生き残った軍人と潜水艦   作:菜音

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命懸けの交渉 5日目

 

 

 

「まずはコミュニケーションの一環として貴女の名前を決めませんか?」

 

私の命と日本の国益をかけた交渉の始まりだと言うのに何をやっているのかとお思いだろうか?

 

 

「名前ですか?いきなり何を‥‥」

 

うんうん、向こうも戸惑ってらっしゃる。

 

 

「いえ。これからお話する、しかももしかしたら長い付き合いをする方なのに港湾夏姫なんてコードネームみたいな呼び名は失礼かと。」

 

それにこの名前決めと言うのは案外馬鹿になりません。

 

 

あれは深海棲艦との停戦がなった次の年のことです。

 

 

 

 

停戦後に和平交渉のための最初の会議が行われたが政府や軍の特使の皆さんはみんな怖がってガチガチ、かたや深海側も無機質な反応で、いや、深海側はどう接すれば良いのか分からないコミュ能力の問題だったのがだ、とにかくお互いに緊張と恐怖で話にならない状態だった。

 

 

そこで私が、

 

「あの‥‥、まずは自己紹介でもしませんか?」

 

外務省の高官達が私を見た。

 

しまった!素人の私が交渉のプロに口出ししてしまった。何か言われるぞ。

 

 

「そうだな。わかった、そうしよう。」

 

あれ?あっさり取り入れられた。

 

 

「深海の皆さん、私は日本特使団の‥‥」

 

特使団のリーダーの高官をはく切りに日本側は次々と自己紹介に入る。今にして思えば、日本側は私以外はほぼ男性、対して深海側はみんな女の子だからまるで合コンのようですね。続いて深海側だが、何やら困った顔をしていた。

 

「どうかなされましたか?」

 

「いえ、我々は名など無いのでどうすればよいのかと‥‥」

 

私はこのときに初めて深海棲艦に名前の文化が無いことを思い出した。

 

 

「それじゃあ、会議の前にみんなの名前とか決めましょう。」

 

あ、またやってしまった。流石にこれはいけない気がします。

 

 

「そうですね。面白そうですね。」

 

「ふふ、いいでしょう。」

 

なんと!高官だけでなく深海棲艦達も了承したよ。

これでじゃあまるで本当に合コンだよ!

 

そんなこんなで始まってしまった深海棲艦達にニックネームならぬ名前を決めてあげようの会は思いの外盛り上がってしまい、強面の軍属や高齢の官僚までもがそれぞれ思い思いの案を出す。

 

「そうでね。君は我々側からは駆逐古姫と呼ばれてるからね~。フルヒメとかは?」

 

「安直過ぎですよ永島さん!」

 

 

「ネ級さんは何かこんなのがいいとかありますかな?」

 

「うーん、強そうなのがいいかな?」

 

 

「うん、その名前気に入ったぞ!感謝するぞ、なかしま!」

 

「いえ、なかじま(中島)です。」

 

 

この会話を通してまず深海側が日本特使達の名前を覚えた。そして、深海側の名前は当の日本側が決めたので忘れる訳がない。

 

こうして互いに互いの名を覚え、更にこの名前決めのお陰で先程までの緊張感もなくなり今では普通に会話できるようになっている。

 

 

 

ちなみにこの時に決めた名前は今でも使ってくれてるそうです。女の子って以外と名前決め好きなものなんだね。

 

 

名前とは大切なものです。

 

あの交渉も深海側に名前が与えられたから、お互いに名前を知っていたからそこ踏み込んだ話が出来て最終的に双方が納得できる内容にまとめられたのだと私は信じています。

 

 

なので今回もその手法でいかせてもらいます。

これから長い付き合いをする相手です。信頼関係を作る上でも互いの腹のうちを見せ合わせたいのでまずはその一歩です。

 

 

「そういえば、前に和平交渉に出ていた姫が名前を付けてもらったって自慢してましたね。」

 

「知っているのですか?」

 

「ええ、そのせいで今人間に名前を付けて貰いたがっている子もいて小さなブームよ?」

 

「そ、そんなことに‥‥」

意外だな。そんなに気に入ってもらえてるとは。

 

「その火付け役が貴方なんて‥‥、世間は狭いわね。」

 

「あの‥‥、思ったのですが、それなら深海棲艦同士で決め合うとかしないのですか?」

 

「ふふ、残念な事に私達にはネーミングセンスがないのよ。」

 

そういえば、鎮守府で聞いたが姫がなんとか棲姫を名乗り始めたのは人間の名前の付け方を真似したからとか。

 

そもそも名前文化の無い彼女らにしてみれば自分たちで決めるのは難しいのでしょうか?

 

 

 

「その火付け役さんに決めてもらえるなんて光栄だわ。是非お願いするわ。」

 

港湾夏姫は名前決めに了解してくれた。後、ついでに書記のリ級にも名前を付けて欲しいそうです。

 

 

「分かりました。では、港湾夏姫さんが好きなものはなんですか?」

 

今回はそれをヒントに考えてみよう。

いつもの決め方ならコウさんとかになったと思うけどルリさんにはそれで色々と言われてますからね。

 

 

「そうね‥‥。夏かしら。」

 

「夏ですか。」

 

「そう、夏よ。夏の強い日差し、暑さ、そしてそれに似合う綺麗な海に自然に‥‥。うふふ、だからここを占拠しているのよ。」

 

なるほど‥‥、夏とは海が大好きと。だからここの海を汚すアメリカ軍、ひいては人間が許せなかったのですね。名前に夏が入っているのはそのためかな?

 

 

「だとすると‥‥」

夏は絶対に入れた方がいいですね。そうだ!

 

 

聖夏(せいか)とかどうですか?」

 

「セイカ‥‥。なんてお書きになるの?」

 

文字を気にするのか。どうやら日本語、いや文字に精通しているのは本当みたいですね。てことは‥‥

 

 

「聖なる夏とか書いて聖夏です。」

 

「聖なる‥‥夏‥‥。」

港湾夏姫が震えはじめた。

 

 

「あ、あの‥‥姫様?」

リ級が心配になる。

 

「す‥‥」

 

「す?」

 

「素敵!なんて素敵な響なの?!」

 

港湾夏姫さんならぬ聖夏さんの今日一番のリアクションでした。

 

 

「気に入ってくれて何よりです。」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

さてさて、聖夏さんの名前を名前も決まりしましたのでここに来てようやく本題に入りました。私も仕事モードです。

 

 

「今日お伺いしたのは他でもありません。我が日本国の航海権とその安全保障をいただきたいのです。」

 

「‥‥続けて。」

 

聖夏さんも長らしい風格に変わりました。

 

 

「現在、貴女の群体は人類と敵対しており、この海域を通る船を片っ端から沈めています。しかし、我が日本国は貴女の群体と事を構えるつもりはありません。」

 

「だからせめて私達は見逃して通して欲しいと?」

 

「平たく言えば‥‥」

 

「ふふ、自分たちだけ抜け駆けしたと思われますわよ?」

 

確かにそうかもしれないですね。しかし‥‥

 

「それはお門違いです。」

 

「ふぅん?」

 

「私達が交わした約定では群体ごとの交渉は個別にするものとあります。」

 

「しかし、それは日本との取り決めよ?」

 

「それを言ったら戦って講和を獲得したのは我が国なのに、まるで人類が勝ち取った約定みたいに勝手に振る舞っているのは各国ですよね。」

 

「!」

 

今聖夏さんが動きましたね。これは私達が思っている事というよりは深海棲艦側の思いだろう。

 

日本が勝ったから自分たちもといきなり交渉へ動きだしたのは他国の思い上がりでよく思ってはいない。そう思っている群体がほとんどだ。

 

「そして、各国はその交渉に失敗した。それだけです。」

 

交渉失敗で群体を怒らせたのはその国の外交の問題である。別に日本だけどうとの問題ではない。

 

 

「それもそうね。」

 

「それで、どうでしょうか?」

 

「確かに貴方方日本とは別に敵対する必要もないし、こうして交渉の使者を送って来ています。それに中枢からも日本と停戦するよう促されていましたし。」

 

「では!」

 

「通ることは認めますよ。」

 

「いえ、襲撃からの安全保障もお願いします。実はこの海域だけでも多くの日本国籍の船が襲われています。」

 

私のこの言葉に聖夏さんは少し目が動く。

 

「立夏さん、これはどういうことかしら?」

 

「はい、それは‥‥」

 

立夏とはリ級さんに付けられた名前です。本人の要望と言うより聖夏さんの要望で、彼女にも夏の字を入れてと言われて、ならばリ級だから立夏(りっか)となりました。

 

 

「確かこの海域の周辺海域で群体が潰れたことで行き場のなくしたはぐれが増加しています。恐らくはソイツらでは‥‥」

 

「なるほど、わかりました。そのはぐれ達を‥‥」

 

「いえ、それだけではありませんよね?」

 

聖夏さんの言葉を再び阻み、私は賭けに出た。もし間違っていたり相手がぶちギレたりしたら私はそれまでですね。

 

「襲ったのは聖夏さんの命令、あるいはその配下が聖夏さんの為にやったことですね。」

 

「なっ!何を根拠に!」

聖夏さんが立ち上がった。凄い剣幕ですね。美人が怒ると怖いと言いますが本当ですね。

 

 

「聖夏さん、貴女は名前を決めた時に書き方を聞きましたね。」

 

「?そうですが‥‥」

 

「聖夏さんは文字、しかも漢字が分かるのですね。」

 

普通、深海棲艦で言葉を話せる個体がいるがかなり流暢にクリアに話せるのは姫クラスと一部の個体のみです。

 

しかし、大抵の姫は人間の言葉に興味がなく、話せるがそれまでだ。だから大抵は深海棲艦達は名前を決める時は発音などの音で決める。

 

 

それが彼女は文字を読めてしかも漢字が分かるかのだ。だから書き方を聞いてきた。だからその漢字の良さがわかったのだ。

 

 

「どうして聖夏さんはこんなに日本語に御関心が?」

 

「それは‥‥、今は関係ないでしょ?!」

 

「いえ大アリです!」

そろそろ向こうも怒ってきましたね。もう後には引けませんね。だからどんどん攻めますよ!

 

 

「どうしてそんなに文字が読めるのですか?」

 

「そ、それは‥‥貴方方と交渉の時に必要だと‥‥」

 

「それなら部下に、立夏さんとかにやらせればよいですよね。」

 

姫クラスがわざわざそんな面倒な事をするはずがない。であれば、彼女は自分で読める必要性があったのではなく、自分で読みたい理由があったのだ。

 

 

そして、姫の中には人の文化、嗜好品に興味のある個体もいる。この事から結びつけると‥‥

 

 

「ズバリ!聖夏さんは日本の文学作品がお好きですね。」

 

「!!!!」

 

「だからこうして漢字とか覚えたのでは?」

 

本は自分で読まないとおもしろくないですからね。

 

「ど、どうしてそれを‥‥」

 

「うちの子がですね‥‥」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カナ、そこの旗艦について何か知らない?」

 

「うん、あそこの姫様は‥‥う~ん」

 

 

 

ここに来る前、カナに聖夏さんについて聞いた時です。

 

 

「どんな些細な事でもいいから」

 

「確か‥‥‥‥そう言えば」

 

「そう言えば?」

 

「あそこの姫様、島でマスター読んでた本とおんなじ物を持ってた。」

 

私が島で読んでいた本‥‥

 

 

育児書、教育心理学、料理本、哲学書、筋トレ方、ライトノベル‥‥

 

 

さぁ、どれだ!!

 

 

 

「たしか、○○○○○○○○○だったと思う。」

 

ああ、ラノベか。深海棲艦がそんな物を持って何をしてるんだ。いや、どこから入手したんだ?

 

 

「‥‥なるほどね。」

 

「マスター、何がなるほどなの?」きょとん

 

カナが私が納得しているので首を傾げている。

 

「ありがとうカナ。」

 

私はご褒美に撫でてあげる。

 

 

「役にたったの?」

 

「そりゃあもう!だからたくさん感謝しちゃう。」

なでなでなで

 

「きゃあ~♪やったー♪」

 

 

 

 

 

 

「と言うわけです。」

 

「余計なノロケ話をありがとう。それで私が本が好きだからなんなのです?」

 

 

「多分、日本国籍の船をたまたま沈めた時にたまたま手に入れた本を興味半分で見たのでは?」

 

それでハマってしまってまた手に入らないかと思って船を襲わせている。ただし、部下にこの事がバレると不味いから信頼できる部下に、多分立夏さん辺りに回収させてたのではと思ったのだ。

 

「貴方には参りましたわ。」

 

聖夏さんは手を上げて降参のポーズをして座った。

 

「では取引しましょう。」

 

聖夏さんが認めたので私は仕掛けた。

 

「取引?」

 

「はい、貴女方が()()()()()()からの襲撃から守ってくれるのであれば私達は貴女方に望む物を送りましょう。」

 

「望む物‥‥」

 

「船から手に入る中古品、まぁ、沈めるから少し海水に濡れて質の落ちた物なんかよりも新品の方が欲しいでしょう?」

 

「ゴクリ‥‥」

 

「もし、安全保障が取り付けられるならば、定期的に、また秘密裏に貴女に○○○とか○○○○の新作とかを送らせてもらいますけど‥‥」

 

「わかりましたわ!!安全保障はそちらが望むものを承認します!それに周辺海域のはぐれどももこちらで処置させていただきますわ!」

 

「交渉成立でいいですか?ならばもし少し具体的な内容を決めましょう。あとは月何冊かを決めないと。」

 

「はい!」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「あっマスター~♪お疲れ様!」

 

「う、うん、ただいま。」

 

「おう、雪村、よろよろね。」

 

「ま、まぁね‥‥」

 

正直死ぬかと思った。その恐怖が今になってやって来ました。

 

交渉は成功で、聖夏さんからの確約をもらい、それを文章にしてもらった。後はこの内容を大将閣下に電話するだけです。

 

 

「私は先に行ってるぞ。少し体を動かしたい。」

 

ずっと待たせていたので待ち疲れていたのか、ルリさんは先に行ってしまった。

 

 

「マスター、お疲れなの?」

 

「まぁ、疲れたかな?」

 

緊張と死の恐怖でね。あれ?名前決めの効果はどこに行った?

 

 

「だったらカナが癒してあげる。少し頭下げて。

 

「こう?」

 

私が言われた通り少し頭の位置を落とすと、

 

「頑張ったね。エライ~エライ~♪」

 

なんと!カナが私の頭を撫でるだと?!

いつもと逆だな。

 

「えへへ♪癒された?」

 

はい、癒されました!

 

「逆に撫でたいですね。」

 

「マスター、多分思っている事と話してる事が逆転してる。」

 

「はっ!しまった。」

 

「もう、マスターてば♪」

 

 

そんな風にカナと楽しく話ながら基地港湾に着いた時でした。

 

 

「あー!!」

 

誰か知らない子が私達を見て大声を出した。

 

 

「えっ?何?」

 

彼女は私には目もくれずカナに迫る。

 

 

「やっと見つけましたよカナ先輩!!」

 

彼女はカナの事を先輩と呼んだ。

 

‥‥‥‥ええええっ!!?

 

 

「あははは‥‥」

 

 

 

 

 




お久しぶりです!さて、楽しんでいただけたでしょうか?次回は新キャラ?の登場です。

感想お待ちしております。
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