Dances in the night.   作:焼きポテト

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明けぬ夜がないように

 

 流されるままに進み、解放された先には奇遇な人物が立っていた。

 相手方も、こんなところで出会うとは思っていなかったのだろう。瞳を見開いて一瞬だけ呆けていた。

 

「よお、仲村。仲村ゆり。久しぶりだな。戦線メンバーは元気か?」

「……昨日、うちのメンバーをボコボコにしたやつの発言じゃないわね、それ」

 

 それもそうか、と苗字を呼ばれて不愉快そうなゆりに納得の頷きを送る。

 薫としては、ただ娯楽の邪魔をされたから排除したに過ぎない。しかし、それは立場と思考でいくらでも変更可能な認識だ。彼らからしてみれば、不意に現れた敵に撃破されたということなのだろう。

 腰の辺りに忍ばせた大振りなナイフを、彼女の手は掴んでいる。勝てるとは思っていないが、こうして顔をつき合わせたのなら戦わなくてはということだろうか。

 そんな気分でもないので、軽く吐息して口を開いた。

 

「アクティブプログラム『farewell to arms』」

 

 刹那、不明な力場が生成される。

 ゆりの身体から、ナイフとベレッタM92Fが吹き飛んで背後へ落ちる。薫の身体から、カッターナイフと空の薬莢が吹き飛んで背後へ落ちる。

 驚いたのはゆりだけじゃない。少なからず、いつの間に薬莢なんて入り込んだのかと自身でも驚愕していた。

 可能性としては昨日の衝突だが、それにしても奇跡的なことはあるものだ。

 

「あんた、今なにしたの?」

「簡単な手品だよ。昨日だって邪魔だったから排除しただけで、基本的に私はお前達と衝突するつもりもないし。面倒臭いから、いちいち突っかかってこないでくれ」

 

 警戒の色は解けない。

 たかが武装解除した程度でこの反応だ。拳でも振り上げてみせれば、その瞬間に格闘戦でも出来ることだろう。基本スペックに差があり過ぎるせいか、相手にも成らないので喧嘩を売るつもりにもなれないが。

 そもそもこの『farewell to arms』は、設定が曖昧すぎて使い物にならない。相手の武装解除もするが、同時に自身へも効果が適応されてしまう代物だ。

 本来の効果は、全戦闘能力のキャンセル。武装はもちろん殺傷能力のある物体、果ては能力までもキャンセルする。

 薫もかなでも、パッシブな能力を持っているのだが。それですら、一瞬は完璧に無効化されてしまう。

 みんな纏めて無力になろう、とはとても平和的な能力だ。

 

「まあ、お互い不意なエンカウントだ。ここは何も見なかったことにして、さっさと消えることにしよう」

「待ちなさい」

 

 あン? と、飛び出した予想外の言葉に眉根を寄せる。

 穏便に行こう、という提案が飲めないと言うことだろうか? それならすぐにこの場で戦死させてやるが、などと物騒なことを考える薫とは逆に、ゆりは何かを探るように言う。

 

「私たちと敵対するつもりが無いなら、どうして天使の側についてるの?」

「生徒会長側? 面白い冗談だな。私と生徒会長が仲間に見えるのか? 日頃から真面目に授業を受けないせいで、よく追い回されてるよ」

 

 疑問の声が、こんどはゆりから上がった。てっきり仲間だと思っていた二人は、むしろ敵だったらしいなど困惑しか出てこないらしい。

 つまり、薫の立場は無所属。どこにも属さず、自由にやっているだけに過ぎないのだが。どうにも、その辺りに根本的な認識の違いがある

 

「あなた、SSSに入る気は――」

「それこそ、あると思うのか?」

「それもそうね。じゃあ、ちょっとだけ協力する気はない? 報酬をはずむわよ」

 

 報酬という単語に、思わず心が揺れた。

 この世界では、お金やご飯など薫にとって二の次であるのは言うまでもない。何より大切なのは娯楽、彼女らが持つもので自分を釣れるような物など限られてくる。

 故に、何を言い出すかが予想できて餌に食いついた。吐息にも似た興味を示す声に、彼女の頬も笑みが濃くなる。

 

「あなた、ガルデモが好きみたいね。特別席……いいえ、オンリーライブをやってもいいわ。一人のためだけに彼女らが演奏する。素敵じゃない?」

「なるほど、魅力的だ。それを彼女らが享受するかは別としてな。そこまでの報酬を投げ込んで、私に何をさせたいんだ」

「難しいことじゃないわ。あなたがあちら側じゃないというなら彼女と戦えるはず。今日行われるライブに、侵攻してくるはずの天使を止めてほしいの」

 

 作戦内容は言えないが、その陽動として行われるライブを守れ。つまりは、そういうことなのだろう。

 久しくかなでと全力でぶつかっていない。さらにガルデモのシークレットライブは無茶にしても、多少無謀な注文くらいなら一つは聞いてくれる雰囲気だ。

 この二つは、今の適度に退屈だった薫にとって素晴らしく魅力的な提案である。

 ついつい、この二つをどうやって心おきなく右から左まで余さずに楽しもうか考えてしまうくらいには、心が華麗にタップを踏んで踊り始めていた。

 表情も自粛することなく、とてもいい笑みを作っていることだろう。

 

「いい提案だ。引き受けるのもやぶさかではない。だが、いくつか条件もある」

「いいわ、言ってみて」

 

 うん、と頷いて総合体育館を見る。今日のライブは、あそこで行われることになっていた。

 

「まず、誰一人として戦闘に手を出すな。少しでも横槍を入れた瞬間、俺はお前達を未来永劫の敵と考える。安全が保障できるのは、ガルデモとその周辺スタッフくらいだな」

 

 言葉と同時に、ゆりの方へ視線を戻さずに人差し指を上げる。続いて中指を起こし、伝える内容は二つ目の条件だ。

 

「次に、戦闘中は第三者が絶対入ってこれない状況を作れ。興を削がれると、やる気をなくして帰りかねん。俺も生徒会長もな」

 

 続けて薬指を立て、ようやく視線を正面に戻す。

 瞳にいいことを思いついた、とばかりの輝きを灯している。口角はつり上がり、声は嬉しそうに揺れていた。

 

「最後だ。これが一番重要で、必要不可欠なものだ。なに、無茶な注文じゃない。無理をする必要はあるが、そのぐらいで済むなら安いだろう?」

 

 両者は笑う。

 雇用主と雇用者として、余裕のない笑みと余裕のある笑みで、冷や汗がつたう顔と涼やかな表情で、弱者と強者として、絶対的な違いをはらんだまま笑みを作る。

 口の端を奇っ怪に歪ませるほど壮絶な笑顔が、犬歯を剥き出しにしながら言う。

 最後の条件を、自身が楽しむための伏線を、愉快気にのたまった。

 

 

 

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