「な、なんなんだ‼‼ アイツ‼⁉」
どんな陸上選手よりも速く駆け、力に覚えのある格闘家よりも凄まじい怪力を見せながら『これが当たり前です』とでも言わんばかりに颯爽と現れた謎の少年に、上条は文字通り開いた口が塞がらないでいた。
「おい、オーディン‼‼ 久しぶりに楽しめそうな奴だ・・・・・・・手を出すなよ‼」
「勝手は許しませんよ、と言ったところで聞く筈ありませんしね。なるべく周囲への被害は最小限でお願いします」
「・・・・・・・ッ‼⁉」
今まで戦意を見せていなかったルシフェルが、荒々しいまでの戦意を滾らせ、獰猛極まりない笑みを浮かべる。
オーディンの忠告を碌に聞かず、獲物を追撃するルシフェル。
特殊な機具を着けているわけでもなく、助走も無しに走行中のトラックすらも弾き飛ばしてしまえそうな怪力で、ガラス張りのビルへと突っ込んだ少年の後を追う。
足場のない空中を足から生じる衝撃波によって跳躍しながら割れた窓の中へと入っていく。
「やれやれ。あの様子だと頭の中に止めてないようですね・・・・・・・これは後が大変だ」
「クソッタレ‼‼ なんなんだよ、アイツ。ありゃ原石か何かか? それとも神裂やアックアみたいな聖人か⁉ いずれにしても、このままじゃ・・・・・・・・ッ‼⁉」
「おっと。申し訳ありませんが、ここから先は通行止めです。彼を不機嫌にさせると、下手をするとここら一帯が更地になるのでご注意を」
「ふざけんな‼‼ ビルの中には一般人だっているんだぞ‼‼⁉」
「問題ないでしょう・・・・・・確か獲物に抜擢された彼は、アンチヒーロー社会ブームを作った諸悪の根源である、ステインに認められた期待のルーキーでしたから。動画や雄英体育祭の中継を観る限りでは彼も同系統の個性のようですし、上手くやってくれるでしょう・・・・・・・・・・・・・・・それより、貴方は人の心配をしている暇があるのですかな?」
そう言って、オーディンはオシャレな杖を手品師のようにクルクルと華麗に回し始める。
オーディン周辺の空気が一気に剣呑としたものになる。
相手の能力を理解していない上条は、ある程度の損害を覚悟してオーディンの間合いへと自ら飛び込んでいく。
「おやおや、今時の若者は随分とせっかちですね・・・・・・・・・・・・・仕方がありませんか‼ それでは私のショーへとご案内しましょう‼」
「ッ‼‼⁉」
コツン、と回していた杖を地面に着けるオーディン。
すると、周囲一帯の地面が激しく揺れ、それなりの規模で地割れが起こる。
「クソ‼ なんだ、これ⁉」
突然の事態に虚を衝かれ、周囲を見回す上条。
そこに追い打ちをかけるように、上条の足元のコンクリートが地面に大きく沈み出す。
足元の地面が映画のタイタニックの如く傾斜に沈んでいくのを危険に思った上条は、完全にバランスを崩して地面の底に転げ落ちる前に、咄嗟の判断で安全な地面へと身を投げ出すようにして飛び込んだ。
「うッ‼‼ グゥァァァァァ‼‼」
受け身も何もあったものではなく肩から直接地面へと着地した上条は、燃えるような激しい痛みが肩から全身に容赦なく襲い掛かる。苦悶の顔でハァ、ハァ。と浅い息を何度も繰り返しながら徐々に呼吸を整えていき、痛みを紛らわせる。
その甲斐あってか、時間にして数十秒でなんとか立ち上がる上条。
(危なかった‼ 咄嗟とはいえ、左肩で着地は我ながらナイスだ‼ 右手が潰れてたら作戦どころか、戦えねぇし)
そう思いながら、痛みによる視界のぼやけた目で周囲の凄惨な光景を目に焼き付ける上条。
至るところでコンクリートの地面は割れ、斜度六十度以上のアスレチックが出来おり、しかも、その大半が不安定に持ち堪えているものばかりで、少しでも衝撃が加われば奈落の底まで道連れにされる鬼畜仕様のフィールドへと変貌していた。
「そういえば、オーディンの野郎は⁉」
そこそこぼやけた視界も鮮明になってきて、不意にオーディンの攻撃がないことに気が付いた上条は、オーディンがどこにいるのか警戒を強める。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだ、アレ⁉」
警戒して辺りを見回していたら見つかったのはオーディンではなく、不思議な物体だった。
先程オーディンがいた場所にコンクリートとガラスの破片で集められた繭のようなものが出来ており、大きさの異なるそれぞれの破片を反時計回りでゴリゴリと音を立てながら細かく砕いている。砕かれた破片は元々がなんだったのかすらわからないまでに細かい塵になっており、それらが増えていくにつれてバチバチと雷のようなものが発生している。
痛みにもがいている間も攻撃が全くこないことを疑問に思ってはいたが、どうやらその理由はこの不気味な繭を形成するためだったらしい。
「あの野郎‼ 一体何を企んでいやがるんだ」
肩の鈍い痛みを気にしながら、これからどうしたものかと上条は無い頭をフルに稼働させて作戦を練る。
上条とあの繭はいま、死のアスレチックを隔てて対峙している状態にある。超えられなくはないだろうが、並みの手段では絶対に突破出来ないだろう。
(こういう時に御坂がいてくれれば、そこらへんの鉄塊を巻きつけて人間砲弾みたいにあっち側に飛ばしてもらう方法が取れるんだけど・・・・・・・・・・・・・・・)
不意にそんな考えが過ぎるが、しかし、ここに御坂はいない。御坂はいなくても、ここらに先の案を代替出来るモノはないだろうかと一通り考えを巡らせてみるが、やはり無理だと思考を切り替える。
(なら、ビルの中に入ってワイヤーかなんかを・・・・・・・・・ってこれも都合よくあるわけないよなぁ)
ここは学園都市ではない。あらゆる都市が奇想天外な科学で構成されてる学園都市ならそれも出来ようが、ここにそんな科学力はないと思う。やはり、現実的ではない。
そんなこんなで、あれやこれやと色々な方法を思いついては違うと頭を捻っていると、そもそもの案自体が無くなっていた。
正直に言ってしまうと、今の上条ではこの状況を打破するには色々と不足しているものが多すぎるのだ。
左肩を負傷していて全力が出せていないことを除いたとしても、この場所のことをほとんど知らないせいで、いつものように何かを使って状況を打破するという手段に制限を自ら掛けているようなのだ。
クソ‼っと歯噛みしながら焦りばかりが募っていく。
「大丈夫か‼ 君‼」
そんな時だった。上条の後ろから不意に声を掛ける者が現れたのは。
上条は声を掛けられた方へとすっと振り返る。そして、振り向いた瞬間にギョッと目を見開く。
それもその筈。二十代後半のスーツを着た若い男が、全身を血で塗らしていて尚且つ、必死な顔して声を掛けてきたのだから。
しかし、特にどこかをケガしているわけではなそうと走り方を見てそう感じた上条は・・・・・・・・。
「え、えと。アナタは?」
「俺は
「それは嬉しいんですけど・・・・・・その人、もう一人の敵と交戦中でして、現段階で逃げるわけにはいかないというか、なんというか・・・・・」
ビシッと原因である繭をさしながら、大変申し上げにくいことを述べる。
「な、なんだ⁉ アレは‼」
とてつもなく嫌な雰囲気を醸し出す繭を見て、清藤と名乗る青年は顔を引き攣らせる。
「アンタもアレを放置したらやばそうなのはわかるだろ? 俺はどうにかしてあそこに渡ってこの右手をぶち当てにいくから、アンタは来た道を引き返してくれ」
「いやいや待て待て‼ あれはいくら何でも君には荷が重いだろ‼ ここはヒーローが来るまで待機してるべきだ‼ それに右手って⁉」
「俺の右手、どんな異能の力も消せる力があるんですよ。さっきもスルトの炎にこの右手が反応してたから、あの繭に触れば恐らくあのヤバそうなのも消せるはず・・・・」
自らの右手を握っては開いてを繰り返し、腕の感触を確かめる上条。
その話を聞いて半ば冗談のように驚く清藤。
「異能? 個性を消せるってことかい? だとしても、この目の前に広がる地獄のアスレチックは君では渡れないだろう? それに、見たところ左肩をケガしてる」
痛いところを突かれたように、上条はピクリと体を震わせる。
「それでも、あの繭は放置出来ない‼ アレを放置したら大変な目に遭うかもしれない‼」
「・・・・・・・・・・・・・本気かい?」
「ああ」
上条は少しだけ顔を振り向かせ、清藤に覚悟を伝える。
「・・・・・・・・・・なら、私も君に協力しよう」
え?
思わず、思い切り振り返る上条。
「私はあの繭に対して何か出来るわけではないが、君がアレをなんとかするならば、私は君をあそこへと運ぶ道をつくるとしよう」
そう言って膝を折り、手を地面に触れる清藤。彼が触れた途端に、今までアスレチックと化していたコンクリートの道路が一部細道として蘇る。
「私の個性は『道』。触れた物を道に変えるありきたりな個性さ・・・・・・・それでも、今回は君の役に立てるみたいだけどね」
「すげぇ・・・・・」
今まで上条が四苦八苦していた問題をあっさりと解決した目の前の男に、感嘆の声を上げる。
それでも清藤は驕らずに、こう言い放つ。
「道は示した。後は君が渡るだけだが・・・・・・・これだけは約束してほしい」
「?」
「死なないでくれよ? 君みたいな若者が命を散らすのは見たくない」
真剣な眼差しで訴える清藤。
上条の目に映る彼の瞳は、何か哀愁や後悔といった念が浮かんでいた。
「・・・・・・・・・上条当麻」
「?」
「俺の名前だ・・・・・・・・・心配しなくても平気さ‼ 俺は死ぬつもりなんてない‼」
彼に一体どんな過去があるのか上条には分からない。当然と言えば当然だ。ついさっき会話したような仲で相手の事を知っている方がおかしい。そんなことが出来るのは過去の出来事を読み取れるサイコメトラーや、精神干渉系の能力者くらいのものだ。
だから上条は、一般人にしては十分とすら言えるほどの仕事をしているのに、自分を責めている顔をする彼に掛けられる言葉は少ない。少ないながらも、彼は常に思っていることを彼に口にする。
「だから、安心して任せてくれ」
それが良かったのか、悪かったのかは分からない。
だが、清藤は何かを吹っ切ったように上条を見つめてこう返す。
「良い名前だ。後のことは頼んだよ、上条君‼」
「おう‼」
上条は駆け出す。
清藤の創り出した細くも確かで落ちることのない道を渡って、不気味な繭を壊しに行くのであった。
清藤による窮地の脱出、オーディンの創り出した繭は如何なる物か?
原作読んでて思ったんですけど、新約の禁書って上条さんが窮地に追いやられると笑いが込み上げてくるんですけど、皆さんはどうですか?(オティヌスとの新婚旅行とか、僧正との愛の鬼ごっことか、僧正戦から一日すら開けずの上里戦とか)
そんなわけで、今回私も上条さんにケガさせて笑い取れるのか試してみたくて『あっかまちーって凄いわ!』ていうのを実感した話でした。(そのためにケガ追わせられた上条さんって一体・・・・)
それでは皆さん、また次話で‼