SynCrossnize World   作:獅子の一等星

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今までこういった物を書いてはいましたが、こういった場所に投稿するのは初めてです。
読みにくく、短いうえに拙い文章かとは思いますが、着実に更新していけたらと思っていますのでよろしくお願いします……


第一話 運命の遭遇

 

 山の頂上に立つ、神殿のような建物…その中にある円卓の間に複数の者と思われる声が響く。

 人間が座るには少し大きい木製の円卓には、12の席があるが、埋まっているのはその内の八席のみ。

 座る面々も人の姿をしているものが多いが、厳密に人間とは言い難い外見をしている。

 

「状況は芳しくない……進化の柱が1柱、生命の柱が2柱失われ、守護の柱も1柱失われている……」

「過ぎたこと言ってもしょうがないじゃない? 」

 

  紅の炎を纏った存在が今向かい合うべき事態について切り出していく。

対して幼い少女が羽のついたヘッドギアに包まれた頭を振ってその言葉を受け流し、活発そうな声で返答した。

 

「だ・い・じ・な・の・は! これからどうしていくか、よ!! 」

「うぐっ!?」

 

  さらに自身の円卓から飛び降りて、炎を滾らせている彼の席へぴょんぴょんと碧の三つ編みお下げを揺らしながら近づき、彼の頭から延びる鬣の様なオレンジの毛を両手で勢いよく引っ張る。

 彼女なりに未来を見て、悲観的な感情を吹き飛ばそうとしているのだろう。

 

「ミネルヴァモンよ…適度な緊張感は、あってもいいのではないか?」

「相変わらずアポロモンとミネルヴァモン二人は仲良しだね! 」

「「仲が良くなんてない! 」」

 

  赤き炎…アポロモンと羽飾りの少女…ミネルヴァモンの会話に新たな声が2つ加わった。

  呆れたように狼型のヘッドギアをつけた存在がやれやれと首を横へ振り、8本の腕の手で拍手をする異形が二人の仲の良さを茶化す。

  2体は即座に仲良しという言葉を否定するも……それがシンクロしてしまうのは、本当は仲が良いの証拠なのだろう。

 

「今のところ我らのゲート自体に問題は出ていない……」

「こちらのゲートを開くにはボクとメルクリモンの力が必要だからね! 」

「メルクリモンとウルカヌスモンがそう言うなら、大丈夫なんじゃないの? 」

 

  雄々しいヘッドギアの顎部分を親指と人差し指で挟んで考え込んでいるメルクリモンと8本腕の異形のウルカヌスモンがポジティブな考えをして自身の多腕を自由に揺らす。

 共に門を司る柱の2人が断言したことから、『ゲート』の封印は完全であると言っていいだろう。

 2柱の意見を後ろ盾にし、両腕を頭の後ろで組んだミネルヴァモンは体を左右に揺らしながらも、自分の意見を再度通そうとして。

 

「だが、こちらのゲートのロックは万全でも向こう側にもゲートを開く能力を持つデジモンがいると聞く……」

「もーっ、アポロモンは心配し過ぎ! もし出てきてもアタシ達が抑える! それでいいでしょ? 」

 

 その2体から語られる状況に、敵が裏をかく可能性を考えるアポロモンに例え破られたとしても自分達が倒せばいいと主張するミネルヴァモン。

 燃え盛る炎を持ちながらも慎重さを持つのが窺える意見と、少女らしいのか楽観的でポジティブな考え方がぶつかる。

 会議を始めてから1時間…何度目かの光景が繰り返されようとしていた。

 

「ミネルヴァモンは楽観的過ぎるのだ! ポリセイズムサーバー『イリアス』を守護する我らオリンポス十二神の筆頭代理である……」

「自覚を持て!でしょ?もう聞き飽きたわよ!」

 

 彼らの生きる世界であるデジタルワールド……ポリセイズムサーバー『イリアス』を守護するオリンポス十二神達は神人型デジモンの集まりだ。

 口論をしているアポロモンは世界を司る柱、ミネルヴァモンは守護を司る柱として『イリアス』を統治している。

 更にミネルヴァモンは十二神の筆頭代理を務めているため、役割に反したその奔放さにアポロモンも苦言が多くなってしまうのだろう……

 また燃え上がりそうな口論を諌めるように円卓の間に声が響く。

 

「まあまあ、お二人とも落ち着いて~短気は損気……ですよ? 」

「世界のことが気がかりなのはわかりますが、落ち着いて話さなければ実のある結果とはならないでしょう? 」

 

 2人が視線を向けるとそこには天女がおり、リボンを目を含めた全身に巻いていて詳しい表情は伺えないが、優しげな微笑みとおっとりとした声で場を和らげる。

 その声に続いて冷静さを取り戻させようとする女性戦士も仲裁に入る。彼女の冷静さを示すように落ち着いた白と青のカラーが目立つ、月をモチーフとした鎧を輝かせながら……

 結果として双方はムキになり過ぎていたことをようやく自覚し、アポロモンとミネルヴァモンは矛を収めた。

 

「ウェヌスモン、ディアナモン……すまなかった、熱くなり過ぎていたようだ」

「うっ、ごめんなさい……」

 

 冷静になったことで、客観的に自身を見直せたためか、アポロモンとミネルヴァモンは赤と緑の毛をそれぞれ揺らして他の十二神へと頭を下げる。

 これで今回の円卓議会はようやく堂々巡りから解放されるだろう。

 ウェヌスモンと呼ばれた天女は満足げに頷き、ディアナモンと呼ばれた女性戦士は右手の人差し指を上に向け状況把握の続きを進めていく。

 

「わかればいいんです~それでは~」

「ええ、状況の把握を続けましょう……ケレスモン、ネプトゥーンモン『カオス』によるバックアップ状況は? 」

「現在の状況では――」

 

 2人の謝罪を受けたウェヌスモンとディアナモンは円卓へと向き直ると、同胞に情報解析の結果を尋ねた。

 その言葉に答えたのは森を背中に背負った巨大な鳥……ケレスモンだ。言葉を発しているのは頭頂部の人型の部分、ケレスモンメディウムである。

 巨大なケレスモンと比べると豆粒位の大きさな鱗鎧を装備した人魚……ネプトゥーンモンは待っていましたとばかりに尾で地面を叩き、詳細なデータを円卓上の空間へ表示していく。

 

「欠けた進化と生命……守護の部分のバックアップは行われておるが、やはり彼らが持っていた……『カオス』によって託されたオリジナルプログラムには及んでないようじゃの」

「俺らが完全に揃っていた時期と比べて進化と生命、守護の力は現在それぞれ60%といったところさ……」

「そうですか……やはり彼らの力が欠けた今、デジタルワールド・イリアスは不安定な状態になってしまっているようですね」

 

 ケレスモンとネプトゥーンモンの報告を受けて円卓の面々が状況を再確認。

 ディアナモンは指を顎に当てつつも、自分たちの世界の状態を端的に表現していく。

 

「でも~我々に世界とその要素を託して眠りについた『カオス』が未だに力を貸してくれているのは、ありがたいです~」

「しかし、それ以上に情けない……『カオス』から力を託された我らがその役目を全うできていない! 」

「もー! そこは『カオス』も一緒に戦ってくれてるって思うところでしょ? 負のオーバーライトのし過ぎはよくないよ!」

 

 自分達に力を委ねたホストコンピューター『カオス』の助力へ感謝をする者、不甲斐無さに怒りを抱く者それぞれだが……

 詳細データを閲覧し終えたディアナモンが口を開く。

 

「さらに細かく言うならば……最低限の世界の秩序は保たれていますが、進化を司る柱の不在で進化が減少し、生命を司る柱が2柱いなくなり本能と感情の働きが弱まり、生命のバランスが不安定になっています」

「そして守護を司る柱が不在なことで~単純な戦力も減少してしまっていますものね~」

 

 防衛の要が欠けたこともため息交じりに憂うウェヌスモン。

 単純な戦力の減少は外敵への対処も厳しくなるということだからだ。

 世界を司る機能も『カオス』によるバックアップで何とか保っているのも当然好ましくないだろう。

 

「ユピテルモンにマルスモン、今彼らがいてくれたら……ボクが秘蔵のクロンデジゾイドで新しい武器を作ったのに……」

 

 失われた二柱の神。その戦闘力と自身が作る武器ならば、劣勢はなかったとウルカヌスモンは悔しさを滲ませる。

 円卓に振り下ろされた8つの握り拳が、打楽器を叩くかのような音を周囲に響かせた。

 

「偽神(デミウルゴス)の軍勢に敗れたバッカスモンはともかく、ユノモンはどこへ消えたのか……我の速さで探しても行方は知れない」

 

 メルクリモンも腕を組み、敵に破れ消滅した1柱と、突如として行方をくらませた1柱へ思いを馳せるが、弱気になる自分に喝を入れるかのように首を振って。

 またしても雰囲気が暗くなってしまった。彼らが座る円卓の間に少しの間嫌な沈黙に包まれてしまう。

 永遠に続くかもしれないと思われたその時、円卓の間に通信音が鳴り響く。このコール音は……

 

「この音は! 」

「これは……『カオス』からのエマージェンシーコール!? 文章データが送られてきている? 」

 

 真っ先に反応したネプトゥーンモンと、送信されてくるデータがあることをアポロモンが感知する。

 それほど膨大な容量ではないようで、すぐに円卓上へと文章が小さく表示された。

 

「我らへのメッセージ!? ディアナモン、頼むぞ」

「ええ!今拡大をします!! 」

「えっと~どれどれ~? 」

 

 メルクリモンがディアナモンへ文章の拡大を指示し、それを受けて彼女はメッセージデータを拡大する。

 ウェヌスモンは宙に浮き、純白のドレスを棚引かせながらも近づいて、文章に目を通していく。

 

「ふむふむ、これは……予言かのう? 」

「送ってくるならもうちょっと分かりやすく書いてよぉ! 」

 

 続いて文章を予言ではないかと推測するケレスモン。その巨体故にすぐにメッセージを見ることができたのだ。

 自身の優れた視力でメッセージを読み、難解な文章を見た途端にミネルヴァモンは文句をつける。

 デジタルワールドそのものに対して不遜な対応だが、実に彼女らしい反応である。

 

「ボク、何書いてあるかサッパリだよ! 」

「読める範囲ではこれだけか、後は解読を急がなければならないな……」

 

 意味が分からないと素直に自身の多腕を上に挙げて、お手上げのポーズなウルカヌスモン。アポロモンは逞しい両腕で器用にコンソールを叩き解析を急ごうとする。

 オリンポス十二神へと権限や能力を譲渡し、バックアップ以外は眠りについていたホストコンピューターによるメッセージとは?

 それは予言のような書かれ方で、一部のデジ文字は読めるのだが他の部分は暗号化していた。現状では十二神達でも解読ができない状態となっている。

 唯一暗号化していなかったメッセージの最初の一文には、このように記されていた……

 

 

 『異界の聖騎士、十二神治める大地に降り立ち……世界覆いし邪悪を十一の刃で斬り開くであろう』

 

 

 デジタルワールド・イリアスのホストコンピュータが残したメッセージは、オリンポス十二神達に進むべき指針を示した。

 しかし、それと同時に新たな悩みの種が十二神達の脳内へ蒔かれていくのであった。

 

 

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 6歳ほどの少年が、幼い少女の手を引いて桜で彩られた公園を必死に走る。

 その周囲には桜の花びらが舞っている……一見すると春ならばよく見られる光景だ。

 しかし花吹雪の他にも白、金、黒の3色の雷が同時に飛び交っている。

 白い雷に立ち向かうかのように、金と黒の雷は一つとなって向かっていく……

 雷のぶつかり合いが起きる度に花吹雪は散り、美しい花弁は焼け焦げてしまう。

 

「春奈、こっちだ! 」

「怖いよぉ……お兄ちゃぁん! 」

「大丈夫、俺が絶対守ってやる! 」

「う、うんっ……」

「次は、向こうだ! 」

 

 雷の直撃を避けるように公園の中心部から外へ走る少年とその妹。

 2人が身につけている服は、降り注ぐ雷の余波により所々焼け焦げている。

 ずっと走り続け、子供の少ない体力はすぐに底をついたのか……そのスピードが徐々に落ち始めてしまう。

 そこで少年は体力を回復させると同時に降り注ぐ雷から身を守ろうと考えたのか、ドーム型のトンネル遊具へと妹と共に入っていった。

 

「後はここでじっとしてれば大丈夫だ……」

「ううっ、雷……こわい」

「だからお兄ちゃんがいるから大丈夫だって! 」

 

 先に入った妹とトンネルの中で身を寄せ合い、震えながら雷が止むのを待つ……

 不安がる妹を必死で元気づけるも、自身も湧き上がってくる恐怖心と戦う少年。

 トンネルに入って暫くしても鳴り止まないどころかさらに激しくなる雷音。一際大きく鳴った次の瞬間、大きな衝撃がトンネルに走った。

 

「うわぁぁぁっ!? 」

「きゃあぁぁぁっ!? 」

 

 何もかも破壊しつくしてしまうかのような雷の轟音。

 白と金と黒の雷がトンネルの直情でぶつかり合い、その途方もない威力と衝撃によってトンネルが無残にひしゃげていく。

 あまりの衝撃に、妹を抱きかかえていた少年の意識は闇に呑まれてしまうったのだった。

 

「は、春……奈?春奈は……!? 」

 

 衝撃によって生み出された瓦礫の小さな欠片が彼の顔に落ち、その衝撃で少年は残骸の中で目を覚ます。もう周囲から音は無く、雷は止んだらしい。

 すぐに気がつくのは先程まで身を寄せ合っていた妹の感触が無いことだ。

 衝撃ではぐれてしまったのか……痛む体に鞭を打って首を動かして周囲を見ると、妹の存在を近くに感じる。

 しかし、妹は頭から血を流し、体には無数の裂傷があり、意識はない……辛うじて呼吸はしているが、このままでは危ない状態なのは明白だった。

 少年は自身も頭から流血しながら、妹へと必死に這いずり寄る。このままでは妹が死んでしまう……直感でそう感じているのだ。

 だが今の彼では、なにもできそうにない。藁にもすがる気持ちで頭に思い浮かぶ神様に片っ端から「妹を助けて」と祈りを捧げるしかできない。

 そうして自分の無力に打ちひしがれながらも祈りを捧げていた時、まるで少年の願いに応えたように光のオーラが彼と妹を包み込み、少年の脳裏に厳かなの男性の声が響いた。

 

『すまない、人の子よ……我らの戦いに小さき君達を巻きこんでしまった……』

 

厳かなその声の中には若干の苦悩を抱えているかのようで……

 

『私の残された力で、君達を救おう……それが今できる唯一の償い。しかし、これによって君達へと重い物を背負わせてしまうかもしれない……だが、今はこの方法しか手はないのだ……本当にすまない』

 

 優しい光が少年と妹を包み込んで体の痛みが徐々に消え、流していた血の痕も無くなっていく。

 少年は傷一つない状態に、妹も同様に傷は癒えて顔色と呼吸も落ち着きはじめる。

 痛みがなくなったことに安心したからか…緊張の糸が切れたからなのか、少年の意識は徐々に遠退いていき……

 

『い、の……くん! いち……せ、くん!! 』

 

 突如聞こえてきた声に意識を向けると、急に体が浮いたような感覚を覚え、今まで自身を包んでいたフワフワとした感覚が無くなってきた。

 声は更に大きくなって、次の瞬間には大音量が少年の耳を蹂躙した……

 

「一之瀬君!起きなさい!! 」

「ふぁっ!? はいっ! 」

 

 守神市立守神小学校5年1組の教室、1人の少年が5時間目の授業中に机に突っ伏して眠っていたところを、担任の教師に注意され目を覚ました。

 口の端には涎の跡が残っているが、先生の怒号に飛び跳ねるように起きる。その後辺りを見回してみると、周囲には見知ったクラスメイト達がこちらを笑いながら見ている。

 彼の焦げ茶色の瞳が現実を認識し……先程までの映像が何なのかを悟り、ぽつりと呟く

 

「なんだ、夢だったのか……」

「何ブツブツ言っているの? 一之瀬武正君! 居眠りはしちゃダメでしょ? 」

「は、はい! すいません!! 」

 

 5年1組担任の倉崎先生から叱責を受け、すぐさま返事を返すと教室中にクラスメイト達の笑い声が響く。

 今彼がいる場所は学校の教室だ。どうやら先程の出来事は過去の経験を夢で見ていたらしい。

 この居眠りをしていた少年の名は一之瀬 武正といい、守神小学校5年1組の生徒だ。

 

「それじゃあ授業を続けます。では浅葱君、次の問題を……」

「はい、わかりました」

 

 授業が再開され、算数の練習問題をアンダーリムの眼鏡をかけたクラスメイトの1人が黒板の前で解き始める。

 その光景をボーっと眺めながら、武正は再度先程の夢に想いを馳せていく。

 

(何で今さら5年前のことを夢に見るんだ? 春奈にちゃんと謝れってことか? )

(ああーっ! わからない!! )

 

 所々跳ねている癖っ毛の黒髪をガリガリと掻きながら、今さら5年前の夢を見た理由を考えるも……

 5時間目の授業の終わりまで頭を捻っても答えは出てこないのであった。

 

 

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 とある林の中に、閃光が煌めく…眩しい光が収まると、そこには赤く大きな生物が2体。

 その生物を端的に表現する言葉は、2足で立つ赤いクワガタだ。

 

「キシャッ、ギシャァァァ! 」

「ギィィィ! シャアァァ! 」

 

 時折、特徴的な顎鋏をガチガチガチと鳴らしながら、周囲を警戒している。

 しばらくして周囲の索敵が終了したのか、甲殻の中に収納していた羽を広げ、2体の生物は素早く森の中を移動し始めた。

 

 

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 赤いクワガタ2体が姿を現したのと同じ時刻、林の中で1匹の小さな生物が目を覚ました。

 白銀の体をゆっくりと起こし、小さな竜のような生物は4本の足で大地を踏みしめる。

 気絶後の朦朧とした意識をはっきりとさせるように首を振り、現在の状況を把握していく。

 

「うぅん……ここ、は?確かオレ達は次元の歪みの調査をしに来てて……」

「見たことがない場所だ……それに師匠やシスタモン達はどこだろう? 早く合流しなくちゃ! 」

 

 自分の師匠と仲間達で行動をしていたところ、事故により逸れてしまい……更にその衝撃で彼は気絶してしまったらしい。

 即座に仲間と合流を試みようとする小竜は、ゴーグルがフード部分に付いている赤いマントをはためかせ、林の中を走り始めた。

 

 

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 下校のチャイムが校舎に鳴り響き、小学生達は各々帰宅をし始めたり、楽しそうに校庭で遊んでいる。

 その喧噪の中で武正は急いでランドセルへノートや教科書を詰め込んでいた。

 詰め込みが終わり、室内だからと外していた彼のトレードマークであるゴーグルを頭へ装着したところに、クラスメイト達から声がかかった。

 

「武正、ドッジボールしてこうよ! 」

「チームが上手く半分にならなくてさー」

 

 声に反応して座ったまま振り向くとそこには2人の友人が立っていた。

 坊主頭でぽっちゃりとした少年――笹本 太志と背が高くひょろっとした右目が前髪で隠れている少年――長瀬 伸介が武正へ声をかけたのだ。

 2人の声に武正は若干申し訳なさそうな表情をしながら……

 

「太志に伸介か、えっと……俺、今日は家の仕事手伝わなきゃいけないんだけど~」

「えーっ!? つまらないよー! 」

「1回くらいサボっても大丈夫だって! 」

「そ、そうか……? じゃあ……」

 

 最初は家の手伝いがあるからと断ろうとしたのだが、伸介の言葉に流され……結局は遊ぶという方向になっていく。

 背負おうとしていたランドセルを再度机の上に置こうとしたその時、ボリュームは小さいが何故かはっきりと聞こえる声が三人の間に割り込んだ。

 

「武ちゃん……ダメ、だよ」

「あ、桃香!? 」

 

 太志と伸介に待ったをかけたのは、1人の少女だった。

 武正よりも少しだけ背が低いが、翡翠色の垂れ気味の瞳は強い意志を秘めている。

 待ったを掛けた勢いで、彼女の珊瑚色のロングヘアーを毛先の部分で一つに結った髪が静かに揺れた。

 少女の名は守神 桃香といい、武正の幼馴染だ。

 

「あーあ、守神に見つかっちゃったー」

「これはダメそうだ……太志! 他を探すぞ」

「……二人とも、サボりは……ダメ」

 

 また人の意見に流されそうになった武正を放っておけずに助け船を出したらしい。

 二人へ向けて非難を込めた視線を向けて、サボりへの牽制を言葉と共に眼で示す。

 

「は、はーい! 」

「悪かったって! じゃあな武正、守神! 」

 

 普段からあまり口数が多くない彼女は、去って行った2人から自席に座ったまま武正へ顔を向けて、ポツリポツリと言葉を紡ぐ。

 

「人に、流されやすいの……悪い癖」

「いや、その……ごめんって! 」

 

 幼馴染の叱責に返す言葉も無く、手を合わせて謝る。

 この二人のいつもの光景の1つだ。

 

「わかれば、いい……それより、お家のお手伝い」

 

 分かってもらえたのに安心したのか、桃香は小さく笑顔を見せる。

 幼馴染の微笑を見た武正も自然と笑顔になってしまって……

 

「そうだった! 桃香は日直だっけ? それじゃあまた明日な! 」

「また、明日」

 

 日直の仕事がある桃香を残し、急いでランドセルに荷物を入れた後に背負い教室を飛び出す。

 武正が教室の入り口で振り返って幼馴染へ別れの挨拶と共に手を振ると、桃香も微笑と手を振っていた。

 その後教室前の廊下でクラスメイトと接触しそうな寸前、軽いフットワークで回避して昇降口へ向かってゆく。

 もちろん、ぶつかりかけたことに関する謝罪の言葉はもちろん忘れずに。祖父母や父母の躾の成果である。

 

「うわっと! ごめんな、浅葱! 急いでるんだー」

「急ぐのはいいけど、廊下は走るの禁止ですよ? 」

「見なかったことにしてくれー! 」

「やれやれ……」

 

 しっかりと整えられた黒髪にアンダーリムのメガネをかけた少年は、その言葉に肩を竦めながら武正が走り去るのを見て溜息をついた。

 その直後にまた廊下を走る少年とそれを追いかけるかのような怒声が響く。

 

「こら三山! サボるなー!! 」

「んなことオレが知るか、自主勉強会なんてテメェらで勝手にやってろ! 」

 

 そんな言葉を残して茶色のツリ目でキャップを被った少年がやはり昇降口へと向かって走って行った。

 茶色の髪をツインテールにしている少女が怒声を上げるも、すでに姿は見えなくなっていて……

 少女は怒ったまま5年2組の教室に戻っていく。

 

「今日も騒がしいな、この学校は」

 

 浅葱と呼ばれた少年は、憂うように窓から夕陽を見て再び溜息をつき、自分も昇降口へ向けて歩き出した。

 

 

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 林近くの通学路を赤色のマルチポケットベストを揺らして駆けていく少年が1人。

 浅黄色のトレーナーは走って少し暑くなったのか、袖を肘までまくっている。

 カーキ色のカーゴパンツから出る足の速度は中々のもので、結構な健脚の持ち主であることが伺えるだろう。

 頭にゴーグルをつけて黒の所々跳ねた癖っ毛を持つのは、学校から家路を急ぐ武正だ。

 楽しそうに歩道を駆けているが、農業組合の駐車場にある長柱時計の時刻に眼が入り足を止めた。

 

「太志と伸介に時間とられたか……これじゃあ間に合いそうにないな……」

そうぼやく彼の視線は、近くにあるとある分岐路に向けられる。

「しょうがない、久しぶりに近道使うか! 」

 林にある作業用道路を使って林を突っ切ることで近道をしようということだろう。

 通学路から外れ、林の作業用道路へと進み、時間を少しでも縮めるための走りを再開する。

 舗装がされていない道を中々の速さで駆けていく武正だが……

 

「このままいけば何とか間に合いそうだ、あと半分くらいで向こう側に出る! 」

 

 順調に走り続けて、丁度家まで半分の地点に来たところで武正の聴覚はとある音を捉えた。

 次いで、風の流れが激しくなったのを感じて思わず立ち止まり、地面をしっかりと踏みしめる。

 

「何だこの音? 虫とかが飛ぶ音……ってうわっ! 」

 

更に襲い来る突然の突風に体のバランスが崩れるが、地面を踏みしめていたおかげか、転倒をせずに済んだ。

転びそうになり若干焦ったのか、武正は服の袖で額の冷や汗を拭って……

 

「すごい風だな、あぶないあぶない……天気予報で強い風があるなんて言ってたか?」

 

 天気が崩れてきたのかと考えているところに前方から先程の音が近づいてくる。

 接近を感じ、顔を上げて前方を見た武正の目に入ったのは……

 

「……えっ!? 」

「ギギ、ギシャァァァァ! 」

 

 こちらに向かってかなりの速度で飛んでくる、赤いクワガタのような生物だった。

 まるで獲物を見定めたと言わんばかりの鳴き声も聞こえてくる。

 普通のクワガタであったならばそこまで慌てなかっただろう、しかしそのクワガタは――6m程あった。

 

「な、なんだあのでかいクワガタ!? 」

「シャァア! 」

 

 武正の思考はフリーズしているが、彼の本能は体に回避行動をとらせていた。

 道から外れるように木の陰に飛び込み前転で身を隠す。

 その直後、巨大赤クワガタは武正が先ほどまで立っていた場所を通り過ぎた。

 あのまま何もせずに立っていたら、武正の体は交通事故に遭ったかのように宙に舞っていただろう。

 

「おわっ! あっぶねー!! 」

 

 木の陰で落ち着きを取り戻した武正が叫ぶ。

 しかし襲撃者は奇声を発して上昇した後旋回し、彼の隠れている木蔭へと突進してきた。

 間一髪でまた別の木陰へと身を隠した武正は、林から出ようと走り出す。

 当然その動きを見た赤いクワガタ……クワガーモンと呼ばれる存在は逃げた獲物の後を追い始めた。

 

「くっそ! 俺の足についてくるとは中々速いなぁ!! 」

「シィ……ギャアズゥゥ! 」

 

 走るのが得意な武正を追跡するクワガーモンはその巨体ながら速度も速く、少年の口からは軽口も出るが状況は芳しくない。

 更に時折クワガーモンは距離を縮めては大きな顎による牽制攻撃を行う。まるで獲物をじわじわと甚振るように。

『パワーギロチン』と呼ばれるその攻撃は、林の木々を容易に切断していく。

 

「あ、くっ!? 木がキレイに真っ二つなんて! 」

「ギャギィィィ! 」

 

 十分ほどその攻防を繰り返しての逃走劇が行われ、全力疾走を続けていた武正の体力が尽きかける頃……

 走り続けていると林が開け、目の前には大きな沼が広がっていた。

 

「ここは、守神沼!? 追い込まれた! 」

「ギィィ、ギシャァァ! 」

 

 見通しが悪い林から元の通学路へ出るつもりだったが、クワガーモンによって逃げ場のない場所へ追い込まれてしまったようだ。

 まだこの林の地理に明るくないのに関わらず、林の一部がそのまま畔に繋がっている守神沼に狙って誘導したと考えると、周囲の自然の把握に優れていることがわかる。

 後ろには沼、飛び込むにしても着衣のままでは溺れる危険が高く、動きが更に鈍ってしまう。

 正面突破はもっと無謀だ、体力が消耗している今のスピードでは顎の鋏で真っ二つになってしまう可能性の方が高い。

 じりじりと距離を詰められる武正、クワガーモンの鋏が光を帯びて先程とは違う攻撃を彼にぶつけるつもりのようだ。

 疲労困憊で膝をつき動けない状態で息を切らす武正は、万事休すと目を閉じる。

 そこへ……声が響いた。

 

「ベビーフレイム! 」

 

 小さな火球がどこからか飛来し、クワガーモンの顎へと直撃する。

 突然の攻撃とそのダメージに混乱したクワガーモンは思わず後ずさった。

 その轟音に恐る恐る目を開けた武正の目に入ったのは、自分の目の前に着地して敵と対峙する1mくらいの赤いマントを羽織る白く小さな竜だった。

 

「大丈夫? 」

「えっ、あの、大丈夫! 」

「ならよかった、俺はハックモン! 君は……人間、だよね? 」

「う、うん……」

 

 いきなり現れた人の言葉を話す小さな竜……ハックモン

 新たに登場した不可思議な生物に混乱しながらも、彼からかけられる言葉に何とか返答する。

 

「やっぱり、師匠の言ってた通りだ! クワガーモンの相手は俺に任せて、君はそこの岩に隠れてて! 」

「あ、ありがとう……」

 

 彼の言葉に従いって疲労困憊の武正は何とか守神子の畔にある大きな岩の陰に身を隠してその場を見守る。

 混乱から戻り、目の前の小さな存在が自分に攻撃をしたデジモンだと認識したクワガーモンは、顎の鋏をならせて威嚇を開始する。

 それを目にしたハックモンは、しっかりとした口調で目の前にいる同族へと声をかける。

 

「いきなり攻撃したことは謝るよ! でも、あのまま見過ごすわけにもいかなかった! 」

「ギィィィ! 」

「あの子はデジモンじゃなくて、師匠が言っていた『人間』の特徴にぴったりだった」

 

弱者を蹂躙する強者、師匠とハックモンが最も許せない存在である。

今のクワガーモンは明らかにそれに該当していた。

 

「『人間』はデジモンのように戦う力を持ってない者が多いって聞いた! だから戦う力が無い者を一方的に攻撃するなんて見過ごせない! ここで引いてくれないのなら……」

「ギシャァァァァァ! 」

 

 クワガーモンはハックモンのこの場を穏便に収めるようにという言葉などまるで聞いていない。

 餌になりそうなヤツを狩っていたら、生意気にも同族が横槍を入れてきたと認識しているのだろう。

 

「だったら師匠の名に賭けて、俺がお前を倒す! 」

 

 戦いは避けられないと悟ったハックモンは、尊敬する師匠の名を使った名乗りを上げて迎え撃つ態勢に入る。

 羽を広げ、顎鋏に光を纏ってハックモンへと向けて突進をしてくる。クワガーモンの必殺技、『シザーアームズ』が放たれようとしている。

 ハックモンは怖気づかずクワガーモンへと自身も突撃し、接触する寸前で右斜め前方へステップ。鋏の範囲から自ら外れる。

 そのまま勢いを利用して、先端が爪のように高質化した尻尾でドリルのように回転しながら突撃を行う。

 

「ティーンラム! 」

「ギィキィヤァァ! 」

 

 攻撃を喰らったクワガーモンはバランスを崩し、飛行状態から一転墜落して地面を削る。

 ハックモンの一撃は、クワガーモンの左羽の根元を貫いていたようだ。

 堅い甲殻を持っているということはそこに弱い部分があるということ……

 それを見抜くことはできても、高速で動いている羽にピンポイントで攻撃を当てるのは並大抵の腕ではできないだろう。

 小さな体であっても戦闘力はかなりのモノだというのが伺える。

 一方、それなりの高さの空中から墜落したクワガーモンは全身の甲殻が落下で所々歪み、それなりにダメージが蓄積されているようだった。

 

「グゥゥギィィィ!! 」

「まだまだ、これからだ! 」

 

 左の羽根の根元に穴が開き、羽が千切れそうな為に飛行が出来なくなってしまったクワガーモンは甲殻に羽を収納し、立ちあがって再びハックモンと向かい合う。

 クワガーモンが攻撃を仕掛け、ハックモンがそれを回避しつつ反撃を繰り返す。

 大きな腕の薙ぎ払いをジャンプで回避しては腕に取り付いて関節部へと噛みつき、踏みつけへ合わせるように足の関節部へと爪による斬撃を行う。

 体格と攻撃力に恵まれたクワガーモンにわざと先手をとらせて、小さいがスピードのある自分の攻撃を甲殻の無い部分へ当て続けるハックモン。

 どちらが有利なのか、その答えははクワガーモンに着実に積み重なっていくダメージが答えだろう。

 そんな2体の攻防が10分ほど続いただろうか……

 自分に積み重なるダメージを感じて焦ったのだろう、クワガーモンは突如として勢いよく跳躍をした。

 飛行ができない代わりにその跳躍を用いて巨体を生かしたプレス攻撃を加えようと考えたようだ。

 

「ベビーフレイム! 」

「グォギィィィ! 」

「……ベビーフレイム!! 」

 

 牽制としてベビーフレイムを連続で発射するハックモン。顎への直撃を受けながらも、そんな攻撃など痛くも無いとばかりにクワガーモンは地面に迫る。

 ハックモンはギリギリまでベビーフレイムを連射してクワガーモンの顎への攻撃を続ける。

 見守っていた武正は思わず声を上げてしまう。

 

「攻撃が効いてない! そのままじゃ潰されちゃうぞ!! 」

「大丈夫、見てて! 」

 

 ハックモンはその声に心配ないと答え、武正に笑顔を見せた。

 プレス攻撃から回避をするように赤いマントをはためかせてジャンプし、目的の部位へと跳躍。

 クワガーモンの顎付近にジャンプで近付いたハックモンは、彼の奥の手……必殺技を繰り出した。

 

「フィフスラッシュ!! 」

 

 両手の爪でまず振りおろすように二連撃、左足の爪で蹴りを叩き込んだ後に後ろ回し蹴りの要領で尻尾と右足の爪が連撃を加える。

 地上から見ていた武正には、身にまとった赤いマントによりまるで赤い竜巻がクワガーモンへと攻撃を加えているように見えた。

 全ての攻撃が見事にクワガーモンの顎の部分へとヒットし、クワガーモンが地面へと着地する。

 それから数秒後に遅れてハックモンも着地をした。

 

「……ギィ、ギグゥゥゥ! 」

「もう、お前は戦えない」

「クワガーモンって奴の、足と頭が!? 」

 

 土煙りの中フラフラと立ちあがるクワガーモン、ハックモンはそんなクワガーモンへと断言する。

 そして次の瞬間、クワガーモンは地面へ崩れ落ちる。

 岩の陰から見守る武正にもそう断言する理由が一目でわかった。

 関節にハックモンの爪による斬撃を受け続けていた足では、着地の衝撃を吸収しきれずに関節がイカレてしまったのだ。

 更に最大の特徴である2本の鋏はハックモンの放った必殺技を受け、綺麗に叩き折られている。

 クワガーモンの甲殻に覆われた頭部はフィフスラッシュにより酷い損傷状態になっていた。

 そう、最初のベビーフレイムの連射はただの牽制ではなく、面に熱によるダメージを与えてから必殺技が通り易くする為の布石だったのだ。

 

「グ、ギィ……」

 

 羽も足も使えなくなり地面へと這い蹲るクワガーモンは必殺技で受けた傷が大きいのか体の所々が欠損し、データが流出している。

 このデータ損傷ではもう助からないと悟ってクワガーモンを看取ろうと警戒を解いたハックモン。武正も岩陰から出て隣に並ぶ。

 

「こいつ、死んじゃうの? 」

「データがこれだけ欠損しちゃうと、もう……」

「……そっか」

 

 自分を追いかけて殺そうとした存在であっても、目の前で命が失われるのは少年の心に様々な物を残す。

 

「俺がもうちょっと強ければ、あまり傷つけずに行動不能にできたんだけど……まだまだ未熟だ」

「それでも、ありがとう。えっとハックモン、だっけ? 君のおかげで俺は生きてるよ」

 

 ハックモンも自分の未熟さを悔やむ言葉を口に出すが、武正はそれを否定するようにお礼を言う。

 彼の行動によって守れた存在が1人は確実にいるということを口にすることで、武正は元気づけようとして。

 

「いや、当然のことをしただけだよ……あっ、君の名前は? 」

「俺? 俺は一之瀬、一之瀬武正っていうんだ」

「へー、人間はそういう名前をつけるのか……」

「うん、苗字と名前っていうんだよ」

 

 優しい言葉を受けたハックモンは、笑顔を武正へと向けて答えを返し、お互いの名前を教え合う。

 真剣な眼差しで目の前の死にゆくクワガーモンを看取っていた次の瞬間、1人と1体を新たな衝撃が襲う。

 

「ギィィィギャァァァァ!! 」

「えっ……!? 」

 

 武正とハックモンは横から高速で飛行してきたクワガーモンに襲撃され、吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐうっ、2体目!? 」

「痛い、っ! 」

「武正、大丈夫、っ!? 」

 

 この林に出現したクワガーモンは2体で、同族のがやられたのを察知してきたのだろう。

 警戒を解いていた為に反応が遅れてしまったハックモンだがとっさに武正を受け止めて、衝撃から守るが双方ともダメージを負ってしまう。

 2人は倒れ込んだ状態で乱入者を見やる。

 

「グギィィ……」

「ギャシャァァァ!」

「仲間を、食べてる!? 」

「データを吸収してるんだ!まずい!! 」

 

 2体目のクワガーモンは、瀕死のクワガーモンへ近づくと流出しているデータもろとも吸収を始めた。

 共食いを思わせる光景に武正は驚愕の眼差しを送り、ハックモンは焦りを見せる。

 データを吸収したということはその分の力を二体目のクワガーモンは得たということになるからだ。

 2人は痛みに耐えながらも行動を起こす為に立ち上がる。

 そして素早くデータの吸収を終えて大きさが8m程になったクワガーモンは、振り返ると同族を倒した1匹と傍にいる1人に向けて顎鋏と左右の主腕に形成された顎鋏に似た大鋏を開くと……

 

「ギシャラァァァァ! 」

 

 殺意の咆哮を発した。

 

 

                   ・

                   ・

                   ・

 

 

 春の夕方頃、守神沼の畔に衝撃音が響く……日常生活ではまず聞くことが無いような音だ。

 同族のデータを取り込んで僅かに巨大化し、肉体が変化したクワガーモンの変異体が怒涛の攻めを見せ、それをハックモンが回避している。

 

「スピードが、増してるっ!? 」

「グギャァァァ! 」

 

 先程とは違い、赤いマントを翻しながら回避に専念している小竜の表情は険しい。

 僅かに大きくなっただけなら、ハックモンにもまだ余裕があっただろう。

 しかし、ハックモンは間を置かずの連続戦闘による疲労や不意打ちで受けた負傷がある。

 一方敵は同族のデータを吸収して力を増した上にノーダメージという状況だ。

 ガンクゥモンやシスタモン姉妹による鍛練と血筋からの戦闘センスの良さで、成長期ながら完全体相手でも戦えるとされる彼も戦闘技術以外はまだ未熟ということだろうか……

 

「ハックモン、右の鋏が来る! 」

「くぅっ! フィフスラッシュ!! 」

 

 顎の鋏を跳んで回避したと思ったところにすかさず右の主腕に形成された鋏がハックモンを攻める。

 フィフスラッシュの連撃でダメージを与えつつ弾くが、反動で左側に飛ばされてしまう。

 

「今度は左の鋏! 」

「まだまだ! ティーンラム!! 」

 

 狙い澄ましたかのように迫る左の鋏を尻尾で迎撃するも、今度は尻尾の先を鋏の関節でわざと受け止めた。

 尻尾が刺さったままになれば捕まえたも同然。肉を切らせて骨を断つつもりのようだ。

 

「しまった!? 」

「ギシャァ!ギギィィィ!! 」

「ぐはぁっ!! 」

「ああっ!? ハックモン! 」

 

 即座に離脱しようともがくも、それよりも早く先ほど弾き飛ばされた右の鋏が勢いをつけ戻って来て……

 その直後、鈍い音と共にハックモンの体は守神沼の宙に舞った。

 離れて見ていた武正は、叫び声を上げる。殴り飛ばされた小さな竜は沼の中へと落下し、浮かんでこない。

 

「ギィィィ! 」

 

 勝利の雄たけびを上げるクワガーモン変異体。そしてその巨体は武正へと近づいていく。

 

「あ、ああっ……」

 

 恐怖で体がうまく動かない武正。しかし視線は守神沼のハックモンが落ちた地点に向けられている。

 自分を守って怪我をしてくれたハックモンの無事が気がかりなのだろう。

 

(このまま、俺死ぬのかな? ごめん! 近所や学校の皆、じいちゃん、ばあちゃん、父ちゃん、母ちゃん……桃香、春奈! )

 

 彼の頭には走馬灯が巡り、親しい人達の顔が浮かぶ…最後に浮かんできたのは大切な幼馴染と五年前の出来事から関係がギクシャクしてしまっている妹の顔だった。

それがトリガーになったのか、自分を助けてくれた赤いマントを纏った小さな竜の奮戦する姿も思い浮かび……

 

(怖い、怖いけど……どうせ死んじゃうなら俺を助けてくれたハックモンに、何か……したいっ!)

 次の瞬間、彼の体はゴーグルを装着して沼へ向けて走り出していた。

 

「待ってろ、ハックモン!」

 

 クワガーモンが完全に近づく前に、武正は沼へ向けて走り出し、跳んだ。

 物が水に飛び込む音が響き、沼の畔は静かになる。

 突然の出来事にクワガーモンは動きを止め、沼を見るのだった。

 

 

                   ・

                   ・

                   ・

 

 

 視界が悪い中、着衣で沼に飛び込んだ武正は、ゴーグルをかけた顔を左右に動かす。

 沼に落ちたハックモンを探しているのだ。

 

(ハックモン、どこだ!?)

 

 着衣が水を吸い、自分の体が急激に重くなり息が苦しくなる中で懸命にハックモンを探す。

 その内水の中を底へと沈んでいく白い姿が見えた。

 急いで武正は彼に近づくと、その体を支えて水面へ上がろうとする。

 

(早く、早く上がらないと!)

 

 ぐったりとしたハックモンを支え、息苦しさの中必死に水面へ上がろうとするが、意識の無いハックモンと水を吸った着衣の重さがあり上手くいかない。

 更には酸素も減り、思うように体が動かせなくなってきていた。それでも懸命に水をかき、水面へ上がろうとしていると……ハックモンが意識を取り戻した。

 

(俺は、クワガーモンの攻撃で……ここは、水の中なのか?何で武正が!?)

(眼が覚めた!これ、なら何……とかっ!)

(水面に、上がろうとしてるのか?俺も、手伝わなきゃ!)

 

 意識を取り戻し、同じく水をかいてくれるハックモンのおかげで、先ほどよりは上昇する。

 しかし武正の体は、もう限界を迎えていた。武正よりも先に水中に落ちたハックモンの息もまた……

 

(くる、しぃ……)

(息が、限界だ……)

 

 二人の体から力が抜けていく。更には二人の口からは溜められていた気泡が漏れでてしまう。

 ハックモンと手を繋いだ状態のまま、武正は沼の底へと沈んでいく。一見すると幻想的だが、極めて危険な状態だ。

 遠ざかる意識の中、二人は思う。

 

(ハックモンを)

(武正を)

((助け、たい!))

 

 その瞬間、2人の繋いだ手から光が溢れる。その強さは沼全体が光る程で……

 武正の右手には赤い勾玉のような形に画面やボタンやダイヤルがついた機械が、ハックモンの首元には赤い勾玉そのものが現れる。

 1人と1体の脳裏に声が響く。その声は武正にとっては5年前にも、つい数時間前にも聞いたことがある声だ。

 

『カオスより与えられし可能性の光が、今君達を包み……導くだろう。デジタルとアナログを繋ぐ聖なるデバイス《Digimon-mediate-Tuner》、Dチューナーが! 』

 

どこか懐かしさを感じさせる厳かな声は、続けて武正とハックモンへと激励の言葉を贈る。

 

『心と心重なりし時……進化の扉、開かれる。さあ、同調し交差せよ! 君達の可能性を!! 』

 

 その言葉と共に武正の持つ機械が光を放ち、画面に文字が表示される。

 

  Evolution_

 

 それに呼応するようにハックモンの勾玉も光を放って……

 二人がその光に包まれた直後に守神沼に強烈な光が走り、水柱が立った。

 

「ギャキィィ!? 」

 

 突然の衝撃にクワガーモン変異体は驚き周囲を見回す。

 しかし即座に警戒を強めると、水柱の中から何かが出現して沼の畔に降り立った。

 

「ここ、は? 」

「俺達、上がれたんだ! 」

「ところで、ハックモン……なのか? 」

 

 全く濡れておらず、先程まで水の中にいたとは思えないハックモンが、同じ状態の武正を背に乗せて立っていた。

 しかし、ハックモンの姿は少し変わっており、意識が朦朧としている武正は彼へと確認の声をかける。

 

「俺、成熟期に進化したんだよ! 今の俺は……バオハックモンっていうんだ」

「成熟期、バオハックモン、凄いな……強そう! 」

 

 自身を確認して、自分が成熟期へと進化したと知ったバオハックモンは、進化の時に脳裏に響いた新たな自分の名前を少年に名乗る。

 ハックモンの時は大きさが1mほどだったが、現在は3m程になり赤いマントを纏うのは変わらないが爪や腕はより鋭く逞しくなった。

 何よりも一番変化したのは両足と尻尾で両脚は刃そのものになっており、長く伸びた尻尾の先にも赤い刃が付いている。

 武正の賞賛の声を聞いたバオハックモンは笑みを浮かべながらも構えをとって、口を開く。

 

「待ってて、すぐにあいつを片づける! 」

「ギシャァァァ!! 」

 

 安心させる言葉を口に出すや否や刃と化した足でクワガーモンへと向かっていく。

 新たな敵を迎え撃とうとクワガーモン変異体はまた鳴き声を上げた。

 

「グギィィィ!ギシャァ! 」

「そうそう何度もやられない! 」

「シャァァァ!? 」

「バーンフレイム! 」

 

 向かってくるバオハックモンに待ち伏せをしかけ、シザーアームズを放とうとするクワガーモン変異体。

 攻撃が当たる直前でバオハックモンの両前足の爪で左右の顎鋏を受け止めて、零距離からベビーフレイムと比べて数倍の大きさの火球が直撃する。

 衝撃で吹き飛ばされるクワガーモン、バオハックモンは反撃の暇は与えないとばかりに追撃へ移る。

 

「でぇやぁ! 」

「ギギィ!? 」

 

 前宙から、右足の刃での斬撃を右主腕の鋏へと繰り出す。

 鋏の一部を見事に両断するも、左右の副腕がダメージを気にせずに刃の足を掴む……

 先程と同じように肉を切らせて骨を断つつもりだろう。

 

「バオハックモン、また左の鋏が! 」

「そう何度も同じ手に、引っ掛からない! 」

「シャグィィィ!ギャシャァ! 」

「ティーンブレイド!はぁっ!! 」

「ギィィィ!? 」

 

 尻尾の先の剣で左主腕の鋏を突き、甲殻を貫く。同時に空いている左足の刃を蹴り上げ、クワガーモン変異体の体へ逆風を加える。

 赤き巨体は左主腕を剣で貫かれ、体に縦の一閃を受けてダメージが大きいのか、副腕がバオハックモンの右足を開放して後ろへと後退する。

 

「いっけぇ! バオハックモン!! 」

「受けろ! フィフクロス!! 」

 

 チャンスを見つけて応援の声を上げる武正。

 そしてその隙を逃さずに、バオハックモンは強靭な爪と刃となった足で相手を斬り裂く自身の必殺技を放った。

 

「ギャァァ!? ギィィィ……」

 

 直後、クワガーモン変異体は全身を斬り裂かれた結果、断末魔の声を上げて消滅したのだった。

 

 

                   ・

                   ・

                   ・

 

 

「何とか、なったね」

「うん、まさか進化出来るなんて……あれっ?」

「バオハックモン!? 」

 

 静かになった守神沼の畔、武正とバオハックモンが一息ついている。

 自分が進化出来たという事実を嬉しそうに認識していたところ、突如としてバオハックモンの体が光に包まれた。

 光が収まった時にそこにいたのは……

 

「戻っちゃった……」

「少しの間しか、進化ができないのかな? 」

「うん……そう、みたい」

 

 成熟期から成長期へと戻ったハックモンが驚きの声を上げ、武正が疑問を口に出す。

 それに対し答えを返したハックモンが突如として倒れ込んだ。

 

「どうしたの!? 」

「力を使い果たしちゃった……」

 

 どうやら戦闘でエネルギーを消耗し過ぎたらしく、そのまま気を失った。

 先程のこともあり、恩があるのでこのまま放っておくわけにもいかない……

 しかしハックモン程ではないにしろ体力を消耗している武正の力ではハックモンを抱えて移動するのは至難の業だ。

 

「どうすればいいかな……」

 

 途方に暮れていると、突如としてジャケットのポケットへ入れていた勾玉のような形の機械……Dチューナーが画面から光を放つ。

 その光はハックモンへと向かい、光が消えるとその場からハックモンは消えていた。

 

「あれっ!? ハックモンはどこ? 」

 

 周辺を見渡した後にDチューナーの画面を見ると、そこには寝息を立てているハックモンの姿があった。

 存在を確認すると安堵の笑顔を見せる武正。

 

「この中に入った……のか? 助けてもらった恩もあるし、一先ずはこのまま家に連れていくか……」

 

 そうと決めると、疲労が残る体で武正は守神沼の畔から自宅へと向けて走り出した。

 この出会いが少年少女達とデジタルモンスター達が出会い、リアルワールドとデジタルワールドを巻き込んだ大きな事件に繋がっていくとも知らずに……

 




デジモン紹介#1

名前 :ハックモン
レベル:成長期
タイプ:小竜型
種別 :データ
・解説
クールホワイトの体を持つ小竜型デジモン。
ロイヤルナイツであるガンクゥモンを師匠に持つ。
自由気ままで束縛を厭っており、師匠の課す試練にも悠然と立ち向かっていく。
血筋からの戦闘センスと、お目付け役であるシスタモン姉妹の鍛練のおかげで敵が完全体であろうとも互角以上の戦いを行える。
俊敏さを活かした接近戦を得意。必殺技は強靭の爪で相手を切り裂く『フィフスラッシュ』や尻尾をドリルのように回転し突っ込むティーンラム』他には『ベビーフレイム』が使える。


名前 :バオハックモン
レベル:成熟期
タイプ:恐竜型
種別 :データ
・解説
ハックモンが鍛練と戦闘を重ねて成熟期へと進化した姿である恐竜型デジモン。
体は大きくなって前足の爪はより強靭に、両足は刃そのものと化し、尻尾の先端にも刃が形成された。
俊敏さを生かした接近戦は磨きがかかり、必殺技は強靭な爪と刃となった足で相手を斬り裂く『フィフクロス』と尻尾の先の剣で相手に突きを繰り出す『ティーンブレイド』
更には口から発射される巨大な炎弾『バーンフレイム』


名前 :クワガーモン
レベル:成熟期
タイプ:昆虫型
種別 :ウイルス
・解説
進化の道を外れて特異な姿に進化した昆虫型のデジモン。
凶暴で敵を見るとすぐさま攻撃を仕掛けてくる。
必殺技は『シザーアームズ』で得意技は『パワーギロチン』
瀕死の同種族のデータを吸収したことで、左右の腕にも鋏を持った変異体にも変化した。
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