惻隠の情   作:坂口

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19話 不和

 横須賀鎮守府が崩壊し、舞鶴鎮守府での防衛戦に成功してから三ヶ月が経っていた。執務室にて『鎮守府新聞』を読んでいた鬼島は、部屋に置かれた三人掛けの椅子で(くつろ)いでいる長門と睦月に声を掛ける。

 

「ようやく横須賀鎮守府に新しい提督が着任されたようだが……可哀相だとは思わないか?」

「……やはり、捨て駒だろうか。クソっ、鬼島提督がこんなに苦労されているのに、大本営の方々は……」

「…………私もそう思う。こいつの経歴は何だ。十七で軍学校入学。士官学校を卒業したのが二十二って事は…………もしかしたら、研修生の若造をそのままぶち込んだって事か? …………才能があるのか、それとも責任を取らせて国民の反発を抑える為か」

「何だか、悲しいなぁ。せっかく私たちが頑張っても、責任がどうとか、補償がどうとか……」

「そう言うな睦月。世の中そんなものだ。…………そして、もう一枚の記事なんだが、最近、日本軍内部に()いて、不義な(やから)が増えているらしい」

 

 長門と睦月が興味深そうに鬼島に近付き、紙面を覗きこむ。そこには、軍内部の人間による物資の横流しや国民に対する暴力行為。そして、艦娘を過酷な環境下で働かせている事業所や、艦娘に私的な暴力、私的な凌辱を与えて虐待する提督の存在などと言った陰惨な内容の記事が書かれていた。長門は顔を(しか)め、睦月は記事から目を背ける。

 

「…………酷すぎる! 横須賀が機能不全に陥ったからって、だからと言って何だ! 規律を破るなど! 私たちを……慰み者にするなど! 今こそ、軍隊が一丸となって御国の為に戦おうという気概を見せる時ではないのか?! 一時の敗戦に心折れ、堕落な道に転落するとは…………それでも彼らは本当に軍人なのか? 私たちの生きる意味とは……」

「本当に、あんまりだよ! ……………………でも、ここも当てはまる部分があるにゃしぃ?」

 

 睦月の呟きに、鬼島と長門が顔を見合わせる。そして次の瞬間、執務室に明るさが戻ってくる。

 

「……すまない。やはり、私は未熟な提督だったようだ。薄々感じていたよ、君たちを満足に治療させないまま出撃させてしまう。資材を言い訳にしている私の力不足だ。本来ならば、軽空母の建造は諦めるべきなのかもしれない。しかし…………」

「はっはっはっはっは! 鬼島提督は面白い事を言う! これしきの怪我で私たちを心配するなど、過保護ではないか?」

「あはっ、やっぱり鬼島提督も気にされてたんだぁ。でも、私たちは平気です! 褒めて伸びるタイプにゃしぃ、いひひっ!」

 

 談笑している三人の顔は眩しい。しかし、少しずつではあったが、長門も睦月も疲労を感じつつあった。この場にいる二人だけでは無い。他の艦娘達も僅かではあったが、疲労の色が出始めているのであった。

 しかし、彼女達は自ら志願して出撃を繰り返した。鬼島の「休め!」と言う命令に反してまで彼女達が出撃する理由は、鬼島も同じように苦労していた事と、資材の確保に奔走(ほんそう)していたからであった。

 そして、入渠するのも無料(タダ)では無い。入渠施設にお湯を溜め、艦娘達がリラックスできる空間を維持するのにも燃料が必要なのである。艦娘達は鬼島の事や沈んでしまった仲間たちの事を思い、入渠を躊躇(ためら)っていた。

 だが、それだけではない。今まで鬼島の指揮下で入渠する必要が無い程度の損害しか受けた事が無かった彼女達は、そもそもの入渠のタイミングを理解していなかったのだった。

 

 連勤による疲れからか、どんなに探索しようとも資材が集まらない事が何度もあった。それでも鬼島は彼女達を責める事は無かった。だが、その裏で鬼島が辛そうな顔をしているのを彼女達は知っていた。だからこそ、進んで出撃を繰り返す。不足分を補うように、睡眠時間や食事を削ってまで、結果を求めた。

 彼女達の努力は実っていた。通常の三倍以上のペースで、資材の備蓄に成功していたのだった。しかし、日々の疲労やストレスが艦娘達の身体を蝕んでいた事に、誰も気付く事は出来なかった。

 舞鶴鎮守府と鬼島稔、そして、轟沈してしまった仲間の為に出撃し続けた彼女達の歯車は、徐々に狂い始めた。そして少しずつ、異常が生み出されてしまったのだった。

 

 

 

 

 鬼島稔が長門と共に横須賀鎮守府を訪れた際、横須賀鎮守府の前には人だかりが出来ており、賑わいで溢れていた。大本営陸海軍部から横須賀鎮守府の再建記念の竣工式(しゅんこうしき)を行うと電信が送られ、それに出席したのであった。

 壇上には大本営に所属している元帥や大将が並んでいる。その中に、鬼島が今まで見た事が無い青年の姿があった。

 

「……あいつか」

「そうだな。『鳴本』と言う提督らしいが……」

「しかし、予想以上に再建が早いぞ」

 

 式典自体には何の興味も示していない鬼島が隣に立つ長門と小声で会話していると、ニヤニヤとした表情を浮かべた男が近付いている。男の背後には瑞鶴が控えており、よくよく思い出せば、以前の大乱後に鬼島から加賀と瑞鶴を譲り受けた上官であった。

 

「鬼島くぅん、君が横須賀の提督を断った時はどうなる事かと思ったけど、逆にそれが功を奏してねぇ」

 

 (いや)らしい笑いを隠そうともせず、鬼島を小馬鹿にするような態度でその男は言葉を並べていく。

 

「あの鳴本君は素晴らしい。国民の支持も難なく得られた」

「鳴本君の呼び掛けによって木材や鉄などと言った資材が寄贈された。この再建は鳴本君の功績と言っても良い」

「艦娘達の心を掴むのが非常に上手い。無感情な君とは大違いだ」

「唯一の難点は経験不足だが、私たちの『指導』があれば、すぐにでも結果を残せるだろう」

「それで、横須賀再興と言う重要な役儀(やくぎ)から逃げた君は、ここまで何をしに来たのかな? 何だか知らんが、艦娘を五艦も潰しおって…………この恥知らずがっ!」

 

 男の叱責がその場に広がる。竣工式(しゅんこうしき)を見学していた住民の目が二人に集まる。

 

「…………戻るぞ長門」

「いやっ、しかし、まだ……」

「私は既に不要なようだ」

 

 この場から離れて行く鬼島の姿を見ながら、男は満足そうに鼻を鳴らす。そして、鬼島稔よりも遥かに(ぎょ)(やす)小童(こわっぱ)が提督の地位を確固たるものにした事実に、口元を歪ませる。傀儡(くぐつ)は扱いやすい方が良いのである。横須賀鎮守府提督の鳴本雷太が順調に出世すればそれで良い。今後、己の身に転がってくる出世街道を想像し、男は満足そうに竣工式(しゅんこうしき)を楽しむのであった。

 

 そして、肥大化した上官の自我(プライド)を目にした事により、鬼島の脳裏に『失望』の二文字が消えることなく、刻まれた。この日、鬼島稔は大本営陸海軍部を完全に見限った。大本営が欲しているのは日本国の平和などでは無く、己の自己保身だけなのだと完全に理解した。

 鬼島の後を追っていた長門は気付く事が出来なかった。この時、鬼島の顔に浮かんでいたのは、鬼面とも言えるほどの凄みが入り混じった笑みであった事を。

 

 

 

 

 工廠の片隅に大量の段ボールや鋼材が積まれている。

 そこには紙が貼られており、平仮名で「ほうしょう」と書かれていた。誰の為に用意された資材なのかが一目瞭然なのだが、台車を転がしながら訪れた鬼島は気にした様子も無く、適当に資材を台車に移動させていた。

 

「…………!? 司令官! それは鳳翔さんの資材なのです!! 持ってっちゃダメなのです!」

 

 タイミング良く出撃から帰ってきたのだろうか、暁や響と話をしながら歩いていた電が、鬼島に気付くや否や慌てたように走り寄ってくる。そして、鬼島の動きを止める為か勢いよく抱き着いた。そんな電に視線を合わせ、鬼島は電を優しく抱きしめる。

 遅れて、長門と雷も姿を見せた。

 

「……私が呉に資材を納品しているのは知っているな? 先ほど睦月達からも譲って貰った。私としては心苦しいのだが、大本営が……」

「でも…………資材は早い者勝ちなのです! 無くなっちゃう前に、鳳翔さんを…………」

「そうだ。防衛海域内の資材は枯渇する。……………………もしかしたら、大本営は私達を戦力として見ていないのかも知れない」

 

 鬼島の言葉に艦娘達の動きが止まる。艦娘は深海棲艦と戦ってこそ存在意義がある。見捨てられたとなれば、心中穏やかではないだろう。

 鬼島が懐から一枚の紙を取り出す。日付が数日前の『鎮守府新聞』であった。

 

「これには先日の大乱から復活した横須賀の様子が記されていた。横須賀の任務成功の祝辞や、輝きを求める記述だらけだ。読んでみろ」

 

 五人が覗き込んだそこには、一面に横須賀鎮守府の様子を賛歌するような内容が書かれていた。提督である男の素質を褒め称え、彼が編成した艦娘が残した結果を称賛していた。

 

「な、なんでよ! 私達の方がいっぱい戦果残してるのに! 何で私達の事は何も載ってないの?!」

「……穏やかではいられないかな」

「もう一つ言っておこう。私達が深海棲艦を食い止めた事実は、記録として一切、残されていない可能性がある。舞鶴鎮守府に一切の支援が無いのがその証拠だ。そして、今の大本営は横須賀鎮守府を贔屓している。大湊、舞鶴、佐世保が問題を起こせば即座に断罪し、その罪滅ぼしに横須賀への支援を強制してくるだろう」

 

 鬼島の言葉を聞いた五人は、わなわなと身体を震えさせる。それもそうであろう。己の功績を無視され、成果を残しても何の見返りが無い。

 元より、艦娘として生きている以上は見返りを求めていたわけでも無かったが、『無価値なモノ』として扱われるのは、非常に心に堪えるのだろう。

 

「…………ゴタゴタがあるのは理解している。だからと言って、目を向けられないのは、辛いな」

「支援が無いなら…………もっと頑張れば良いって事よね…………!!!」

 

 長門の呟きを打ち消す様に、雷が力の籠った言葉を口にする。

 しかし、その表情は硬く、茫然自失と言ったところであろうか。

 

 鬼島は彼女達の頭を撫でると、ゴロゴロと台車を転がしながら工廠から出て行ってしまった。

 後に残された彼女達の感情は様々であった。しかし、共通して生まれた一体感を元に、彼女は今まで以上に資材の収集に精を出す事にしたのであった。

 そう。彼女達の胸には、大本営への不信が少しずつ積もり始めたのであった。

 

 

 

 

 八ヶ月が過ぎた頃から、長門は一人悩み始めていた。旗艦である長門の資材回収率が、暁型四艦と比べて著しく低くなっていたからである。

 理由は分からないが、長門だけなのだ。随伴している暁型四艦の様子を見ながら先行し、率先して深海棲艦も倒しているのだが、だからと言って資材を回収する暇がないわけでも無い。自分一人だけが、どうしても資材を上手く見つける事が出来なくなっていったのだ。

 

「……長門さん、もっと真面目にやって欲しいのです」

「…………?!」

 

 この日、出撃から帰還した五人が工廠にて艤装の手入れをしている時に、ぼそりと聞こえたそれは、誰の口から発せられたものなのかは分からなかったが、しっかりと長門の耳に届いてしまった。

 

「…………すまない。私も努力しているんだ。だが、どうしてだ。深海棲艦に邪魔されているわけでも無いのに……」

「長門さんが砲撃すると、弾薬がたくさん減るのです! 燃料もいっぱい使うし、もう嫌なのです! 鳳翔さんに早く会いたいのです!」

 

 電がその場に(うずくま)りポロポロと涙を零し始める。

 それもそうであろう。資材が失われてから八ヶ月。休む事もせずに資材を集める毎日。少しずつではあったが徐々に備蓄されていく燃料や鋼材、ボーキサイトを見ながら鳳翔と出会える日々を待ち望んでいたにも関わらず、ここ数週間は資材が増えるどころでは無く、停滞傾向にあったのだから。そして、その原因も電は知っている。

 長門の出撃には大量の燃料と弾薬を必要とする。その一度の出撃分でさえ、本人が回収しきれていないのだ。その度に、暁や響、雷、電が補填していた。

 そして、疲労やストレスが限界に達し、ついに電の心は折れた。

 

『この調子では鳳翔が建造される前に、海域内の資材が無くなってしまうのではないか』

 

 そんな不安も電の頭には浮かんでいた。

 

「…………言いすぎだよ。でも、すまない長門さん。鬼島提督に言って、この編成から降りて欲しい気持ちは…………ある」

「長門さんはとても立派だわ! でも、疲れてるんだと思うの。少し休んで、また万全になったら頑張れば良いと思うわ。私たちだけでも、やれるから……」

 

 響や暁のフォローが、長門の胸に突き刺さる。

 長門自身も、最近の自分の不甲斐なさに嫌気は感じていた。駆逐艦が頑張っているのに、足を引っ張っているのは戦艦の自分。

 もちろん、現在の資材の重要性と稀少性は十分に長門も理解している。だからこそ長門は毎晩、追い込まれていた。自分の存在が皆の邪魔になるのであれば、あの時に轟沈すべきは自分だったのではと考え、枕を涙で濡らしていた。

 

 ある日、長門は暁と共に今の編成を考え直してもらうように執務室まで頼みに向かった。

 その時の鬼島の答えは「私が無能なばかりに、長門に苦しい思いをさせて済まなかった。出撃計画書は私が作っている。故に、非難されるべきは長門では無い。私であろう。…………長門が万全であれば、誰よりも頼りになる艦娘なのは皆が知っている。電も雷も知っている。私の計画が穴だらけなせいで、暁型に負担を押し付けてしまっている。本当なら、もっと休ませたい。深海棲艦が……私が……クソッ、クソッ」であった。

 この時、顔に手をやり、日々の苦悩を吐露(とろ)する鬼島を見て、暁は改めて鬼島に信頼されているのだと嬉しくなった。

 そして、あまり見せない鬼島稔の人間性に直に触れた事によって母性本能が刺激されたのだろうか。執務室の外にて暁は、長門に対し「これ以上、鬼島提督を苦しめるのはやめて!」と声を荒げてしまった。暁はすぐさま、ハッとした顔になるのだが、もう遅い。

 長門は静かに顔を(うつむ)かせ、執務室の中で暁の声を聞いた鬼島は、己の計画通りに物事が進んでいる事を確信し、静かに口元を緩めるのであった。

 

 この日から、長門は己を挽回するために、最低限の燃料と弾薬で出撃を繰り返した。元から入れていなければ消費する事も無いからだ。そして、燃料が尽きたからと言って即座に沈むわけでも無い。艤装が動かなくなっても、いざとなれば、己の身体を動かせばいいのである。

 しかし、長門の努力と反比例するかの様に、長門と暁型の四人が言葉を交わす事は徐々に少なくなってしまっていた。長門のこの行為を見た暁が、自らの失言の「当てつけ」だと感じてしまったからである。

 暁も、長門にそんな事をして欲しくは無い。しかし、時が経つにつれて集まりの悪くなっている資材の事を考えると、焦りばかりが胸に浮かぶ。集めても集めても足りない。出撃で消費され、呉へ配送される。暁型のリーダーとして雷や電の事を考えると、胸が痛む。

 あらゆる方面への不平不満によって、暁の心は既に臨界点を突破していたのであった。これ以上、誰かの事を思いやる余裕はない。

 本来であれば、長門の行為をすぐさま止めるような艦娘である。しかし、己の心に浮かんだ自己嫌悪が、悪い方向に出てしまったのであった。

 

『わざとらしい』

『結果を出せ』

『あの時に轟沈するべきは――――――』

 

 暁は自分の心とは裏腹の言葉を無意識に口にし続けた。せめてもの虚栄心と責任感であった。しかし、当然それは他の三人に伝染してしまう。意図せぬ不和が、五人の中に広がっていってしまったのだった。

 長門と暁型が出撃するたびに、険悪さは大きくなる一方であった。そしていつしか暁型の四人は、長門への援護を完全に放棄するようになっていたのだった。

 

 

 

 

 鬼島が資材の確認をしていると備蓄が増えている事に気が付いた。その時、如月が嬉しそうな顔で鬼島に抱き着いた。

 

「私、出撃しなくても資材を集める方法を見つけたんです。近くの事業所に、優しい人がいるんです。司令官も、皆が怪我をしない方法が良いと思いますよねっ♪」

 

 睦月を筆頭に、皆の身体は疲れ切っていた。度重なる出撃によって、無駄に気分が高揚しており、眠る事もままならなかった。

 それでも朝は来る。睡眠不足のままに出撃し、深海棲艦と戦う事もあった。攻撃を避けきれず怪我をする事もあった。しかし、睦月型もまた、入渠して資材を消費する事を拒んだ。四人の姉妹艦を建造するには、ある程度の資材が必要であったからだ。

 

 そして、鬼島は即座に見破った。鼻に突いた同性の臭いを彼女は誤魔化し切れていない。

 つまり、そう言う事であった。

 

「皆が傷付かないのであれば、それに越した事はないが……」

「燃料も弾薬も、何も必要ないんです。陸地で行えますので、深海棲艦もいません……」

 

 笑顔で話を続ける如月を、鬼島は全肯定した。

 

「流石は如月、睦月型の自慢の二番艦だ」

「安全に資材が集まるのなら、私の悩みも解消される。ありがとう如月」

「君のおかげで舞鶴鎮守府は素晴らしい鎮守府になる。早く、君の姉妹艦も建造しなくてはな」

 

 如月の目がどんどん潤んでいくのを見て、鬼島は吹き出しそうになる己の感情を必死に抑えていた。如月が『それ』を行う事によって、睦月型の立場がどのように扱われるかを、彼女は気にする様子も無い。

 つまり、そこまでして鬼島稔に自分の功績を認められたいという事なのか、それとも、ここまで追い詰められているという事なのだろうか。

 

 だが、鬼島の唯一の誤算は如月が資材を受け取っていた相手であった。如月に渡されていた資材は正規の物では無く、横流しされていた物であった。そして、如月が『それ』を行っていた場所は呉鎮守府の近くである。つまり、呉鎮守府の在庫票がどんどん狂ってしまっていた事を、鬼島は見逃していた。

 

「私、皆にも伝えてきます。水無月ちゃん、長月ちゃん、菊月ちゃん、望月ちゃんに早く会いたいから……」

 

 如月の善悪は、日々のストレスによって完全に麻痺していた。

 毎日、傷付きながら帰還する姉妹を見て、その優しい心は摩耗され続けていたのだ。彼女は、誰も傷付かない方法を模索した。しかし、彼女達は艦娘である。深海棲艦が存在する限り、それは難しい問題であった。

 そして、如月の提案を聞いた姉妹艦は拒否感を示し、如月の説得を試みる。

 

「御国の為に戦うボクたちが、なんでそんな娼婦みたいな事をしないといけないんだよ!」

「如月がそういう事しちゃうと、あたしたちも変な目で見られちゃうよぉ……」

「でも、如月ちゃんも私達の事を思って!」

「睦月は如月に甘いよ! ボクは誇りを持って海域を守ってるのに……酷いよ……」

 

 喧噪は徐々に涙声になり、些細なすれ違いが再び交わる事は無かった。睦月は如月を庇うように二人で出撃する様になり、皐月と文月と三日月は三人で出撃する事が多くなった。

 そんな姉妹を見て、卯月は一人寂しそうにウサギのぬいぐるみを抱きしめるのであった。




ver1.01 2019/08/22
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