SynCrossnize World   作:獅子の一等星

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修正を繰り返していたら遅れてしまい申し訳ありません。
早く4話も書けるように頑張ります……
読んでくださって本当にありがとうございます~


第三話 戦いの胎動

 

 

 時刻は朝から昼に変わろうとしている10時頃……

 5年生の2クラスは担任の先生2人によって昇降口前に集められている。彼らがそれぞれの手に持っているのは画板や絵の具、筆洗だ。

 

 「今日の図工の時間はこの前の続きです。裏山の景色を描いてくださいね」

 「あまり裏山の奥に行きすぎないようにな? 小さい山とはいえ迷ったら危ないぞ」

 

 担任教師達の注意に生徒達は元気な返事を返す。答えた直後に直ぐ雑談をし始める辺り、本当に理解しているかは怪しいものだが……

 これは見回りを念入りにする必要がありそうだと彼女と彼は目で通じあった後、解散の号令を生徒達にかけた。それを受けた子供達は穏やかな春の陽気の下、思い思いに前回絵を描いていた場所へと移動を開始していく。

 

 「……続きも、描かなくちゃだけど」

 「例のこともやるチャンスだな」

 

 整列していた武正は探索の機会ができたことに小さな笑みを浮かべる。隣には授業をサボることにもなるので若干心苦しそうな桃香も一緒で、本来の目的の前には注意事項も右から左へと聞き流されている状態だ。。

 そう……この自由に動ける時間を利用して、ガンクゥモン達を探そうと考えているようだ。昇降口から散らばり始めた生徒達に混じって徐々に人気が少ない方向へと移動していくと、その視線の先には大きな坂道。その坂を登って二人は学校の裏山へと足を踏み入れた。

 

 

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 「こことか……どうだ?」

 『うーん、何も感じないや』

 「こっちはどう? ハックモン」

 『そこも何にも……』

 

 裏山に足を踏み入れ、捜索を開始してから10分後……他の生徒達は各所へ散って絵を描き始めている頃だが、武正と桃香はハックモンと一緒に裏山中腹の広場を拠点にしてガンクゥモン捜索を開始はしたものの、そう簡単に痕跡は見つけることが出来ていないようだ。

 

 「流石に疲れた、休憩しようぜ桃香~」

 「もう、武ちゃんったら……」

 

 注意深く捜索を続けていた疲れからか、武正は目に付いた手近な切り株に腰掛けた。幼馴染の勝手な行動に不満げに頬を膨らませるも、彼女も疲れていたのか同様に切り株に腰掛けて一休み。

 そのまま青空を見上げた2人は、中々上手くいかない調査に大きくため息をついた。

 

 「手がかりの“て”の字も見つからないなー」

 「まだ、始まったばかりだよ? 」

 『桃香の言うとおり! コツコツ地道にやっていけばきっと手がかりが掴める! 』

 

 やる気のゲージが減退しているのか頭がさらに下がる武正と、春のそよ風に吹かれて色鮮やかに舞う珊瑚色の髪を揺らしながら、桃香はその顔を下から覗き込む。

 彼女の言葉に便乗して、ハックモンも減った武正のやる気を再度高めようとしているようだ。しかし効果はあまり出ているとは言えず、困っていた彼を見かねた桃香は……

 

 「じゃあ……武ちゃんの、不戦敗? 」

 「……いや、これ勝負じゃないだろ? 」

 

 生まれてからの付き合いである幼馴染の性質を知り尽くした桃香の一言が放たれると、思わず武正は反論するが、平静を装ったその顔は少しカチンと来ている表情だ。

 

 「ハックモン……武ちゃんが、諦めちゃっても……私が見つけてあげるからね」

 『えっ!? あ、うん! 』

 「ちょっと待て……俺はまだ諦めてないぞ、勝手に決めるな! 絶対俺が先に見つけ出すぞ! 」

 

 そう、武正は結構な負けず嫌いなのだ。上手くその火を灯せた桃香は、ほんの少しクスリと微笑む。微笑みを浮かべたまま彼女の翡翠の垂れ目は流し目をハックモンへ。

 ハックモンは、大人しそうな少女の瞳から謎のオーラを感じて反射的に背筋を伸ばす。どうやら彼女を怒らせない方がよさそうだと本能で感じ取ったらしい。

 

 「こうしちゃいられない、まだ探してない所あったはず! 」

 

 やる気を点火させ、立ち上がって捜索を再び始めようとした武正。もう一つの目的すっかり忘れている彼に、幼馴染はくすくすと笑いながら……

 

 「でも、その前に……絵の、残り……仕上げ、よ? 」

 「あーそうだった……こっちもやらなきゃいけないんだったな。ハックモン、ちょっと待ってて」

 『わかった。でもできるだけ早く!! 』

 「はいはい、っと! 」

 

 課されていた課題を思い出し、苦い顔をしながらも腰を下ろして画板を膝上に置く。ハックモンへと声をかけ、2人は絵の具を広げて絵の続きを描き始める。

 二人の絵を見てみると、山の中腹から見た町の風景が武正のものは豪快なタッチで、桃香のものは繊細なタッチで描かれており、あと少し色をつければ完成といったところのようだ。

 

 「なあ桃香、白の絵の具無くなっちゃったから貸してくれよ」

 「うん、はい……どうぞ」

 「サンキュー! 」

 

 足りなくなった絵の具の貸し借りを行いながらも順調に下書きに色をつけていく2人。中腹の広場には春の暖かな風が黒の短髪と珊瑚色の長髪を揺らしながら、穏やかな時間が流れて行く……

 

 「ふーっ、色塗り終りっと! 」

 「私、も……」

 「桃香の絵、相変わらず綺麗だなー」

 「武ちゃんのは、線、太い……ね」

 

 2人の色塗りが一区切り着き、絵に集中していたことで凝った背筋を伸ばしながらお互いの作品を見て感想を言い合っていったころ……木から鳥達が羽ばたいていく。それはまるで危険な何かから逃げようとしているようだ。

 

 「どわっ!? 何だ? 」

 「すごく、大きな……爆発音!? 」

 『……2人とも、気をつけて! 』

 

 突然の轟音が2人の耳を貫き、ハックモンは声を荒げて警告する。その真剣な目と声から、彼は何か危険な気配を感じ取って警戒している様子だ。

 パートナーの真剣さを感じ取ったのか、武正は隣にいる桃香の手を握り、手を引いていつでも逃げられるように自然と動く。

 

 『武正、俺を外に出して! 早く! 』

 「あ、ああ…リアライズ! ハックモン!! 」

 

 ハックモンの言葉に反射的に反応し、Dチューナーを前に突き出しコードを唱える。するとDチューナーの画面から閃光が走り、次の瞬間にはハックモンが外に飛び出した。

 赤いマントを靡かせ、華麗に地面へと着地した彼は四肢を踏ん張り、姿勢を低くして警戒体制へと移行した。目を、耳を、鼻を総動員して更なる状況把握に努めている。

 そこから得た情報と自身の勘を組み合わせたハックモンは、ある答えに行きついた。同じく武正も思い浮かぶことが1つあるらしい。

 

 「ハックモン、あの音って……」

 「たぶんデジモンの仕業だと思う、デジモンの気配を俺も感じたから……」

 「Dチューナーの画面に地図…か? それに2つ青い矢印と赤い矢印みたいなのが…って、あれ!? 」

 

 Dチューナーに表示された地図上では一方の青い点が赤い点と重なり、残った方の青い点に凄い勢いで近づいてきている。先程から断続的に聞こえている轟音もこちらに迫ってきている、ということは……

 2人と1体がDチューナーに表示された地図の見方を理解した直後、雑木林から巨大な影が目の前へと躍り出てきた。

 

 

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 武正達が謎の影と遭遇する十分ほど前のこと……

 

 『お前、また一人かよ? 友達いないのか? 』

 「ほっとけ、オレはその方が気楽なんだよ! 」

 

 青味がかった黒髪を揺らしながら、少年はポケットから聞こえる声に反論する。ルーズに被ったキャップのつばの位置を時々直しながらも、少年は一人山道を歩いて目的の場所へと向かっていた。

 周辺には彼の靴が土を踏む音以外は、時折吹きぬける風の音くらいしか聞こえてこない。本当に他の生徒達はいないようだ。

 

 「なぁ、ベタモンよ」

 『あんだよ、広太? 』

 「5年より前の記憶は戻ったのか? 」

 

 Dチューナー内にいる背中に大きなヒレのあるカエル…名はベタモンというらしい。

 更にベタモンと少年…広太の雑談を聞くと、どうやらベタモンは5年前よりの記憶を失っているようだ。深刻な事態だが全くそれを感じさせない様子のベタモンは大物なのか、能天気なのか……

 

 『いんや、全然。昨日お前に出会ってなんか思い出せそうだったんだけどな』

 「なんだよそれ、過去に会っていました…とかか? 大量生産品のドラマじゃあるまいし……」

 

 思い出せそうだったとぼやくベタモンは、自身の左手にある緑色の勾玉を右手で突いている。それはすなわち――武正とハックモンと同じように、彼らも昨日出会っていたデジモンと子供ということだ。

 同じように広太もDチューナーを弄り回しながら雑談をしているうちに、広太は裏山の頂上へと到達した。弄り回しはしたが、まるで反応がない機械をポケットに入れ、歩いてきた疲れを吐き出すように背伸びをして一息入れる。

 

 『1日ぶりの我が家だぜ』

 「裏山全体がてめぇの家かよ……随分とでかいな」

 『5年前からここに住んでんだから当然だろ?』

 「たかだか5年で所有権主張されてもなぁ……」

 

 山全体が我が家だと豪語しながらも家への帰還を喜ぶベタモンに、広太はボソリとツッコミを入れるもこのデジモンにはそういった皮肉はあまり通用しないようで……気苦労のため息が漏れ出た。

 しかし、その気苦労を吹き飛ばすほどに裏山の山頂から見る景色はまさに絶景。所々で咲いている桜の花がピンクのアクセントを山の植物に加えて……広太の視線の先には市街地、更にその先には木々に囲まれた守神神社と守神沼が見える。

 

 「いつ見てもいい景色だな、ここは」

 『それは同感だね、流石は俺の家』

 「アーハイハイスバラシイイエデスネー」

 

 少しの間、絶景に見惚れていた1人と1体。広太はここまで来た目的を思い出して前回も絵を描いていた場所へと歩を進めていく。目印の岩に腰掛けながらも絵の具を広げて準備を整える。座る際に気になったのか、筆洗の横にポケットから取り出したDチューナーも置かれていて…ン…

 放たれるベタモンの尊大な言葉も、いい加減に慣れたのか棒読みで流す事を広太は覚えたようだ。絵の具をパレットの上で混ぜ合わせて色を作り、絵の続きを描き始めてゆく。

 

 「てめぇは昼寝でもしてろよ、下手にでかい声出されても嫌だからな」

 『まあ暇すぎて眠くなってきたところだったから、お前言うこと聞いてやるよ!感謝しろ~』

 

 Dチューナーの画面内では仰向けにひっくり返ったベタモンのお腹がでかでかと映っている。その姿勢では特徴的な背中のモヒカンは果たしてどうなっているのだろうか?

 

 「一々腹立つ言い方だなお前……」

 「それじゃ俺は寝る! 」

 

 そう言ってDチューナーの中で寝息を立て始めたベタモン。横目で見ていた広太は軽く皮肉を言うも、言われた本人は即座に夢の世界へと突入していた。

 やれやれと首を横に振った広太は絵の続きに取り掛かっていく。山頂には、筆を動かす音のみが響き……まるで静かな音楽が奏でられているようだ。

 

「山の主だか何だか知らないが、小さいくせに態度はでけぇな……」

『ん~むにゃむにゃ、もう食えない……』

 

 時折聞こえてくる寝言や歯軋りに耐えながらも広太は筆を進める。そうして描き始めて10分ほど経って、絵が完成に近づいたその時である。

 突然の突風が山頂へ吹き荒れ、広太が持っていた画板はその風圧に揺られてしまう。筆洗の方は揺れはしたものの水がこぼれずに済んだ。

 

 「……何だ!? 」

『せっかく気持よく眠れてたのに……この気配、どこのどいつだ? 』

「気配って……生き物なのか? 」

『俺の同類だってのは何となくわかる! 』

 

聞こえたのは轟音、感じたのは地面が揺れる衝撃。そして目の前には土埃が立って視界を塞いで視界状態は最悪だ。

音と衝撃に飛び起きたベタモンは、文句を言いつつも背中のヒレで何かを感知したらしい。同類、すなわちデジタルモンスターが土煙の向こう側に存在しているのは確実。

 1人の1体の緊張感は高まり、ベタモンは頭の中に響く声に昨夜教えられていたDチューナーの機能を思い出すと、広太へと指示を出す。戦う力が殆ど無い人間だけに任せられる問題ではないと本能が警鐘を鳴らしているのだ。

 

 『おい、広太!俺を外に出せ!』

 「ったく!やりゃーいいんだろ?リアライズ、ベタモン!」

 

 広太がかざしたDチューナーが光、ベタモンが外へと飛び出す。その目つきは土煙の向こうを透視しようとしているかのように鋭く、更には全身に電気を迸らせていて、迂闊に声をかけられないほどだ。

 外へ出た直後に目の前の土埃は徐々に薄れ始め、大きな輪郭が徐々に姿を現していくと思われた次の瞬間、土煙を吹き飛ばしてバスケットボール大の火球が飛び出してきた。

 周囲の気温が一気に急上昇するほどのエネルギーを感じ取ったベタモンは、即座にその火球の中心へと狙いを定めると、全身に纏っていた電気を一気に放電。

 

 「電撃ビリリン!」

 「おわっ!?」

 

 100万ボルト以上の電撃を放つ彼の必殺技は、見事に火球へ命中し相殺することに成功。普段は見ることがない火球と電撃のぶつかり合った爆発音の大きさに思わず広太が驚きの声を挙げた。

 その爆発によって吹き飛ばされた土埃の向こうに見えたのは、丸太のような巨大な足と腕、大木のような胴体と尻尾……端的に言ってしまうと赤い恐竜。

 

 「――ティラノモン? 成熟期、データ種で必殺技はファイアーブレス……」

 「お前こそ、こいつが何なのか知ってんのか!? 」

 「Dチューナーが勝手に動いて、このデータ出てきたんだよ! 」

 

  Dチューナーの示した通り、そこには本来は大人しい性質なのだが気が立っているのだろうか、闘争本能が増しているティラノモンが1体……彼らの前に姿を現した。細められた瞳は自分の炎を相殺した電撃を放った主であるベタモンを見やると、強靭そうな口から咆哮を挙げて近づいてくる。

 その音には明確な怒りと敵意が乗っているのが広太にもわかり、頭はパニック状態ながらも体は後ずさっていく。生存本能が告げている……とにかく逃げろと。

 

 「ベタモン……明らかにヤバいぞこれ、今は逃げるしかねぇ! 」

 「はぁ!? 完熟だか成熟だか知らねぇが……あの気にいらねぇ野郎に背中向けるってか? 」

 

広太の言葉に、相殺こそしたもののいきなり攻撃されて頭に血が上っているベタモンは従おうとしない。そう言っている間にティラノモンはさらに距離を詰めて来ていて……

 

 「いいから早くしろ! 明らかにヤバい!! 」

 「あ、こら! 下ろせよ!! あいつぶっ飛ばすんだよ!! 」

 「今は無謀だって言ってんだろ! やるならやるで作戦考えろアホ! 」

 

 広太はやる気満々のベタモンを脇に抱えると、雑木林に逃げ込みながら一目散に麓へむかって逃走。一瞬虚を突かれて足を止めていたティラノモンは、逃走する自分を見知らぬ場所へ連れてきたと思われる敵の追撃を開始。

 命のかかった鬼ごっこが今ここに始まったのである。

 

 

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 足場の悪い雑木林を駆ける少年の耳に聞こえるのは後ろからの地響きと怒りと敵意を乗せた咆哮。1人と1体の逃走は始まったばかりだというのに徐々に状況が悪化しているようで……

 

 「く、クソッタレが! ベタモン、後ろどうなってる? 」

 「アイツでかい図体存分に生かしてやがるぞ、広太! 」

「グォォォ! 」

 

 坂道で加速を得て、激突しないように木の幹を避けながら駆ける広太は……後ろを向いたまま脇に抱えているベタモンへ、後方の脅威はどうなっているか尋ねる。全力疾走をしているためは息が荒く、心臓の拍動も早まっていて。

 ベタモンが伝えたとおり、広太達とは対照的に恵まれた体躯により木の幹を豪快にへし折りながらも最短距離で直進を続けるティラノモン。距離は確実に縮まりつつありあと少し走ったら追いつかれてしまう予感が1人と1体の脳裏をよぎる。

 

 「木を大切にって習わなかったのかあのデカブツ! 」

 「それが理解できるようには見えないね、おわっ!? 」

 「光……開けた場所…中腹の広場に出ちまうか……あちっ! 」

 

 その予感通りに距離は着実に縮まっていき、射程圏内に入った途端に吐かれるようになった炎が2人を掠める。牽制のためか炎の量自体は少なく、幸いにも山火事になる心配が無さそうなのが救いか。

 薄暗い雑木林に前方から光が射し、どうやらこの先は中腹の広場であることを広太は悟った。視界が開けてしまい、遮蔽物が完全に無くなるのは今の状況では非常にまずいのだが、ここで足を止めたらティラノモンの餌食になるのは確実だ。

 一か八かで広場を一気に駆け抜けて再び雑木林へ突入する覚悟覚悟を固めると、そのまま全速力で雑木林から光が射す方向へ飛び出した。

 

 

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 轟音とともに武正達の前に雑木林から飛び出してきたのはまず小さな人影、その次に巨大な影だった。

 

 「お前、確か朝の! 」

 「あぁ!? 何でこんなとこに人が……お前らも早く逃げろ! 」

 「グゥルォォォ! 」

 

武正は飛び出してきた少年が朝ぶつかりかけた人物で驚きの表情を浮かべ、広太はいきなり目の前に現れた人間2人に逃げろと叫ぶ。

その言葉の直後に地面が揺れ、追いついてきたティラノモンが広場へと降り立った。まるで、追いついたぞとでも言っているかのような咆哮を発しつつも姿勢を低くし、臨戦態勢に入っている……

 

 「ティラノモンと、あの人間に抱えられてるのはベタモン!? 」

 「武ちゃんのDチューナーが……ティラノモン、成熟期……もう一つはベタモン、成長期でパートナーは三山広太……デジモンのデータ? でもこのパートナーってのは……」

 「あの人も……Dチューナー、持ってる、みたい……」

 「「マジで!? 」」

 

出てきたデジモンの名前をハックモンは自信の知識から即座に判別し、遅れるように武正のDチューナーに表示されたのは2体のデジモンの詳細なデータだ。

武正の背後でひょっこりと顔を覗かせていた桃香は、表示されているパートナー表記を見て戸惑っている武正とハックモンへと答えを指で示す。そう、広太の手に握られている緑を基調としたDチューナーを。

 

 「ラッキーだな、頭数が増えた! 出てきたデータだと……おい! 一之瀬とハックモンとかいう奴!手伝え!! 」

 「あのデカブツをブッ飛ばす! 手ぇ貸せ!! 」

「いきなり過ぎるだろ……逃げた方がよくない!? 」

 

同じように表示されたデータを見ていた広太は、武正とハックモンを戦力として反撃をする気満々で……抱えていたベタモンを放り投げると華麗なターンで方向転換。

もちろんベタモンはもっとやる気満々で、空中を舞った後華麗に着地し、先程のように電気を自身へと纏い臨戦態勢だ。

その言葉を受けた武正は、昨日のクワガーモンとの事を思い出し、まずは自分達の安全のために確保逃走を提案したのだが……

 

「……わかった! でも倒すのは最後の手段!! 」

「ああもうっ! どうやっても逃げられそうにないし、ハックモンは即決断しちゃうし!! 」

「武正、いくよ! 」

 「わかった、わかりました! 桃香はあの大きな木の陰に隠れてて! 」

「う、うんっ……」

 

 1人と1体の声を受けて、即座に戦闘態勢に入るハックモンとパートナーの即断即決に頭を抱えて愚痴りながらも桃香を安全な場所へと逃がす武正。赤のDチューナーを握りしめ緊張した面持ちでハックモンの後ろへ立つ。

 ティラノモンと対峙する2人と2体……周囲一帯は緊張に包まれる。まるで西部劇の決闘のごとく両者微動だにせず、相手の出方を伺っていたところに突然の突風が図らずも戦闘開始の合図となった。

 

 「グギャァァァ! 」

 

 ティラノモンは咆哮を挙げると、目の前の2体を切り裂こうと爪を振るう。先程の逃走劇でも存分に振るわれたその爪は、木の幹をも容易に切り裂き、へし折れる威力なのを広太とベタモンは知っている。武正とハックモンはクワガーモンとの戦いの経験からそれを敏感に察知する。

 2体はその強大な破壊力の爪を見据えると、同時に前へと飛び出して回避……相手の懐へ一気に飛び込んでいく。後ろか横へ回避すると予測を立てていたであろうティラノモンは、想定外な2体の行動に反応が若干遅れる。そしてその隙は攻撃をするには十分な隙で……

 

 「フィフスラッシュ! 」

 「喰らえオラァ! 」

 

隙によってガラ空きとなった腹部にハックモンは強靭な爪による必殺技を、ベタモンは体重を存分に載せたパンチを放った。懐へ飛び込む際のパワーを加えた2体の攻撃に、衝撃を殺しきれずティラノモンはたたらを踏んで後退する。

 

 「おっしゃそのまま畳みかけろベタモン! 」

 「応よ、このまま一気にやる! 」

 「ハックモン、反撃がありそう! 距離とって火で牽制して様子見た方がいい!! 」

 「っと! ベビーフレイム!! 」

 

勢いのままにそのまま攻め続ける姿勢の広太とベタモンと、前日の経験からなのか、一旦離れて牽制を行うように指示する武正とそれに従いバックステップで距離を取りつつ口から小火球を連続で放つハックモン。

見事に対照的な行動をとった2人と2体だが、一方で腹部に2体の攻撃による傷を残しつつも体勢を持ち直した彼の闘志はまだ途切れず、パワー勝負を行いやすいこの距離に留まった敵の1体へ狙いを定めたようである。

 

 「ゴォォォォォォ! 」

 「ぐぅっ! 」

 「ベタモン!! 」

 

 攻める為に自分の懐に飛び込んできたベタモンを左腕で掴むと、大きな口から放たれるのは巨大な火炎放射。ティラノモン必殺のファイアーブレスだ。本当は両腕でベタモンを捕まえて炎を浴びせたかったようだが、右腕はハックモンのベビーフレイムを防御したため使用できなかったらしい。

 強烈な火炎は粘液で守られた緑の肉体を焼き、ベタモンの苦痛の声と広太の叫びが広場に響く。それを見た武正とハックモンは救出するにはどうしたらいいかと思案の表情を浮かべ、戦闘による緊張感で頭が冴え始めているのか……すぐさま次の手を武正は思いつく。

 

 「っ、ハックモン!尻尾と爪で別々に攻撃できない? 」

 「そういうことか……任せて、ティーンラム! フィフスラッシュ!! 」

 「緩んだっ! こなくそっ!! 」

 

 掴まれているベタモンを何とかして助け出そうと、掴んでいる左腕と攻撃を行っている頭部への同時攻撃を提案。すぐさまハックモンはティラノモンの頭部へ硬い尻尾による突きを、爪による連撃を左腕に加える。

 ベタモンへと意識を傾けていた為に両部位にダメージを負ったティラノモンの腕力が弱まり、その隙を突いてベタモンは無事に離脱に成功し、一旦距離をとった。まだ戦えるようだがその姿は火傷が痛々しく、結構なダメージを受けたようだ。

 

 「大丈夫? ベタモン」

 「……一応礼はしとく」

 

すぐ横に降り立ったベタモンにハックモンは顔をを向けると、心配の声を投げかける。成熟期デジモンの必殺技である強力な火炎をその身に結構な時間浴びたのだ、当然ともいえた。

当のベタモンは、視線だけをハックモンに向けてぶっきらぼうな礼を返して視線を眼前のティラノモンに戻す。受けた借りはこいつをボコってきっちり返す……という無言の宣言だろうか。

 

 「三山……だっけ? 無鉄砲すぎるって、ハックモンが何とかして無かったら今頃ベタモン丸焦げだったぞ!? 」

 「攻められる時に一気に攻めるべきだろ? てめぇらみたいに消極的に一旦引くとかじり貧になりかねない」

 「ただ力押しだけじゃダメなんだって、相手は成熟期だぞ!? ベタモンは……よくわからないけど、ハックモンがいくら強くても何があるかわからないし!! 」

 「"もしも"なんて考え始めたらキリが無ぇだろ! ……って何だあのモヤモヤしたの!? 」

 「モヤモヤ……!? 」

 

 対照的にパートナーである2人はお互いの戦い方に文句を言い合い、このまま双方のボルテージが高まれば戦闘中なのにも関わらず取っ組み合いの喧嘩が始まってしまうだろう。率直に言ってとてもまずい状況である。

 そんな中で、言い合いの最中にふと視線をティラノモンへ向けた広太が、巨体の後ろの空間が歪んでいるのを目撃する。武正も後を追うようにそれを見ると……

 2人の掌に握られていたDチューナーが輝きを放ち、突然の頭痛に顔を歪める2人。どうやらまた頭の中に天の声から情報が書き込まれた様子である。

 

 「痛ってぇ……ハックモン! あいつの後ろにあるモヤモヤにティラノモン押し込めるか? 」

 「え、あのモヤモヤに? いきなりなんで? 」

 「よくわかんねぇが、あの"ディストーション"とやらに叩きこめばあいつを追い出せるんだとさ! 」

 「広太、その情報もしかしてあの機械からか? 」

 

ベタモンの問いに、広太はニヤリと笑って首を縦に振り肯定の意を示し、気合いを入れ直すために被っていたキャップの鍔を後ろへと回す。

 命を奪わずにすむ方法が見えてきたことに、武正も笑顔を浮かべながらこちらも気合いを入れる為か額のゴーグルを装着し瞳を大きく見開く。木陰から見ていた桃香にとって初めて見る幼馴染の仕草であった。

 

 「おう! とにかくやってみるぞ、向こうさんも同じこと言われたみたいだしな」

 「まあ、細かい事は後! とにかくハックモン……いける? 」

 「やれるよ、俺と武正なら! 」

 

 いがみ合っていたのが嘘のように、2人はパートナーへと声をかけてティラノモンを見据えた。2人の持つDチューナーの画面に表示されるのはパートナーとの同調率……武正が58%、広太は54%……50%を超えたのを感知したDチューナーより光が放たれる。

 武正とハックモン、広太とベタモン……ティラノモンをディストーションへ押し込むという意思の同調による新たな力が目覚め、この場に顕現しようとしているのだ。

 

 「ハックモン、昨日みたいにいけそう! 」

 「オッケー、一気にいく!! 」

 「ベタモン、何だかわかんねぇが受け取れ! 」

 「よくわからんけど、ぶちかましてやらぁ! 」

 

        Evolution_

 

Dチューナーから放たれた光を受けた2体のデジモンは走りながらも己の姿を変える。成長期から成熟期へと、パートナーの心との同調が彼らの力を一時的に増幅させた結果だ。

その姿に広太は思わず息を呑み、2回目である武正ですら眩しそうにパートナーの雄々しい姿を見届ける。

 

 「ハックモン、進化――バオハックモン! 」

 「ベタモン、進化――ダークティラノモン! 」

 

現れたのは片や深紅のマントを靡かせ、刃の足を器用に使い大地を駆ける全長3mほどの白竜。片や一見ティラノモンによく似ているが、その体色は黒く全長は10mほどの恐竜。

2体の竜――バオハックモンとダークティラノモンはティラノモンへと急速に接近していき、その勢いに危険を感知したのかティラノモンは迎撃のファイアーブレスを放つ。迫る炎を前に2体は不敵な笑みを浮かべると……

 

 「バーンフレイム!! 」

 「ファイアーブラスト!! 」

 

バオハックモンの口から巨大な火球が、ダークティラノモンの口からは火炎放射が放たれる。激突する炎と炎……成長期のままならば違ったであろうが、2体がティラノモンと同じ成熟期となった今、勝ったのは数で勝るバオハックモンとダークティラノモンの方だ。

2体の火炎はティラノモンのブレスをも飲み込み威力を増すと、ティラノモンへと直撃。その巨体は炎に包まれて、ダメージからか悲痛な叫びをあげて怯んでしまう。そしてそのチャンスを逃す2人ではない。好機とばかりに声を挙げた。

 

 「バオハックモン、フィフクロスで一気に押し込め! 」

 「蹴りでも何でもいいからこっちも後ろに吹き飛ばしちまえ! 」

 

地を駆ける2体の竜も作り出した隙を逃さず、走る勢いを殺さぬまま跳躍。バオハックモンの強靭な爪による一撃が、ダークティラノモンは勢いを利用しての飛び蹴りが放たれる。

 

 「フィフ、クロスッ! 」

 「ダイノォ……キック! 」

 「ぐるぉぉぉ!? 」

 

見事にダイノキックは顔面に、フィフクロスは腹部へと直撃してティラノモンは後ろへと吹き飛ばされる。ダークティラノモンは蹴りの反動で離脱し、巨体ながらに宙を待って無事に地面へと着地。

その一方でバオハックモンは両腕をティラノモンの腹部に叩き込んでいる状況であり、当然離脱が直ぐには行えない。刃の足を大地に突き立てて離脱しようとするも刃の切れ味が良さが災いし、地面を切り裂いてしまって距離が足りない。

 

 「これじゃあ……!? 」

 「あのままじゃティラノモンごと……バオハックモン! 」

 「武ちゃん、バオハックモン……」 

 

 このままではディストーションへ一緒に飲み込まれてしまうだろう。バオハックモンと武正、桃香の焦燥感に駆られた声が辺りに響く。

 そう言っている間にティラノモンはディストーションへと飲み込まれ、この世界から姿を消していく。残された時間はもう殆どなく、万事休すかと思われたが……

 

 「ダークティラノモン、いけぇ 」

 「おうよ! 」

 

 バオハックモンがティラノモンと共に飲み込まれる寸前、広太の呼びかけに黒き恐竜は即座に応えた。黒くて逞しいその腕は、刃を備えた白竜の尾をがっしりと掴んで後ろに思いっきり引っ張る。すんでのところでバオハックモンはこの世界にとどまり、ティラノモンはディストーションの中へと消えた。

 

 「オレもあいつも借りを作りっぱなしなのは苦手なようでね」

 「これで、さっきの分の借りはチャラだ」

 

 広太は武正へ不敵に笑みを浮かべ、ダークティラノモンも同じようにバオハックモンに不敵な笑みを向ける。

 

 「助かった……ありがとう、ダークティラノモン」

 「三山もありがとな。いや、本当に助かった」

 「いいってことよ、なあ広太」

 「まーな、放っておいて吸いこまれてたら寝覚めが悪いし」

 「――あの、みんな……」

 

 ぶら下げられた状態から、地面に下ろしてもらったバオハックモンは恩人に頭を下げた。武正は冷や汗を服の袖で拭いながらも広太へとパートナーデジモン同様に感謝の言葉を告げ、感謝の言葉に広太とダークティラノモンは照れ臭そうにそっぽを向いた。

 そうこうしている内に、2人と2体の死角からおどおどとした声がかかる。木陰に隠れていた桃香だ、彼女は安全が確保されたのを見計らって木陰から出てきたようである。

 

 「「うぉぉ!?」」

 「あ、桃香。大丈夫だったか?」

 「うん、武ちゃんとハックモン達のおかげで……これが昨日、言ってた」

 「そう。これが進化で今の俺はバオハックモン――っと時間切れみたい」

 

 いきなり聞こえてきた異性の声に驚く広太とダークティラノモン。黒き恐竜の巨体が驚きで跳ねたことによる地響きが周囲を揺らし、武正達はバランスを取って転ばないように姿勢を保つ。

 突然の幼馴染の乱入にも武正は慣れている様子で、隠れていた彼女の無事を確認している。桃香の問いかけに、バオハックモンが成熟期となった自身の名乗りをした直後、2体は再び光に包まれ……次にそこにいたのは進化前の2体、すなわちハックモンとベタモンだ。

 

 「おつかれ、ハックモン。俺も何だか疲れた……」

 「武正こそお疲れ様。一緒に戦ってくれてありがとう! 」

 「おい広太、こっちも疲れた……何か食わせろ」

 「俺だって疲れてんだ、少しは我慢しろっての……」

 

 戦っていた2体はもちろん、何故かパートナーである2人まで疲労困憊の様子。武正とハックモンは背中合わせでお互いに寄りかかって楽な姿勢を保ち、広太とベタモンは大地にそれぞれひっくり返っている。

 武正はかけていたゴーグルを額に上げ、広太は倒れ込む際にキャップの鍔を前に戻しているところを見ると、気合いはもう抜けて出しまったようだ。

 

 「そういえば、三山とベタモンは結構前からの知り合いなのか? 」

 「ん?なんだよいきなり……」

 「いやさ、俺とハックモンが初めて会ったのって昨日だったんだよ」

 「そうそう!そっちはどんな感じだった

 

しばらくそのままで息を整えていた武正と広太は、落ち着いてくると他愛のない雑談を始めた。話題はデジモンと何時、どう出会ったか……共通の話題ならば会話が続くだろうと武正は思ったようだ。

まあ実際は、自分とハックモン以外にはいないだろうと思っていた同じ境遇の人間を見つけて好奇心が湧いてきたからである。ハックモンも好奇心が疼いたらしく、ベタモンにも声をかけると、2人の口が同時に動き……

 

 「「いや、オレ(俺)達も昨日初めて会った」」

 「あ、そうなんだ……」

 「それにしては息ピッタリだったね、今の戦い。一緒に戦ってて感じたよ」

 

  ハックモンのその一言に広太とベタモンは侵害だと言わんばかりに身を乗り出す。あまりの勢いにハックモンは思わず体を後ろに反らすほどである。

 

 「オレとこのカエルみたい奴が? 」

 「俺がこの捻くれ野郎と? 」 

 「「ないない! 」」

 「――息、ぴったり……だね」

 

 和やかな雰囲気になってきた中、武正と広太は興が乗ったのかそのまま胡坐をかく。ハックモンは武正の背中に負ぶさる姿勢で、ベタモンは身を乗り出した後に再び寝転んでおり、目立つ赤いモヒカンのようなヒレも萎びたままだ。

 そして広太は軽く欠伸をしてから武正達の方を向くと、彼は昨日の記憶を思い出すように語り出していく。

 

 「あーっとな……オレが昨日の放課後、この裏山の山頂でボーっとしてたらさ、こいつがいきなり出てきたんだよ」

 「それは、お前が俺の住処に勝手に入ってくんのが悪いんだろー? 」

 「そんで喧嘩売られて買ったところで光とあの声が聞こえてきて、気がついたらこれ持ってたんだよ」

 「Dチューナーか……出てきた時の状況は俺とハックモンの時と大体同じだな」

 

聞かされた内容から、幼馴染二人とハックモンは目の前の1人と1体の出会いは大凡自分達が出会った状況と同じであると結論付ける。

二人の話の中に出てきた『住処』という言葉が気になったハックモンは、ベタモンに視線を向けると自分の疑問をぶつけてたのだった。

 

「じゃあ、ベタモンはずっとこの山に住んでたんだ? デジタルワールドから来たばっかりじゃなくて」

「5年前からこの山が俺の住処。つーか気がついたらここにいた。それより前の事は一切覚えてねー! 」

「覚えてない? ……もしかして、記憶、喪失? 」

「ああ……このカエルもどき、どうやらそうみてーなんだよ。厄介なことにな」

 

あっけらかんとこの山に来る前の記憶が無いと答えるベタモン。そして桃香は少し悲しそうにベタモンを見ている。記憶を失っても本人があまり気にしていないのが救いだろうか。

ガンクゥモンに関する手掛かりを得られるかと期待したが、これでは何も知っていそうにない。武正とハックモンのテンションが少し下がった。

 

「収穫は少しあったけど、手掛かりは期待できそうにないな」

「振り出しに戻るかー。師匠、どこいったんだろ? 」

「でも、この街にいるデジモンが……ハックモン以外も、いるってことは……わかったよ? 」

「確かにそうだけどさー」

 

ガクンとテンションの下がる1人と1体を、桃香はポジティブな要素を提示することで引き止めようと奮闘している。その様子を見ていた広太とベタモンは……

 

「一之瀬よ、こっちのことは話したんだ。今度はそっちの番だろ? 」

「俺も色々知りたいしな。記憶に関係することがあるかもしれねぇし」

 

つまりは『こっちの事情を聞き出したんだ、お前らの事情も教えろよ』ということだ。口の悪い少年と口の悪いデジモンはギブアンドテイクを武正達に求める。

 

 「まあこっちだけってのも悪いし、いいよな? ハックモン」

 「俺はもちろん大丈夫。お礼になるならいくらでも話すよ」

 「じゃあ……俺とハックモンが出会ったのも昨日でさ――」

 

 

              ・

              ・

              ・

 

 

 武正とハックモンがお礼に自身たちの出会いを語り始めて5分ほどが経ち、そろそろ出会い話も終わりに近づいている様子だ。

 先程の突風とは違う穏やかな風が吹き抜けることにより、和やかな雰囲気は維持されて

 

 「それで、今はハックモンの師匠を一緒に探し始めたってワケ」

 「なるほどねぇ……そっちもそっちで色々あったんだな」

 

 一通りの事情を聞いた広太とベタモンは、うんうんと頷きながらも結構な修羅場を潜った武正とハックモンを軽くねぎらう。

 

 「だから俺の住処に何か手掛かりが無いか探して回ってたのか」

 「ごめんね、ベタモンの住処だって俺も武正達も気がついてなくて……」

 「いいってことよ! 俺は心が広いからな! 」

 「三山、君……ベタモンの話って……」

 「あー、気にすんな守神。あいつの話は話半分で聞いとけばいい」

 

お互いの事情を曝け出したことで、奇妙な連帯感が生まれたのだろうか、彼らの雰囲気は最初と比べると随分和やかになっている。先程まで命がけの戦いをしていたという気配すら感じさせない状態だ。

 しかし、突如その和やかな空間を破壊する音が辺りに鳴り響いた。

 

 「あ、終わりのチャイムじゃねーかこれ!? 」

 「本当だ!? もうこんなに時間経ってたのか」

 「武ちゃん、三山君……早く絵の具や画板持って、集まらないと……」

 

終業を知らせるチャイムに3人は慌てて立ち上がり、自分が元いた場所へと持ってきた道具を取りに走っていく。

それで集合時間に間に合ったかといえば――残念ながら。遅れてしまった3人はそれぞれの担任からお小言を受ける羽目になったのであった……

 

 

              ・

              ・

              ・

 

 「センサー、映像ともに回復。状況は……サンプル01、ディストーション内に反応消失」

 「何故今になって回復した……周囲に何か別の反応は? 」

 

 その言葉が響いたのは、薄暗いPCのモニターが並ぶ大きな部屋だ。事務机に大勢のオペレーター達が着席し、モニターから目を離さずにキーボードを叩いている。

 とある一人のオペレーターはキーボードを叩くのをやめ、顔を上司へと向けてその報告を行う。それを受けた上司は部下へ詳細を訪ねていく、何か気になる要素があるのだろうか?

 

 「今のところは、何も確認できません」

 「あのサンプルが勝手にディストーションに落ちるとは思えないが……調整ミスか? そしてセンサーとカメラの同時不調も気になるな」

 「如何いたしましょう?」

 「情報操作班に調査班を加えて現地へ派遣しろ。詳細な調査も同時に行う! 技術班はセンサーとカメラの総点検を」

 

 部下からの要請に、迅速かつ的確に指示を出すサングラスをかけた男。

 得られたデータの解析が終了したのか、矢継ぎ早に他のオペレーターも報告をしてくる。

 

 「久々津部長。『イリアス』ゲートの強制開門成功確率は15.593%です。今までの実験より4.26%上昇しています」

 「そうか、ならばひとまずは成功だな。上への報告書は私が書いておく。軍需産業部門への『カノン』掌握の進行状況もな」

 「はい、お疲れさまでした。久々津部長」

 

 久々津と呼ばれた30代前半の男性は満足そうに頷きながら進展情報を確認して微笑みを浮かべた。一見爽やかなその笑み……しかしどこか作りもののような印象を受ける笑顔で、目の表情はサングラスにより伺えない。

 満足そうに視線を向けた巨大モニターにはデジモンのデータが至る所に聖なる動物や天使のデータが表示されている。それを一瞥した後に久々津はオペレーター達に向けて……

 

 「『カノン』に続き『イリアス』にも自在に安定したゲートを開くことができたのなら、我らにとって輝かしい未来が待っている。諸君らの働きに期待する」

 

 部下を励ます美辞麗句を語りながら先程の笑みを浮かべ、久々津は悠々と部屋から退出していく。退室した後にエレベーターへ乗り、高層階へ向かうその男の顔には、邪悪な笑みが浮かんでいる。

 武正や広太が知らない間に、悪意を持った何かの胎動が始まっているのは確実のようである。そのことを二人と後もう一人が知るのは、もう少し後になってからのことだった……

 

 




デジモン図鑑#3

名前 :ベタモン
レベル:成長期
タイプ:両生類型
種別 :ウィルス
・解説
四足歩行をする両生類型デジモン。性格は温厚で大人しいとされているが、広太のパートナーはその限りではない。
必殺技は100万ボルト以上の電流をするする『電撃ビリリン』


名前 :ダークティラノモン
レベル:成塾期
タイプ:恐竜型
種別 :ウィルス
・解説
悪質なコンピュータウィルスに体を侵食されたティラノモン。体は黒く変色し、腕もティラノモンよりも強靭に発達し攻撃力も増している。
目に映るものは全て敵とみなし攻撃を仕掛けるとされているが、進化元がベタモンな為にそこまで見境なしではない。喧嘩っ早くはあるが……
必殺技は超強力な火炎放射を放つ『ファイアーブラスト』でティラノモンの得意技である『スラッシュネイル』『ダイノキック』『ワイルドバスター』も当然扱える。


名前 :ティラノモン
レベル:成塾期
タイプ:恐竜型
種別 :データ
・解説
古代の恐竜のような外見のデジモン。発達した2本の腕と巨大な尾を使って全ての物をなぎ倒すと言われている。
知性もあり大人しい性格のため、とても手なづけやすいとされているが今回は、何故か襲ってきた。
必殺技は深紅の炎を吐き出す『ファイアーブレス』だ。
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