遊戯王GX ふたりぼっちの僕たちは   作:未OCGのアルカナフォース達に未来を!

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逆位置の『戦車』:暴走、挫折、好戦的。


38話 暴走少女の突撃デュエル!(前編)

 鳥のさえずる声が聞こえる。朝だ。僕はぼんやりとした目を擦り背伸びをする。

 そういえば昨日、深月から電話がかかってくることは無かった。僕から電話をかけても出なかったし、何かあったのだろうか。

 心配だけど男子の僕が女子寮に行くわけにはいかない。深月は毎朝男子寮の前で僕を待っていてくれている。僕は寝巻きから制服に着替えると、デッキとデュエルディスクを手に男子寮を出る。

 

「遊陽、おはよう!」

 

 深月の声だ。元気そうだし何かあった訳じゃなさそうだ。

 ……そんな考えは、直ぐに消えることになる。

 僕は振り向いて深月を見つけて――絶句した。

 

「どうしたの?遊陽」

 

 深月の制服は白かった。

 万丈目君が着ていたものと同じ色合いの、女子の制服だ。

 

「深月……その、服は……?」

 

 僕がそう聞くと、深月は嬉しそうに語り始める。

 

「この服?素敵でしょ?斎王様から頂いたの!」

 

 全身から血の気が引いていく。深月の表情はあまりにもいつも通りだ。だけど『斎王様』だなんて、彼女の口からは絶対に出そうにない言葉が飛び出してくる。

 

「……深月?悪い冗談か何か……だよね?」

「そんなはず無いじゃない!昨日ね、斎王様に教えていただいたの!運命を享受することの素晴らしさを。光の尊さを」

 

 斎王様について語る彼女は恍惚としている。まるで、恋い焦がれた人間の好きなところを語る乙女のように。

 

「深月……どうしちゃったの?君はそんなことを言う人じゃ」

「目を覚まさせていただいたのよ。今までの無知で愚かだった私とは違う。世界が輝いて見えるもの!」

 

 深月はそう言うと、僕の右腕をつかみ、身体全体を使って抱き付いてくる。

 

「それじゃ、行きましょ?遊陽」

「……ダメだよ。目を覚まして深月!」

 

 たった1日でこうも変わるわけがない。斎王と言う人が、深月や万丈目君をおかしくしたのだろう。

 僕は彼女の肩を掴み、語りかける。

 

「目なら覚めてるわ。これがあるべき私なの。今までの私が眠っていただけよ」

 

 でも、僕の声が届くことはない。深月は元気一杯の輝く笑顔で僕の手を引き歩き始める。

 

「……斎王って言う人は、どこにいるの?」

「……!もしかして、光の結社に入りたいの?」

「光の結社が何かは分からないけど、それが今の深月の事なら、入りたいとは思わないよ」

「そう……残念。斎王様の場所は私にもわからないの。でもいつかはここに来るはずよ?」

「……そっか」

 

 斎王。もし会う機会があれば、深月を元に戻させてやる。深月の望むことなら僕は何だってやる。けれど、今の彼女の状態は、彼女が望んでなったものとは思えない。

 深月はいつも以上に僕と接触してくる。いつもの彼女だったら嬉しかっただろうけど、今は喜んでいる場合じゃない。

 深月は僕の手を掴んだまま教室へと入る。いつもなら絶対にしないような行動だ。いつも僕の回りに集まってきていた女子達が、僕たちを見てヒソヒソと話していた。

 深月は彼女達を冷ややかな目で笑うと、僕の隣の席に座る。

 

「やぁ遊陽君!」

 

 僕の後ろから声が聞こえる。鏡泉君だ。両隣には右橋君と左河君もいる。

 鏡泉君は深月を見ると、彼女に聞こえないよう僕に耳打ちする。

 

「……何か、あったのかい?」

「……うん。変な人に影響されちゃったみたいで……」

「変な人?」

「嘘っぽいかな……?」

「……君が彼女の事で嘘をつくとは思わないサ。何か困ったことがあったら、何時でも相談して来るんだヨ」

「ありがとう、鏡泉君」

 

 深月は僕の手を掴んだまま離さない。そんな複雑な時間を過ごしていると、1限目の担当である終理先生が教壇へと登る。

 

「いやぁお待たせお待たせ!それじゃあ授業を始めようか!」

 

 終理先生も、いつもと変わった様子はない……服装以外は。

 

「……深月」

「何?」

「終理先生も、深月の仲間なの?」

「ええ。彼も斎王様にお仕えし光を導く、光の結社の一員よ」

 

 終理先生が着ているのは、教員用のコートを白く染めた物だ。もしかしてと思ったけど、やっぱり。

 生徒からの指摘は『イメチェン』と言うことにしている様だ。もしかして、自分が光の結社だと言うことを隠したいのかな?

 あまり事を荒立てると深月がどうなるか分からない。慎重に行動しなくちゃ。

 

「……まぁ大体、次のテストの範囲はこんな感じだな。それじゃあ最後に毎度のお待ちかね、怖い話の時間だ!」

 

 終理先生は蝋燭を立てると、教室の明かりを消す。僕の腕を掴む深月の力が強くなり、さらに距離を詰めてくる。

 

「これはとある田舎……いや、最早秘境とでも言うべきかな?遺跡や洞窟を探検することが趣味だった青年はある日、山の奥深くにあると言う、かつて村人同士の争いで滅びた小さな村の跡地にやってきた」

 

 怪談を話す様子もいつも通りだ。……いつも通りだからこそ、その人の心の奥深くまで洗脳が浸透していそうで恐ろしい。

 

「青年はその村から1人だけ逃げ出した老人を連れてきて、何が起こったのかを聞いていた。その村ではある日を境に人が段々と凶暴に成っていき、自滅したのだと言う。村の跡地は凄惨なものだ。焼け落ちた民家の跡に、打ち捨てられた人骨。青年は、何が人を狂わせたのかを知りたくなり、村を隅々まで調べた」

 

 深月は目をぎゅっと締めている。洗脳されていても、怖いものは怖いのかもしれない。

 僕は少しだけためらってから、明かりが付いていないことを良いことに彼女の体を抱き寄せた。

 

「……っ」

「……」

「……」

 

 深月はピクリと反応したけど、直ぐに僕に体重を預けてくる。

 

「突然、老人の顔が青くなっていった。青年は彼を心配し介抱を始めるが、老人はとある一点から目を離さず、うわ言の様に『ミテハイケナイ』と呟き……息絶えた」

 

 見てはいけない、か。怪談のオチは想像できる。

 

「だが、青年は見てしまった。理解してしまった。村に近い山の頂上で踊る何かを。それは白いモヤの様な人型の何かだった。くねくね、くねくね。踊るように形を変えるその姿を見て……青年の精神は崩壊してしまったとさ」

 

 終理先生が蝋燭の火を消し、明かりをつける。

 

「これが世にも怖い都市伝説、『くねくね』だな。くねくね自体も怖いけど……今も青年は崩壊した精神のまま、どこかに居るかもしれない……なんてな」

 

 これで先生の怖い話は15個目だ。1授業に語られるお話の数はランダム。今回はちょっと長めだったから、この1つだけで授業は終わった。

 終理先生以外には光の結社は広まっていない様で、他の先生はいつも通りだ。

 

「黒野君!一緒にお昼食べない?」

「放課後は空いてる?」

 

 午前の授業が終わり昼休みに入り、女子達が集まってきた。いつもなら深月は機嫌を悪くして何処かへ行ってしまうけど、今日は違う。

 深月は立ち上がると、女子達に見せ付けるように僕に抱きつき、言う。

 

「遊陽、お昼のバイトこれからでしょ?トメさんも待ってるわ」

「……うん、そうだね。ごめんね、今からバイトだから」

「遊陽には先約があるの。ごめんなさいね?」

 

 深月の顔は笑っていたけど、瞳の奥底は凍り付いているかのように冷たかった。その冷ややかな視線に怖じ気づいたのか、女子達が1歩下がる。

 

「さ、行きましょ?」

 

 深月は上機嫌にスキップをしながら購買へ向かう。お昼休みの最初の方は、僕達の準備時間なども考えてトメさんがレジを打っている。僕たちは職員専用の入り口から購買に入り、購買部の制服に着替えた。

 購買部の制服には手を加えていない様だ。だから今この瞬間だけなら、深月はいつも通りの彼女だ。

 

「いらっしゃいませ、ドローパンを2つですね」

「いらっしゃいませ、お弁当、暖めますか?」

 

 レジを打っていたトメさんと交代し、お昼の行列をなんとか乗り切る。お昼休みも中盤になれば、売っている商品は少なくなり、お客さんもいなくなる。

 

「それじゃあ、また放課後来てちょうだいね」

「はい」

「お先に失礼します」

 

 これでお昼のバイトは終わり。僕達は売れ残りのお弁当を持って、お昼ご飯が食べられる場所を探す。

 校舎を出ると、2人の生徒が言い争っているのを見かける。

 

「だからよ?そんなアニキとやらより、明日香先輩の方が頼りになるって言ってるんだよ」

「そんなこと無いザウルス!アニキはたまたま調子が悪いだけだドン!」

「もう、やめてよ真希ちゃん」

「そうですわ。一旦落ち着きますのよ」

「真希ちゃんも頑固ねぇ」

「剣山君も言い方が悪かったッスよ!」

 

 有朱さんと剣山君が睨み合っているのを、天上院さんと丸藤君が必死に止めていた。

 天上院さんの側には浜口さんと枕田さんも居て、彼女達も半ば呆れた目で有朱さんを見ている。

 

「……何をしてるの?」

 

 4人に声をかける。天上院さんがこちらを見る。

 

「あら、黒野君。ちょっと困ったことになって――」

 

 そして天上院さんは、僕の隣に立つ白い制服を着た深月に気付いたようだ。

 

「深月?あなたまでその制服を?」

「……ええ。斎王様から頂いた、美しき白の制服よ」

「ど、どうしたんですの深月さん?」

「な、なんかあんた変よ?」

「そうかしら?……そうね。光の素晴らしさを知らない人間からはそう見えるのかもしれないわ」

 

 深月は天上院さん達を冷ややかに笑いながら言う。彼女達とは友達だったはずなのに、今の深月が3人を見る瞳は、教室で女子に向けたあの冷たい瞳と同じだ。

 

「な、何だか怖いッスよ?星見さん」

「そうかしら?仕方ないかもしれないわね。人は往々にして理解出来ない物を怖がる生き物。でも、あなた達にもいつか分かると思うわ。斎王様の素晴らしさが」

「深月」

 

 深月の手を引き、話を止めさせる。

 

「遊陽、どうかしたの?」

 

 彼女は一瞬で元の表情に戻り、僕に笑いかける。

 

「ううん。今はこの喧嘩を止めなくちゃ」

 

 片やヤンキー、片やムキムキの男子。デュエルじゃなくて決闘が始まりそうな空気だ。

 

「そうね、遊陽がそう言うなら。そもそも何でこんなことになってるのよ?」

「それは……」

「まず有朱さんが、明日香さんの事をバカにされたと勘違いしちゃったっス」

 

 何でも剣山君曰く、明日香先輩は強いけど、アニキじゃなくちゃやっぱり不安ザウルス、何て事を言い出したそうだ。それをたまたま聞いていた有朱さんが怒り、十代よりも天上院さんの方が強いと主張。話し合いは平行線で、こんなことになっているらしい。

 

「アニキじゃなくちゃ不安……っていうのは?」

「実は今夜、私エド・フェニックスとデュエルをすることになったの」

「天上院さんが?」

「そうッス。ナポレオン教頭の差し金で、もし明日香さんが負けたら、レッド寮が取り潰されちゃうッス……」

「それで剣山君は、天上院さんよりも十代にデュエルしてほしいって事を話していたんだね」

 

 睨み合っていた2人が動く。互いに距離を取り、デュエルディスクを構えた。

 ……殴り合いにならないのは、やっぱりここがデュエルアカデミアなのだからだろう。

 

「あたしは明日香先輩方の1番の妹分!顔も見たことねぇ行方不明の先輩とやらが、明日香先輩より強いわけねぇだろ!」

「妹分にした覚えはないわ……」

「俺はアニキの1番の弟分!アニキはそう簡単には負けないザウルス!」

「1番は僕の方っス!」

 

 火花が散る。相対する虎と竜の絵が見えたような気がした。

 

「何て言うか、どっちもどっちね」

「……うん。どっちも尊敬が重いって言うか……」

 

「「デュエル!!」」

 

真希 VS 剣山

 

「あたしの先攻っ!ドロー!……良し!あたしはフィールド魔法【シュトロームベルクの金の城】を発動!」

 

 深月を苦しめたあのフィールド魔法だ。有朱さんの背後に巨大な金の城が現れる。

 

「な、なんだドン!?このゴージャスなフィールド魔法は!」

「これはあたしのデッキの中核を成すカード!早速この力を見せてやるぜ!【金の城】の効果を発動!このターンの通常召喚権を放棄する事で、デッキからモンスターを特殊召喚する!来い、【鉄のハンス】!」

 

 金の城の門が開き、有朱さんの前に黄金の光の柱が立ち、その中から大柄な男が現れる。

 

攻1200

 

「ゴージャスなお城からおっさんが出てきたザウルス!」

「おっさんだとぉ……?あたしがずっと一緒に戦ってきたハンスおじさんを、おっさんだと?許さねぇ!【鉄のハンス】の効果を発動!デッキから【鉄の騎士】を特殊召喚!」

 

 鉄のハンスが雄叫びをあげると、それに応えるように鉄の鎧の騎兵が現れる。

 

攻1700

 

「さらに魔法カード【鉄の檻】を発動!【鉄のハンス】をあたしの墓地へ送る」

 

 鉄の檻が地面から生えてきて鉄のハンスを閉じ込め、地下に潜っていく。

 

「自分のモンスターを墓地へ送ったザウルス……!」

「でも、これが真希ちゃんの得意戦術……」

 

 シンデレラとは違って、鉄のハンスを中心としたこの戦術は金の城が無くても成立する。彼女の言動から察するに、金の城を手に入れる前から鉄のハンスをよく使っていたのだろう。

 

「さらに魔法カード【予見通帳】を発動!あたしのデッキのカードを上から3枚、裏側表示で除外する!」

「通帳ザウルス?」

「あぁそうさ!今除外した3枚のカードは、あたしの3回目のスタンバイフェイズ時に手札に加えられる!」

 

 3ターン後に3枚のカードをドローするカード、とも言い換えられる。けど除外されるカードは当然なからサーチ出来なくなるし、金の城の効果で特殊召喚することも出来ない。

 アドバンテージはすごくいいけど、その分リスクも大きいカードだ。

 

「あたしはこれでターンエンド!」

 

 

真希 LP4000 手札3

モンスター:鉄の騎士

魔法・罠:鉄の檻 シュトロームベルクの金の城

 

 

「俺のターン、ドローだドン!」

 

 剣山君がカードをドローする。大体名前と語尾で想像はつくけど、剣山君のデッキは……?

 

「魔法カード【トレード・イン】を発動するドン!手札のレベル8モンスターを捨てて、2枚ドロー!そして、【ジャイアント・レックス】を、攻撃表示で召喚だドン!」

 

 やっぱり恐竜族デッキだ。巨大なレックス……肉食竜が剣山君の前に現れる。

 ワニの様な顔面に、背中には特徴的なヒレの様なもの。スピノサウルスをモチーフとしたモンスターだ。

 

攻2000

 

 レベル4で攻撃力2000。凄く優秀なモンスターだけど、有朱さんのデッキの前じゃ……。

 

「攻撃力1700の【鉄の騎士】じゃ、【ジャイアント・レックス】の敵じゃないドン!攻撃してやるザウルス!」

 

 ジャイアント・レックスが口を大きく開き、鉄の騎士に噛みつこうとする。

 

「かかったな!?【金の城】があるかぎり、あたしのモンスターに攻撃は届かないのさ!」

 

 金の城の輝きが強まり、ジャイアント・レックスの姿が掻き消される。

 

「な、なんだドン!?」

 

LP4000→3000

 

「【シュトロームベルクの金の城】の効果だよ。相手モンスターが攻撃してきたとき、そいつを破壊し、そのコントローラーには攻撃力の半分のダメージをお見舞いしてやるのさ!」

 

 このフィールド魔法は、実質的に攻撃を封じるものだ。深月の幻奏の様に効果破壊に耐性のあるモンスターなら関係はないけど、剣山君はどう対処するのかな?

 

「な、なかなかやるドン……俺はカードを2枚セット!【強欲なカケラ】を発動して、ターンエンドだドン!」

 

 

剣山 LP3000 手札2

モンスター:無し

魔法・罠:強欲なカケラ セット セット




金の城の強力な効果を掻い潜り、剣山は真希に一撃を食らわせる。しかしデッキからモンスターを呼び出す真希のモンスターを一掃することは出来ず……。
次回、「暴走少女の突撃デュエル!(後編)」


祝!お気にいり数70突破!
ここまで皆さんに読んでいただけるとは思っていませんでした。これからも暇潰し程度にはなるよう頑張っていきますので、お付きあいいただけたら嬉しいです!

様子見の主人公。この遅い初動が吉と出るか凶と出るか。大概にして凶と出る決まりなんですけどね。
しかしこの段階ではどうすれば洗脳を解けるかなんて分かるはずもないのです。それこそ運命を見通す力がなければ。
8月も結構忙しいので更新頻度は遅めになります。
それでは、また次回も読んでいただけると嬉しいです!
ではではー!
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