どうもです!
皆様はどのようにお過ごしでしょうか?
今回はsidestory2の上等兵さんと港湾棲姫の話です。
彼らの話を書いたのに消したはこの話を先にやりたかったからです!お待ちかねの方もそうでない方も楽しんで貰えれば幸いです。
全身から湯気を出している。冷たい道場でただ一人、激しく動いていた彼の回りには練習用の標的が粉砕されていた。
彼は今日の鍛練に一区切り付けると汗をふく。
これ以上標的を駄目にすると出禁を喰らうかもしれない。
「ふうっ‥‥」
彼がいるのは軍の教練施設
上等兵の彼が訓練兵の施設にいるのは別に今さら訓練の為ではない。彼の戦後与えられた役目はここのゲートの門衛である。非番の時にたまにこうして体を動かしているのだ。
しかし、今日の彼はいつも以上に激しかった。
それは彼の内心が穏やかではないことに起因していた。
「はぁ~どうすれば出世できるんだ?」
食い詰めて三等兵として軍に入った彼はまさに死に物狂いに戦いあの戦争を生き延びて気が付けば上等兵、これまで生き抜く事に必死で出世に関心のなかった彼であったがある事をキッカケに出世を考えるようになった。
「別に士官クラスに成りたいとかは思わん。士官学校を出てない俺がなるのは難しい。」
彼は誰もいない道場で独り言を言いながら後片付けを進める。
大出世がしたい訳ではなかった。
ただ、彼女と生活できるだけの給料が欲しいと思っていた。
(ここの仕事は楽だがいかんせん給料が安い。一人で暮らすには十分だが‥‥)
「港湾棲姫に楽させたいしなぁ。昇格したいな~」
「んー、それは軍曹とか伍長くらいか?」
「そうそうそれぐらいがいいな。‥‥え?」
「ようっ門衛!精が出るな。」
いつの間にかいたのはここの教官をしている男だ。
「あはは‥‥いたんですか‥‥」
「おう、お前がよくここで暇潰ししていると聞いたんで見に来た。」
う、うかつ俺!
普段この時間は誰も来ないからか完全に油断していた!
「えーと教官殿?」
と、とにかく言い訳を‥‥
もしかしたら聞こえてないかも
「お前今港湾棲姫って言ったな?」
ダメだっ!聞かれてるよ!
俺は思わず身構えた。
こうなったら口を封じるしか‥‥
「待て待て!俺は味方だぞ?」
「どういう意味だ?」
「その前に確認させてくれ。お前、深海棲艦と関わりがあるな?」
彼は尋ねてくる。
しかし彼は違和感を感じていた。教官殿からは容疑を尋問しているような気配が感じない。
まるでただの興味本位で聞いている。あるいは同じ趣味の人を、同胞を見つけたかのような目をしている。
(い、一体‥‥何が目的なんだ?)
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「はくしゃっ!」
港湾棲姫はこの日何度目かのくしゃみをしていた。
12月24日
日本にクリスマスの季節がやって来ていた。今年は気温が低く夜には雪が降るとの予報である。
今年もこんなに寒いなかでもクリスマス商戦に勤しむ街中を人々は恋人と共にいるのだろう。
これまでは南方にいて今年はじめて日本の冬を経験する彼女にはこの寒さは堪えていた。部屋に籠り冬の寒さと戦っていた。
「ふぁ~♪暖かい~♪」
今は炬燵の魔力に囚われだらしなく寝そべっていた。
しかし、前にある脂肪の為か上手く寝そべる事ができず何度も姿勢を変えていた。
「日本がこんなに寒いなんて‥‥そういえば、ここに来る前に部下に日本には四季ってものがあるって言ってたかしら?」
ようやく丁度いい姿勢が見つかり彼女はいよいよ本格的に炬燵に身を委ねようにしていた。ところが‥‥
ピンポーン
「あら?誰かしら?」
港湾棲姫は少し名残惜しそうに立ち上がると玄関に向かう。インターホンを鳴らした人物はここの大家さんだった。
「あら、こんにちは大家さん。」
「入江ちゃん~寒いけどお元気?」
入江とはあの人がつけてくれた私の偽名である。偽名であるが最近は旦那様も港湾棲姫と呼ぶのか面倒なのかこっちで呼ばれる事の方が多いです。
「はい♪おかげさまで。」
「あははっ!私は何もしてないわよ。」
年は知らないがかなり高齢だろう彼女はたまに入居者を訪ねては現状確認をしているらしい。
私がここに住み着いた後にもやって来たが私のことはどうも‥‥
「それにしても、あの男がこんな綺麗なお嬢さんを嫁にできるなんてねぇ‥‥」
私はあの人のお嫁さんだと思っているようです。
もちろん私もやぶさかではないので一向に構いません。
「ふふ、旦那様はなかなか勇敢な人ですよ?」
「まぁ軍人とかやっていればね。はい、これ。」
「これは‥‥みかんですか?」
「お裾分けよ。実は孫が送ってくれたのだけど私一人じゃ食べきれなくてね‥‥」
数十分後、みかんが入った箱を持って炬燵に戻る港湾棲姫の体は冷えきっていた。
「うう、立ち話しすぎたわ。長く話すなら中でお話すればよかったわね。」
おもむろにみかんを一つ掴んでみた。
「うーん、これはオレンジですよね?前に西洋の群体からいただいたものとは大分違いますね。」
彼女はみかんの皮を剥こうとする。
「!!凄いです!簡単に皮が取れる!」
港湾棲姫は軽く感動してしまった。
欧米で食べられるオレンジは皮が硬いのでナイフで皮を剥くものだが、日本で馴染みのみかんは片手でも簡単に皮が剥けることから海外で流行りテーブルオレンジと呼ばれて売られている。
「丁度いい甘さ~♪」
はじめて食べる日本の果物に思わず手が進む彼女だったが、2つほど食べた辺りで彼女はうとうとし始めていた。
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「ふぁ~」
彼女が目を覚ますと既に部屋は真っ暗になっていた。
「はっ!」
急いで明かりを付けて時間を確認すると、
「いけない!あの人が帰って来る時間だわ!」
彼女が驚いた丁度そのときに玄関でドアが開いた。
「今帰ったぞ。」
彼が帰ってきたのだ。
「お帰りなさい旦那様‥‥そ、その‥‥」
「どうかしたのか?」
いつもと様子のおかしい彼女に異変を感じる。
ふと彼女の後ろの部屋、炬燵にみかんの皮を見てだいたいの事を察してしまった。
「ごめんなさい。眠ってしまっててお食事の準備すらまだですの‥‥」
しゅんとする港湾棲姫。
しかし、彼は怒らなかった。
「いや、気にしてないぞ。お前も疲れてたんだろ。」
「旦那様‥‥」
「それに今日は作る必要がないしな。」
「?もう食べていらしたのですか?」
「いいやまだだが。」
「でしたら‥‥」
「入江、急ですまないが出掛けるぞ。」
「え?出掛けるって‥‥」
「悪いがそろそろ時間が押してるんだ。行くぞ。」
「え、ええ!?」
とりあえず厚着をして外出の支度をする港湾棲姫。
彼に伴われて夜の街にくりだす。
「はくちゅ!」
昼間より気温が下がった夜の風の寒さは厚着をしたにも関わらず彼女を襲う。
「寒いか?」
「え、ええ少しだけ‥‥」
彼に気を使わせまいと強がって見せるが鼻が赤く少し震えているので隠しきれていない。それを見た彼は自分のしていたマフラーを彼女の首に巻く。
「旦那様‥‥」
「俺ので悪いがこれで少しはましだろ?」
「はい‥‥ありがとうございます。」
暖かい‥‥
彼が使っていたのでその温もりで暖かいのもあるがそれ以上に‥‥
「うん?」
白いものが空からぽつぽつと‥‥
「これは‥‥」
「げっ雪まで降ってきたか。」
「雪‥‥これがですか。」
「‥‥はじめてなのか、雪は。」
「ええ、これが雪ですのね。綺麗‥‥」
他の海域の姫から聞いた事がある。
話だけで見たことのない現象‥‥
これまで想像だけ膨らませていた物が目の前に
そして、想像以上に綺麗だった。
「入江?」
「あ、はい!」
「これ以上冷えないうちに急ごうか。」
「はい!」
彼の言葉で彼女は我に返り彼の後を追うのだった。
しばらく彼に続き歩くこと‥‥
街中には寒いにも関わらず人で溢れておりその多くが男女のペアだった。
「やっぱりクリスマスだとこの通りは多いなぁ。」
「クリスマスだとどうして多いのですか?」
「ああ、クリスマスはカップルの祝日とか言われててな、こうしてクリスマスの夜に恋人が一緒にいるのがスタンダードらしい。」
「ふーん、つまりここにいるのは恋人同士‥‥」
え!?そ、それってつまり!
旦那様と二人で歩いている私達も周りから見たらこ、ここここ恋人って事に‥‥
そ、そして‥‥
彼がそれを知って私を夜の街に誘ったってことは‥‥
「うふふふ~♪もう、旦那様ってばそんな~♪」
「ん?どうした?それより付いたぞ。」
旦那様は止まった店前、ここが目的地のようです。
看板は仕舞われており、扉には貸し切りと張り出されている。
「入るぞ。」
彼と共に店に入る。そこにはなんと‥‥
既に大勢の人、10数人ぐらいが集まっており、複数のテーブルには豪華な料理が並んでいた。
二人の来店に気づくと幹事と思わしし人物が声をかけてきた。
「おお、来たな!」
「お招き感謝します。」敬礼
「ここではそう言うのは要らないぞ。」
彼が挨拶をしているのは例の訓練施設の教官。
店内にいるのは全て軍服の男女達だった。
いやそれらに紛れて‥‥
「あっ!港湾棲姫だ!」
「ひ、姫様!お疲れ様です!」
なんと深海棲艦が数名混じっていた。
「こ、これは一体‥‥」
港湾棲姫は混乱した。
「なんだ、説明してないのか?」
「すみません、時間ギリギリだったので。」
「ふむ?まだ開始時刻前だが?」
「軍属なら15分前行動は基本でしょう?」
「はははは!違いない。」
教官はひとしきり笑うとマイクを繋ぐ。
「あー、参加者が揃ったので始めるとしよう。我ら深頼会と深海の友に乾杯!」
「「乾杯!!」」
「さて、どこから説明したものやら。」
乾杯の後、俺はいまだに困惑している港湾棲姫に事の経緯を説明した。
これは深海棲艦と新和を求める軍内の集まり「深頼会」のクリスマスパーティーである。
あの戦争の最中、本来敵である深海棲艦と絆を結んで終戦を迎えた士官達が集まって作った一種の将校クラブのようなものだ。
そして、教官殿はその会の重鎮の一人で俺と深海棲艦との関係を聞いたのはもしそうならスカウトする為であった。
この会は普段滅多に会えない彼らと深海棲艦達が一同に集う機会を作り、そして自分の子が一番可愛いと自慢する為に開かれた。
「まぁ、ざっくり言うとこんな感じらしい。」
「はぁ、一応理解はしました。」
そんな二人の元に教官とそのペアである深海棲艦がやって来た。
港湾棲姫には見覚えのある子だった。
「あら?貴女は確か泊地棲姫さんのところの‥‥」
「ユウです!お久しぶりです姫様。」
「ユウ、知り合いか?」
「うん。私の姫様と港湾棲姫様は友達なの。」
「泊地棲姫からは新しい居場所を見つけたって聞いてはいたけれど、そう、貴女も‥‥」
「うん♪私隊長さんが好きなの。」
「オイオイ、ストレートに可愛い事を言ってくれるな。」
「えへへ~♪」
「教官殿のノロケを聞くことになるなんてなぁ。そうか、最近妙に帰るようになったのはその為ですかな?」
「そう言うお前も最近仕事がまじめになったそうじゃないか?ええ?理由はその爆乳美人のためか?」
「クッ‥‥」
図星なのか少し悔しそうな旦那様。
その後は教官以外にも他の参加者とも関わった。
ペアの深海棲艦がいない者、自分の子が一番とノロケてくる者、深海棲艦と飲み比べて破れる者と様々な者が楽しくやっていた。
そんななか本当に偉い立場の人がいて、
「きみの話は聞いているぞ。叩き上げの上等兵で刀で姫に手傷を負わせたとか。」
「はい、あの時は本当に死に物狂いでした。そしてこっちが」
「その時傷物にされた姫です♪」
「だからその言い方やめろ。」
「アハハハッ!そんな二人が巡り巡ってゴールかね?これは面白い!君!是非とも士官になってこの会のメンバーになりたまえ!」
「えっ?てっきりもうそうかと。」
「一応深頼会は将校の集まりだ、少しくらい偉くないと箔がつかんだろうが!」
「はあ‥‥」
「君はそれだけ実力もあるんだ。そうさな‥‥儂の部下にならんか?」
「えっ?」
「儂の部下と言うことなら曹長くらいにならしてやれるが、どうだ?」
どうだって‥‥いきなり三階級も飛び越えての大出世じゃないか!?
「喜んでお受けします!ありがとうございます!」
「よかったですね旦那様。」
「アハハハ!こんな美人な深海棲艦の為にも君は少し偉くならんとな!イテッ!」
「ちょっと!何私以外の娘を見てにやけているの!」
「いや、違う!別にそんなのでは!」
「制裁!」
「ぐふぇ!!」
「よかったな。これで門衛は卒業かな?」
「はい、教官殿のおかげですよ。アナタがここに来ればと呼んでくださったので。」
「まぁアイツらと関わっている以上、俺らは同志みたいなもんよ。気にするなって。」
「それでもです。取り立ててもらっただけでなく」
彼は少し離れた席で楽しそうに話す彼女を見る。
「楽しそうな彼女を見ることができたので。」
「ほーう?」
「な、なんですか‥‥」
「お前もノロケるのかと思ったんでな。それで、お前、あの姫の事どうおもってるんだ?」
「ぶっ!と、突然何を!?」
「いやさぁ、出世も結局はアイツの為なんだろう?なら少なからず大切に思っている訳だが‥‥具体的にな?」
「それは私も聞きたいです。」
「げっ!入江!」
「私も旦那様にどう思われているか知りたいです。」
「だ、そうだ。さあ!吐け!」
同じ日に同じ人に尋問されるとは‥‥
逃がさないと目で語る教官殿にその隣で目を輝かせて答えを待つ入江‥‥
「ああもう!わかった!言うぞ!」
俺はついに決心した。
「おお!」
「はわわっ!」
面白そうにしている教官にやはりいざ言われると緊張してきた様子の入江、そして周りではこちらを他所に楽しくしている軍属と深海棲艦達。
全く‥‥
万年ボッチで去年までそうだった俺ではまるで想像もつかない光景だな‥‥
「俺はッ!」
雪が降る聖夜、ホワイトクリスマスとなったその夜の深海棲艦と彼らの絆を得た者達の賑わいは街の賑わいに隠れたものの、どこよりも幸せなものに溢れたものであった。
今回はかなり挑戦した気がしましたがいかがでしたでしょうか?クリスマス回はこれで終わりです。ついでに潜水艦の今年の投稿も今回が最後です。
来年からは物語は本格的に進んでいきます!そしていよいよ曹長と入江さんのシリーズも始めたいと思っています。
潜水艦は今年は終わりですが、他の作品はまだ投稿は続く(予定)なので是非ともよろしくです!それでは皆様!
良いお年を♪