楽しんでいただけたら、本当にうれしいです。
武正とハックモン、桃香が新たなデジモンとそのパートナーに出会った次の日……土曜日の早朝のためだろうかか、守神町は未だ静まりかえっている。
しかし、まるで人っ子一人いないような静まり具合は少し異常にも見える中で、町の上空に突如閃光が走ったかと思うと、次の瞬間に3体の影が空に浮かんでいた。
「ゲート通過、完了」
「しかし、向こう側との通信状態は不安定のようだな」
「カノンでのデジモンの消失案件……この世界と関係があるのか? 」
空に浮かぶ影は人に近いが、大きく異なるのは背中に生えた6枚の翼で……まるで神話に登場する天使だ。
そして天使の各自が手に装備しているのは槍、斧、剣の3種類の武器で、それぞれ銀色の刀身が神聖な気配を漂わせている。
「まず上空から、デジモンの気配を探っていく」
「了解! 汚れを持つこの世界の原生生物との接触は出来る限り避けるようにとのオファニモン様からのご命令だ」
「正確にはメサイア様からオファニモン様が授かったお言葉の事だろう、不敬だぞ。それは当然承知している。消失したデジモンを発見し次第、通信を行うように」
ここへ来た目的と、注意すべき事項を口に出して全員で確認を行っていく。団体で行動するならばこういった周知は重要なことで、彼らはそれをきちんと理解しているのだ。
「「「メサイア様とカノンの為に」」
自分達の世界で発生している同族の消失事件を解決するためにオファニモンにより派遣された先遣隊達は、そう声を揃えると三方へと散っていく。
彼らの生きる清廉潔白で統率された世界とは違い、混沌とした煩雑な世界に若干の嫌悪感を抱きながら……
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「ふぅ、いい朝だ」
守神町の高級住宅地で一際目立つ大きな屋敷。町立病院で院長を務めている浅葱将人の住居だ。
朝焼けがアンティークの机や椅子の並ぶ食堂へと差し込み、その日の下で使用人達はせっせと朝食の準備を進めていて……
屋敷の三階にある自室で昭二郎は目覚ましの音で起床した。同時に枕元へ置いてあった眼鏡を手だけで探し、発見してかけると背伸びで眠気を払う。
直後に部屋の扉がノックされ、ドアを隔てて向こう側から執事である瀬羽の声が聞こえた。
「坊ちゃま、扉を開けてもよろしいでしょうか? 」
「今起きたところだよ。着替えをするから少し待ってて」
「それは申し訳ありませんでした」
クローゼットの中から糊の効いたワイシャツや黒のスラックスを取り出して身だしなみを整えて、最後に青のテーラードジャケットに袖を通せば着替えは完了だ。
身支度を整えた彼は、枕元に眼鏡と同じく置いてあった青のDチューナーを掴み画面を覗き込んでみる。昨日就寝した時点では未だに中の主は目が覚めていなかったが……
『お、おはようございます……』
「うわっ!? 」
画面の中の青い瞳と視線が合ったが、突然かけられた声に驚いて思わずベッドへと倒れ込んでしまうが、よく手入れされているマットレスと布団がその衝撃を和らげてくれた。
多少の傷はまだあるものの、どうやら生気を取り戻しているようだ。更に直後聞こえた腹の虫の音から、どうやら空腹のようでもある。
治療らしい治療もできずに見守ることしかできなかった昭二郎は、その姿に安堵のため息をついた。
「どうかなされましたか? 坊ちゃま」
倒れ込んだ音を聞いたのか、扉の向こうから瀬羽が気遣うように訪ねてくる。若干の焦りを浮かべると咳払いの後に何事もなかったかのように振る舞うと、年上の従者へとある要望を告げる。
「いいや、ちょっとバランスを崩しただけだよ。それよりも瀬羽」
「はい。何でしょうか? 」
「朝食はこの部屋で摂りたい。それと、果物を多めに持ってきてくれないかい? 彼もお腹が空いているみたいなんだ」
「彼? ……なるほど、かしこまりました。すぐにご用意いたします」
ちょうどいい機会なので、朝食を食べながら目覚めた彼と話をするつもりらしい。自分の置かれた状況にビクビクしている画面内のピヨモンへ笑顔を浮かべながら彼は自身の部屋にある椅子へと腰かけるとテーブルに頬杖を突く。
一方で、主の言葉から、大凡の事を扉の向こうから掴んだ瀬羽は部屋のある3階から1階の食堂へと向けて歩き出していく。食堂への道すがら、今日は主一人だけの朝食ではなく、賑やかな朝食となりそうだという予感を彼は感じていた……
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一方その頃、武正と桃香は喫茶いちのせの入り口の前で二人並んで立っていた。
店のドアにはまだCloseの看板が掛かっており、立っているすぐ横には2台の自転車が止められていることから、呼び込みをしようとしているわけではないようだ。
何か待ち合わせをしているのか、桃香はドアのガラス越しに店内の時計で時刻を確認し、武正はDチューナーを覗き込んでいる……
「来ないな、三山」
「後、3分で、約束の……時間、だけど……」
『寝坊でもしたのかな? 』
「あんまり乗り気じゃなさそうだったから、来ないつもりかもな」
どうやら、昨日出会った広太とベタモンを待っているようである。
ハックモンの師匠探しの手段として、別の世界へのドアのようなディストーションの探索をすることを思いつき、似たような境遇のベタモンの助けにもなるだろうと二人は広太も誘っておいたのだ。
しかし、武正の言葉から察すると集合の誘いに広太は消極的だったようで、曖昧な返事を返したきりだった。ベタモンの方は即座に承諾が返ってきたのだが……
『でもベタモンはディストーション探しに凄く興味持ってたし、大丈夫だよきっと! 』
「そうだといいんだけどなぁ……」
「あ、後……1分、だよ? 」
「しょうがない、じゃあ今日は3人でディストーションを――」
無情にも窓から見える店内のアナログ時計とDチューナーについているデジタル時計は8時30分を指そうとしている。2人と1匹が諦めて今いるメンバーで行こうと考え、置いていた自転車のハンドルを取ったその時だ。
『約束通り来たぜ、ハックモン』
「……はよっす」
まず聞こえたのは軽快な自転車の走行音で、直後にブレーキがかかる音とともに時間ぎりぎりで広太とベタモンがやってきた。朝だからなのか、それとも別の理由からなのか、広太のテンションは低いようで……
『そんな疲れた顔しなくてもいいじゃねぇか、探してもいいだろ? ディストーションとやらくらい。暇つぶしにはなるぞ』
「昨日から行きたい行きたいって騒いでた緑のカエルもどきのお守りで寝不足だからなんですがね、これは」
昨日の誘いにいい返事を返してくれていたベタモンは、今日のこの探索を楽しみにして昨夜も広太へ探索に行くように再三言っていた様子が伺えた。
『なら、今日いっぱい動いてぐっすり眠れるようにすりゃあいいじゃねぇか』
「寝不足の原因がよくもまあそういうことを言えるなぁ……おい! 」
「ふ、二人、とも……落ちついて」
皮肉の応酬から始まったが、次第に一触即発の空気に広太とベタモンが突入しそうになるところを桃香が慌てて仲裁に入り場を収める。
控えめながらも、少し力のある言葉に広太とベタモンはバツが悪そうに双方矛を収めて……
『ケッ! 』
「ふん! それで一之瀬、ディストーションってのを探すってどうやるんだ? まさか町を虱潰しにとかじゃねぇよな? 」
気を取り直した広太は、武正へと顔を向けるとここに来るまでに疑問に思っていたことをぶつけた。確かにいくら小さな町とはいえ、小学生3人ではとてもじゃないが虱潰しに探すのは難しい。
その言葉に武正は悪戯っぽく微笑んだかと思うと、Dチューナーを突き出した。本来ならば画面には、今はDチューナーの中に入っているはずのハックモンが映るはずだが……今は守神町の地図が表示されている。
「俺達、Dチューナーの使い方を頭の中に叩き込まれたけど……実際にはリアライズとデジタライズ、以外の機能まだ使ってなかったろ? 」
「そういえばそうだな。デジモンの能力がわかったり、指示やサポートプログラムが送れたり、通信できたり……終いには変なフィールド作ったりできるんだっけ? 」
二人の頭の中に書きこまれたDチューナーが持つ機能とその使い方。耳で聞いたらすぐに抜けて忘れてしまうだろうが、脳へと直接書き込まれたためにしっかりと二人は記憶している。
「うん、それで今回使うのはそれ以外の外にいるデジモンや時空の歪みが探せる機能を使ってみるつもり! これならある程度絞れそうだろ? 」
目の前に立っている同級生の提案は、勢いだけのものではないことを理解したからか、広太から気だるげな雰囲気が少し抜けて……
「なるほど、一応の宛てはあるわけか……それじゃあ付き合ってやるよ」
『ありがとう、広太! 』
「勘違いすんなよハックモン、あくまで暇つぶしのついでだ」
『この捻くれ者は本当に素直じゃないねぇ……』
彼がこの僅かな手掛かりを探すのを手伝ってくれるようだとわかり、武正の安堵の笑みとハックモンの心の底から嬉しそうなお礼の声に、すこしバツが悪そうにそっぽを向いてしまう広太。
気恥かしさを隠そうとしているのを見抜いたベタモンはボソッとツッコミを入れるが、彼も大概素直でない捻くれ者だ。似た者同士のパートナーでお似合いと言えるだろう。
そうこうしている間に集合時間は3分ほど過ぎ、出発の準備を整えた3人はヘルメットを被り自転車へと跨るとペダルをこぎ出していく。
「それじゃあ、ディストーション探し、開始ー! 」
「お、おーっ……! 」
『『おおーっ! 』』
「はいよ! 」
先頭を走る武正の掛け声に、後ろやポケットの中からそれぞれの反応が返ってくる。Dチューナーから聞こえてくる声のがあるからか、傍から見ると人数以上に騒々しい集団に見えるだろう。
騒々しくなった少年達は、アスファルトの上を自転車で元気よくで駆け抜けながらもディストーション捜索を開始した。
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彼とピンクの鳥を挟むテーブルにはバスケットに柔らかそうなパンやベーコンエッグ、サラダにコンソメスープが並んでいる。
一般的な洋食に見えるが、明らかに高級食材を用いた料理の他にも、彩り鮮やかで高級そうなフルーツの盛り合わせもあり、華やかな食卓だ。
「自由を求めてデジタルワールド・カノンから逃げようとして追跡され、攻撃を受けて気を失い、気がついたらあのDチューナーの中にいた……と」
「ええ、簡単に説明するとその通りになります」
「……それはそれは、大変でしたね。ピヨモン様」
テーブルの傍らには瀬羽が立ち、ピッチャーから飲み干されて空になった主のコップへミルクを注ぎながらも、身の上話を聞いて労わりの言葉をピヨモンへかける。
「それよりも、行き倒れていたのを助けて頂いただけでなく、こうして食事まで……本当にすみません」
「あのまま見捨てるわけにもいかなかったから気にしないで。お腹が空いているだろう?もっと食べてよ」
「では、遠慮なく……」
先程より30分ほど経ち、昭二郎は朝食を食べながらピンクの鳥……ピヨモンからここまでの事情を話してもらっていた。名前から始まってデジモンの事、デジタルワールドの事についても知識を共有することが出来たようだ。
そうして片方が話している間は、片方がそれを聞きながら食べるのを繰り返しつつ、二人の朝食の時間は過ぎて行く。Dチューナーの中では只管眠っていて空腹だったのだろう、テーブルの上の食事があっという間に無くなっていった。
「それで、これからどうするつもりだい? 」
「カノンからは抜け出せたのは確かですが、この世界は私が目的としていた世界……デジタルワールド・イリアスではないので……」
「イリアスへの道を探す、といったところでしょうか? 」
「ええ、私のようなデジモンはこの世界では異物のようですし」
昭二郎の問いに、ピヨモンが明言する前に傍で立っていた瀬羽が代わりにその先を予測して明言した。
どうやらその予測は間違いではないようで、ピヨモンはコクリと頷くと椅子から降り立ち、次の瞬間勢いよく頭を下げた。まるで地面に頭がぶつかるのかと思えるほどの勢いだ。
「昭二郎様、瀬羽様、この度は助けて頂き本当にありがとうございました! 生憎私は何もお礼できる物がなく……」
「何度も言っているけど、気にしないで。僕が好きでやったことだから……ね、瀬羽? 」
「はい。坊ちゃまはピヨモン様の事を救いたい一心だったのです」
ひたすらに低姿勢でお礼を言うピヨモンに対し、主とその従者は柔らかい微笑みで気にするなと言ってくれる。その暖かさに思わず眼がうるんでしまうピヨモン。
「ですが!? すぐにでもこの家を出ていかなければあなた方に更なるご迷惑を!! 」
だがこれ以上は迷惑はかけられないと、大きな瞳から溢れかけた涙を拭って出口として定めていたのであろう窓へと歩いていく。
「行く宛、無いんだろう? ならもう少し僕の家にいるといいよ。まだ君の傷も完全に癒えてないみたいだし」
「坊ちゃまが決めたことならば。この瀬羽、反対はいたしませんとも」
事実を端的に告げた後にピヨモンへ“傷が癒えるまで”という条件をつけることで気にしないように心遣いをする昭二郎。瀬羽も主人の言葉に的確な援護を重ねていく。
思わず足を止めて主従の話へ耳を傾けてしまうピヨモンは、他人の話を最後まできちんと聞く生真面目なデジモンなのだろうということが伺える。
「それに、イリアスへの道を探すには拠点が必要だろう?これも何かの縁だ、僕にも協力させてほしい」
「出会ったばかりなのに……何故そこまでしてくださるのですか?」
見ず知らずの自分のような怪しい存在にどうしてそこまでしてくれるのだろうか、そう考えたピヨモンの脳裏には一瞬不安が過る。
助けてもらったのにそんな風に疑うのは失礼だとわかっていながらも、昭二郎へとその理由を尋ねると……
「自分勝手な理由かもしれないけれど――君と共にいれば、僕も自由になれそうな気がしたから……かな? 」
「…………」
突如ぶつけられた疑問に、少し悲しそうな表情を浮かべながら昭二郎は語る。その表情にピヨモンはそれ以上何も言えなくなってしまい……
そのまま部屋の中に沈黙が訪れてしまった。昭二郎も、ピヨモンも言葉を発しようとしない。
「お二人と……」
見かねた瀬羽が助け船を出そうとしたその時、Dチューナーから電子音が鳴り響く。
「この音、Dチューナーから? 」
「どうやらそうみたいです……」
それは昭二郎が聞いたことが無い音で、覗きこんでみると画面には青い二つの点と赤い3つの点が表示されていた。画面に表示されているのはどうやらこの守神町の地図のようだ。
「これは……地図? 」
「守神町の地図、でしょうか? 」
2人と1匹がその情報が何であるかを考え始めると、昭二郎は真っ先に画面へ向けていた顔を上げた。まずは何よりも行動が必要だと判断したのだろう。
椅子から立ち上がり、勢いよくDチューナーをピヨモンへ向けると、唱えるのは昨日の内に頭に叩き込まれていたキーワード。
「瀬羽、少し出てくる。ピヨモン、Dチューナーの中へ! デジタライズ!! 」
「えっ!? 」
驚きの声と共に、光の玉になってピヨモンはDチューナーへと吸いこまれる。昭二郎は部屋を出ようと歩み出すが、それを押しとどめようと瀬羽は近寄り……
「坊ちゃま? 私も一緒に! 」
「ピヨモンの求めてる手掛かりがあるかもしれない。瀬羽は万が一の時の連絡役を頼む! 」
「しかし坊ちゃま! 」
瀬羽の懸命の説得にも小さな主人は止まる様子はなく、引き止める声にも自然と力が入ってしまう。そして内心では今まで見せたことがない物事への積極的な姿勢に困惑しているようだ。
「瀬羽にしか頼めないんだ! 」
「坊ちゃま! 坊ちゃまー! 」
そう真剣な表情で使用人へ決意を伝えると、昭二郎は階段を駆け下りて玄関から外へと勢いよく飛び出していく。
Dチューナーを覗きこむと、青の点と赤の点はそれぞれ北と南からある場所へ移動し始めていた。その場所は……守神中央公園。マウンテンバイクに飛び乗って昭二郎は疾走し始める。
目的の場所へと向かう彼の心には、大きな高揚感と、若干の恐怖心が抱かれていた。
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ディストーション探索を開始して1時間ほどが過ぎて、守神町を天高く昇った太陽が眩しいほどに照らす。爽やかな春の陽気だが、風がないため少し暑いと感じる気候だ。
その青空の下、自転車を漕いでいるのは武正達。時折止まっては、ポケットからDチューナーを取り出して、時間経過で現れたり消えたりするディストーションの微弱な反応を探している。
どうやら反応自体は見つかってはいるが、出現と消滅を繰り返すディストーションも多く、その絞り込みに悪戦苦闘しているようである。
「あ、この先の方の反応強くなった! 三山の方はどう? 」
「こっちも同じだ、すると目的地は……」
「守神、中央公園……だね」
ひたすら足を使って他の全ての選択肢を潰した結果、2人のDチューナーはこの先の公園にディストーションの反応があると示している。
今のところは何も感じないが、消えたり現れたりの微弱な反応の後に現れた大きな反応に俄然期待が高まっていき、自転車のペダルを漕ぐ速度も上がっていく。
このまままっすぐ自転車で進んでいけば、町民の憩いの場である件の公園へと到着するが、あと少しで到着すると思った矢先、2人のDチューナーの画面に突然赤い点が出現し警告音が鳴り出す。
「この音と赤い点って……」
『広太とベタモンに出会った時と同じだね! 』
「つまり、この赤い点はティラノモンみたいな野郎なのか? 」
『それか……ディストーションに叩き込んだティラノモンが戻って来たのかもしれねーな』
覚えのある音と表示に苦い顔になる2人と2匹。この先にいるであろうデジモンは、果たして話が通じる相手なのだろうか?
そう走りながら考え込んでいるところで、最後尾を走っていた桃香は何かに気がついたのか、進行方向を指差した。
「み、みんな……あれ、見て……」
その言葉と指の先を追うように、彼らの視線は前方へ。そこへ現れたのは一言で言うのならば、『天使』であった。
天から公園の中心部に降り立つ3体の天使、手にはそれぞれ武器を持っているためか、威圧感が強い。
「三山! 」
「ああ、わかってる! 桃香は端で隠れてて! 」
「うん、っ……」
2人はDチューナーを天に掲げてダイヤルを回すと、先程話していた機能の内1つを起動させた。公園を覆うようにフィールドが発生していくとドーム状の結界のようなものが出来上がり、これで公園は現実とは隔離された状態になった。
これで周囲の目を気にすることなく、現れた天使達と話をすることができるだろう。公園の端へ自転車を止めて、幼馴染に言葉を駆けると武正は中心部へと向けて走り出していき、広太もそれに続く。
「このフィールドは一体……」
「前方より原生生物が接近、どうする? 」
一方で天使達は展開されたフィールドに戸惑いながらも、近づいてくる原生生物2体に警戒を強め、自然の内に構えを取っている。武正達はそれに気づかず10m手前まで近づくとDチューナーを前に突き出すと……
「リアライズ、ハックモン! 」
『オッケー! 』
「リアライズ! ベタモン!! 」
『応よ! 』
それぞれのDチューナーよりハックモンとベタモンが現れ、華麗に地面へと着地。武正とハックモンは、まず話をしようとエンジェモン達へ近づいていく。
「あ、あのー俺達の言葉わかりますか? 」
「エンジェモンは賢いデジモンだから大丈夫だよ、武正」
「…………」
大きな時空の歪みの近くにいる原生生物とデジモン、広げられた謎のフィールド、何よりもデジモン達を内部へ格納できるデバイスを持っている……
更にデジタルワールド・カノンで消息不明になったのは今のところ成長期のみであるという事実がエンジェモン達の中で点と点を一本の線としてしまう。
この原生生物達が、自分達の世界から同志を攫っていたという線に……そして何よりも、自分達のセンサーを振り切るほどの汚れを持った彼らはそれだけで排除しなければならないウイルスである。
「貴様達が、我が世界におけるデジモン消失事件の犯人であると判定! 」
「そして何よりも……存在が汚れ切ってしまっている以上、浄化は不可能! 」
「よってメサイア様と三大天使様達の名の下に、聖務を遂行する! 」
沈黙していた天使達は、武正達へと審判を下して武器を頭上に掲げる。その動作から話し合うつもりは毛頭なく、聖務とやらを実行しようと2人へと殺気が飛ばされた。
自分達の世界からデジモン達を誘拐し、あまつさえ汚れに染めた悪しきこの世界の原生生物、それがエンジェモンから見た今の武正達である。
「おいおい、話聞いてないのか!? 天使サマにしちゃ行儀が悪いな! 」
「気をつけろ、ハックモン! こいつらやる気満々のようだぜ! 」
「何でっ、エンジェモン達は穏やかで慈悲深いはずなのに!? 」
3体のエンジェモン達は、それぞれの武器を振りかぶると武正達へと襲いかかってくる。槍による突きをハックモンが爪で弾いて武正を守り、振りかぶられた斧と剣の斬撃をベタモンは広太を後ろへ突き飛ばして同様に守った。
攻撃を回避されたエンジェモン達は一旦距離を取ると空中でフォーメーションを組み直す。数で勝る分コンビネーションで翻弄して一気に仕留めるつもりだろうか……
「三山、大丈夫!? 」
「サンキュー、でも今は前見ろ前! 」
突き飛ばされて尻餅をついた広太を、武正は手を引いて立ち上がらせる。気遣いの言葉よりも前方に集中しろという広太の言葉を受け、武正もエンジェモン達へと向き直った。
事情を説明しようとしても、相手はどう考えても聞いてくれる状況にない。天使達の殺気は犯人と断定した自分達へ向いていることは明らかで、Dチューナーを握る2人の手には力が入る。
「2人を守らないと、ベタモン! 」
「しょうがねぇな……後で何か奢れよ! 」
ハックモンとベタモンもエンジェモン達の殺気の向かう先を察し、声を掛け合って自分達の相方を守ることを決めて闘志を燃やす。それに呼応するかのように彼らとパートナーの同調率は次第と高まり、Dチューナーは光を放った。
「ああもうっ! 何でこうなるかなぁ!? 」
「一先ず動けなくなるくらいまでボコるぞ! そうしなきゃ天使サマ達は話聞いてくれそうにねぇ! ベタモン!! 」
「おう、分からず屋な天使サマ達に一発カマしてやるとしますか! 」
無理やりにでも止めるしかないと判断した広太はパートナーへと声をかけると、彼も既にそのつもりのようで皮肉交じりに全身に電気を巡らせる。
一方で頭を抱えていた武正も広太のあまりの勢いに流されて視線を前へ向けると、遅ればせながら覚悟が決まったらしく……
「気は進まないけど、今はそうするしかないか……ハックモン! 」
「オッケー、任せて! 」
2人は光を放つDチューナーを前に掲げる。光はさらに強まって、その光がパートナー達へと注がれていく。同調率が高まることから溢れる光で、2体は成熟期への進化が可能となった。
Dチューナーの液晶に進化を意味する言葉が現れた時、2体は安心感を覚える光へ包まれると、ティラノモンと戦った時のように自らを鼓舞し、新たな姿へ進化する言葉を叫ぶ。
「ハックモン、進化――バオハックモン! 」
「ベタモン、進化――ダークティラノモン! 」
光の中からバオハックモンとダークティラノモンが現れ、威嚇のためか唸り声が2体の口の中から聞こえて来る。その光景を見た対峙するエンジェモン達は自らの武器を強く握りしめて……
「メサイア様によって行われる進化をこんな方法で行うとは! 」
「彼らはもうそこまで汚れ切ってしまったのか……」
「やはりあの原生生物達、我らの世界へ害を及ぼすのは確実だろう」
進化は主から与えられるものである彼らの世界では決して起こり得ない光景であり、そして崇高なる主を侮辱する光景だ。断じて放置してはおけないと使命感が更に増していく。
それぞれが持った剣、斧、槍の刃先を重ね合わせた後、6枚の翼を羽ばたかせ……天使達は汚れを浄化する聖務を行うために武正達へと低空飛行で接近。武正達を守るバオハックモン達と衝突した。
「ラッシュ、ネイルッ! 」
「パターンA、こちらが受け流す」
「了解」
右腕から繰り出されたのはダークティラノモンの巨腕のパワーと爪の鋭さで相手を切り裂く得意技、ラッシュネイルだ。その攻撃に対する連携パターンを確認した天使2体の内1体は、自身に肉薄する強靭な爪の間に槍の柄を挟むと穂先を地面に突き立てる。
突然の異物に攻撃の勢いを殺されるもそのまま振りぬこうとするダークティラノモン、それを予測したかのように槍を地面へ突き立てたエンジェモンは、石突の部分を握ると力を外側へ逃がすように傾けていく。
力が逃がされて威力も弱まったのを察したダークティラノモンはその爪を振り上げて槍を握っているエンジェモンへ一撃を加えようとするが、素早い上昇で槍を地面から引き抜くと同時に回避をされてしまう。
「ちょこまかと……」
「そこだ! 」
「ぐあっ!? 」
2体がこちらに向かってきた際に、左側は尻尾と左腕で対応するつもりでフリーにしていたが、右側を崩されて生じた隙を剣を持ったエンジェモンは突いてきた。二手に分かれて左右から同時攻撃するのではなく、左右に別れて両方へ意識を向けさせてから右側を崩し、左側から頭上を飛び越えて無防備になった右側へ一撃を加える。
天使達が言ったパターンAとはそのようのな連携パターンなのだろう。見事にその連携パターンにハマってしまったダークティラノモンの右腕は剣の一戦を受け真一文字の傷が刻まれ、更に聖なる力による爆発が傷口へよりダメージが与えられた。タフさに定評があるティラノモン種でも傷口への爆発は堪えたようだ
そして今の爆発でわかったのは、エンジェモン達の持つ武器は負傷させた相手の傷口に残された力の残滓を爆発させることで、より多くのダメージを敵へと与える能力を持っているようである。
「この調子で攻めていけばいい、手を緩めるなよ」
「了解。パターンAを中心にバリエーションで攻めていく」
「あの上から目線腹立つ……ダークティラノモン、まずは1体捕まえて一気に決めろ! 」
「調子に乗ってると痛い目見るぜ天使サマ達よォ! ファイアーブラスト!! 」
そうして一撃を加えた後に一旦距離を取り次の手を決める天使達と、その口調と態度に青筋を立てる広太とダークティラノモン。広太の脳裏に、まず1体を腕力で捕まえて一撃を加えることで1対1の状況へ持ち込もうという考えが浮かび、自らのパートナーへとそれを伝える。
広太の声を聞いたダークティラノモンは、挑発の言葉を繰り出しながら、口の中から必殺技のファイアーブラストがエンジェモン達へと放たれる。怒りと共に放たれたその火炎は、通常よりも熱く、勢いがあるように見えた。
「ダークティラノモン! このっ、フィフクロスッ!! 」
「ヘブンズ、ナックル!! 」
「互角!? バオハックモン、爆発の陰から斧がっ! 」
「ありが、とっ! 武正っ!! 」
ダークティラノモンとエンジェモン2体の攻防を横目に、バオハックモンは斧を持ったエンジェモンと刃を交えていた。どうやら天使達は進化した2体の体の大きさで戦う人数を決めたらしい。体格が黒き恐竜より小さい白き竜は、エンジェモン1体で事足りると判断された様子である。
聖なる光を拳に集めて放たれた必殺技、ヘブンズナックルを自身の爪と足と尻尾の刃による連続攻撃で迎え撃つバオハックモン。双方の必殺技が激突した衝撃により爆発が起こるも、エンジェモンは持っていた斧をまるでブーメランのように投げ、爆煙の向こう側へいるバオハックモンを狙う。
注意を促す武正の声を聞いたと同時に斧が目の前に飛び出すも、直撃する瞬間に両腕で白刃取りをし、その斧をダークティラノモンと交戦している剣を持ったエンジェモンを標的にして力いっぱい投げると、白き竜は地面へ着地した。空中で回転して投げることにより、遠心力によるパワーが加わった斧は勢いよくエンジェモンへと向かっていく。
「上手い、相手の武器を使ってダークティラノモンを助けるのか! 」
「フッ……考えが甘い! 」
天使の1体へと向かう斧はバオハックモン渾身の力で投げられたため、大きな風切り音を響かせてそのまま剣を持ったエンジェモンに命中するかと思われた。
武正の命中を確信した声に、斧を投げたエンジェモンは不敵に笑うと右手を天へ上げると、その動きに従うかのように飛んでいた斧は天へと上昇した後に方向転換を行うと彼の手の中へと納まる。
つまり彼らの持つ武器は、手から離れても自在に動いて使い手の元へと舞い戻る……何とも厄介な装備であるということがこの瞬間に判明した。何とも至れり尽くせりな武器だ。
「じゃあ、武器は体の一部って考えた方がいいか……」
「我らが主より授かりしクロンデジゾイドで作られた『聖装』がある以上、お前達に勝ち目はないということだ」
「そんなに凄い武器持ってるなんて反則じゃん!? 」
主から与えられた武器の性能を誇らしげに語るエンジェモンは羽を羽ばたかせて公園の上空へ飛翔していく。バオハックモンは武正の声をBGMに、今得た情報で脳内の敵スペックを再計算し、空高く飛んでいくエンジェモンへとバーンフレイムを連続で放ち牽制を行うと同時に戦い方を再考しているようだ。
牽制で放たれた複数の大きな炎弾は、エンジェモンが持つ斧の聖装により上段から真っ二つにされた後に公園の上空で爆発し、空気の振動が公園全体に響き渡る。その衝撃は桃香が隠れている公園端の樹木を大きく揺らすほどであった。
「相手の戦力は把握した。パターンB……対地戦闘を手順通りに」
「了解した、常に相手の射程外からの攻撃を意識すること」
「最優先目標は原生生物達だな、こちらも了解した」
バオハックモン達の力は見切ったとばかりに、上空を華麗に舞いながらも僅かな時間でこれからの作戦を共有する天使達。その統制された動きに今は敵であると知りつつも武正達は美しさすら感じてしまう。
空中で距離を取ったエンジェモン達は、片手に持った各々の武器を天へ掲げると同時に、空いた方の手に聖なるエネルギーを溜めこむと武器へとかざす。どうやらエネルギーを拳に込めてヘブンズナックルを放つのではなく、武器へと込めて放つつもりのようだ。
「あいつら、まさかっ!? 」
「早く! ダークティラノモン!! 」
「「「ヘブンズ、アームズ! 」」」
3体の天使が視線と武器を向けているのはバオハックモンとダークティラノモンではなく、武正と広太である……
それに気がついたバオハックモンとダークティラノモンは即座に自分達のパートナーの元へと走るが、その前に天使達は無慈悲な宣告と共に武器を振るった。
「えっ!? 」
「くそったれ! 」
武器から放たれたのは、眩き光を放つ斬撃……その聖なる斬撃は2人の元へと一直線に向かってくる。
急な出来事に体が硬直してしまう武正と、何とか反応して回避しようとするも武正も助けようとして手間取ってしまっている広太、当然回避は間に合わないだろう。
一瞬の間に何とか体を動かした広太は、武正の手を引っ張って少しでもその場から離れようと跳躍するも、次の瞬間には公園に再度大きな爆発音が響き、聖なる光が辺り一面を照らす。
「武ちゃんっ、三山君! 」
幼馴染と友達の危機に、思わず木陰から飛び出して、二人の元へ駆け出した桃香の絶叫が公園に響くも、直後の爆発音にすぐにかき消されてしまい……
辺り一面は閃光の後はもうもうと上がる土煙に包まれ、エンジェモン達の視界は完全に塞がれてしまったのであった。
・
・
・
「あと、少しで反応の近く……」
『確かに反応には近づいていますが、一体どうしてこんなことを? 』
公園へと急ぐ自転車に乗るのは昭二郎。Dチューナーの中で反応へと近付いているのを確認したピヨモンは、恩人がした行動の真意を訪ねる。
その恩人は立ち漕ぎでペダルを漕ぐと、アルファルトの上を回る車輪が勢いを増していく。昭二郎はキラキラした瞳で近くなってきた目的地を見据えると……
「絶対何かあるって、思ったからさ! 」
「えっ……? 」
「君との出会い、出現したDチューナー、そして画面に浮かんだ2種類の光る点……繋がっているのは明らかだ! それが何なのかを確かめたくて!! 」
スピードの乗った自転車はあっという間に公園の入口へ到着し、勢いよく鳴るブレーキ音の直後飛び降りた昭二郎によって高級そうなマウンテンバイクはスタンドで駐輪される。
右手に握られたDチューナーの画面を見ると、反応はもう目と鼻の先だ。画面には公園を覆うように円が表示されていたが、昭二郎とピヨモンはあっさりとその内部へと突入することが出来てしまった。
彼らが円の内部へと突入した直後に目と耳を襲ったのは、眩い光と轟音、そして突風である。思わず地面へしゃがみこみ突風に吹き飛ばされないように踏ん張る。その後に視界へまず飛び込んできたのは、膝を着いて息を荒げている黒い恐竜と白い竜。次にその2体と対峙する武器を持ち、神々しく空中へ浮かぶ3体の天使であった。
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衝撃によるダメージから復帰した武正と広太がまず見たのは、自分達の盾となっている傷だらけのバオハックモンとダークティラノモンであった。
2体の竜は息を切らせ、2人に攻撃を直撃させまいと迎撃して多少の威力の減弱は出来たものの、ほぼ直撃を受けたのだということが容易にうかがえる負傷の度合いだ。体中についた傷が痛々しさを感じさせる。
現在進化の為にパートナーとの同調を行っている2人の体にも、同じ位置に蚯蚓腫れのようなものが出来ており、彼ら自身もパートナーが受けた負担を背負っていることをここで初めて自覚していく。
「バオハックモン、大丈夫? 」
「ちょっときついけど、まだまだ平気だよ! 武正こそ、無事でよかった……」
「おい、生きてっかダークティラノモン……」
「おう、頑丈さには自信があるからな、生きてるぜ……」
傷つきながらも、お互いの無事を確認してホッとする2人と2体。しかし、迎撃で威力を減少させたたとはいえ直撃を受けてしまった2体は思うように動けずにいる。体力の消耗も激しいようだ。
「これで決められなかったか……」
「もう一撃で決まる。再度ヘブンズアームズを重ねるぞ」
「了解、彼らに慈悲ある一撃を! 」
一方で攻撃を当てたが、ダメージは彼らが想定していたものより少ないのを知った天使達は追撃のため再度エネルギーのチャージを開始。
彼らの持つ武器へと再度聖なるエネルギーが込められていくのを見て、木陰から飛び出してきた桃香は武正の腕へと抱きついた。不安と恐怖が入り混じった表情が彼へと向けられる。
「武ちゃん、逃げた、方がいいよ……」
「俺だって逃げたいけど……向こうは数が多いしまず逃げ切れないから、どうにかして隙を作り出すしかないって! 何とかやってみるから、桃香はとにかく木の陰に隠れてろ!」
「武正と俺、広太とダークティラノモンがいるんだ。絶対何とかしてみせるよ! 」
天使達のエネルギーチャージは着々と進んでいく中、再度木陰へと避難するよう幼馴染を頭を撫でて説得する武正。バオハックモンもパートナーの言葉に重ねて彼女を安心させようといつも以上に元気な声だ。
バオハックモンは膝を突いていた状態から再度立ち上がり、刃の後足と強靭な前足の4本で地面を踏みしめ、エンジェモン達へ視線を向けると、額のゴーグルを両眼に装着した武正はバオハックモンの後ろでDチューナーへと見えない力を込めるかのようにしっかりと握っていた。
同様に頭を横へ振るったダークティラノモンと、キャップの鍔を後ろに回した広太はチャージを続けるエンジェモン達へと攻撃態勢に移行する。こちらのコンビも負傷はしていても気合は十分のようだ。
「そういうこった、守神。安全なところでよく見てな」
「あの偉そうな天使サマ達を俺らがボッコボコにするところをな! 」
幼馴染と友達の傷ついた姿に心を痛めつつも、彼らの言葉を信じるということだろうか……コクリと頷くとまた木陰へと駆けて行く桃香。それでも時折心配そうに顔を武正達の方に向けながら木陰へと向かい、身を再び隠す。
「今更何をしようと遅い! 」
「待て! あれを見ろ! 」
「なっ、あのデジモンは……」
一方聖なる力を聖装へとチャージをしていたはずのエンジェモン達の顔は武正達とは別の方向へ向けられている。仮面に隠されていない口元に浮かんでいるのは純粋な驚きである。
その驚きの大きさはすさまじいようで、止めを刺すつもりで行っていたであろうエネルギーのチャージを中断するほどらしい。
「あれって、同じクラスの……」
「もう1体、いたんだ!? 」
その視線の先を追った武正とバオハックモンが見たのは、驚きの表情を浮かべている眼鏡をかけた少年と……その前にいるピンク色の鳥。
「というかついさっきからコイツがピーピー五月蠅いのは、やっぱあいつが原因か? 」
「何でもいい、頭数が増えた! 」
いきなり鳴り始めた武正と広太のDチューナー、先になっていた昭二郎のものとまるで共鳴するような音を奏でる。
Dチューナーを持ち、デジモンをリアライズさせている場合にそういった音を発するDチューナーの隠された機能なのだろうか、それは武正と広太が出会った時にも起こった現象だ。
広太は半信半疑で疑問を浮かべ、ダークティラノモンは本能で味方が増えたと感じている。それもそのはず、自分とハックモン達が出会った時と同じ状況だからである。
共鳴する音を発するDチューナー、画面に光る青い点と赤い点、ここから導き出される答えはそう、青い点は人間と関わりを持つ自分達の味方で、赤い点は敵というシンプルなもの。
「これは、凄い……」
「あのエンジェモン達は、まさか!? 」
一方で昭二郎は目の前の光景に驚きの顔を浮かべ、その前にいるピヨモンは3体のエンジェモンがそれぞれ持っている武器を見て真っ先に危機感を募らせた。
彼らが『聖装』を持っているということは、デジタルワールド・カノンのデジモンである。彼がこの世界へ来る前に重傷を負った原因は同じエンジェモン……いつ再攻撃されてもおかしくはない。
「データ照合完了、間違いない。逃亡者として追われていた我らの世界のピヨモンだ」
「しかし、他のエンジェモン達により『聖務』は完了したという報告があったはず!? 」
「詳細は不明だが、この世界へ逃れていたということだろう。わかっているな? 今より逃亡者を最優先目標へ設定! 」
聖務が完了していたはずが、今この場にいる逃亡者は生存している。天使達の中で最優先目標が入れ替わると、エンジェモン達は昭二郎とピヨモンへと飛びかかっていく。
「バオハックモン、あのデジモンと浅葱を助けて! 」
「お前もやってやれ、ダークティラノモン! 」
突然の天使達の行動変更に驚きつつも、2人は自分達のパートナーへ声をかけると昭二郎とピヨモンを指差した。人間1人とおそらくは成長期のデジモン1体で成熟期デジモン3体を防ぎ切れ無いと判断したからである。
「待てっ! 」
「俺達のこと、忘れてんじゃねぇよ! 」
その指示を受けたバオハックモンとダークティラノモンは大地を勢いよく蹴ってエンジェモン3体を追う。エンジェモン達の飛行スピードは羽ばたき始めたばかりのためか、彼らの跳躍で十分に追いつける速度だった。
追い懸けてくる2体の竜を察知したエンジェモン達は即座にアイコンタクト、槍と斧を持った天使2体が急速反転して迎え撃つ。2対2で足止めを行い、その間に剣を持ったエンジェモンがピヨモンを確実に仕留めるつもりらしい。
(あの声が言っていた襲い来る困難……今まさにそれが来ているのか? )
エンジェモンが剣を振りかぶり自分とピヨモンへと急接近していく……そんな中でも冷静に昭二郎はDチューナーを入手した時に頭へ響いた声の事を思い出していた。
後数秒で距離がゼロとなり、自分達をデリートしようと剣を振りおろしている最中の天使が、あの声の言う困難なのだろうか?
そのまま天使の聖務が執行されたならば、昭二郎達へ訪れるのは死という終わり。その死の刃から回避をしようにも既に避けられない超至近距離だ。
(デジタルワールド・イリアスへたどり着くためにも……)
(自由を掴みとるためにも……)
((ここで、終わるわけないはいかない! ))
辿る過程は違っても、一瞬で至った結論は見事に一致する。果たしてその一致は偶然なのか、必然なのか……
昭二郎の持つ青いDチューナーが光を放ち、ピヨモンの右翼腕の青い勾玉もまた呼応するように発光を始める。同じ結論を導き出したが故か、画面に表示されている同調率は急上昇していくと、一旦止まったその数値は58%。成熟期へと進化可能な条件を上回った。
「聖務、執行……何っ!? 」
エンジェモンが二人へ向けて聖なる剣を振り下ろし、その刃がピヨモンと昭二郎を切り裂くと思われた瞬間……強烈な光が2人を包み込むと、聖なる刃はその光によって持ち主ごと後方へ弾き飛ばされた。
「あの光って……でりゃっ! 」
「俺らが進化した時と、同じだなっ! 」
それぞれ2体の天使と交戦を続けているバオハックモンとダークティラノモンも、その光を自分達も纏ったことがあるためか、自分達にとってはいい出来事である事を肌で感じている。
「ってことは、あのピンク鳥と奴は俺らと同じか……」
「バオハックモンやダークティラノモンみたいに、成熟期に進化するんだ! 」
Evolution_
光に包まれたピヨモンの肉体は、まるで雛鳥が鳥へと成長するが如く進化を遂げていく。広げられたた翼や嘴、鉤爪はより大きく、より鋭く……
「ピヨモン、進化――アクィラモン! 」
纏っていた光が収まった後に空へと滞空していたのは一言で言うのならば赤き猛禽。大きな赤い翼には白い羽がアクセントとなっており、頭部には鋭い嘴の他に前方へと伸びる鋭い2本の双角がある。その角で貫かれたらただでは済まないだろう。
一瞬意識が飛んでいた昭二郎は、気がついたらアクィラモンの背中へとしがみついていた。まるで高級な絨毯のごとくしなやかな体毛は戦いの中であっても彼に平穏を与えてくれる。
「君は、ピヨモン……なのかい? 」
「ええ、どうやら成熟期に進化したようです。今の私は、アクィラモンとお呼びください」
恩人の問いかけに自分の新しい名前を答え、すぐさまアクィラモンは先程の剣を持った天使を探す。視線の先には20m先にある壊れたブランコと、そこで立ちあがっているエンジェモンがいた。どうやら吹き飛ばされた後に遊具へと突っ込み多少のダメージを受けた様子だ。
「おい、お前ら! あの天使1体引き受けてくれ!! 」
「えっ!? 君達は確か……」
パートナーとエンジェモンが交戦している最中に指示をしつつも、そちらを見ていた広太は昭二郎へと声をかけて共闘を持ちかける。昭二郎は広太の名前を思い出そうとするが、隣のクラスの為かなかなか名前が浮かんでこない。
「細かいことは気にすんな、あの天使お前らも狙ってるんだろ? 敵の敵は味方って奴だ! 」
「そういうことになりますか……昭二郎様、あなたを戦いに巻き込んでしまうことになりますが……よろしいですか? 」
「うん、僕達も彼らにとっては完全な敵だと思われてしまったようだし、降りかかる火の粉は払わないといけない」
ダークティラノモンから共闘することの利点を説かれると、アクィラモンと昭二郎は現状を乗り越える為には彼らと協力して天使達を撃退するのが一番生き残る可能性が高いと判断して、その申し出を受け入れる。
「ではお二方もお気をつけください。聖装を持ったあのエンジェモン達は自らがデリートされようとも聖務の執行を優先する恐るべき天の遣いです」
「わかった! 本当に助かるよ、アクィラモン」
バオハックモンはエンジェモンの蹴りを自身の爪で弾き返しながらも、敵の情報を教えてくれたアクィラモンに礼をする。そんな中右上からエンジェモンが斧による重い一撃を喰らわせようとするも……
「バオハックモン! 右上から来る!! 」
「……おっと、それじゃあ空はよろしくね! 」
「ぐぅっ!? 」
武正の警告にバク転で応え、斧を回避した後に回転の勢いを利用して鋭い刃の後脚による逆袈裟を放ち、エンジェモンの胴体へ少なからずダメージを与えることに成功。バク転時に舞う赤いマントは美しくはためいて、まるで闘牛士が闘牛を捌くような動きである。
「承知いたしました。 昭二郎様、しっかりと掴まっていてください」
「あ、ああ……わかった! 」
白竜に空を任された赤き猛禽は、恩人を守るためにも自身の体にしがみつくように促した後巨大な翼を羽ばたかせ、空を縦横無尽に飛行する。前方には破壊されたブランコから空へと飛び立つ剣を握ったエンジェモンが、アクィラモンへと剣を構えて一目散に接近してくる。
「そう何度も、上手くいくと思うな! 」
「それはこちらの……台詞です! 」
斬りかかろうと迫る天使を、アクィラモンはその大きな翼を羽ばたかせることによって起こす突風で押し戻して、その羽ばたきを利用して上空へと一気に急上昇した後、そのまま上空から急加速を開始する。目標は遅れてアクィラモンを追おうと向かってくるエンジェモンの腹部だ。
「グライドホーン! 」
「がっ!? 」
「やった! 」
上空より、勢いをつけた頭部の双角によって突撃する必殺技のグライドホーンがエンジェモンへと直撃し、エンジェモンの腹部へかなりのダメージを与えることに成功する。その見事な一撃は、必死に背中にしがみついている昭二郎も思わず歓喜の声を上げるほどだ。
エンジェモンへの一撃の後に離脱して距離を取るアクィラモンは、こと戦いにおいて冷静な判断を行えるデジモンであるということを伺わせる。武正達にとっては非常に頼りになる味方だろう。
「近づきさえすれば……この聖装で! 」
「アクィラモン、遠距離から攻撃する方法はあるかい? 」
「ええ、もうひとつ必殺技があります」
「だったら、大きな一撃を入れた後はこのまま引き撃ちでいこう! 」
追いついて自らの持つ聖装の剣による一撃を加えようとするエンジェモンだが、距離は縮まる様子はまるでない。彼が完全体や究極体であったのならば追いつけただろうが、今の彼らは共に成熟期、空を飛ぶのに特化している鳥型のアクィラモンに飛行には特化していない天使型のエンジェモンが追いつくのは難しいということだ。
彼らの空戦を見た昭二郎は、このまま引き撃ちに徹することで確実にダメージを積み重ねていくことを提案し、アクィラモンもそれに同意するように一定の距離を保ちつつ様子をうかがう。その姿はまるで狩りで獲物を狙う猛禽類そのものである。
「アクィラモン、攻撃きそうだ! 一旦急降下して射線から離れて!! 」
「承知いたしました、しっかり掴まっていてください! 」
そのままアクィラモンは飛行速度を増すとエンジェモンと距離を一定に保ちながらも、牽制として自身のもう1つの必殺技であるブラストレーザーを低出力で連射し、エンジェモンの体へと確実にダメージを積み重ねていく。
エンジェモンの業を煮やした末の攻撃に、その気配を察知した昭二郎は回避の方向を指示して一気に急降下。焦りと共に放たれたヘブンズナックルは、目標をとらえることなくそのまま空を飛び続けると、聖なるエネルギーは拡散するように消滅した。
聖なる拳を放った後の隙は今までの物と比べたらかなり大きい隙で、それを逃さずに昭二郎は眼鏡を輝かせながらアクィラモンへと指示を送る。
「こちらの攻撃が、当たらないっ……」
「隙を見せた、今だ! 最大出力でブラストレーザーを撃って!! 」
「ええ! ブラスト、レーザー!! 」
「ぐっおぉぉぉ!? 」
雷鳴のような鳴き声と共に、アクィラモンの嘴から放たれるリング状のレーザーは隙を見せたエンジェモンへと直撃、轟音が上がる。今までの牽制用とは違う太いレーザーが天使を地面へと叩き落とし、そのまま地面へと縫い付ける。
レーザーの発射が終わった後に残されたのは、天を悠々と羽ばたくアクィラモンと地面に大の字で倒れているエンジェモン……勝敗は決したようだ。
データの欠損が起こり始めている天使はこれ以上は戦えそうにない、はずだが……
「聖、務を……完遂、せねば……」
「ま、まだ戦うつもりなのか!? 」
「先程言ったとおり、彼らは自身の命すら顧みない程に主達に全てを捧げているのです。動きを止めた程度では止まってはくれません」
ボロボロの状態で直も立ち上がり、再び空へと舞い上がり戦闘を続行しようとしているエンジェモンだが……どこか様子がおかしい。データ欠損の速度が早まると同時に聖装である剣はより輝き、その容量を増していく。
「なぜ……私のデータが、聖装にっ……ああっ!? 」
「うっ……」
「聖装に、こんな性質があったとは……」
エンジェモンも疑問を持つがもう遅く、エンジェモンは聖装である剣にデータを完全に吸い取られてこの世から姿を消した。聖装と呼ばれるその剣は、ある一定の損傷を主が負うと、主を喰らってその力を吸収する呪われた魔剣のような性質を隠し持っていたらしい。
残酷な光景に昭二郎は思わず顔を逸らし、アクィラモンは聖装の隠し持っていた性質に目を丸くして驚くと同時に慄く。それほどまでに衝撃的な光景であったのだ。
その一方で、地上で戦いを繰り広げていたバオハックモンとダークティラノモン達と、エンジェモン2体の戦いも終局が近づいてきている様子だ。最初こそ天使達の連携攻撃に苦戦していたが、バオハックモン達も即興の連携を組めるようになったのが大きいようである。
「我々が汚れを持ったデジモン達相手に、ここまで苦戦するだと……」
「落ちつけ、連携を崩すな。聖装がある以上我らが有利だ! 」
「随分と余裕が無くなってきたじゃねぇか、天使サマ達よぉ! 」
槍による力強い突きを強靭な自身の爪で相殺しながら尻尾によるサマーソルトを決めるダークティラノモン、それをモロに受けたエンジェモンは上空へと飛ばされるが翼を羽ばたかせで姿勢を立て直す。
聖なる力を授かった自分達が何故汚れを持ったデジモン達にこうまで押されているのか、次第に焦りが出て来てる様子である。ダークティラノモンはそれを見て、思わず皮肉を飛ばしてしまう。
「このエンジェモン達、極端すぎるっ! 」
「汚れを持ったデジモンは、浄化するのが我らが主の慈悲! 」
「危ないバオハックモン、前に飛び込んで! すれ違いざまにバーンフレイム!! 」
斧を持ったエンジェモンへと戦いを止めて話を聞くように説くも、エンジェモンは話を聞くつもりは全くないようで斧を一気に振り下ろす。白銀の刃がバオハックモンを両断しようと迫るが……
武正は瞬時に間合いを詰めた後、すれ違いざまのカウンターを狙うように指示を出すと、白竜は地面を踏みしめていた四足によるダッシュで攻撃中のエンジェモンとすれ違い、斧による一撃を回避すると同時に無防備な背中へ向けてバオハックモンの口から巨大な火球が放たれる。
「見えた……バーンフレイム! 」
「馬鹿なっ!? 」
バーンフレイムの直撃を受けて、先程のエンジェモンと同じく上空へ吹き飛ばされるエンジェモンだが、そのまま姿勢を立て直すと2体のエンジェモンは、バオハックモンとダークティラノモンへと再度攻撃を仕掛けるようで急降下して武器を振るう。
バオハックモンとダークティラノモンはちょうど一直線上に向かい合う形で立っており、エンジェモン達は正面からそれぞれへと攻撃を仕掛けている。その姿から何かを思いついた武正は近くにいた昭二郎へ駆け寄ると耳打ちをする。話を聞いた彼はニヤリと笑うと2人はDチューナーへ何か語りかけた後にボタンを押して掲げる。
2人のDチューナーから出た赤と緑の光の帯はそれぞれのデジモンの勾玉へ吸収されていく。2体は驚いた様子だが、即座に頷くとエンジェモン達を迎え撃つためにお互い前へダッシュして距離を詰めていく。
「りょ、両腕を掴んだだと!? 」
「だが我らの両腕を掴んだところで、お前達の両腕も塞がって……まさか! 」
バオハックモンも、ダークティラノモンもエンジェモン達の両腕を掴んで動きを止め、エンジェモン達は気がつく――自分達は天使型であるが目の前の相手は竜だ。そして竜の攻撃の代名詞といえば……
気がついた時には2体の竜は各々の口の中に火炎のチャージを完了していた。両腕を掴まれた状態で放たれるであろう炎から受けるダメージを少しでも減らすために、空中でしゃがみこむ様な状態でガードを固める。
確かにそのまま放てば上半身へのダメージは抑えられ、下半身はかなりのダメージを負うだろうが、飛行が出来る以上はそこまで問題にはならない。今選べる選択肢の中では合理的なものだっただろう。そう、2体がそのまま炎を放てばの話だが……
「バーンフレイムッ! 」
「ファイアーブラストッ! 」
2体の口から放たれた火炎は、目の前の天使へではなく……お互いが拘束しているエンジェモンへと向けて放たれたのだ。当然、無防備な背中へと火球と火炎は見事に直撃する。
「やった! 」
「おっしゃぁ! 」
作戦の成功に思わずハイタッチをするほどに喜ぶ武正と広太。先程2人がDチューナーを使って送っていた指示はその時の立ち位置を利用した至極簡単な作戦である。
“そのまま一直線上で出来るだけ近づいたらエンジェモンの両腕を封じて、お互いの捕まえたエンジェモンへと炎を放て”というものだ。
ただ捕まえて火炎による必殺技を放っても防御されてしまう可能性がある……ならば背後から攻撃をしてしまえばいい。一直線上でお互いに必殺技を放つと同士打ちの危険もあったが、捕まえたエンジェモンを盾として用いることでそれを防ぐ策が見事に決まった。
「ぐぅっ……」
「ぬっ……」
バオハックモンとダークティラノモンは天使達の力が抜けたのを感じると、両腕を離してバックステップで距離を取る。片膝をついて飛ぶ余力すら残っていないエンジェモンはもう戦える状態ではないだろう。
彼らは当初の目的を果たしたために、これ以上攻撃するつもりはないという意思表示のつもりでしたようだ、しかし何があるかわからないので警戒は怠らないでいる。
「これで話、聞いてくれますか?」
「あんたらもう戦えないだろ、なら素直に聞いてもいいんじゃねぇの? 」
武正と広太はエンジェモン達へ再度言葉を駆けるが、天使達は口を歯を食い縛って再度立ちあがろうとしている。仮面で口元しか表情は伺えないが、改めて話を聞いてくれそうにはない。
「ふざける……なぁ! 」
「我らは、聖務をッ!! 」
振り絞った声と共によろよろと立ちあがると、エンジェモン達はバオハックモン達へと突進するもその速度は目に見えて遅く、白き竜と黒い恐竜は構えから迎撃の必殺技を放つ。
「フィフクロスッ! からの……ティーンブレイドォ!! 」
「いい加減にしやがれっ! ダイノキック!! 」
バオハックモンの強靭な爪と鋭い刃の足による連撃がエンジェモンの肉体へと綺麗に決まり、尾の剣による鋭い突きは聖装の斧を弾き飛ばし、そのまま宙を舞った斧とエンジェモンは地面へと倒れ伏した。
体重の乗ったダークティラノモンの蹴りも天使の体を弾き飛ばし、強く握っていた槍は手放されて持ち主と共に大地へと転がる。倒れ伏したままで起き上がろうとしないエンジェモン達は、息はしているようだがこれで本当に行動不能となったようである。
「アクィラモンの言ってたこと、本当だったね……」
「真面目過ぎる天使サマってのも困るなこっちとしては」
倒れ伏すエンジェモン達に先程のアクィラモンが言っていたことは真実だったと冷や汗を流しながらも、緊張で強張っていた体の力を抜く武正達。同調をして戦っていた影響か、体力も消耗しどこか疲れた顔だ。
「でも、これ以上は動けないはずだし話を聞いてくれるかも! 」
「バオハックモン、あんま期待しねぇ方がいいぞ」
攻撃を放った後、赤いマントをはためかせて着地をしたバオハックモンは、話す機会が出来たかもしれないと期待するが……ダークティラノモンは今の天使達の行動を見る限りは望みは薄いと見ているらしい。
暫くエンジェモン達が口が聞けるようになるまで待とうと2人と2体が決断した直後に、地面へと転がっていた聖装がガタガタと震え出す。そう、聖装の隠された性質が発動するところまでエンジェモン達はダメージを受けたといことだ。
「ぐぅっ……」
「メサイア様、万歳……」
そんなうわ言を呟きながらも、負傷した天使達のデータは緑色の奔流となってそれぞれ持っていた槍と斧へと吸収されていく。元主のデータを喰らい自らの物とした聖装は、その白銀の刀身を新品同様に輝かせている。
「何なんだよ……これ」
「これが、聖装の隠された性質だったようです」
「戦えない主のパワーを取り込んで自分自身を強化する装備なんだろうね……効率的だけど、悪趣味だ」
衝撃の光景に立ち尽くす武正達の隣にホバリングをしつつ降り立ったのはアクィラモンだ。背中に乗っていた昭二郎も地面へと足をつけると、聖装の性質を分析しながらも嫌悪の表情を浮かべている。
「んで、どうすんだこの聖装とやらは。そのままどこかに隠してもヤバそうな気がするんだが……って何だぁ!? 」
広太が聖装の処分をどうするか武正達へ聞こうとしたその時、白銀の輝きを先ほどよりも増した3本の聖装は、転がった状態から一斉に空へと浮かび上がる。
青い空に白銀の武具は、一見すると美しい光景であるが、その輝きの前に起きたことを知る彼らにとっては驚くほどに不気味な光景だ。
そして、更にその上空には空間の歪み――ディストーションが出現している。どうやら使用者がいなくなっても、自身達はカノンへと帰還できるようにギリギリの大きさのディストーションを展開できる機能も搭載されているらしい。
ということは、上手い具合に聖装を確保できれば……ディストーションを自由自在に操り目的のデジタルワールドに行けるかもしれない……アクィラモンはその可能性に気がつくと即座に飛翔し、宙へ浮かぶ聖装を確保しようと爪で持ち手を握ろうと迫る。
「アクィラモン!? 」
「これを確保して、調べることが出来ればっ! 」
突然の行動に呆気にとられる面々を尻目に、アクィラモンは剣の柄を握ることに成功する。獲物をしっかりと握る為にあるとも言える猛禽の爪は聖装をしっかりとホールドし、抜けだそうと暴れる剣を離そうともしない。
そのまま離脱して地面へと戻ろうとするも、残る槍と斧は攻撃によって剣を解放するためか、アクィラモンへと一直線へ飛んでいく。地面までは後少しだが……槍と斧もすぐそこまで来ており、アクィラモンを切り刻んで持っている剣を解放しようと迫る。
「世話が焼けるっ!ファイアーブラスト!! 」
「ナイス、ダークティラノモン! これなら……フィフクロス!! 」
アクィラモンへ迫る槍と斧へまず浴びせられたのは高熱の火炎、その次に鋭い爪と刃による連続攻撃であった。結果として、渾身の力を込めた2体のコンマ数秒の連続攻撃は、迫っていた槍と斧を完全に砕くことに成功する。
地面へクロンデジゾイド製の欠けらが散らばることで、甲高い音が公園へと響く。一方で無事に着地したアクィラモンの足にはしっかりと聖装の剣が握られており、彼の目的も無事に果たせたようだ。
「ありがとうございました、お2人とも……」
「まあ、1つ貸しにしとくぜアクィラモンよ」
「気にしないで、俺達もう仲間でしょ? 」
2体の竜のフォローに礼を述べるアクィラモンに、貸しを作っただけだから気にするなとぶっきらぼうな気遣いを見せるダークティラノモンと、もう仲間だから気にするなと微笑むバオハックモン。
どうやら短い中で命をかけた戦いを共に潜り抜けたことで、友情が僅かではあるが芽生え始めているらしい。
「何とか終わった……のか? 」
「多分ね、ほら……Dチューナーから赤い点消えてるし、円みたいフィールドも消えてるよ」
「アクィラモン、その剣はどうするんだい? 」
周辺を見回し、今破壊されてデータが散り散りになっていく聖装で今回の戦いは打ち止めなのかと警戒をする広太に、Dチューナーの画面を確認しながら武正は返事を返す。たった今画面上にあるのは青い点が3つのみ……すなわち他に敵はいないということだ。
戦いの場となった公園は、先程まで地面に抉れた穴や壊れたブランコなどがあったはずだが、現在では地面やブランコは少し傷がついたくらいで戦闘の爪痕は大きく残ってはいない.
昭二郎は、アクィラモンの持つ聖装の剣をどうするか問うた時、3人のDチューナーの画面にライトが灯り、聖装のデータをそれぞれの画面へと吸い込み始めた。危険な物であるために分割をして保存をしようとDチューナーが判断をしたようである。
「いきなりなんだと思ったら……い、いらねぇ! 」
「つまりこれって、3つに分けられて俺達のDチューナーへ入ったってことなの? 」
「そうみたいだね……分割して保存することでリスクも分散したのかな? 」
「すみません、皆様。しかし手掛かりを得る為でしたので必死になってしまい……」
苦笑いでデータを吸いこんだDチューナーを見る3人に、謝罪をする赤き猛禽。すると、その体も光へと包まれ……次の瞬間にそこに立っていたのはピヨモンだ。同じようにバオハックモンとダークティラノモンもそれぞれハックモンとベタモンへと戻っていた。
戦闘が終わって力が抜けたことで、成長期へと退化したようだ。消耗した体力を示すように、ハックモンは地面へ赤いマントを広げるように体を伏せており、ベタモンは以前の用にひっくり返っている。
「進化するとやっぱり……疲れるね」
「とにかく休ませろー、あとメシ! 」
「私は、平気ですので……」
2体がすっかり疲労しており、平気そうに振舞っているピヨモンも消耗しているのは明らかだと知った昭二郎は顎に手を当てて少し考え込んだ後に、武正と昭二郎へ顔を向ける。
「一之瀬君、えっと確か……三山君、だったよね? 彼らも、君達も疲労してるみたいだし……我が家で休んでいかないかい? 」
突然の昭二郎からの誘いに面喰う2人ではあったが、自身達も消耗していたこと、新しい情報を得られるかもしれないということも相まってその申し出を受け入れることにしたようである。
「じゃあ、これでさっきの貸しはチャラってことだな」
「色々聞きたいこともあるし、お願いするよ! おーい桃香、もう大丈夫だから出てきていいぞー」
「う、うん……」
隠れていた幼馴染を安全が確保できたということで呼び出し、ハックモンをDチューナーへと呼びこんだ後に、桃香と共に停めていた彼らの自転車へと跨る。広太と昭二郎も同様にパートナーを自らのDチューナーへ納めつつ自転車へと跨り、出発の準備は整った。
「それじゃあ、3人とも……ついて来て! 」
自身の家へと先導する昭二郎の自転車を追い、武正達3人はペダルを勢いよく漕ぎ始め、アスファルトの上を自転車はは勢いよく走っていく。
新たなデジモンとそのパートナーの出会いに彼らは胸を躍らせながら目的地まで急ぐのであった……
デジモン図鑑#4
名前 :エンジェモン
レベル:成塾期
タイプ:天使型
種別 :ワクチン
・解説
光り輝く6枚の翼を持ち、神々しい純白の衣を身に纏った天使型デジモン。
デジタルワールドにおいては善の存在とされ、幸福をもたらすデジモンと呼ばれているが、悪に対しては非常に冷徹で完全に相手が消滅するまで攻撃を止めることはない。
必殺技は黄金に輝く拳を相手に叩き込む『ヘブンズナックル』。
デジタルワールド・カノンにおけるエンジェモンは上記の性質が更に極端に現れているため、悪へと繋がる可能性のある存在に対しても容赦がない。
更に『聖装』を持つ個体は、聖なる力を増幅させる機能を持つ聖装の力を利用することで、武器からより強力な斬撃を放つ『ヘブンズアームズ』という必殺技も用いることが出来る。
名前 :アクィラモン
レベル:成塾期
タイプ:巨鳥型
種別 :フリー
・解説
頭部から巨大な1対の角を生やした巨鳥型デジモン。
“砂漠の巨鷲”とも呼ばれることがあり、マッハの速度で大空を飛びながらも遥か遠くの敵を見つけ出す眼力も持っている。
鳥系デジモンの中では珍しいとされる礼節を重んじ、忠誠を誓った主人の命令には従順に行動する。
必殺技は上空から敵へと突進して攻撃する『グライドホーン』と雷鳴のような鳴声と共に口からリング状のレーザーを発射する『ブラストレーザー』。