あの後、私と響は自衛隊と思しき人に保護された。
響が倒れてからは正直、何があったのかあまり記憶にない。なんとなく、機密がどうたらで同意を求められたから同意をしたのだけは覚えている。
無機質な病室で、様々な器具が取り付けられた響をガラス越しに眺める。
あのうるさいくらいに元気で太陽そのものの様だった響が、こうして人工の光しか無い薄暗い病室で横たわっている。
それが、私が彼女の手を取った結果に思えて無性に心が落ち着かない。
こうして、彼女が陽の光の下から隔離され、生死を彷徨っているのは全て私のせいなのだから。
私達を救ってくれた大人は、響の前で泣き崩れる私に口々に謝ってきた。
――もっと早く、助けられなくてすまない。
――力及ばず、すまない
投げ掛けられる慰めと謝罪の言葉を前に考える。
人を救い、助ける彼らに力が無いとすれば、私は一体何なのだろうか。
「どうして、どうしてもっと早く助けてくれなかったのよ!」
そして、その彼らは今、私の目の前で理不尽に責められている。
「我々の力不足で……」
「内蔵破裂で死亡ってどういうことなの!? ノイズ相手じゃないんでしょ!? 犯人を連れてきてよ!」
あぁ、きっと彼女の大切な人は、避難の際の暴動に巻き込まれたのだろう。
生きるために誰かを押しのける。それはきっと、責められることではないのかもしれない。
だって、そうしなければ今頃炭になっていたのかも知れないのだから。その押しのけた人にも大切な人がいて、あるいはその人を守るために、敢えて泥を被って生きるための道を切り開いたのかも知れない。
誰もが英雄になれるわけじゃない。皆が皆生きることに必死で、周りなんて気にしてはいられなかった。
それでも、誰かに心の内の黒いモヤを吐き出さないと自分を保てなくて。
それが、今回はこの人達だったと言うだけなんだろう。
誰が悪いわけでもなくて、ただ間が悪いだけ。
それだけで謂れのない批判を受け、そして、それを全霊を持って受け止める大人の姿を私はただ眺めているしか出来なかった。
そうして、そういった場面を何度か見ていると、子供の前でやることじゃないとの言葉と共に、私は女性の隊員の方と一緒に別室でお茶をしていなさいとの沙汰を頂いた。
本当は響の側から離れたくはなかったが、彼らの好意を無駄にすることも出来なかった。
私が側にいても手を握ってあげることすら出来ないのだから。
いや、もう握る資格なんて無いのかも知れない。
「えぇっと、小日向未来さんだっけ?」
そう自嘲して、じっと自分の手を見つめていたら、一緒にいた女性に話しかけられた。
私なんかのために、こうして椅子と机しかない部屋に閉じ込められているというのに。無視をするなんてちょっと考えなしだったかもしれない。
「あ、すみません……。ちょっと、考え事をしていて……」
「ああ、いいのよ。あんな事があった後じゃ、むしろ何も考えないほうが難しいと思うから」
そして、また会話が途切れる。
何を話せばいいというのだろうか。いつも、こういう時には響が一緒にいてくれて、そして、私を引っ張っていてくれた。
改めて、自分が響にどれだけ依存していたのか気付かされる。
「ほら、暖かいもの、どうぞ」
「ありがとうございます」
差し出された飲み物を受け取り、一口飲む。じんわりとした暖かさが体の中に広がり、ほんの少しだけ、心が軽くなった気がした。
「あまり硬くならなくていいわよ? 私は友里あおい。あおいって呼んでね。少しの間だけど、よろしく」
そう言って、手を差し出す彼女。だが、それが響の手と重なり、どうしても手にとることを躊躇ってしまう。
「えっと、その、ごめんなさい」
折角、歩み寄ってくれた彼女を突き放して、私は一体何をしているんだろうか。
本当に、響がいないとダメダメである。1人だった頃はどうしていたんだっけか……。
「そんなに怖がらなくてもいいのよ」
私の隣へと席を移し、そう言ってくれる彼女。
「無理です……。怖いんです。また、私のせいで誰かが傷つくんじゃないかって……」
「難しい悩みね……」
「私を助けてくれた響に、私は何もしてやれなかった。それどころか、こうして傷つけている」
彼女が話を聞いてくれるのを良いことに、思うがままを吐き出していく。
私と響。それに、何の関係もない彼女に。
「大切なのね。響って子が」
「ええ、私の全てです。響と一緒にいると、心がポカポカしてきて……。ずっと、私の手を引いてくれて……。いつだって、響は私の太陽だったんです」
――はじめてお泊まり会をした日。
――一緒に自転車に乗って、当てもなく走った夏の日。
――暗い森の中、馬鹿みたいに明るく歌を歌った日。
――はじめて作ったお手製のお菓子。ちょっと崩れていたけど、おいしいねと食べさせあった日。
――一緒にリディアンに入って、歌を歌おうと。いつか、ツヴァイウィングみたいになれたらいいねと語り合った日。
全部が全部大切な思い出で。気がつけば私は、あおいさんに延々と響との思い出を話していた。
「あっ、すみません。1人でずっと喋っちゃって……」
「いいのよ、気にしなくても。それに、ほら。響ちゃんのことを話してたら、少しは顔色も良くなったみたいだし」
言葉通り、手をひらひらと振り、私に笑いかけるあおいさん。
本当に気にしたようではなく、少しホッとする。
それにしても、
「顔色が良く……ですか?」
「響ちゃんって娘が、貴方を支えてくれてるんでしょうね」
「響が……」
思い出ですら、響は私を支えてくれている。
私は、どうなのだろうか?
「私の思い出は、響の支えになれているでしょうか?」
「きっと、なってるわよ。だって、彼女にとっての貴方は、命を掛けてでも助けたい大切な人で。大切な人との思い出は、どんな時でも最高の生きるための燃料なんだから」
その言葉で、ふっと肩から力が抜けた。
それどころか、目眩がして思わず椅子からずれ落ちそうになる。
「っと! 大丈夫!?」
「はい。すみません。ちょっと、気が抜けちゃって……」
あおいさんが肩を支えてくれたお陰で、無様に地べたとキスすることは免れた。
こんなしょうもない事で怪我をしたら、響に顔向けできないな……。気をつけないと。
「私なんかでも、響の支えになれてるんだって思ったら……あうっ!」
お礼を言おうとしたら額を小突かれた。
もちろん、全く痛くはないが、ちょっとビックリ。
「もう。あまり、自分を卑下しすぎないの。そうやって自分を下に見るのは、あなたを守ってくれた響ちゃんのことも貶めてるようなものよ?」
「すみません……」
そうだ、響が守ってくれたんだ。
だから、私の価値は響の物なんだ。
響は私になんでもくれる。繋いだ手の温もりも、生きる楽しさも、この命の価値ですら。全部、響からもらったものだ。
思い出だけじゃない。もっと、私も響に何かを返してあげたい。
響の生きる意味に、価値に、私は成りたい。
「私にも、何か響にできることが有るのかな?」
「もちろんよ。彼女が退院するまでに、それを探してみるのもいいんじゃないかしら?」
響のために、できること。
今までのように、貰うだけじゃなくて、与えられるように。
うん、頑張れそうだ。
「ありがとうございます、あおいさん」
「お礼なんていいのよ。……もう、大分時間も遅くなってしまったわね」
そう言われて、壁にかけられた時計を見ると、いつの間にか日付を跨ぐか否かというところまで針は回っていた。
思ったよりも長く話し込んでしまったみたいだ。
「こんな場所で悪いけれど、仮眠室の用意もできてるから。今から案内するわね」
「何から何まで……。ご迷惑をおかけします」
「迷惑なんかじゃないわ。なんなら、子守唄を歌ってあげてもいいわよ?」
茶目っ気たっぷりの返事が返ってきた。
本当に敵わないなぁ。
「どうして、そんなに私のことを気にかけてくれるんですか?」
最後に、気にかかっていたことを仮眠室までの道中で聞いてみる。
「大人は子供を守るもの。理由なんて、それだけで十分よ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
秘匿事項に関する書類などにサインをし、その後はつつがなく私は日常へと戻った。
見舞金がどうとかでややこしい話もあったようだが、そちらの話は私ではなく、両親とやっていたようだ。
帰宅後は、しばらく自宅で待機という事になった。
政府からのお墨付きなので、公欠扱いとなり、宿題なども免除されるとのことだ。
五体満足の私がそんな物を受け取っていいのかとも思ったが、学校へ行けるような精神状態か? と聞かれたら答えに困るのも事実なので、ありがたく享受させてもらった。
そして、今日から再び学校へ登校することとなる。
響のために、私がしてあげられること。それを休み中考えていたけれど、全く浮かんでこなかった。
なので、学校で友達に聞いてみようという結論に私は達した。
少ないながらも、私にも友達はいるのだ。
……響のおまけ扱いかも知れないけれど。
それにしたって、響のためなら彼女達も多少は協力してくれるだろうという打算もあった。
これが私に関してなら話は別だが、基本内に籠りがちな私と違って、響は誰とでもすぐに仲良くなる太陽のような人間だ。
そんな響のためと言えば、嫌という人は少ないだろう。
「よし! 頑張ろう!」
頬をバシッと叩いて気合を入れる。
響がいないと何も出来ない私から、響に何かをしてあげられる私へなるために。
私は学校への一歩を踏み出した。
意気込んで、いざ学校へ着いたはいいものの、響のいない私が唐突に社交的になれるわけもなく。
結果、特に進展もなく昼休みを迎えてしまった。
休み時間の段階でもこちらを伺うような視線とは結構感じたので、こちらから話しかければおそらく反応してもらえるとは思うんだけど……。
「ねえ、ちょっといい?」
どうしようかと思っていたら、幸運なことに向こうから話しかけてくれた。
この子は響と割と仲の良かった子だ。私の相談にのってくれるといいのだけれど……。
「うん、大丈夫だよ。何か用?」
「小日向さんって響と一緒にツヴァイウィングのライブに行ってたんだよね? 今まで休んでたのはそのせい?」
うーん、響が私とライブに行くって話してたのかな?
どこまで話していいか、微妙な範囲なんだけどなぁ……。どうやって話したものか。
「うん、そうなの」
「ふーん……。それで、響はどうしたの?」
まあ、聞かれるよね。
私と響。2人でライブに行ったのに1人しか学校に戻ってこなかったら誰だって訝しむ。
「えっと、響はその、入院中で……」
「入院? 一体何があったの?」
「えっと、ライブの事故から私を庇って」
「ああ、もういいわ」
「え?」
急に強い口調で会話を打ち切られた。
響の状態だけを確認したかった?
いや、私は庇って入院という触りだけしか伝えていない。
感じの響の状態が不明なのに打ち切るのは不自然だ。
一体、どうしたというのだろう?
「あの噂は本当だったってわけね」
「うわさ……?」
一体何のことなんだろう?
ただでさえ人付き合いが少ない上に、家に閉じこもっていた私も、入院中で面会も謝絶されている響も、噂になるようなことなんて無いと思うのだけれど。
「ふん! 知らないと思ってとぼけちゃって! 知ってるんだからね! ライブ事故の死因の大半は、避難中の暴動が原因だって!」
「それは……」
「あなたもそうなんでしょ! 他の人を押しのけて、親友を盾にしてまで生き残るなんて、結構なご身分じゃないの!」
「……」
何も言い返せなかった。
だって、響が傷ついたのも、奏さんが死んでしまったのも私のせいなのだから。
「なんで……、なんで、あんたが生き残るのよ! 返してよ! 彼を返してよ!」
「……ごめんね」
「なんで、謝るのよ! やっぱり自分が悪いって、分かってるんじゃない! なんでよ! なんでなのよぉ……」
私に掴みかからんばかりだった彼女だが、最後には嗚咽とともに、力なく蹲ってしまった。
私は、なんと言葉を掛けるべきだったんだろうか。
彼、というのが誰かはわからない。だが、私にとっての響のような存在だったのだろう。
彼女の気持ちがわかるなんて、これっぽっちも思わない。
だって、響は生きているのだから。
どんなに辛くても、響が生きている。それだけで、私はきっと、彼女より恵まれている。
「大丈夫? ほら、立てる?」
泣きじゃくる彼女と、押し黙ってしまった私を見かねて、彼女の友達と思しき女子がこちらへ近寄ってくる。
「ごめんね……。騒がしくしちゃって……」
「ううん、大丈夫だよ。サッカー部の彼のことでしょ? 私も知ってるから」
サッカー部の彼、というのがどうやら彼女の失った大切な人のようだ。
だが、それを知った所で私に何が出来るというのだろうか。
響すら守れなかった私に。
「最低」
去り際にそう吐き捨てていった2人を私は呆然と見送ることしか出来なかった。
あれから数日がたった。
いつの間にか、私と響の事は学校中の噂となっていた。
その上、ニュースや週刊誌で私を含めた被災者に見舞金が振り込まれているということが流れたことも大きい。
恐らく、政府としては口止めという事も含めての金額だったのだろう。
だが、それがいけなかった。
見舞金としては不自然に多い金額に、一般の人達は口を揃えて税金泥棒と声高に訴えた。
それは当然、私にも向けられている。
「見てよあの子。よく学校に来れるわね」
「本当。えらーい人が便宜してくれるんだから、休めばいいのにねぇ」
今も、こうして教室へ向かっているだけで口々に言葉が飛んでくる。
そのどれもが、私のことを批判する物だ。
教室へ入れば、散らばった私の私物と落書きだらけの机が目に入る。
露骨に距離を離され、ぽつんと浮いた私の机。
まるで、響と出会う前の私を見ているようだ。
この状況を悦ぶ自分がいる。
私は響を傷つけた。なのに、大人達は私は悪くないと言ってくれた。
それが救いにならなかったわけではない。だけど、心の何処かで罰を望んだ自分がいたのも確かで。
きっと、これが罰なのだろう。
黙々と散らばった荷物を片付けながら考える。
優しい太陽を奪ってしまった罰。
罰を悦ぶ自分が嫌いだ。
まるで、罰を与えられたからという理由で、響を傷つけてしまった罪から逃れようとしているようで。
早く、響のために出来ることを見つけなきゃ。
そうしなきゃ、私は贖えないから。
席に着き、授業の開始を待つ。
最近では、先生も私のことをいないものとして扱い始めた。
でも、それもきっと、仕方のないことなのだろう。
私への罰が、遂に我が家そのものへと及び始めてしまった。
悪質なビラから始まり、ゴミの不法投棄など。遂には、石が投げ入れられた。
両親は引っ越しを検討しているらしい。
だが、それでは困る。
ここから離れてしまったら、響と会えなくなってしまう。
私は響にまだ何もすることが出来ていないのに。それは困る。
説得しなきゃ。
少なくとも、響に何かをしてあげられるまではここにいなきゃ。
でも、その後は?
響に償ったら、私はどうすべき?
まだ、親友でいられるのだろうか?
夢を見た。
響の夢だ。
夢の中の響は、私と全く同じ状況にいた。
血の滲むようなリハビリを乗り越えて、漸く戻ってきた日常。
なのに、心無い言葉を吐かれ、迫害を受け、遂には父親すら失ってしまって。
全部、私のせいだ。
へいき、へっちゃらと強がるその姿がとても小さく見える。
ボソリと呟いた、呪われているかも知れないという一言が、ひどく耳に残った。
――――なんであんたが生き残ったのよ!
――――税金泥棒!
――――死んでしまえ!
ああ、きっと、その通りなんだろう。
遠い思い出の言葉が蘇る。
――――立花が幽霊に取り憑かれたぞー!
――――呪われたぞー!
響の手を取った、あの時の言葉。
――――守りたい笑顔がある。ただ、それだけさ。
私達を守って散った人の言葉。
――――大人は子供を守るもの。理由なんて、それだけで十分よ。
優しい大人の言葉。
――――いつか私が困ったときに、今度は未来に助けてもらおうかな。
響との約束。
「ああ、そうか」
やっと、気がついた。
「ごめんね、響」
悲しむだろうか?
怒るだろうか?
それとも、なんとも思わない?
けれども、私に出来ることなんてこれくらいしかない。
そっと立ち上がり、授業中の教室を抜け出す。
教師も生徒も、最早私のことなんて興味がないらしく、誰にも引き止められず抜け出すことが出来た。
きっと、授業の後は私の悪口大会だろうが、それでいい。
電車に乗り、海の見える街へと向かう。
ガラガラの電車にぽつんと座り、ひたすらに目的地へ。
あの夢は正夢だろう。漠然とそう思う。
翼さんの夢の時と一緒だ。
あの時は、夢は夢と一笑に付したけれども、今は違う。
あの夢の時点で、私が用心深ければ。
嫌な予感がするとでも言って、響を引き止めていれば。
きっと、もっと輝かしい未来が待っていたはずなのだから。
この夢はお告げだ。
神様だか何だかは知らないけれど、誰かが教えてくれた危険信号。
響はきっと、退院しても私の側にいてくれる。
けれど、それでは響から陽だまりを奪ってしまう。
そう、結局の所、響だってあの事件の生存者なのだから。
今は入院しているから、被害者として何も言われていない。それでも、退院してしまえば生還者だ。
私と一緒に、私と同じことを言われてしまう。
そんな事は我慢できない。
悪いのは私なのに。
あのライブ会場へ誘ったのは私で、庇わせたのも私。
なのに、この罪すら一緒に響に背負わす事なんてできない。
やっと見つけた、響のために私に出来ること。
それはきっと、この罪を全部背負うことだ。
思わず自嘲してしまう。
元から全て私の責任なのに、罪を背負うことが出来ることだなんて。
とんだマッチポンプだ。
でも、私にはこれしか思い浮かばなかった。
こうしてでも、響の笑顔を守りたかった。
道なき道を歩み、漸く着いた目的地。
暮れかけた夕陽にだいぶ時間をかけてしまったなとぼんやりと思う。
遥か足元から響く、寄せては返す波の音。
人の手の入らない僻地、柵すらない岸壁。
まるで、ドラマみたいだなと他人事のように思ってしまった。
少しずつ、歩みを進める。
近づく波の音に覚悟を決めたはずの心が軋む。
けれど、足を止めることはしない。
やっと、気がついたのだから。
私のすべきこと。響のために出来ることに。
そう、私が
なぜ、批判されるのか?
それは、加害者だからだ。
私と響は他人を犠牲にして生き残った【加害者】。
でも、私がここで死ねば。
響は友達を失ってしまった【被害者】になれるはず。
それに、打算的だが他にも考えは有る。
誰だって加害者には成りたくないはずだ。
客観的に見れば、私の受けている行為はイジメだろう。私が受けるべき罰では有るものの、彼らの行いに法的な正当性があるか? と言われると否と言わざるをえないのだから。
もちろん、彼らにイジメているなんて自覚はないはずだ。だって、世間がそれは正しいことと言っているのだから。
けれど、私の自殺までは流石に世間も肯定しないだろう。というか、ライブ会場の生き残りは何をしてでも殺せ! なんて称賛されだしたら、流石にお手上げだ。
そして、私はわざわざ授業中の教室を抜け出してきた。
本来なら誰かが止めるべきなのに、誰も止めなかったからこそ、抜け出せたのだ。
公には、誰かの責任とはならないだろう。しかし、問題にならないかと言うとそうではないはず。
誰の責任でもないけれど、問題になる。つまり、一歩間違えたら自分に責任がのしかかってくるかも知れないということだ。
そして、責任を被せられ、加害者となったらどうなるのかは、私で実践済み。
この状況で、わざわざ響を叩いて無駄に事を荒げようとする人はいないはずだ。
気がつけば、踏み出した足が空を切っていた。
そのまま、前のめりに体勢を崩し、落下を始める体。
ああ、もうこの世ともお別れなんだな。
でも、最後に、響のために命を使えたんだ。後悔は、きっと、無い。
私には前世の記憶がある。
それが、この死にゆく状況で何か役に立つというわけでもない。
でも、生まれ変わりが有るという事は知っている。
だから、祈ろう。
再び生まれて、響と共に歩めますようにと。
散々待たせた挙げ句にこの鬱展開。
申し訳ない。