ウマ娘 ~ダート・ダート・ダート!!~ 作:フジキセキ
「アンドレアモン!頭が高くなってるぞ!」
「はい!」
トレセン学園の調教施設の一角に、トレーナーとアンドレアモンの姿があった。ロードランナーの上で懸命に足を上げるアンドレアモンの額には大粒の汗が輝いている。
「よし、一度休憩にしようか」
「は、はい…」
トレーナーがロードランナーのスイッチを操作すると、ベルトの巻き取りはだんだんとゆっくりとなり、やがて止まる。荒い息をしながらアンドレアモンもその足運びを徐々に落とし、数分ぶりに床に足をつけた。
「お疲れ様、なかなかいい感じじゃないか。体力面では申し分ないぞ」
「そ、そうですか?ありがとうございます…こんなバテバテですけど…」
アンドレアモンは呼吸を整えようと大きく息をはいた。トレーナーと共に勝利に向かって歩み始めてから一週間が経とうとしていた。ここまでで砂路や坂路での走り込みを中心に調整を行っている。
メニュー自体は変哲のないものであるが、それでもアンドレアモンの中では今までにない、確かな充足感があった。
「ストライドもピッチもそこまで悪くない、順調だな」
「…でもやっぱり不安の方が強いです」
とはいえ完全に心機一転、と吹っ切れたわけではなかった。心に影を落とす唯一の懸念、その一週間前のやり取りを思い出す。
アンドレアモンは立ち上がるとそっと窓を開けた。
*
「えぇ!?ダートですか?」
さて一週間前、資料室で再び相見えた二人はアンドレアモンの一勝のために協力関係となった。その後いざ登録するレースを決めようとなった際の、トレーナーの発言こそ、冒頭の彼女の驚きの原因である。
目を見開き、口がふさがらないアンドレアモン。それもそのはず、彼女は今までレースでダートコースを走った経験が無い。一般的に芝とは求められるものが違うとも言われているダートレースに出走することは博打を打つのに等しいとも思えた。
困惑しきるアンドレアモンを横目にトレーナーは意気揚々と説明を続けた。
「アンドレアモンさんにダートの適性がある可能性もあるだろ?こういう状況なら試してみるのもありだと思うんだ」
「あ、呼び捨てで構いませんよ、トレーナー。…そういうもの、でしょうか」
というのも、アンドレアモンの血統、これを見る限りあまり自分がダート向きのウマ娘であるとはなかなか思えなかったためだ。確かに長距離の得意な親類はいるし、秋天や菊花に出たウマ娘もいるがこれは当然芝のウマ娘だ。
これを知っているわけだから、ダートが得意と考えることはなかなか難しい。
「それにな…」
「なんでしょうか?」
首を小さく傾げた彼女に、トレーナーは微笑みながら言う。
「これはまぁ、勘だけど…アンドレアモン、君はダートで走りそうな気がするんだよ」
不思議な人だとアンドレアモンは思った。まだ出会ってすぐだというのに、落第の烙印を押されかけている自分に、初めて出会ったからと肩入れして。
しかしそこに打算的な物を感じない。突飛な提案であっても受け入れてみよう、そう彼女は感じた。
「わかりました、次走はダートでいきます!」
*
ダートと芝ではまず走り方が違うと言われる。
芝が得意なウマ娘は、後足では強靭なバネ、キック力を活かして前に進み、前足は地面を払うようにして前に伸ばす。
対してダートが得意なウマ娘は、前足を上に持ち上げて地面を叩きつけるような走り方が一般的だ。
砂路では足が沈みこむため、芝の走り方では上手くいかないことが多い。
走り方の習得に始まった二人の特訓は二週間の間続いた。レースの日は刻一刻と近づいている。