目的を果たし、シンガポールを後にした私達。
この辺りの独立系群体は私が港湾夏姫と交渉をした事を聞いてあっさりと取引に応じた。ついでにここいらの南方諸国との交渉について聞いたが、どこの群体も日本との交渉には無条件で応じるが、彼らの事は別らしい。
流石にこの件は深追いは出来ない。
私の管轄外もいいところだ。
南方を後にしてついに海峡に入った。
ここを抜ければ西方海域である。
「まさか、ここに来ることになるとはな。」
「ルリさん、ここに何か思い出でも?」
「いや、はじめだ。だが、お前も話にくらいはここの事を聞いた事があるだろ?」
「そりゃあ‥‥まぁ‥‥」
この海峡‥‥
軍属の間ではロングランスと呼ばれた場所である。
現代版アイアンボトム・サウンドとも呼ばれ、深海棲艦の侵攻を阻もうとした人類側の艦隊が最も多く沈んだ所であり、その後に鎮守府が西方を攻略する際に侵入を阻もうとした深海棲艦が最後まで抵抗した場所である。
そのため敵味方の多くの艦が寝る場所である。
交通の要所が墓場だなんてゾッとしない。
「カナ先輩!大丈夫ですか!」
「へ、平気‥‥少し‥‥気分が悪いから、部屋で寝てるね。」
顔色の悪いカナ、ヨウが心配するがニコッと笑って見せると船内へと入っていく。
「カナ!」
「大佐待って!」
心配で様子を見に行こうとした私をヨウが止めた。
「ヨウ、どうして?」
「今はそっとした方が‥‥」
ヨウによれば、
ここはカナは船を沈めた事のある場所であり、同じ隊の仲間をたくさん亡くした場所でもあるらしい。
「ちなみに私の知り合いのタ級もここで沈んでる。」
ルリさん‥‥
「そんな顔をするな雪村。我々は仲間を失う事が当たり前だ。そんなに辛いことじゃない。だが、あの子は違うようだがな。」
カナは‥‥優しい子だ。
優しいからこそ、その優しさが苦しめているの?
「無理やり考えないようにしてたもの。それを今感じているだろう。」
「そんな‥‥」
「だがな、そうしなければあの子は生き延びられなかったはずだ。」
生き延びた代償ってわけですか‥‥
「今更確認する必要なんてないと思うが‥‥あの子を、大事にしてやれよ。」
「分かってます。」
「よし、なら私はそろそろ行こう。ここからは西方のはぐれどもも出てくる。私が先行する。」
「わかりました。くれぐれもお気をつけて。」
「はっ、戦艦の私がはぐれごときに遅れは取らんよ。」
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「フム‥‥」
戦艦ル級ことルリは索敵中にふと考えてしまった。
「あの人間1人で我々がこうも変わるとは‥‥やはり不思議なんて奴だ。」
はじめて合ったのはあの島、敵である私に武器を突き付けられたのにも関わらず私に救いを差し伸べようとしたお人よし。
しかし、そんなアイツになぜか私は助けられようと思った。
私だけではない。他の深海棲艦、姫様にいたるまでアイツに心を許した。本来無謀とも言えるこの任務すら、成功するんではと思えてしまう。
アイツ1人の為に流れは変わろうとしている。
敵対から協和へと‥‥
しかし、その変化の先頭にいるからこそ、これからもアイツは色々な事に物当たるし、その度に悩むのだろう。
やれやれ、アイツは本当に賭事が好きだな‥‥
折角生き残ったのに大変な奴だ‥‥
だからせめて、
「身の安全だけは保証してやろう。うん?」
バッシャー!!
「クッ!」
この威力からして駆逐艦か!?
しまった!余計な事を考えて索敵をおろそかにしたか?
いや、それでもおかしい‥‥私の索敵能力はそこまで馬鹿じゃあない。
おそらく、どこか岩場か入江に隠れてたか?
それならこちらの索敵からも分かりにくい‥‥
「だが、はぐれ駆逐にそんな知能はない!」
となると敵は‥‥
敵が放ったと思われる煙幕、そしてその中から突っ込んで来るのは‥‥
「艦娘か!?」
「はあああああ!」
人型が突っ込んできた!
数は三人程度!
「発射!」
敵は三人同時に魚雷を放つ!
「ちっ!面倒な!」
駆逐艦程度の砲撃ならかすり傷にもならん。
だが、魚雷は別だ!
「ふん!」
戦艦の自分では回避しても間に合わない!
ならばと副砲を使い魚雷を落とす!
「うっ!?」
魚雷を撃たれたのがそんなに衝撃的なのか敵は動揺した。その動揺で生まれたわずかな時間が彼女らの寿命を縮めた。
「御返しだ!」
ルリの正確な主砲の砲撃だ!
敵は直撃して宙を舞った!
「馬鹿な奴等だ。魚雷を囮に背後に回るなり時間差攻撃をするなり工夫すれば私にダメージを通せたのに。」
そればかりかまるで実戦がはじめてかのようなぎごたなさに教本通りの戦い方‥‥
コイツらは明らかにに戦い慣れてない‥‥
つまり鎮守府の艦娘ではないし、そもそもコイツらはからはそんな気配がしない。
「強いて言えばただの人間‥‥これはもしや‥‥」
「ルリさーん!?」
大佐達を乗せたクルーザーが追い付いてきた。
「大丈夫ですか?砲撃が聞こえましたけど。」
「私ならこの通り、しかし、襲撃者がいつもと違った。」
はぐれでも艦娘でもない敵‥‥
コイツに聞くのが一番早い。
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ルリはクルーザーに襲撃者の1人の遺体を乗せた。大佐に見てもらう為だ。
「コイツだ。」
「この軍服は‥‥間違いない!国防軍の物‥‥」
「コイツらはなんだ?艦娘か?艦娘にしてはあまりに戦い慣れしてないが?」
確かに鎮守府が訓練もろくにしてない建造したての艦娘をこんな戦線まで送り込んだりは絶対にしない。
何よりもこの軍服にこのマークは‥‥
ま、まさか‥‥大将閣下の言ってた‥‥
「この子達は‥‥特装兵だと思う。」
「特装兵?あの大戦でお前ら人間が使ったあれか?」
特装兵‥‥
それは技術の力で作り出した擬似艤装を少女に装備させた擬似艦娘の事である。
あの大戦で、日本軍を乗っ取った同盟と言う組織が対深海棲艦の兵器として生み出し、道具として使かわれたらしい。大勢が戦死、生き残りは軍に保護され武装解除。同盟も解散させられたが一部、同盟の残党がまだ残っていると聞いてはいたが‥‥
「この子達も許せないのかな‥‥」
私はこの子とあのシンガポールの子を重ねてしまう。
この子等も戦争の被害者なのに‥‥
「しかし、こんなのがまだ彷徨いてるとはな。」
「うん、まさかこんな所に逃れてまで戦おうとするなんて‥‥」
「‥‥正体はわかった。装備は証拠品として残しておけ。遺体はどうする?」
「海に沈めてあげよう‥‥今はそれぐらいしか。」
「‥‥わかった。」
ルリさんは少女の遺体を海に捨てる。
私はその間ただ黙祷を捧げるだけだった。
本当は日本に連れ還してあげたかったけど。
仮に今日本に引き返してもその頃には彼女の体はもう‥‥
「雪村。」
「何かなルリさん?」
「これだけは持ってやれ。」
「これは‥‥」
ルリさんから渡されたのは3つのダックタグ。
多分彼女達のだろう。
「ありがとうルリさん。」
「‥‥敵に情けをかけるのはいい、だがな、それが理由でお前が苦しむ事にだけはならないような。」