小池一夫ニキ原作の艦これ劇画がいつまでたってもでンので俺がそれっぽい小説にしてみた 作:臣 史郎
タイトルを変えることはしません。
臣が向こうに行って、もしも一瞥の機会を得たなら、このようなものを書いた者だと名乗って大いに笑われようと思っています。
提督は、案内してやれなどと言ったが、案内など要らない。
呉鎮守府の寄宿舎は幾度となく利用しており、時雨にとって勝手知ったる他人の家である。部屋番号はもう聞いているから迷うことは無い。
案内をしろと命じられた小柄な潜水艦娘は、時雨の前ではなく、後ろに付いてきた。
時雨が自室に入ると、一緒に入ってくる。
「…」
「…」
時雨は何も言わない。
潜水艦娘も何も言わない。
何も言わずに、伏し目がちに、じっと時雨のことを見ている。
大人しそうな娘であった。
真面目そうな娘であった。
恐らく、時雨の監視を命じられているのだろう。じっと時雨のことを見ているのは、大真面目に命令を果たそうとしているからなのだろう。
「君は、何て言うんだい?」
聞いてみたのは、黙っていると無力感に押し潰されそうだったからだった。
この無力感という感情とは時雨は付き合い慣れていた。仕事でも遊びでも、何かで紛らわさない限り雪だるま式にどんどん肥大して、思考回路を押し潰して判断を阻害する。
「…」
「名前だよ。君の名前」
潜水艦娘が黙ってうつむいているので、時雨はさらに促す。
時雨の虫の居所は悪かったが、この娘に何の落ち度も罪もないことは明白であったから、口調は務めて優しかった。
「…まるゆです」
それが良かったのか、潜水艦娘は応えた。
「まるゆ?」
「はい。まるゆです」
どのような字を当てるのかが時雨には不明であったが、どうやら、それが彼女の名であるらしかった。
***
払暁が、執務室の窓をほの明るく染めつつある。
呉鎮守府の長い夜が、今明けつつあるのだ。
「戦艦長門。日向を迎撃せよ」
提督の短い命令に、長門は無言にて、了解の挙手礼を行う。
日向撃沈の命を帯びた扶桑より『日向、突破ス』の報を受け直後のことであった。
「チョッと待って!」
これは長門ではない。その姉妹艦であるところの陸奥の発したものだ。
命を受けて執務室を出てゆく長門のみならず、これを命じた提督にも向けた問いであった。
「出撃するのは、長門だけなの?」
「いかにも」
「何故かしら」
陸奥の問いは当然のことであった。
「ここには長門以外にも私、それに金剛、比叡、霧島、榛名…計6隻もの戦艦が居る。それにそこにいるあきつさん…だったかしら? 陸軍の方だっているのではないかしら?」
「うむ」
「出し惜しみしてる場合? 兵力も火力も、逐次投入をすべきではないわ」
「陸奥」
これは、提督ではない。
命により赴く、長門の制止である。
「提督はこの私に、皇国決戦主力として日向と決闘せよと言っているのだ」
陸奥の言は戦理に適う。この場の誰もが理解しうることであった。
金剛四姉妹も当然それを理解しているだろうが、誰も何も言おうとしない。長姉金剛はむしろ、面白いことが始まったとでもいうように笑みを浮かべつつやりとりを見守るのみであり、比叡以下も姉が何も言わぬなら我らも言わぬとばかりに、それに倣っていた。
「ならばこの戦艦長門は、軍命を受け日向との決闘に臨む。それのみだ」
「だから待てっていってるでしょ! 分かってるはずよ長門、貴方には勝ち目はないって!」
長門型戦艦は伊勢型の主砲36センチ砲に勝る威力の41センチ連装砲4基8門を搭載し、36センチ砲に対し抗弾しうる装甲を有する。前級である伊勢級を完封可能な仕様を設計段階から求められ、建造された艦が長門型であると言っていい。
その長門に対し、耳を疑うような陸奥の言葉でであった。
それを、長門の同型艦であるところの陸奥が発したのである。
「もう一度言ってあげる。一対一での戦いでは長門。貴方は日向に勝てない。それが分からないひとはこの場には居ないはずよ。そうでしょう?」
「陸奥の言うことは分かるネ」
この片言の日本語は、言うまでもなく金剛姉妹の長姉のものである。
「だったら!」
「だけどネ? 長門は、止めて欲しいですカ?」
「皇国総旗艦たる我が身においては、利不利はもとより、勝敗死生ことごとくを超越する戦を行わねばならん。出来うるからこその皇国決戦主力。また、出来ねば決戦主力たる資格なし」
「だ、そうですヨ? 陸奥」
「…分かった。いいえ、分かってたというべきかしら」
陸奥は、嘆息する。
長門の応えを、大方予想していたようであった。
「じゃあ、こうしない? 日向撃沈任務には長門型二番艦、この私陸奥が出向くわ。長門と私とは同型艦、スペックは全く同等。日向との一対一という条件では、長門が戦うのと同じ結果が得られるはずよ」
「ならん」
スペック的にも錬度的にも、長門と陸奥は拮抗する。
理論上非の打ちどころのない陸奥の進言をしかし、提督は言下に否定する。
「どうして?」
「長門でなければならんからだ」
皇国総旗艦が長門であるから、という説明を≪提督≫は行わない。
「全然、納得出来ないわ。でも、どうしても長門を行かせたいならそうね…この陸奥と長門でここで一戦して、長門が勝ったならというのはどうかしら?」
「金剛。陸奥を抑えておけ」
「了解ネ」
「ちょっと!」
陸奥を取り囲んだのは、金剛だけではない。
金剛に従う三人の姉妹…比叡、霧島、榛名の三艦である。
四対一であった。
「長門。行け」
「承知」
既にその身を全身艤装としていた長門は、陸奥らのやりとりについに一顧だにすることなく、執務室を後にする。
満ちた≪浮力≫の影響により、鎮守府の床は総排水量3万トンを超える重量を受けることはない。しかし、長門を目にした誰しもが、その一歩の歩みの尋常ならざる重みを感じ取る。それは恐らく長門の総重量の重みのみでは有り得ない、長門の負ったものの重みに違いなかった。
短いですが取り急ぎここまで。
今までは一区切りで推敲してから投稿していましたが、今回よりは小まめに投稿していきたいと思っています。