太陽と月に背いても   作:ゴルト

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始まりの歌

 熱気が伝わる。見渡す限りの人、人、人。どれだけの人間が今日のライブを楽しみにしていたのかが一目瞭然だ。

 

「うひゃー。すごいね、未来」

「そうだね、響」

 

 こうして実際に会場へ来ると、よくチケットが2枚分も取れたものだとしみじみと思う。

 響もこの日のために買ってきたサイリウムを手に大興奮。道中で間違って1つ光らせて周囲を騒がせたのもご愛嬌というやつだ。

 

 いやー、来て良かった。本当に。

 

「響のご両親には感謝しないとね?」

「いやー、未来ならいつでも大歓迎だよ!」

「それでも、だよ」

 

 本当ならば、今日私は盛岡のおばさんの元へ行かなければならなかった。おばさんが怪我をしたためだ。

 しかし、私の歌好きを知っている両親と立花家のご両親の厚意のお陰で、我が家の両親のみが盛岡へ向かい、私はしばらく立花家預かりという事になった。

 しばらく未来とお泊り! なんてはしゃいでいた響を見て、不謹慎ながらも嬉しく思ってしまっものだ。

 

「あ、列が動いたよ未来!」

「そんなに引っ張らなくても会場は逃げないよ、響」

 

 重ねた手を引かれながら、指定席なんだからと笑いかけると、そうだっけ? ととぼけて笑う響。

 何でもないその笑顔がまるで太陽のようで、今日は楽しくなりそうだなんて何の確証もなく思った。

 

 

 

「いやぁー。あまりにも楽しみで、昨日はよく眠れなかったよー」

「そうなの? 響らしい」

「そういう未来はどうなのさ?」

「うーん、ちょっと恥ずかしいけど、変な夢なら……」

「変な夢?」

「うん、翼さんが、歌いながらノイズと戦ってる変な夢」

「なにそれー。未来ったらアニメの見過ぎだよ!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ライブ会場の地下深く。

 無数の機械とオペレーターが忙しなく動く空間。そして、ライブ会場には似つかわしくない重武装の警備員。いや、最早軍人と言ったほうが正しいだろう。

 そんな物々しい空間で話しあっている2人の人影がある。 

 

「ネフシュタンの鎧……。果たして、上手く行くだろうか……」

「もう。始まる前からそんなしかめっ面してたら、上手く行くものも行かないわよ」

「む、それもそうだな了子君」

 

 様々な機器が接続された青銅のオブジェ。それが、この場の責任者である風鳴弦十郎と技術責任者である櫻井了子が見守っているネフシュタンの鎧の正体だ。

 

「しかし、司令。本当にこの石ころ? にそんな御大層な機能が有るのですか?」

 

 ライブが始まるまではバタバタと確認や調整で慌ただしかったこの司令室。

 しかし、ある程度の報告が済み、ライブが始まると、後は結果を待つのみという空気が流れ出していた。

 そして、その空気に触発されてか、1人のスタッフが弦十郎へと問いかける。

 彼が今回の実験から新しく実働要員として配備されたスタッフであり、内情に疎かったというのもある

 

「ノイズと戦い、それどころか圧倒する力でしたっけ? 自分にはよくわからないですが……」

 

 ノイズとは、認定特異災害と正式には呼ばれている化物のことである。

 こちらからの攻撃はなぜかすり抜け、向こうからは触られた瞬間に灰にされて即死するという出来の悪いホラーゲームの敵キャラの様な存在だ。

 今、疑問を投げかけている彼も自衛隊のノイズ対策部門の出身であり、幾度もノイズとの死線をくぐり抜けてきた猛者でも有る。

 だからこそ、ライブ会場の地下で謎のオブジェに機械を接続するとノイズに勝てる! などと言われても実感が持てないのだ。

 なぜなら、ノイズとは理不尽の権化なのだから。

 

「はいはーい。そういう事は、この出来る女。櫻井了子にお任せなさい!」

 

 弦十郎が答える前に、技術主任である了子が先に声を上げた。

 技術者と言うものは得てして説明したがりで、彼女もその例に漏れずであった。

 

「まず、櫻井理論は知ってるかな?」

「えぇっと、名前だけなら」

 

 彼は優秀な軍人ではあったが、あくまでも軍人でしかなかった。きちんと大学だって出ているが、それでも特秘分野の最先端中の最先端の理論を知り尽くしているはずがなかった。

 もちろん、了子とてそんな事は百も承知なので特に反応することもなく話を進める。

 というか、今まで一課に所属していた彼が、この二課の中でも限られた人物しか知ってはならない理論を知っていたら問題である。

 

「時間もないので手短に頼むぞ、了子くん。」

「はぁ……本当は詳しく説明してあげたいんだけど。まあ、時間もないし端的に言っちゃうと、その櫻井理論を元に聖遺物をあれやこれすると、ノイズに対抗できる武器にして鎧であるFG式回天特機装束ってのが出来上がるわけ」

「武器にして鎧……ですか? そんな物があっただなんて……!」

 

 ノイズとは対抗できないから理不尽なのだ。対抗手段が有るならば、理不尽でも何でもない。

 故に、彼は期待した。いつかは自分もその鎧を纏い、武器を手に、ノイズ相手に大立ち回りをするのだと。彼の同僚の幾人かはノイズによって灰と化しているのだから殊更にだ。

 昨日まで共に語り、笑いあった仲間たちが、次の日には掃除機でゴミのようにどころか、文字通りゴミとして吸い込まれていく。そんな光景を見てきたのだから。

 

 しかし、そんな思いは次の一言で打ち砕かれる。

 

「ま、女性にしか使えないけどね」

「はぁ?」

 

 思わず気の抜けた返事をしてしまい、慌てて上司たる弦十郎を振り返る。

 

「悲しいが、その通りだ。もし、俺が使えるのなら俺一人でノイズなど全て片付けてくれるのだが……」

 

 悔しそうに拳を握りしめる弦十郎の姿に、彼もそれが冗談でも何でもない真実だと実感する。

 

「生身でも少数のノイズなら殲滅できる弦十郎さんの言うセリフには到底思えないわねぇ」

「俺のやっていることなど、焼け石に水に過ぎんさ。薄氷の上をなんとか忍び歩きしているに過ぎない」

(え、司令って生身でノイズ倒せるの?)

 

 悔しそうな割に、聞こえてきたとんでもない事実。

 確かに、彼とてノイズがこちらに触れようとする瞬間に攻撃を当てれば倒せるということは”理屈上”は知っている。

 知っているだけで、やれと言われてできるかは別だ。

 実際問題として、出来たことは有るけれど、それは集団で銃を並べてやたらめったら撃ったら当たったというだけだ。生身でやれと言われたら死ねと言われたと判断するだろう。

 

「さ、そろそろ本題へ返りましょう。それで、さっき作るのに聖遺物がいるって言ったでしょう? 聖遺物ってのは何か分かるかしら?」

「えぇっと、伝説上の英雄などが残した遺品でしょうか?」

「はい、正解。まあ、英雄じゃないにしろ、とにかく伝承に残っている特別な武具のことね」

 

 なるほど、と彼はうなずく。伝説の武具を使って、すごい武具を作り出す。

 理論的にはどうかと思うが、感情的にはとてもしっくりくる話だった。

 

「まあ、現代にまで残っているのなんて大抵はボロッボロになっちゃってるんだけどね」

「そうだなぁ……天羽々斬もガングニールも、結局欠片でしかないからな」

 

 しかも、伝説の刀天羽々斬と伝説の槍ガングニールは既に作られているというではないか。

 不謹慎ながらも、男の子としてはワクワクせざるを得なかった。

 彼だって、男なのである。若い自分には伝説の武器を振るって良く分からないけどかっこいい必殺技を放つ自分の妄想をした。それも、一度や二度ではない。

 

「それで、作られた装備とはどの様な物なのですか?」

「ま、男の子としてはやっぱり気になるわよね~? うむ! では、この私桜井了子が教えてあげましょう! FG式回天特機装束! 通称シンフォギアとは!」

 

 おぉ! などと声を挙げているは彼のみで、他のスタッフは黙々と自分の仕事の再確認をしている辺り、この辺の話は新入り以外には周知の事実なのだろう。

 

「まず、ノイズに触れられても灰にならない! バリアコーティング!」

 

 この時点でも画期的な発明だ。

 ノイズが何よりも恐ろしいのは触れられたら即死するからであり。触れられても即死しないのであれば、向こうから触れる際にはこちらからも触れられるという特性を活かして捨て身のカウンターが狙えるのだから。

 

「次に、ノイズの位相差障壁を無視できる!」

 

 これもノイズと戦うのならば必須だろう。

 というか、なかったら向こうが自分を殴ってくれないと何も出来なくなってしまう。

 それでは、民間人の保護など夢のまた夢だ。

 

「そして、装者をサポートするアームドギア! つまり、メインウェポンね! あ、もちろん、身体的サポートもしてくれるから。ある程度の動きはギアの方でやってくれるわ!」

 

 素晴らしいの一言に尽きる。いくら位相差障壁が無視できて灰にならないとはいえ、ノイズに殴られたら痛いものは痛いし、死ぬものは死ぬのだ。

 そして、人間は飛んだり跳ねたりできるようには生まれてこない。しかし、ノイズは空を飛ぶし、一瞬で跳躍してくる。

 サポートがなかったら一生涯を対ノイズ用の鍛錬に費やさねばならなかっただろう。

 

「最後に、一番重要なのは、起動には適合者の歌が必須ということね!」

「う、歌?」

 

 今までの説明が正統派だっただけに、突然突っ込まれた異物に思わず彼は突っ込み返してしまった。

 

「そう、歌。(シンフォニー)で動く機械(ギア)だからシンフォギア。単純でしょう?」

「それにしても、なんで歌で……」

「そういうものだと割り切るしかあるまい」

 

 今までは黙っていた弦十郎がここで再び口を開く。

 

「大事なのは、聖遺物が歌で動くということだ。そして、ライブ会場とこのネフシュタンの鎧。後は分かるだろう?」

「つまり、このライブの歌でこの鎧を起動させるということですか?」

 

 漸く合点のいったように彼は返事を返す。

 

「うむ。そして、今我々が所持しているシンフォギアは全て欠片から作られてもので、これは完全な聖遺物だ」

 

 欠片から作られたシンフォギアでさえ、あれだけの性能を持つのだ。完全だというこのネフシュタンの鎧。これが起動し、シンフォギアへとなったらどれほどの力となるのか。最早想像もつかない領域だ。

 故に、彼は先程までの会話で少々緩んでいた気持ちを引き締める。

 

「フォニックゲイン、既定値を突破!」

「よし! 成功ね!」

 

 そんな最中に伝えられた言葉。実験の終了を告げるであろう言葉に室内の空気が再び緩み始めていく。

 しかし、そんな空気は次の一言と鳴り始めたブザーによって打ち壊される。

 

「いえ、違います! このままではセーフティすら突破します!」

「なんだと!?」

「いけない! ネフシュタンが暴走するわ!」

 

 弦十郎と了子の必死の叫びと、光り輝くネフシュタンの鎧。それらを最後に、室内は閃光に包まれた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 怒号、悲鳴、絶叫。人が人を押し倒し、踏み潰し、そして、灰になっていく。なぜか起こった爆発と、なぜか大量に現れたノイズ達。これは、現実なのだろうか?

 

 なんで、どうして、こんな事になってるの? 今日は、響と一緒に、きっといい日になるって……。

 

「未来ッ!」

「ッ! 響!」

 

 呆けていた思考が響の呼びかけで引き戻される。

 差し出された手を強く握る。この熱狂の中、一度逸れてしまえば今生の別れとなるかもしれない。

 そんなのは嫌だ!

 

 人の流れに押しつぶされないように、身を低くして、辺りを伺う。

 現状、目につく出入り口には人が殺到しており、子供の私達が向かった所でボロ雑巾のように踏み潰されて死ぬだろう。

 かといって、じっとしていても座して死を待つばかり……。

 

「大丈夫……。大丈夫だから……」

 

 響の手を強く握りしめ、自分に言い聞かせるように囁く。

 しかし、隣の響がやけに大人しいことに気がついた。

 

「未来……あれ」

「……嘘、でしょ」

 

 何かを食い入るように見つめる響。その視線の先では、戦闘服と思しきものに身を包み、刀を手に戦う風鳴翼の姿が在った。

 まるで、昨日見た夢のように。

 

 だって、じゃあ、あの夢は予知夢で。

 この状況は、あるいは、回避が可能だった……?

 いや、そもそも思い出せ。このライブへ誘ったのは誰だ?

 響をこの地獄へ突き落としたのは、誰だ?

 

「私だ……。私のせいで」

 

 思考を別の所へ取られたのが行けなかった。

 気がつけば、戦闘は思いの外近くまで来ており、その余波も当然のように近づいていた。

 

「危ないッ!」

 

 響の声で意識を取り戻すも、時既に遅く。いつの間にか崩壊を始めた足場からは逃れられなかった。

 

 そして、重ねていた手は当然のように響も地獄へと引きずり落とした。

 

 一瞬の浮遊感の後に、体が落下を始める。

 高さ自体は大したことがなく、私は大した怪我もなく済んだ。

 

 だが、私に引きずられ、無理な体勢で落下した響はそうもいかない。

 

「響! 無事!?」

「あいててて……。大丈夫! ちょっと足を捻っただけだから。この程度、へいきへっちゃら! すぐ追いつくから、未来は先に逃げて」

 

 返答に絶句する。この状況で足をやられるということが何を意味するのか。わからないほど無知ではない。

 すぐに追いつくから先にいけとは、つまり響自身そう思っているということの裏返し。

 現に、ノイズ達は少しずつこちらへ迫っている。

 

「嫌! 絶対に、置いてなんかいかない!」

 

 肩を貸し、強引に立たせる。

 絶対に見捨てたりなんてしない。

 あの時、響が手を差し伸べてくれたお陰で、私は救われたのだ。だから、私もこの手を決して離さない!

 

「どうして、どうしていつも私を守ってくれるの!? 返せるものなんて、何もないのに!」

 

 それでも、情けない私の口からはこんな言葉しか出てこない。

 

「未来が、好きだから」

 

 そんな情けない私にも、響は優しく答えてくれた。

 ボロボロで、今にも私のせいで死ぬかもしれないに。

 

「いつかは、人助けに理由なんていらない、なーんて言ったけど。それでも、未来が好きだから。未来に笑っていてほしいから。だから、助けるんだ」

「なんで……? 私なんか」

「なんか、じゃないよ。歌を歌っている未来の笑顔が好き。私の歌を聞いて笑う未来が好き。ちょっとおっちょこちょいだったり、いつも私が無茶してるのをそっと支えてくる未来が好き」

「やめて! なんで、なんでそんな事今言うの! それじゃまるで……」

 

 遺言みたいじゃない……!

 

「……そうだね。じゃあ、帰ったら一杯、言ってあげる。それで、いつか私が困ったときに、今度は未来に助けてもらおうかな」

 

 そう言って、響が振り返る。

 きっと、ノイズが何処まで来ているか確認しているのだろう。

 遅々とした歩みだが、不思議とノイズには追いつかれない。もしかしたら、戦っていた翼さんが守ってくれているのかもしれない。

 

 これなら、あるいは……。

 

「うん……! うん……! 何だって言うこと聞いてあげるから! だから、だか……ら?」

 

 突然、響に突き飛ばされる。 

 頬を何かが掠めた。

 世界が、スローモーションになる。

 

 やけにゆっくりと流れる時間の中、振り返った私の目に映ったのは、胸からおびただしい量の血を流し、崩れ落ちる響の姿だった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「時限式は、ここまでかッ……」

 

 天羽奏がその少女たちに気がつけたのは運が良かったからだ。

 ある程度の人数が避難し、そして、ノイズの犠牲となった。その上で、タイムリミットを迎えたことで一旦頭が冷えた。

 それによって、本来なら戦闘と崩落の音でかき消されるはずの悲鳴を捉えられたのだから。

 

(崩落音? それにこれは……悲鳴!? まだ近くに人がいたのか!)

 

「奏!?」

 

 側で戦っている相棒を残し、一旦戦線を離脱する。

 敵を押し付けてしまう形になってしまったが、彼女の実力を知っている奏からしたら信頼の証のような物だ。

 

「すぐに戻る!」

 

 2人へと躙り寄るノイズをなぎ倒す。

 ちらりと見た感じでは、茶髪の少女は足を怪我しているようだ。

 だが、それでも黒髪の少女が肩を貸し、諦めることなく一歩ずつ前へと進んでいる。

 

(いいコンビじゃないか)

 

 その互いに助け合う姿が、なんだか自分たちと重なって無性に嬉しく思えてくる。

 

(これが、私達が守るべき未来なんだ!)

 

 槍を持つ手に力が入る。

 ノイズが次々と突撃してくるが、後ろの2人から貰った勇気に誓って、退くことはしないと踏ん張りを入れる。

 

「ぐっ……! らぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 だが、それでも限界というものは訪れる。

 そもそも、タイムリミットを過ぎた時限式なのだ。今まで持ちこたえたほうが奇跡と言えるだろう。

 一体、また一体と大型ノイズが攻撃に加わるに連れ、ギアが軋むのが分かる。

 

「奏!」

 

 

 相棒の声が遠くに聞こえる。それでも、ここで退くことは出来ない。

 

「う、おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 裂帛の気合と共に、最後の力を振り絞り、大型ノイズを退ける。

 しかし、気持ちとは裏腹に軋むギアはそのまま弾け飛んだ。

 

 それは良かった。

 それで、守るべきを守れるのなら。

 

 だが、奏の目に映ったのは、ギアの破片から相方を守り、胸から血を吹き出しながら地に伏せる茶髪の少女の姿だった。

 

「響! いや! いやぁぁぁぁぁ!」

 

 黒髪の少女の悲痛な叫びが響く。

 

「クソッ! クソォ!」

 

 泣きながら縋り付く少女と共に、茶髪の少女へと声をかける。

 頼むから死ぬなと。守らせてくれと、祈りながら。

 

「おい、死ぬな! 生きるのを諦めるな!」

 

 思いが通じたのか、少女の唇が微かに動く。

 

「へ……いき、へっちゃら……だよ」

「馬鹿! なんで、そんな! だって、だって!」

 

 どう見ても、誰が見ても平気ではない様子で、それでも少女は強がってみせた。

 

「約束……した、からね……。帰った、ら……いっぱい、いっぱい……好き、って」

「そうだよ! だから……! だから、一緒に帰ろう!」

「え、へへ……」

 

(ああ、そうか……。こいつらも、2人でなら、きっと……)

 

「茶髪の娘が響で、あんたはなんて名前なんだ?」

「は、え? あ。わ、私は小日向未来です」

 

 奏の問いかけに、今存在に気がついたと言うように答える少女。目の前で親友が死にかけたのだから仕方ないだろう。

 それでも、きちんと奏の問いかけに返答を返す辺り、生来の性格が垣間見えた。

 

「響に、未来か。そっか。うん、いい名前だ」

 

 一度は取り落とした槍を手に、再び戦場へと向かう奏。

 

「まさか、まだ戦うんですか!? そんな、ボロボロな体で!?」

 

 優しい娘なんだな、と奏は思った。

 現状、戦えるのは奏と翼だけで。彼女達はか弱い一般人だ。それどころか、重篤な負傷者までいる。

 全てを投げ出して、奏達に戦えと丸投げしてもおかしくない。なのに、彼女は戦う奏を心配している。

 

「ああ。守りたいものがあるからな」

 

 だから。そんな彼女達のためだから、奏は戦うのだ。

 

「なんで……。だって、傷ついてまで守るなんておかしいよ」

 

 その問いかけは、奏に向けられたものか。はたまた、傍らの響に向けられたものか。

 どちらかは分からない。それでも、奏は答えた。

 

「守りたい笑顔がある。ただ、それだけさ」

「笑顔……」

 

(私の歌で、勇気づけられる人がいる。笑顔になってくれる人がいる。それだけで、戦う理由なんて十分さ)

 

「いつか、心と体。全部空っぽにして歌ってみたかったんだ」

「今日は、いい日だ。こんなに聴衆がいる上に、とびっきりのスペシャルゲストが2人もいる」

「ああ、本当に。歌う(死ぬ)にはいい日だ」

 

Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen (高く奏でる明日の調べ)fine el baral zizzl」




 翼さんが奏!と叫ぶだけのマシーンになってしまった。
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