生き残った軍人と潜水艦   作:菜音

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顔が見えない 14日目

 

 

 

 

「これは酷いな‥‥」

 

ルリさんが言った通りだ。ヨウちゃんに呼ばれて外を見るとそこには複数の軍艦と深海棲艦の残骸が海を漂っていた。

 

「何これ‥‥戦争でも起こってるの?」

 

「マスター!私少し見てくる!」

 

「あ!先輩、私も行きます!」

 

カナ達が偵察しようと海へと飛び込む。

 

 

「まだ黒煙が上がってるな。まだそんなに経ってないかもな。雪村?どうした?」

 

「そんな‥‥」

 

また‥‥戦争がはじまるの?

 

せっかく終わったのにどうして‥‥

 

 

「おい!雪村!」

 

「はあっ!?ルリ‥‥さん?」

 

「大丈夫か?顔色が悪いぞ?」

 

「うん、大丈夫‥‥それよりルリさんはどう思う?」

 

「どうって?」

 

「パッと見ても深海棲艦の一艦隊が全滅しているのに海軍(私達)側の損害が少な過ぎる。」

 

「言われて見れば‥‥艦娘でもいたのか?」

 

「いいえ、鎮守府は現在再編成の為に各地の派遣艦隊を戻してるの。それ以前に国防軍は深海棲艦との戦闘は命じないわ。」

 

「まぁ命じれば約定違反で即昔に逆戻りだしね。」

 

それだけは絶対にないと信じたい。あってはならない。またカナと離れる事になるなんて‥‥まだマシロ達にも会えてないのに‥‥

 

 

じゃあ一体何が‥‥

 

 

「マスター!」

 

偵察に行っていたカナが戻ってきた。

 

「カナ!何か分かった!?」

 

「ええっと‥‥倒されてたのは軽巡に駆逐艦2‥‥後は潜水艦2だったよ。」

 

「え?何その編成?」

 

「おそらく潜水艦隊とその支援部隊と言った感じだろう。それにしては潜水艦が少ない気がするが‥‥」

 

「うん、私もそう思ったからヨウちゃんに一応捜索を続けてもらってる。後‥‥うんしょっと!」

 

カナが水中から何かを持ち上げた。

 

 

「この子も水中を漂ってた。」

 

それは少女だった。私とルリさんとで持ち上げてクルーザーに揚げて見てみた。

 

 

「コイツ、前に見た特装兵とかに似てないか?雪村、何か知らないか?」

 

「うーん、閣下からもらった資料に合致しない‥‥それにこの子の来てる軍服の軍章‥インド軍のかも。」

 

「インド?さっきお前が言ってた人間どもの軍か。そのインド軍が我らに戦いを挑む理由はひょっとしなくても」

 

「勝算があるから、かもしれない。」

 

でもどうして?インド軍に同盟の技術が流失でもしてるのか?いや、問題はそこじゃないかもしれない。

 

 

深海棲艦と人類が和平へ歩みを始められたのは恨んでいても各国に深海棲艦と戦う力がないこと、唯一の例外である日本がそれを推進しているからだ。

 

もしも深海棲艦との徹底抗戦を望む勢力にあの兵器が広がるような事になればまた戦いが始まってしまう!

 

軍人や特装兵にされる少女達に深海棲艦‥‥

また多くの命が海へと消える事になる。

 

 

「閣下に報告しないと‥‥もしかすると私の思っている以上にとんでもない事が起きてるのかも。」

 

「私も中枢に報告しなければな。我らに害意のある奴等に我らと渡り合える兵器が渡ったとなれば由々しき事態だ。」

 

ルリさんも深刻そうな顔をしている。

 

「とは言え‥‥今の私に通信手段がない。どこかの群体に行かなければ‥‥」

 

「じゃあ早く近いところに‥‥」

 

「ダメだ!!」

 

「ルリさん?」

 

「‥‥怒鳴ってすまん。だがここいらの群体はダメだ。」

 

「どうしてです?」

 

「ここいらの奴等は独立系だ。ましてや今人間どもと戦闘になっている可能性が大だ。そんなところにお前を連れて行けばただでは済まんぞ!」

 

「じゃあどうするの?」

 

「ウグッ‥‥そ、それは‥‥今考える!」

 

ルリさんが腕組して座り込む。しばらくかかりそうなのでほうって置こう。

 

「先輩、雪村。」

 

「あ、ヨウちゃん。」

 

「お帰りなさい。どうだった?」

 

「ダメ。見つからない。」

少し残念そうに報告する。

 

「そう‥‥ヨウちゃんありがと。」

 

「元々5隻だった可能性は?」

 

「ううん、それはない。私も先輩と潜水艦隊を組んでたから言えるけど艦隊に所属している潜水艦は最低でも3隻で行動するの。」

 

つまり後1艦はまだどこかにいることになるよね‥‥

 

雪村は少し辺りを見渡してみる。

 

 

「ねえ、あの岩みたいな小島は探した?」

 

雪村がヨウに尋ねたのは残骸群から少し離れた位置にある名前すらつけられないような小さな島である。

 

「うんん。流石にないって思ったから。」

 

「そう思えるのなら隠れる場所にはうってつけかな。少し見てみよう。」

 

もし生き残りがいるのならここでの戦闘の事を聞けるかもしれない。閣下に報告する為にも詳細は知りたい。

 

 

雪村はヨウ達を乗せるとクルーザーを動かした。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「痛っ!」

 

彼女は爆雷で被弾した部分を庇った。少し岩に当たってしまったようだ。その痛みで歩みは止まりうずくまってしまう。

 

雪村の予想通り、小島には小さな洞穴があり彼女はそこへ逃げ込んでいた。

 

 

(ここなら電探には引っ掛からない‥‥)

 

 

部隊が壊滅し自分も殺られかけた彼女はこの島を見つけるとかつての恩人に教えられた事を咄嗟に思い出し、ありったけの魚雷を沈みかけの船に撃ち込み爆発させることで自分の轟沈を偽装し島に逃げ込んだ。

 

逃げたはいいけど、もう体はボロボロ。

ここへも動かなくなった片足を引き摺りながら来たのだ。

 

もし相手に備えがあり、しっかり確認とかされればこんな偽装なんてすぐにバレていたが‥‥敵が捜索していないのを見ると成功のようだ。

 

 

 

「ううっ‥‥」

 

彼女は側にあった岩の陰に横たわった。もう完全に足が動かなくなったのだ。

 

疲労と痛みで歪む視野で自分の状況を見る。

 

体は‥‥見なくても分かるほどボロボロで動けない。武装は魚雷を全部使って後はこの手に握ってる豆鉄砲のみ。

 

そして、電探や空からの探索を逃れる為とは言え洞穴に逃げ込んで逃げ道はない。いや動けないからどのみち同じか。

 

もし敵に見つかったらもうおしまい‥‥

 

 

彼女は体が震えてきた。

 

「大丈夫‥‥大丈夫‥‥大丈夫‥‥」

 

どれだけ時間が経ったかはわからないけど誰も探しに来ないのは偽装が成功したと言うこと。だから自分は助かったんだと言い聞かせた。

 

少し震えが治まってきた。

 

 

(まだ死にたくない。まだ死ねない!)

 

 

彼女には深海の潜水艦にしては珍しい生への願いがある。それはただ1つ‥‥どうしても守りたい約束の為に‥‥

 

ここを凌げれば、かすかに希望を持ち始めたがその希望もすぐで手放すことになった。

 

えっ‥‥音がする?

 

 

かすかだが外からエンジンの音がする。

 

(に、人間の船の音だ!?)

 

 

彼女は再び震えた。音が大きくなるに連れて彼女の震えも大きくなる。

 

(音からしてボート‥‥いえ中型以下の‥‥ならば普通の兵士が数人‥‥ならどうにか‥いやも、もしもさっきの敵がいたら‥‥‥)

 

空っぽのはずの胃の底が急速に重く感じる。

 

「いや‥‥嫌だ‥‥まだ死にたくない‥‥」

 

彼女は落としかけたけど機関銃を力いっぱい握りしめた。無駄な抵抗とわかってても悪足掻きでもすればあるいは。

 

 

上陸してきたのか砂を踏む音が聞こえる。

 

 

絶対に諦めないと誓ったばかりの心がすぐに折れた。彼女の手から機関銃がこぼれ落ちる。

 

本来、深海棲艦のクセして争い事の向かない性格の彼女だ。戦意を保ち続けろと言うのも酷な話だ。

 

 

かすかに声が聞こえる。

 

ここにはいない そっちはどうだ

 

 

お願い‥‥ここに気が付かないで‥‥

 

 

「先輩!来て来て足跡があります。きっとあの洞穴ですよ!」

 

最後の祈りは無駄に終わったようだ。

 

 

「ハハハ‥‥ここまでか‥‥」

 

思えばあの別れの後から辛いことばかりだったけど、いつかはとの思いでここまで粘ったけれどこんな結末が待っていたのなら‥‥

 

「がんばらなきゃよかった‥‥」

 

あぁ‥‥寝たい。いやもうすぐその願いは叶う。ただしそれは永遠でもふもふな布団もない。

 

 

敵が洞穴を入ってきた。四人くらいだ。

 

逆光で顔は見えない。

 

 

(ごめんなさい‥‥約束、守れない。でも最後に幻覚でもいいから会いたかった‥‥)

 

「マスター‥‥カナお姉‥‥」

 

 

 

敵がとうとう私の目の前にやって来た。なのにどうしてか、敵はとどめをなかなかささない。

 

もう抵抗できません。どうか一思いに‥‥

 

ぼやけた視野で敵の顔を見る。なぜか敵はかなり驚いた顔をしている。どうしたの?そんなに私が珍しい?

 

そりゃここまで追い詰められた深海棲艦は珍かもだけど‥‥

 

 

あれ?なぜだかこの人、私の今一番会いたい人の顔に似ている気がする。

(幻覚でもいいって言ったけど敵がマスターに見えるなんて‥‥)

 

 

「ソ、ソラ‥‥?」

 

幻覚のマスターが私の名前を呼ぶ。あはは、幻聴まで聞こえるとはとうとう私も最後だね。

 

敵が私に手を伸ばした。ようやくとどめですか。

 

と思いきやまたもや予想を裏切られた。敵は私を抱いたのだ。

 

‥‥‥‥え?

 

「間違いない!ソラだ!カナ!ソラだ!ソラがいたよ!」

 

「えっ!!?ソラちゃんが!ホントだソラちゃんだ!」

 

呼ばれて駆け寄ってきたのはまごうことなき潜水艦のカ級だ。そして、今さら間違えようのない顔だ。

 

でもまさかそんな‥‥じゃあこの人は本当に?

 

 

「‥‥マ、スター?」

 

「ああ!!私だ!ようやく会えた。」

 

「マスター‥‥本当にマスター‥‥‥‥う、う、うええええええん」

 

私もマスターに抱きついた。

 

 

「幻じゃないよね!?本物だよね!?」

 

「ソラにしては珍しく疑り深いね。そうだよ。本物の私だよ。」

 

「ソラちゃん!」

 

「カナお姉~!うわ~ん!」

 

 

会いたくてしかたのなかった母と姉に会えた。せっかく会えて嬉しいのに目が潤まったせいで全然二人の顔が見えない。

 

(粘って‥‥よかった‥‥本当によかった‥‥)

 

と本当に心の底から思えたソラだった。

 

 

 

 

 

 

 




どうもです。ようやく雪村さんはソラと再会です!

ここからは戦争が再開されようとしている中、彼女達がどのように振舞い、どのように再会していくのか‥‥

お楽しみ♪
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