「………あれ?もう演奏は終わったけど、なんでいるの?余韻を楽しむのは結構だけど、僕の邪魔をしないでくれよ」
「………お願いが、あります」
「なんだい?僕は僕の音楽活動を邪魔しないでくれって最初に言ったよね?それ以外は好きにしてくれていいって聖杯だってあげたのに。なのになんで僕にまだことがあるの?」
「…
「特に特別なことはしてないよ?僕は曲をつくって演奏してるだけだろ。それを勝手に聞きに来て、勝手に依存して、勝手に
「我々の命を握っておいて、なんという言い草か!!!」
「うるっさいなぁもう、知らないもんは知らないよ。出てってくれよ、なんなら僕は演奏せずに作曲だけしててもいいんだぜ」
「………っ、この……!失礼します!!」
「………まぁ、作曲するってったって弾きながらしたりもするんだけどね?」
「しかしまぁ、悪魔的な音楽、なんて言われもしたけど、実際に悪魔になってみるとこんなもんか。曲の出来はあんまり変わんないや」
「演奏は………変わってるのかなぁ、変わってる気は全然しないんだけど、あんなこと言われたってことは変わってるんだろうなぁ」
「まぁ、いっか。曲を作ろう。この体は今度は途中で死んだりしないもんな」
□
「…なにか、とてつもない悪夢を見ていたような……」
「あっ起きた。おはようサンソン、残念ながら夢じゃないよ」
「!?」
飛び起きようとして、自分が直立不動で突っ立っていることに気づいた。
辺りを見回すと、草原のような場所だった。レイシフト直後の場所に似ていたが、そうではないようで、離れたところに街の城壁が見える。そして、相変わらず地面に座っているジョニィと、その前に立つマシュ、そしてサリエリとマリーがいるのが見えた。……………遠くに。
「……?状況がよく飲み込めないんだが……」
「君をつれてくるのは大変だったんだ、足を負傷させたとはいえ放送禁止用語スピーカーの横で正気を失ってるもんだから、マシュに担いできてもらったんだよ。具体的に言うと盾に二人乗っけて盾を担いでもらったんだけどね?成人男性二人を担がせてしまった時点でぼくも色んな意味で死にそうになったけど」
「その、マスターはこう言ってますが、案外なんとかなりましたのでお気になさらず…!」
「…………あー……その、それは、悪かったよ」
「で、その、だな?あのやっべぇサンソンがいたじゃん?」
「あれは僕じゃない………」
「いや気持ちはわかる。スッゲーわかる。ぼくにだって人に言いたくない性癖くらいあるさ」
「…………」
「こちらの二人に話を聞いたんだが、敵方のサーヴァント、全員狂化した状態で召喚されて、従わされてるらしくてな?」
「……?、!、ああ、」
「まぁ狂化されてるってことは普通じゃないんだろうけど、ほら、狂気の種?みたいなのはあると思うんだ」
「……おい?ジョニィ?」
「正気に戻ったとこで大っ……変申し訳ないんだが、ぶっちゃけ君あのサンソンの言ってることちょっと共感しちゃったりとかしなかった?具体的に言うと、ほんとはそう思ってるとこもあるけどまぁ言うことじゃないしいっかみたいな感じで性癖を隠しているとか。あっマシュは耳塞いでて」
「えっ」
笑顔でマリーがマシュの耳を塞いで、マリーの耳はサリエリが塞いだ。
「ほら、これで男衆にしか聞こえないから。言っていいよ?例えばこう、マリーアントワネットには欲情しかけたことがあるとかでm「そんなことあるわけないだろ!!!」……………そっかー……」
食い気味の返答に若干ひき気味のジョニィである。
「なんでひくんだよ!僕はあんなこと思ってないし!!!あれは!!!僕じゃない!!!!!!」
「ほんとに?」
「ほんとに!!!」
「マシュとか女性職員のうなじとかに欲情してたりしない?」
「してない!!!!」
「……………ほんとに?」
「ほんとに!!!いい加減怒るぞ!!」
「もう怒ってるじゃん………悪かったよ、一応あの、なんていうか、我慢させてるとかだったら聞かなきゃなっていうのと、安全確認をね」
「……………………………………………………………………やらなきゃいけなかったんだろうなっていうのはわかったけど、後でちょっとお話があります」
「ごめんって」
思いっきりため息をついて四人の元に歩み寄る。フランスにきてからため息をついてばかりな気がして、またため息が出そうになった。
「それで?正気を失ってたのは申し訳なかった。情報を僕にももらっていいかい?」
『いやー、正直あれはしょうがないって。あれと同じようなことが起きたら僕もすぐに受け入れられる気はしないもん』
「ドクターも聞いてたんですか………うっわ」
『嫌そうな顔しないでくれよ!!僕だって傷つくんだぞう!』
茶番を済ませて、頭を切り替える。
「それで?」
『説明は僕からでもいいかい?一応話途中だったし、補足があればお願いします』
「はーい、大丈夫よ」
「よろしく」
『まず、基本的なところからいこうか。時代は1431年のフランス、百年戦争が行われていた辺りだね。細かいところをいうと、ジャンヌ・ダルクが処刑されてから二週間くらい経過しているんだけど…。お二人の証言によると、ジャンヌ・ダルクが復活したらしい』
「……復活?」
ジャンヌ・ダルクは聖人ではあるが、復活の逸話はなかったはずだった。
そうよ、とマリーが頷いた。
「さっき遭遇してたから間違いないわ。サーヴァントだったわよ、悪い表情に黒い装束で、綺麗なお顔なのにもったいないって思ったの」
「…………そこまでは聞いてなかったぞ、ちゃんと距離とれてる?ロマン?」
『大丈夫、今のところ僕らが調査できる範囲にサーヴァントの反応はないよ』
「お城に帰るっていってたし、それでもやっぱり私たちを追いかけるってあのサンソンが残って追いかけてきたのだもの。あのサンソンをふりきれたのなら大丈夫よ!」
ジョニィの顔が、さっきふりきれてなかったからああなったんだよなぁ、と言わんばかりの顔をしていた。マシュもちょっと遠い目をしている。
『ええと、話を続けるね?そのジャンヌ・ダルクは、ワイバーン等の竜種、それから狂化したサーヴァントを率いてフランスを荒らし回っているらしい。巨大な竜の目撃談もあるそうだから、もしかしたらその竜をどうにかして操ることで、ワイバーンなんかを産ませて使役しているのかもしれないね』
「……………つまり、ジャンヌ・ダルクが?あの僕であって僕じゃないあれを?召喚したかもしれないと??」
「キレてる?」
「キレてますね……あれは怒っていいと思いますけど」
「だから聞こえてるって!」
マスターとマシュのひそひそ話に怒鳴って、もう、とまたため息をつく。ため息の回数を数えるべきだろうか。
「……それで?」
『もう間違いようもないから、敵と呼称してしまうけど、敵はオルレアンに陣取ってる。最初の頃は昼夜問わず暴れまわっていたようだけど、ここ一週間は夕方にはオルレアンに帰城しているらしい』
頷いて、サリエリが口を開いた。
「………そのお陰で戦線は現在小康状態だ。生き残ったフランス人はあちこちで集結しだしている。最も、代わりに夜は魔獣が活発化するようになったが」
「魔獣ね……、まぁ、別に宝具使うわけじゃないんだろ?それなら夜に接近して、何か仕掛けるなら昼って感じかな」
「そうなるだろうな」
「……なんだか、落ち着いていらっしゃいますね?」
サリエリの発言にマシュが首をかしげた。確かに、遭遇時よりは落ち着いた様子を見せている。落ち着いた、というよりは理性的、というか、喋る言葉が理路整然としている、と言うべきか。
「……我がクラスは
「それで理性的なのか?」
「やはり貴様は殺すか?」
「はい、そこまで!」
途端にメンチを切りあいはじめた二人の間に慌ててマリーが入る。
要するに、アントニオ・サリエリと伝承の『灰色の男』の融合した英霊であって、本人としては『灰色の男』としての自意識が強いのだろうが、サリエリでも勿論あるから、特に自己紹介のようなものをすると混乱してしまうのだろう。
『やけにサンソンくん苛立ってるよね………ってあんなことがあった後じゃ当たり前か』
「サンソンより意味のわからないものはないとかぬかされたのが、
「八つ当たりか無様だな」
「は?」
「もう!!サリエリ、サンソンもそこまでにして!」
サンソンの機嫌が悪いにしろ、サリエリに突っかかるのはちょっと違和感がある。サリエリ側はサリエリの普段を知らないのでなんともいえないが、たぶん元からあんまり相性がよくないのかもしれない。それかむしろ同族嫌悪か。
片やオーストリア、ローマの宮廷楽長、片やフランスの処刑執行人である。見知った程度のようだが、どうしてお互いを見る機会があったのだろうか。サンソンがフランスを離れることはなかったろうから、たぶんコンサートか何かでサリエリの方がフランスに行ったことがあったのだろう。もしくは、英霊になってから遭遇した記録が座でも残っていたか。
やれやれ、とジョニィは会話を戻す。
「さて、そうしたら今後はどうしたもんかな…。仲間になってくれそうなサーヴァントとかも、あんたたち以外に召喚されてるといいんだけど。野良サーヴァント、なんだよな?」
「ええ、私もアントニオもマスターのいないはぐれよ」
「他にもはぐれがいるなら協力頼めるといいんだが……キャスターとか召喚されてないかなぁ……。戦力的には竜を倒したことある英霊とか、聖人殺しの英霊とかがいればほしいけど……キャスターいないかなぁ……」
「キャスター?……ごめんなさい、見たことがないわ。ランサーとバーサーカーは見たのだけど……」
「絶対に近寄りたくない」
サリエリがマリーの言葉を遮る。
やけに強い口調に四人全員の視線がサリエリに集まった。
もう一度サリエリはいう。
「絶対に近寄りたくない。あの冒涜的な音痴に飽きもせず繰り返すキャットファイト、仮に指導を命じられたとして金を払ってでもお断り申し上げる。絶対に近寄りたくない」
「ええと、ごめんなさいね、サリエリがこんな感じだから、接触はしなかったの」
「えええー………」
「あれに交渉しにいくなら私は絶対に協力しない。絶対に近寄りたくない」
ひたすら死んだ目で絶対に近寄りたくないと繰り返すサリエリにむしろ興味が沸いたのだが。
「鼓膜が吹っ飛んで脳みそも垂れ流したいなら一人でいってくるといい。私は絶対に近寄りたくない」
とのサリエリの言葉に断念することにした。さすがに死にたくはない。
「…………私はお友だちになれると思ったのだけどね」
「いくらマリーでも駄目だ」
「そんなにかー……。うーん、そうしたらあれだな、他のサーヴァント探しは一旦保留にして、霊脈に行きたい」
「霊脈?」
「カルデアからの物資を受けとりたいんだ。いつまでも担がれたまんまっていうのもね」
「それはどこにあるの?」
『君たちから見てちょうど街のようなものが見える方角だね、街を通りすぎた先の森の中だ』
「………そう」
「聞いた通りの戦況なら担がれてても違和感ないかな?」
「いいえ。……………いいえ」
マリーが泣きそうな顔で首を振る。
「あの街、もう滅びてるの。二~三日前までは上空をワイバーンが旋回していたりしたのだけど、それも無くなってるってことは、」
「…………もう、生きてるものはいない、ってことか」
冬木でジョニィは死線をさ迷った。
心臓こそ止まらなかったものの、心臓が止まらなかった
いくらカルデアの設備が世界的に見て高水準だったとしても、回復にはそれなりの時間がかかったし、そも、カルデアの設備そのものも爆破の影響で万全ではなかった。
まず意識が戻るまでに時間がかかったし、上体を起こせるようになるまでもそれなりにかかったのである。
本来ならば、第一特異点が発見された時点で急行できたところを、ジョニィのリハビリ等の時間を割いたために、発見から二週間と少しでやっとレイシフト出来たのだ。本当はもう少し時間をかけなくてはならないのに、とは医師としてのロマンの言葉で、それでもごめんよ、今君を送り出さないと取り返しがつかなくなる、とは所長代理としてのロマンの言葉だった。
もしも、爆破に巻き込まれなかったのなら、あの街は滅びずにすんだのだろうか。
そんなことを、ジョニィは思う。
あの街の滅びは、あの時もしも誰かが革命に動き出さなかったら、とかそういうレベルではなく、最早人がどれだけ生存しているのか、というレベルまで崩壊が進んでいる、その証なのだろう。
人を救わなくて、どうして人理が救えるのか。
元凶をぶち殺すのはもちろんとして、人理を救い、世界を取り戻さなければ、ジョニィの家族は戻ってこないのだ。
「…………移動しよう、一応街も見ておきたいから、街の中を突っ切る」
精神的には絶対殺すマン七部より八部ジョニィよりな感じ。それはそれとしてぶち殺すけど。
エリちゃんときよひーは今回は出番なしで。すまない。