小池一夫ニキ原作の艦これ劇画がいつまでたってもでンので俺がそれっぽい小説にしてみた   作:臣 史郎

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5話目になります。
艦これ1期において、最後の投稿となる気がします。次に投稿するときはきっと、2期に移行しているはず。無事に終わるとよいのですが。



第5話

 深海棲艦隊出現以降も瀬戸内海は比較的平穏な海であり続けた。

 瀬戸内の都市部を空襲しようとすれば立地条件的に四国、九州、中国地方、近畿地方、四方に備えられた厳重な対空見張電探の哨戒線の何れかにかかり、各地の防空陣地からの対空射撃を掻い潜って瀬戸内に達したとしても陸軍迎撃機が悠々と大編隊を組んで迎撃することが可能で、ようするに深い縦深を有する天然の防空陣地であった。対潜防御においても同じであり、これまで鳴門海峡や関門海峡を突破しようとした敵潜は居たが、成し得ることはなかった。

 瀬戸内では未だ漁船の操業が盛んに行なわれており、外洋での水揚が期待出来ない昨今、国内の水産物の生命線となっている。

 瀬戸内産の天然のタコ、イカ、シャコなどは今や非常な高価であり、海の危険が増した今もそれを押して操業する漁船は珍しくない。

 そうしたベイイカ漁船の一隻が、世にも奇怪なる光景に出会う。

「おい。女じゃ。女がおる」

「あほ言うな。女なんぞ乗っとらんぞ」

「違うわ。海の上じゃ」

「はあ?」

 海に女が居たとすれば、それは泳いでいるか溺者かいずれかであろう。有り得ないことではないが、老漁師の聞き間違いでなければ、若い漁師は海の「上」と言ったのだ。

「なんじゃと!」 

「あれ見い、海の上に女みたいなんがおる」

「……ありゃあ……」

 聞いて老漁師が想像したものは、深海棲艦隊であった。女を象った深海棲艦が、外洋には現れると聞いていたからだ。眼前のそれがもし思った通りのものであったなら、こうも惚けなかったに違いない。

 女形(めぎょう)のそれは、白々と、闇から切り取られたかのように、自(おの)ずから輝くかと見えた。

 西洋の、海の泡から生まれ出でたと言われる美の女神の名前を、二人の漁師は我知らず思い浮かべる。

「……艦娘じゃ」

 老漁師が声を絞り出す。

 他に、考えられぬ。

 瀬戸内とはいえ海流は急である。船の上でも両足を踏ん張らねば立っていられない海で、待ち人でも待つかのようにたおやかに立ってることなど出来はしない。大体、その足は遠目に見ても、足先すら海水に浸かっているようには見えなかった。

「間違いない、艦娘じゃ……!」

 その声が聞こえたかのようであった。

 艦娘が瞳を開いた。

 そう、その艦娘は瞳を閉じていたのだ。距離にして1キロメートルは離れていようところから顔の造作が見える筈もないのに、何故だか二人の漁師の眼球にはその姿が焼き付いた。

 唇が開いた。言葉が零れだす。

「……空はあんなに青いのに……」

 遥か蒼天を求め、艦娘が右手を伸ばす。

 その瞬間――まるで若葉の上に一瞬にして齢百年が降り積もった如くに、巨木の枝々が挙って、天を求める――

「「……」」

 漁師たちは知らず、声もなく首を一杯に、それが聳(そび)える空を見上げていた。

 そう、女であったものが、女ではなくなったのだ。

「……扶桑さまじゃ」

「……へ?」

「扶桑さまじゃ。間違いない、戦艦の扶桑さまじゃ……!」

 艨艟でありながら女。女でありながら艨艟。世にも稀なる艦娘の内でも史上最高の海抜を誇る国産初の超弩級戦艦扶桑の、これが全艤装を展開した姿であった。

 扶桑が、地に左手を差し伸べる。

 いや、軍艦に手などあろうはずがない。顔も黒髪も瞳もあるはずがない。しかし漁師たちには見えたのだ。今や扶桑は軍艦の姿であったが、同時に女人の姿にも見えた――

「扶桑艦載機1号、2号。着弾観測をお願いします」

 猟師の鉄砲にも似た炸薬音と共に、カタパルト射出されたのはむろん、水上爆撃機、瑞雲であった。扶桑艦載の下駄ばき機たちは続々と、本州湾岸に向かって翼を翻す。

 目標はもちろん、沿岸を呉に向かい徒歩で進んでいると思われる反乱艦、日向である。

 

***

 

 月明かりを頼りに湾岸を歩む日向の頭上に、突如、星が落ちた。

 照明弾は、その別名を星弾――スターシェルとも言い、艦砲により撃ちだすものの他、航空機からの投下も行われた。その光量たるや星明りなどというものではなく、落下傘による落下のまでの数分の間、地上に夜は存在しなくなる。

(ちいい!)

 物陰に身を潜めるより他、日向に成すすべはない。

 扶桑艦載六三四航空隊は最精鋭の水上機隊であり、着弾観測は正確無比である。そして扶桑の砲戦錬度であれば、夜闇も風雨も一切関わりなく、三式弾の効力射を初弾から叩き込んでくるだろう。

 落下傘でゆっくりと舞い落ちる、夜の太陽に照らし出されたが最期である。

(このようなところで足止めを食らっているわけにはいかん)

 日向には、一刻も早く確かめたいことがある。そのためには一刻も早く、呉鎮守府へと辿り着かねばならない。

(照明弾が切れる間隙を縫って……あの先の茂みまで躍進……)

 ここでの躍進とは、戦闘中の前進のことである。物陰を点々と移動して銃火を凌ぎながら、徐々にでも進むことを指す。

 夜間の間はそれでよし。しかし、朝が来たら?

(瑞雲からの機銃掃射の脅威が増す……昼は潜み、進むのは夜間。即ち今だ)

 心を決め、当座の掩体と定めた木陰までの距離を測っていた時、夜の太陽が照らし出したものがある。

(社……?)

 けたたましい光芒のうちにもそれは、シンとして十五夜も近い夜闇の月に侍るかと見えた。

 夜の陽光に照らされ、全てが光に切り取られたような影となる中でそれは、遥か中空を浮遊する神殿のように日向の目には映る。

 土地神を祭る祠(ほこら)、社の類は、この時代、中央地方を問わずいたるところに見られるものである。寺とまではいかずとも小屋ほどの大きさはあり、雨風を十分に凌ぐことが出来るだろう。

 しかし、もちろん、扶桑の三十六センチ砲を防ぐことは出来ない。それどころか7.7ミリ機銃を受けても倒壊するであろう。

(万が一、事が済み命有れば改めよう。神前素通りを許されよ、名も知らぬ神よ)

 土地神も今は頼むに足りぬ、神前は素通りと心を定めたときであった。

(日向……)

(……ひゅうが……)

 また、あの声であった。

 伊勢の声だ。

「呼んでいる……いや、あれへ行けと言っているのか?」

(ひゅうが……)

(ひゅうが……)

 誘うかのような声に、日向は思い切った。

「委細承知」

 陰を伝って社を目指すと、中空を浮遊すると見えた社は、波浪の及ばぬ小高い崖の上にあった。そこに至る為には、手ごろな岩を足場としてよじ登っていく必要があった。

 登りきってみたところには、丸太を組み付けた鳥居と思しきものがある。かつては顔料で塗装されていたと見え、朱塗りの残った部分のみが輝いて浮かんでいた。

 日向が一拝し、それを潜ると、その先には、小屋、と言っていいほどの十分に風雨を凌げる建物がある。簡素ではあるがこれが社の本殿ということになろう。土壁には随所に補修の跡が見られ、手入れをしている者があることが窺い知れる。

(いみじくも、お伊勢様ではないか)

 神棚には天照大御神の神符が備えられ、伊勢神宮の分祀を受けた社であると分かる。

 伊勢神宮は天照大御神を祭る、天下の大宗廟である。神宮、と単に言えば伊勢神宮を指すほどの格式を備える。

 天照神とは太陽神であり、日輪の出ずる国の王たる皇家の祖神であるとされており、当然ながら多くの信仰を集めていた。伊勢神宮の分社が小屋を設けるのはお伊勢講と称する、天岩戸の神話に因んだ祭を行う為で、祭ともなれば村人が集い、大きな神社から神職を呼んで、持ち寄った酒や料理を振る舞い、天岩戸も開けと大いに騒ぐ。神の謂れは知らずとも、お伊勢講やお伊勢様という名は、お陰様で美味い酒と料理の飲める日として土地の者に親しまれた。

 伊勢型という艦名は、その皇国祖神の日輪の神の宮より貰い受けたものであった。伊勢型は、日輪の守護を受ける艦なのである。

(しかし、なるほど確かに)

(皇国の艦人ならば、社を撃つことは出来ないはず……)

 己が扶桑の立場なら、やはり撃つことは躊躇うだろう。まさに神頼みである。

 果たせるかな、星弾の投下は止んだ。

 照らす必要がなくなったのだ。

 扶桑はこちらの位置を特定している。扶桑の三十六センチ砲4基八門の全てがここを狙っているだろう。文字通り大砲の筒先を突きつけられている恰好であった。

 撃とうと思えば撃てる。

 土地神を憚り、撃たないだけであった。

 土地の者にとっては大切な場所であろうここを守るために存るべき艦人が、今やここを防空壕替わりの盾としてその影に隠れているとは……

(俗世の争いに天照神を巻き込むとは、畏れ多いことだ)

 せめて拝みでもしておこうと神棚の前に立つと、当然というか、供物が目に入った。

 御饌(みけ)として置かれたのであろう萩もちには蟻や蠅などがたかっている様子はなく、まだ新しいものであると知れる。

 これを見た瞬間、一瞬にして大量の唾液とともに口内に萩もちの味が再生されるくらいには、日向は飢えていた。実際、いつから食物を口にしていないのか、記憶がないのだ。意識を取り戻してからはすでに半日以上を経過しているから、餓死に繋がらないまでも空腹なのは当然であった。

 艦人である身の日向は、燃料を消費して主機よりカロリーを得ることも可能であったが、それを行うにはある程度の沖合に出る必要がある上、あまり費用対効果の良いものではない。艤装を付けない状態の艦人の体力は人並みの食事と睡眠で維持できるのであり、何ガロンもの燃料を消費する必要はない。

 いずれにせよ、主機は艤装の中でも最大の区画であるから、実質全艤装展開と何ら変わらない結果を日向にもたらすだろう。座礁してしまえば、沈むことは無い代わりに回避は行えず滅多打ちである。

 二度の着底を経験する稀な戦艦、日向にとっては苦い痛みである。痛みには耐えるとしても、動けなくなればもはや、提督に会うことも問い詰めることも出来はしないだろう。

(神の恵みとして、頂くべきか……)

(いや……この上罰当たりを重ねるわけには行かん)

 恐らく供物は土地の者が神へと供えたもの。

 日向が手を出して良いものでは有り得ない。

(なんの、艦人の躯体が餓死した例は聞かん。人並みに餓死するとしても、弾に当たって死ぬのが先だ)

 いずれにせよ死地に向かう道すがら、食って寿命を延ばしたところで詮無いこと。それどころが扶桑がその気になればこの瞬間にも命が無くなるというのに甘味に唾が湧くとは、我ながら糞度胸と言おうか、食い汚いと言おうか…

 苦笑いを浮かべる日向の視界の隅の暗闇で、ふと何かが動いた気がした。

(む……?)

 気のせいではない。

 ネズミ大の何かが、神棚の裏から見え隠れしている。

(さては、私と同じ供物狙いだな)

 本当にネズミなら追い払ってやろうと目を凝らすと、姿を現したそれはネズミほどの大きさでありながら、人の四肢を備え、人の目鼻を備えているではないか。

(妖精!?)

 間違いない。

 妖精であった。

(このようなところに妖精だと……!?)

 ネズミほどの大きさに見える小妖精は日向を上官と認めたのか敬礼を行い、受けた日向は答礼する。小さいながらも見事な、妖精の敬礼であった。 

 彼らこそは英霊とも別称され、艦人たちの力の源――≪浮力≫の豊かな地帯において多く見られる存在、妖精である。日向の艤装内にも千余の多数が立ち働いているが、≪浮力≫の貧弱な近海においては艤装同様、限定的に現界させることしか出来ない。

 そう。≪浮力≫が貧弱な地帯であるならば。

「通達。総員起こし。主機回せ」

 例えば各地の鎮守府など、妖精の姿が見えるほど≪浮力≫が潤沢な地域においては、例えそこが陸地であっても全艤装の現界が可能なのである。

(十分な……十分すぎるほどの≪浮力≫……これならば!)

 日向の手に、足に、その背に次々と現れたのは、艦人・日向を超弩級戦艦伊勢型二番艦・日向へと神変足らしめる、艦人の艤装である。

 一般的に工廠において建造されたり、深海棲艦隊がその泊地に拿捕していたりするのは、艦人の方であって艤装の方ではない。艦人の艤装が、何処から現れるのか、普段は何処にあるのかについては様々な議論があるが、呉の提督の語るところの、「艦人自体をアドレスポインターとして、未知の世界から転送されて来るのだろう」という説明は理解がし易い。

 そのため艦人が失われればアドレスが分からなくなり、艤装の召喚方法は失われる。所謂轟沈である。

 実のところ、艦人当人であるところの日向にもその説の正否は詳らかなことではない。ただはっきりと断言できるのは、日向は確かに、伊勢型超弩級戦艦二番艦、日向「本人」であるということである。

 日向のその足が、僅かにだが地面より浮沈している。

 濃厚な≪浮力≫の影響である。これにより、艤装展開時には総排水量三万トン以上にも達する日向が、大地を闊歩することが可能となるのだ。

「当方戦艦伊勢型二番艦・日向。ご加護感謝する、英霊殿」

≪先の大戦において呉防空を務めましたる上飛曹であります。護国の鬼を志願しこちらの世界に復員いたしました≫

 妖精には本来発声器官はなく、言葉を交わすことは出来ないが、このような極々濃い≪浮力≫の存在する地点では、妖精も力を得、肉声を発することが出来る。言葉は大人のものだが、妖精の声帯は極々小さい為、子供のような声で発声され、微笑ましさに自然と頬が緩む。 

「呉防空隊に居たのか。ならば戦友ではないか」

≪その節は、お力になれず、申し訳ありません≫

「それは私の台詞だ。こちらこそ、力になれず、申し訳なく思う。上飛曹は何時からここに赴任したのか?」

≪は!彼岸の七十年前の戦闘にて、この地に墜落した我が乗機と遺体が、村人の手によりここで荼毘に付されたときであろうかと覚えます!≫

「以来七十有余年、この社の守備を?」

≪は!≫

 日向は、最敬礼を行う。

「ご苦労である……」

≪いえ自分は、志願してここに在るのであります!苦労と思ったことは、ありません!≫

「……そうか。そうだったな。だが、時に上飛曹」

≪は≫

「今よりこの戦艦日向は国家の大敵となる身かもしれんのだ」

≪国家の大敵?≫

「そうだ。この日向には現在、脱走艦の嫌疑が掛けられている。沖合の戦艦扶桑は恐らく、私を討ちに現れたものだと思う」

≪そうでありましたか。何故に皇国の航空隊がこの地に星弾を落とすのかと驚いておりました≫

「大変お騒がせをしたようだ。暫しここに潜むつもりであったが、艤装展開が可能となった今、その必要は無くなった。今よりここを出て扶桑を突破し、呉へと向かう。それに伴い砲戦となるは、必至だろう」

≪扶桑さまと、撃ちあいを?≫

「撃ちあうが、もし沈むとすれば私のみだ。皇国を守護する私が、同じく皇国を守護する艦を沈めるわけにはいかんからな」

≪いったいどのような事情が……≫

「この日向にも如何なる経緯で脱走艦の嫌疑が掛けられたかが分からんのだ。事情は直接、呉の提督に糺(ただ)すつもりでいる」

≪それでは、呉に駐留する艦隊の妨害を受けましょう。先ずここは、無線を使っては如何でしょうか≫

「今、嫌疑の経緯は不明と言ったが、一足一刀の間合いに入らねば、伝わらぬことであると私は考えているのだ」

 一足一刀とは白兵戦闘、それも徒手格闘の間合いを指す。皇国の兵士には馴染みの言葉である。

 何故そう思うのか、その理由を口にするつもりはなかった。

 昼間出会った時雨の話によれば、呉の提督は既に姉の伊勢を手にかけている。呉を逃れなければ、日向も同様の仕儀となっていた可能性が高いと考えられる。記憶が喪失している故に確たることは言えないがだからこそ日向は呉を逃れ、野外で倒れていたのだろう。

 日向は皇国の艦である。よって皇国が日向をどのように扱おうと仔細はない。皇国に信任を受けた呉の提督が日向の生殺与奪をどのようにしようと、それに異を唱えるものではない。時雨の言っていたように近代化改修の素材とするのであればすればよい。

(この日向を亡きものとするのであれば、そう命じるがよかろう、呉の鎮守よ)

 但し、その命令は、この耳、この目でこの肌によって、承ろうと日向は思うのである。

(もし貴方と逢ったその時、本当にそうと命じられるのであれば……)

 莞爾と笑って従って見せよう。

 水臭い奴だ、貴方は。この日向の身命が欲しければそう言えばよい。それだけでことは足りるのに。

≪日向さまは、死ぬ気であられる≫

「そう見えるか」

≪見えます≫

 何時しか日向が浮かべていた笑みは、おそらくこの後、呉の提督に死せよと命じられたときに莞爾と浮かべるであろう、まさにその笑みであった。

≪小官もお連れ下さい。瑞雲の予備機の一機も与えて下されば、お役に立って見せます≫

「貴官にはここの社、ひいては皇国の鎮護という任を頼まねばならん。それは出来ん。……総員、上甲板整列!」

 日向の号令一下、これほどの、というほどの大勢の妖精たちが、艤装のそこかしこからぞくぞくと這い出して来る。在る者は砲塔から、在る者は航空艤装から、次から次へと現れ、あっというまに日向の艤装上は立錐の余地も無くなる。砲身によじ登る者、落ちそうになって仲間の妖精に助けられるもの、果ては日向の髪の毛にぶら下がる者も居る始末であった。

 艤装上は阿鼻叫喚、到底整列しているとは言い難い有様である。

「英霊に敬礼!」

 その妖精たちが、思い思いではあったが、一斉に敬礼を行う。

 日向が人の姿になって、初めて行う登舷礼であった。

 七転八倒四分五裂、混乱もここに極まったが如き日向艦上で、敬礼だけは一糸も乱れぬ、流石のものであった。

 答礼する上飛曹の瞳に、感涙がある。

 そもそもが大隊長相当、外史では上官に当たる日向の方から先に敬礼を行うという事態が異例である上、そもそも登舷礼とは、皇室か、軍人であれば元帥以上の者に対し行うものである。

 この時日向は、この妖精に皇家やその軍権を代行する元帥と同等の礼を尽くしたことになるのだ。

(70余年もの孤塁の護り……国軍髄一を誇るこの日向の武勲も遠く及ばぬ)

 護国の鬼神に対し相応でありこそすれ、なんの過多があろうか。

≪ご本懐を、日向さま!≫

「皇国の護りを頼む、上飛曹。……両舷戦闘配備!」

 もう振り返らなかった。

 敬礼を解いた日向は、踵を返す。

 妖精たちは我先にと艤装の内に潜り込む。この妖精たちこそが日向の脳細胞一つ一つであり、日向そのものと言っても過言ではない。彼ら妖精艤装員こそが、皇国最高錬度の戦艦、日向なのだ。

「いざ!」

 社のあった断崖より、何の躊躇いもなく身を躍らせる。

 平時ならば水面に叩きつけられ転落死を免れぬ高さも、≪浮力≫の加護を受ける今の日向には何ほどのこともない。艤装の破壊がないかぎり、水面には決して没さない、それが全艤装を展開し得た艦人の定めである。

 ザっ……と水しぶきが上がる。

 如何なる砲弾を用いてもこうはなるまい。海底噴火もかくやの、夜空をも覆う水煙が、刃鳴り一閃、左右真っ二つに切りさかれる。

 日向の佩刀の仕業かと見えたが、裂けた水煙から現れたのは日向の艦首であった。

 三万トン級超弩級戦艦の艦影が、白波を蹴立てて、その全容を現す。

「正体見せたか、扶桑」

 日向は、測距離妖精の力を借り、対敵の姿を見て取る。

 日向と同じく、既にその姿は、人の体を成していない。艦人扶桑の前身たる、純国産として史上最初の超弩級戦艦、扶桑そのものの姿である。艦人の姿とは現世におけるアバタ―のようなものであり、幽世の深海にたゆたう船体こそが、艦人の本体であり、真の姿であると言えよう。

 艦人の姿のままで砲の威力のみを放つことも、可能である。被弾したとしても、装甲のみを呼び出して防御することも可能なのだ。艦人の姿であっても艦の姿であっても能力に差異はあまりなく、生涯艦の姿とならず、女子の姿形のままに戦う艦人も多い。

 にもかかわらず、艦の姿を現すにはいくつかの理由がある.

 一つには、示威である。

 超弩級戦艦である扶桑と日向が成すからこと意味のある、我の巨大を敵に見せ戦意を粉砕せしめんとする、威嚇である。

「日向、見参ッ」

「まあ、日向。一体どうやって陸で≪浮力≫を得たのかしら」

「天照神の御加護とでも言っておこうか」

 いま一つの理由は、宣戦である。

 宣戦には、礼を伴う。

 武器を構えた相手に、我も武器を構えれば示威に屈する意志のないことを示すことになるが、同時に我が武器を白日に晒すのであるから、不意打ちの類など行えなくなる。つまりが、虚は用いず、堂々実力には実力を持って戦う意思を示したことになるのだ。

「そう。その姿を取ったということは、止まるつもりも引き返すつもりも、貴方にはないのね」

「国軍の艦同士、好んで争うものではない。道を譲ってくれれば在り難い」

「けれど、私が譲れば、貴方は呉へと……提督の許へと向かうのでしょう?」

「まあ……そうなるな」

「それを阻止するために、私は遣わされたの。貴方が呉に向かうなら、戦いになってしまうわ」

「それが貴方に与えられた任ならば、致し方なかろう」

「致し方ないのかしら」

「致し方ないな」

 日向と扶桑、両者は砲戦の間合いを取っている。互いは八千メートルもの彼方であり、通常声を張り上げたところで聞こえるものではないが、艤装を展開していれば、話せば通じる距離となる。

 二十キロ超の間合いで撃ちあう両者にとり、いうなればこの距離とは目鼻の先、両者にとっては手を伸ばせば喉笛を掴める距離であった。

 その距離が、ぐんぐん縮まってきている。両艦とも戦闘船速なのであるから、当然であった。

 日向に発砲の気配はない。

 四基八門の主砲の全てが依然、繋止状態のままであることは、扶桑から見て取れた。

 仰角を取っては居ない。つまりが射撃可能状態にないのだ。

(どういうつもりなの?)

 諸手を上げて、丸腰で槍衾に突っ込んできているに等しい所業である。

「聞き分けのない人。本当は私もこのようなことはしたくないのよ」

 扶桑は日向の意図を測りかねたが、いずれにせよ、やることに変わりは無かった。

「敵艦の突撃を破砕します。弾種徹甲弾」

 これは日向に向けての言葉ではない。

 扶桑艦内に立ち働く妖精たちに向けての言葉である。かつて十倍の敵にも怯まず反撃を続けた、扶桑の誇る果敢な主砲妖精たちに向けてのものであった。

 艦内に向けてとはいえ、扶桑ははっきりと、日向を敵艦と口にした。

「交互撃ち方! 用意……ぅてー!」

 かつて6基12門もの主砲を備えた扶桑も、航空戦艦への改修のおり1基を減じ火力は低下していると言える。とはいえ、伊勢型と比べ2門優勢であり、依然戦艦として有力な火力を維持していた。

 その10門のうち半数、5門の三十六センチ砲が轟いた。

 装填した弾種は硬目標に対し威力を誇る九十一式徹甲弾であり、如何なる艦種に対しても致命的な効果を得られるものだ。が、扶桑のこの一撃は必中を期したものではない。ボクシングで言えばワンツーのワン、左のリードジャブであり、本命は次の右ストレートである。ジャブによって弾着を確認し、次のストレートで必倒を期すのだ。

「狭叉!近四遠一!」

「弾着修正。反航戦の為相対速度が速い。砲塔指向急げ!」

 一方の日向は、舌を巻いていた。

(反航戦でいきなり狭叉とは……相変わらず化け物めいているな、扶桑め)

 己の鼻っ柱、進行方向を阻むように四つの水柱が立つ。

 まるで門扉を閉じられたようであった。並みの艦ならば出鼻を挫かれるであろう。このまま速度を維持し前進を続ければ、今水柱が立ったところに自分から突っ込んでいくことになる。それのみではなく、背後に一つだけ立った水柱…これは、日向に対し扶桑が狭叉を得たことを示すものだ。近弾のみならず、遠弾を次弾の照準の参考に出来るということであり、命中弾の射撃諸元をはじき出す可能性はより上がることになる。

「増速だ。両舷全速!」

 日向はあえて虎口へと飛び込む。

 初めから、そのつもりであったのだ。

 ざっ……

 大質量の水は、文字通りの壁だ。その壁を押しのけて増速した日向の、たったさっきまで居た空間に五発の魔弾が吸い込まれる。

「く!」

 弾は五つであったが、水柱は一つのように見えた。それほどに正確な弾着であった。

 戦艦の放つ巨弾の波浪の衝撃は、筆舌に尽くしがたい。

 小さな船ならばそれだけで転覆する。波浪により艦体を損傷、甚だしきは切断されるケースすらあるのだ。

≪あーっ! 瑞雲が!≫

 露天駐機していた瑞雲が滝のような海水を被るのを見て、日向艦載の六三四空の妖精たちが悲鳴を上げる。

≪風防閉めてたろうな、おい! あれじゃ操縦席が水浸しだぞ!≫

≪中でハゼが泳いでるかもな≫

≪あれにゃ乗りたくないな。操縦席に座ったらパンツが水浸しだ≫ 

≪パンツの心配なぞしてる場合か! くそ、これだから艦載の航空隊は!≫

 艦人である日向はホストであり、妖精たちは端末といっていいから、やりとりは大体日向に聞こえているわけだが、日向にはこれに構っている暇はない。

 艦首で水柱を開啓した日向の眼前にあったのは、信じがたい光景であったのだ。

「なっ…!」

 前方に扶桑が居る。

 その状況は変わりない。

 ただ、扶桑の見えている状態が違う。扶桑の左舷が、夜目にも長々と見えているのだ。

(水煙で視界を遮られたのは何秒だ。二秒か、三秒か)

 その間に転舵した扶桑は、千載一遇の決定的好機……T字有利という状況を作り上げていたのだ。

 むろん、今しがた日向の艦尾を脅かした5発の徹甲弾とて、必中を期したものに違いはないはずである。命中即必殺の九十一式徹甲弾に必中を期した扶桑は、必殺を遂げたさらにその後の事をも考慮していた。斃せるはずの日向を万が一、斃せなかった時に備えていたのだ。

(慢心の余地一切なし。なんたる機略、なんたる操艦……!)

 この艦を。扶桑を沈めてはならない。

 日向は幾度となく行った決意を、扶桑に対してもまた新たにする。

 例え己が幾度沈もうとも、扶桑を沈めてはならない。

(敵にしてみて改めて知った。深海棲艦隊との来るべき決戦に、何としても欠くことがあってはならない艦――)

 例え我が身が亡ぶとも、だ。

「行くぞ扶桑! 伊勢型航空戦艦・日向、只今より必生仕る……っ!」

 やはり来るか、と扶桑は瞑目する。

 己たちもそうであった。外史での戦いで、スリガオ湾を守る十倍もの敵艦隊に対しても、退くという選択肢は無かった。

 ただ、ここに至るも日向に発砲の気配はない。 

(さりとて前進を止めるわけでもなし……一体何を考えて?)

 剣の切っ先の如く艦首を扶桑の右舷に御しつつ、波を蹴立てて突き進む様はまるで…

(衝角戦でもするつもりなのかしら?)

 日向は衝角戦を試みようとしているのか。

 扶桑は、小首を傾げる。

 もしそうだとすれば、4万トン級の超弩級戦艦同士の衝突である。何れもタダで済むわけがない。

 扶桑は真っ二つとなって見事討ち死に。しかし日向も艦首損壊により、まともに航行出来なくなる。これにより、日向の呉鎮守府突入は阻止出来るだろう。我が身は死すとも、日向阻止という武勲が赫々と残るのだ。

(……仕方のないひと)

 全く、仕方がない。

 日向が向かってくるのだから仕方がない。このまま艦首を突き刺されでもしたら己が沈んでしまうのだから仕方がない。突破されたら呉の鎮守府が危ないのだから仕方がない。

(仕方のないひとね……)

 己と山城は生まれながらに欠陥戦艦であったわけではない。もともとが皇国随一の大艦であり、最強の艦であったのだ。

 己たちを改良したという伊勢と日向が現れて、全ては変わった。

 己も山城も外洋に出ることは無く、年中の殆どをドッグで過ごした。本来「改扶桑型」であった伊勢と日向は、艦容の一変した「伊勢型」となり、扶桑型とは全く別物とされた。

 この後、外史において伊勢と日向は幾度となく敵に煮え湯を呑ませる。

 一方の扶桑と山城は、何一つ戦果を挙げることも無く、成すすべもなくスリガオに沈んで――

(いいえ、関係ないわ)

 これから扶桑が成そうとすることには関係のない事柄だ。先に述べたような理由があるのだ。帯びている任務もあるのだ。だから仕方のないことだ。全く仕方のないことなのだ。

「全砲門斉射! ぅてー!」

 もしも人の姿であれば、口は耳元まで裂けていたかも知れぬ。

 そのような笑みを、扶桑は浮かべていた。

 それほどまでに扶桑は餓えていたのだ。或いは、卑下していたのだ。

 戦艦としての生に。欠陥艦としての不名誉に。一度の戦いで一艦も沈めることなく滅んだ無為の己に――

「南無……」

 これに対し、日向は神仏に念じるしかなかった。

 他に、手立てがなかった。

 丁字に布陣した扶桑の狙いは完璧だった。それに対し己はただ突き進むしかなかった。外史のスリガオにおいて扶桑たちが、そうしたように。

 しかし、まさかと言うべきか。

 仰角0で平射された必中のはずの魔弾は、ただの一発も日向を捉えることは無かった。

「「な……!?」」

 扶桑、日向、何れにとっても信じがたい事態である。

 扶桑は必殺を期したし、日向は必死を覚悟していたのだ。

(伊勢の大神の御加護か?)

(いや、ちがう)

 確かに幸運は幸運であろう。しかし、それだけではない。

(扶桑ともあろうものが……迷ったな!)

 正射必中、という言葉がある。

 正しい射形より放てば自ずと矢は当たる。弓道日置流に伝わる、空母の艦人たちに親しまれる言葉は、砲術を行う戦艦たちにもよく知られる。

 艦人に限らず、人の身体とは人の心を受けて働くものであるから、正しい射形を表すには正しい心が必要であることは言うまでもない。扶桑は確かに日向必殺を念じたが、敵である日向に必殺の意を致す余り、我が技に意を配ることを怠った。

 呉の提督風に言うならば、目標の射撃諸元にはリソースしていたが、我が艦の砲の諸元チェックをリソースしていなかった、ということにもなろうか。

(砲術とは敵との戦い以前に我が砲、我が身我が心との戦い)

(扶桑……君ともあろうものが、それを忘れようとは)

 いや、日向自身、もし扶桑を撃とうとすればどうだったであろう。

 正しく撃てたであろうか。

(撃てんな、おそらく)

 平常心を持って仲間を撃てようはずがない。

 そのようなことは知れている。故に日向は撃たぬ。

(撃たぬ故、迷いはないぞ――私にはな!)

 裂帛の呼気と共に、日向は発刀した。

「ぃえええええあッ!」

 ここに至るまで佩刀を用い斬り合うこと数度。

 初めて日向は、抜刀に発声を伴う。

 物理的に刀が届く距離ではない。そのようなことを意図しては居ない。これは我が心、我が身我が技を解き放つ為の所作。楽隊(オーケストラ)の指揮者(コンダクター)が指揮棒を使うがごとくに、日向は我が刀を使ったのだ。

 日向の意を受けた日向の切っ先…艦首は扶桑めがけ一直線に突き進み――扶桑の艦体を真っ二つとすることは無かった。

 衝角戦など日向は意図していなかった。

 斬り進んだのは、扶桑の阻む日向の進路であった。

(扶桑……!)

(日向……!)

 いや、完全に衝突を回避したのではない。

 僅かだが、日向の艦首と、扶桑の艦尾が接触し合っていた。

「く……!」

「ぬう……!」

 損傷はない。掠ったところの塗装が持って行かれた程度のものだ。しかしそれによって、扶桑も日向も、進路が乱れた。

 これにより得を取ったのは日向。

 損を取ったのは扶桑である。

 日向の方は進路を修正すればいいだけの話だが、扶桑の方は、予期せぬ我が姿勢の乱れにより、次弾の射撃諸元をやり替えなければならなくなってしまった。もちろん、日向のほうはそれを狙ったのである。

 扶桑の砲術妖精たちが総力を挙げて諸元修正を叩き出したときには、既に日向は射程の外縁目がけて疾走しつつある。

「……日向。あなたという人は……」

 回頭し追撃するべきであるはずの扶桑は、何故だが、それを行わなかった。

(この私を一顧だにしないなんて……)

(あなたは、それほどまでに……)

 呉に行きたいのか。

 連絡ならば、確認ならば通信を使えばよいではないか。

 なのに行くのか。超弩級戦艦六隻が待ち構える死地へと。

 そこには何があるのか。それほどまでにして行く理由があるようには――

(……いいえ。あるのね、日向)

(呉の提督に逢う理由が、貴方には……)

 呉には、日向にとってとても大切なものがある。たぶんそれがその理由なのだ――

 

***

 

 日向の舳(へさき)が、瀬戸内の波を切り開いていく。

 我が手にある我が刀で、切り開いた航路である。

「はー…っ、はー…っ……」

 手足はがくがくと震え、定法の血振納刀を行うことにすら支障を来たした。

 扶桑が我が心にどれほどの圧力をもたらしていたのかを知る思いであった。

 今頃になって、まだ息が鎮まらぬ。

≪見事ね、日向≫

 聞き知った声を背後に聞いたのは、この時であった。

「……!?」

≪おっす、日向。ちょっと久し振り≫

「……な……」

≪よっぽど手を貸そうかと思ったけど、必要なかったみたいね。さすがは私の妹≫

「……伊勢!?」

 伊勢。伊勢だ。しかし、なぜここに。

 艦人が艦人に搭乗したという例は、今までにない。艦人に限らず、日向が全艤装を展開し戦艦の姿をとったとしても、搭乗出来るのは妖精のみである。

 しかるに、ここは日向の艦橋である。

「……なぜ……」

≪聞きたい? 聞きたいよねそりゃあ≫

「当り前だ。近代化改修を受けたのではなかったのか、陸軍艦の」

≪その通りよ。私は近代化改修の素材になった。ただ、その近代化改修の相手は……≫

「……まさか!」

≪そのまさかよ≫

 艦人同士の「合成」が可能であることが判明したのは、艦人の歴史の極早い段階で、近代化改修、という呼称が定着した。

 艦人の末路は概ね二つであり、一つには解体されて≪浮力≫のマテリアルとなるか、いま一つは近代化改修の素材となるかである。

 艦人自体も妖精の一種であり、躯体の喪失と引き換えに、幾ばくかの≪浮力≫を指向活性化させるマリアテル……燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイトを得られる。これが解体である。

 近代化改修とは、艦人のOSプログラム(と呉の提督は言っていた)に別の艦人のそれを接続してサブプログラムとして用いることで処理効率を上げることを指す。この際素材となった艦人は躯体を稼働する能力を失うため、艦人の末路の一つと言われるのだ。

≪提督の命令で近代化改修の素材になった私の接続先は、陸軍艦じゃなくって日向だったってこと。ようするに、私は呉の提督に、日向乗り組みを命じられたってことなのよ≫

「そういうことであったか……」

 重大な局面ごとに伊勢の囁きが脳裏に聞こえたのも道理であった。

 伊勢は、日向の内に居たのである。

「……そういうことであったか……」

 日向は、繰り返した。

 記憶の欠損も、近代化改修による、サブプログラムインストールに伴うメインプログラムのリブート、つまり電源を切って立ち上げなおすことに由来するものであったとすれば合点がいく。電源を落としていた時間の記憶が無いのは当然であるし、前後の記憶に欠損が生じることは、ままあることである。

 一つ真実に近づいた思いであった。

≪あのね、日向。私、呉の提督に気を付けろって言ったわね≫

「言ったな」

≪相応のの意味があるんだけど……聞きたい?≫

「いいや。それを聞くべき相手は伊勢ではないな」

 見慣れた伊勢の笑みが、今は懐かしくさえあった。

 その笑みだけで、全てが許せるような気が、日向にはしていた。世を覆う全ての闇が晴れたかのような、そんな心地であった。

 呉の提督は、本気で日向を沈めに来ている。

 しかし、それもこれも、日向や伊勢を蔑ろ(ないがしろ)にしてのことではない。

 伊勢を我が艦橋に迎えた今、日向には確信がある。

「何故に伊勢にこの日向乗艦を命じ、また何故にその日向を沈めようとするのか……この先は呉の差配に、直接聞いてくれる」

≪……そっか。日向らしいね。そう言う気がしてた≫

「ふ……では行くぞ、伊勢」

≪行こう、日向≫

 瀬戸の内海に、今や払暁が近い。

 




読んで下さりありがとうございました。次回に続きます。
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