鳥の鳴き声で目を覚ました。
どうやらいつの間にか寝てしまったらしい。カーテンに覆われたリビングの窓が、朝日に照らされてぼんやりと光っていた。
覚醒したばかりで不明瞭な視界──両の目を手の甲で擦りながらよろよろと立ち上がる。ずっと三角座りの体勢だったせいで体のあちこちが痛い。
おぼつかない足取りで窓へ向かい、カーテンを左右に退ける。柔らかな朝日に照らされて窓にうっすらと映る自分は、自分が思っていたよりもやつれていて、ところどころに包帯や痣が痛々しくあしらわれており、なんとも頼りない有様で。
傷も痣も彼女につけられたものだが、彼女への憤りなどはほんの少しも湧いてこなかった。
彼女は悪くない。彼女は悪くなかった。
自分が悪かったのだ。自分が悪いのだ。
溢れて止まない自責の念に押されるようにして振り向いたダイニングテーブルの上には、ガスマスクがひとつ、朝食代わりとばかりに置かれていた。
およそ普通の家庭にはまず存在し得ないそれに手を伸ばし、装着する。途端に狭くなった視界と息苦しさのまま、つい先程まで自分が背を預けて眠っていたドアのノブに手をかけて回した。
窓のカーテンを開け、アルミサッシに貼り付けられたガムテープをベリベリと剥がしていき、そうやってようやく開け放たれた窓からは清廉な空気が流れ込み、部屋の中に満ちていた毒気を掻き出していく。
毒が排出されるまでベッドに腰掛けて彼女を見やる。ベッドに横たわる彼女の顔は穏やかで、頬には赤味が差していて。
──ああ、なんて美しいんだろう。
歪んだ愛情だとは理解している。理解してはいるが、そう思わずにはいられなかった。
「おはよう」
彼女の頬を優しく撫で、いつも通りの朝の挨拶を──しかし返事はない。寝息もない。
そして彼女がこの美しい相貌を崩すこともない。これから先ずっと。彼女が燻り狂う夜の怪物になって、誰かの血で汚れることも、彼女自身の血で汚されることも、絶対にない。
彼女を救うにはこうするしかなかった。このような形でしか救うことができなかった。どこまでいっても自分は奪うことしかできない人間なのだと、否応なしに再確認させられた。
もうそろそろ換気も済んだだろうとガスマスクを外す。
「
眠ったままの彼女の額にキスをして、リビングへ戻る。クシャクシャに丸めたガムテープの塊をゴミ箱へ無造作に放り投げてから、固定電話の子機を手に取る。
3桁の番号を入力・発信して耳に当てると、3コールもしないうちに繋がった。
「もしもし、警察ですか」
十字架を背負う覚悟はとうにできていた。
だから──無駄な前置きも釈明もなく、ただ単純明快な事実だけを言葉にして受話器の向こうへ吐いた。
「──妻を殺しました」