ウマ娘 ~ダート・ダート・ダート!!~ 作:フジキセキ
雲一つない青空の下、土煙を巻き上げながら茶褐色の髪をなびかせ疾駆する影があった。
それはカーブをすべるように曲がり、直線コースに差し掛かる。
中京競馬場の400メートルを超える長い長い直線、それをものともせず彗星のごとく駆け抜ける。
疲れを知らないその末足はぐんぐんと伸び、後続を煙の中に置き去りにしていった。
歓声が上がる、紙が舞う、そして拍手が沸き上がる。
ようやく息も絶え絶えにした後続たちがゴールにたどり着き、掲示板に確定の文字が上がった。
それと同時にもうひと際歓声が大きくなった。
観客立ちの視線の先にあるもの―
2:18.1 レコード
歓声に包まれた2200メートルの勝者は満足げにそれを眺めている。重賞とよばれる選ばれた者のみが挑めるレースでありながら圧倒的な力を見せつけた。
勝者の名は、アンドレアモン。
これは彼女が、砂上の皇帝と呼ばれるまでの物語。
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「ウマ娘」
それは異世界の競走馬の名前と魂を受け継いで生まれてきた少女たち。
(その異世界でいうところの馬の)尻尾と耳を生やし、超人的な走力を有するが、それ以外は普通の女の子だ。
トレセン学園に在籍し、国民的スポーツ・エンターテイメント「トゥインクル・シリーズ」への参加に向けて特訓に励んでいる。
とはいえすべてのウマ娘たちがこのトレセン学園に入学できるわけではない。
その道なりは険しく、もって生まれた素質才能、家柄や家系など多岐にわたる審査を経て、初めてその許可をうけるのだ。
ここ、「日本ウマ娘トレーニングセンター学園」は全国のウマ娘トレーニング施設の中でも最新鋭かつ最大規模の施設であり、在籍するウマ娘の数もレベルも日本一といえる。
ここまでの狭き門を潜り抜けたからには、さぞかし活躍していくのだろう―
かというと、そうではなかった。
そこは厳しい勝負の世界、鳴かず飛ばずのまま時がたち、退学という末路をたどったウマ娘達なんてごまんといる。
それでも彼女たちは競争への熱意を絶やすことはない。
それは本能でもあるし、なによりウイニングライブへの憧れがあるからだった。
とはいえその誉を受けられるウマ娘はやはり一握り。
さてこの場にいる一人のウマ娘―その名はアンドレアモンといった―もまた、成績が振るわず退学の危機に瀕している者の一人であった。
「アンドレアモンさん、何故呼び出されたのか…わかっていますね?」
「…はい」
アンドレアモン、と呼ばれたウマ娘はその頭も耳も項垂れさせ、目を伏せながらうなずいた。
相対する女史は一瞥をくれると、ボードに挟まれた数枚の書類をめくった。
「この一年間での成績、初戦では2番人気に支持されるも結果は15着、続く2戦目3戦目も勝ち馬にも入らず…。わかっているとは思いますがこのままの結果では退学もありえます」
「はい…」
力なくうなずくアンドレアモン。女史はさらに言葉をつづけた。
「あなたの入学は去年度の11月ですから半年、つまり今年度5月までに1勝すること。これが学園に残るための条件です」
「5月までに1勝…」
「…アンドレアモン、何とかしてあげたいけどこれは規則です。なにもあなたが憎くて言っているわけではないわ」
「もちろんです、それは…わかっています」
「…勝ちなさい、アンドレアモン」
「はい…ありがとうございます。失礼しました…」
一礼とともにアンドレアモンが退室していく、トレーナー室には沈黙が訪れた。
ため息は春の日差しに溶けていった。