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あらすじ
ブラドー島へと到着し、神父との行動方針の決定や、カオスとマリアとの合流を経て、ついにブラドー伯爵の居城へと潜入します。
今回のお話、オリジナルキャラ登場します。お嫌でしたらブラウザバッグお願いします。それで良ければ楽しんでください
それではどうぞ!
ブラドー伯爵の居城への潜入を開始した俺たちは、『石ころ帽子』をかぶって城内を歩き回っていた。すぐ横を見張りの吸血鬼が通り過ぎていくが、こちらを完全に、ただの「石ころ」としてスルーしていく。
順調な隠密行動の最中、ふと気になった。俺はピートに、手引きをしてくれるという側近の二人とはどうやって連絡を取り合っているのか、それともどこかで待ち合わせているのか、それを聞いてみたところ、
「いえ、城内は常に監視の目がありますから、特定の場所での待ち合わせは危険です。今までは、僕たちの間で特別に訓練した伝書コウモリを使って、秘密裏に手紙を届け合っていました。ただ、さっきドクター・カオスから『簡易連絡装置』を頂きましたので、味方の二人と合流できれば、次からはもっと確実に連絡が取り合えます」
(なんと言うか、ずいぶん昔の方法だな)
「じゃあ、合流する前にその二人含めて、側近たちの情報を教えてもらえるか? さっき俺が言った四天王のことなんだけど」
「わかりました」
ピートは歩調を緩めず、さらに声を潜めて幹部たちの詳細を語り始めた。
「まず、僕たちに協力してくれているスパイの一人は、カーミラ・ブラット。妖艶な美女で、見た目は金髪碧眼の四十代くらいですが、中身は歴戦の女ヴァンパイアです。そしてもう一人が、ナハト・ヘルシンキ。僕や父の遠縁にあたる人物で、髪の色が薄い茶色なこと以外は、僕と本当に瓜二つの姿をしています」
「へえ、ピートさんにそっくりな遠縁の人まで味方にいるのか。それは心強いな」
「ええ。ですが、残りの二人は手強いです。一人はシュメルツ・モールド。筋骨隆々とした大柄な男で、見た目は四十代くらいの、イケメンではないですが整った顔立ちの男性です。そして最後の一人が、カイン・ブラット」
「ブラット……ってことは、カーミラさんの身内か?」
「はい。カーミラの母親違いの弟にあたります。こちらは純血のヴァンパイアで、顔立ちはカーミラと瓜二つの美形ですが、性格は冷酷そのものです。城の最深部へ向かうなら、必ず彼らが立ち塞がるはずです」
四天王の半分が味方で、カーミラとカインは瓜二つの姉弟、ナハトはピートのそっくりさん、か。ピートの話を聞きながら、俺は四次元ポケットの中のひみつ道具をどう使うか脳内で考える。
それに、ピートの父親であるブラドー伯爵――その真の名は『アルベルト・ピエトロ・ド・ブラドー』。
ピートの正式名であるピエトロは、父親のミドルネームを貰ったものらしい。タイムテレビで伯爵の過去を見た時に、亡くなった伯爵の奥さんが言ってたな。
理由を失っても、人間滅亡の衝動だけに縛られているアルベルト伯爵の呪いを、俺は今持っている全ての力で絶対に解いてみせる。俺は暗い城の廊下の奥へと、さらに足を速めるのだった。
石ころ帽子のおかげで、巡回している下級の吸血鬼たちの目を欺きながら進むこと数分。ピートがふと、目の前にある重厚な木製の扉の前で足を止めた。城の西翼にある、少し人通りの途絶えた一角だ。
「横島さん、先生。……この部屋です。僕の伝書コウモリが、カーミラからの手紙を受け取った時に指定されていた合流地点は」
「ほう、ここが二重スパイである彼女との連絡場所かい。罠の可能性はないのかい、ピートくん」
神父が眼鏡の奥の目を鋭くして尋ねる。ピートは真剣な表情のまま頷いた。
「絶対にありません。彼女は僕や遠縁のナハトを、本物の弟のように大切に想ってくれていますから」
「よし、それじゃあ入ろう」
俺たちは気配を消したまま、ピートが静かに押し開けた扉の向こうへと足を踏み入れた。
薄暗い部屋の奥、月光が差し込む窓辺に、その人物達は静かに佇んでいた。
金髪碧眼。四十代くらいの、妖艶な大人の魅力にあふれる美女。四天王の紅一点にして、『鮮血のクイーン・ローズ』の二つ名を持ち、自分の血を漆黒の荊の鞭『ローゼン・ガイスター』へと変える、歴戦の女ヴァンパイア――カーミラ・ブラット。
そしてもう一人は、薄い茶髪に碧眼の美青年。髪の色以外はピートと瓜二つの姿をした、ピートの遠縁にあたるナハト・ヘルシンキだ。カーミラと同じくハーフ・ヴァンパイアでありながら四天王の一角を務め、愛用の剣『フィンステレ・クリンゲ』に自身の血を纏わせ、浴びせた血で敵を操る『マリオネッテン・ナハト』を使う、『霧幻のスピードスター』。
二人はドアが静かに開いた瞬間、誰もいないはずの空間に向かって、酷く張り詰めた眼差しを向けた。
部屋に入った俺たちは、パタパタと『石ころ帽子』を脱いでその姿を現した。突然現れた俺達に警戒の目を向けた二人だが、一緒にいたピートを見て警戒をやめる。その上、窓辺にいた美女――カーミラ・ブラットは碧眼をパッと輝かせて、ピートへと突っ込んできた。
「ピエトロ!! 無事だったのね、ケガはない!?」
「うわっ!? み、ミーラ姉さん!?」
カーミラはピートに猛烈な勢いで抱きつくと、「どこも痛んでない? どこか切ったりしてない?」と、彼の顔から手足に至るまでベタベタと触りながら、必死に全身を調べ始めた。
ピートは普段から、こうして幼なじみのお姉ちゃんとして猫可愛がりされているのか、完全に慣れた様子でされるがままになっている。横では、それを見慣れているのか呆れた顔をしているナハトもいた。
けれど、今回は俺たちの目が気になったらしい。ピートは真っ赤な顔をして彼女の両手を優しく掴み、窘めるように声を潜めた。
「み、ミーラ姉さん! 先生と弟弟子の前なんですから、そういうのはやめてください!」
「あら、いいじゃない。お姉ちゃんが可愛いピエトロを心配して何が悪いのよ。……それにしても、そちらの風変わりなお仲間が、ピエトロをここまで安全に連れてきてくれたのね」
カーミラはピートからようやく身体を離すと、妖艶な笑みを浮かべて俺と神父に向かって上品に一礼した。ナハトも同じく頭を下げている。
(へえ……『鮮血のクイーン・ローズ』なんて大層な二つ名だから、もっと怖い女傑かと思ったら、中身はただの幼なじみを可愛がるお姉さんじゃん)
俺が内心で笑っていると、神父が真面目な顔でカーミラとナハトに向き直った。
「初めまして、カーミラさん、そしてナハトさんでよろしいかな? 私は唐巣です。……ピートくんから、君たちがブラドー伯爵の暴走を止めるために、内側から協力してくれていると聞きました。現在の城内の様子は、一体どうなっているのですか?」
「初めまして、ピエトロがお世話になってます。私はカーミラ・ブラット、こちらの無表情がナハト・ヘルシンキです。ほらナハト、挨拶しなさい!」
「……初めまして、ナハトです」
「ごめんなさいね。この子ったら昔っからこんな感じだけど、悪い子ではないのよ」
カーミラが苦笑交じりにそう言った直後、それまで後ろで偉そうに腕を組んでいたじいさんが、待ってましたとばかりに大げさに一歩前に踏み出した。
「フハハハハ! ヴァンパイアの小娘どもよ、ワシの紹介がまだであるぞ! ワシこそは錬金術と魔法科学の最高峰、天才科学者ドクター・カオスじゃ! そしてこっちにおるのがワシの最高傑作、マリアである!」
「はじめ・まして・マリア・です」
カオスがマントを翻して高笑いすると、マリアが無表情のままペコリと頭を下げた。じいさんの大暴走に心の中でツッコミを入れつつ、そこに俺も一歩前に出て加わった。
「初めまして、ピートさんの弟弟子で、横島と言います」
いきなり現れたアクの強すぎる老人と、無機質な美少女、そして最後に律儀に頭を下げた少年。
ド派手な自己紹介の波を立て続けに浴びせられたカーミラとナハトは、一瞬呆気にとられたように目を丸くしていた。だが、すぐにカーミラはクスリと妖艶に笑うと、大人の余裕を漂わせて艶やかに微笑み返した。
「あら、よろしくね。天才ドクターに、可愛いマリアちゃん、それにピエトロの弟弟子の横島くん。フフ、本当に風変わりで、退屈しなさそうなお仲間ね」
「……妙な連中だ」
ナハトも表情こそ崩さないものの、俺たちの独特な雰囲気に、ほんの少しだけ張り詰めていた肩の力を抜いたようだった。挨拶が一通り済むと、カーミラはフッと艶やかな笑みを消し、四天王としての真剣な表情に戻って城の様子を語り始めた。
「――本題に入るわね。現在の城内だけど、伯爵の放つオーラがさらに強まっていて、下級の吸血鬼たちは完全に理性を失って操られているわ。さらに、謁見の間へ近づくほど、空間転移を拒む強い結界も肌を刺すように厳しくなっているの。そして、残りの四天王の二人……シュメルツとカインが、そこへ続く中央回廊を完全に固めているわ」
(なるほど。なら、ここまできた通り『石ころ帽子』で謁見の間まで突っ切ったほうがいいか。誰も傷つけたくないし、戦闘は少しでも避けたいからな)
俺が内心でそんなふうに考えていると、神父も同じ結論に至ったらしい。カーミラとナハトに向けて、その驚異的な効果を交えた隠密作戦の提案と説明を始めた。ピートの師匠である高名な霊能者の神父が説明してくれたほうが、あちらの二人も受け入れやすいだろうから、見ていて本当に助かる。
だが、神父の説明を真剣に聞いていたカーミラは、感心しつつも、すぐに困ったように美しい眉をひそめた。
「なるほどね……姿や気配そのものを『ただの石ころ』だと認識させる魔道具の類なわけね。確かに巡回の下級吸血鬼たちなら、それで完全に騙せるわ。でも……中央回廊を固めているシュメルツ相手だと、それだけじゃ足りないかもしれないわね」
「ほう、それはどういうことかね、カーミラさん」
神父が眼鏡の奥の目を鋭くして尋ねる。すると、それまで壁際で静かに黙っていたナハトが、ボソリと言葉を添えた。
「……あのオヤジは、普段から視覚に頼っていない」
「ええ、ナハトの言う通りよ。シュメルツのほうは視覚ではなく、空気の流れや呼吸といった『感覚』で行動していることが多いの。あの異常なまでの勘の鋭さは、四天王の私たちでも恐ろしいくらいだわ。ただかぶって歩くだけじゃ、中央回廊の途中で彼に捕まる可能性が高いわね」
二重スパイの二人から齎されたシュメルツの具体的な特徴に、神父は深く顎を引いた。
「――なるほど、視覚ではなく、極限まで研ぎ澄まされた『感覚』の持ち主ですか。それは一筋縄ではいきませんね。……横島くん」
「はい、何です?先生」
「その便利道具には空気の流れや呼吸までごまかせる物はあるかな?」
神父の真面目な問いかけに、俺はうーんと腕を組んで、ポケットの道具を思い浮かべた。
(いくらなんでも、空気の物理的な揺らぎや吐く息そのものを都合よく消し去るような道具は、さすがにないか。……いや、だったら道具に頼るんじゃなくて、ソイツ自体をそこから動かせばいいんだ)
俺はポンと手を叩くと、真っ直ぐに神父とカーミラたちを見つめた。
「――いえ、そこまで都合のいい道具は無いです、先生。だったら、カーミラさんとナハトさんにおとりになってもらうのはどうでしょうか?」
「おとり、かい?」
神父が眼鏡の奥の目を光らせ、カーミラとナハトも俺の言葉に視線を集中させた。
「ええ。シュメルツがいくら勘が鋭くても、その場にいなきゃ俺たちの空気の動きを察知することもできません。二人が適当な理由をつけてシュメルツを中央回廊から引き離すか、隙を作ってくれれば、俺たち5人は、この石ころ帽子で一気に謁見の間まで突っ切ることができます」
危険を伴うおとり作戦の提案に、部屋が一瞬静まり返る。
だが、カーミラはすぐにフッと不敵な笑みを浮かべ、ナハトも静かに頷いた。
「なるほど、いい作戦ね。私とナハトはまだ裏切りがバレていない『四天王』だもの。中央回廊にいるシュメルツのところに立ち寄って、『侵入者を見つけたから応援にきて』とでも言えば、あの生真面目なオジ様なら簡単に釣られて動くわ」
「……カインには、俺が上手く言い訳をする」
ナハトも低い声で同意する。同じ四天王という立場を最大限に利用した、これ以上ない完璧な突破口が見えてきた。行動方針がある程度決まったあと、ピートがドクター・カオス謹製の簡易連絡装置の説明を、カーミラとナハトの二人に詳しく話した。
「――というわけです。この装置の規格なら、城内の結界の影響をある程度無視して、僕たちの間で確実に作戦開始の合図を合わせられます」
「助かるわ、ピエトロ。これならお互いの状況が完璧に合わせられるわね」
カーミラが満足そうに魔導式のトランシーバーを受け取る。ずっと後ろで話を聞いていたドクター・カオスは、不敵に笑いながら顎をさすった。
「フム、空間の位相を歪めるだけの結界か。中世レベルの古臭い術式よな。ワシがわざわざ口を挟むほどのこともないわ。おとりを使い、その隙に本隊が帽子で突っ切るというなら、ワシとマリアもいつでも動けるぞ」
その横で、マリアも無表情のまま静かに頷いている。口を開かなかっただけで、ハナから全員で突入する気は満々だったらしい。
「よし、それじゃあ、カーミラさんとナハトさんがシュメルツを引き剥がして、連絡をくれたら作戦開始だな。みんな、準備はいいか?」
俺の問いかけに、全員が力強く頷き、運命の潜入作戦がいよいよ動き出そうとしていた。
出来ましたので更新します。
オリジナルキャラの登場です。タグにオリジナル展開と入れてあるので大丈夫だとは思うのですが、ダメでしたら教えてください。
それでは次回もいつになるとお約束できませんがよろしくお願いします。
失礼します。