ウマ娘 ~ダート・ダート・ダート!!~ 作:フジキセキ
「昨日は散々な目にあった…」
「でも良かったじゃない、反省文だけで済んだんだから」
「それは、そうなんだけど…」
自らをトレーナーだと称す男を職員棟などに案内し、寮に戻ってきたアンドレアモンを待っていたのは寮長フジキセキであった。大義名分をかざそうとした彼女だったが、名前も聞いていないとなれば当然疑われる。
普段の素行のお陰であまり大ごとにはならずに済んだが初めて書く反省文に辟易してしまったようだった。
「あ、そうそう。今日から私のクラスに新しい娘が来るらしいの」
「へぇ…マルゼンスキーのクラスに新入生ねぇ」
「本当は昨日くる予定だったらしいんだけど、大遅刻したみたいよ」
「そういえばフジキセキも言ってたかも…『これで今日2人目だ』って」
マルゼンスキーの穏やかな笑みは、昨夜頭を抱えて嘆いていたフジキセキとは対照的で思わず苦笑を返した。
しばらく談笑を続けていたが、マルゼンスキーは<リギル>の集まりあるようで、二人は別れ、アンドレアモンは資料室に向かうことにした。
*
「あと一か月…学期末査定の為には重賞を勝っておきたいけど、まずは一勝しないと…。オープンか未勝利か」
アンドレアモンは手元の端末を穴をあける勢いで読み進めている。残りの期間と調教をかんがえ、出走し勝てるレースを探す為だった。
―この世界における未勝利戦は、トライアウト、生き残り戦のような側面が強い。異世界でどれだけ戦績を残していても、入学する時期によってはなかなか勝てないことも多々ある。そして一日に何度も行われるものでもないので―
「やっぱりこの時期になると登録数が多いなぁ…」
ほぼ16頭以上出走する未勝利戦は激戦の様相を呈していた。
目頭を押さえ疲れた目を休ませる。出れたとして2レース、そう考えるとなかなか登録が進まない。椅子に深く持たれかけて伸びをしていると不意に肩がたたかれた。
「よっ」
「ひゃあ!って昨日の!びっくりしたぁ…」
「ごめんな、隣いいか?」
見ればトレーナーは分厚いファイルをいくつか腕に抱えていた。どうやら空いているテーブルを探しているようだ。アンドレアモンはどうぞ、と右手を差し出して答えた。
「トレーナー、さんは何をなさってるんですか?沢山資料を集めてるみたいですけど」
「あぁ。チームの打診があってな、今在籍ウマ娘について目を通しているんだ」
トレセン学園ではトレーナーがチームを主催することがある。スカウトや入部テストを経て所属することができれば、施設利用の優遇やトレーナーによる指導を得ることができる。とあってその競争率は激しいものだ。
正直なところ今のアンドレアモンにとっては縁のない話だと思っていた。勿論羨望の思いはあるが。
そんな表情が出ていたのか、トレーナーは困ったような表情を浮かべながら尋ねる。
「…なにかあったのか?」
「その…何もないからこうなったというか…」
アンドレアモンはトレーナーに今の状況を説明した。
目を閉じて腕を組んで黙って聞いていたトレーナーは、聞き終わるや否やアンドレアモンを質問攻めににした。
「前走からの増減は?タイムは?脚質末脚で言われたことはないか?」
「ま、待って下さい!い、いきなりいわれても」
困惑するアンドレアモンに、トレーナーはファイルをめくりながら続けた。
「そんな話を聞いてしまったら手助けてしてやりたくなるのがトレーナーってもんだ。昨日の恩返しとでも思ってくれ。…迷惑か?」
「い、いえそんなことは!で、でもいいんでしょうか、私なんかが…。それにトレーナーさんだってお忙しいのでは?」
チームの結成もあるのでは、と心配するアンドレアモンだったが、トレーナーは<リギル><スピカ>の2チームがあるためになかなか割って入るのが難しく路線が定まっていないと説明した。
正直に言えばトレーナーをほぼ独占できるのは願ってもないことだ。このような状況ならば尚更だ。
「おねがいします!トレーナーさん!」
「トレーナー、でいい。頑張って一勝、もぎ取ろうな」
「はい!」
勝利、学園在籍に向けて希望が見えてきた、ようであったが、アンドレアモンの心中にはどこか引っかかるものがあった。
窓の外で、強い風が欅がなびかせた。