最狂戦士は異世界を行く   作:Mr. 転生愛好家

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この小説の1話を読んでくださった皆様。本当に遅くなって申し訳ありません。
読みやすい書き方を探りながら書いているので、1話とは多少文体が違っています。


第2話 現状確認

「グレゴリー! それは本当なのか!? 誰もいないってどう言うことだ!?」

 

 

 大広間にて、玉座に座っていたアダムはグレゴリー以下、ブリュンヒルデ以外の六衛将たちの報告を聞き思わず立ち上がってしまっていた。

 指示を出してから数時間後、城壁を歩いて周囲の景色を眺めたり、軽く確認できる範囲でスキルやアイテムボックスの確認などをして一人で時間を潰していたが、グレゴリーから伝言(メッセージ)で調査が完了したと報告が来たのだった。

 そして今、彼らからの報告により、城塞都市イリス・ラトリアスには一人のプレイヤーもいなかったことが判明したのだ。

 

 

「申し訳ございません。シモベ達や警備隊長、及び神父にも協力を仰ぎ、特別区も含めて捜査いたしましたが……申し訳ございません」

「……そうか……分かった」

 

 

 誰もいなかったことにこれ以上グダグダ何かを言ってもどうしようもない、アダムはそう考え追求はしなかった。

 玉座に座り、なぜ人が誰も残ってなかったのかについて考える。前ギルド長から引き継いだ時に、ギルド長の仕事やギルドの細かなシステムについて一通り聞いたので、その中に何かヒントがないかと考えを巡らせた。

 

 

 そして、ある一つの都市型ギルドホームのシステムについて思い出した。

 

 

 都市型ギルドホームの利点の一つは、所有しているギルドのメンバー以外も都市に住むことができる事である。そしてギルメン以外の利用者から得られる税金が主な収入源となり、住んでいる人数の多さによってはそれだけでギルドを維持することができた。

 そのため税金関係の設定はどのギルドもしっかりしており、英雄血盟団では「税金を滞納している者は一定期間支払いの猶予を与えた後、支払いが無ければ強制退去」というルールを設けていて、もし強制退去になった場合は滞納している税金を払ってもう一度入居申請をするか、借りていた建物の中にあるアイテムを全部引き取る必要があった。

 だが、ユグドラシルの過疎化につれてゲームを退会したり放置するプレイヤーが続出。イリス・ラトリアスでも多くの居住者が来なくなり、その数は段々と増えていってしまった。それに連動して税金が払われず強制退去者も続出、その上強制退去後にログインしてきたプレイヤーも今更滞納している税金を払う気もなく放置してしまい、結果として最終日にはイリス・ラトリアスには放置されたアイテムだけ残って誰も住んでいない状況になってしまい、サービス終了までイリス・ラトリアスの中にいたのはアダムだけ、ということになってしまっていた。

 

 

「……ギルメンの奴らだけでなく他のプレイヤーもいない。今、イリス・ラトリアスの中にいるプレイヤーは完全に俺だけ、という事か…………うーむ……」

 

 

 今からどうするか。その問題を前にアダムは再び黙ってしまう。もしも自分ではなく、元ギルド長が来たのならどうしていたか。もし頭の切れるギルメンなら何をするのか。自分以外ならこの状況でどうするのかをひたすらに考えていた。

 

 

 重い沈黙が大広間を支配する。六衛将たちもアダム以外のプレイヤーが誰もいなかったことに少なからずショックを受けており、また今の状況でアダムに慰めの言葉をかけるのは無礼に値すると考えてしまったため、誰も悩んでるアダムに声をかけることができなかった

 

 

 するとその時、アダムが耳に手を当て何かを喋る伝言(メッセージ)の仕草をし始めた。それはほんの数十秒程度だったが、会話を終えたアダムの表情は少し明るいものとなっていた。

 

 

「……御失礼ながらアダム–O様、今の伝言(メッセージ)はどなたとの会話でございましょうか?」

 

 

「ブリュンヒルデからだ! ブリュンヒルデと姉妹たちが探索を終えたらしい、すぐにここに来るぞ!」

 

 

 ガーベラからの質問に嬉しそうに答えるアダム。実際、この状況では周囲の地理の情報だけでもアダムたちにとってはかなり重要なものだった。アダムの言葉におおっ、と六衛将たちからも声が漏れた。

 

 

 重い雰囲気を打破してくれたブリュンヒルデに感謝しながら、アダムたちは彼女と姉妹たちが大広間に来るのを待ち続けた。

 

 

 

 ──────

 

 

 ブリュンヒルデからの報告から数分後、ブリュンヒルデたちが大広間に到着した。彼女たちは六衛将たちの前に出てくると、一斉に跪いた。

 

 

「「「お待たせいたしました、アダム−O様!!」」」

 

「よくやってくれたぞお前たち! 面を上げていいぞ。お前達が見て来たもの、順番に早速報告してくれ!」

 

「はっ! 私とゲルヒルデ、オルトリンデが担当しました東には人が住む街などが多くありました。しかし他の姉妹が担当する北方に近づくにつれ、荒らされた集落の跡が見受けられました」

 

「なるほど……その荒らされた集落ってのが気になるな……じゃあ次は北だ」

 

「はい。私グリムゲルデ、及びヘルムヴィーゲが担当いたしました北方には、人のように二足歩行をする獣が住んでいました。見つかれば戦闘は避けられないと判断したためよく探索することはできませんでしたが、人の形をした獣達は人間と変わらない生活をしているのを見ることができました。グリムゲルデからの報告は以上になります」

 

「二足歩行する獣? そんなのもいるのか…………そいつらがいるのはここから北方でさっきの荒らされた集落ってのがあったのも……後で考えるか。次は南だ、頼む」

 

「了解。アダム−O様。私ジークルーネ。ヴァルトラウテの姉様。南方を担当。南方にはいくつかの村と西方にかけて広がる巨大湖しか見られず。湖の向こうは探索範囲外。詳細不明」

 

(な、なんだその喋り方? なんか変だが個性はあるな……)

 

「南は湖か。落ち着いたら向こう側を調べるのも面白そうだな。さて、最後は西方だ」

 

「はっはい! 私ロスヴァイセとシュヴェルトライテお姉様が西方を担当致しました! ここから西方にも大きな湖はありました! ですがこっちは対岸を確認できまして、そこには小さな都市のような物を確認できました! こ、これでロスヴァイセからの報告は終了します!」

 

「西方にも何かがあるか。よし、ご苦労だったお前達! よく無事に帰ってきてくれたな!」

 

 

 ブリュンヒルデ、グリムゲルデと名乗った仮面を被った姉妹、ジークルーネと名乗った喋り方が特徴的で目にハイライトのない姉妹、ロスヴァイセと名乗った小柄で十代前半の体つきをしている緊張している姉妹の4人から報告を受け、アダムはブリュンヒルデと姉妹達に労いの言葉をかける。

 

 

「今の報告で分かった。イリス・ラトリアスは全く知らない土地に転移した! そして、この世界に来てから俺にとっては予想外のことが起こり続けている! 

 この状況で一番頼りになるのはお前達しかいない。……だが……その……忠誠を誓ってくれたお前達にこんな事は言いたくないが……俺はまだお前達を信用しきれていない!」

 

 

 アダムの言葉に集まっている全員が一斉に驚いた表情を見せる。その反応もアダムは予想していたのか気にせずに話し続ける。

 

 

「安心しろ! 俺はお前達の忠誠心を疑っているわけじゃない。……俺たちプレイヤーにとって、お前達NPCは皆、喋らない存在だった。喋らず、ただプログラムした通りに動くだけの存在だったお前達が、今はこうして喋りハッキリとした意思を持っている。まだ……俺はお前達が本物なのか判断できない、だからお前達に確認をしたい。……と言っても……何をどう確認するかは考えてないんだけどなぁ……」

 

 

 しかし今までのことを勢いで言ってきたアダムはNPCを本物だと確認する方法について全く考えてなかった。するとアダムが方法について考えている最中、ブリュンヒルデが覚悟を決めたように言い始めた。

 

 

「アダム−O様! 六衛将筆頭として勝手ながら提案させていただきます! もし、もし我々が意思を持ち喋ることが御不快でいらっしゃるのなら、我々は貴方様の前で口を一切開くことのないようにします!!」

 

「……は? おいおいおいおい、待て待て!? そんなこと俺は求めてない! 別に不快ってわけじゃない!」

 

 

 ブリュンヒルデからのとんでもない意見をアダムは慌てて否定する。だが今のブリュンヒルデからの意見やNPC達の不安げな表情を見てこれは不味いと直感したアダムは必死に確認方法を考える。

 だが何を持って本物と断言するか、アダムはそれがどうしても思いつかなかったため相手がNPCということである質問をダメ元で投げかけてみた。

 

 

「……そのー……ブリュンヒルデ! お前は……お前を作ったプレイヤーを知っているか?」

 

「っ! はい! 私ブリュンヒルデと姉妹達の全員を創造なされたのは「クリムゾンポテト」さまでございます!!」

 

「…………えっ? ……じゃあ、グレゴリーはどうなんだ?」

 

「はっ、私も「鮫村シャークマン」様が私を創造なさったことや、鮫村シャークマン様が親密でいらっしゃった「シルバーピューマ」様とのお話も覚えております」

「じゃ……じゃあアセルタ、お前は何か創造した奴の名前以外で何か覚えてることは?!」

 

「はっ!! 私が覚えていることは、私の創造主で在らせられる「流天不動霧島」様が! 他六衛将の創造主の皆々様と! 我々の立ち位置について何度も言い争いをなさっていたことを! しっかりと! 覚えております!!」

 

「……あいつらのその言い争い、俺も何度も見てたな……」

 

 

 三人の言葉とアセルタが覚えていたアダムも見た事のあるギルド内での一場面。この問いはかなり信用できると分かったアダムは残りのNPC達に同じことを聞いた。結果としてどのNPCも自分の創造主であるプレイヤーの名前をはっきりと答え、中にはギルメン同士の会話の一部を覚えていた者もいた。

 全員の答えを聞くときには、アダムは目の前の存在達が本物の自分のギルドのNPCだと信じて疑っていなかった。

 

 

「よし! これでお前達が本物ということは理解できた! 今俺がこの世界で一番頼れるのは忠誠を誓ってくれたお前達だけだから、これから俺は色んなことでお前達を頼ることになる! もしかしたら無茶なことを言うかもしれないが、頼めるか?!」

 

「「「御意っ!! アダム−O様のために全力を尽くすことを誓います!!」」」

 

「よし、なら早速聞きたいことがある。グレゴリー! 今俺たちするべきことは何だと思う!」

 

「はい。不肖グレゴリーはこの世界について知ることを提案いたします。この世界が未知の世界と判明しました以上、イリス・ラトリアスの周辺だけでも既知の物とするのが最優先であると考えております」

 

「…なるほど分かった。では俺たちはこれより情報集めを目的に行動する! 異論がある者はいるか? どんな意見でも言ってくれ!」

 

 

 アダムはそう言ったが、グレゴリーの案に賛成なのか誰もその決定に異論を唱える者はいなかった。

 

 

「……意見は無いようだな。だが今すぐに行動はしない! これから俺はギルドの現状を確認する。ブリュンヒルデと姉妹達は城壁から外部の警戒をしておいてくれ。スナイプとエリーゼ、ガーベラは居住区で家屋に残ってるアイテムを調査、全部集めてくれ。グレゴリーとアセルタは俺の護衛を頼む。では解散だ! よろしく頼んだぞ!」

 

 

 アダムの号令に全員が返事の代わりに一斉に跪き、直ぐに立ち上がればブリュンヒルデと姉妹達は城壁に向かい飛び立ち、スナイプ、ベイリーン、ガーベラの3人は居住区へと向かった。

 

 

「ではアダム-O様、どこへ向かいますか?」

 

 

 自分の方にきたグレゴリーの質問にアダムは少し考える。彼がやるべき事は多いのだが、それ以上にNPC達がどのように動いているのかが気になっていた。

 

 

 余談だが、都市タイプのギルドホームは万が一攻められた時は全方位から攻められる危険性があり、財力を利用した傭兵NPCの大量投入などが一般的な戦法となっている。

 

 英雄血盟団もその戦法をとっていたために拠点防衛用にNPCを製作する必要がなかった事や、ギルメンの大半がNPC製作に興味を持っていなかった事から誰もNPCを作る者がおらず、NPC作成に興味があった数人が当時のギルド長の許可を得て独断でNPCを製作することとなった。

 第一に製作されたのはガチの拠点防衛用NPC。最難関ダンジョンの一つであるイリス・ラトリアスのNPC製作可能レベルポイントは合計2000レベル以上で、作ろうと思えば大量のNPCを製作できたのだが、数は傭兵NPCや居住していた一般プレイヤーで揃っていたため、彼らは質にこだわることにした。そして完成したのが、六衛将やヴァルキュリア姉妹など重要地点を守る高レベルNPCの少数精鋭だった。

 

 だが重要地点に配置しただけではレベルポイントが余ってしまうので、ギルドから完全にNPC作成を任されていた製作陣は悪ノリしてしまい、各々が好き勝手にキャラを作った。更に製作陣の一人が「この際思い切ってお遊びで作るNPCもレベル高くしてみよう!」と提案、それに他の面子も賛同してしまったため、結果としてこのギルドのNPCは数が少ないが高レベル揃い、ということになった。

 

 

「……連れて行きたいやつがいる。色々調べる前に俺の屋敷に行くぞ」

 

「アダム−O様の屋敷、でございますか……失礼ながら、我々が戦士のお方達の聖域に踏み込んでよろしいのでしょうか……?」

 

「聖域? 何言ってるか分からないが別に構わないぞ?」

 

 

 グレゴリーからの質問を変に思いながらも、アダムは特別区のギルメン居住区にある自分の屋敷に行くと言って二人を引き連れて歩く。特別区があるのは王城の後方から城壁までのエリアで、33人それぞれ専用の屋敷にギルメン専用の食堂である「神々の皿」、ギルメン専用の鍛冶屋にギルメン専用のトレーニング場、オマケにギルメン専用の大衆浴場などのギルメン専用の施設や、集めたデータクリスタルやレアアイテム、ギルド運営資金などを収納している大倉庫があり、それらは外装も内装もかなりのこだわりをもって製作されている。ちなみに特別区も結構広いため、転移(テレポーテーション)が使えないギルメンのために少しでも移動が楽になるようにと、道路に速度上昇のフィールドエフェクトが付与されていた。

 そして特別区には数体のお遊びで作られたNPCが配置されており、その一体がアダムの屋敷に配置されていた。

 

 

「……ここだ。グレゴリー、アセルタ、お前達はここで待っていてくれ」

 

「「はっ!」」

 

 

 3人はアダムの屋敷の前に到着する。ギルメンの屋敷は3階建で内装は個人で自由にいじれるものの外装は白一色に固定されてあり、どの屋敷も外見は同じなため識別のために屋敷の前に置いてあるポスト型のオブジェクトに所有者の名前が書いてあった。

 ちなみにアダムの屋敷の中は西洋風で壁色は目に優しい薄緑色になっており、1階は大広間に客間に食堂と来客用応接間があり、2階は寝室に執務室にドレスルーム兼コレクションルームに使用人の自室、3階は浴室とギルメンがユグドラシルに持ち込んだ映像作品でアダムが気に入った物やギルメンによって撮影された自分のPVPの映像を鑑賞するシアタールーム、という構造になっている。

 

 

 付き添いの二人を待機させてアダムは一人屋敷に入っていく。そして会おうとしているNPCはまるで彼がここに来ることに気づいていたかのように、玄関ホールで彼を待っていた。

 いるのは胸元が開いた長いスカートのメイド服に身を包み、ワインレッドの短髪で片目が前髪で隠れている女性NPC。だがその頭部には人の物ではない見事なツノがあり、スカートの臀部から黒い鱗のある尻尾が出ていた。柔和な微笑みの表情のまま、彼女はアダムへと一礼してから喋り始めた

 

 

「お帰りなさいませ、御主人様」

 

「……ああ。戻ったぞ、ヴィクトリア」

 

 

 ヴィクトリア、と呼ばれた彼女はアダムのためだけに制作されたレベル100NPCである。彼女はギルメンの屋敷に最低一体は配置されている召使いNPCのうちの一体、なのだがそれら中で製作されたNPCは彼女だけで他は安価な傭兵NPCの小型ゴーレムを何体か配置しているだけである。

 

 

 まだ英雄血盟団が全盛期だった頃、NPC製作陣の一人である「ダンダンダ弾」が六衛将の制作中に超レアドロップのデータクリスタルが足りなくなってしまい、そのデータクリスタルを偶然にもアダムが所有していたため必死に頼み彼から譲ってもらい、そのお礼にと他メンバーには内緒に彼専用のNPCとして製作されたのが彼女である。ちなみに後々他の製作陣にこのことがバレて「なんで俺たちも製作に参加させなかった!」というどこかズレた理由でダンダンダ弾は袋叩きと素材集めマラソンの刑に処されたのだった。余談だが、彼女はアダムの好みを詰め合わせて作られたため、アダムの最も気に入ってるNPCなのである。

 

 

「ヴィクトリア、早速だが俺と共に来てくれないか? つまり俺のお供ってことだ。大丈夫か?」

「はい、御主人様の命なら何なりと。私は貴方様に仕える者として作られた身、全てにおいて貴方様のことは最優先でございます」

「それなら良い。行くぞ、グレゴリーとアセルタを待たせてはいけないからな」

 

 

 屋敷の外へと出る2人。屋敷の外で待っていた二人と合流すると、自己紹介のために一歩前に出て、二人へと一礼した。

 

 

「初めまして、六衛将のグレゴリー様にアセルタ様。私めはヴィクトリア、ダンダンダ弾様よりアダム−O様のメイドとして創造されました。以後お見知り置きを」

「おや、これはご丁寧に。それではアダム−O様、次はどこに向かわれますか?」

「次は大倉庫だ。あそこでこれからのここの運営の事を話す」

 

 

 そう言ってアダムは三人を連れて歩き出した。大倉庫はギルドの重要施設の一つで生命線とも言える施設で、ギルド運営における重要アイテムも全て中にあるのでこの施設は実質英雄血盟団の中枢でもある。貴重なアイテムやデータクリスタル、そして所有しているワールドアイテムなどギルド全体で管理すると決められた物がこの中に収められており、また大量の資金やギルメンが収納場所に困ったアイテムもここにまとめて入れられたので、改築に次ぐ改築で今は特別区の3割の面積を占める大きさとなっていた。

 中枢であるため強固な防備をしてあり、今は停止してあるが自動迎撃装置が大倉庫までに道のあちこちに設置してあり、また扉もギルメンのみが持つ鍵的なアイテムかギルド武器を持ってないと開かない仕組みになっている。

 

 

 そして居住区から大倉庫に繋がる道を歩いている四人の目にようやく大倉庫が見えてきた。その建物はゴシック建築の大聖堂をモチーフにしていて、王城を除いたイリス・ラトリアス内のどの建物よりも巨大で奥に伸びており、彼らから見える建物の正面には自動迎撃装置の他にギルメン全員の彫刻と大きなギルドマークの形をした窓が配置されてあった。

 大倉庫の入り口の前まで来ると、アダムが持つ何かのアイテムに反応したのか扉に彫られてある模様に光が浮かんでいき、ゆっくりと大きな音を立てて自動的に扉が開き始めた。そのまま四人は大倉庫の中に入っていく。

 大倉庫の中も外見に合わせたゴシック様式の聖堂のような造りになっており、中央の通り道の両脇には山のように積み上げられたユグドラシル金貨、大量の武器が収納されたショーケース、並び立つように置かれている様々な防具を着ている大量のマネキン、指輪やブレスレッドにデータクリスタルなどを大量に乗せてある台座など、何がどこにあるか分かりやすいようにきちんと保管されあった。

 

 

「おおお……! これが英雄血盟団の戦士のお方達の歩んだ歴史……! まさかこの目で見ることができる日が来るとは……っ!」

「……気になったんだが、お前らにとってどんな存在なんだ? 居住区に行くって言った時もそうだったが、なんだか俺たちのことを特別視しているような……どうなんだ?」

「特別視、でございますか? 確かに我々にとって戦士のお方達はこの上なき特別な存在。この街に住む者は皆、戦士のお方達に絶対の忠誠を誓っております。故に……我々のような存在がお方達のための聖域に足を踏み入れることは本来はあってはならないことなのです」

「……なるほどなぁ……」

(なんだろうな、忠誠心がすごいというか……面倒くさいがそこら辺も考えていかないとなぁ……)

 

 

 ギルド長として意思を持ったNPC達のことも考えないといけない、新しい責務をアダムは面倒だと思ってしまった。そもそもギルド長の座は前ギルド長が引退する際にアダムに押し付ける形で譲渡されたもので、アダムも重要な立場を譲渡された者として途中でギルドを解散したりすることは失礼だと考えていたから、都市として機能しなくなりつつあったギルドの維持運営をズルズルと終了日まで続けていただけだった。もし離れられるならギルド長という立場からなんの躊躇も無く離れていただろう。

 彼は現状把握のためギルド長としてやるべきことをしようとしているが、その反面責務へのやる気があるとはあまり言えなかった。

 

 

 やがて四人は大倉庫の奥の方へとやってきた。奥の方は積まれた金貨などは一切なく、ただレットカーペットが最奥の方へと続いていた。その荘厳な雰囲気に、付き人の三人はかなり緊張している雰囲気であったが、アダムの方はまるでここに来るのを楽しんでいるかのように足取りが軽かった。

 

 

 すると最奥の方から、歩いている四人の方へ褐色の肌と尖った耳をした人物──ダークエルフが二人、歩いて近づいてきた。

 片方ダークエルフは吊り目で険しい表情をしており、髪は銀色の首までの長さの短髪で、前髪も全て後ろに流していた。装備は紫色の布地に黄色の孔雀の羽の模様の刺繍が施された着物と丈が太ももまでしかない袴、ガーターで留めてある黒いストッキング、細いながらもしっかりとした防御力を感じさせる紅色の籠手を身につけており、腰の右側には二本の日本刀を帯びている。

 対照的にタレ目で眠たそうな表情をしているもう片方は、髪は同じく銀髪だが肩甲骨まで伸びた癖のあるロングヘアー。肩と胸部しか装甲がない動きやすさを重視したようなノースリーブ型の軽鎧に藍色の籠手、下半身は短パン太ももまでしかない短パンしか履いておらず防御力がかなり低い格好をしていた。

 

 

 その二人はアダムの方に進んで彼らの目の前で止まると、ゆっくりと跪いてから二人同時にアダムの顔を見上げて、そのまま短髪の方のダークエルフが喋り始めた。

 

 

「ようこそお越しくださった、アダム–O殿。我々に一言頂ければ入り口でお迎えしたのだが……ほらティルガ、挨拶」

「……あっ。ようこそお越しくださいましたアダム–O様〜。それに姉さんに…………「グレゴリーです」グレゴリーさんもようこそ〜。シンディーンお母さんと共に歓迎します」

 

 

 タメ口と敬語が混ざった口調をするシンディーンと、雰囲気も口調ものんびりとしているティルガ。この二人は大倉庫の倉庫番であり、アセルタの実の母と妹として流天不動霧島に作られたNPCである。

 

 

「突然来たのはすまない。ここで緊急の話をしないといけなくなった。……だがその前に、ここに来たからには……」

「承知しておる。いつご覧になっても良いように手入れは欠かさずしておるぞ」

 

 

 シンディーンとティルガが左右に退くと、彼女たちの後ろに隠れていた二つのひときわ豪華な展示ケースに入れられたアイテムと、その二つに挟まれて佇むように置かれている全身鎧の三つだけが置かれてあった。

 持ち手のような物が付いてある緑の球体、まるで星々が輝く宇宙にような常に七色に光り続ける模様が描かれた石版、そして黒色と白銀色がバランスよく配色されていて、所々に金色のラインや装飾が施された、一種の芸術品のような美しさを纏いつつも見る者に威圧感を感じさせる禍々しくも神々しい全身鎧。

 

 

 他のアイテムから離れた場所に置かれている三つのアイテム。これらこそ、英雄血盟団が所持している最大戦力の一つ、ワールドアイテムである。

 一つ手に入れるだけでもこの上ない難易度と労力を必要とするワールドアイテム。英雄血盟団はそれをここに三、そして離れた場所に一つ、合計四つも保持していた。

 

 

 だがアダムが見ているのはその中の一つ、中央にある全身鎧だけであった。事実、このワールドアイテムだけは他二つとは少し事情が違っていた。

 鎧以外のアイテムはギルドが一丸となって手に入れたもの。だがこの鎧だけは特殊な方法でアダム個人が手に入れたワールドアイテムであり、彼の在り方を象徴するアイテムでもあった。

 

 

 ほとんどのワールドアイテムがエネミー討伐やダンジョン、クエストの攻略でしか手に入れられないが、中には達成困難な条件をクリアすると獲得できるワールドアイテムが数個あった。そして、その中の一つであるこのアイテムの名を「アレスの遺鎧」。

 このワールドアイテムを入手する方法、それは「一定数以上のPKを行う」という条件。そしてその一定数とは「2000回」。設定したユグドラシル運営も「流石にこんなにPKをやるプレイヤーなんていないだろう」と思っていた回数。一度PKした相手はそれ以降カウントされないという制限のある中、アダムは2000回のPKを成し遂げた。

 

 

 アダムはユグドラシルにおいて、何よりPVP、それもその時の自分のレベルと互角か格上の相手との、お互いに全力を出しての勝負を好んでいた。ほぼ毎日、PKしたことによるデメリットや負けた時のレベルダウンを一切気にせず、戦いたいという欲求の赴くままに戦い続けていた。アレスの遺鎧はその副産物。数多のプレイヤー達の殺し合いの末、アダムは彼のためにあると言える最強の装備と専用のクラスを手に入れたのだった。

 

 

「……良い。いつ見てもこいつを見ると気分が高ぶってくるな」

 

 

 そう言うアダムの顔は恐ろしく笑っていた。ユグドラシルの全盛期、PVPに没頭していた時のことを思い出しながら。

 

 

「……アダム–O様〜。今日もお召しになります?」

「んっ? ……そうだな、折角だから着てみるか」

 

 

 ティルガの言葉にアダム我に帰る。彼女の言葉の通り、アダムはユグドラシル時代では大倉庫に来た時、決まってアレスの遺鎧を装備してその日を過ごしていた。アレスの遺鎧はレア度最高のワールドアイテムな上、アイテム能力が強力ではあるがピーキーなため、標準装備にすることはできなかったためである。

 

 

 この世界だと着たらどうなるのか、気になったアダムはアレスの遺鎧に近づきアイテムボックスに入れようとする。しかしユグドラシルとは違ってコンソールが出ないため、仕方なく自分で台座からそれを降ろそうとその胴体に触れる。

 

 

 するとそれに反応したかのように、兜が首の部分から左右に開き、まるで所有者を迎え入れるように鎧の前面が音を立てながら開いた。

 

 

「うおぉぉっ!? …び、びっくりした……! すげえな、こっちだとこうなるのか……」

 

 

 そしてアダムは今来ている鎧を脱ごうとするが脱ぎ方なんて知らず、どうにかしようと手甲を外そうと無理矢理引っ張ったりしようとしていた。

 それを見兼ねたのか、ヴィクトリアはアダムに近づくと「失礼します」と一言、そのまま慣れた手つきで鎧を胴から外し始めた。

 

 

「……すまないなヴィクトリア。どうも俺一人では上手くいかないな……」

「私に感謝など勿体無いお言葉でございます。私は御主人様のメイド、どうか存分に、お頼りください」

 

 

 落ち着いた、どこか嬉しそうな声色でヴィクトリアは言って、そのままあっという間にアダムの鎧を脱がしてしまう。いざアダムはアレスの遺鎧を装備しようと開いたソレの中に後ろ向きに入った。すっぽり中に入ると反応し開いた時と逆再生のように閉じていき、兜が降りて顔を隠す。

 装備完了したアダムは腕を回したり首を動かしたりして動作を確認しながら、五人の前にゆっくりと歩いてくる。

 

 

「見た目の割に結構動きやすいな。鎧なのに重さが全く感じられない、なっ!」

 

 

 軽やかにシャドーボクシングをして軽やかさを体験し、兜を動かしとても楽しそうな表情をしながら「最高だ」と呟く。

 

 

「な……なんという光栄っ! 我々六衛将がワールドアイテムをお召しになる瞬間に立ち会えるなど!」

「光栄の!! 極みでございますっ!! 死する時までこの記憶! 決して忘却いたしませんっ!!!」

 

 

 グレゴリーとアセルタが感動に打ち震え平伏しているのを見て「お、おう……」と困惑しつつ、本題に入るために咳払いをすれば平伏していた二人も立ち上がり、全員がアダムに集中して言葉を待った。

 

 

「ギルドの運営をグレゴリーとシンディーンに手伝ってもらいたい! ここにくるまでは攻めてくる奴がまったくいなかったから防衛システムを切って節約することができた。だがこの世界ではそうもいかない! この大倉庫にあるアイテムと居住区にある残されたアイテムが今後の俺たちの生命線だ、これから上手くやりくりしていかないといけない。

俺はそれほど頭は良くない。だからこそお前たちの知能が必要だ。俺の頼み、引き受けてくれるか?」

「……異論はございません。不肖グレゴリー、その大役謹んでお引き受けいたします!!」

 

 

「私も承ろう。アダム–O殿直々のご命令、断る理由などあろうものか」

 

 

 二人の言葉にアダムは満足そうに頷く。

 

 

「ならば早速仕事だ。まずは………………」

 

 

 ──────────

 

 

「……これで、ひと段落だな…………」

 

 

 異世界に転移して三日目の昼。アダムは自宅の執務室でグレゴリーたちから提出された書類にサインをして、仕事にひと段落をつけた。

 

 

 ギルド運営補佐を決めた後は現在大倉庫にあるアイテムとユグドラシル金貨を再確認と住区から回収されたアイテムなどの分類、ほとんど切っていた防衛システムの見直し、さらに宿無しだった六衛将たちを暫定的にそれぞれの創造主たちの家の客間に住ませたり、NPC達に一々フルネームで呼ばずアダムとだけ呼ぶように決めたり、大きなことから小さなことまで仕事をこなしていた。

 仕事だけでなくイリス・ラトリアスの中や城壁の周囲を散歩したり、リアルでは味わえない最高の料理を堪能して異世界を満喫。さらに六衛将に手伝ってもらい軽く戦闘をしてユグドラシルと異世界の感覚の違いを把握したりした。

 

 

 諸々のことを終えて三日目。急ぎのこともないためアダムはのんびりすることができていた

 

 

「外もいい天気だしなぁ……イリス・ラトリアスの外を散歩するかな。今回はもっと離れた場所まで行ってみるか」

「畏まりました。ではブリュンヒルデ様にその旨をお伝えして護衛を編成してもらいます」

「だから俺は強いからそこまでする必要ないって……」

 

 

 この世界に来てからNPC達が何かと護衛につくことが多く、初めは何とも思ってなかったアダムも面倒に思い始めていた。

 そんなやりとりをしていると唐突にブリュンヒルデからの伝言(メッセージ)がアダムへと繋げられた。何か連絡することがあったのかと思いながらアダムはそれに応じる。その途端、頭に焦ってるような声が響いた。

 

 

『アダム様、緊急事態です! イリス・ラトリアスから北方よりジークルーネとヴァルトラウテが目撃した獣人達が大群で迫ってきています!!』

「っ!? ブリュンヒルデ、本当か!? 数はどれくらいだ!?」

『姉妹からの報告ではおおよその規模は2000体以上! 2時間以内にはイリス・ラトリアスに到達します!!』

「……に、2000!? しかもそれ以上!? 何だよそれ……タチの悪い冗談かよ………………ブリュンヒルデ! 今すぐに六衛将と姉妹達を集めろ! 必ず全員、戦闘準備をしておくように!!」

『はっ!!』

「……ヴィクトリア、お前にも来てもらう。戦闘はできるか?」

「お任せください。ご主人様のために剣を振る、それも私の役目でございます」

「よし! 俺も装備を整えないとな……」

 

 

 アダムはヴィクトリアに武器を取らせに行くとアイテムボックスを確認、いつも戦闘で使うアイテムが揃っていることを確認すれば一人、面倒くさそうに呟いた。

 

 

「……異世界の住人とのファーストコンタクトが戦闘か……戦いは好きだがこういう時は勘弁してほしいな……」




展開は考えてますが、どんなキャラを出していこうか迷った挙句、こんなに遅くなってしまいました。
次回は戦闘回なので、なるべく早く投稿します

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