太陽と月に背いても   作:ゴルト

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すれ違う心

「未来は、未来は大丈夫なんですか!?」

 

 集中治療室から出てきた了子へと響が詰め寄る。

 

「大丈夫よ。今すぐどうにかなるようなことはないから安心なさい。ほら、ゆっくり深呼吸をして?」

 

 余りにも切羽詰まり余裕のない様子の響に、さしもの了子もいつもの軽い雰囲気は鳴りを潜め、二課主任技術者としての顔で対応する。

 

 響が十分落ち着いたのを確認し、了子が再び口を開く。

 

「色々と分かったことは有るけど、取り敢えず悪いニュースが1つと、素直に喜べない良いニュースが1つずつあるわ」

 

 集まった主要な二課のメンバーへとそう告げる了子の言葉に、目に見えて響の表情が歪む。

 

「ちょ、ちょっと了子さん。もうちょっとオブラートって物を……」

 

「あら、私が響ちゃんの立場だったら嘘を吐かれるほうがよっぽど辛いわ。大事な人の事だからこそ、どんな情報でもきちんと知りたいと思うのよ」

 

 流石にどうかと思ったのか、藤尭が苦言を呈するも、バッサリと了子に切って捨てられる。

 

「聞かせて下さい、了子さん。それが、どんなことでも」

 

 未だに顔色こそ優れないものの、しっかりとして声色でそう告げる響。

 そんな響に、了子は満足気に頷くと手元の資料へと目を落とした。

 

「さて、まず結論から言っちゃうとゴーストナイトは聖遺物ね」

 

「確かに、ゴーストナイトからは聖遺物特有のエネルギーが確認されていました。でも、それは既知の事実では?」

 

「そうだけど、その聖遺物ってのがまた曲者でね……。これ、どうも完全聖遺物クラスの代物みたいなのよ」

 

「完全聖遺物だとぉ!?」

 

 了子から飛び出た驚愕の発言に、周囲の人間が騒然となる。

 日本が現在唯一保持しているデュランダル。そして、奪われたネフシュタン。

 今、正にそれらを巡って血で血を洗う戦いが起こっているというのに、そんな最中に新たな完全聖遺物などという爆弾が放り込まれたのだから当然の反応だろう。

 

「とはいえ、本当に完全聖遺物なのかとか、それがどういった特性の物なのかまでは分かってないわ。ただ、データ計測の結果からはそういう推論が立てられるって段階ね」

 

「それでは、その完全聖遺物は今どこに有るんですか? 流石に、小日向さんに持たせたままにさせるわけにもいきませんし、新たな保管計画を練りませんと」

 

 一旦言葉を締めくくった了子へ慎次が話かける。二課の防諜担当としては、見過ごせない話だったのだろう。

 

 しかし、そんな慎次に了子は微妙な表情となる。

 

「あー、それがだけどねぇ……。ちょっと動かせないと言うかなんと言うか……」

 

「流石に研究を優先と言うわけには出来ないぞ。今は状況が状況だ」

 

 口ごもる了子へと弦十郎が厳しい視線を送る。

 

「違うわよ。弦十郎くんが私をどんな目で見てるかは置いておいて、件の聖遺物は彼女の身体の中よ。響ちゃん、貴女のようにね」

 

「私みたいに……?」

 

 了子の言葉に、響は自身の胸へと手を当てる。

 

 そこに残った傷跡は、天羽奏が響を守った証。響を救った証で有ると同時に、未来を地獄へと叩き落とした元凶。

 大切な物を奪った、大切な物を守るための力。

 

「そうなると、除去は難しいということか?」

 

 押し黙る響に代わり、弦十郎が了子へと尋ねる。

 

 響の胸に埋まったガングニールの破片は、複雑に周囲の組織へと絡みつき、下手に除去しようものならば逆に危険だということは既に周知の事実だ。現状での影響は身体能力の向上など、直ちに危険性は無いということで捨て置かれているが、ゴーストナイトとして暴走していた未来の場合は話は別だ。

 

「難しいなんて物じゃないわね。響ちゃんの場合は、危険だけど出来ないことは無いって感じだけれど、未来ちゃんはその比じゃないわ」

 

「やはり、完全聖遺物だからか?」

 

「まあ、そうとも言えるわね。響ちゃんの場合は、あくまで立花響という人間に聖遺物の欠片が寄生してるだけなのよ。言ってしまえば、響ちゃんがいなければ成り立たないわけね」

 

 そう言いながら了子は響のレントゲン写真と思しきものを皆に見せる。

 そこには確かに、心臓付近に写るガングニールの破片があった。

 

「で、こっちが未来ちゃんのね」

 

 そう言って了子はもう一枚の写真を取り出す。

 先程の響の写真とは違い、曇一つ無いその写真は一見しただけではどこにも異常がないように見える。

 

「あのー、これって異常とか有るんですか?」

 

「異常が無いのが異常なのよ」

 

 皆を代表した藤尭の質問に、了子はそう答える。

 

「これはもう人体じゃないわ。小日向未来という人間の個体を模した聖遺物ね」

 

「はぁ!?」

 

 驚愕の声を上げる皆を尻目に、了子は説明を続ける。

 

「今の彼女にとってはこの状態が正常なのよ。全身を聖遺物に置換されたこの状態がね」

 

「つまり、聖遺物の体に未来ちゃんの精神が宿っている状態って言うこと……?」

 

「その認識で正しいわ。だからこそ、暴走の要因も説明できる。聖遺物は人の精神状態と密接に作用しあっているの。それを利用したのがこの私が作った櫻井理論であり、シンフォギアというわけ」

 

 ここまでは大丈夫かしら? と周囲を見渡す了子。全員がきちんと認識していることに満足気に頷くと再び話を再開する。

 

「今回、不慮の起動を果たしたデュランダルによって響ちゃんが暴走してしまったのもそのせいね。デュランダルとの共鳴、共振によって精神が不安定な状態になった結果、纏っているシンフォギアの方が暴走してしまったのでしょうね」

 

「まあ、そういうわけで聖遺物っていうのは意外とデリケートなのよ。そんなものに体を奪われてしまったらどうなるか、分かるでしょう?」

 

「それは……ぞっとしない話ですね」

 

 了子から告げられた事実に、慎次が苦々しげに呟く。

 聖遺物の権威である了子が匙を投げた以上、現状の技術力で未来をどうにかすることは不可能だということなのだから。

 

「後は、聖遺物の特性も重要ね。ネフシュタンみたいに受動的な物ならば影響も受動的に成るでしょうけれど、デュランダルのような攻撃的な性質を持ったものならば、受ける影響もそれに伴った物と成るの。現在、この線で未来ちゃんに宿った聖遺物の候補を絞り出している最中よ」

 

「つまり、了子君は未来くんに宿ったギアが何かしらの攻撃性を持ったものだと推測しているわけか」

 

「えぇ。未来ちゃんへの影響という点以外にも、響ちゃん達との戦いで見せた火炎や雷撃なんてのはどう考えても戦闘用でしょうからね。まさか、あのナリで発電用の聖遺物でした! なんて事は無いはずよ」

 

「しかし、そうなるとこの後はどうするんだ? もう一度未来さんが暴走したらどうしようもないじゃないか」

 

 ポツリとつぶやかれた藤尭の言葉に響がハッと顔を上げる。

 

「そ、その時は私がなんとかしてみます! 絶対に絶対です! だからッ!」

 

「落ち着いて響ちゃん! あんたも、変な事言わないの!」

 

「ごめん響ちゃん! えっと、その、そうじゃなくてだね……」

 

 迂闊な発言をした藤尭をあおいが小突き、響への謝罪を促す。

 

 だが、響の焦りが消えることはない。

 響だって馬鹿ではない。未来の現状が非常にまずいことであることくらいは正しく認識している。

 現在の未来の立場は、収容された極悪犯罪者と大差ない。了子の説明によれば、未来の意思ではなく聖遺物によって歪められてしまった結果らしいが、そんな物は何の慰めにもならない。

 ここは、人々の安全を守る防人が集う基地であり、そして未来はそんな人々の安寧を脅かす存在に今や変貌してしまっている。

 

 弦十郎が甘い人間であることを響は知っているが、特異災害対策機動部隊二課というエリートを率いる彼が甘いだけの男だとは考えられない。

 場合によっては”始末”されてしまう可能性だって十分あり得る。

 

 そう考えた響は必死に弦十郎へと詰め寄る。

 

「そこの所はどうなんだ? 了子君」

 

「大丈夫よ。ほら、響ちゃんも落ち着いて。悪いようにはならないから」

 

 もちろん、弦十郎とて好き好んでそんな事をしたいわけではない。とはいえ、捨て置け無いのも事実。

 最早最後の望みと成った了子へと確認を取ると、幸運にも返事はそう悪いものではなかった。 

 

 さしもの響も、了子から大丈夫だと言われ多少の落ち着きを取り戻す。

 

「まあ、これは素直には喜べないんだけど……。未来ちゃんが暴走しているのは聖遺物の影響なのよ。つまり、逆に言えば聖遺物からの干渉さえなければなんともないわけ」

 

「なるほど。聖遺物からの干渉を阻む機械なりを作ればいいということですね!」

 

 流石は櫻井女史! と盛り上がる一同。

 しかし、普段ならばそれを当然と受け取る了子が今回に限っては浮かない顔をしている。

 

「それなんだけどねぇ……。デュランダルの特性って皆知ってるかしら?」

 

 突然投げかけられた了子からの質問に、皆が頭を捻る。

 

「ローランの歌の有名なエピソードだと、岩をも両断する切れ味……ですか?」

 

「微妙に惜しいわね。正確に言うと、不朽不滅。破壊されるべく岩へと叩きつけられたのに、岩の方を切り捨てるほどの頑健さを由来とするものよ」 

 

「それで、その特性がどうしたっていうんだ?」

 

「この不朽不滅っていうのはね、何もデュランダルだけに向けられた言葉じゃないの。デュランダルによって与えられた負傷にも当てはまるのよ」

 

「それってつまり……」

 

 皆の視線が否が応でも響へと集まる。

 響自身も、了子の言葉からその後に続くであろう事は既に予測していた。

 

「そう、未来ちゃん……いえ、ゴーストナイトに与えられた損傷も癒えることはない。そして、デュランダルの一撃でゴーストナイトは弱りきっている。だからこそ、今の彼女に暴走の心配は無いと言えるわ」

 

 響によって与えられた甚大な傷。癒えぬその傷が、しかしながら未来のことを辛うじて人として留めている。

 

「それが、素直に喜べない良いニュースというわけか」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で弦十郎が呟く。

 

 確かに、未来が人として暴走せずにいられるというのならば、それに越したことはないし、現状では最良と言えるだろう。

 だが、そのための過程が余りにも惨すぎた。

 

 だれも、何も言葉を発さない。良かったなどと、言うわけにはいかない。それは、暗に響の行動を肯定してしまうことに成るのだから。

 親友を手に掛けるという、最大の過ちを。

 

 

 

 

(なんで、いつもこうなるんだろう)

 

 罰が欲しかった。責められたかった。

 

 お前は間違っているのだと、面と向かって言われたかった。

 そうすれば、あの時自分の中から溢れたあの感情を否定できる気がしたから。

 

 だが、結果はこうだ。未来を傷つけて、そして得られたのは汚れた()()の称号。

 

 あるいは、皆響が暴走したことを仕方がないと思っているのかもしれない。了子の説明そのままならば、響の矮小な精神など完全聖遺物の前では塗りつぶされた当然なのだから。

 だが、事実は違う。あれは確かに響の意思だった。歪められてはいたものの、響の中から出てきた衝動だった。

 

 言えばいいのだろう。ここで、ありのままの事実を。そうすれば、罰を受けられるかもしれない。

 

 けれど、響には言えなかった。

 

 立花響は太陽でなければいけない。それが、響に課せられた命題なのだから。

 誰からも頼られて、誰もを助けて、誰もを笑顔に出来る存在。そうでなければならないのだ。

 

 失望されたくなかった。たとえ、こうして口を紡ぐことが何よりの裏切りだと分かっていてもだ。

 

 そして何より、

 

(未来の前で、太陽でいなきゃ……!)

 

 自分を助けるために人を捨てることに成った未来。

 それを傷つけて、あまつさえあの時の約束を破るなど、考えたくもなかった。

 

 たとえ、それが偽りでもいい。

 お月さま(小日向未来)にも太陽(理想の自分)にも響は背く事はできなかった。

 

 

 

 

 嫌な沈黙が支配する空間に、着信音が鳴り響く。

 

「もしもし、どうかしたかしら?」

 

 音の発信源である自らの携帯を取り、二言三言了子は会話をし、通話を切る。

 

「どういった内容だったんですか?」

 

 これ幸いとばかりに、この空気を打破すべくあおいが問いかける。

 

「えぇ、今度こそ手放しに喜べる良い知らせよ」

 

 先ほどまでの真剣な顔とは打って変わって、いつものようにどこか人をからかうような笑みを浮かべる了子。

 

「未来ちゃんが目を覚ましましたぁ! 拍手ー!」

 

 パチパチと手を叩く了子につられて、皆も拍手をする。

 先ほどまでの通夜の様な空気から一転、響ですらも表情に喜色を浮かべている。

 

「意識が戻ったとのことだが、どの様な状況なんだ?」

 

 一頻り拍手をし終えた後に、弦十郎が尋ねる。

 

「文字通り、目を覚ましたって所ね。特に不審な点も見られないわ。流石に、自分の状況を把握しきれてない節はあるけれど」

 

「大事無いなら良かった……。未来くんが目覚めたのならば、俺達も自分の仕事へと戻らねばな。解散だ!」

 

 弦十郎の鶴の一声で、集合していた人員が三々五々にそれぞれの持場へと帰っていく。

 

 それに続き、響も取り敢えず司令室へと戻り次の指示を待とうとするが、そんな彼女の背中に待ったをかける人物がいた。

 

「貴女はこっちよ」

 

 手招きする了子に連れられて、響は司令室とは逆の方向へと足を向ける。

 その先に待つ再会が何を意味するのかも分からないままに……。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 パチリと瞼を開く。

 何日、何週間、それどころか何年ぶりかの清々しい目覚めだ。

 

(ここは、どこだろう)

 

 スッキリとしすぎて逆に働かない頭で、私の現状を推測する。

 とはいえ、それほど難しいことでもなかった。真っ白な壁、体中に繋がれた無数のチューブ、無機質な音を奏でる機械達、全身に走る鈍痛、そしてそれらの真ん中でベッドに横たわる自分。

 

 どう考えてもここは病院だ。

 

(どうして、殺してくれなかったんだろう)

 

 心の中から湧き上がってくる不満。他人に手を汚す事を強要しておきながら、なんて傲慢なのだろうか。

 

 脳裏に、あの時の光景が蘇る。黒く染まる響の姿。そして、その手に握られて剣から放たれた斬撃。理不尽への怒りが込められたその一撃は、私を完膚なきまでに叩きのめしていた。

 仮に、あの後に響が追撃を入れていれば私はそのまま死んでいただろう。だが、そうはならなかった。

 

(優しいなぁ。響は……)

 

 自らが破壊の意思に囚われていたからこそ分かる響の怒り。あの一撃は、本気の殺意が込められていた。

 

(当然だよね)

 

 持ち上げることすら億劫な右腕を何とか目の前まで運ぶ。

 所々かさぶたのように黒い鱗状の物が張り付いた醜い右腕。もう、二度と戻らない私の罪の結晶だ。

 

 何人も殺して、何人も傷つけた。あの響がその事に対して何も思わないはずがない。

 隣の少女が言っていた「完全聖遺物に飲まれた」というセリフ。恐らく、あの剣で抑えていた怒りが爆発したんだろう。

 

「変わらないなぁ……」

 

 どこまでも汚れきってしまった私なんかと違って、響は太陽のままだった。

 

「会いたいよ、響……」

 

 漸く落ち着いた心に、久方ぶりに感じる罪悪感が押し寄せる。

 私の奪った命の数々。フラッシュバックするその光景に、押しつぶされそうになる心を何とか繋ぎ止める。

 

――どうして、死ななかった。

――なぜ、お前だけ助けられた。

――どうして、我々が死ななければいけなかったんだ。

 

 皆、私が殺した人の声だ。

 何も感じることなく、虫けらの様に踏み潰した人たちの。

 

 思わず口から漏れた弱音に、気を引き締め直す。

 償うと決めたのだ。弱気になんて成っていられない。私が私でいられる内に、成すべきことを為す。

 

 そう、決心を新たにした所でコンコンとノックの音が聞こえた。

 

「入っても大丈夫かしら?」

 

 聞こえてきたのは知らない女性の声。

 

「はい」

 

 断る理由もないし、断れる立場にもない。すぐに私は返事をする。

 

「じゃあ、失礼するわね」

 

 入ってきたのは妙齢の女性。手には何らかのカルテの様な物を持ち、白衣を着ている事から医者か何かなのだろう。

 

「意識はハッキリしているかしら?」

 

「はい」

 

 女性の問いかけにただ答える。

 

「結構結構。私達も頑張った甲斐が有るってものよ」

 

 うんうんと頷く彼女は、きっといい人なのだろう。こんな私をきちんと治療してくれたのだから。

 だからこそ、これ以上彼女を危険な目に遭わせるわけにはいけない。

 

 いつまた、あの感覚に支配されるか分からない。だから、私は一刻も早く死ななければならないんだ。

 人間として、小日向未来でいられる内に。

 

「あの、お願いです……私を」

 

「あーあー、いいのいいの。私も分かってるわよ? ずっと会いたかったでしょうし、焦らすような真似はこの桜井了子、致しませんとも! ささ、入って頂戴」

 

「入るね、未来」

 

 私の懇願を食い気味で遮り、誰かの入室を促す桜井了子というらしい女性。

 その後から聞こえてきた声は、ずっと会いたくて、そして今一番会いたくない人の声だった。

 

「ひ、びき」

 

 扉を開け、こちらを何とも言えない目で見る響の姿。以前のように、その顔に笑顔が浮かぶことはない。

 

 当然だ。私は、薄汚い犯罪者なのだから。

 

「う、あ……あぁ」

 

 声にならない悲鳴が喉から上がってくる。自分の罪は分かっているはずだった。その重さを理解しているつもりだった。

 でも、その何よりも、もう響と昔のようにいられないという事実が私を苛む。

 

 ずっと前から分かっていたはずだったのに、それでもいざ響を目の前にするまでどこか楽観的だった私に吐き気がする。

 誰かを傷つけ続けた事実よりも、自分が響から嫌われるという事を恐れる自分が汚らわしい。

 

「未来!? 大丈夫!?」

 

「来ないでぇ!」

 

 慌てて駆け寄ろうとしてくる響に思い切り拒絶の言葉を叩きつける。

 私は最低だ。響はただ心配してくれているだけなのに。

 

 結局、自分が可愛いだけなんだ。嫌われるくらいなら、自分の方から遠ざけようなんて。

 

「な、なんで」

 

「触らないで!」

 

 なおも心配そうに言い募る響を更に強い言葉で拒絶する。

 

 彼女に私に触れてほしくなかった。誰かとつなぐ為のその手を私の血に塗れたこの両手で汚したくなかったから。

 

「……お願い、出ていって」

 

「……」

 

 絞り出した私の懇願に、響は何も言うことなく病室を後にする。

 

「すみません。今は、1人にさせて下さい」

 

 呆然としている櫻井さんにそう伝えると、彼女も難しい顔をしながら部屋を出ていった。

 

(響……)

 

 頭の中で、愛しいその名前を呼び続ける。

 もう、口に出すことさえしたくなかった。輝く彼女の傍に、私という汚物の居場所なんて無いのだから。

 

 あるいはこれが、死ねば楽になれると、そう安直に思っていた私への罰なのかもしれない。

 

「どうして、こうなっちゃったんだろうね……」

 

 血まみれの両腕を見つめながら呆然とそう呟く。

 

 ()の体は血の色でどす黒く染まってしまった。もう、太陽()の光で輝くことなんて出来ないんだ。

 絶望と後悔と懺悔の中で、私はその事実を噛み締めていた。

 

 

 




 すれ違う2人。
 この小説、こんな延々鬱々してるシーンばっかですね……。

 おかしい、ひびみくイチャイチャを書きたかったはずなのに……。

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