『今回彼女達が探索するのは、6年前に廃校となった──』
事務所の液晶テレビに、3人の姿が映されている。
自分達が出演している番組を、芳乃は緑茶をすすりながら。
小梅は目を輝かせながら。
幸子は小刻みに震えながら、小梅の影に隠れて視聴していた。
『校門の前で立ち止まる小梅ちゃん、一体何が──』
「……ここ、結局何してたんです?」
「あの子が……学校名、気にしてた……から……。」
当時は恐怖でそれどころではなかった幸子が、小梅の不可解な行動について問う。
その返答を聞くや否や、その顔色が一層青くなった。
これからは、小梅の言動についてやたらと質問するのは止めよう。
目尻に涙を溜めながら、幸子は最近学校で習った「口は災いのもと」ということわざを思い出していた。
『何も無い空間に向かって、1人語りかける──』
「心霊写真、といったようにはいかなかったのでしてー?」
小梅の前に在ったはずの気配、要するに幽霊。
それは、小梅以外の人間に直接視ることはできずとも、写真や動画。
つまりは記録媒体を通せば、霊感の無い者の目にも映るようになる。
……といった古典的なイメージを、芳乃は何となく抱いていたのだが。
目の前の画面には、虚空を見つめる小梅だけが映っていた。
「恥ずかしがりやさん……だった……みたい……。」
「ほー?」
小梅の端的な回答の意味が掴めず、芳乃は控えめに首を傾げる。
その動作を見て、小梅はより詳しい解説を始めた。
要約すると。
幽霊が記録媒体に映る(若しくは写る)のは、その幽霊が生者に視られることを望んだ時のみ。
本人の意志によって、被写体となるかならないかは自由に選択できる。
学校に居た幽霊達は、皆映らないことを望んだ。それを小梅は「恥ずかしがりや」と表現した。
小梅の友人である「あの子」が映っていないのも、本人がそれを望まなかったからである。
逆に、小梅を始めとした霊感を有する人物が直接その目で視る分には、幽霊の意志は関係なく視え。
また、視る側の意志によって、幽霊が視えないようにすることも可能とのこと。
ただ、小梅は幽霊が好きなので、普段から視えるようにしているらしい。
「ほー……。」
小梅の話に聞き入り、芳乃は感心したように息を吐く。
霊感の無い人間に対しては、記録媒体さえ通せば自由にその存在を知らせるか否かを選択できるが。
霊感のある人間からは、どんなに視られたくなくてもその人間の意志次第で強制的に姿を暴かれてしまう。
幽霊も色々と大変なんだなぁと、芳乃は彼等を心の中で労った。
『土地に縛られていた少年少女。彼女達によって、漸く旅立つことが──』
視線を小梅からテレビに戻すと、既にスタッフロールが流れ始めていた。
締めに向かうそれっぽいナレーションと共に、3人の功労者の姿が映される。
普段の落ち着きを崩さない芳乃。慈しむような目で夜空を見上げる小梅。
そして、そんな2人にしがみついて離れない、目を真っ赤にした幸子の姿が。
「……疲弊しきったボクもカワイイですね!」
その自信は何処から来るのだろう。
しかし確かに可愛らしいので、芳乃は何も言わないことにした。
「じ、じゃあ……プロデューサーさん、呼んでくる……ね……?」
番組が終わり、画面が真っ暗になったことを確認して。
小梅は幸子のプロデューサーの元へ向かう。
……程なくして、1人の男がテレビの前に立ち、プレイヤーからDVDを取り出した。
「問題は無かったのでー、このまま放映してもよろしいかとー。」
芳乃の言葉に、小梅も頷く。
それを見て、彼は2人に礼を述べ、自分のデスクへと戻っていった。
「……ボク、要ります? これ。」
プロデューサーからの頼まれごとを済ませ、幸子はぐったりとソファにもたれかかった。
先日撮影した映像の確認。
それが、事務所に来た3人に、幸子のプロデューサーが頼んだ内容だった。
番組で共演した2人が事務所に訪れたことは、幸子のプロデューサーにとって都合が良かった。
もうオンエアできるように動画は作成済みだが、如何せん内容が内容だ。
世間一般の目に触れてはいけないモノが無いか、その筋の意見を聞く必要があった。
その点、芳乃と小梅は適任であった。
その筋の者であり、番組の関係者であり、信用できる人物だ。
特に幸子と仲が良く、仕事でも共演する機会が多い小梅は、幸子のプロデューサーとも既知の仲であり。
彼は小梅に深い信頼を置いていた。
「可愛くないところ……あったら、大変……。」
小梅が口にした、幸子が映像を確認する理由。
それは幸子のプロデューサーと小梅が適当に考えた、ただの口実だった。
「それは大丈夫です! ボクはいついかなるどんな時でもカワイイので!」
幸子の性格をよく知る2人は、どんな姿が映っていたとしても彼女がOKを出すことは分かっていた。
その上で幸子を付き合わせたのは、単に反応が見たいからという、私利私欲にまみれた動機であり。
こと幸子をビビらせるにおいて、幸子のプロデューサーと小梅は抜群のコンビネーションを発揮する。
お馴染みの気を読む能力でそのことを何となく察した芳乃も、今回それとなく加担した。
この場に居る幸子以外の全ての人間が、幸子の反応を見たいが為に、本来見る必要のない映像を見せようと結託したのである。
結果、どんな姿が映っていようと編集を要求することはないと心に決めていながら。
それでも、あれよあれよとソファに座らされてしまった幸子。
彼女は未だ真実に気付かない。だからこそ可愛いのだ。
幸子以外の3人は、アイコンタクトで互いの健闘を称え合った。
「……ではー、わたくし達はこれで、おいとま致しましてー。」
元々の目的であった幸子の予定確認も済ませ。
プロデューサーから頼まれた映像のチェックも終わり。
今日の幸子のすることは、後は家に帰るのみ。
あまり他所の事務所に長居するのは迷惑だと判断し、芳乃は腰を上げる。
「う、うん……。そう、だね……。」
「いいい一緒に帰ってあげてもいいですよ? ボクはカワイイので!」
芳乃の声に反応して。
ゆったりとした動作で小梅が、精一杯の強がりを見せながら幸子が立ち上がる。
窓の外はすっかり暗く、ついさっきまで心霊番組を見せられていた幸子は、1人で帰れる気がしなかった。
「はいー、ご一緒させてくださいませー。」
芳乃はその姿を見て、くすりと微笑んだ。
幸子の家の玄関に立ち。
幸子を送り届ける責務を全うした芳乃は、その場に立ち続けていた。
幽霊の未練は、彼女の家にあるのではないか。
その疑念を払拭するための行為だ。
芳乃は、幸子の家に巡る気を読み取ろうとしていた。
幸子に憑いている幽霊は1人。
そして、幸子が考える限り、その未練に思い当たるものは無い。
あくまで「幸子が考える限り」だ。
幸子の気付かない、しかしとても近いところ。
そこに未練の手掛かりがある可能性は、十二分に存在する。
それが幸子の家ではないことを、芳乃は確認していた。
番組の撮影の際。
学校全体に、非常に重苦しく、悪い気が流れているのを、芳乃は感じていた。
そして、その場所には子供の幽霊が大量に囚われていた。
この経験から、芳乃は1つのことを学んだ。
幽霊が成仏できない原因の土地には、悪い気が流れている。
「……杞憂、でしたかー。」
ゆっくりと身体の緊張が解けていく。
幸子の家に巡る気は、悪いものではない。
当然幸子本人も、至って健康的な。
むしろ、非常に良い気が流れていることが、今日1日観察し続けて判明した。
これで1つの可能性が潰えた。
幽霊の未練は、幸子の家には存在しない。
確認を終えた芳乃は、ほっと胸を撫で下ろし、帰路についた。
information : データが更新されました
[Tips] 白坂小梅
幽霊を直接視認し、直接コミュニケーションを取ることが可能な人物。
視る・視ないを選択することもできる。幽霊が多すぎて視界が確保できない時などに有効。
ただ、本人は幽霊が好きなので、特別な理由がない限り視えるようにしている。
幽霊の友達と常に行動を共にしている。呼称は「あの子」。
【error】データの一部が改竄されています
〔Mission List〕
・幽霊の未練を晴らしてください
・白坂小梅の動向を観察してください