小池一夫ニキ原作の艦これ劇画がいつまでたってもでンので俺がそれっぽい小説にしてみた 作:臣 史郎
やってみると艦これ二次創作というのは、艦娘以外はほとんど自分で創出せねばならず、それを嫌って資料を当たり出すとこれがまた膨大な仕事となり、生半可なものではないことがよくわかりました。みんなよくやるわw
……でもそれが魅力でもあるんでしょうね。
「例えば、知っているか? 提督、あなた達がかつてあった幽世にあっても特に、未来の時間軸から招喚されたという仮説を」
「確かに、現在世に提督と呼ばれている全ての者の前身が、戦後平成の世を生きていた者たちであることは間違いが無いが」
「そう、その戦後、だ。我々艦人の殆どはその戦後とやらを知らなかった。雪風や響より伝え聞いたことを断片知識として持つのみだったからな。しかし、君たち提督がこちら側に現れてより、君たちが語る君たちが住んでいた世界のことは我々にとって驚きの連続だったよ」
「まあ、そうだろうな。米国に降伏するところまでは想像に及んでいても、世界第二の大国、いや技術では世界第一となった我が国のことを、君たち艦娘のほとんどは知らなかった。ましてや米国と無二の友邦となった未来のことなど」
「艦娘、という言い方は好みではないな、提督。今や帝国艦艇は女人(にょにん)ばかりだが、艦娘の亜種たる提督はほとんどが男子だ。艦娘も何れ男子が招喚されることがあるかもしれん」
「ではなんと呼ぶ?」
「艦人、とでも呼べばよかろう」
「かんじん、か」
提督との会話を傍らで聞いていた伊勢がこのとき、くぁ、と欠伸をした。
「よくもまあ日がな一日、そんな難しい話ばっかりできるわねあなた達。それってなんなの? 雑談なの?」
「雑談ではないさ。軍務の話でもないがな」
「ふうん。まあいいけどさ。ほっとけば訓練に稽古に読書しかしない日向がこんなお喋りになる相手は、珍しいし。見てて楽しいわ」
「そのわりには欠伸していたではないか」
「欠伸が出る程度にしか楽しくないのよ」
「…お前ら姉妹も、見ていて飽きんな。姉妹漫才でもしたらどうだ」
「超弩級戦艦の漫才? それなら欠伸も引っ込むわね」
「是非辞退する。漫才は伊勢一人で十分だ」
「あら。漫才にはボケ役が必要なのよ」
「自他共に認めるだところだろうが、まだボケる歳ではないよ、どう見てもな」
呉に赴任して来た提督と日向は、馬が合った。
大抵が騒がしいところを避け、難解な読書をしていることが多い日向が歓談する光景は稀であり、呉の提督はその唯一の相手と言って良かった。
時局を論じ、しばしば脱線して雑談する秘書艦日向と提督を、傍らでにまにましながら眺める日向の姉、伊勢。呉鎮守府執務室の日常の一幕である。
「深海棲艦は米国の新兵器であるという説は、未だ根強いようだ。ことに陸軍には頑迷な者が多い。頑迷でなくとも、米英に先んじ深海棲艦隊を平らげ、太平洋の覇権を手にしようと考える者は少なからず居るだろう。今やそのような時局ではないというのにな」
「陸軍参謀部の方には、艦娘が海軍に集中配備された結果、国防への発言権を失いかねないっていう危惧を懐いてるって噂も聞こえて来るわ」
「それだ、日向。伊勢よ」
一方の呉の提督も、読書を好んで人と交わることを好まず、駆逐艦達の間では「メガネのこわい提督」で通っている。こんなところも日向と似通ったところがあったが、その彼が口角を上げる様を見たら、駆逐艦達はどのような感想を懐くであろうか。
「私が居た日本軍では、統合幕僚本部が置かれ陸海空軍を統括していた。総司令官は内閣総理大臣で、国民が選挙で選びだす。国家の間に紛争はあったが、国際連合なる国家間の会議が設けられ、紛争を話し合いで解決しようという動きが、確かにあったよ」
「有名無実の国際連盟とは違うのだな」
「私たちの未来がそうなってるなら、素敵ね」
「人類も決して、世界大戦より何も学ばなかったということではないのだな」
「我々提督と呼ばれる人種はな。深海棲艦に打ち勝つためではなく、こちらの人類をよりましな方向へと導く為に呼ばれてきたのではないかと思うことがある」
「あら。神父さま気取り? それとも神様気取りなのかしら?」
「全知でも全能でもない俺は、神にも聖者にもなれん。なろうとも思っていない。ただ、人類を導く灯となれればそれでよいかと、俺は思っているよ」
「灯、ね」
「陸海軍の統一化が、俺の第一歩だ。その次には、日米で太平洋同盟を実現する。その後は世界だ」
「浪漫だな」
「夢だ。夢が無くては人は進めぬ。ましてや、政治も軍事も出来はせんよ」
***
提督たちの言葉は日向にとって常に、驚きに満ちたものであった。
未来より来た彼らと言葉を交えれば、旧皇国艦艇の奮闘も決して無駄ではなかったと思える。確実に、戦争を経て皇国は前に進んだのだと。
提督は浪漫と言った。
伊勢と日向は、希望だと思った。
提督はまさしく一寸先すら見えぬ闇を進むための、彼女たちの灯であったのだ。
(…それが、何故だ)
(何故に伊勢を…!)
時雨の言葉を信じるのであれば、伊勢は既にこの世の者ではなくなっている。
「陸軍出向艦の近代化改装素材だと? 呉鎮守府最高錬度を誇る超弩級戦艦伊勢を?」
「伊勢は陸軍出向艦の強化の為に用いたって。僕の聞いた話はこれだけだよ、日向」
「…陸軍出向艦か。成るほど…」
滅多に激することのない日向の呟きは熱雷を帯びていた。
先刻日向を包囲した陸軍の兵士たち。「海軍を裏切ったぞ」という陸軍大尉の言葉。「鎮守府に、提督に気を付けて」という夢幻の伊勢の言葉――
時雨の話は、それらから導かれる想像を裏打ちするものであった。
「海軍を裏切り、この日向を裏切り、陸軍に付いたか。成るほどな…」
「姉妹艦の日向に何の説明もしていないとは、驚いた。ましてや、その事実もしらないなんて思わなかった…」
伊勢を近代化改装の素材としたところ、激高した姉妹艦の日向が行方を眩ました。脱走したものと思われるから、行方を探し連れ戻せというのが時雨の聞いた事情であり、帯びた任務であった。
しかし、目の前に居る日向は伊勢の近代化改修について何も知らないし、故に脱走などしていない。これでは、まるで話が違う。
「呉の提督が陸軍に付いたかどうかは分からないけど、それを差し引いても伊勢ほどの戦艦を近代化素材に供するなんて、皇国の海防の根幹に関わる事だ。僕がこの任を引き受けたのは、日向に会えば事情を聴けるんじゃないかって思ったからなんだ。思いもかけない話になっちゃったけど、日向と話が出来て良かった」
「良いわけがなかろう!」
日向は、怒号した。
「ご、ごめん…」
時雨は謝ったが、日向とて時雨に腹を立てたわけではない。時雨に腹を立てたところで仕方のないことであった。
「僕は一先ず、呉に戻るよ。呉の提督に、話してみる。日向、貴方は脱走したのではないし、だから追撃を受ける謂れはないってね。伊勢のことも尋ねてみるから、貴方はここで、僕の帰りを待っていて」
「…」
「必ずもどってくるから。貴方はここを動いてはいけないよ!」
そう言い残した時雨に、日向は従わなかった。
伊勢が時雨の言うようなことになっていたとしたらじっと待っている気分にはとてもなれなかったし、第一当座の寄宿にと定めた廃船は、先ほど当の時雨が木端微塵してしまったではないか。
日没までの僅かな間、歩けるところまで歩こうと思いを定め、廃船のものと思しき重油で虹色にてらてらとぬめり輝く浜辺を後に、西へと歩みを向ける。
時雨の話を聞く限り、提督は帝国海軍より伊勢を奪い、かつ日向にも害意を向けている。
信じがたい話だが、時雨にウソをついているような様子はなかったし、先に出会った陸軍将校の話とも辻褄が合う。
手許にある情報を見る限り、時雨の話を信じた方が無難だ。
理屈で分かってはいる。
分かってはいるが、分かりたくも信じたくもない。告げられた事実が、何かの間違いであるという確証はないのか。
それを得るには呉の鎮守府に行き、提督を問い詰めるのが手っ取り早いだろう。
時雨の帰りを待って連行されるに任せれば会える可能性はあるが、そうはならない見込みの方が高い気がしてならないのだ。
(これは勘だ)
(如何なる理由かは分からんが、提督は私を沈めに来る)
大気が殺気を孕んでいる。殺気だの勘だのと言えば神かかったように聞こえるが、日向は人に備わる勘の類を、五感に加え記憶経験を加味し判断する総合情報感覚のようなものと考えていた。文字を見ても意味を読み取れぬ赤ん坊が教育経験によって言葉を操るようになるように、兵は戦争経験により戦の勘を手に入れる。余人に意味をなさずとも、経験豊かな戦艦である日向に意味深甚なことはあるのだ。
(ならば、何とする)
時雨が帰れば、日向の大体の位置は知れてしまう。
提督がその気ならば、相応の規模の討っ手の兵を差し向けるだろう。いや、拿捕は諦め撃沈と定めるならば、来るのは討っ手でなく陸爆による絨毯爆撃かもしれない。これに応戦しようとするならば、手許の佩刀(はかせ)のみでは心細い。
(全艤装による応戦を可能としておくに如かず)
鎮守府近傍ならばという但し書きが付くが、通常の船舶とことなり、艦人は陸地でも≪浮力≫を得られる。全艤装を展開しても陸地を歩めるのだ。艤装の大きさによっては、建物の中にも入って行ける。古参の超弩級戦艦として、持てる最大限の能力を発揮して戦い得るし、戦いとならない場合も、その実力は持ちうるカードの一つとなる。日向を沈黙させ得る存在は、全世界を見渡しても限られているのだ。
(それにもし拙き武運となるとしても、艦として沈むのであればまだしも重畳、か)
今や日向は尋常ならざる危難の渦中にある。
もし伊勢を改装素材として遺棄同然にしたのが本当であれば、提督にもはや迷いはない。その目的の為なら日向撃沈も厭わないだろう。生き延びるには討っ手を退けるより他に無いが、その討っ手となるのは日向と同じ帝国海軍の艦艇たちなのだ。
(何れも皇国鎮守を担う艦人たち)
(その身全ては対深海棲艦隊決戦の為のもの…)
ここで日向が沈めるわけには行かない。しかし、向こうはそうは考えないだろう。
先の時雨がそうであったように、手加減して勝てるようなぬるい艦は皇国に存在しない。何れもが一癖も二癖もある艦人なのだ。
生き延びるばかりとは限らない。
しかし、進まぬわけにはいかない。日向が進もうとしているのはそのような道であった。
***
別れて数刻後。
日向の決意を知らぬ時雨は、呉の提督の執務室へと通じる廊下を歩んでいた。
時雨を艦隊型駆逐艦足らしめる艤装は、装着されたままである。
通常、陸地に上がるときには艤装の装着は解く。一見いくつかの金属パーツであり、せいぜいが重めの家電製品くらいの重さのようにしか見えない時雨の艤装だが、艦娘に質量法則は通じない。時雨が装着した状態での排水量は3000トンもあり、大型トレーラーを用いても運搬出来るものではなかった。
これを装着したまま、階段を上って地上三階の提督執務室まで歩んで行くことが出来るのは、この呉鎮守府全体に満ちた≪浮力≫のたまものである。
潜水艦の浮沈などに関わる浮力と同じ字を書くが、非なる概念である。
世の常ならば沈む筈の艦娘たちを浮揚するこの力は妖精――英霊たちが多く目視出来るところに見られ、目視出来なくなってしまえば失われてしまうことが分かっている。
艦娘たちにとっては、生あるかぎり常に側にいる妖精であったが人類にとっては目に見えぬ存在である。妖精と人類が交わる場所は限られており、極めて多くの妖精が集い、その色濃い霊力によって人に見え、かつ言葉すらも交えることも出来る土地がこの鎮守府なのだ。
「白露型二番艦、時雨。入ります」
名乗れば扉の内より「入れ」と応えがある。
「失礼します」
扉を開けると、そこに居るのは見知った顔の提督のみではなかった。
(これは…!?)
扉を押し開いて入室した時雨に一斉に視線を注ぐ面々の殆どは、時雨の知った顔であった。
先ず、執務室最奥の、デスクに座るのは呉を差配する≪提督≫である。傍らの刀立てに立てて置かれるのは菊水目釘の入った元帥拵えの恩寵刀であり、現在の彼の海軍での階級が元帥位相当にあることを示していた。
こちらの世界に現れて以来、紆余曲折の果てに数々の軍功を立て、今や「西海一円問答無用」とまで囁かれ、こと瀬戸内の海運において皇室の権威を代行し、その意向は法令に優先するとまで言われる男。
提督とその秘書艦であり座乗艦でもある日向、それに準じる地位の伊勢が使っているこの部屋には今や、伊勢も日向も居らず、その代わりに参集しているのは…
(何故この人たちがここに…!?)
金剛、比叡、榛名、霧島…金剛四姉妹の名は海内に隠れもないものである。四人の何れもが幾多の改装を受け、今や戦艦として太平洋最速レベルの速力を誇るのみならず、世界水準の主砲、三十六センチ砲四基八門の運用を可能とする名実ともに皇国の主力戦艦たちであった。
彼女たちのみではない。
巨艦、長門。そして陸奥。「皇国の誇り」たる二艦の巨躯が時雨を見下ろしている。
彼女たちこそが皇国の権威であり、国力そのものと言ってすら、言い過ぎではないであろう。文字通り国内最強であり、艦対艦の決闘において世界最強であることを義務づけられた決戦艦であり、海上戦略は何時彼女たち二人をもって決戦を行うかに集約される、既に戦術兵器の枠組みを超えた存在であった。
国内主力の超弩級戦艦十二艦の、実に過半が時雨の眼前、この呉の執務室に参集していることになる。実に圧巻の光景であったが、時雨ほどの駆逐艦をして、一瞬敬礼を忘れさしめたのはそれのみではない。
提督の傍ら、秘書艦が占めるその位置に立つ艦影。
提督がそこに従えていたのは伊勢、日向の二艦であった。
今提督の傍らに在るのは、時雨の見たことが無い艦である。
「陸軍出向艦、あきつ丸。彼女の名だ」
提督の言葉に、時雨は自失より回復する。
(…噂では、この人が)
伊勢を近代化改修の素材として呑みこんだ艦なのか。
「秘書艦を務めることになった、あきつ丸であります。宜しくお願いするであります」
「…白露型二番艦、時雨です」
陸軍出向を名乗る見知らぬ艦に敬礼され、時雨はやっとここで室内に対し敬礼を行う。提督は答礼し、六艦の超弩級戦艦たちもそれに倣う。連合艦隊旗艦や御招艦の経験を持つ高貴の艦の答礼を一身に受ける栄誉にも、時雨の表情は硬い。
「…提督、これはいったい…」
「報告は受けた」
お前は質問する立場にない、とでも言うように提督は時雨を遮る。
「戦艦日向との補足に成功するも、拿捕には失敗したということであったな」
「その件について、耳に入れておきたいことがあるんだ、提督」
聞きたいことは山ほどある。だが時雨にとっても、質問よりも優先するべきことがあった。
「日向は脱走艦じゃない。伊勢のことも知らなかった。ここ数日の記憶を失っていると、日向は言っていた」
「ふむ」
「日向に対して出ている命令は、一旦取り下げるべきだ。日向は、自分の意志で呉を抜け出したんじゃない可能性があるんだ」
「日向に対して出ている命令とは、拿捕命令か? それとも撃沈命令のことか」
「撃沈!? 拿捕じゃなくてかい!? そんなの聞いてない!」
「それはそうだろう。先刻発行されたばかりの命令だからな。貴艦は知らぬだろうが、陸軍よりのの情報によれば日向はこの呉に向かって前進を開始した。…そうだな?」
「そうであります」
提督の「そうだな」は時雨に対し発せられたものではなく、傍らの陸軍出向艦へのものであり、そうだと応えたのもあきつ某なる艦であった。
「我が鎮守府はこれを敵対的行動と判断。日向装備の三十六インチ砲の射程まで接近されるを阻止、止む無き場合撃沈も許可すると下令した」
「…日向…動いてはいけないって言ったのに…」
止むを得ない判断だ。
それが時雨には分かった。
伊勢の一件を日向が知ったなら、短気を起こすことも十分に考えられる。皇国鎮護の為のその火力を、呉鎮守府に使うことも十分に考えられた。
しかし、だからと言って納得出来るものではない。つい最近に陸軍から出向いて来たという艦の情報を聞き、股肱の乗艦であった者に撃沈の命を下すなど、海軍から陸軍に鞍替えしたと思われてもやむを得ぬ所業ではないか。
「…貴方は変わり者の提督だ。呉の艦娘たちには学者提督とか隠者提督とか言われてて、彼女たちとはあんまり交流をしないって聞いてる」
「…」
「だけど、こんな話も聞こえてきてるんだ。貴方ほど艦娘に心を砕いてきた提督も居ない、貴方が伊勢や日向に指輪を贈らないのは、隷下の艦娘に対しひいきをしたくないためだって」
何を言い出すのかと集中する、六隻の超弩級艦の十二条の視線に負けじと時雨は言い募る。
「日向は皇国の艦娘だ。日向を討つべく出撃するのも、皇国の艦娘だ。同じ艦娘同士が殺し合うことになる、そしてどちらかの艦娘が必ず斃れる! 深海棲艦撃滅のために存在する僕らが、こともあろうに仲間の手で失われることになるんだよ!」
「脱走艦である日向は、今や皇国の艦艇ではない」
「違う! 日向は脱走したんじゃないんだ! お願いだから提督、僕を信じて!」
「時雨。貴艦の言に虚偽はない。だが貴艦が事実を誤認していないという保証はない」
「提督…!」
「疑義はすぐに晴れるだろう。瀬戸内を哨戒中の戦艦扶桑に、日向の阻止を命じた。場合によっては撃沈するも止む無しとな」
「なん、だって…!?」
扶桑。
よりによって扶桑であった。
伊勢型は改扶桑型とも言われ、扶桑は日向の姉に当たる存在と言える。伊勢も日向も、扶桑には一枚も二枚も置いている。
しかしそれは伊勢や日向の方の話である。扶桑とその妹、山城にとって伊勢型の二人は忌むべき存在であった。彼女らの登場により、扶桑型は旧式艦となり、欠陥戦艦の烙印を押されたのだから。
戦艦として旧軍最大最高の武勲艦であった伊勢日向に対し、何の成果も上げることなくスリガオ沖に消えた扶桑山城とはまさしく光と影である。影が光を忌むのは世の常であり、外史はここ皇国の現在においても再現されつつあるのだ。
扶桑にとってはまさに仇敵。目の上の瘤。
友軍籍であるから撃たなかったに過ぎない日向。今やその軛からも解き放たれようとしている。堂々の戦いで日向を打ち破れば、欠陥戦艦の汚名も払しょくされるだろう――
(いけない)
(これでは本当に殺し合いに…)
すぐに行かなくては。
行って扶桑を止めなくては…
「何処に行くつもりだ? 時雨」
「決まってる。扶桑と日向を止める。愚か極まりない皇国艦艇の同士討ちを止めるんだ」
ものも言わずに立ち去ろうとする背を提督は呼び止め、時雨は振り向きもせずに応える。
「今や日向は同士ではない。よってお前は行かなくていい。おい」
「はい」
提督の呼びかけに応じ戸口より現れたのは時雨同様の少女の姿であった。艤装より潜水艦であると知れたが、時雨の知らぬ艦娘だった。
「時雨を案内してやれ」
「はい」
「提督…! あなたは…!」
案内しろなどと言っているが、ようは強制連行であった。この潜水艦娘を斃すのは駆逐艦娘である時雨にとり得意の任だが、それをすれば呉に居る全艦娘を相手にしなければならなくなるだろう。
「…提督。あなたは…あなたは、今までどんな深海棲艦も沈めることが出来なかった日向を沈めるのかい? これからも沢山の艦娘たちを守り、沢山の深海棲艦を葬るだろう日向を、あなたが」
「そうだ」
提督は応える。一瞬の躊躇もない。
「だったら…だったらあなたこそは、深海棲艦より恐ろしい艦娘の敵だ。いいや、人類の敵だ」
「言いたいことはそれだけか?」
「…提督。貴方には失望したよ」
「連れて行け」
北方の鈍色の海よりも、提督の声は冷たかった。
小池成分が薄い気がしますので、次回は頑張ってみます(>_<)