「うんうん。なんとなくだけど僕もわかるよ……」

 

 何か勝手にベアモンに感情移入して、うんうんと頷くドルモンに旅人とスレイヤードラモンは呆れるしかない。

 一方で何か感じるところがあったのか、ベアモンはドルモンと盛り上がっていた。

 

「そうなんだよね。嫌なことは嫌だけど……」

 

「もっと嫌なことがあるとやるしかないってのがね……」

 

「世界って不条理だよね……」

 

「うんうん」

 

「何悟ってるんだ……お前ら初対面なんだよな?」

 

 ともかく話が先に進まないので、強引に流れを切って旅人はベアモンの話を先に進ませた。

 一方でそんな旅人にドルモンは不満そうな顔をして抗議している。いつかのクラモンの時もそうだったのだが、ドルモンは旅人以外の仲良い友達のような存在ができるとその存在にベッタリになる。どちらかといえばボッチの心情に近いのかもしれない。

 ちなみにドルモンにとっては、旅人はかけがえのない相棒で、スレイヤードラモンは生意気なライバル兼仲間、ウィザーモンたちは旅の仲間という認識である。

 

「事の始まりはヒューマン型デジモンとビースト型デジモンが戦争をしていたことにある」

 

「戦争……ね……」

 

「うん。長きに渡るその戦争をたった一体の成長期の天使型デジモンが収めたんだ。その天使型デジモンの名が……ルーチェモン」

 

「ッ!そうか、そういう……」

 

 成長期というドルモンと同じ成長段階であるはずなのに、数々の猛者が殺し合う戦争を終結させることができたというケタ外れの実績に旅人たちは驚きを隠せなかった。

 もっともそのデジモンの名を聞いた瞬間に、そいつならそれくらいはできるかもしれない、とも思ってしまったのだが。

 ルーチェモン。七大魔王の一体に数えられるデジモンだ。完全体ではなく成長期ということから、おそらくは進化前なのだろう。

 

「ルーチェモンは戦争を終わらせて、世界に平和をもたらした。でも――」

 

「でも?」

 

「ルーチェモンは次第に傲慢になっていったんだ。自分こそが世界を支配するにふさわしいってね」

 

「なんだそりゃ、ムカつく奴だな……」

 

 スレイヤードラモンがそう言うのも無理はないだろう。実際、ルーチェモンの傲慢は度が過ぎていた。自分に従うことこそが人々の幸せだと考えたり、その他にも無茶苦茶な独裁的な行いをしたりするようになっていったのだ。

 

「それで、そのルーチェモンを討つために数々のデジモンが立ち上がった。十闘士と呼ばれる……新しい段階へと至った方々を筆頭にしてね」

 

「新しい段階?」

 

「うん。一部のデジモンは究極体って呼んでる。今までにはなかったデジモンのさらに先の段階。十闘士はそこへ踏み込んだ方々だよ」

 

 究極体が新しい段階とは、旅人たちはだいぶ古代の時代に来てしまったらしい。或いは元々そういう世界なのかもしれないが。

 

「その他にもたくさんのデジモンたちがルーチェモンを討つために動いた。けど、十闘士の方々と数々のデジモンの力を合わせても、ルーチェモンを討つことはまだ出来ていないんだ」

 

 十闘士というからには十体いるのだろう。究極体デジモンが十体とその他にもたくさんのデジモンたち。それだけのデジモンたちが倒しきれない成長期デジモンというものに旅人たちは頬を引き攣らせた。

 それはもはや成長期デジモンとは言わないんじゃないだろうか。思わずそんなことを考える旅人たちだった。

 だが、そこで旅人はあることに気づいた。先ほどのベアモンの言葉の中に聞き捨てならないことがあったのだ。

 

「……まだ(・・)?」

 

「うん。まだ」

 

 まだ。その言葉が示すことは戦いは終わっていないということだ。

 

「ここはね。数日前までルーチェモンとの戦いが繰り広げられていた場所なんだよ。この氷漬けの中には僕の兄弟もいる。十闘士様の攻撃に巻き込まれちゃったんだ」

 

「……それは」

 

「……どうして、戦いって起こるんだろうね。ど、う……して、みんな傷、ついちゃ……うんだよ……。どうし、て……僕には――」

 

 戦う力がないんだよ、と。それきり、ベアモンの言葉は彼自身の静かな涙によってとても聞き取れるものではなくなった。

 そんなベアモンの姿に旅人たちは何も言うことができない。自分たちとは違う、圧倒的な力を前に抗うこともできず、流されていくしかない哀れな弱者の姿がそこにあった。

 ここまでなんだかんだ言っても旅人たちがやってこれたのは、どういうものにしろ力があったからにほかならない。運という力。強さという力。仲間という力。さまざまな力が。

 だが、そのようなものを持たない者は、抗うという選択肢を与えられることすらない。いや、与えられてはいても、その先は見えていると言ったほうが正しいのだろう。もしくは、抗う以前にすべてが終わってしまうか。

 そのような状況で、尚も諦めずに選択肢を選ぶことができる者など稀だ。また、そのような選択肢を選ぶことができる“強さ”というのも、ある意味で“力”になる。

 今更ながらに、自分が恵まれていることを再確認した旅人だった。

 

「……ぅ……ぐすっ……」

 

 未だ泣き続けるベアモンとあまりにも重い雰囲気にうんざり気味な旅人が横を見ると――。

 

「うぅ……」

 

「……なんでドルまで泣いてんだ」

 

「だって~」

 

 なぜかドルモンまで泣き始めていた。

 そんなドルモンの様子を前に旅人は呆れて、溜め息を吐きながら夜空を見上げた。夜空には壮大に輝く星々と幾つかの月が輝いている。さらにその内の一つの月がひび割れとともに砕け散っていて――。

 

「……嘘だろ?」

 

 目を擦って何度も確認するが、現実は変わらない。また一つ、旅人の目の前で月が砕けて消える。あまりの現実味のなさに、いよいよ頭がおかしくなったかと旅人は自身の頭の心配をせざるを得なかった。

 もっとも、ドルモンたちも同じものが見えていたので、おかしいのは旅人の頭ではなく現実の方だろう。

 

「……あれは」

 

「たぶん、ルーチェモンとの戦いが……」

 

「月を壊すって……」

 

 今更ながらに関わり合いになりたくない旅人だったが、さまざまな理由からそうも言ってられないだろう。だが、見た感じルーチェモンがいるのはおそらくは宇宙空間だ。進化したドルモンやスレイヤードラモンはともかく、生身の人間の旅人が行けるかどうかわからない。

 どうしようかと悩む旅人たちだが、幸か不幸か、結果的に言えばその悩みは考えなくてもよくなった。

 突然、空から流星のように降ってきた何かが、轟音を立てながら大地に着弾したのだ。その衝撃波で吹っ飛ばされる旅人たち。

 泥まみれになりながらも起き上がった旅人たちが見たものは、クレーターの中心で起き上がる、傷だらけの天使の美少年だった。

 

「ル、ルーチェモン……」

 

 恐怖に染まったような声を上げるベアモンを見て、ルーチェモンはニヤリと嗤う。元が美少年だけあって、傷だらけで嗤うその姿は不気味だった。

 一方でそんなルーチェモンを前にベアモンは恐怖で動けないのだろう。体中が震えている。

 “マズい”とそう思った旅人たちが動こうとするが――。

 

「かはっ……」

 

 一瞬、遅かった。旅人たちはその光景に目を見開く。ベアモンの胸から腕が生えている。否、ベアモンはルーチェモンの腕に貫かれたのだ。

 

「はは……まぁ、この程度の奴でも……ないよりはマシか。君は喜んでいいよ。僕の血肉になれたんだから」

 

 その直後に、ベアモンの体が青いバーコードのようなものとなってルーチェモンの中へと消えていった。それと同時に、僅かではあるがルーチェモンの傷が治っていく。

 何が起きたのか、わからない。ベアモンはそんな表情をしていたが、消える間際にただ一言呟いて――。

 

「どう、して……巻き込まれちゃ、うん……だろうね……」

 

 消えていった。

 その直後、咆哮と共に上空から漆黒のスフィンクスのようなデジモンが降ってくる。その体はボロボロであり、明らかに満身創痍といった体であった。

 だが、その身に宿るであろう力の威光は健在で、それを見たルーチェモンは迷わず攻撃を開始した。

 

「さっきはよくもやってくれたね。『グランド――」

 

「グォオオオオオ!」

 

「――クロス』!」

 

 ルーチェモンの腕から放たれた惑星直列のような十字の形の超熱光線がすべてを滅する。

 満身創痍でそれを避けることもできなかった漆黒のスフィンクスは、先ほどのベアモンと同じようにバーコードとなって消えた。

 そしてそのバーコードがルーチェモンの体へと収まった瞬間に――。

 

「秩序を乱す力を持った十体のうち八体の愚か者の力が僕の中に。ようやく僕も新しい段階へと至れそうだよ」

 

 ルーチェモンが進化する。少年は青年に。背中に天使と悪魔の羽を併せ持つ、屈強な者へと進化した。そのルーチェモンの姿こそが、フォールダウンモード。七大魔王最強の完全体デジモンである。

 

「さて。……残る二体の愚か者も始末しなければな」

 

 キザったらしい外見と口調とは裏腹に、その存在感は圧倒的だった。旅人たちが今まで出会った存在の中でも一二を争うと言っていいだろう。

 どうするべきか。気づかれていないのか、それとも気づいている上で無視しているのか。未だ自分たちに反応を示さないルーチェモンに、旅人はどうするかを考えていると――。

 

「待てっ!ルーチェモン!」

 

「あっ、バカっ!」

 

「お前は……オマエハァっ!」

 

 ベアモンを目の前で殺されたドルモンが怒りに震えながら突撃する。

 こうして旅人が悩んだ意味もなく、最強の魔王との正面戦闘が始まったのだ。

 




はい。というわけで、フロンティアの世界は原作以前の時代です。ですので、かなりのオリジナル感が溢れています。オリジナルになったら途端に書きやすくなるこの不思議な現象が……。
まあ、ともかく。古代の十闘士の方々のほとんどはすでに退場しています……十闘士ファンの皆様はすみません。
今回はベアモンという抗う力の無いものが登場しました。旅人たちはなんだかんだ言っても恵まれている方なんですよね。

次回はいよいよ最強の七大魔王との戦闘です。
次回もよろしくお願いします。
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