生き残った軍人と潜水艦   作:菜音

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変わり者 11日目

 

 

 

 

「暗い・・・」

 

 

 

一人の少女が海の中で浮かぶ、いや、泳いでいるとも表現できるかもしれない。自分が今どの方向を向いているのかも分からない。

 

 

 

それほど深く暗い所に自分が居る事を理解する。

何故自分がここに存在しているのか分からなかった。

 

 

いや、わかりたくなかった。けれど時が経ち今の自分に慣れてくると、そう、少女はふと考えてしまう。

 

「何故・・・・私はここに居るんだろう・・私は一体・・・誰だったんだろう・・」

 

少女の頭に浮かぶのはそのことばかりだった。

その度にいつも自分を呼ぶ声が頭に響いた。

 

「この声・・・・・・どこかで・・・」

懐かしい誰かの声、しかし思い出せない。

 

 

しかしそれは別の音にかき消される。

そして少女は自分が今居なくてはいけない現実の世界へと帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

少女が目を覚ました場所は先ほどのような海の底ではなく、海の上、それも島を丸々占領して築かれた基地の一角だった。まだ昼で明るい。どうやらここでうたた寝をしていたようだ。

 

自分の周りを確認すると私を起こした音の元凶と思わしき者が立っていた。

 

「ン~ッ、おはようございます。」

背伸びをして体を伸ばしながら挨拶をすると・・・・・・

 

「ようやく起きた!もう!まだ寝る時間ではありませんよ!」

 

彼女は駆逐棲姫・・・・・・

この基地というよりこの周辺海域に展開する深海棲艦艦隊の幹部で私の直属の上官。

 

 

「かなり長い間寝ていたみたいだけど、どうかしたの?」

 

そんなに寝ていたのか。なら誰か起こしてよ。

 

「いえ、またいつもの夢です。それよりも姫がわざわざ起こしてくださるなんて、また出撃ですか?」

 

深海棲艦における姫の存在は絶対である。本来であればこんな怠慢な艦などいたものなら破壊されることだったある。しかし、それをされないのは彼女が部下思いの優しい性格なのもあるが、ひとえにこの深海棲艦の姫達からの信頼と実力による。

 

 

「そうよ、懲りない人間どもがまた艦隊を差し向けて来ているの。だから私の艦隊に迎撃とお返しの指示がきたのよ。」

 

お返しって可愛く言ってはいるが実際は奴らの本土に空爆しろってことだろう。

 

「それ、別に私達の艦隊でなくとも・・・・・・」

 

その位ならば何も姫率いる艦隊でなくとも1部隊のみで十分だろうに

 

「残念!これは上からの命令よ!」

 

上からって・・・・・・

ここであなたより上はあの人くらいしかいないでしょう?

 

「あの方の命令なら仕方ないですね。」

 

少女は寝起きで少し重い体を起こすと脱いでいた前と後ろに2本ずつ触手のような物が生えている帽子のような物をかぶり、壁に立てかけていたステッキを持つ。

 

 

彼女、ヲ級フラッグシップは自分の顔軽く叩いて眠気を飛ばすと、

 

「よしっ!行きましょうか。」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

二人が部下が待機している場所に向かっていると駆逐棲姫がヲ級に聞いてきた。

 

「さっきのね。夢の事だけどね、何か思いだせた?」

 

「はい・・あとちょっとで・・・昔の事とか何かを思い出だせそうでした・・・・」

少女は憂鬱そうに答える。

 

「昔の事?それってヲ級ちゃんが何者かだった頃の記憶?」

彼女は興味ありそうな風に聞く。

 

 

「はい・・そうだと思いますし、違うかもしれません。ただ懐かしい、それだけです。」

 

そもそも自分が何者かで一体なにが変わると言うのだろう。

 

自分はこの方の艦隊、それも旗艦艦隊の護衛部隊旗艦にしてこの基地の敵機撃墜数トップ。今更覚えていないほど昔の事を思いだして何になる。

 

「そっか・・・・」

姫はそれ以上は聞いてこなかった。しかしどこか安心しきった感じがしている。

 

「そうだ、大事な事を思いだした。」

姫は少し深刻そうに知らせた。

 

 

「最近、通商破壊部隊から聞いた話だけど。駆逐艦が数隻と軽巡やられたらしい。」

 

「駆逐艦ならわかりますが軽巡も?敵はかなりの大部隊だったのですか?」

 

「いえ、そんなのが動いたのならこちらに筒抜けのはず。てことは向こうも少数よ。」

 

「そんな戦力でどうやって・・・・」

 

「わからない。ただ太平洋の方だと人間が何やら新兵器を使ってたみたいだし、ここの奴らもなにか仕入れてきたからこそまたノコノコとやってきたのでしょう。」

 

「うげぇ、なんか面倒ですね。」

ヲ級も少し嫌そうな感じだった。

 

 

 

そうこう話していると目的の場所についた。

 

港湾部の第3出撃口・・・・

 

そこにはここ第3港を埋めるほどの数の深海棲艦が待機しておりまるで海が黒くなったと錯覚してしまうほどだった。

 

「姫、お待ちしてました。おうヲ級!また寝てたのか?」

 

待ち受けていたのはタ級だった。前衛部隊のまとめ役、駆逐棲姫の腹心の一人でヲ級とは同僚にあたる深海棲艦である。

 

「うん、おはようタッちゃん」

 

「タッちゃんはやめろよ」

 

「二人ともそこまで、それでタッちゃん、準備はいいかしら?」

 

「姫様まで・・・・はい!全艦隊出撃準備できております。」

 

「そう・・・・」

 

駆逐棲姫は整列する艦隊の前に立つと口を開く。

 

「皆聞いてのとおり、また性懲りもなく同盟軍が攻めてきている。」

 

各隊は静かに聞いている。沸きだつものをひたすらこらえて。

 

「しかし!!ここはもう人間の海ではない!そのことをまた存分に思い知らせてやろうじゃないの!私の強靱なら牙達よ!獲物を喰らえ!愚か者に後悔と絶望を!」

 

いいあげると駆逐棲姫は両手を広げる。するとこれまで我慢していたものが一斉に弾ける。

 

「うおおおお!姫様万歳!」

 

「ニンゲン、コロス!ミナゴロシ!!」

 

「暴れるぞ!大暴れだっ!!」

 

彼らの叫びで空気が揺れる。

 

「さあ!出撃です!」

 

駆逐棲姫の号令で一気に動く黒の塊、荒ぶりながらもかなり統制のとれた動きを見ながら駆逐棲姫も海の上に立つ。

 

「あとの指揮はお願いねタ級。」

 

「はっ!お任せを!」

 

「ヲ級の艦隊は私の側にいてね?」

 

「かしこまりました。」

 

「ヲ級!姫様のことを頼んだぞ!」

 

「任されました。あなたも気をつけて。今度の奴らは何かありそうだ。」

 

「ふん!何をしてこようとそんなもの我々の力でねじ伏せてくれる!」

 

頼もしいかぎりだ。自分もこれくらい熱い方がいいのかな?

 

タ級とはそこで別れ姫と共に出港する。

 

「さあ!殲滅の時間よ!」

 

いくら優しいとは言えやはり深海の姫だ。

これからはじまる虐殺に胸を躍らせている。

 

まぁ武闘派の独立群体ならこんなものかな?

 

 

しかし、私はあまりこの時間が好きではない。

何故だろう、他の艦ほど人間に興味もなければ憎悪もない。むしろ逆、殺したくないと思う時が希にある。こんなこと、姫やタ級には絶対に言えないが。

 

懐かしい声の夢に、冷めた戦意・・・・

 

自分はかなりの変わり者のようだ。

 

 

どうして自分はこんなにも人を殺すことに違和感があるのか、そんな自分がわからないヲ級は、今日もかすかな迷いを抱えながら戦場へと赴くのだった。

 

 

 

 

 





なにやら戦いが始まるようです。
このヲ級と大佐達が今後どうのようにかかわるのか‥‥

次回をお楽しみに(次回はsidestoryの予定なので少し先です)



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