遊戯王GX ふたりぼっちの僕たちは 作:未OCGのアルカナフォース達に未来を!
『驚かせちゃってごめんね』
『ほんとよ!……まぁでも、私のためにデュエルしてくれたのは、嬉しかったわ』
遊陽が天上院先輩とデュエルした日の夜。カーテンを閉めきった部屋で、電話越しに彼の声を聞く。
遊陽が私をプロデュースする、だなんて言い出したときにはビックリしたけど、実は少しだけ嬉しかった。プロデューサーって言うことは、常に一緒にいることになるわけで……うん。卒業後も、遊陽と一緒に居たい。
『……でも、進路、かぁ。来年にはもうある程度決めておかなくちゃいけないのね』
『そうだね。就職したり、大学へ行ったり、プロデュエリストになったり……』
『本当に歌手になったり、アイドル……は無いけど、そんな進路も無くはないわね』
私は……何をしたいのだろう。デュエルアカデミアに来たけど、実のところプロデュエリストになろうとは思っていない。……じゃあ何で入学したのかと問われれば……遊陽が居るから。それだけだ。
遊陽はデュエルアカデミアにどうしても入学しなければいけないと言っていたから。……まぁ、まさか理事長の下で働く闇のデュエリストだとは思わなかったけど。
『……ねぇ、遊陽は、何か進路の事を考えてるの?』
『僕?……うーん。あんまり考えてないや。……2年生になれるとは思ってなかったし』
『そう、よね』
『でも、みんなには感謝してるよ。こうして今も深月と電話できて……嬉しいよ』
遊陽と会話しながら、私は昔の事を思い出す。
遊陽とは随分長く一緒にいる。彼と初めて会ったのは……正確には、人の体を手に入れた彼と初めて会ったのは、小学3年生の頃だ。
今でも思い出そうとするとモヤが掛かって思い出せないけど、■■の■に出会った私は、ぬいぐるみにデュエルモンスターズの精霊を宿らせる降霊術を教わった。
でも『彼』は、それを私に『友達をつくるおまじない』と嘘をついていたのだ。
……結果的には、嘘ではなかったけど。
「やーいやーい!」
「ケバいばばあの子だ!ケバ子だ!」
「お前の父ちゃんが母ちゃんとは違う女と一緒にいるのを見たって、うちの母ちゃんが言ってたぜ!」
……私は、苛められていた。
私の両親は、あまり褒められはしない職業だった。どちらも夜の町の住人。私はホストとホステスの娘。
なんでそんな2人が結婚したのかなんて私には興味は無いけど、2人の仲自体はとても良かった。
どちらも異性を相手にする職業だからか顔は良く、それを引き継いだ私も、他の人からは美人だと言われていた。
「あんたが俊介君をユーワクしたのね!」
「ひどいわ!俊介君は晴海ちゃんのものなのに!」
「なんの話よ!そもそも俊介って誰よ?」
「呼び捨て……!?あんたなんかが俊介君を呼び捨てにするなんて、許せないわ!」
その顔のせいで、男子だけじゃなく女子からも苛められた。
私の事を好きになった男子が居て。その人を好きな女子が、私の事を恨んだそうだ。
家にも居場所はなかった。父からはいやらしい視線で見られ、母からはそれを嫉妬された。
そんな地獄のようなある日、彼は突然私の前に現れた。
「それじゃあ今日は、新しいお友だちを紹介するぞ」
先生に指示され、教室に入ってくる男の子。長めの栗色の髪に赤い瞳。一瞬だけ女の子かと思ってしまうような容姿だ。
「……黒野遊陽です。よろしくお願いします」
遊陽はニコリとも笑うことなく、クラスメイト達を憎々しげに睨み付けていた。
初めて出会う筈なのに、何でそんな表情をするのだろう。それが少し不思議だった。
「それじゃあ黒野は……星見の隣に座ってくれ」
「……はい」
彼は先生にも敵対的な視線を向けると、私の隣の席に座り、微笑みかけてきた。
「よろしくね、星見さん」
それは、私にとってほとんど無い体験だった。私に微笑みを向けてくれたのは、祖父母だけだったから。
「ぁ……うん。よろしく」
しどろもどろな答え方になってしまったけど、遊陽は特に気にしている様子はなかった。
隣の席と言うこともあってか、彼とは自然に一緒に行動する時間が増えた。遊陽とは話が弾み、私はその頃初めて学校に行くのが楽しみになっていた。
「おい転校生!おまえケバ子に近づいちゃダメだぞ!」
「……どうして?」
「ケバ子の親は悪い人なんだ。だからケバ子も悪い奴なんだぞ!」
遊陽に私の悪口を吹き込もうとした人は何人もいた。でも、
「星見さんは悪い子じゃないよ。転校してきた僕とよく話してくれるから」
遊陽がそれに乗ることは無かった。
それどころか今まで以上に私と一緒に居てくれる様になった。
「なんだと!?生意気なやつだ!」
でも、遊陽まで苛められるようになってしまった。私は女子だから暴力を振るわれる事は無かったけど、遊陽は違った。同じ学年にしてはガタイの良い男子が集まっては、遊陽を私の目の前でボコボコにしていった。
「ごめんね……ごめんね……私のせいで……」
「ううん。星見さんは悪くないよ」
遊陽は反撃することなく、男子達はますます調子に乗っていった。
……とある日までは。
「ねぇ、出して……」
暗い、暗い部屋。扉は閉ざされたまま開かない。体育館の倉庫に、私はひとりで閉じ込められていた。
「出して……暑いよ……出して…よ……」
喉はカラカラだ。真夏日の夜。空調なんてものは無く、空気の通り道は小さな窓しかない。
体育の授業が終わった後、遊陽は男子達に連れていかれ、私は女子達に倉庫に閉じ込められてしまった。
太陽は既に沈み、月と星の光だけが、辛うじて私の視界を照らしてくれている。
それでももう体力の限界だった。
「深月ちゃん!」
開けられる扉。いくつもの懐中電灯の光が目に刺さる。
遊陽は私の手を取り、倉庫から助け出してくれる。遊陽の近くには数人の大人がいた。後々聞いた話によると大人達は学校の警備員さんや先生だったらしい。
私は取り敢えずスポーツドリンクを飲まされ、病院へと送られる。
幸いにも入院することは無かったけど、学校を何日か休むことになってしまった。
その頃から、私を取り巻く環境は良くなっていった。
まず最初に、私の両親が警察に捕まった。児童虐待がどうたら……と言う話だったけど、良くわからない。祖父母は既に他界していて私を引き取ってくれる人は居なかったから、私は施設に送られる事になった。
幸か不幸か元いた学校とは近くにある施設で、通学先が変わることはなかった。
休み明けに学校に行くと、何故か皆がやたらビクビクとした様子で私を見て、謝ってきたのだ。
だけど一人だけ謝って来ない人がいた。
「けっ、暑いだけでズル休みしてんじゃねーよ!」
私の事をケバ子と呼んでいた男子だ。彼は周囲の皆が止めるのも厭わず、私に向けづかづかと歩いてくる。
「ねぇ、俊介君。確か君ってデュエルモンスターズをやってたよね?」
「あぁ?なんだよ?」
間に割り込んだ遊陽を睨み付ける。遊陽はデュエルモンスターズのカードの束を男子に見せ、ニッコリと笑った。
「僕もやってるんだよ。良かったらデュエルしてみない?」
「お前、俺が強いの知らないだろ?カードショップの大会でも優勝したんだぜ!」
その頃は皆デュエルディスクなんて持っていなかったから、机の上にカードを置いてデュエルする。
「ごめんね深月ちゃん。取りこぼしがあったみたいで」
「取りこぼし……?」
「うん。すぐに深月ちゃんを苛めた事、後悔させてあげるから」
デュエルは終始、遊陽が有利に進めていく。でも至って普通のデュエルだった。おかしくなってきたのは、男子のライフが1000を下回った頃から。
「な、なんだ?周りが……暗い……?」
暗い、暑い。そんなことを言い始めた。お昼だから暗いことはないし、教室の中は涼しかったのに。
「な、なんだよコレ……!お前がなにかやったのかよ!?」
「……深月ちゃんがどれだけ苦しかったと思う?」
「は、はぁ?」
「僕を殴るのは構わないけど、深月ちゃんに手を出したのは許せないよ」
「い、意味わかんねーし!俺は【呪われし魔剣】を召喚して直接攻撃!」
攻1400
LP4000→2600
遊陽のライフが減ると、彼の額から汗が流れ始める。冷や汗や緊張の類いではないだろう、暑さによる汗だ。
「僕のターン、僕は【くいぐるみ】を召喚」
攻1200
「さらに装備魔法【孤毒の剣】を発動して【くいぐるみ】に装備するよ。そして【呪われし魔剣】を攻撃!」
「はっ!【呪われし魔剣】の方が強いモンスターなんだぜ?」
「【孤毒の剣】は、装備モンスターの攻撃力を倍にするよ」
攻1200→2400
「な、なんだと!?」
LP1000→0
男子のライフが0になる。ソリッドビジョンなどは無いから、遊陽は淡々とデッキを片付けていく。
「……ぁ……暑い……暑いよぉ!」
だけど男子は違う。急にジタバタと暴れ始めた。体中からは汗が滝の様に溢れだしている。
「暗いよ!なんも見えねぇ!ここはどこだよ!」
その異様な光景に、クラスメイト達が彼を助けようとはしなかった。
皆……正確には私を倉庫に閉じ込めたメンバーは、遊陽の顔色を伺うようにして、震えていた。
「……深月ちゃんの事、好きだったんでしょ?でも、それじゃあ思いは伝わらない。愛する人を傷つけてどうするの?」
遊陽はデッキを仕舞うと、床に倒れ動きが鈍くなってきた男子を見下す。
「ぁぁ……助けて、助けてよぉ……」
「っ!なんで皆助けないのよ!」
私は男子に駆け寄り、下敷きで風を送る。それでも男子の体調は悪化するばかりだ。
「……深月ちゃんは、嬉しくないの?」
「何がよ?大変なのよ?」
「……君を苛めていた人が苦しんでいるのに、嬉しくないの?」
遊陽は心底不思議そうに私を見て、首をかしげた。
「この人の事は嫌い。でも、苦しんでほしい訳じゃないの」
「……難しいんだね、人間って」
当時は分からなかったその言葉の意味も、今では理解できる。なんで突然あの男子が苦しんだのかも。
あれはきっと、闇のデュエルだったんだ。ライフポイントが0になったものは、私が味わった苦しみを受けることになる。きっと私を苛めていた他の皆もやられていたのだろう。だから皆、遊陽の事を恐れていたのだ。
「余計なお世話だったのかな。ごめんね」
遊陽が自分の耳についた何かを触ると、男子が落ち着き始める。私達は皆で協力して男子を保健室へ送り、その後は私達に対する苛めはなくなった。
とは言え、苛めの対象が恐怖の対象に変わっただけなので、友達が増えたりはしなかったけど。
誰も教師や親に密告することは無かった。報復が恐ろしかったのだろう。
デュエルモンスターズを始めたのはこの頃。私を守ってくれた遊陽が遊んでいたゲーム。興味を抱かないわけが無かった。
「――だから、レベル5以上のモンスターはそのまま出せないんだよ」
「なら、今の私の手札で召喚できるのは……【音女】ね」
攻1200
今のデッキには入ってないけど、この音女と言うモンスターは私の宝物だ。私がデュエルモンスターズを始めたいと言ったとき、遊陽がくれた最初のカード。私が幻奏デッキを使うのは、このモンスターと出会っていたからかもしれない。
「私は【ダブルアタック】を発動。手札のレベル6モンスター、【逆転の女神】を捨てて、そのモンスターよりレベルの低い【音女】はこのターン2回攻撃できるわ!」
LP2000→800→0
「うん!凄いよ深月ちゃん!これなら来週の大会でもバッチリだね」
遊陽と一緒に色んな大会に出た。カードショップが開催しているような小さな大会だったけど、それでも私達はデュエルモンスターズの腕をメキメキと上達させていった。
中学校は、クラスメイトがほとんど進学しなかった少し離れた所へ行った。前の学校での出来事を知らない人がほとんどで、私が施設から来ていると知っても苛められることは無くなっていった。
「おい黒野!相変わらずお前はヒョロっちぃなぁ!」
「運動は苦手だから……」
「苦手苦手って逃げてんじゃねーよ!今日こそ勝負だ!」
「遊陽にしか勝負挑まないくせに。自分が勝てる相手だけに喧嘩売るのやめたら?格好悪いわよ」
「は、はぁ!?」
しかし今度は遊陽がその対象になっていった。あまり男の子らしい見た目でもなく、勉強はできるけど運動がほとんどできなかった遊陽は格好の対象だった。
男子達から呼び出され、殴られる。この頃の遊陽はいつも傷だらけだった。
……だから私は頑張った。勉強も、運動も、デュエルも。遊陽を守ることができるように。彼に恩を返せる様に。
『私も、遊陽と一緒に居られて嬉しいわ』
色々あったけど、今となっては良い思い出……なのかな。遊陽は私の想いを受け入れてくれた。大好きだと言ってくれた。
……でも遊陽は、私の事を必要としてくれているのかな?
必要だと思ってくれている筈だ。そう信じたい。
遊陽は私のお願いに何でも応えてくれる。でも、遊陽が私に何かお願いしてきた事はない。
私は、遊陽にとって必要ない存在なのではないか。たまにそんな考えが頭をよぎり、どうしようもない不安に苛まれる。
『深月?』
『ううん。何でもないわよ』
最近、遊陽が他の女子と話す機会が増えた。子供っぽいとは分かっているけど、どうしても嫉妬してしまう。私の方がずっと昔から、遊陽の事を想っているのに。
『最近、色んな人とお喋りしてるわね』
……あぁ。言ってしまった。文句を言いたい訳じゃない。確かめたいだけなのに。
『……うん。深月達のお陰で体も丈夫になったし、それが原因かな?』
『そう……』
言葉を選ぶように、遊陽は慎重に喋っているように感じる。
『……』
『でも、やっぱり深月とお話ししているのが一番楽しいよ』
『……!』
顔のニヤケが止まらない。我ながらチョロい。たった一言そう言われてしまうだけで、嬉しさが溢れてくる。
『み、深月?』
『ぇへへ……あっ、何?』
『ううん。起きてるなら大丈夫だよ。もう夜も遅いし、今日はこのくらいにしようか?』
『そうね』
そう言って電話を切ろうとしたとき、私の部屋に誰かが入ってくる。
「深月!」
「明日香!こんな時間にどうしたのよ?」
「大変よ、十代が行方不明なの!」
十代が行方不明になったことで、少しずつ学園はおかしくなっていく。夜道をひとり歩く深月の前に現れたのは、斎王と名乗る男だった。
次回、「揺蕩う月に光差す」
幕間その2、遊陽と深月の過去編でした。
くいぐるみと音女は名前以外のステータスが同じモンスターなんですよね。だからどうと言うわけでは無いのですが。
ようやく次回は斎王様の出番です。アニメオリカが結構多い人なので、この作品でもアニメオリカを使用します。
それでは、また次回も読んでいただけると嬉しいです!
ではではー!