SynCrossnize World   作:獅子の一等星

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前回より半年以上経っていますが、何とか書けたので投稿します。
読んでくださっている方がいれば待たせてしまい本当に申し訳なく思っています。


第六話 放課後の探検

「コウエンでの爆発が気になって見回りをしていたらあれを見るとは……最近、この狭間の世界も騒がしくなってきたのう」

 

守神沼の畔に立ち、人の気配がまるでない守神町に立つ光の柱を見ているのは、白髪と白髭を蓄えて杖をついた老人――のような姿をしている。

口から出た狭間の世界という言葉と、人の気配がまるでないことから……ここはどうやらもう一つの守神町のようだ。

コウエンでの爆発というのは、おそらく武正達とエンジェモン達による公園での戦いのことで、老人にはデジモン同士が戦ったということまではわかっていない様子である。

 

「あのあちこち開くゲートのせいで歪みが酷くなっていくばかりじゃ、影響を受けたのかこの沼まで……」

 

老人は愚痴を零しながらも視線を向けると、守神沼の流出口は巨大な岩が複数重なったことで塞がれてしまっており、水が堰き止められてしまっている。

 

「いくら究極体とはいえ、この老いぼれが全て壊すのも手間がかかりそうじゃ。あの子達に手伝ってもらうにも力が足りないのう」

 

究極体、この言葉から老人はデジモンだということだが、一見すれば少し背が小さい老人だと勘違いしてしまうほどに人間に近い姿をしている。

決心したかのように、老人デジモンはついていた杖を両腕で持つと剣を構えるかのように岩へと向けて……

 

「じゃが、早くこの岩を何とかしなければ……肉畑にも影響が出てしまうしのう」

 

そう呟いて両腕で持った杖を大きく振りかぶると、そのまま大岩へと叩きつける。直後、周囲に響くのは硬い物同士がぶつかる衝撃音。

大きな岩が少しえぐれ、小さな岩へと砕かれていく。老人は杖を置くとその岩を両腕で抱えて横に除け、流出口の岩を除去しようと作業を開始した。

 

 

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一方こちらは現実世界である守神町の守神沼。そこに集まっているのは小さい人影が4つ。

武正に桃香、昭二郎、そして広太……デジモンと出会い、偶然からパートナーになった3人とその事情を知る1人である。

休みも明けた月曜日の放課後、2日前にしたもう1つの守神町の探検をするため、約束通りに集合したようだ。

 

「さて、集まったことだし……早速始めるか? 」

「その前に! あの時言ってた必要そうなものを準備するって手筈だったよね、それを確認しないかい? 」

『装備の確認は重要ですね。流石は昭二郎様』

 

武正の第一声に、昭二郎は装備の確認を提案する。確かに複数回行ったことがあるとはいえ、あくまで一時的だった未知の世界を長時間探索するとなると装備の把握は重要なことだ。

Dチューナー内で待機しているピヨモンからの賞賛の声に、眼鏡の位置を直しながら少し顔を赤くする少年は、大人びたところが多少あってもまだ子供なのだと思わせてくれる。

 

「俺はロープとかフックとか持ってきた! 」

「私は……お腹が空いた時の、食べ物や……救急箱」

『武正、何を持っていけばいいかすっごく悩んでたよねー昨日の夜』

「じゃあ、ハックモンに……意見聞いて、選んだんだ? 武ちゃん……」

「いや、そういうこと慣れてるハックモンの言うことだからさ? 」

 

幼馴染コンビが持ってきた物は意見を聞いたらそのままそれに流されたのであろうとことと、本人の優しい性格がよく出ている。

武正は桃香のジト目を冷や汗を流しながらもその理由を焦りながら説明しており、その姿はまるでヘソクリが妻にばれた夫の様である

 

『広太、俺らも出そうぜ』

「まあテキトーに選んだんだが、こいつだ! 」

「これは……ナイフと工具のセットですか」

「もう1つの守神町ってんなら機械とかもあるだろうと思ってな、役に立つかもしれねぇぞ」

『なるほど! 確かにそうですね。三山様の仰る通りです』

『んで、ピヨモン。お前達の方はどうなんだよ? 』

 

実質自分達の住む町を探索するということで広太が持参した物は思わぬところで役に立ってくれそうなだ。

得意げな顔をDチューナー内でしていたベタモンは、言いだしっぺは何を持ってきたのかと尋ねると……

 

「僕達は、守神町の詳細な地図と方位磁針に……ハンディGPSを」

『今回の目的は探索ということで、昭二郎様は地形関係に重きを置いたのです』

「GPSってのは……」

「三山君、自分の……今いる位置がわかる機械」

「へぇ、詳しいな守神。しかしそんな機械とは……さっすが金持ち」

「浅葱の物なのか? 」

「いいや、兄がもう使わないようだから借りてきたんだよ。それに、使えなかったら使えなかったでこの世界の謎を解く手がかりになる」

 

小学生には未知の機械であるハンディGPS。物珍しそうな3人に、昭二郎は何てことないと取り出したそれを再び鞄の中へと入れる。

これで装備の確認は終了し、いよいよもう1つ守神町へと突入する時間だ。

4人は向かい合って円になるように陣を組み、Dチューナーのボタンを複数回押した後にダイヤルを何回か捻っていく。

 

「それじゃあ、2人とも、頭の中に浮かんだ通りに操作すること! 桃香は俺に掴まってろ!! 」

「う、うんっ! 」

『行けそうだよ、武正! 』

『こっちもいつでも! 』

「オッケーだぜ、一之瀬! 」

「手順完了。後はバラバラにならないように……イメージするのはこの守神沼! 」

『来ますっ! 』

 

操作を終えて、目的地のイメージである守神沼を思い浮かべているところに突然の浮遊感に襲われる4人。同時に周囲へと閃光が走る。

次の瞬間……4人の姿はどこにも見当たらず、守神沼には最初から誰もいなかったかの如く静寂に包まれるのであった。

 

 

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「まだまだ先は長いのう、やはり老いぼれに重労働は酷じゃ……さて、次の破片を……うん? 」

 

大岩を少しずつ崩しながら撤去作業を行っていた老デジモンは、守神沼の上空から地面へと落ちてくる光に気が付いた。

その光は、隕石のような速度で落下してくるのではなく……まるで雪のようにゆっくりと降りてくる。

 

「おお、落ちてる!? 落ちてるのかこれ? 」

「……武ちゃん、落ちついて? 」

「つ、つーか、浮いてんか? これ……」

「お、おそらくは」

 

光の中に浮かんでいる影は4つ……つまり武正達は無事全員揃ってもう一つの守神町へと無事にたどり着けたということだ。

徐々に光が収まるにつれて、地面へとゆっくり近づいていく4人は、体験したことが無い感覚に戸惑いながらも現状の把握に努めている。

4人が無事に地面に両足をつけた頃には、光は完全に収まっており……周囲には見慣れた守神沼が広がっていた。

だが少し自分達の知る守神沼との景色には差異がある様だ。例えば、遥か上空に広がるのは青空ではなく広大な大地と海があり、逆に地面は半透明で、その下には見慣れた町が透けて見えている。

自生している植物も見慣れない物が多くあり、更に時折目に入る0と1の2進数が、ここが異界であるという説得力を4人へと与えていた。

 

『武正! 早く早く!! 』

『おい、そろそろいいだろ? 』

『何があるか分かりません、私達を外へ』

 

3人の持つそれぞれのDチューナーから聞こえてくるのは、彼らのパートナーの声だ。

片や純粋な興味、片や警戒のために自分達を外へ出すようにと要請してくる。

 

「わかったよ、ハックモン。それじゃあ浅葱に三山! 」

「まあ、しょうがねぇな……」

「こちらは準備できているよ! 」

「「「リアライズ! 」」」

 

その言葉と共にDチューナーの画面から閃光が走り、次の瞬間にはハックモン達はもう一つの守神町へと無事に実体化を完了させた。

 

「へー、ここがもう一つの守神町? この感じ……ベタモン、ピヨモン! 」

「出て来て早々、ある意味大当たりってか? 」

「あそこにいます! 」

 

降り立った3体は、周辺を見回すと険しい顔つきになり戦闘態勢へと入る。武正達は何事かと疑問符を浮かべている中ピヨモンが指示した方向には……

 

「これはこれは、驚いたのう……」

大きな岩を片づけている最中の老デジモンが、驚きの声を出しつつ武正達へと視線を向けている。

 

「ハックモン、あれも……デジモン、なの?」

「うん。ジジモンっていってそんなに暴れん坊じゃないはずなんだけど……」

「お、また出てきた! ジジモン、究極体でエンシェント型、ワクチン種――って究極体!? 」

「必殺技はハング・オン・デス。ピヨモン、究極体というと成熟期の2つ上のレベルの? 」

「ええ、デジモンの一般的な頂点のレベルです」

 

Dチューナーに表示される老デジモン、ジジモンのデータに驚愕する子供達。

先程何とかして退けたエンジェモン達や、進化した自分達よりも更に2つ上のレベルのデジモンが今至近距離で目の前にいる。

これで攻撃を仕掛けられたら3対1であっても勝ち目は薄い。ハックモンの言葉の通りの性質のままであればいいが、油断はできない状況だ。

 

「さーて、どうするよ? 元気な挨拶からやってみるか? 」

「挨拶か……ケンカ売ってくるなら即買うぜ! 」

「ベタモン、落ちつけって!? 」

「一先ず、話して……みようよ? 」

 

冷や汗を流しながらもふだんの調子を崩さないようにする広太に、物騒なことを口走るベタモン。

武正はその言葉に慌ててベタモンを落ち着かせるように目の前に回り込み説得を始める。

比較的冷静さを保っている桃香が、同じく冷静さを取り戻した昭二郎が口を開いてファーストコンタクトを開始しようとした時……

 

「おぬしら、手は空いとるかの? 」

「私達に、敵意はありませんっ! ……えっ? 」

「この大岩のおかげで水が住んでいる所まで届かなくてのう、人手が足りない困っておったのじゃ」

「は、はぁ? 」

 

ジジモンは目の前の大岩を撤去する手伝いを彼らに求めてきたのだ。

いきなりのお願いに思わず面喰ってしまう一同であったが、戦闘となることはなさそうである。

 

「武正、手伝おう! 困ってるみたいだし!! 」

「本当に決断が早いですね、ハックモン」

「だってピヨモン、目の前で困ってるデジモンがいるんだよ? 」

「お人よし過ぎんぞ、お前」

 

即断即決のハックモンはもういつものことで、その即決具合に呆れ半分のピヨモンと、お人よし過ぎると半笑いのベタモンは止める様子も無い。

短い付き合いだが2体はこの未来の聖騎士を目指す若き白竜は、困った人やデジモンは見過ごせない。そういう奴なのであるということを理解している様子だ。

 

「ま、まあ戦いにならないならいい……よな? 」

「うん、そう……だね」

「えへへ、流石武正! 」

「ピヨモン、ここはジジモンのお手伝いをしよう」

「同時に情報収集も、ということですね? 」

「温厚そうなデジモンだから、できる限り情報を集めたい」

 

一時は初っ端から絶望的な状況も覚悟した一行は、それが回避できるならと手伝う方向で話は進み、武正とハックモン、桃香は大岩へと近付いていく。

そしてピヨモンと昭二郎は、小声で情報を集めることももう一つの目的として共有し、先に行った彼らへと続き大岩へと向かう。

 

「おお、すまんのう! 本当に人手が足りなくて……」

「礼なら、あの馬鹿正直な赤マントに言ってくれや。俺達は単なる付き合いさ」

「手っ取り早く片付けるなら……いけるか? やってみんぞベタモン!」

「何を……って進化か! それなら確かに楽になんな、いっちょ試してみるか? 」

 

ジジモンのすぐ横で撤去作業に加わるベタモンと広太は、進化を行えば作業効率が上がるのではないかと考え付くと、早速Dチューナーを取りだして画面を確認。

画面に表示されるシンクロ率は53.2%――成熟期への進化可能な数字である50%を無事に超えていた。そのままDチューナーを頭上へと掲げて……

 

「一之瀬、浅葱! 進化して一気にこの岩片付けんぞ!! 」

「え、いきなり!? ああもう、ハックモン! 」

「確かに三山君の言うことにも一理あるね、ピヨモン! 」

 

3人がDチューナーを自分のパートナーへと向けてからチューニングを行うと、画面から眩い光がデジモン達へと注がれていき……

その光によって彼らは成長期から成熟期へと一時的に進化を果たす。

 

「ハックモン、進化ッ――バオハックモン! 」

「ベタモン、進化ァ――ダークティラノモン! 」

「ピヨモン、進化――アクィラモン! 」

 

Dチューナーからの光が収まり、先程までハックモン達がいた場所に立つのは進化を果たした3体の成熟期デジモン達。

その姿は成熟期の名にふさわしく逞しい物であり、作業効率もこれで一気に上がることだろう。

 

「これはこれは、能動的な進化を見たのは初めてじゃ! 長生きはするもんじゃのう」

「俺達もまだ全然わかってないけど、これで早く終わらせて色々話を聞かせてよ。ジジモン! 」

「ええとも。それじゃあよろしく頼むの、皆の衆」

 

ジジモンの掛け声に各人は返事を返して、デジモン達は大岩、子供達は岩の欠片の片づけを開始した。

 

 

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「これで、最後っ! フィフクロスッ!! 」

「流石はバオハックモン、見事に岩が分断されていますね」

「アクィラモン、お前上から持ちあげてくんねぇか? 俺は下から持つ」

「ええ、そのままあの場所へと持って行きましょう」

 

彼らが共に作業を開始してから1時間が過ぎた頃、順調に撤去作業は進んで残す大岩は後一つだ。

バオハックモンの爪と刃の五連撃が、残っている最後の大岩を見事に分断されて欠片となる。

大きめの欠片を空からアクィラモンが掴み、それを支えるようにダークティラノモンの逞しい腕が下から支えて運んでいく。

「あー、終わった! 」

「お疲れ、さま……」

 

一仕事終えた解放感に包まれ、武正は大きく体を伸ばし、桃香は額の汗をハンカチで拭う。

 

「ま、こんなもんだろ」

「進化できたおかげで早く済んでよかったよ」

 

昭二郎と広太は手の汚れを沼から汲んだ水で落としている。

 

「本当に世話になったのう、これで水もワシらの住処まで届くぞい! 」

 

ジジモンは感謝の言葉と共に、武正達へと頭を下げてお礼の言葉を述べた。

その言葉に込められた思いはかなりのもののようで、言われた方が思わずたじろいでしまうほどだ。

 

「気にしないでって、俺はしたくてしたことだし! 」

「まあ、俺もお人好しの勢いに押されただけだからな」

 

その言葉にあっけらかんと笑い返すハックモンに、やれやれ顔のベタモン。どうやら丁度エネルギーを使い果たして退化したらしい。

 

「それで、ジジモン殿……少しこの世界のことでお聞きしたいことがありまして」

 

ピヨモンが本題を切り出そうとしたところ、ジジモンは右手の人差し指を上げると……

 

「話してもいいが、わしらの住処へ無事に水が届いているか知りたいんじゃが……そこで話すということでいいかの? 」

 

自身の住処が気になるし、話すにしてもゆっくりとできる場所へ場所を移そうと武正たちへと提案してきたのだ。

 

「賛成! もうクタクタだよ俺……」

「武ちゃん、もうっ……」

「どうするよ、浅葱? オレはついて行ってもいいと思うが」

「落ち着ける場所でじっくりとお話を聞けるのならばありがたいし、お言葉に甘えようか」

 

現代っ子の彼らも、慣れない岩運びの肉体労働は堪えたらしく、疲れが伺える。

ジジモンはその言葉を聞くや、先頭となって守神沼に通じている道への1つへと歩き出していく。どうやらジジモンの住処へと案内してもらえるようだ。

時刻は丁度お昼頃、天気は快晴で心地がいい陽気の中を彼らはジジモンを追って進み始めた。

 

「お礼に、着いたら肉畑の肉を御馳走するわい」

「肉!? やったっ! 俺丁度お腹減ってたんだ! 」

「同じく、動いた後は腹減るしな。そしてその後に食う肉は美味い」

「ハックモン、ベタモン……」

 

御馳走になる気満々で歩いているハックモンとベタモンを遠慮というものを知らないのかという目で見るピヨモンだが、次の瞬間鳴り響いたのは大きな腹の虫。

発生源は……ピヨモンだった。何だかんだ言いつつも、進化をして労働していた彼も空腹となっていたらしい。

 

「ピヨモン、我慢は毒だよ? 」

「優等生も腹は減るってことだな」

「……くっ」

 

ハックモンの気遣う言葉はとにかく、ベタモンの揶揄するような言葉にピヨモンは俯きながらも赤面。

そんなパートナーたちのコントのような光景を横目見つつ、笑みを漏らしている子供たちは、ジジモンの話の中で気になった単語について雑談している。

 

「そう、いえば……肉畑って、何なの、かな? 」

「そりゃ文字通り、肉の畑なんじゃねーか? 」

「いやいやいや、肉は畑じゃ育たないだろ!? 」

「え? 育つよ? 」

「マジで!? 」

 

肉畑とはどんなものかという予想をする中で、ハックモンの答えに思わず目を見開き驚く武正。

それもしょうがないだろう。人間の持つ一般常識では、肉は畑では育たないのだから。

しかし、デジタルワールドでは肉は畑で育つのだという。衝撃の事実に武正は思わず大声を出してしまった。

 

 

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「ほれ、ここがわしら自慢の肉畑じゃよ」

「すっげー! 本当に肉が畑で出来てる!? 」

「しかも、この……場所って……」

 

目の前に広がるのは一面の畑、そしてその土の中から生えているのは大きな骨付き肉……普通ならあり得ない光景である。

そして桃香は畑のある場所に見覚えがある、というより彼女の家である守神神社へと続く参道の脇にその畑は作られていた。

 

「どうじゃ? 凄いじゃろ! 」

「ええ、凄いですね。しかしこれほどの畑を、1人で? 」

「いいや、他にもここに住んでおる子たちがおってな。その子達も手伝ってくれたんじゃ」

「住んでいる子……それってやっぱベタモンとかみてーなデジモンか? 」

「その通り。ほれ、広場まで行けば……」

 

立派な規模の畑を横目に見ながらも一行はさらに歩を進めていく。

少し長い参道を登りきると、そこは守神神社の境内だ。

そこへ辿り着いたジジモンと彼らを出迎えたのは、元気な声だった。

 

「ジジモンのじっちゃんおかえりー! 」

「水ちゃんと来るようになったぜー! 」

「そうかそうか! ただいま、パタモンにゴブリモン」

 

カラフルな饅頭のようなデジモンたちの先頭に立ってジジモンを迎えるのは、パタモンとゴブリモン……共にハックモンたちと同じく成長期のデジモンである。

2体はジジモンの後ろにいる武正たちに目を向けると警戒しているかのように目を細めると……

 

「じっちゃん、そいつらは? 」

「ああ、わしの手伝いをしてくれた子達じゃよ」

「ど、どうも! 一之瀬武正です」

「じーっ! 」

「俺はハックモン! 」

 

ゴブリモンとパタモンは緊張しながら自己紹介をする武正と、普段通りの明るさで自己紹介するハックモンを疑いの眼差しを向けている。

まだ若いデジモンである彼らにとっては、人間という存在に関する知識は無いからだろう。知らないということはそのまま恐怖にも直結するためだ。

そんな二人にジジモンは笑みを浮かべると2体の緊張を解すかのように頭を撫でる。

 

「この子達は悪い者ではないよ。このわしが保証する」

「でもじっちゃん、デジモン達ならともかく……」

「私達を信じてもらえるのならば、昭二郎様達も信じてはくださいませんか? 」

「僕からもお願いします。あなた達に危害を加えるようなことはしません」

 

ジジモンからの擁護に対し、なおも二人は食い下がる。それほどまでにデジモンとは違う存在に警戒をしている証拠だ。

しかし、続くピヨモンと昭二郎の真摯な思いを込めた説得が続いた結果、2体にその思いが通じた様子。渋々ではあるが、納得はしてくれたらしい。

 

「さて、パタモンにゴブリモンは他の子達の面倒を見てあげておくれ」

「いいけど、じっちゃんは? 」

「彼らと少し話をする約束だったんじゃよ」

「わかった。何かあったらすぐに呼んでね! 」

「そんなに心配せんでも大丈夫じゃよ……」

 

2体からの心配の言葉に苦笑しながらも、他の幼年期デジモン達の相手へ戻る彼らを見送ったジジモンは、境内に作られた手作りの家を杖で示す。

 

「それでは、あそこで本題について話そうかの? 」

「これで本題に入れるってわけだ? 」

「え? 言ってた肉は? 」

「お話が、終わって、から……ね? ベタモン」

 

桃香はベタモンを諫めつつ、全員でジジモンが示した家へと歩を進めていく。

手作りだが、しっかりとした造りの家は人間には少し小さめのサイズで全員で入るには少し窮屈であることが判明。

そこで、急遽ジジモンは家の中にある椅子を外に出して照明代わりに使われている松明を囲むように配置をしてくれたのだ。

案内された武正たちは、そこへと座って着席したジジモンへと視線を向ける。

ジジモンへと注がれる熱い視線には、この世界の情報を多少なりとも得ることができると子供とデジモン達の期待が存分に込められていた。

 

「いやー、すまんの! 人間を迎えるのは初めてなものじゃから」

「いえいえ、お気になさらずジジモン殿」

「お話が聴けるのならば場所は些細な問題ですよ、それよりも早速始めましょう」

 

謝るジジモンを手で制しながらも、昭二郎とピヨモンが中心となってジジモンへの質問会は開始。

子供とデジモン達によるマシンガンのような質問が一気に老デジモンへ向けて放たれ、その勢いは1時間も続いた結果……

 

 

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「で……では、ここまでの質問とその回答を纏めると……こんな感じでしょうか? 」

 

昭二郎がこれまでの質問の答えをノートに書き連ね、それを纏め終わったようでメガネの位置を指で直す。

あまりの質問の多さに手が腱鞘炎になる寸前だったようで、その表情には若干の疲れが浮かんでいる。

 

「ジジモンが最初にデジタルワールド・イリアスで謎の穴に吸い込まれて、気が付いたらこの世界に倒れていた……」

「ここにいる他の幼年期のデジモン達も、暫くして各所に光の柱ができた直後にその付近で助けたんだな! 」

「光の柱が、ここへ飛ばされたのと何か関係……していると思って、調べてみても、わかることは、ほとんどなくて……」

「生活の為に拠点を作ってそれが安定し始めたと思った時に来たのがオレらだったと」

 

子供達は纏めた内容を再度繰り返し音読することで自身達の頭の中へと刻み込む。物事を覚えるには有効な手段だ。

 

「あ、そうだジジモン! ガンクゥモンやシスタモンってデジモンに会ったことない? 」

「お前が探してるお師匠サマや仲間とやらか? 」

「うん! イリアスの方なら俺みたいに飛ばされてる可能性が高いかもって……勘だけどさ! 」

 

その間にハックモンは自身の師匠と仲間達についてジジモンへと聞いてみることにする。

聞かれたジジモンは腕を組み、少し考え込む仕草の後、何か思いついたかのように手を叩いた。

 

「ガンクゥモンにシスタモンか……おお、そうじゃそうじゃ! そういえばそんな名前のデジモン達と飛ばされる直前に会ったのう! 」

「えっ、ホント!? 」

「やったな、ハックモン! 」

 

言葉を聞くな否や、ハックモンは目を輝かせて思わずジジモンへと詰め寄ってしまう。

友達が望んでいた情報を得られて自身も嬉しくなる武正だが、ハックモンが詰め寄るのを抑えていた。

 

「それ、なら……ハックモンの師匠さん達……イリアスの方に、いる? 」

「ハックモンが守神町に飛ばされたように、ガンクゥモン達はイリアスの方へ飛ばされたってことか……」

「まあ、よかったじゃねーか、師匠さん達が無事で」

「絶対大丈夫だって信じてたけど、それでも嬉しい! 」

 

師匠達の無事が余程嬉しかったらしく、ハックモンは広太の言葉に勢いよく頷きながらも、更に尻尾はちぎれんばかりに左右に揺れている。

それを見る一同には、今この時だけ……勇ましき小竜は可愛らしい子犬のように見えた。

 

「すると、ハックモンの目的もピヨモンと同じになったということでしょうか? 」

「そのお師匠サマと仲間たちとやらがイリアスにいるのなら、そっちへ行って探さないといけないから……そうなるんじゃねーの? 」

「ハックモン、是非力を貸して頂きたく……」

 

確かに、ガンクゥモン達へと合流するためにはイリアスへ行かなければならない。そしてそれはピヨモンの目的とも一致している。

ピヨモンの真摯な協力依頼に対してハックモンは、 ここまでの行動から予想出来る通りの返事、すなわち……

 

「いいよ、ピヨモン! 一緒にイリアスへ行けるように頑張ろう!! 」

「「「「やっぱり決めるの早っ!? 」」」

 

笑顔と共に放たれたその勢いのいい返事に、昭二郎とピヨモン以外の一同は思わずツッコんでしまう。

一方の昭二郎はというと、一同の元気の良さに笑うジジモンへと顔を向けると……

 

「ジジモン、少しお願いがあるのですが……」

「ほっほっほっ、なんじゃ? 」

「この世界の探索の拠点に、ここを使わせていただいてもよろしいですか? 」

「おお、構わんよ。助けてくれた恩もあるしのぅ」

 

こちらもハックモンに勝るとも劣らない高速返事、予想外の反応で呆気にとられた昭二郎はポツリと一言。

 

「こ、こっちも決めるのが早い……」

 

 

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「じゃあ、お世話になりました! 」

「お世話に、なりました……」

「また来るね、ジジモン! 」

「うむ、まっておるぞい! 」

 

情報を聞き終え、整理した後に食事を御馳走になり、幼年期デジモン達と遊んだ一行は帰り支度を整えていた。

ジジモンと向かい合い、別れの挨拶をする武正と桃香、再会の約束をするハックモン。

その顔は、師匠達の場所を知れたためかいつも以上に晴れやかだ。

お互いにいい笑顔で握手をして再会を約束し合っている。

 

「あー、疲れた……広太、背負え! 」

「オレもあいつらに付き合わされて疲れてんだよ……」

「コウター! ベタモーン! ありがとー!! 」

「またあそぼうねー! 」

「あそぼーねー! 」

 

広太とベタモンははあの後幼年期や成長期デジモン達に懐かれて遊び相手にされたらしく、疲労感が強い。

共に遊んでいた幼年期デジモン達は、また遊ぼうとピョンピョン跳ねながらお礼を言っている。

 

「まあ、オレは気が向いたらな……」

「同じく、それまでにもう少し鬼ごっこで歯応えがある位になっとけよ? 」

 

そう返事をする広太とベタモンの顔は疲労感の中にも微笑みが浮かんでいる。

まったくもって素直ではない1人と1体だ。

 

「ふぅ……拠点は確保できたのは幸いだった」

「ええ、流石です。昭二郎様! 」

「な、なあ! 」

 

その隣で拠点を作る交渉が上手くいき、ホッと胸を撫で下ろしているのは昭二郎とそれを賞賛するピヨモンである。

2人で話しているところに声がかけられ、1人と1体がその方向へ顔を向けるとそこにいたのはパタモンとゴブリモンだ。

何かを言いたいようだが体を揺らして少しモジモジしている。

 

「僕に何か用ですか? 」

「あの、また色々教えて欲しいんだ! 」

「勉強とか、人間の世界のこととか色々……」

 

突然のお願いに虚を突かれて目をぱちくりさせる昭二郎。眼鏡も少しずれている。

2体にとっては、作業の合間に教えた内容が初めて知ることだらけで大変興味深いものであった様子だ。

 

「ええ、いいですよ。僕で良ければ喜んで」

「あ、ありがとうっ! 」

「それと、さっきは色々言って……悪かった」

「お気になさらず。あなた達の対応は当然のものでしたよ」

 

眼鏡の位置を直し、自然な微笑みを浮かべた彼はパタモンとゴブリモンへと快諾の返事を返す。

一見クールなように見えても、まだまだ年相応なところがこの少年にもあるということだろうか。

ピヨモンもお礼と謝罪に対して気にすることはないと2体へ言葉をかけている。

 

「じゃあ、桃香は俺に掴まって……デジモン達はDチューナーの中へ! 」

「う、ん……武ちゃん」

「オッケーだよ! 武正!! 」

「あいよ、ちょっと窮屈な思いをしますかね」

「後は先ほどの通りに、ですね」

 

武正の掛け声とともに、3人が持つDチューナーは光を放ちデジモン達をその中へと格納。

一方桃香は武正の左手をしっかりと両手で握って離れないようにした。

 

「行きと同じように操作をして、頭の中で守神町をイメージすれば……」

「元いた場所へ戻れるってこったな! 」

 

頭の中に浮かぶ操作法の通りに動かせば、行きの時のように周囲へと閃光が走る。

その直後……ジジモン達の前にはもう子供たちの姿は影も形もない。

 

「人間の子供達というのは、面白い子達じゃったのぉ……」

「また来た時にびっくりさせるために、もっと肉畑広げようよじっちゃん! 」

「ショージローから聞いた食べられる植物とかも育ててみるのもいいかもしれないぜ? 」

「そうじゃのう……明日から手伝ってくれるか? パタモン、ゴブリモン」

「「もちろん!! 」」

 

見送りを終えて朗らかに笑うジジモン達は、明日からの予定を和気藹々と話しながら自身の住処へと戻っていくのであった。

 

 

 

                ・

                ・

                ・

 

 

「いやーまさか時間の流れまで違うとは……」

「2時間くらい……いたと思ったら、こっちでは30分しか、過ぎてなかった、ね……」

「ちょっとした逆浦島太郎にでもなった気分だぜ」

「このことも分かったのは大きな収穫でした」

 

自転車を引いて守神沼からの道を下りながら雑談をしている子供達、どうやら無事に現実の世界へと戻って来ることができたようだ。

道中の話題は、持ち込んだ時計とDチューナーの時計機能のズレを偶然発見し、あの狭間の世界での2時間はこちらの世界では30分程になるというのが発覚したこと。

広太の言う通り、まさしく逆浦島太郎状態とでも言うべきだろうか……

 

『俺達もびっくりだよ! 』

『ええ、興味深いですね……』

『Zzz……』

 

Dチューナーの中に入っているハックモンとピヨモンも初めて知る事実だったらしい。

そしてベタモンは疲れからかDチューナーの中で熟睡に入ってしまった様である。

そのまま雑談を続けながら歩いて舗装された道へと出たところで、広太がふと道の端の水路に目を向けると……

少し前は底を少し覆うだけの水しか流れていなかったが、今はたっぷりと沼からの綺麗な水が流れている。

 

「あれ? 」

『どうかしたの、広太? 』

「いや……前までは干乾びそうだったのに水が今はたっぷりだと思ってな」

「あと少ししたら田植えが近いし、沼から流れ出る水の量を増やしたんじゃないか? 」

「いや、一般的に言われている田植えの時期はもう少し後だ。4月上旬の今は少し早いよ、一之瀬君」

 

ハックモンが詳しい話を聞き、武正はふと頭に思い浮かんだ可能性を示すも、昭二郎がまだ田植えには時期尚早であると指摘する。

それを聞いていた桃香は、何か思い出したことがあるようで……

 

「そう、いえば……お祖父ちゃんが、沼の水の出が……何故か、悪くなって、るって……」

「あ! 俺も家の店に桃香と一緒に来てた守神の爺ちゃんから聞いたかも」

『沼の水の出がこちらでも悪くなっていたということは……向こう側で岩が沼の流出口を塞いでいた影響がこちらにも? 』

「そうか、向こう側での出来事がこちらにも影響が出るのならば、それが一番納得がいく……」

 

2人がつい最近桃香の祖父から聞いたことと、向こうでの世界で経験してきたばかりの出来事を合わせて考えた昭二郎は納得の表情を浮かべた。

すなわち、向こう側の守神沼が岩によって水の出が悪くなった結果、現実世界の方にも影響が出て水路が干上がったということである。

それを聞きながら自転車を引き、顔を下に向けて何かを考えていた広太は顔を上げて武正たちを見た。その表情には悪戯っ子のような企みが浮かんでいる。

 

「なあ、こっちで起こってる変なこと……探してみねぇか? 」

『いきなりどうしたのですか、広太様』

「それも向こうで何か起こってて、その影響がこっちに出てるかもしれねぇだろ? なら調べて正体掴むのも面白そうだなーってさ」

『何か起こってる問題があったら、皆で解決すれば皆とっても喜ぶね! 』

「問題が起きている場所を調査してみれば、ピヨモンの目的に繋がる手がかりも入手しやすいかもしれない。いいアイデアだよ、三山君」

『あの柱を調べる他にも、できることが増えるわけですね』

 

広太からのおそらく暇つぶしを兼ねた提案は、ハックモンや昭二郎たちには好評なようで少し得意気な表情の広太である。

 

『じゃあさ! 調査チームの作戦会議したい! 武正の部屋使おうよ!! 』

「えっ!? いきなり何を……」

『思い立ったらすぐに動けって、師匠も言ってたからさ! いいでしょ? 』

「……わかった、確かにハックモンの師匠と仲間たちを見つけるのにも必要かもしれないことだし……家でまた話し合おうか! ついて来て!! 」

 

武正はハックモンからのお願いに流され、チーム結成の作戦会議に自身の部屋を提供することを決めた武正は、ヘルメットを被り自転車に跨る。

それを見た昭二郎と広太も同様にヘルメットを被って自転車で武正の後を追い始めた。

 

「武ちゃん、大丈夫……かな? もう少し、自分を、出しても……いいのに」

 

流されやすく自分の意見をあまり出さない幼馴染の心配をしつつ、桃香も武正の家に向かうため用意を済ませて漕ぎ出していく。

ある春の日の夕方、1つのチームが守神町に誕生し、これからこの街に襲い来る危機と戦っていくこととなる。

そんな未来を感じさせないほど、彼らの町の春の夕方は穏やかな風景であった。

 




#デジモン図鑑6

名前 :ジジモン
レベル:究極体
タイプ:エンシェント型
種別 :ワクチン
・解説
デジタルワールドができた時代より存在すると言われ、デジタルワールドのことなら何でも知っているという長老のようなデジモン。
世界が危機に陥った時に選ばれし人間を導くとされているようだが、武正たちとの出会いは果たして偶然か運命か。
かなりのパワーを秘めてるが、滅多なことでは全力を出さない。必殺技は、愛用の杖で悪の心を持つ者を死の国へと送ってしまう『ハング・オン・デス』

名前 :ゴブリモン
レベル:成長期
タイプ:鬼人型
種別 :ウィルス
・解説
悪さが大好きな困った小鬼の姿をしたデジモンだが、ジジモンの元にいる彼は大きな悪戯は好まない。
知能だけは他の成長期デジモンよりは少し高く、学習意欲も高いようだ。
必殺技はマッハの速度で火の玉を相手に投げつける『ゴブリストライク』

名前 :パタモン
レベル:成長期
タイプ:哺乳類型
種別 :データ
・解説
大きな耳が特徴的な哺乳類型デジモンで、その羽を使って空を飛べる。
しかし、1km/hのスピードしか出ないため、走った方が速いと周囲からは言われている。
とても素直な性格で教えたことは良く守る真面目なデジモンだ。
必殺技は空気を吸い込み空気弾を放つ『エアショット』と羽となった耳で敵を叩く『ハネビンタ』

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