この話は言わば蛇足なので、前話を見てからでないとよく分からんと思います。
ので、先に前話を見ることを強くオススメします。
『あっくんとくるみちゃん』
『物語のはじまり』
「くるみちゃん?今、プライベートな話はいい?」
「ん?ちょっと待って……大丈夫だけど、どうしたの魔王さま?」
「いや、前に例のライブイベントの話があっただろう?その商品の中に、天魔機忍Tシャツを作りたいという声があってな。許可を貰いたいそうだ」
「ふーん。いいけど、どんな風になるのか不安なんだけど」
「あーそれなんだが、デザインの案がいくつかあってな。他の三人は我輩が決めていいと言ってくれたのだが、中々決まらなくて。よかったら会って相談に乗ってもらえないか?」
「いいよ、いつ頃にする?」
「本当か!?そうだな。––––––」
後日。
『魔王さま、どこにいんの?』
『分からん。とりあえず近くの噴水にいる』
『……なんの服を着てる?』
『白のTシャツにジーンズだ』
「どう見ても不審者だろうが」
「あ"ー!?!?な、え、誰ですか!?」
「こっちの台詞だよ魔王さま」
「え?くるみちゃん?」
「リアルで初対面なのは分かるけどさ。その帽子とグラサンとマスクはなんなの?」
「身バレ防止だぞ」
「怪し過ぎて逆に捕まるわ。というか、僕たちが隠すべきは外見じゃなくて声でしょ」
「あ、そうじゃん」
「気付かなかったのかよ。……まったく、そんなのさっさと取って……!」
「ちょ、ちょっと待って!!自分でやるから!!」
「……」
「ん?……くるみちゃん?どうかした?」
「……え?あ、うん。なんでもない」
「?」
(意外と顔が整っててびっくりした……!)
この後、あっくんは相談のお礼として、くるみちゃんにライブのチケットを渡した。
『大魔王のワガママ』
「–––––以上が、全体的な本番の流れとなります。皆さん、よろしくお願いします」
(うーむ。以前から、何かとくるみちゃんにはお世話になっているし、なにか、なにかをしてあげたいのだが……!ぜんっぜん思い浮かばん……!)
「次に、––––––」
(何かないかな、何か……!)
「–––––殿、魔王殿!」
「はっ!?な、なんだい忍者くん!?」
「話を聞いてたでござるか?今から、グループでのライブ企画についての時間になったでござるよ」
「ボーっとしてた、ですか?あっくんさん」
「ニーツさん、忍者殿、今は言葉を変えなくてもいいんですよ?」
「癖、ですね」
「職業病にござる、失敬」
「すまない、考え事をしていたら、どこかへ飛んで行ってしまったようだ」
「気をつけて下さい、ね」
「では、どうしますか?ゲームなら大きなモニターを使える上に、ある程度の機材なら貸し出ししてくれるそうですよ」
「歌を歌うなら、歌い手さんもビックリのセッティングをしてくれるそうでござるよ。悩みどころでござるなぁ」
「他の企画も、具体的な案があれば積極的に用意してくれるそうです。太っ腹です、ね」
(歌……?歌い手……?くるみちゃんと言えば……)
「……ああっ!!」
「わ"ぁっ、ビックリした……!」
「どうしたんでござるか魔王殿!?」
「そうだ、これなら!」
「『これなら』……?なんです?」
「え?……あ、いや、すまない。さっきから考えていたことでいい案が出ただけなんだ。でもなぁ……」
「……またくるみちゃんでござるか?」
「へぇっ!?忍者くん、どうしてそれを!?」
「当たったでござるよー」
「わー、さすが忍者殿ー」
「あっくんも、相変わらず、ですねー」
「あー、茶化さないでくれ!悪かったから!」
「とりあえず、その話はあとに。今は企画を頼むでござるよ」
「わかった。今回なんだが、いくつかやりたい事をこの紙に–––––」
「–––––––という方向性で天魔機忍verGは行こうと考えています。あと、りあちゃるのように我輩とゴリラくんは着ぐるみか何かで出ることが出来ればと思っています」
「分かりました。出来る限り要望に応えようと思います。……これで皆さんの企画はひと段落しましたね?最後に、次の打ち合わせの日程をお知らせして解散とします。他に何かありますか?」
「あっ……、えっと」
「……」
「それでは「失礼するっ!」……どうしました、乾さん?」
「に、忍者くん……?」
「あっくん大魔王殿がちょっとしたサプライズを考えたい、と言っていたのでござるが、提案の為にもう少し時間をもらってもいいでござるか?」
「ちょ、忍者くん!?」
「どうせなら、言ってみるだけ言ってみるでござるよ。案外、協力してくれるかもしれないでござるよ?」
「皆さんは……大丈夫そうですね。あっくんさん、詳細を聞いても?」
「あの、えっと、そのー……」
「魔王殿っ。たまには、やりたい事を押し付けて見てはどうでござるか?」
「えっ?」
「なんたって、魔王殿でござろう?ちょっとやそっとの無茶では驚かないでござるよ」
「……」
「拙者達は、いや、僕らは『天魔機忍verG』ですから。仲間はずれは寂しいでしょうし」
「……くるみちゃんに、サプライズが、したい。皆さん!ほんの少しだけ、手伝ってもらえませんか!?」
『ときのそらにぜったい天使』
「せっかくのサプライズだが、どうやってくるみちゃんに接触しよう……?」
「何処かへ行っても分かるように、見張ってもらうとかですかね?」
「ゴリラくん、それはストーカーにはならないか?」
「サプライズかぁ、いいなぁ……」
「だね。くるみちゃんが愛されてるって事が伝わってくるよ」
「ねぇ、Aちゃん。くるみちゃんがいなくなっちゃったことは知ってるんだけど、あっくんとはどんな関係だったの?」
「そらは知らないんだっけ?」
「その頃はまだ自分の事で一杯一杯だったから……」
「確か、くるみちゃんがあっくんを誘ってコラボしたのが発端で……」
「あっくん!!応援してるから!!私に出来る事ならなんでも言ってよ!!」
「え"え"っ!?急にどうしたのそらちゃん!?」
(あっ、そらのお節介が始まった)
この後、ときのそらからそらとも応援団にお願いが届き、当日に水色の法被がくるみちゃんの周りをうろつきはじめる。
『本番当日』
「「「くるみちゃんの方を見過ぎ」」」
「すいませんでした……」
「あからさま過ぎでござろう……」
『これぞニーツちゃん』
サプライズ用の準備完了後。
「魔王殿とくるみ殿は何処まで行ったでござるかー?」
「口コミ(そらとも)によると、こっちの方にいるみたいですね」
「どこ、でしょうか」
「「「あっ……」」」
「いい雰囲気ですね」
「ニーツ殿が一目散に向かって行ったのでござるが……」
「ニーツさんの気持ちはわかります」
「拙者も分かるでござるが……」
『ライブ後の打ち上げ』
「あ"ー……終わったなぁ」
「そうだね。……打ち上げでもやる?」
「いいな!みんなもどうだ!」
「拙者達はVtuber合同の打ち上げに参加しに行くでござるが、御二方は折角なので、二人で水入らずで行った方がいいでござるよ」
「そうですね。せっかくの機会です、し」
「我々の事は気にせずに」
「わかった。みんな、今日はありがとう。また明日!」
「言葉に甘えさせてもらうね。じゃあね!」
「正直、行きたい気持ちもありました、けど」
「そうですねぇ」
「あれは、怖いでござるなぁ」
『忍者くんへ
あなたに、先ほどのライブの休憩時間中にエロ本等の取引を秘密裏に行った疑いがあります。
ので、この後打ち上げに参加し、弁明を行なってください。
ミライアカリより
追伸
ゴリラさんにも忍者くんとの共謀の疑いがあります。
ニーツさんは別件でセクハラの疑いがあります。
忍者くんと一緒に出頭してください』
『ここからが本編』
今日は疲れた。この一言に尽きるだろう。
今はあっくん大魔王としてではなく。一人のしがない一般人としてゆっくりしたいところである。
でも、どうせなら。
もう少しだけ遊んでしまってもいいだろう。
「くるみちゃん、今日はありがとう」
「なんであんたから礼を言うんだよ。私が言う側なんだけど」
「そういえば、そうだったな。でも、俺も楽しかったんだ」
「……」
やや暗めの夜道を二人で歩く。歩幅なんて合わせるまでもなく、ゆっくりと歩いていた。
「ありがと、あっくん」
「どういたしまして、だな」
二人の間に、心地よい静寂が訪れる。
ふと、無意識的に返事をした後に、彼女の言葉を反芻する。
あっくん。
今まで、そう言われた事はあったか。魔王さま、とか、あんた、とか呼ばれた事はあったが、覚えている限りであっくんと呼ばれた事はなかった。
自然に、顔に熱がこもる。考え過ぎかもしれないが、名前呼びと同じくらいに嬉しいし、恥ずかしい。
当の言い放った本人は、してやったりな顔をしてたりするのだが。
少なくとも、暗い道でよかった。こんなに赤い顔ではからかわれるに決まってる。
小道を進んでいると、目線の先に眩しい程の灯りが見えてきた。この辺りなら、ライブ会場付近のショッピングモールとは違って、居酒屋も多くあるだろう。
しかし、思ったよりも灯りが強いからか、目がチカチカとして見づらい。
くるみちゃんの方を見ると、彼女もそんな素振りを見せていた。確かに眩しい。くるみちゃんより奥からも光が漏れて見える。
というか、光が近づいてる。これは––––––!
「くるみッ!!」
「……え!?!?」
すかさず、肩を取って後ろに引っ張る。くるみちゃんはよろけながら俺にもたれかかった。
そして、先ほどのまで俺たちが居たであろうところを自転車が通って行った。
「ふぅ、危なかった。急いでたのか知らないが、交差点では自転車の方からも気を付けてもらいたいな」
「あ、ありがとう……」
「大丈夫か、くるみちゃん」
そう言って、固まる。
目の前に、髪の色ぐらい真っ赤になったくるみちゃんがしどろもどろとしていたからだ。
「えっ……?あれ、さっき、私をなんて呼んだ?」
「え?くるみちゃんって言わなかった?」
まさか、名前を間違えるわけはない。
ちゃんと、「くるみ」と呼んでいたぞ。一瞬の事だったから呼び捨てになってしまったが。
「……ふん!」
「痛いぞぉ!?」
お腹を殴られた。何故だ。
しばらくして、居酒屋に立ち寄って打ち上げを始めた。
打ち上げと言っても、「お疲れ様」と言い合った後は他愛もない雑談だ。今までではなかった現実での付き合いに新鮮さを感じながら会話に花を咲かせる。
のだが。
1時間後。くるみちゃんが酔い潰れた。
早かった。
アルコール度数が低いカシスオレンジで酔っ払い始めるほど、自分はそんなにお酒に強くはない。だからくるみちゃんがいる手前、醜態を晒す訳にはいかないとそこは必死になりながら楽しんでいたのだが。
くるみちゃんは俺とは反対に呑むペースが異様に早かった。
「魔王さまはこれだから」「からかったつもりが斜め上の仕返しを食らって悔しい」などと意味の分からないことを言いながら、気づいたらグラスを空けており。
結局、泥酔したくるみちゃんを介抱しながら、タクシーで自分の家に持ち帰る形になってしまったのが、その後の夜の話である。
翌朝、初めてくるみちゃんの土下座を見た。
その後、お詫びとしてなどの些細な事で俺の家に入り浸り始め、ついにくるみちゃんはある日を境に同居するようになってしまった。部屋の半分以上は彼女の物である。
Vtuberとしての活動も補助してくれて、かなり楽になっている。事務関係やスケジュール管理に関しては頭が上がらない程だ。
「じゃあ、この日にデートしよっか」
「ええ!?」
デートなどの予定が一方的に決まっていくのには、したたかなモノを感じずにはいられないが。
ともかく、今度のデートの日に安物ではあるが、指輪をプレゼントしようと思う。
日頃の感謝を形にしたものだ。こういうものからしっかりと伝えていかないとな。
喜んでくれるといいなぁ。
なお、デート当日。
泣かれた上に、率直な気持ちを伝えたらくるみに泣きながら殴られた。
何故だ。
『嘘予告』
「魔界にはある一つの絵本にもなるような伝説がある」
「数年前の事さ」
「ある魔王によって、一つの幸せが出来た国の話だよ」
「そして、滅びた話さ」
「天界及び下界に異常が見られます!」
「はーい、こちらぜったい天使くるみだぜ。現地の自称魔王と遭遇した」
「自称とはなんだ!ちゃんと魔王だぞぉ!」
「ここが例え異世界だろうと!命の恩人が例え天使だろうとッ!!忠義を尽くすことに曇りなし!忍の術、とくとご覧あれ!」
「VT-200シリーズの12号機。『自我』のコンセプトのもと造られた換装型戦闘用メカ。VT-212です。呼びづらければ、ニーツ、と」
「少なくとも、人間界で私のように喋り、高度な知能を有する存在が人間以外に現れる事自体がおかしいのですよ」
「もう、いつ滅びてもおかしくない状況、だってさ」
「教えてくれ、我輩はどう動けばいい?」
「黒幕をぶっ潰す。これが一番カンタンだよ」
「VT-100シリーズの型式の機体は破壊してください!少なくとも、心のない彼らを止める方法は無いです……ッ!!」
「我ら忍は機械的だと……?それは違うでござろう。忍というのは、悪を挫く刃と、悪を砕く心を持っているでござるからなぁ!!」
「魔族によれば、『伝説の魔王』が蘇れば、あらゆる才能とカリスマを持って救世できるらしいですが……!」
「天界、下界、人間界、魔界の統合。それが目的……?」
「何故こんな事をするのだ!?」
「『かつて、翼を広げて降り立った、あらゆる叡智をもつ者が現れた』」
「『そのものは小さき者のため、悪しき魔王を倒し』」
「『民が苦しむときには、自身のチカラを分け与えたという』」
「『勇者ではなく。一介の天使として。小さき者を導くために国を造ったという』」
「『やがて、国が保たなくなると、散り散りになる民の為に、その天使は全てを与えたという』」
「『名前をも与え。誰もが忘れてしまった天使は、小さき者に己が精神を与えて消滅した』」
「『お前は、大魔王だろう。そう言い残して』」
「魔界全域から、謎の光が……!」
「これは……鉄の心にすら届きうる光……」
「暖かいでござるな。後は任せるでござるよ」
「くるみさん。あっくんさん。頑張ってください」
「我輩は、大魔王。あっくん大魔王である」
「大魔王として、今一度、世界を救おう」
「それが」
「天使である俺の役目だ」
「帰ってくんのがおせぇんだよ……!こんのクソ兄貴!!」
「くるみ、休んでろ。……後は兄である俺がやる」
だが続かない。
もしも『ぜったい天使くるみちゃんの兄が、あっくん大魔王だったら』
……続かない。