ドルモンがルーチェモンに突撃してすぐに旅人はカードを使った。そのままだと、ベアモンの二の舞になるだけだったからだ。
「オォオオオオ!ドルモン!ワープ進化――!ドルゴラモン!」
「お前も……秩序を乱すか!完全なるものを超えてはならないというのに!」
「知ルカァ!」
明らかに冷静さを欠いたドルゴラモンの攻撃だったが、意外にもルーチェモンとは互角にやり合っている。どうやら冷静さを欠くほどの怒りというのが、いい方向へと作用しているらしい。
だが、あくまで互角。そしてそれは贔屓目に見ての判断だった。状況は互角の範囲内だとはいえ、戦闘能力自体はドルゴラモンが劣っている。
「ォオオオオ!」
「っく……」
「なんか……オレいらないんじゃね?」
「いや、そんなわけ無いだろ。ほら、行くぞ」
スレイヤードラモンに促されて、旅人たちはドルゴラモンの援護へと回る。援護なのは、今のドルゴラモンの間合いに下手に踏み込もうものなら、一瞬で敵味方関係なくミンチにされそうな予感がしたからだ。
「スレイヤードラモン!アームズデジクロス!」
――行くぞ!――
「ついでにset『究極戦刃王竜剣』!……やっぱ少し重いっ!」
スレイヤードラモンとアームズデジクロスして、旅人はいつでも動けるように戦闘準備を整える。固有武器のフラガラッハを使わないのは、あの複雑な剣を旅人が使いこなす自信がないからである。
いざとなれば、一瞬でもいいからエグザモンへと進化できるように構えて、時折カードで援護する。
「グォオオオオオオ!」
「アァアアアアアア!」
そんな時、ドルゴラモンを援護するようにこの場に降り立ったのは、赤い体躯のどこかグレイモンに似たデジモンと白き鎧で二つの黄金の大剣を持った狼の顔を持つデジモンだ。
おそらく、先ほどの漆黒のスフィンクスも含めて、彼らが十闘士なのだろう。
――エンシェントグレイモンにエンシェントガルルモン……――
「リュウ、知ってんのか?」
――噂だけな。最古の究極体の一体だと――
「ベアモンも言ってたな……ん?ルーチェモンは残り二体と言ったってことは……残ってるのあの二体だけってことか!?」
――……みたいだな――
予想外の味方の出現に喜んでいいのか、それとも十体のうちの八体がすでにやられていることに悲しめばいいのか。微妙で複雑な気持ちの旅人だった。
一方でドルゴラモンは初めの頃の勢いが消えかけていた。四対一とはいえ、少し気を抜けばやられる状況にあるのだ。桁外れの実力者を前にだんだんと冷静さを取り戻さずにはいられない。だが、冷静さを取り戻すということは、勢いの元だった怒りが静まっていくということで。
結果としてドルゴラモンは初めの頃の勢いを失い、ルーチェモンに押されつつあった。
「っく……」
「口だけだな……これで終わりだっ!『デッド・オア――」
「させるかっ!」
トドメを刺そうと攻撃を繰り出そうとするルーチェモンに先んじて、旅人はその手に持った王竜剣でルーチェモンの腕を切り裂く。予想外の反撃にあったルーチェモンは忌々しげに旅人を見るが、すぐさまもう片方の手で旅人を殴り飛ばした。
殴り飛ばされた旅人の先にあったのは、エンシェントグレイモンの体。ルーチェモンは旅人を殴り飛ばしながら、それを利用してさらに他の者も攻撃したのだ。
「っぐ!すまん!」
「グァウ!ガァアアアアアアア!」
気にするなとばかりにひと鳴きして、エンシェントグレイモンはルーチェモンへと向かって行く。旅人たちよりもずっと長い間戦い続けているだろうに、すぐさま戦闘を再開することができるその姿勢は凄まじい。それほど、ルーチェモンを倒そうとしているのだろう。
そんな姿を前に、さすがにいつまでも休んでいられない旅人もすぐに立ち上がってルーチェモンへと向かった。
だが、ルーチェモンとて馬鹿ではない。戦場でどのような相手を先に狙うかくらい心得ている。
「しつこいなッ!まずは――お前からだッ」
「まずっ」
「『デッド・オア――」
ルーチェモンは一番倒しやすそうな旅人をまず先に倒すことに決める。そしてその手の聖と魔の光球が作り出した立体魔方陣を放ち、その中に旅人を閉じ込めて――。
「――アライブ』!」
「ガッああああああああああ!」
旅人を攻撃する。まるで魂と肉体が分離するかの激しい痛みに、旅人はその一瞬が永遠に感じられた。一瞬後、旅人はアームズデジクロスの解けたスレイヤードラモンと共にその魔方陣から解放されるが、大ダメージを負っていてもはや戦えたものではない。
しかも、肝心のカードは辺りに散らばっていて、それを集めるのにも時間がかかってしまうだろう。戦線復帰は難しそうだ。
もっとも、『デッド・オア・アライブ』は二分の一の確率で死か、大ダメージを決める技だ。死の方にならなくてよかったと言えないこともないのだが。
「旅人!」
「大ダメージの方だったか。運のいい奴だ」
「ハッ!『参の型――!」
そんな中で、動けないほどの大ダメージを負ったのは旅人だけで、スレイヤードラモンはまだマシな方だったらしい。あるいは、技の判定が主体だった旅人にのみ当たったのか。
とうあれ、すぐさま起き上がったスレイヤードラモンは目の前に落ちていたあるものを拾ってから、剣を構えて突進し、ルーチェモンを攻撃する。
だが――。
「ふっ。その程度――」
ルーチェモンはその剣をなんでもないかのように、弾く。そしてがら空きになったスレイヤードラモンの胴に己の拳を叩きつけようとして、気づいた。スレイヤードラモンが笑っていたことに。その手から、白紙のカードがこぼれ落ちたことに。
その直後、スレイヤードラモンの体を殴り飛ばしたのと同時にルーチェモンは突如として動かなくなる。時間にして一瞬にも満たないだろうその時間は、この場の全員が全力攻撃をするに充分な時間だった。
「『アブソリュート・ゼロ』!」
「『ブレイブメタル』ゥ!」
「『オメガバースト』!」
絶対零度の超凍気と超光がルーチェモンを文字通り停止させ、全身全霊の突撃がルーチェモンを遥か彼方まで吹き飛ばす。そして数キロにも渡る超爆発がルーチェモンを襲った。
三体の究極体デジモンの全力攻撃は間違いなく、ルーチェモンへと届いた。ただ一つ彼らに誤算があったとすれば、ルーチェモンにはまだ先があったこと。そして誰がやられて、どういう状態になっていたのかということである。
「ッ!」
その異変は、真っ先にドルゴラモンとスレイヤードラモンが気がついた。そして次いでエンシェントグレイモンたちもその異変に気がつく。
すぐにドルゴラモンたちは辺りを見渡して、気がつく。まるで引き寄せられたかのように、まるで共鳴したかのように、
「アァアアアアアアアアアアアア!」
それは。すべてを呪うかのような叫びだった。すべてに終わりをもたらすかのような、世界を滅ぼすような叫びだった。
直接姿を見たわけではない。だが、吐き気を催すような、直視することすら嫌悪するような不快感を味あわせるその雰囲気。冗談でもなんでもなく、先ほどまでよりもずっと危機的状況だった。
「ォオオオォオオオオオオオオオ!」
現れたのは竜。頭上に
「まさか……」
「そんな馬鹿な……」
だが、そんな中でドルゴラモンたちが驚いているのは、ルーチェモンに先があったことにではない。先ほどよりも危機的状況に陥っているからでもない。
彼らが驚いているのは、サタンモードのその感じだ。本能で嫌悪するようなその感じ。ドルゴラモンたちはそれを知っている。
ある世界で、それを封じていた者はこう言った。
とあるものを弱らせ封じるために、世界に蔓延する罪を作り出す元を拡散させたと。そしてその最たるものが七大魔王だと。
罪を作り出す元の最たるものが七大魔王。それは裏を返せばつまり、それらすべての力を集めたのならば――。
「グォオオオオオオオオオオ!」
それは、あの罪と同等の存在になり得るということではないのか。
未だ力が馴染んでいないのか、それとも進化したばかりで勝手がわからないのか、ルーチェモンは動く気配がない。
このまま逃げ出したい気分になるドルゴラモンたちだが、残念ながらそれはできない。
そもそも、せっかく集めた七大魔王のカードはすべてルーチェモンに吸収されてしまった。それはつまり、ここで逃げ出すことは旅人たちの世界の破滅を意味している。
今のうちに散らばったカードと倒れたままの旅人を回収するが、現状は変わらない。ほとんど動けない旅人を背負って戦うなど自殺願望だ。そもそもの問題として、あの罪と同等クラスであろう存在に勝てるかどうかもわからないというのに。
今のドルゴラモンたちの心境は、ラスボス討伐のために準備していたらいきなりラスボスが出てきたようなものである。
「あれ……動き出したら、まずいよね」
「まずいどころじゃないだろ。少なく見積もってもこの世界はお仕舞いだ」
だが、ドルゴラモンたちが躊躇っている間にも事態は進行する。一刻も早くルーチェモンを倒さねばまずいと判断したエンシェントグレイモンたちがルーチェモンに攻撃を開始したのだ。
赤い竜の持つ二本の砲から太陽の如き炎が、白き狼の持つ二本の剣から閃光と見間違うほどの剣閃が、それぞれ世界を滅ぼす邪竜に向かって放たれる。だが、邪竜はそれらの攻撃をくらっても無傷だった。
あの罪を彷彿とさせるような気配といい、力といい、嫌なことを思い出すようでドルゴラモンたちは苦い顔をするしかない。
そして、そんな時――。
「う……」
気絶していた旅人が目を覚ます。だが、目を覚ましただけであって、傷が治った訳ではないのだから、無理はできない。すぐさま旅人はカードを使おうとして、それが不可能だったことに気がついた。
回復系のカードはすべて白紙のカードからの変化だ。一枚はドルゴラモンへの進化に使ってしまい、その他はすべて別のカードに変化してしまっている。つまり、回復系のカードに変化させられる白紙のカードはもうないのだ。
「……どんな……状況?」
「ルーチェモンを倒したら、旅人の持っている七大魔王のカードが全部ルーチェモンの中に入って、ルーチェモン進化」
「簡潔な説明ありがとう。……一応言っとくけど、オレはもう動けんぞ。話すので精一杯だ」
「わかってるよ。エグザモンなら動けるかもしれないけど……ッ!」
その時だった。世界が、歪んだ。震えた。軋みを上げた。あまりの力の大きさに世界が耐えられなくなったのか。悪寒に従って旅人たちが振り向くと、そこではルーチェモンが動き出していた。しかも、まるで体の調子を確かめるかのような気楽さで、エンシェントグレイモンたちを蹂躙している。
それだけではない。ルーチェモンが動くその一挙一動で世界が壊れていく。まさにこの世の終わりの風景だった。
「ここも危ないね……どうする?」
「どうするも何も……俺たちのせいなんだから、俺たちが何とかするしかないだろ」
「ドル……あとどれくらいいける?」
「……。そろそろやばいかも。タイムリミット的にも」
ドルゴラモンのその言葉を聞いて旅人も覚悟を決める。
白紙のカードはもうすぐ戻ってくるだろう。一枚だけ。だが、それで退化したドルモンを再びドルゴラモンへと進化させたのでは、現状と変わりない。そして現状ではルーチェモンに勝ち、七大魔王のカードを取り戻すことなど不可能に近い。
それならまだ可能性のある方に賭けるべきだろう、と旅人はそう思い、覚悟を決めたのだ。
「行くか。ドルはオレとアームズデジクロス。んで、進化」
「ほんとっ!?」
「この状況で微妙に嬉しそうなのが腹立つ。まぁ、いいや。リュウは陽動だ」
「了解。勝つアテは?」
「ない」
苦笑してから、旅人はボロボロの体に鞭を打って立ち上がる。誰もが限界が近いのだ。一人だけ寝ていていられない。もっとも、こんなところで寝ていたら巻き添えをくらって死ぬだろうが。
「まぁ、可能性があるだけマシだろ。諦めるのは早いさ」
「大丈夫だよ~。どうしようもなくても、無意味でも。そこから何かを掴める奴ってのは……きっと前に進める奴だよ!」
「ま、それもそうだなっ!行くか!旅人!ドル!」
「行くぞ!ドルゴラモン!アームズデジクロス!」
――さあ、行こう!――
ドルゴラモンを纏った旅人が光に包まれて――ルーチェモンとの最終決戦が始まった。
世界を滅ぼすルーチェモンに限界を超えた位へと至った者たちが挑む。その戦いはまるで神話の再現のようであり、黙示録の体現のようであり、世界の終末のようなものだった。
そしてそんな戦いに場違い感を感じながらも、新たに参戦する騎士が
「っち!やっぱり効かねぇか!」
その騎士の片方は例えるならば、白き竜騎士でスレイヤードラモンだ。フラガラッハを伸縮自在に操って、ルーチェモンと戦っている。
だが、一方でルーチェモンはまるで知性がないかのように暴れまわっていた。そこに先ほどのフォールダウンモードの時までの知性は欠片も見当たらない。
それでも敵を一方的に蹂躙できるのだから、強いというほかないだろう。いや、もしかしたら敵とすら認識していないのかもしれないが。
「うぉおおおおおおお!」
だが、ルーチェモンに挑むもう片方の騎士は――例えるならば黒い聖騎士だろう。かつて旅人の仲間でもあり、敵として現れたこともあるそのデジモン。旅人がアームズデジクロスしたドルゴラモンと共に踏み込んだ新たな段階としての姿。
それこそが――その聖騎士アルファモンだった。
その手に持った剣で、臆す様子もなく、アルファモンはルーチェモンに挑んでいく。
だが、時折にエンシェントグレイモンたちの援護があっても、ルーチェモンに傷らしい傷を負わせることができていない。
「――!『アルファ・――!」
ならばと、アルファモンは“あの”能力を使用する。かつてドルゴラモンをなすすべなく倒した、あの強力無比な力を。
「――イン・フォース』!」
その瞬間に、アルファモンの主観で時が止まる。いや、停まっているのではなく、戻っているのだ。ただ、攻撃するたびに瞬間的な時間をアルファモンが取り戻しているために停まっているように見えるだけ。
それこそがアルファモンの固有能力。アルファ・イン・フォースの力だった。
だが――。
「グォオオオオオオオ!」
それでも、ルーチェモンには届かない。いや、ここまで来るとその場の全員が薄々と理解し始めている。すなわち、今のルーチェモンには普通の攻撃は通じないのだということが。
今のルーチェモンに攻撃を加えるには、何らかの特別な攻撃か、はたまた何らかの条件を満たさなければならないのだろう。
つまり、どれほど強力な攻撃であっても意味はないということだ。それは逆に言えば、その特別か、条件を満たした攻撃ならば、どれほど弱くても通じる可能性はあるということでもある。
「っく……ややこしいっ!『弐の型・昇竜斬波』!」
「グォオオオオ!『ガイアトルネード』!」
だが、この状況でそれらを探す余裕があるわけでもない。だからといって見つからなければアウトだ。しかも、今回は自分たちの命だけではなく、世界の命運もかかっているのだ。いつものことながら――いや、いつも以上に状況は限りなく悪かった。
「ここまで来ると一周回ってひっくり返って笑えてくるな……ッ!旅人!」
アルファモンに迫る危機に対し警告を発したスレイヤードラモンだったが、遅かった。アルファモンはルーチェモンの攻撃によって吹き飛ばされたのだ。
そして追撃とばかりにアルファモンにルーチェモンは迫り――。
「――!」
「ガァアアアアア!『ディバインアトーンメント』!」
頭上の
何が起こったのかわからない旅人は目を白黒させているが、対照的にドルモンは慣れたものだった。
「どこだ……ここ?」
「う~ん?死ぬ一歩手前的な?」
「えっ……」
「いや、心の中的な……よくわかんない。いつもと違うし……」
「ここまで引っ張っておいてそれなくね!?」
漆黒の世界にいる旅人たちはそれこそ表面上はいつも通りだったが、内心では冷や汗ダラダラだった。これはもうアウトなのではないか、と。
だが、何回かこのような体験をしているドルモンですら、違和感を隠せなかった。漆黒の世界とはいっても、いつもとは違うのだ。いつもは何も見えない、闇のような世界だ。だが、今回の世界は例えるのならば“宇宙”という言葉が一番しっくりくる世界だ。
現状に悩む旅人はそんな時に不思議な現象を耳にする。それは、声だった。言葉ではない。音でもない。だが、確かに何らかの意思を伝えようとする声だった。
「何か聞こえるね……」
「何だ?いや……誰だ?」
その旅人の疑問に答えるように、突然目の前の暗闇から姿を現したのは鏡の胴体を持つ、神秘的なデジモンだった。そのデジモンは旅人たちに何かを伝えたいようだったが、その謎の言葉は旅人たちにはうまく伝わってこない。
いよいよ、そのデジモンは困ったらしい。顔は目だけしか見えないというのに、その目だけで困った顔を表現するというある意味器用なことをしている。
「わからないよ~!わかる言葉で話して~!」
「おい、ドル。無茶を言うなよ……」
――なるほど、そうすればよかったのだな――
「……え?」
――すまぬな。そちらには私の言葉は通じないということがわかっていたというのに……私も、らしくなく慌てていたということか――
ずっと話せないものだとばかり思っていたのに、そのデジモンは突然話し始めた。そんな光景に旅人たちは驚きを通り越して固まっている。
そんな旅人を無視して、そのデジモンは話を続けた。
――時間がないのはわかるが、準備にはしばらくかかる。おとなしく話を聞いてもらおう。まずは自己紹介といこう。異世界の者よ。私はエンシェントワイズモン。鋼の十闘士だ。――
「十闘士!?でも、十闘士は全部やられたんじゃ……」
「ドル、エンシェントグレイモンたちを勝手に殺すな」
――わかっている。私はこの知識でもって未来を見通した。どうすれば、あの悪魔に勝てるのかということもな――
現状、自分たちではどうすることもできない旅人たちはおとなしく話を聞くしかない。
もっともそれは、エンシェントワイズモンの言うことがとても重要なことだと、なんとなく理解したからでもあるのだが。
――私たちだけではやつに勝てん。そして、私たちの敗北によってあの悪魔が新しい段階へと至ることも読めておった。本来なら残った炎と光の闘士がやつを倒すはずだったが――
言葉が濁され、さらに若干自分たちが責めるような目で見られたことで旅人たちも、うっすらとだが理解した。つまり、旅人たち異世界の存在が来たことで予定が狂ったのだと。
――だから、私たちは行動した。勝つためにな。私たちは自分たちの力を残す器を前もって作り出したのだ。今回、そしていつか来たる未来のために。だが、ここで負けていては話にならん。だからこそ、残したバックアップである私がこの異界で話しているのだ――
「……」
――器を一時的に貸し与える。これでやつを倒してくれ。やつを倒しさえすれば、そちらが奪われた力も戻ってくるだろう――
その瞬間に、旅人たちの周りに変化が訪れる。エンシェントワイズモンだけではない、新たに九体のデジモンが出現したのだ。
炎の竜、光の狼、水の人魚。氷の羊に、木の馬に、風の妖精。そして雷の虫と闇のスフィンクス、土の巨人。原初の究極体である十闘士すべてが揃い、旅人たちを取り囲む様は壮観だった。
「……悪い。元々はオレたちのせいでこうなったのに……」
――言っただろう。すべては勝つためだ。少し手間が増えたくらいで変わらん――
「……ああ、絶対に勝つ」
――私がやつに吸収された時、同時にやつの中にウィルスを仕込んだ。この時のために作り出したウィルスを。それが発動すれば、攻撃も届くようになる。臆さずにいけ――
それを最後に、旅人たちに向かって彼らは力を放つ。炎が、光が、水が、氷が、風が、木が、雷が、闇が、土が、鋼が。すべて旅人たちの下へと来る。
そしてその直後に――旅人たちはこの異界から解き放たれた――。
ルーチェモンの消滅の光からなんとか逃れたスレイヤードラモンたちは、未だルーチェモンと戦い続けていた。だが、ここでルーチェモンに変化が起こる。突如としてルーチェモンが苦しみ出したのだ。
「何だ?」
そしてその瞬間、ルーチェモンの真下の大地に光が走ったかと思えば、そこから旅人とドルゴラモンが飛び出してきたのだ。
ちなみに、なぜドルゴラモンに進化しているのかは旅人たち自身もわかってはいなかった。おそらく十闘士の力のオマケだろうとは思っているのだが。
「旅人!」
「あいつら……実はオレたち恨んでるだろ。こんなところに出してくれちゃって……まぁ、いいや。行くぞ、ドル!set『武装進化』!」
「おう!」
究極戦刃破竜剣を掴んだ旅人はルーチェモン目掛けてひたすらに走る。
その時、スレイヤードラモンにはその姿がどこか東方の伝承に伝わる武神のようにも見えた。
「これで終わりだっ!『究極戦刃――!」
「ヴァアアアア!『パーガトリアルフレイム』!」
「――破竜剣』!」
十闘士の力を宿した破壊の剣がすべてを両断する。それは、さながら伝説や神話の光景だった。放たれた浄化の炎を、そして世界を、難なく切り裂くその剣の威光は新しい時代の幕開けを告げるようで。剣はそのままルーチェモンを切り裂いて――。
直後に、エンシェントグレイモンたちがルーチェモンの残骸からあの青いバーコードを吸収して、その不気味な残骸を世界の奥底へと封じ込める。
どこか不吉な断末魔の叫びを轟かせながら、ルーチェモンは世界の奥底へと消えていった――。
「……オレたち……何してるんだろうな」
「ほんとにね。自分たちの世界が大変なのに……」
「結果オーライでいいんじゃねぇ?」
あの後、エンシェントグレイモンたちは何処かへと消えていった。旅人たちが持っていた十闘士の力も、ルーチェモンが消えるとともに二十個の光となって世界中に散らばったようだった。
旅人たちとしては無事に七大魔王のカードが返ってきたので結果オーライと言えるだろう。納得できるかどうかは、別として。
ちなみに七大魔王のカードはルーチェモンが消えていった場所の近くに落ちていた。
「しばらく休みたい……」
「それは賛成だな……ついでにこんな荒地よりももっといいところで休もうぜ?」
「……それもそうだな。ドル!どうしたー?もう行くぞー!」
「あ、うん!ちょっと待って~!……それじゃあね」
ドルモンは何とか見つけ出した花を、墓のようにも見えるその場においてから、旅人たちの下へと駆け出した。
これで集まった七大魔王の力は六つ。残るは一つだ。
というわけで、これにてフロンティアの世界も終了です。
なんか、ラスボス前にラスボスが出てきた気がすると思ったそこのアナタ!きっと気のせいです。
そしてせっかく進化したのに、あんまり活躍していないアルファモンさん。……まぁ、この小説のドルモンの正統進化はドルゴラモンですからね。予定では、エグザモン含めてもう一回くらい活躍の場があるはずです。
さて、そろそろ終わりが見えてきましたね。最後まで頑張ります。
ではまた次回に。よろしくお願いします。