極東の地方都市冬木。その街を通る未遠川の上に広がる漆黒の夜空
その中から、これまた漆黒の髪を持った少女が黒い彗星のように落ちていく。
真っ直ぐに
彼女はパラシュートなどスカイダイビングに必要なものを一切つけず、只々地球の重力に身を任せて落ちていく。常軌を逸した行動だが、彼女は自身が死なないことを知っている彼女に魔術と、従者たる狂戦士がいる限り
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「待て、凛」
そう言って弓兵は自身の主人に足を止めるよう進言する
かなりぶっきらぼうに聞こえる一言だが、これが彼なりのやり方であると主人である少女は知っている
「どうしたの、アーチャー?」
「サーヴァントが接近している。しかもかなりのスピードで、だ」
「嘘!?」
随行していた少年も驚く
「流石ですね、アーチャー。私よりも反応が早い。」
「まあな。伊達にアーチャーのクラスで顕現してはいないさ。」
戦闘直前には似つかわしくない会話。だが両者の顔はその会話の内容からはかけ離れた険しいものだった
「敵はどこ?アーチャー」
「あそこに来る」
そう言って、弓兵の男は川を指差す
「?それってどういう…」
少女が疑問を口にする前に、その答えは物理現象として帰ってきた
轟音
爆風
何か巨大なものが水面に落下したように少女の目には見えたが、その目は落下によって発生した暴風から守るために腕で覆うこととなった
「何が、起きたんだ。」
少女よりも少し早く回復した少年が次の疑問を口にする
「信難い話だが、あの衝撃からするとあのサーヴァントとそのマスターは上空約一万メートルから落下してきたと思われるな」
弓兵は信じ難いことを口にする
「はぁ!?何考えてるのよあのマスターは」
「おそらく、自身の登場によって全マスターへ宣戦布告をしたものと思われます、凛」
今度は少年の方の従者である槍兵の女が少女に回答する
「どのみち、わざわざここに落ちて来たってことは腕に自信があるがあるってことだよな」
少年の推測を全員が無言で肯定する
しかし、敵であるマスターの少女の姿を見て四人全員が驚愕する
「イ、 イリヤスフィール!?」
「そんなバカな!?」
主人である少年と少女は、驚きのあまり声を出してしまう。歴戦の戦士である二人でさえ声をあげはしなかったものの、驚愕を隠せないでいた。その少女の容姿は、かつて第五次聖杯戦争で敗れ去ったアインツベルンの少女に酷似していたからであった
「残念ですが、私はイリヤスフィールではありません。はじめまして、トオサカ・リンさんに、エミヤ・シロウさん。私はシュリフトシュテラ・マニュスクリプト。シュリーとでも読んでいただければ結構です」
「「!?」」
今度は別の意味で驚く二人
「そんなに驚くことでもありませんよ?お二人は前回の聖杯戦争の実質的な勝者なのですから、名前を知られていても不思議ではありません」
少年と少女の名前を知っている理由を明かした。当然といえば当然の理由であったが、二人の驚いた点はそこではなかった
「バ、バーサーカーですって!?」
少女が驚いたは無理もない。その狂戦士はかつて少女たちが第五次聖杯戦争において苦戦を強いられたサーヴァントと同一の者であったからだ
「ああ、お二人は既に彼と戦ったことがありましたね。では挨拶もほどほどにして、はじめてしまってもよろしいですか?」
そうして彼女は開戦の是非を問う
「「「「……」」」」
無言を肯定と受け取った少女は、自身の従者に声をかける
「では行きます。やってください、バーサーカー」
「■■■■■■■■―――――ッ!!」
大英雄にふさわしい巨躯を持った狂戦士は、その肉体の大きさからは想像もつかない速さで間合いを詰め、敵である四人のうち一番弱いと判断した少年に斬りかかる
「ッ!?ランサー!」
少年に呼びかけられることを察知していたかのように少年と狂戦士の間に身体を滑り込ませると、少女はその華奢な肉体には似つかわしくない剛力で槍を振るい、その速度で霞んで見える斧剣を受け止めた
「あなたの太刀筋は既に一度見ています!」
本来は剣士として呼ばれる彼女ならではの見切りによって、完璧に受け流されたかと思われた狂戦士の剣。しかし彼女は、前回ならば来るはずのないタイミングで振るわれた斧剣の第二撃目に反応が遅れた
「な、これはまさk」
少女は全てを言い切る前に、十メートル後方にあるモニュメントの方に吹き飛ばされた
「なっ、速すぎる!本当に前回と同じバーサーカーなの!?」
前回の戦いをまじかで見ていた少年と少女は、その狂戦士の速さの違いに驚く
「あなた方が前回の聖杯戦争で戦ったバーサーカーと同じでは勝てないことは分かっていました。なので、少し私流に強化させていただいきました」
そう狂戦士の主人は笑顔で告げる
「そう、向こうはまだまだ手札が残ってるって感じね。アーチャー、援護!」
槍兵の少女を標的にしたと分かった瞬間に移動していた弓兵に援護をするように少女は伝える
「前回は効かなかったが、今回はどうだ?」
そう言い、弓兵は前回無効化された通常の矢を放つ
轟音
爆発
音速を軽々と超えるその弓兵の矢を狂戦士は微動だにせず受け、見事に無効化してみせた
「はぁ。前回の聖杯戦争と同じサーヴァントなのですから、宝具も同一に決まっているじゃないですか。」
少女は呆れたように嘆息する
「さあ、どうかしらね」
「?それはどう言う……」
少女が疑問を口にするよりも速く、一本の矢が少女めがけて飛来する
その矢を一度も見ずに、無造作に挙げた右手で掴むとその矢に対して魔術を行使し灰にする
「今後のために言っておきますが、私にあの程度の攻撃は通用しません」
少女はサーヴァントの攻撃を無効化したことを涼しげな笑顔で言う
「なるほど、今回のバーサーカー組は前回よりもさらにチートってわけね」
赤い装いをした少女は苦々しげに言う
「遠坂、あのマスターは接近戦に向いてると思うか?」
「わからないわ。あの二人、特にあのマスターについての情報が少なすぎる。」
「わかった、遠坂はあのマスターの気を引きつけていてくれ。俺が接近して剣で攻撃してみる」
「ちょっ士郎!?」
少女の制止には耳も貸さず、少年は駆け出す
「ああーもうっどうしてこうなるのよ!アーチャー、ランサーと協力してバーサーカーを抑えておいて」
「了解だ、マスター」
少女は狂戦士の相手を弓兵に任せ、少年の援護を始める
「
少年は疾走しつつ前回の聖杯戦争で身につけた投影を使い、最も使い慣れた双剣を取り出す
「なるほど、あなたはそうやって戦うのですね」
まるで研究対象を見るかのような目で少年を分析しだす少女
「ハアッ!」
少年は自信の持てる全力をもってその双剣を振るう。しかし、少女に命中する寸前に少年の動きは時間が止まったかのようにぴたりと止まった
「はい、残念です。」
少女はにこやかに指を鳴らすと、暴風が少年を後方へと吹き飛ばした
この一連の間に黒髪の少女の後ろに回り込み、最も得意とする魔術を赤い少女は放つ
「ガンド!!」
北欧の呪いの一つであるこの魔術も、アベレージワンの彼女にかかれば強力な魔弾となる。だが、
「なかなか強力ですね」
今度は全く同じガンドを使って黒髪の少女は正面から跳ね返した
「同じガンドを使えるもの同士、撃ち合って見ませんか?」
少女はそう言い放ち、自身の右手の指全てから、先ほどと同じガンドの魔弾を浮かべる
「なっ、多すぎる!」
「では行きますよ」
そうして二人の少女の魔弾の打ち合いが始まった
黒髪の少女は、わざと一度に発射する数を二つまでにし、赤い少女が打ち落とせるようにしていた
「っくぅ」
「どうしました?まだまだ行きますよ」
赤い少女は防戦を強いられる。しかし次の瞬間、後方から吹き飛ばされた衝撃から回復した少年の声が聞こえた
「
「なっ」
剣を投げるのではなく、空中に浮かべて発射するという少年独自の戦法に度肝を抜かれた黒髪の少女は、半身になりやむなく左手も使い応戦する
この勝負はほぼ互角に思えたが、次第に剣故の耐久力とその手数から少年が僅かに押し始めた
「はぁ、少し遊びが過ぎましたね」
そういうと、突然黒髪の少女を中心として暴風が吹き荒れ、二人を吹き飛ばす。
「では、少し増やすとしましょう」
そう言って彼女は両手を掲げ、短い詠唱を口にする
「
直後、少女の背中に半透明の翼が一瞬現れ、消えた
そして痛みを覚えたのか、少女は少し表情を崩したがすぐに戻した
「さあ、再開しましょう。尤も、今までのものが全力なのでしたら、あなた達に勝機はありません」
その顔に先ほどまでの朗らかな笑顔はない。あるのは獲物を仕留めんとする冷酷な視線だけだ
「何を言い出すかと思えば、勝利宣告とは舐められたものね」
「ああ、まだ俺も負けてはいられない」
少女の変化に二人は気がつく事ができなかった。それもそのはず、彼女の身に起こった変化とは急激な魔術回路の本数の増加であるからだ。
「「ガンド」」
先ほどと魔術、しかし黒髪の少女の行使したものはもはやガンドとは言えないほどの大きさのものであった。およそ赤い少女の使用するガンドの魔弾の約六倍、直径一メートルはあろうかと言う濃密な魔力の塊であった
「!?」
とっさのことに少女は反応ができなかったが、少年は一歩引いていたためか自身の持つ最強の守りを展開することに成功した
「!!」
花弁が五枚であるという不完全なものであったが、少年と少女の二人を守る盾としてきちんと機能した
「ッハァハァ……」
「士郎!」
魔力を大量に使った反動で、膝から崩れ落ち荒い息を吐く少年。その少年に再度冷たい視線を送りつつ、黒髪の少女は告げる
「今宵はここまでにしましょう。引き上げますよ、バーサーカー」
槍兵と弓兵を相手取っていた狂戦士は、戦闘をやめ即座に霊体化した。
「それではまた会いましょうね、お兄さん」
かつてアインツベルンの少女がそうしていたように、黒髪の少女も少年を兄と呼んだ。その声は少女の姿とともに夜の闇に消えて行った
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戦闘を終えた少女は、拠点に向かうべく深山町の近くを歩いてた
「お嬢様、拠点の準備ができました」
「分かりました、それで場所はどこですか?」
「それが、以前アインツベルンが所有していた城なのですが、よろしいでしょうか」
「別にかまいません」
「ではそちらにご案内します」
そう言った執事の後を少女は付いていった。そして付いていった城は、半壊していた
「前回の聖杯戦争の折に破壊されてしまった模様です」
「別に、些細な問題です。テーブルと椅子、あと紅茶を一杯いただけますか?」
「承知いたしました」
「ありがとうございます」
少女は執事に入れさせた紅茶を楽しみながら、片手間に城をものの数分で完全に修復して見せた