移動中のことである。
街道を堂々と通るのも危なっかしく思えたため、道なき道をひたすら進んでいた時のことだった。
「あの、ジョニィ?」
「…?何?」
マリーがちょいちょい、と手招きをするので、少し車椅子を動かすスピードを落とした。
「なんだよ」
「あの、マシュなんだけれど」
「マシュ?」
小声でやり取りして、ちらりとその背中を見る。特に変化はないように見えた。正面から何かがきたときはその守りを発揮してくれるだろう。
「マシュがどうかした?」
「たぶんだけれど、ちょっと落ち込んでいるように見えるの。マスターさん、様子を見てあげたらどうかしら」
「…………あー、そう?全然気づかなかったな…」
「これから、あなたはたくさん戦って、そうして、もしかしたらたくさんの仲間を得るのでしょう?サーヴァントの様子を見たり、関係に気を配るのも大事だと思うわ。特にマシュは生きているのだもの、気にかけてあげて」
「………うん、ありがとう」
「どういたしまして!」
「マリーと何を話している、ジョースター」
会話にサリエリが割り込んできて、さすがに前を歩いていたマシュとサンソンも振り返った。
「いや、
「…!すいませんマスター!手当てをしたとはいえ、お怪我をされていたのに!気が回らず………」
「ああ、いいって、ぼくも疲れてるって感じはなかったからさ。マシュは大丈夫?」
「はい、大丈夫、です…」
会話をしてみて確かに、と思う。気落ちしているというか、なんというか。
話をしてみようとは思うものの、女遊びはそれなりにしているし、妹もいる身ではあるが、マシュのようなタイプのメンタルとなるとちょっとよくわからない。ジョリーンは落ち込むどころか、ちょっと嫌なこと言われてへこんだからやり返してきてやったわ!と武勇伝を語ってくるし。大変たくましくお育ちになった彼女は、最近ストーカーが出来たことを告白してきたっけなぁと思い出して少し遠い目をした。一年くらい前からストーカーされてるけどまぁ慣れたし気のいい友達みたいなもんよ、と言われて定助と二人で頭を抱えたものである。ストーカーができた時点で相談しろよ。
尚、聞き付けた小学生承太郎がそのストーカーにバトルを挑んではぶちのめしているようで、とりあえずはいいか、と今のところは放置していたのだっけ。
まぁ、要するに、大体真逆の女の子しか知らないのだ。
「拠点にできそうなところを探そう、ご飯と仮眠をとりたい」
「仮眠?」
「夜の間に進んどいた方がいいだろ。ご飯食べて、少し寝たら出発にしよう」
「了解しました」
行軍しながらちょうどいい木立を見つけ、そこに拠点を設置する。さすがに火を炊く気にはならなかったので、携行していた食料をもそもそと食べる。サーヴァント達は食事を口にせず、三人とも警戒の姿勢に入ったので、必然的にマシュと二人の食事となった。もう少し余裕ができたらサーヴァントとも食事ができるのだろうけども。
「マシュ」
「はい」
「………あー、ぼくあんまり口がうまくないからそのまま聞くけど、どうした?落ち込んでる?」
「えっ、」
直球で聞きすぎただろうか、びっくりして固まったマシュに慌てる。
目線をさ迷わせると、ちょっと呆れた表情のマリーとサンソンと目があった。それはないわ~と言わんばかりの顔である。
目線が思いっきり助けを求めていたらしく、肩をすくめてみせたサンソンが近寄ってきて隣に座り、口を開いた。
「ええと、ジョニィはちょっと直球でものを言い過ぎだけど、どうだろう、僕も少し心配していたんだ。何か悩んでいるなら話してみる気はない?」
悩んだ様子でマシュは口に運んでいた食べ物をおろして姿勢を正した。
「お気遣いありがとうございます……、その……私、マスターをお守り出来なかったのが不甲斐なくて…」
「えっ?」
はて、とジョニィは首をかしげた。
「仮想敵の前で突っ立ってて武器すら出さなかった人もいるっていうのに何いってるんだ?」
「ジョニィ!!!……いやそのとおりだからなにもいえないんだけど……うん……」
カルデアの探知外、あの場にいる誰もが気づけない攻撃など、いわば防げない事故のようなものだ。ジョッキー、処刑人、王妃、音楽家、そして戦闘を始めたての素人。元々戦闘を生業にしていた者が誰もいないこのチームで、直感で攻撃を感知するとか、殺気を察知するとか、そういう技能がある者がいるわけがない。
それでも、そういう
そんなことをマシュに伝えると、でも、と彼女は言い募ってくる。
「私は盾です。それに、その、盾とか、鎧の装備とか、
「戦闘行動ちゃんととれてるし、今は仮とはいえ宝具も使えてるんだろ?ぼくとしては不満は特にないんだけどなぁ…」
「ジョニィは生きてるよ、マシュ」
堂々巡りになりそうな話をサンソンが断ち切って、マシュの目を見つめた。
マシュはひゅっと息をのむ。
冬木でも、一歩間違えたらマスターの息は止まっていただろう。そして、今回もそうなるところだった。その、失っていた
「ジョニィは生きてる。冬木のように死にかけでも、今死にそうになってるわけでもない。君はちゃんと役割を果たしている。今回は確かに運が良かっただけだったけれど、自分の役割を理解して反省できるのはよいことだ。でも思い詰めたらいけない。その先を考えなさい」
「その先、ですか……」
「僕も、マリーも、サリエリも死んでいる。君に力を託したサーヴァントもね。でも、君は生きていて、先がある。成長できる。失敗の反省は充分したね?そうしたら、次はどうしよう、と考えるのさ。前向きにね。
マシュ、もう少し自分を出してくれていいんだよ。感じたこと、思ったこと、なんでも僕らに話してくれたらいい。馬に乗る話の時とかみたいにね」
「……はい!」
元気に頷いたマシュに安心して食事を口に運ぶ。結局サンソンに任せきりにしてしまったことになる。それもどうかと思ったので、口の中のものを飲み込んで、ジョニィは言った。
「マジでいうけど、今んとこ不満だとか不足だとか感じたことはないよ。ぼくはどうしたって機動力がないから、守ってくれるマシュはぼくの生命線だ。だから、」
「ジョニィ~!!あのね!今ちょっといい感じで終わってたのに!なんでプレッシャーかけるような言葉を付け足すんだ!?」
「えっこれプレッシャーなの!?今までもありがとうこれからもよろしくねってだけだろ!?」
「軽い言葉で言えるならそう言え!重たい言葉にするな!」
「いえ!あの!大丈夫、大丈夫ですから!……はい、こちらこそ、よろしくお願い致します!」
苦笑ぎみではあったけれど、笑顔でそう言ってくれたマシュに胸を撫で下ろす。
食事を終えて寝袋に潜り込んで、考える。
戦士のサーヴァントがいないというのも問題かも知れなかった。カルデアのエジソンとダヴィンチちゃんも発明家と芸術家であって、今のところとどめをサンソンの宝具で強引に推し進めてきているから敵の撃破はなんとかなっているが、それも難しい場合完全に詰むことになる。
キャスターのサーヴァントだって欲しい。いや、充分比率としては足りているのだが、目的に沿うサーヴァントがいないのだ。解呪はもちろんとして、結界だとか、そういう陣地の作成が出来れば話したりする時も狙撃を警戒しなくてもよくなるだろうし、カルデアで索敵するんじゃなく、使い魔などで現地で索敵するようにすれば効率もいいだろう。
その辺発明とかでなんとかなればいいのだが、帰ったら提案してみようか。
なんにせよ人材が足りていなかった。どう考えても召喚をすべきなのだが、石がない。一応、道中で見つけたものを拾ってきたりはしているのだけれど、それでもまだ二つしか見つかっていない。石を材料にするなとよくよく言い聞かせねばならないだろう。
ある程度対策は練ってきたものの、いざ現地に来てみれば、色々と改善点が浮かび上がる。予想外のものに対する襲撃に対しての備えが足りていない。
いくつかの案を考えながらジョニィは眠りについた。
□
四時間ほど眠ってから起き上がる。夜も更けた頃合いではあったが、幸い空は晴れていて、月の明るさで辺りは充分見渡せそうだった。
身支度を整え移動を開始する。
道中、ヴヴン、と音がして、通信が繋がったことを察したジョニィは通信機に目をやった。
『………よかった………やっと繋がった………』
「ロマン、無事?」
『なんとかね……、ねぇジョニィくん、僕から頼んでおいて申し訳ないんだけど、次の特異点はエジソンを連れていってくれないか…。あの、大人しく整備に戻ってもらうまで大変で大変で…。それにほっとくとダヴィンチちゃんと結託して違うことやりだすから、いっそダヴィンチちゃんだけをひたすら整備班に回してた方が効率いいかも………』
「あー、うん……わかった。あっ、送ってないから大丈夫だと思うけど、二人に石を素材にするなって伝えておいてもらっていい?やっぱ人手が足りてないよ、召喚に使いたい」
『あー、そうだね、……、うん、確保できるように隠し場所でも作っておくよ。そういえば、さっき反応が止まってたけど、休んでた?戦闘があったわけじゃないよね?』
「うん、ちょっと仮眠とってただけ。これから朝まで休憩しつつ移動して、オルレアンに近づこうと思う」
『了解、そしたらナビゲートをしよう。途中の街は通っていくんだよね?』
「ああ」
『そうしたら………そうだね、少し右手の方に進路を修正してくれ、恐らくその先に街があるはずだ』
「りょーかい」
道中出てくる敵を倒しながら、ロマンのナビで方向を修正しつつ歩くと、確かに街が見えてきた。
悲しそうな顔でマリーが俯く。
「………そう、この街なのね…」
「あー……、ここも滅びてるのか」
「………ええ、生き残った人達は誘導して砦に連れていったけれど…」
「…………そうか。……ってことは、滅びて結構経ってるってことだね、どうしようか、迂回して他にいく?」
『いや、その街にはサーヴァント反応が二つある。夜間だし両方ともはぐれだとは思うけど……』
びくっと震えたサリエリが慌てて耳をそばだてるような仕草をして、しばらくしてほっと息をつく。
「たぶんあの女どもではないな」
「……そんなにダメ?」
「音に対する冒涜だ、ぶち殺してやりたいが近寄りたくもない………いやだ…………」
本当にどんなサーヴァントだったのか気になるところである。音楽家が嫌がる音痴ってなんなんだ。
とりあえずジョニィを中心に陣を組み、ロマンの通信を最低限の音声に絞ってもらう。出来るだけ気配を殺しながら(殺せているのかもあまり自信はなかったが)、ゆっくり街に入っていく。
途中まで進んだところでロマンから通信が入った。
『片方のサーヴァントが気がついた!そちらに真っ直ぐに向かっている!もう片方は君たちとは反対側の端から動く様子はなさそうだ!』
「了解!防御体勢!」
お互いの距離を縮めてそれぞれ武器を構える。
万が一、夜間になってもオルレアンに戻っていないサーヴァントだった場合、油断して話しかけたら攻撃された、なんてことになりかねない。
『方角3時!距離1000!900……800…………うっわはっや、500……350……』
「ロマン!視認できないぞ!?」
『嘘だろ!?もう見えてていいはずだ!100きってる!』
「はぁっ!?」
サリエリが叫んだ。
「ジョースター、そのドクターは本当に信用できるのか!?」
「ロマンを信用できなくて誰を信用するんだよ!?クソ、どこに、」
「…………ジョースター?」
ジョニィの
もやというか、影のようなものから腕が二本伸びていて、徐々に集まりその形が人に近づいていく。やがて黒いコートに金髪の男がその場に姿を表した。
「ジョースター……ふむ………」
どうにか身をよじって抜け出そうとするも全く身動きがとれない。現れたタスクが必死に押さえつける腕を引っ掻いていたが、霧のようなものが出るばかりで効果があるようには見えなかった。
恐らくは、薄く霧状に拡散した状態で接近してきて、ジョニィの背後で形をなしたのだろう。
マスターを抑えられたサーヴァント達は手を出せないでいた。
「確か、この辺りに……」
唐突に持ち上がった腕が、カルデアの制服の襟をインナーごと引きちぎる。抵抗していたジョニィは思わず固まった。何を考えているのだ、こいつは。
ジョニィの肩にある星のアザが晒される。
「ああ、
疑問符を浮かべながらも爪がジョニィの肩口を切り裂いていって、痛みにジョニィは身を震わせた。
傷を撫でた指がその男の口元に持っていかれ、血液をなめとられ…………、にぃ、と嗤った。
「ああ、そうだ、よくわからんが………、
「はぁ!?知るかよキモッ!!!はなせよ吸血鬼め!!!」
「余は吸血鬼ではない!!!………いや、吸血鬼………?いや、そもそも、何故ジョースターという言葉にひっかかる?馴染む血?馬鹿な、そんなものはあるはずが………余は……余は……?」
唐突にジョニィを離したその男は、刹那、こちらがびっくりするほど勢いよく後ずさった。慌ててマシュがジョニィを確保する。
「なんだ?これは?また余は何かに侵されたのか?余は吸血鬼だ、だが吸血鬼ではない、ジョースターなど知らぬ、だが、知っている……?余は、ヴラド三世だ、そうだ、それで、吸血鬼で………いや、違う、なんだ、なんだ、なんだ、なんだこれは!!!!!!」
男はひどく錯乱して頭をかきむしっている。その隙に、ジョニィ達はじりじりと距離をとった。
『………ヴラド三世って言ったよね?』
「言ったね。吸血鬼伝説のモデルにされたルーマニアの領主だったっけか」
「そうだね。宝具かスキルかなんかで吸血鬼になれるんだろう。吸血鬼の特性をフルに使われた、ということだろうな……、僕の刃が通るかどうか」
「吸血鬼は弱点も多いですけれど、捕まえる前にあの霧のようなものになられたら、どうしようもありません…!」
「朝日がのぼるまで逃げ切ればいいのかしら……」
「サーヴァントだからそれで消失するとは限らんだろうな……、さて、」
狂ったように頭を振り乱していたヴラド三世ががばりとジョニィを見据えた。
「ジョースターは我が怨敵だ、マスターも同じく我が怨敵だ、ジョースターは関係なくても、要は貴様を殺せばこのよくわからない衝動はおさまるだろう!? 血を寄越せ!!ジョースタァアアアアアアア!!!!!」
「嫌に決まってんだろ!!ていうかなんだよサンソンといいあんたといい!オルレアンは変なのばっかりか!!」
「僕は変じゃない!!!」
「ごめんね!!!!!」
絶対狂ってる。夜間にこんなところにいるのは謎だが、絶対これははぐれではなく敵側のサーヴァントだ。
にしても、召喚者は頭がおかしいのだろうか。狂化を付与する必要があったか?それもこんな、何かを拗らせるような狂化ばかりをかけるなんて!アーチャーだって弓で攻撃してきたかと思えば大口あけて突進してきたのだから似たり寄ったりだし。ジャンヌ・ダルクがまさか頭のおかしい奴らを侍らせて遊ぶのが好きな変態なのだろうか。えぐい乙女ゲーでもやってろって感じである。
サンソンが前に出て、襲ってきたヴラド三世を切り裂くも、霧が飛び散るだけでなんの変化もなかった。それどころか、飛び散った霧がコウモリに変化して真っ直ぐにジョニィに突っ込んでくる。
サリエリが咄嗟に腕を振り上げ、演奏による物理的な
「ああああ、う、うううう、WWWW、WR………、ちが、違う、違う違う!余は!この、」
「どうする!?誰かニンニクもってない!?」
「ニンニク入りの食事は持ってきてません!」
「あー、吸血鬼、吸血鬼……杭?銀の弾丸?聖水?………あー、なんか讃美歌とかきかなかったっけ!?」
「それは女吸血鬼の方だろうが!!……やってはみる!」
叫んだサリエリが指揮をとるべく腕を振り上げた時だった。
『戦闘中にすまない!もう一人サーヴァントが接近してきている!』
「なっ、もう一人って街の反対側にいたやつ!?」
『早い早い、もう接敵する!!』
その頃にはジョニィ達の耳にも、高らかな嘶きと馬の足音が響きわたっていた。
ヴラド三世とジョニィ達を分断するように、白馬に乗った騎士が飛び込んでくる。白地に赤の十字が染め抜かれたセントジョージ・クロスのサーコートを翻らせ、そのサーヴァントは高らかに宣言した。
「戦いは苦手ですが、旅人を襲う魔がいるとなれば話は別です。サーヴァント・ライダー。あなた方に協力いたしましょう!」
相手がルーラーだと知らないせいで隠密行動に意味がないことを知らない一行。
Q.ヴラド三世どうしたの?
A.宝具:
後世に広まった「吸血鬼ドラキュラ」のイメージそのもの。
後の口伝によるドラキュラ像を具現化させ、吸血鬼へ変貌する宝具……なのだが、強力な狂化の付与により、ドラキュラ伝承、というよりは全体的な吸血鬼伝承を拾ってしまっている模様。そのせいで、どこかの世界の奇妙な物語をわずかながら拾ってしまった様である。
ジョニィであったためにこの程度で済んでいるが、ジョナサン、ジョセフ、承太郎のいずれかとの遭遇だった場合、即殺し合いに発展していた。