I begin to walk.   作:なしち

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炎上汚染都市冬木
運命に出会う


 

「あ、あ……?」

 

よく、わからなかった。

自分は確か、人理保障機関カルデアにレイシフト適正があるとか言われて、大変なお金が手に入りそうだったので、飛び付いて参加したのだ。親はろくに家にいなくて、金もあまり寄越さない。そのわりにふらっとやって来たと思ったら兄弟ばかりが増えていく。この前実に八番目の赤ん坊ジョナサンが追加されて、家も家計も限界だった。

 

成人しているのは自分と長兄の定助だけで、定助は最近彼女との結婚も悩み始めていた。とてもじゃないが今はそんなことを考えられる家庭状況ではないのだけれど、それでも康穂が好きなのだ、と苦しそうな顔でいっていたのを覚えている。三番目のジョリーンはよく家でのことを支えてくれていて、実質の母親代わりは彼女であろう。

定助、ジョニィ、ジョリーンが現在社会人として働いていて、四番目のジョルノが学生ながらバイトをして、それでなんとか一家全体がまわっていたところだった。

 

そこに赤ん坊の追加である。面倒を見るのはいい加減手慣れてきたにしても、まだ幼稚園のジョセフや小学生の承太郎もいる。仗助だって中学生になったばかりだ。そろそろお下がりですませるにも限度がある。

 

お金が、足りなかった。

 

そこに大金とともに飛び込んできたのがマスターとしての仕事である。住み込みで下手したら年単位で帰宅が難しい可能性はあったが、これだけ金が手にはいるなら、家に家政婦をお願いすることも、なんなら定助の結婚資金の足しにしてやることもできるだろう。

 

そうして兄弟たちにギャン泣きされはしたものの、カルデアにやってきたジョニィ・ジョースターは本日初のレイシフトを体験するはずだった。

 

はず、だったのだ。

 

轟音と共に入ったカプセルがしっちゃかめっちゃかに揺れた辺りまでは覚えている。その後がわからない。

 

呻きながら体を震わせる。

 

寒い。熱い。耳。音が聞こえる。ぱちぱちと何かがはぜているような音。目。ゆっくり押し開けると、ひどく視界がぼやけていた。

何度か瞬きをして、多少はっきりはしたものの、遠くまではわからない。赤い光がゆらゆらとあちらこちらで揺らめいていて、テレビとかの災害現場で見るような破片がたくさんたくさん積み上がっているのはわかった。どうやら瓦礫の中にもたれて座り込んでいるような状態なのだとあたりをつける。寒い。とても寒い。温かいところに行きたかった。そうだ、腕、足は?手に力をいれる。指が手のひらをひっかく感触があった。右手を動かし、左手を動かす。大丈夫。

 

足。足は?

全く下半身がそこにあるとは思えない感覚に、嫌な予感がした。首を動かして目線を下半身にやろうとする。もたれていた瓦礫が崩れ、がくんと頭が落ちた。胸にしたたかに顎を打ち付ける。明らかにそれだけでない痛みが全身を駆け抜けて、思わずうめいた。

 

咄嗟に閉じてしまった目をゆっくりあける。うつむいた形になった視線の先に、腹の辺りに瓦礫が突き刺さっている光景がある。足は?瓦礫の向こう側になんとか爪先が見えた。

 

「あ、ああ、あ、あ………」

 

声をだすたびに瓦礫が腹の中で存在を主張しているようだった。たぶん、突き刺さっている。内蔵をえぐって、背骨を砕き、地面まで。

 

 

死。

 

 

「あ、あああ」

 

救助があれば生き抜けるのか、それすらもわからない。霞んだ視界でもわかる、どう見ても重症だ。意識が戻ったのも奇跡かもしれない。動こうとして、失敗する。かろうじて持ち上がった手が腹の辺りに乗っかった。れいじゅとかいう妙なマークが手の甲に入れられていたはずだが、血まみれで見えなかった。

 

寒い。熱い。痛いのかどうかもわからない。さっきより前が見えない気がする。

 

 

死。

 

 

嫌だ。

家族の顔が脳裏にうつる。親は間違いなくろくでなしだったが、兄弟はそんなことはなかった。一癖も二癖もあるやつらで、毎日誰かしらがなにかの問題をおこしてはこっそり解決していたけれど、それでも。

好きだった。大事だった。

 

なのに、死ぬのか。

 

思い出が脳内を過りはじめて、咆哮した。

 

 

「あ、あ、あああ、ああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 

咆哮に引きつれた腹筋が瓦礫を包み込んで痛みを伝えてくる。そうだ、痛み。

 

痛いなら、生きている。(・・・・・・・・・・)

 

走馬灯を痛みでねじ伏せて、瓦礫に今度こそ手をのせた。

腹から引き抜こうとして、手が滑る。

揺れた瓦礫がさらに痛みを伝えてくる。

大丈夫、まだ生きてる。震える手が瓦礫をつかむ。もう一度動かそうとして、また手が滑る。痛い。

 

「あ、あ…」

 

生きたい。生きたい。死にたくない。死んだら家族は。生きたい。生きたい。

手がぶるぶる震えている。何度も瓦礫をつかんでは滑ることを繰り返し、やがて、とうとう掴むことすら出来ずに手を添えるだけになった。瓦礫から手を離さなかったのは意地だった。

 

 

「あ、あ゛あ゛あ゛あ゛………」

 

 

呻く。顔が血と涙と鼻汁と涎と喀血でぐちゃぐちゃだったことすらわからなかった。

 

死んでたまるか。死んでたまるか。生きたい、生きたい…!

もう一度、

 

 

あ゛い゛あ゛い゛(会 い た い)………!!」

 

 

泣かせてまでカルデアにきて、この様だ。せめて、もう一度、家族の顔が見たかった。

視界の端で、何かが強烈な光を放つ。

 

いつの間にか閉じかけていた瞼をこじ開けて、頭を無理やり持ち上げた。ぐらぐら揺れる頭はごつんと背後の瓦礫に当たって止まる。今度は崩れなかった。

 

瓦礫に隠れてわずかに見える爪先の先、誰かがたっている。

 

「あ………」

 

頭がある辺りが白かった。後は、たぶん黒づくめ。ぼやけた視界はもはやそれしかうつさない。

 

 

「サーヴァント、アサシン。シャルル=アンリ・サンソン。召喚に応じ参上した。あなたが僕のマスターか?」

 

 

なのに、不思議とその声ははっきり聞こえたのだ。

 

 




久々に文を書きました。

ジャイロ・ツェペリのモデルがシャルル=アンリ・サンソンときいて。
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