また、声が遠かった。
「死にかけのマスター、気配遮断の下手くそなアサシン、震えた女。だが、その娘は面白い。試してやろう」
馬鹿にされた気がする。ぼくも、サンソンも、所長も。
「
「マスターも、所長も!!!私が、守る!!!!あ、あ、あああああああ!!!!!」
熱と壁がぶつかって、その隙に。
「気配遮断は確かに三流ですが。僕は暗殺者ではなく
「なんっ、だこれは……!」
「貴方は街を破壊した!貴方は僕らを殺しかけた!それを罪として!僕は貴方を処刑する!!」
「う、あ、ああああああああ!!!」
ごとん、と何かが落ちる音がした。ごっそりと何かが持っていかれている。寒い。寒い。ひたすらに寒い。凍えきっている。 でも、まだ。まだ。駄目だ。
「セイバーの消滅を確認しました…!でも、その後に、あれは…?」
「水晶体、でしょうか?」
突然光が巻き起こる。なに、だれ、なんだ?
「キャスター!?」
「あーくそ、時間切れだ……、だが、よし、よし、よーし!お前らほんとによくやった!!セイバーは倒れ!俺は敗北による消滅でなく、強制退去が始まってる!アサシンも!嬢ちゃんも!!所長も!!……そんで、マスターも。あんまり聞こえてなさそうだが、うん、よくやった!」
喜んでる。キャスターが。いや、全員が。キャスターは、でてきてよかったんだっけ、おわったから、いいのか?
「キャ、スター…?」
「ああ、なんだ聞こえてんじゃねぇか。おう、終わったぞ。やり遂げたんだ、誇れ!……ってやっぱ時間がねぇな、ええい、お前の歩む道筋に、どうか幸あらんことを!!!」
消える直前に、キャスターが何かをしてくれた。ほわりと、暖かくなる。寒くない。暖かさを噛み締めて、その暖かさが身体中に巡っていくのを確認する。なんだかさっきよりもものがよく見える。サンソンが近くに戻ってきた。
「終わったようです。マスター?大丈夫ですか?」
「……ん」
声も、さっきほどは遠くない。
「ちょっとしゃんとしたかしら?キャスターが魔力の譲渡をしてくれたみたいだけど……それでも反応が鈍いわね……やっぱり早く戻らないと……、とりあえずマシュ、あの水晶体を回収してきてちょうだい。そろそろカルデアから通信がくるはずよ、たぶんそれが原因でしょうから、持ち帰って調査しないと、」
「それには及ばないよ」
知らない男の声がした。いや、知っているのかもしれない。どこかで聞いたような気もする。
「………レフ?」
「そんな状態でこちらにくるのはつらいだろう、僕が回収しておこう」
「レフ?レフなの!?」
所長の今までにない叫び声と、衝撃。全身が地面に打ち付けられる。悲鳴も漏らすことができなかった。所長に振り落とされたのだと理解する。肺につまっていた空気をしこたま吐き出して、ひきつる腹では咳き込むことも出来ずにただ悶える。
マスター!と叫ぶ声と、抱き起こしてくれたサンソンの顔が霞む。
「死にかけ、まさに死にかけだ。そのまま放っておいたら半日ももたずに死にそうだったから、そのまま死ねと放逐しておいたのに。一般枠のみそっかす。それがここまでやるなんて、……ああ、認めよう、僕の失態だ」
『…………レフ教授か?』
「おや?その通信はロマニか?君は生き延びたのかい?すぐに管制室に来るようにと言ったのに……ああ、どこかでサボっていたのか、それで到着が遅れたのかね?全く、どうしようもない……」
空気が変わる。どうしようもなく、重く、冷たく、刺すようなものに。庇うようにサンソンはぼくを抱き締めて、右手には大剣を。その前に、盾を構えたマシュの背中が見える。隣にあったはずの所長の足は、ふらふらと、マシュを邪魔だと言わんばかりに押し退けて、
「だめ、だ、所長……!」
「レフ、レフ、レフ、レフ!!!ああ、よかった!生きていたのね!!生きてるマスターは今にも死にそうだし!!予想外のことばかりで、私どうにかなりそうで!でも、あなたがいるなら大丈夫なのよね、なんとかしてくれるのよね!?」
「……ああ、なんだ、何でいるのかと思えば。オルガ、君はもう死んでいるじゃないか。それでレイシフト出来たと」
「…………え?」
何を、いっているのだろう。
「体が死んだからと、死して尚思念体だけでレイシフトするだなんて、君はどれだけレイシフトしてみたかったんだい?だがもうカルデアにも戻れない、ただ消えるだけだ」
今、なんて?
カルデアに戻ろうと、所長と、約束したのに?
「ああ、でも、帰りたいよな?」
その男の隣に、何かが開く。開いた
「ご覧、カルデアに繋げてあげたよ。ほら、君の大好きなカルデアスだ。もはや人類の生存を示す青色はどこにもない。あるのは燃え盛る赤色だけだ。これが今回の任務の結果だよ」
「なに、これ……、そんな、なにこれ、なによこれ!!なんなのよ!!!」
「ああ、全くうるさいなぁ。うるさいけど、まぁ、僕は慈悲深いからね。そら、
所長と、マシュと、たぶんぼくの、叫び声。サンソンだけは沈黙していたけど、抱く手は痛いほど強かった。はっきりしてきた視界の向こうで、不自然にあいた穴があって、真っ赤に燃える溶鉱炉のような球体にずぶずぶと沈みこんでいく所長の姿が、
「………さて、では名乗ろうか。レフ・ライノール・フラウロスだ。貴様たち人類を処理するために遣わされた、2015年担当者だ。カルデアは不要になった。聞こえているかな?ドクター・ロマン」
『……カルデアが、不要になった?』
「ああ、そうだとも。未来は既にない。全ては焼却された。人類はここに絶滅したのだ。カルデアはカルデアスの磁場に守られているから残っているだろうがね、外界は、すべてこの街と同じく終わっているのだよ」
『…つまり、救援要請を送っても、答えがないのはカルデアの機器が壊れているわけではなく、そもそも受けとる側が存在していないと』
「ああ、うん。さすがに飲み込みがはやい。その通りだ。ああ、もはや、誰もこの偉業を止めることはできない。これは人類史による人類の否定だからだ。貴様らは、自らの無能さに、自らの無価値ゆえに我が王の寵愛を失ったがゆえに、終わるのだよ」
長ったらしいそのやり取りが本当なら、連想できることがある。
「…………おい……待てよ……!」
「なんだい、死ぬ三十秒前のマスターくん」
「つま、り、お前……っ、ぼくの、家族も友じ、んも、…ッゲホッ、なにもかもを、
「その通りだ、同じことを二回も言わせないでくれたまえ」
嘲笑うように言い切った男がいた。目の前が真っ赤に染まる。どこにそんな力が残っていたのかもわからなかった。地面に再び顔を打ち付けて、はじめてサンソンの腕を振りほどいて目の前のそいつをぶち殺そうとどうにかもがいたことに気づいた。
ハァーッ、ハァーッ、と無様に荒く息を吐く。せめてもと震える指をどうにか握り、顔も腕も体も何もかもを起き上がらせる力は既になく、全身を泥にすり付けて、それでも尚、まっすぐ指をその怨敵につきつけた。
「つまり、あれだ、あんた、
男は、虚をつかれた顔をして、一拍。
「ギャハ、ギャハハハハハハハハハ!!!!!!!!笑わせてくれる!そんな虫けらのような様で!!!この僕に!指差して
ぱすん、と何かがうちこまれた感覚がした。
「
みしみしと、
「う、わ、あ、あ、あ、あああああああああああああああああ!!!!!!!」
「ではさらばだ諸君!」
笑い声と共にレフ・ライノール・フラウロスが消える。
既に世界が崩れかけていた。叫び、のたうちまわりながら暴れるジョニィをどうにか押さえつけながら、サンソンは叫んだ。
「マシュ!こちらへ!!ロマニだかロマンだか知りませんが、早くレイシフトを!」
『もうやってる!!その空間が消える前には完了するから、出来るだけ固まっててくれ!ダヴィンチちゃん、出現予想地点で待機を!』
「わかった!…マシュ、マスターを押さえるのを手伝ってくれ、このままじゃこの人は自分で自分を殺してしまう!」
「はっ、はい!!」
悲鳴と怒号が光にのまれて消えた。
─汚染炎上都市冬木、修復─
指差して呪いの言葉を放ち、相手に害を及ぼすのがガンドでしたね。
ジョニィ・ジョースターには家族がいる。原作でだって、妻のために一国家を敵に回した男が、呆然としているだけなわけがなく。