遊戯王GX ふたりぼっちの僕たちは   作:未OCGのアルカナフォース達に未来を!

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こちらは17話の続きになっています。ぜひそちらを見てからお読みいただけると喜びます。


18話 ふたりかくれんぼ

「くっ……私のターン、ドロー!」

 

 カードを引いた深月の表情が明るくなる。……良いカードを引いたようだ。深月はドローしかカードとは別のカードをデュエルディスクに置く。

 

「私は魔法カード【融合】を発動!フィールドの【モーツァルト】と【カノン】を融合!今こそ舞台へ、融合召喚!」

 

 深月の前に赤と青色の渦が現れ、2体のモンスターが飲み込まれる。

 

「来て、【幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト】!」

 

 指揮棒が空間を切り裂き、楽譜に溢れた世界の中から音姫が現れる。

 

攻2400→2700→3200

 

「バトル!【幻奏の音女エレジー】で、【デストーイ・チェーン・シープ】を攻撃!」

 

 2体のモンスターの攻撃力は同じ2800。しかしアリアの効果で、破壊されるのはチェーン・シープだけだ。

 

「デストーイ・バックアップ!」

 

 再び鎖が巻き上がる。

 

守2000

 

「【幻奏の音女アリア】で、復活した【チェーン・シープ】を攻撃よ!」

 

 アリアの歌声から音符が現れ、それが石の様にチェーン・シープを打ち付け、破壊する。

 

「【マイスタリン・シューベルト】で、【ホイールソウ・ライオ】を攻撃!ウェーブ・オブ・ザ・グレイト!」

 

 シューベルトの足元から植物のように五線譜が現れ、ホイールソウ・ライオを締め付ける。

 身動きのとれないライオンを、シューベルトはナイフのような指揮棒で一閃。切り裂いた。

 

「くっ……」

 

LP4000→3200

 

「よっしゃあ!ダメージを与えたぜ!」

「ここから逆転ッスよ!星見さん!」

「……シニョーラ深月。どうか、シニョール遊陽を取り戻してほしいノーネ……」

 

 このデュエルで初めて僕のライフが削られ、デュエルを見ていた皆が盛り上がる。

 ……でも、深月は彼らを見ていない。相変わらず据わった目で僕を見つめている。

 

「最後に、【ソナタ】で【ファーニマル・ドッグ】を攻撃!」

 

 これで僕のフィールドは全滅。

 

「もう遊陽を守るモンスターは居ない。そうよ、あなたを守るのは私だもの!……ねぇ、目を覚ましてよ、遊陽!」

「……目なら覚めてるよ。これが本当の僕だから」

「……そんな筈ないわ!やっぱり、私が助けてあげないと……!私はカードを――」

「おっと、バトルフェイズ終了時に罠カードを発動。【拮抗勝負】!このカードはバトルフェイズの終わりに発動できる。僕のフィールドのカードが深月より少ない時、深月はお互いのフィールドが同じ枚数になるように自分のカードを裏側表示で除外しなければならない」

 

 対象を取らず、破壊でもない除去カード。これも深月のために用意していたものだ。残すカードは深月が選べるとはいえ、一気に多くのモンスターを撃退できる。

 

「僕のフィールドは【デストーイ・ファクトリー】と【拮抗勝負】の2枚。さぁ、深月はどれを選ぶの?」

「……私は、【アリア】と【シューベルト】を残すわ」

 

アリア攻2400→1900→1600

シューベルト攻3200→2700→2400

 

「カードを1枚セット。ターンエンドよ」

 

 

深月 LP2200 手札1

モンスター:アリア シューベルト

魔法・罠:セット

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 ……このターンで終わらせられるだろう。

 

「……だいぶ数は減ったとはいえ、優勢なのは深月だね」

「そうかしら、でも油断はしないわよ」

「……降参、してくれないかな」

 

 僕のその発言に、皆がどよめく。

 

「何を言ってるのよ遊陽!それじゃあなたを助けられないじゃない!」

「でも深月が勝っても、僕は助けられないよ」

 

 深月が目を見開く。据わっていた目は急に僕を視線から外して動きだす。

 

「僕は最初にこう言った。僕が負ければ、僕はぬいぐるみに戻るって。つまり深月が勝てば、僕はただのぬいぐるみになってしまう。このルールは、どっちが勝っても君をぬいぐるみにしないためだけの物だからね」

「……そんな、じゃあ、私はどうすれば……」

 

 深月が頭を抱える。

 

「ちょ、ちょっと待て黒野!ぬいぐるみに戻る(・ ・)とはどういう事だ!?」

 

 万丈目君はかなり鋭い様だ。

 

「……た、確かにそうッス!」

「言い間違いじゃねーのか?」

「いいえ、十代。彼は最初のルール説明でこう言っていたわ。敗者はぬいぐるみに変わる(・ ・ ・)って」

 

 僕の正体を察してきたのだろう。皆が僕を見る目が、化け物を見る目へと変わっていく。

 

「……ひとりかくれんぼ」

 

 大徳寺先生が呟いた。

 

「……ぬいぐるみを使ってデュエルモンスターズの精霊を呼び寄せる、降霊術の一種だニャ」

「な、何を言っているんですか大徳寺先生!」

 

 三沢君が動揺した様子で大徳寺先生に問い掛けた。

 

「遊陽君、君はもしかして……デュエルモンスターズの精霊なのかニャ?」

 

 突拍子も無い、馬鹿馬鹿しく、オカルティックな話。

 きっと闇のデュエルに関わる前は、皆そんなものフィクションだと笑い飛ばしていただろう。

 でも、闇のデュエルというオカルティックな事が現在進行形で起きている今、その言葉にはかつてない信憑性が宿る。

 

「……流石は大徳寺先生ですね。その通り。僕はパッチワーク・ファーニマルの精霊で……深月がずっと昔に持っていたぬいぐるみだよ」

 

 

 

「はい、深月ちゃん。お誕生日プレゼントだよ」

「わー、くまさんだ!ありがとうおじいちゃん、おばあちゃん!」

 

 頭が痛い。覚えていない筈なのに、懐かしくて暖かい光景。

 そうだ。私には、大好きなおじいちゃんとおばあちゃんがいた。

 両親は2人の事を嫌っていた様だけど、私にとっては数少ない味方だった。

 そんな2人が私の5才の誕生日にくれたのが、天使のような羽を持った栗色のクマのぬいぐるみ。

 両親は私がそのぬいぐるみさえあれば大人しくなることを理解していたのか、ぬいぐるみを壊したりはしてこなかった。

 私にとっての友達は、そのぬいぐるみだけだった。いつでもそのぬいぐるみと一緒に居た。外で遊ぶときも、寝るときも。ぬいぐるみと一緒にお歌を歌って、おままごとをして。

 ぬいぐるみは泥や砂で汚れてしまってボロボロだったけど、笑っていた。

 ……ぬいぐるみだから表情が変わらないのは、当然なのだけど。

 小学生に上がってからは、流石に学校に持っていくことは無くなった。

 それでも、苛められていた私にとって唯一の友達だったことには変わり無い。

 毎日今日どんな事があったのかお話しした。楽しいこと、凄いこと……辛いこと。

 だけどある日、耐えられなくなった。

 祖父母が亡くなった。

 たったひとつだった居場所が消えてしまった。

 寂しくなって、悲しくなって。

 アパートのベランダから下を見下ろし、いっそ飛び降りてみようかとも考えた。

 そんな時だった。■■■■に出会ったのは。

 ……頭に靄が掛かって誰だったのかは思い出せない。けど、何があったのかは思い出せる。私は教えてもらったのだ。

 

 友達を作るおまじないを。

 

 可愛らしいぬいぐるみ。とても大切なぬいぐるみ。その腹を裂き綿を抜き、代わりにお米を詰めましょう。

 可愛かったぬいぐるみ。大切だったぬいぐるみ。あなたの血を垂らしましょう。真っ赤な糸で縫いましょう。

 ちょっと不気味なぬいぐるみ。それはあなたのぬいぐるみ。最後に、言い聞かせるように、染み込ませるように。

 

「最初の鬼は、わたしだよ」

 

 時刻は深夜の2時3時。部屋の明かりは消しましょう。

 お風呂一杯にお湯を張り、そこに『あなた』を沈めましょう。

 テレビをつけてチャンネル替えて、砂嵐だけを映しましょう。

 刃物を持って犠牲者見つけ、刺し貫いて斬りましょう。そしてこう呟きましょう。

 

「次の鬼は、あなただよ」

 

 

 

「……僕はデュエルモンスターズの精霊だった。かといって所有者もなく、ただ空中を浮遊しているお化けみたいなものだったかな。でも僕はある日、強い力で引き寄せられたんだ」

 

 深月を指差す。

 

「深月が始めた降霊術、ひとりかくれんぼによってね」

「……私、が……?」

「深月は覚えていないよ。その記憶は闇のアイテムによって消されたから。僕はぬいぐるみの中に閉じ込められ……そしてハサミで貫かれた。痛かった。苦しかったよ。深月」

「……ぁ……」

「僕は君を恨んだ。せっかく体を、命を手に入れたのに、それをすぐに奪われてしまうなんて。でもそれと同時に、僕にぬいぐるみ自身の記憶が流れてきた。君に大切にされてきた、友達としての記憶が」

 

 そう。今の僕にはぬいぐるみの記憶がある。深月と一緒に歌を歌って、遊んで、毎日楽しく過ごしていた。

 

「……最初は、君を殺すつもりだった。でも、出来なかった。記憶の中の優しい君が、こんなおぞましいことをしてしまうほど追い詰められていたんだって思うとね」

「な、何なんだ?その、ひとりかくれんぼってのは……」

 

 十代君はいまいち理解できていない様子で頭をかく。

 

「さっきも言った通り、ぬいぐるみを使った降霊術だニャ。ぬいぐるみから綿を取り出して臓器の替わりになるお米と、魂の替わりになる自分の体の一部を詰め込む。そしてそのぬいぐるみを刃物で刺して殺し、自分は隠れる。するとぬいぐるみが動きだしたり、様々な怪奇現象が起きるとされているのニャ」

「……こ、怖いッス……」

「そうだニャ。これは自分の魂を他の体に分け、しかもそれを自らの手で殺すという、自分を呪う呪術でもあるのニャ。引き寄せられた精霊は魂を手に入れ、動き出す前に殺されてしまう。その恨みの力が、実行者に不幸を呼び寄せるのニャ」

 

 深月がどうやってこの呪いを知ったのかは知らないけど、僕は感謝しておいた方が良いのかもしれない。

 

「僕は君を殺せなかった。むしろ君を守りたいとさえ感じていた。でも僕はボロボロのぬいぐるみ。出来ることなど限られている。そんな時、僕はセブンスターズを纏めるあの人に出会ったんだ」

 

 その人はとても頭が良くオカルトにも造詣が深かった。僕の事をすぐに理解し、錬金術師らしい人の助けを借りて、僕の肉体を錬成した。そしてそれを維持するために、闇のアイテムである金色のイヤーカフまで貰った。

 僕は深月に危害を加えない限りは彼らに協力すると約束し、彼らも僕や深月にたくさんの支援をしてくれた。

 

「でも、三幻魔が復活すれば世界は滅びちまうんだろ!?それが星見の幸せになるのかよ!」

「十代。君達は三幻魔が世界を滅ぼすものだと思っているみたいだけど……それは違うよ。もちろん、それを手に入れて滅ぼそうと思えばできるだろうけどね」

「何!?」

「僕が彼に協力するのは、彼への恩返しだけじゃない。彼の求める先が深月に危害を及ぼさないからだよ」

 

 以前聞いた事がある。三幻魔を手に入れて、何がしたいのか。世界を滅ぼすだなんて言い出したのなら協力を止めるつもりだったけど、彼の目的を聞いて納得はできた。人間の目指すところは、結局は『そこ』なのだろう。

 

「だから安心して負けてよ。深月以外の皆も。深月の幸せには君達も必要だ。だからぬいぐるみになったとしても、三幻魔が解放された後で君達もちゃんと解放してあげる」

「……私の幸せって、何よ。そこに遊陽はいるの?」

 

 深月が僕を見つめる。今までとは違う、深い悲しみに染まった瞳で。

 

「……いないよ。三幻魔は復活する際に、デュエルモンスターズの精霊を生け贄として喰らう。僕もそのうちの1つになるんだ……それに、僕は元々君に危害を加える存在なんだ。今の僕は、深月を愛しているけどね」

 

 そしてそれと同時に、彼女に対する恨みの感情も心の奥底で燃えているのが事実。

 殺されたパッチワーク・ファーニマルとしての人格と、大切にされてきたぬいぐるみとしての人格。その2つが混ざった僕は不安定なのだ。

 そんな危険なものの側に、深月をおいておくわけにはいかない。

 

「さぁ、答えを聞かせて、深月。降参、してくれないかな?」

「……嫌よ」

「……深月」

「ぬいぐるみに戻ったとしても、また同じことをするわ!」

「っ!?それはダメだよ。また僕が呼び出されるとは限らない。もっと危険なものを呼んでしまう恐れだって――」

「だったら何度でもやってやるわ!遊陽がまた来てくれるまで、私は私を呪い続ける!諦めたりしない!」

 

 深月が本気の目をしている。このまま僕が負ければ、彼女は本当に僕を呼び出せるまでひとりかくれんぼを繰り返すのだろう。

 

「……それなら、僕も負けるわけにはいかないね……これが、僕の本気だよ」

 

 僕は手札のカード1枚を、デュエルディスクに置いた。

 

「……魔法カード発動【魔玩具融合(デストーイ・フュージョン)】。墓地の融合素材モンスターをゲームから除外して、【デストーイ】と名のつく融合モンスターを融合召喚する!」

「させない!私は負けたくないの!私は【マイスタリン・シューベルト】の効果を発動!……遊陽の融合モンスターは、【エッジインプ】と【ファーニマル】の組み合わせで召喚される。なら、その内どちらかが居なければ融合召喚は出来ない!遊陽の墓地から【エッジインプ・シザー】、【チェーン】、【ソウ】の3体を除外するわ!」

「来ると思ったよ。チェーンして速攻魔法カード【皆既日蝕の書】を発動!フィールドのモンスターを全て裏側表示にする!」

 

 僕の頭上に現れた太陽を月が覆い隠し、フィールドが暗い闇に包まれる。

 

「カミューラの時と同じよ!」

「じゃあ星見さんのモンスターは……」

「チッ、戦闘で破壊され、効果の対象にされてしまう!」

 

 カミューラは厄介な事をしてくれたけど、この手段を思い付いたのは彼女のお陰でもある。

 

「でも、発動した効果は無効にならないわ!」

 

 3体のエッジインプが除外されていく。

 

「融合できるモンスターが居なければ、その効果は不発になる!」

「……うん。居なければ、ね」

 

 僕の足元に水色とピンクの渦が現れ、広がっていく。

 

「僕は墓地の【デストーイ・シザー・ベアー】と【デストーイ・チェーン・シープ】と【デストーイ・ホイールソウ・ライオ】の3体を除外し、融合させる!」

 

 深月の表情が驚愕と絶望に染まる。

 

「3体の融合モンスターを、融合素材にしただと!?」

「……知らない。何よ、今までそんなカード、使ったこと無いじゃない」

「……うん。深月の前でこのカードを使うのは初めてだね。これが僕の本気。このデッキに眠る、最強の魔玩具!」

 

 3体のデストーイが渦に飲まれ、その体を融かし合う。

 

「愛する人の幸福のため、刃向かうものを根刮ぎ滅ぼせ!融合召喚!全ての玩具の結合魔獣、【デストーイ・マッド・キマイラ】!」

 

 地面が揺れる。バランスを崩し転びそうになる皆を、巨大な3つの頭が笑う。1つはクマ。所々から綿の飛び出たぬいぐるみ。1つはライオン。工具が突き刺さりタテガミも無いが、その瞳は獲物を逃がすことなく捕らえている。1つはヒツジ。綿毛を全て刈り取られた禿げ頭。

 びっくり箱から飛び出した様な、子供の見る悪夢そのものの姿。遊ばれ、捨てられた玩具達のなれの果て。

 

攻2800

 

 今までのデストーイ達の2倍はあるだろうその巨躯で、深月のフィールドを見下ろした。

 

「な、何ナノーネこの恐ろしいモンスターハ……?」

 

 ぬいぐるみ達は笑っている。彼らは表情を変えないから。どれだけ恨みを抱いていても、どれだけ怒りを感じていても、その顔は笑顔から変わらない。

 

「……これが、遊陽の、切り札……」

「その通りだよ」

 

 このマッド・キマイラは、融合素材とした3体の能力を、ちょっと変わった形で引き継いでいる。

 

「大丈夫。あの人とは約束してあるよ。深月は三幻魔が支配した世界でその一角を手に入れられるんだ。そこでは皆が深月を崇め、敬い、従うんだ。素晴らしい世界でしょ深月?もう君は苛められたりしない!君が幸せに過ごせる世界が完成するんだ!」

「遊陽がいない世界で、私が幸せな筈無いわ!」

「……それなら、今度は僕の記憶ごと消してしまおうか。君は安心していて良いんだよ。深月」

 

 深月の顔が青ざめていく。

 

「……嫌。遊陽の事を忘れるなんて嫌……!」

「そう思ってた事も思い出せなくなるんだから平気だよ。現に深月は、自分がひとりかくれんぼをしたことも覚えていないでしょ?」

「……負けない。負けたくない……!」

「……僕は【エッジインプ・DTモドキ】を召喚。その効果で【マッド・キマイラ】のステータスをコピーするよ」

 

 僕のフィールドに現れた赤ん坊の様な玩具の影が、キマイラへと変わる。

 

攻1300→2800

 

「さらに装備魔法【ジャンク・アタック】を【マッド・キマイラ】に装備させ、バトル!【DTモドキ】で裏側表示の【幻想の音女アリア】を攻撃!マッド・トイパーティー!」

 

 ゆっくりと動き出したマッド・キマイラの影の中からおもちゃのミサイルが放たれる。

 

「っ、セットした【光子化(フォトナイズ)】は、私のフィールドに光属性モンスターが存在しなければ発動できない……」

 

 攻撃宣言時には深月のフィールドに光属性モンスターはいない。そして表側表示になる頃にはその発動タイミングを逃している。

 

守1200

 

 闇の中から目を覚ましたアリアが、ミサイルにぶつかり爆発する。

 

「続けて【マッド・キマイラ】で【シューベルト】を攻撃!マッド・トイパーティー!」

 

 再びクマが口を開け、ミサイルを打ち出す。

 闇の中からマイスタリン・シューベルトが現れ、マッド・キマイラの前に現れる。

 

守2000

 

「私の【幻奏】が戦闘を行うとき、手札の【幻想の音女スコア】の効果を発動するわ!相手モンスターの攻撃力を、0にする!」

 

 深月の手札から音女が現れる。音女が歌うと五線譜がフィールドを覆い、それがマッド・キマイラを包もうとする。

 

「【マッド・キマイラ】の効果!このカードが戦闘を行う場合、相手はカードの効果を発動できないよ!」

 

 しかし、それは突如現れた鎖によって遮られる。剥げたヒツジの首からは無数の鎖が伸び、それがスコアのカードを縛り付けている。

 

「そんな……!?」

 

 再び放たれたミサイルは防がれることなく、シューベルトは消え去った。

 

「この瞬間、【マッド・キマイラ】の効果を発動!このカードが戦闘で破壊したモンスターを、僕のフィールドに攻撃力を半分にして特殊召喚する!」

 

 ライオンの首から無数の糸が伸びる。地面に突き刺さったそれは、墓地のマイスタリン・シューベルトに巻き付き、操り人形のようにして僕のフィールドに連れてくる。

 

攻2400→1200

 

「【マッド・キマイラ】の攻撃力は、元々の持ち主が相手となるモンスターをコントロールしているとき、1体につき300ポイントアップするよ!」

 

 シューベルトを操る糸からそのエネルギーを吸収し、マッド・キマイラは雄叫びをあげる。

 

攻2800→3100

 

「さらに【マッド・キマイラ】に装備された【ジャンク・アタック】の効果を発動。戦闘で破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを深月に与えるよ」

 

 マッド・キマイラの周囲にガラクタの群れが現れ、それが深月を襲う。

 

「きゃぁぁっ!!」

 

LP2200→1000

 

 これで深月のフィールドはがら空きだ。

 

「……僕はずっと君を見てきた。ぬいぐるみとして、それ以降は1人の人間として」

「……遊陽」

「だから僕は知ってるよ。君は1人じゃ何も出来ない。沢山のモンスターを呼び出すのは、君が友達を沢山作りたいから。でも君のセットした【光子化】も、君の手札の【スコア】も、君がひとりぼっちの時には助けてくれない」

「っ……!」

 

 深月の足が震え、座り込んでしまう。

 

「……でも大丈夫。君の友達はここにいるよ」

 

 僕は僕のフィールドのシューベルトを指差す。

 

「僕の言う通りにすれば、もう君はひとりぼっちにはならない。君は幸せになれるんだ。だからおいでよ、深月」

 

 糸に操られたシューベルトが、深月の前まで歩いていく。

 

「僕の勝ちだよ。【シューベルト】、深月を連れてきてあげて」

 

 シューベルトが深月に手をさしのべる。

 

「……ぁ、遊陽……」

 

 深月は震える手で、すがるように、その手をつかんだ。

 

LP1000→0

 

 そのまま気を失った深月を抱き抱え、シューベルトが僕の前に現れる。

 僕が深月を床に寝かせると、マッド・キマイラ達は消え去った。

 

「……君は、本当に彼女が幸せになれると思っているのニャ?」

「思っていますよ先生。僕の恩人は残酷で簡単に部下を切り捨てる様な人ですけど、約束は守りますから」

「……そうじゃない。そうじゃないのニャ……」

 

 深月を御姫様抱っこしてあげたいのは山々だけど、残念ながらそんな力はない。

 僕は眠っている深月の体を揺り起こす。

 

「起きて、深月。幸せな世界が待ってるよ」

「……はい」

 

 普段元気な彼女からは想像も出来ない抑揚の無い声。

 目を覚ました深月は起き上がり、僕に向けて笑みを浮かべる。その瞳に光は宿っていない。

 

「……じゃあね、皆。今日は疲れちゃったから、また明日以降来てよ」

「待てよ遊陽!俺とデュエルを――!」

 

 入り口で停滞していた黒い霧が十代達を包み込み、この廃寮の外まで追い出した。

 

「それじゃあ、いこうか深月。2階に広い部屋があったでしょ?あそこは僕の拠点なんだ」

 

 肝試しに行こうだなんて言われたときにはドキリとした。掃除はしてないけど、僕がいるだけでドアノブや床に積もる埃は減っていく。廃寮なのに綺麗に見えるのはその為だ……まぁ、他にも誰かがよく通っていた様だけど。

 

「……はい」

「……深月。何時もみたいに話してよ。いつも通りの口調でさ」

「分かったわ、遊陽」

 

 深月は笑顔を浮かべる。

 作り物めいた、美しい笑顔を。




~カード紹介のコーナー~

デストーイ・マッド・キマイラ
融合・効果/星8/闇属性/悪魔族/攻2800/守2000
「デストーイ」モンスター×3
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
「デストーイ・マッド・キマイラ」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠・モンスターの効果を発動できない。
(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。そのモンスターの攻撃力を半分にして自分フィールドに特殊召喚する。
(3):このカードの攻撃力は、元々の持ち主が相手となる
自分フィールドのモンスターの数×300アップする。

現在のファーニマルデッキの切り札。なんで攻撃力半分にしたのコンマイさん。
とても重くて出しにくいですが見た目は本当に好きです。当初はアリアも操って2体で殴る予定だったのですが、コントロール奪取効果はターンに1回だったので泣く泣くジャンク・アタックを採用する流れになりました。


第18話でした。主人公はどこへ向かおうと言うのか。
それではまた次回、お会いできればうれしいですー
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