遊戯王GX ふたりぼっちの僕たちは 作:未OCGのアルカナフォース達に未来を!
「十代君、大丈夫かしら」
「……うん。あの後から様子がおかしいし、心配だよ」
授業中の私語はいけないとは分かっているけど、深月とついつい話してしまう。
十代がエド・フェニックスに敗北した。その後十代はスランプに陥ってしまった様で、まったくデュエルをしていない。
佐藤先生の授業も、あまり耳に入ってこなかった。
授業が終わると、僕の机の周りに女子生徒が集まってくる。
「ね、ねぇ黒野君!勉強で教えてほしいところがあるんだけど……」
「黒野君、アンティデュエルの犯人を捕まえたって本当?」
クロノス先生の依頼を受けて犯人を捕まえた辺りから、女子生徒が集まってくるようになった。
「犯人を捕まえたのは僕じゃなくて1年生の子だし、勉強なら鏡泉君に聞いた方が分かりやすいと思うよ?」
そう言ってあしらおうとはしているが、
「でも、鏡泉君って他の寮の人に教えたりしてて忙しそうだし……ダメかな?黒野君」
このように大抵の場合は引き下がってくれないのだ。
「ふん。じゃあ私、バイトに行くから」
僕がうまくあしらえないでいると、深月が機嫌を悪くして教室を出ていってしまう。
深月以外には興味がないから正直邪魔なのだけど、深月の交友関係の事を考えると酷いことを言うわけにもいかない。
「深月!……ごめんね。僕もアルバイトがあるから。教えられる時間はないかな」
「「えー!」」
僕はすぐに席を立ち、購買部へ向かう深月を追いかけた。
深月は廊下を普段よりも5割程速く歩いていた。僕は軽く走って彼女に追い付き、声をかける。
「深月……機嫌、悪いの?」
深月はだんだんと歩く速度を遅めて行き、立ち止まる。
「……別に。気にしてないわよ」
「……僕はあんまり人の気持ちが分からないから、何て言えば分からないけど……」
僕は周囲に人がいないことを確認すると、彼女の頭に手を置いて撫でる。
「深月が望む限り、僕はずっと深月の側にいるよ」
深月は振り返ると、僕を不安そうな瞳で見つめた。
「……じゃあ、もし、もしも私が遊陽の事を嫌いになったら……」
「……うん。深月が僕の事を嫌いになったら、僕は君には近づかないよ。考えたくはないけどね」
「……遊陽は、遊陽自身は、私と……」
その後の言葉は、僕が聞き取れないほど小さな声で呟かれてしまう。
「何?」
「ううん、何でもないわ!ほら、トメさんも待ってるわよ!」
深月は急に明るい声を出すと、僕の手を取り歩き出す。でも明るいのは声だけだ。どこか無理をしているような、そんな気がする。
僕は深月と一緒に居たい。だけど元々人間じゃなかった僕は、人が何を言われたいのか分からない。
僕たちは黙りこんだまま、購買部に辿り着いた。
その日のアルバイトは、何だかぎくしゃくしてしまっていた。終始雑談もできず、ただレジを打ったり掃除をしたりするだけ。
「はい。これで今日はお仕舞いだね。また明日も頼むよ?」
「はい。お先に失礼しますね、トメさん」
「ありがとうございました」
深月が更衣室へ行ったのを確認すると、トメさんが僕に話し掛けてくる。
「どうしたんだい二人とも、喧嘩でもしたのかい?」
「喧嘩……なのでしょうか。最近、深月の機嫌が悪いみたいで……」
「何かあったのかい?」
「うーん……最近、けっこう女子に話し掛けられるようになった事以外は……」
「それよ遊陽ちゃん!遊陽ちゃんは深月ちゃんの事、好きなんでしょ?」
「はい。大好きです」
トメさんはそう言った僕を微笑ましく見ると、僕の肩をポンポンと叩き話し出す。
「なら、それをちゃんと伝えなきゃ!深月ちゃんを安心させてあげなよ!」
「安心?」
「そこから先は自分で考えるのよ。女心ってのは難しいけどねぇ」
ずっと深月の事しか見てこなかったから、深月の事は分かっているつもりだ。でも、女子と言うものがどう言うものなのか、いまいち掴めていない。
「頑張るのよ」
「はい。ありがとうございます!」
それでも、深月を幸せにするためには、このままじゃいけない事は分かってる。
購買部の制服からアカデミアの制服に着替えると、外で深月が待っていてくれた。
「深月、待っててくれたんだね」
「う、うん……私、この後レッド寮に行くんだけど……」
その先の言葉を言いづらそうにしている。深月は素直な性格だからこんなことは少なかったけど、これが女心……なのかな?
「良かったら、僕も一緒に行って良いかな?」
「……!うん!行きましょ、遊陽!」
深月は顔をパァっと明るくすると、ニッコリと笑う。
うん。やっぱり深月は笑っているのが一番だ。僕たちは校舎を出て、かなり離れた位置にあるレッド寮へと歩いていく。
「そういえば、レッド寮に何か用があるの?」
「明日香に会いに行くのよ」
「天上院さんは女子寮に居るんじゃ?」
「今はレッド寮に居るみたい。なんだか最近、クロノス校長とナポレオン教頭がレッド寮を潰そうとしてるみたいなの」
「2人が?」
クロノス校長は1年生の時はレッド寮を蛇蝎のごとく嫌っていたけど、最近ではとても良い先生だ。そんな先生がレッド寮を潰すだなんて考えにくいけど……。
「それで最近、レッド寮を守ろうって話になってね、丸藤君とか三沢君とかもレッド寮に集まっているの」
「それでレッド寮に……クロノス校長には悪いけど、僕もレッド寮の取り潰しには反対かなぁ」
今レッド寮にいる人を皆イエローにあげた上で……という話なら良いかもしれないけど、きっと退学にでもするのだろう。丸藤君は2年になってイエローになったけど、十代はレッド寮のままだ。
崖の近くにあるオンボロの建物が見えてくる。あれがレッド寮だ。でもその隣に、何かしっかりとした造りの建物が建っている。
「なんかグレードアップされてるわね」
「うん。レッド寮自体はそのままだけど……あれはなんだろう」
新しく建てられたらしいその建物に近づき、扉をノックする。するとガチャリと扉が開き、天上院さんが出てきた。
「明日香!ここは何?」
「深月、それに黒野君も来てくれたのね。ここは万丈目君が建てたんだけど、今は私が使わせてもらってるの」
建物に入る。そこはレッド寮とは思えないほど快適な空間だった。広い1階にはソファや椅子、テレビもあり、2階まである。
僕らの他にも既に何人か来ているようだ。三沢君に丸藤君、万丈目君と……誰だろう、筋肉が凄いラーイエローの生徒だ。
「えっと……どちら様だドン?」
「……ドン?」
あまりに聞いたことのない不思議な語尾につい聞き返してしまう。
「えっと……僕は黒野遊陽。オベリスクブルーの2年生だよ」
「私は星見深月。遊陽と同じオベリスクブルーの2年よ」
僕達の自己紹介を聞くと、そのイエローの生徒も立ち上がって自己紹介を始める。
「俺はラーイエローの1年にして十代のアニキの弟分、ティラノ剣山だドン!」
「十代の?」
「そうザウルス!」
「ふ、不思議な言葉遣いね……?」
深月も失礼な言動にならないよう気を付けているのか、疑問形になってしまっている。個性の塊のような人物だ。
「ちょっと!アニキの弟分は僕だけで十分ッスよ!」
「まぁ落ち着くんだ翔。黒野達もよく来てくれた」
「騒がしいやつらめ……」
十代は相変わらず部屋に籠ってしまっている様だ。ご飯を食べに食堂までやっては来るけど、その後は帰ってしまうらしい。
どうしたら彼を元気付けられるのか話し合っていると、外からウクレレの音が聞こえてくる。
僕達は建物を出て音源を探すと、ボートの上に立つ、アロハシャツを着た顔の良い男性がこちらに手を振っていた。
「おーい、あーすかー!」
「ど、どちら様ザウルス?」
「……年長さんだ」
天上院明日香の兄、天上院吹雪先輩だ。
天上院先輩は崖を軽く登り、僕達の前に立つ。
「やぁ皆!それに明日香!」
「こんなところまで何しに来たのよ兄さん」
「決まっているだろう?君をブルー寮に連れ戻すためさ!」
その言葉に続けて、さらに崖から誰かが登ってくる。ダイビングスーツを着てボートを背負ったクロノス校長だ。
「クロノス校長!?」
「シニョーラ深月、それにシニョーラ明日香。今日は貴女達に大切な話をしに来ましたーノ」
クロノス校長は背負ったボートを置くと、そのまま喋り始める。
「えー、貴女達ニーハ、オベリスクブルーに新設されるアイドル学部に移ってもらうノーネ」
「先生、その話はお断りした筈です!」
「えっと、アイドル学部?」
前々から話されていた様子の天上院さんとは対照的に、深月は何も聞いていなかった様で首をかしげている。
「そこから先は僕が説明しよう。星見さん!君のルックス、そして歌声、運動神経!どれをとっても一流のアイドルに相応しい金の卵さ!」
「は……はぁ……?」
「星見さんにはアスリンとユニットを組み、このデュエルアカデミア初のアイドルユニットとして、一世を風靡して貰いたいんだ!」
……。
脳が理解を拒んでいる。
「む、無理です無理です!私、アイドルなんて絶対無理です!」
「そんなことは無いさ!僕が完璧にプロデュースしてみせる!君達ならきっと世界を勝ち取れる!華麗な衣装を着て、世界を舞台に歌うんだ!」
天上院先輩はアイドルと言うものを熱弁し始める。
「良い!」
「良くない!」
何を想像したのか顔を真っ赤にした万丈目君が叫ぶと、天上院さんに怒られてしまう。
「ちょっと待って下さい。深月の気持ちはどうなんですか?」
深月と天上院先輩の間に立つ。深月がそれを望むなら止めたりはしないけど、嫌がっているのならアイドルなんてやらせる訳にはいかない。
「黒野君……。君は見たくないのかい?彼女が大舞台で華やかに歌う姿を!」
華麗な衣装を着て歌う深月……うん。見たい。見たいけど、大切なのは彼女の意志だ。
「……見たいですけど、深月の意見が一番大切です。深月は、アイドルになりたい?」
「……ごめんなさい。私にアイドルなんて出来ないわ」
「何故だい?歌は好きじゃないのかい?」
「歌は好きよ。でも、アイドルって歌うだけじゃない。踊ったり、お話ししたり、皆を笑顔にしたり……」
「それなら大丈夫さ!トークスキルやダンスの仕方も、手取り足取り教えてあげよう!……な、何だ?急に悪寒が」
変なことを言い出した先輩を睨み付けると、彼は急に体を震わせる。今はそんな気温じゃないんだけどなぁ。
「……歌手にはなりたいと思っているわ」
「本当かい?」
「……うん。私、歌が大好きだから。でも、もし私が歌の世界に進むなら、歌をオマケにしたくないの」
正直な話、それほど歌が上手くなくても歌手をしている人は何人もいる。トーク、ビジュアル、面白さ、発想力。歌だけで勝負をしている人なんてほとんどいないし、評価するものが人である以上、歌だけで評価するのはとてもじゃないが無理だ。深月の様なルックスがあればなおさら。
「シニョーラ深月……」
深月の言葉に感動しているのか、クロノス校長がしんみりとしている。
天上院先輩は真剣な表情になると、深月に語る。
「うん。それは素敵な夢だ……でも、歌だけで勝負していけるほど、芸能界は甘くないよ。評価点が歌しかないのなら、他の人の何倍も上手くなければ注目はされない」
「……分かってます。でも、それでも私は、まずは歌で評価してほしいんです」
深月のその真剣な表情を見て、天上院先輩はため息をついた。
「なるほどね。うん。良い顔をしているよ……あぁ、表情という意味でね」
天上院先輩はうなずくと、両手を広げる。
「こうなれば仕方がない!ユニットを組むのは断念して、アスリンはアイドル、星見さんは歌手としてプロデュースを――」
「ええっ!?」
この人、何がなんでも深月を芸能界に連れていくつもりらしい。
「え、えっと……その……まだ歌手になると決めた訳じゃ」
「……深月をプロデュースしたいなら、僕が相手になりますよ」
「遊陽!?」
「黒野君!?」
啖呵を切った僕の言葉に深月と天上院さんの2人が驚く。
「君は……」
「先輩は芸能界を良く知ってるのでしょう。けど、深月のことは僕が誰よりも知っています」
「ゆ、遊陽……」
「だから!深月のプロデューサーをするのはこの僕です!」
「遊陽!?」
決して悪い人ではないのだろうけど、このちゃらんぽらんな人に深月を任せたくはない。それにプロデュースするなら誰か一人に集中するべきだろう。
「……ふっ、良いだろう。僕が勝ったなら、星見さんとアスリンは僕がプロデュースするとしよう」
「僕が勝てば、僕が深月をプロデュースします」
「ちょっと待って遊陽私今すぐ歌手になるなんて一言も」
僕と天上院先輩の間に火花が散る。
「な、なんか大事になってきたドン……」
「く、黒野君が壊れたッス……」
「……私、どちらにしてもアイドルにされてないかしら」
「こ、これはもう仕方ないなぁ天上院君!」
「黒野、お前はこれで良かったのか……?」
僕と天上院先輩のデュエルは、その次の日に行われることになった。
天上院先輩は、丸藤先輩の唯一のライバルと呼ばれていたほどのデュエリストだ。
普段の態度からは全く想像できないけど。
『えー、シニョーラアンドシニョール、これより、シニョール吹雪とシニョール遊陽のデュエルを行うノーネ!』
歓声が聞こえてくる。かなりの人数がこのデュエルを見に集まっているみたいだ。
『僕の指差す先に何が見える?』
『『『天!!』』』
『ん~JOIN!』
会場には先に天上院先輩が入場した様で、女子達の黄色い悲鳴が聞こえてくる。
今の掛け声が格好良い……のかな?女心とはなんとも難しい……。
『続いて、シニョール遊陽の入場ナノーネ!』
急遽用意したのかは不明だけど、僕の方の出口から霧が発生し、その中を歩いていく。
霧吹きのようなものなのだろう。ひんやりとしていて心地が良い。霧がだんだんと晴れて僕の姿が現れると、先程よりも少ないとはいえ女子達の声が聞こえてくる。
『黒野くーん!』
『がんばれー!』
深月や天上院さんのものじゃない。声のした方を見ると、同じ学年の普段あまり関わりのない女子達が応援していた。
僕は軽く手を振って応えると、深月達が座っているところを見る。……十代は来ていない様だ。深月がちょっと不機嫌そうにこちらを見ている。……もしかして、あんまり他の女子とは関わってほしくないのかな?それなら、応援してくれていた彼女達には悪いけどあまり反応しない方が良いのかもしれない。
「君も中々やるねぇ黒野君。どうだい?僕と一緒にアイドルになってくれても良いんだよ?」
「僕は運動神経が悪いので踊れませんよ。それに、深月が僕を好きでいてくれる限り、彼女から離れるつもりもありません」
「愛、だね」
「はい。さぁ、始めましょうか先輩」
「「デュエル!!」」
遊陽 VS 吹雪
「僕の先攻だね、ドロー!さぁ、アスリン、そして星見さん!よく見ておくんだよ、芸能界とはどういうものかを!僕は【野獣戦士ピューマン】を召喚!」
空間を切り裂き、黒豹の戦士が現れる。
攻1600
「【野獣戦士ピューマン】……?」
「そうとも!【ピューマン】は智略と巧みな剣技で敵を翻弄する孤高の戦士!そして彼はとある人物の師匠たる存在なのさ。アスリン達に対する僕のようにね」
……なんだろう。若干鏡泉君に近い空気を感じる。女子人気は圧倒的に先輩の方が良いのだろうけど。
「【野獣戦士ピューマン】の効果を発動!自身を生け贄とし、最高の弟子である【異次元エスパー・スター・ロビン】を手札に加える。【強欲なカケラ】を発動し、カードを1枚セット。ターンエンドさ!」
吹雪 LP4000 手札4
モンスター:無し
魔法・罠:強欲なカケラ セット
モンスターをサーチしたのは良いけどフィールドはがら空きだ。でも相手はあの天上院先輩。油断はできない。
「僕は【ファーニマル・ドッグ】を召喚!」
僕の前に、可愛らしい羽の生えたイヌのぬいぐるみが飛び出してくる。
攻1700
「【ファーニマル・ドッグ】の召喚に成功したとき、デッキから【ファーニマル・ベア】を手札に加えるよ」
ファーニマル・ドッグが1枚のカードを咥えてやってくる。僕はそのカードを受けとると、頭を撫でてあげた。
「バトル!【ファーニマル・ドッグ】でダイレクトアタック!」
ワン!と吠えたファーニマル・ドッグが飛び上がり、天上院先輩にその牙を向く。
「待った!といわせて貰おうか!永続罠【リビングデッドの呼び声】を発動し、蘇れ、【野獣戦士ピューマン】!」
天上院先輩の足元が割れ、現れた黒豹の戦士がファーニマル・ドッグの攻撃をいなす。
攻1600
「それでもステータスでは勝っています!攻撃を続行!」
体勢を建て直したファーニマル・ドッグが、黒豹へと狙いを変え噛みつく。
「それもさせないよ!手札の【ビビット騎士】の効果!自分の獣戦士族・光属性モンスターが攻撃の対象になったとき、そのモンスターを除外することで、このカードを手札から特殊召喚できるのさ!」
窮地に立たされた黒豹の手を引いて後ろへと下げ、ウサギの騎士が華麗に入れ替わる。
攻1700
「攻撃力が同じ……相討ちはあまりしたくないですね。カードを1枚セット。ターンエンドです」
遊陽 LP4000 手札5
モンスター:ファーニマル・ドッグ
魔法・罠:セット
「ふふふ、安心してくれよ黒野君。彼女達は必ず、立派な芸能人へと成長させて見せるさ!」
まだデュエルは始まったばかり。それでも天上院先輩からは、今までとは違う圧倒的なプレッシャーを感じていた。
高ステータスのモンスターを展開する吹雪。苦戦する遊陽の前に、異次元を駆けるあのスターが現れる!
次回、「深月がアイドル!?(後編) スター・ロビンよ
申し訳程度の獣戦士族要素。
スター繋がりと言うことで、吹雪さんにはスター・ロビンデッキを使ってもらう運びとなりました。
本気を出すときは真紅眼なのでしょうけど、芸能界とはこうだ!と言うものを教えてくれるデッキの筈……?
それでは、また次回も読んでいただけたら嬉しいです!
ではでは!
追記
誤字報告ありがとうございます!