春の匂い。
暖かい日差しがちょうどいい具合に差しかかる。窓から入る風が心地よくて、起き上がる気力すら持てない。
どれくらいの時間が経っただろうか。確か、さっきまで数学の小テストがどうとかなんか…
「おーい、起きろ〜、
んだよ、いいとこなんだから寝かせてくれよ。昨日の夜更かしでかなり睡眠不足なんだよー
「ガッ…」
「ようやく起きやがったなぁ、もう昼飯だぜ。」
まだ回らない頭で時計を見ると、時刻は12時半。確かに、クラスに人はほとんどいない。みんな他のクラスに行ったり、食堂に行ったりしているようだ。
「早くしろよなぁ。俺だって食堂にいって飯買いに行きてえのに。」
そう愚痴を言う目の前の男は、辰巳謙也。このクラスでも最も親しい友達と言える人物の一人だ。そういえば、今日の朝に食堂に付き合ってくれって言ってたなぁとぼんやり思い出す。ってそう言う俺も確かに空腹だと今になって感じた。
「悪い、悪い。とりあえずお詫びでなんか奢るよ。」
「マジか!サンキュー逢翔!」
謙也の目はキラキラと光っている。子どもかよってつい笑ってしまいそうになる。こんな風に見えて実はすごく友達思いだから、クラスのみんなにも人気者だ。
昼飯を買いに行き、教室を戻る途中に人のザワザワとした声が聞こえる。何事かなぁ?と考えていると、
「おい、見ろよ逢翔。噂の遠坂先輩だぜ!」
「遠坂?ああ、3-Aの?」
「成績トップ、穂群原でも五本の指に入る美貌、間違いなくこの学校一の人気者ですぜ。」
「あれ、お前来ないだ弓道部の間桐先輩ってばっか言ってなかったっけ?」
「それは、それ。これは、これだろ…」
なんてくだらないことを話してると、前を通った例の遠坂先輩が歩いて来た。と思うとチラリとこちらを目をこちらにやって、
「あれ?いまこっちを見てたような」と俺がぼそりと呟いたのを、
「それこそ見間違いだろ。って、もうチャイムなるぜ」って謙也に言われたところで時刻は休憩終了の1分前を指していた。
放課後の下校の合図が鳴り響く。帰りの支度を整えると、
「じゃあ逢翔!俺部活行くから。また明日!」
ど謙也に声をかけられたので軽く返事をして教室を後にした。
時刻は5時頃。玄関前の長廊下を歩いていると、1人の生徒が前から歩いてきた。お互いに近づくとあの遠坂先輩だということに気づき、軽く会釈して通り過ぎようとした。
「気をつけなさい。でないと、あなた死ぬわよ。」
「え?」
「ただいま。」
そう言って帰ってきた家も今は1人しかいない。
親は11年前の火災で2人とも死んだ。
まぁ悲しかったんだろうけど、あの時の俺にそんな余裕はなく、気がつくと病院の天井だった。
俺の身柄は祖父母が引き取ってくれたらしく、2人は冬木からは遠くのところに住んでいるから、この家は今や俺1人なのだ。
原因不明のあの火災から確かに時は経った。だが、あの時から俺は笑わないやつだと言われるようになった。自分ではそんなつもりはないのだが、確かに心底笑うこともなかったかもしれない。あの時から何か俺の中からぽっかり空いてしまったのだろうか。
いつも通りに夕飯を食べ、風呂に浸かり時刻は12時をちょうど回ったところで、寝床についた。
今夜は月が眩しく、窓から入ってきた光がう。いや、眠れないのは月のせいだけじゃない。
あの時の遠坂先輩は俺になにを伝えなかったのだろうか?死ぬとは?思い当たりが全くない。第一、俺は遠坂先輩とはほとんど関わりなんてないんだ。恨みを買うなんてこともないし。あの台詞は本当に何を意図していたんだろうか?
そんなことを考えているうちに、俺は浅い眠りについた。そして、
夢を見た。