生き残った軍人と潜水艦   作:菜音

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西方海域の覇者 18日目

 

 

 

 

クルーザーを取り囲むようにしながら艦隊は進む。雪村は艦隊の速度に合わせながら舵をとる。

 

ルリさん達は万が一に備えて臨戦態勢でここにはいない。側にいるのはカナとそして‥‥

 

 

「なんでここにいんのアナタは‥‥」

 

なぜかヲ級が乗り込んでいた。

 

「てか、艦隊の指揮は?」

 

「ん~母港に帰るだけだから指揮もなにもね。」

 

「じゃあなんで船に乗ってるの?」

 

「ん~。疲れたから」

 

「はぁ?」

 

「いや~実は戦闘した後すぐにまた侵攻したから疲れちゃってて」

 

少し悪びれて見せるヲ級。そしてさらに続ける。

 

 

「それにさ~。私が船に乗ってれば部下が間違いを犯す危険もなくなるしWinWinだなって」

 

「意外と考えてくれてたのね」

 

「私からすれば他の旗艦達が考え無しだと思うけどな。それに、本当に意外だと思ってんの?」

 

「いえ。むしろこれまで会った通常個体にしては変だとは思ってる」

 

「あはは~よく言われる。いや、言われてたかな?」

 

私によくそれを言っていた奴は今日沈んだから。

 

「いや~それにね。一応雪村大佐には感謝はしてるんだ。」

 

「はぁ?作戦の邪魔をしたのに?てか、何であんな軍事施設もない港を狙ったの?」

 

「ん~理由としてなら特にないかな。強いて言えばインドの艦隊がたまたまいたから。」

 

「それだけで!?」

 

「実は私の上司が部下を、つまり私の同僚をだけど。殺られたから苛立ってるわけで、少しでも気を静める為に少々殺戮をと」

 

「そんな理由で‥‥やっぱり理解できない」

 

「うん、実は私も。だから本当はやりたく無かったんだ。だから人が少なそうな港を狙ったんだ」

 

「ほら、やっぱり理由があった。アナタって本当に変な空母よね。まるで人間みたいな考え方をするね」

 

「私が変ならその‥‥」

 

「マスター!マスター!私も人間みたいは考え方だよ!」

 

「張り合わなくてもいいから。カナはまずヨウちゃんが私に暴言を言っても撲殺しないようにね」

 

「はぁ~い」

 

「その潜水艦も変な感じだな。私の知ってる潜水艦とはまるで違う」

 

「カナはね。マスターの娘なの!」

 

「なるほど、育ての親的なやつね」

 

「理解が早くて助かるわ。」

 

「なるほど。気難しい潜水艦を娘にできて、堅物の戦艦を従えてさらに姫達にも気に入られるなんて、私が変な深海棲艦なら、アナタはもっと変な人間だね」

 

「ふふ、褒め言葉と受け取っておくわ。」

 

それにしても‥‥さっきは知らないって言ったけれど、この空母。何か初めて会った気がしない。どういうこと?

 

 

「それで?私はどうなるのかな?」

 

「そう警戒するな。仮にも証の使者とかならば無下にはされないはず。」

 

「それで西方海域の独立群‥‥どこの艦隊なの?」

 

「あれ知らないの?もうこの西方海域に一匹狼してる群体は存在しないわよ?」

 

「え?それはどう言う‥」

 

「この海域の艦隊は全て私達の群体に吸収ないし合流した。今ここの海を支配しているのは我らが姫様ってこと」

 

これは、軍、いやもしかすると深海中枢すら知らなかったかもしれない。既に西方海域は、太平洋や大西洋とは違う新しい勢力が構築されているのだ。

 

 

「目的地は姫様がいらっしゃる西方群中央泊地、T諸島です。」

 

T諸島。そう聞いて雪村は嫌な気持ちになった。

 

そこはかつて西方海域最大の泊地があったダスカマス島を攻略する為の前線基地を建設するために激しい奪い合いに発展した島だ。

 

一時的に占領してもしつこく深海棲艦が抵抗をしたことにより鎮守府は疲弊し、さらに基地建設のために派兵された陸軍の兵士が最も多く戦死した場所でもある。

 

結局、西方海域の拠点はリランカ島に置かれ、ただ陸軍の墓標のみが置かれた忌まわしい島‥‥

 

 

「すまない!顔色が悪いが何か変なことを言ったか?」

 

「マスター!大丈夫?」

 

「‥‥大丈夫。カナ、ヲ級さん。ただ、その島で昔‥戦友だった人を亡くしてるので‥‥」

 

「そっか‥‥それは配慮に欠けてた。謝罪する」

 

「気にしないで下さい。‥‥なら謝罪って言っては何だけどアナタの泊地の姫の事を聞いてもいい?」

 

「別に構わないけど‥‥事情を説明してもらうだけなのにその必要があるか?」

 

「私の任務は日本と敵対する可能性のある群体を巡り交渉すること。だったら!」

 

雪村は少しポーズを決めてみる。

 

「西方群とやらとも交渉しない理由はないよね?」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「ふーん。アナタが日本の特使で証の使者?」

 

「そうですけど‥‥アナタは?」

 

ヲ級に案内されてやって来たT諸島。その島の一つにある港の姫の間。そこにいたのは西方をまとめる強大な姫‥‥ではなく全体的に白くて可愛らしい姫。駆逐艦かな?

 

 

「あら?これは失礼。私は西方群第2艦隊の長をしている駆逐棲姫と言います。簡単に言えばこのヲ級の直属の上司です」

 

一応は証の使者ということなのか、深海式の礼の執り方で挨拶をしてくれた。

 

「これはご丁寧に。私は日本国防軍の所属、雪村大佐であります。」

 

なのでとりあえず私も国防軍の敬礼で返した。

 

 

「さて‥‥」

 

駆逐棲姫は軽く手を合わせると挨拶は済んだから早速本題に入ろうと切り出した。

 

 

「事情はヲ級から聞いています、それでアナタは私に撤退してきた経緯について話しに来てくれたみたいですが、あれはあくまでヲ級の独断行動なので私はとやかく言うつもりはありません。なのでご足労いただいて申し訳ないのですが‥」

 

「いえいえお気になさらず」

 

私は彼女の言葉を遮った。

 

「私が来たのはあくまで貴女方の面目を保つためです。そして、私にも都合がよかったので便乗したに過ぎませんので」

 

この発言に駆逐棲姫はきょとんとなり、ヲ級はやれやれとため息をつく。

 

「‥‥我々の面目?それはどう言うことですか?」

 

「いえ、そこのヲ級さんの引き際を作って上げたことですよ。人間1人に何もせずに帰って来たでは仮にも西方海域最大の群体としては面子とか困るのではと」

 

「ふーん、つまりアナタはヲ級や私の為にではなく、我々の為に来てくださったとでも?」

 

「いや~そんな恩着せがましいつもりではありませんよ~」

 

どうだか、とヲ級は思った。自分に理由されるだけではなくこう返してくるのは何となく気付いていた。

 

 

「あ、ただ。もし少しでも貸しと思えていただけるのであれば‥‥」

 

ほら、きた。さてさてこの人間は私の上司様に何を頼むのかな?

 

 

 

「ここの総指揮艦にお目通りしたいです。」

 

「‥‥えっ?それだけ?」

 

「これだけですが、なにか?」

 

「いやだって、その証!それがあれば流石にうちのボスだって会うと思うけれど」

 

「いやいや、私がお願いしたいのは安全に会わせて頂けることです」

 

「‥‥つまり、これからボスに会うから私にアナタの命の保証をしろと?」

 

「はい。私は証の使者である前に日本の使者です。深海棲艦との交渉に命を賭けてはいますが、なにせ今は死ぬ気はありませんので」

 

「交渉って、うちのボスと何か取引でもしたいのかしら?しかもそれは怒らせかねない内容みたい‥‥」

 

駆逐棲姫は悩んでいる。別に断ればいいのだが、ヲ級にあらかじめ聞いていた通り、貸しって単語に弱いようだ。熟考している。

 

 

「分かりました。ボスが怒りそうになったら合図しますのでそうしたら無理は止めて下さい。言っときますけど少し気難しい方なのですぐにキレますよ。」

 

注意は促すが直接助けには入らないと。これが限界だと言わないばかりに黙る。

 

 

「それで構いませんよ。では、早速会わせて下さい。西方海域の覇者に」

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「何も付き添う必要はないよ?」

 

「ダメ!マスターに何かあったらいけないの!」

 

「私はお前の護衛だ、何かあれば姫達に殺される。」

 

「私~もしマスターに何かしたらマシロちゃんに言いつけて西洋艦隊を差し向けてやるの~」

 

「わ、私は先輩が心配だから‥‥一応雪村のことも」

 

と、四人共に付いてきてしまった。本当は待っててもらいたかったけどね。てか、一番まったり喋ってるソラが一番物騒なことを言ってるよ。

 

 

「雪村大佐殿、そしてお供の方々」

 

姫の待つ謁見の間へ案内をしてくれていた巡洋艦が扉の前に立ち止まり声をかける。

 

 

「私めはここから先へ進むことを許させていません。」

 

ここからは私達だけで入れということだろう。それだけ言うとその子は戻ってしまった。

 

 

「何かここの空気重いな‥聖夏さんのところでもここまではなかったよ?」

 

流石の私も緊張してきた。

 

「マスター‥‥」

 

カナが不安そうに見上げてる。

 

「大丈夫‥何とかなるって」

 

私はカナにそう言うがカナを撫でる手が少し震えてる。

 

「ふん、所詮は中枢に従わない奴だ。安心しろ。何かお前に不遜な態度だった場合は私が始末してやる。」

 

「ルリさん‥‥」

 

「大丈夫よ雪村。こっちには深海最凶のカ級で天使な先輩がいるんだから。」

 

「ヨウちゃん‥‥。天使なのは認めるから最凶は否定して」

 

「いや!どっちも嫌だから!?」

 

「じゃあ天使は私が貰う~前にマスターに天使って言われたことがあるし~♪」

 

「えっ?!それはそれで何か嫌‥‥」

 

カナ達のこの会話により笑いが生まれる。そのおかげか私の震えもなくなった。

 

 

「あはは‥‥本当にもう可愛い子達だから。」

 

「私は護衛だ。可愛いくない。」

 

「私は雪村の子じゃない。」

 

「もうつれないな~~もうヨウちゃんは四女にならない?」

 

「‥‥考えておくわ」

 

「あれ?否定されると思ったのに?」

 

「ほら、雪村。冗談が言えるくらいになったのならとっとと中に入れ。ここのヌシが待ってるぞ」

 

「オーケー。それじゃあ行くよー!」

 

雪村は扉を開いた。扉の先、謁見の間には既にこの群体の幹部クラス達、駆逐棲姫やヲ級達が勢揃いしていた。

 

そして、いかにもな椅子に座り私達を待っていた彼女が声を発した。

 

「フフ、へ~来たんだ~。ウフフようこそ、西方群の中央泊地へ。私がここの長‥防空棲姫よ」

 

 

 

 

 

 

 


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